その代わりと言ってはなんですが今回は増量、宿儺様長文パートです!お楽しみください!!
阿弥部はスタスタと歩き、立ったまま気絶した非術師達の中に消えていった。
「っ! 待て!!」
ズババババン!!
向かってくる呪霊をいなし、斬りながら阿弥部の元へと駆けるが無数の武器と化した呪霊によって足止めされる。
(っ!)
圧倒的な質量が道を覆い尽くす。刹那とその後方の夏油、非術師達に向かって殺意が物質となり襲いかかっていき、無力な者を守ることを強いられる。
(いくらなんでもこの数は…っ!)
ギィンギィンザジュッドスッ!
術式を発動する暇すらない猛攻と、無差別に襲いかかる殺意をいなしきれずに脚や腕へと斬撃や打撃の跡ができていく。
(まずい…!)
ギィン! ギィンッドジュジュブシュッザグッ
ボタボタタッ
「あと…三十っ!」
ア"ー、ア"ーッ、ア"ーー!!
非術師の隙間を潜り抜けて何十羽もの鴉が呪具と化した呪霊に突撃していく。
「このカラス…」
「やぁ、怪我はあるみたいだけど無事かな?」
振り向いた先には所々の服が破けて出血している冥冥と憂憂がいた。
「はい、僕の方はなんとか…冥さん達こそ、大丈夫ですか?」
「正直、これ以上の戦闘は厳しいかな、家入の所へ行って治療してもらったら、私は今回の作戦を離脱するよ。私の勘が言っているんだよ、君も逃げることをオススメするね」
「…僕は逃げるわけには行かないですよ」
「そうか…夏油君は私に任せなさい、君も速く治療を」
「了解です、少し休憩したらアイツを追います。あ、あと、上に菜々子さんもいるのでお願いします」
「ん、任されたよ」
冥冥と憂憂は夏油を担いで出ていく。
──
「簡単だ、速度で潰す!!!」
ドパパパパパパパパパ!!!
真希、直毘人、七海の連携で術式を発動する暇もないほどに陀艮を追い詰める。
バッ!
「滞空できるんだもんなぁ、俺だって上に逃げる」
空中に飛び上がり時間を稼ごうとする陀艮を直毘人は投射呪法で先回りして叩き落とす。
ドゴォ! バゴッ
地面に叩き落としさらに連撃を加えたところで陀艮の腹部に印が浮かび上がる。
「領域展開、
一瞬にしてその場の全てが海辺のリゾートのような領域へと塗りつぶされる。
バチィ!
「くっ、この!」
ザシュッ
(式神! これが領域の必中効果! 当たるまで気づかなかった…いや、当たるまでそこに存在しなかったのか!)
「真希さん! 式神は真っ直ぐこちらに向かってくるわけではない!! 次の瞬間には肉を抉っている!! 考えては駄目です、触れられたと感じたら片っ端から叩き落としてください!! ほとんど呪力の無いアナタにはそれしか!」
バヅッドドドッガッガッガ
七海に向かって大量の式神が襲いかかり、あっという間に七海の姿は式神に埋め尽くされる。
バヂィッ!!
その間に直毘人も陀艮によって顔面を打ち抜かれて吹き飛ばされ、動きの制限される空中で大量の式神に食らい付くされる。
「
バギッッドドド!!
数体の式神に足止めされる真希を陀艮が蹴り飛ばすが天与呪縛の肉体故か特段大きなダメージを負うことなく陀艮の前へと戻っていく。
「弱ぇって言うならよぉ、一撃で殺せやタコ助!!」
「ならばお前も、二人のように食い尽くしてやる」
「領域展開、嵌合暗翳庭!!!」
ボパッ!! ドドド!!!
突如海に真っ黒な穴が現れ、伏黒がそこから飛び出す。
「真希さん!!」
伏黒の影の中から特級呪具、遊雲が現れて真希の手に渡る。
「恵っ!全くお前ってやつは、クソ生意気な後輩だよ…!」
バゴッドッゴォンッ!!
特級呪具を持った真希は持ち前の膂力と技術で陀艮を吹き飛ばす。
(領域内の必中効果が消えている! 私は今あの少年と領域の主導権の綱引きをしている状態! 必中効果を取り戻すにはまずはあの少年をどうにかしなければならないということか)
「容易い…!」
ズルゥッ
陀艮は二体の式神を召喚し、伏黒へと向けるが七海によって妨害される。
か
ドチュン!!
「七海さん!!」
「二人は」
「猪野さんはリタイア、虎杖は別行動です」
「君は私が守ります。領域に集中してください」
(およそ一分、死累累湧軍に耐えたのか!?)
「髭の男も!!」
ブワッ! ガガッヒュッ
ズザァァァァ!! ヴンッバリン! ボッ
「たかが右腕一本、さりとて七十一年物、この代償は高くつくぞ」
(この状況が続けば勝機はある、続けばだ! 伏黒君はもう限界だ!!!)
「七…海さん!!」
伏黒は声を振り絞り七海を呼ぶ。
「あのタコは今、俺と領域の競り合いをしてると思っている、でも俺の狙いはこの領域に僅かでも穴を空けることですっ。五条先生じゃないんだ、一日にそう何度も領域展開なんてできないはず、外に出れば勝てます!」
伏黒は作戦を説明する。
「結界の縁は俺の足元、入ってきたときに触れたから分かる……いつでもいけます! 三人同時に飛び込んでください!!」
「君だけ残るなんてことは無しですよ?」
「命はかけても、捨てる気はありません」
伏黒の覚悟を受け取り、七海は作戦を実行する。
「二人共!! 集合!!!」
言語を解する敵、婉曲に意図を伝える。
一級術師への信頼、領域外への脱出、除外していた選択肢が再び可能性に上がる。
(少年の護りを固めるか、その方がこちらとしても…否!!!)
作戦を理解した陀艮は止めに向かうが、伏黒の足元から突如として一人の男が領域に侵入する。
そして一同は目撃する。呪い、その全てを捨て去った者の剥き出しの肉体の躍動を。
ガシッブゥン!
真希は侵入してきた男に遊雲を取られる。
(何だ今の!? 呪力をまるで感じなかった! 力比べで負けたのか? この私が!?)
「伏黒君、穴は?」
「駄目です塞がれました、しかも今のでこっちの狙いがバレた、そう簡単には空けさせて貰えない」
直毘人はその男を見て驚く。
「甚爾か!」
ゾッ
直毘人は生気をまるで感じない甚爾の顔を見て背筋に悪寒が走る。
(何だこの男、呪力が無い…?)
「言うに及ばんな」
ズルルゥ
陀艮は式神を数体、甚爾にぶつける。
グァッッ
ドヂャヂュヂュヂュッッッ!!!
バッゴォォッッ
式神を一瞬で全て叩き潰し陀艮に一撃を食らわせ、そのまま連続して陀艮を叩き続ける。
(この男! 当然のように水面を駆ける! 呪力で強化していないのにこのパワー、上がり続けるスピード!!)
ドボォォン!
「硬度も強度も今までの式神とは違うぞ!」
具足虫のような式神が現れ甚爾を襲うが、結果は変わらずに一蹴される。
メゴッッバゴォッン
遊雲は特級呪具の中で唯一術式が施されていない、純粋な力の塊、それ故にその力は持ち主の膂力に大きく左右される。
陀艮を圧倒する甚爾を見て真希は直毘人に問う。
「ジジィ、あれは誰だ?」
「…フンッ、亡霊だ」
「伏黒君、もう少し持ちますか?」
「はい…」
「申し訳ない、彼に賭けます」
その戦いを一同は固唾を飲みながら静観する。
ギィィィィイン!!
甚爾は遊雲同士をぶつけて研ぎ、形状を尖らせる。
(負けるのか!? この私が! 呪力の無い男に!? いや!! 必中効果を取り戻せば殺せる! ここは時間を稼ぐ!!)
ブワッ
陀艮は対空する。
「飛べるんだもんなぁ、もう一度言おうか?」
しかしそれは直毘人によって阻害され、そのまま跳んだ甚爾が叩き落された陀艮に遊雲を突き刺す。
バキッドヂュチュチュ!!
フゥッッッ
陀艮が祓われたことによって領域は解除されるが、一同は懸念に思う。目の前の男、甚爾は味方なのか、と。
フッ、ガシャァン!
瞬き一つの間に伏黒は甚爾に外へと連れ出される。
「!?」
「恵!!」
シュゥゥゥゥ
「逝ったか陀艮…人間なんぞに依らずとも我々の魂は巡る、あとは任せろ…百年後の荒野でまた会おう」
陀艮の亡骸を確認し漏瑚は呟く。
その場の全員は痛いほどに感じる、漏瑚の強さ、死の感覚を。
(おいおいおい、冗談だろ?)
(陀艮とかいう呪霊より、格段に強い!!)
トンッボゥッ!
「一人」
「七海さっ!!」
ボゥゥン!!
「二人」
タッタン
柱を足場にして直毘人は漏瑚の攻撃を避けるが、右腕を失いもはや最速の術師でなくなった直毘人に、漏瑚の攻撃を避けることは出来なかった。
近くの支柱に火山が現れて直毘人の身体を焦がす。
「三人…」
ピクッ
(脹相の呪力が近くで爆ぜた…まさかっ!)
漏瑚は脹相の呪力の場所へと辿り着く、脹相の姿はないが満身創痍の虎杖が壁にもたれて倒れているのを見つける。
「息はある…脹相は殺られたのか?…まぁいい、不足の事態だが最大限に活用させてもらおう」
ばらららっ、グイッ
宿儺の指を十一本まとめた物を取り出して気絶している虎杖に飲ませていく。
「起きろ、宿儺!!」
ゴクンッ、ゴクンッ…
「指は全て飲ませた…もうすぐだぞ花御、陀艮」
漏瑚は花御と陀艮のことを考えながら宿儺の復活を待つ。
キンッ
「一秒やる、どけ」
バッ!!!
漏瑚は右腕を斬り落とされ、壁際まで即座に後退する。宿儺はゆっくりと立ち上がると一言、言い放つ。
「フム…頭が高いな」
クンッ
バヅンッ!!
漏瑚は即座に片膝を曲げて降伏のポーズになるが頭の半分を斬り落とされる。
「片膝程度で足りると思ったか?実るほどなんとやらだ」
(これが呪いの王!!あの男とは違う異質な強さ!圧倒的な邪悪!!!)
「貴様か、俺の指を喰わせたのは。用はなんだ?話くらいは聞いてやろう」
「用は…ない!」
「なんだと?」
「今は器の適応が追いつかずに一時的に自由を得ているに過ぎん、それは自分自身が一番良くわかっているはず…虎杖の仲間が大勢渋谷に来ている! やり方はいくらでもある! 縛りを結ぶのだ! 未来永劫身体の自由を得るための縛りを!!!」
「必要ない」
熱弁をバッサリと一蹴され、思わず唖然とする漏瑚に宿儺は言葉を続ける。
「俺には俺の計画がある。しかし…ケヒッ、クックッ、必死なのだな呪霊達も、良いだろう指の礼だ、かかってこい。俺に一撃加えられればお前等の下についてやろう。手始めに渋谷の人間を皆殺しにしてやる、二人を除いてな」
「……二言はないな」
ガシッバゴォッッン!!
宿儺は漏瑚の頭を掴みビルの壁に叩きつけ、そのまま突き抜ける。
そして連続して空中へと蹴り上げる。
「ォゴッ」
「ケヒヒッ」
ゲラゲラゲラゲラ
高らかに嘲笑いながら漏瑚をいたぶり続ける。
メキッバゴッ
「どうした呪霊! そんなものか!!?」
「まだっ、まだぁ!!」
キンッ、バゴゴゴォッ
両腕を切断されビルの屋上から一階へと一気に叩きつけられながら落ちていく。
コンッコンッ
「月明かりが通っているな、お陰でお前の痴態もよく見える」
「あ"ふがっゴボッ」
(分かってはいた! 分かってはいたがここまでとは!! )
宿儺は漏瑚の服を掴み挑発する。
「ほら頑張れ頑張れ、俺が飽きるまで何度でも付き合うぞ?」
ボッボッボッ!!
二人がいるビルは一階から屋上に向けて激しく火柱をあげて焼き尽くす。
バキバキバキッ
「極の番、隕!!」
空中に放り出された漏瑚は呪力で巨大な火山弾を創り出して宿儺へとぶつける。
ドッゴォォン!!!
ボォォォォッ……!!
「いくら宿儺といえども無傷では済むまい…!」
「当たればな」
火山弾の上に立ち、辺りを見回す漏瑚の目の前にあぐらをかいて不敵に嗤う宿儺が現れる。
「何故領域を使わない?」
「…領域の押し合いで勝てないことは分かっている」
「五条悟がそうだったからか?クックッ、負け犬根性極まれりだな」
漏瑚を嘲笑いながら宿儺は立ち上がる。
「だがせっかく興が乗ってきたところだ、お前の得意でやってやろう。[◼][開]」
宿儺は片腕を下に向けて弧を描き炎を纏う。
「それは…炎か?」
「む?知られているものと思っていたが、そもそも呪霊、知らぬはずだ。心配せずとも術式の開示など狡い真似はせん。構えろ、火力勝負と行こう」
漏瑚と宿儺は互いの構えをとる。
漏瑚は両手を前に出して炎の球体を創り出し、宿儺は両手で弓をつがえるかのようなポーズを取る。
ボウッ
勝負は一撃、一瞬で決着がついた。
魂が逝くその寸前に先に旅立った仲間達との再開を果たす漏瑚、メラメラと燃える漏瑚に宿儺は賛辞を贈る。
「呪霊、術師、千年前戦った中ではマシな方だった。誇れ、お前は強い」
その言葉を受け取り、漏瑚は涙を流す。
「なんだ、これは…!」
「さぁな、俺はそれを知らん」
ポケットに手を入れながら音を立てて燃えていく漏瑚を眺める宿儺。その後ろに裏梅が膝を着いて現れる。
スタッ
「宿儺様、お迎えに参りました」
「誰だ……裏梅か!!」
「お久しうございます、宿儺様」
「久しいな裏梅」
「はい、万代殿も現代に参られているようで」
「やはりお前の目にもそう映るか」
「旧友ですゆえ、見紛うこともありませぬ」
「そうか…だが勘違いはするな、彼奴の名は刹那だ。記憶も無いようだからな、魂は同じと言えど万代と同じようには接するなよ」
そう言った宿儺に裏梅はクスリと笑う。
「何がおかしい」
「申し訳ありません、随分と肩入れしているようでしたので思わず」
「肩入れか…ケヒッ、そうかもな」
ピクッ
宿儺は強力な呪力を感じ取りその場を離れようとする。
「宿儺様?」
「急用だ」
「……左様で…」
少しだけ寂しそうに俯く裏梅に宿儺は話す。
「俺が自由になるのもそう遠い話ではない、ゆめ準備を怠るな。またな、裏梅」
ヒュン…ザァッ
「…御意に、お待ち申しております」
既に去っていった宿儺の命令に裏梅は返答した。
──数刻前──
ドォッ!! ドプンッ…
牙突を繰り出す甚爾に対して伏黒は足元を影にして致命傷を避ける。
(逸らした!)
すかさず腕を掴み、影の中から別の呪具を取り出して、刺そうとするが一瞬で何mも後方に移動して避ける。
(っクソ、なんでこれが避けれんだよっ!)
「どうするかな…」
(やるしかないのか!!)
「…お前、名前は」
「? 伏黒…」
「禪院じゃねぇのか…良かったな」
ゴリッ…ドサッ
甚爾は自身の頭に研いだ遊雲を突き刺して自害する。魂さえも上書きする天与の肉体、彼の前には暴走した天与の肉体さえも敵うことは無かった。
「!!顔が違う!…結局何だったんだコイツは…いやそれよりも家入さんの所で速く治療を…」
ズバッ、ブシュッ
「これこれ! こーいうのが向いてんのよ!!」
まともに動けない伏黒の背中を隠れていた呪詛師が斬りつける。
ーーー
度重なる激戦によってボロボロの伏黒は呪詛師に術式を開示をする。
「俺の術式、十種の影法術は最初にまず二匹の玉犬だけが術者に与えられる…それ以外の式神を扱うには術者と式神で調伏を済ませなければならない」
ズルズルと足を引きずるように歩きながらも口を回し続ける。
「手持ちの式神を増やしながらそれらを駆使し、調伏を進めることで十種の式神を手にすることができる…」
「終わり? …さっきの女の子もだけど皆すごく強いね、ボロボロなのに俺に近寄る隙を見せない。でもその出血じゃ俺がなんにもしなくたって、ほら」
ドサッ
重症のまま歩き続けた伏黒はついにその場に膝をつく。
「あ~あ」
ググッ
無理矢理立ち上がろうとする伏黒はそのまま身体引きずりながら離れる。
「調伏はな、複数人でもできるんだ、だが複数人での調伏はその後無効になる。つまり当の術師にとっては意味のない儀式になる…でもな意味はないなりに使い方があるんだ」
「?」
伏黒は過去の五条との会話で五条をも殺すことが出来る最終手段を思い返しながら覚悟を決める。
「だからってアンタに勝てる術師になれるかよ」
(その当主もこういう使い方をしたんだろうな)
「ブツブツブツブツ、もういいね?」
ドゴゴゴゴゴッ、ゴォォォ
火山弾が落ちた衝撃で東京が揺れ出す。
「地震!?…ははっ誰だよ、派手だなぁ」
ピリッ
「続きだ、要は式神は調伏しないと使えないが、調伏するためならいつでも呼び出せるんだ」
(なんだ? この呪力は…!?)
「歴代十種影法術師の中に、コイツを調伏できたやつは一人もいない」
「まさか! 待て!!」
そういって伏黒は術式の開示を全て終えると、両腕を前に出し、奥の手である"それ"を呼び出す。
ズズズズズズッ
アォーンアォーンアォーン
「布瑠部由良由良
八握剣
数多の玉犬の咆哮と共に伏黒の奥の手の式神が背後に呼び出される。
(やられた!! 制御不可能なほど強力な式神!! その調伏の儀式を二人で強制的に始めやがった! 今からこの化け物を俺とあの術師で倒さねばならない!! でもあいつは…!)
「おい、クソ野郎…先に逝く、せいぜい頑張れ」
ドガッ!! 、ゴチャッ
血まみれの顔で呪詛師に向かって嗤いかけ、伏黒は摩虎羅に殴られ、ビルの壁へと叩きつけられる。
「待って…待て待て待て!! ふざけんなよ! 起きろよクソ術師!!」
ビュオッ!!
呪詛師に向かって振り下ろされた摩虎羅の一撃は命中することなく、地面を大きく割る。
「??」
「!!仮死状態か!」
(なるほど…やはりこのゴミを助けたのは正解だったな)
「死ぬな、お前にはやってもらはねばならんことがある」
宿儺が呪詛師を助け、伏黒に反転術式を施していると、摩虎羅は宿儺に向かって剣を振り降ろす。
ベゴォォン!!! クルッギャリリッ!
宿儺達の背後の壁が突如崩れる、そしてそこから刹那が飛び出し、摩虎羅の剣を空中で縦に回転して受け流す。
ブォンッッ!! ゴウッ!
剣が空を切った瞬間にすかさず宿儺が摩虎羅の腹を蹴り飛して前方に吹き飛ばす。
ガシャガシャガシャンッ!!
「…なんであなたが出てるんですか」
「ケヒヒ、この体の主導権は今は俺だからな」
「悠二君の体です、返してください」
「そう心配せずとも、どうせすぐに主導権は小僧に戻る、それよりも」
ゴゴゴ…ガシャンンンン
「伏黒恵は今は仮死状態、助けるには異分子の俺があいつを倒し、この儀式を無かったことにするほかない」
「…仕方ないですね」
宿儺は刀に手をかける刹那の手を抑える。
「まぁ待て、折角伏黒恵が魅せてくれたのだ、俺がやろう」
「…分かりましたよ、でも、あなたには聞かなければいけないことがあるんです、死なないでくださいよ」
「ケヒッ、愚問だな、そこで伏黒恵を守っていろ」
ズゥゥンッ…
摩虎羅はビルの中から宿儺に向かって直進してくる。
「さて、味見、といったところだな」
宿儺はポケットから手を出し、戦闘体制に入る。
摩虎羅は剣を振りおろし宿儺はそれを片手で受け止める。地面は陥没し剣からは正のエネルギーが流れ出す。
ブゥンッズンッ…ポゥッ
宿儺は剣を振り払い、飛び上がり乱打した後に術式を展開する。
「解」
ドゴゴゴッ バヅンッ!
(あの剣、反転術式と同じ正のエネルギーを纏っているな、俺が呪霊ならあの一撃で消し飛んでいた)
ギギギ、、、ガコンッ
スゥーー
術式によって摩虎羅の体に深い斬撃痕が現れるが摩虎羅の背の円環が回転して傷がなくなり何事も無かったかのように立ち上がる。
「さて、どうでる?」
クンッ ギイィィンッッ!!
(!見えているのか、俺の術が!!)
ミシッ…ゴゥッ! ボッボボンッ
摩虎羅は宿儺の斬撃を弾いた後、防御の姿勢を取る宿儺を遥か前方へと叩き飛ばし、いくつかのビルを貫通して止まる。
ガシャァァン!!
「やってくれたな!」
ギュオッ ドゴォン!
宿儺は追撃を仕掛ける摩虎羅の腕を躱して馬乗りになる。そして顔面を掴み、直に術式を顔面に当てる。
「お返しだ」
ゾンッ ガガァッズンッ
ビルの外へと放り出された摩虎羅は宿儺の直下蹴りによって地面へと叩きつけられる。
(俺の読みが正しければ立ってくるな)
ギギギ ガコン
再び摩虎羅の背の円環が回転して傷がなくなり立ち上がる。
「やはり、古来の八岐大蛇に近いモノだな」
(二撃目……一撃目の正のエネルギーから一転、二撃目には呪力が籠められていた、俺の斬撃、解も見切ってきた、どちらもあの背部の法陣が回転したあとだ。布留の言とあの法陣は完全な循環と調和を意味する、推し量るにこの式神の能力はあらゆる事象への適応! 最強の後出し虫拳!! あの時の俺なら破れていたかも知れんな…)
「ケヒッ、クックック、魅せてくれたな!伏黒恵!!」
高らかに嗤い声をあげ、宿儺は呪力を練り上げ、領域展開の印を結ぶ。
「領域展開、伏魔御厨子」
宿儺の背後に、人骨と牛骨を積み重ねた神宮のような禍々しい建造物が現れる。
宿儺の領域、伏魔御厨子は他の者の領域とは異なり結界で空間を分断しない。結界を閉じず生得領域を具現化することはキャンバスを用いず空に絵を描くに等しい、正に神業。加えて、逃げ道を与えるという"縛り"によって底上げされた領域内の必中効果範囲は最大半径二百メートル、伏黒恵と刹那への影響を考慮し、半径百四十メートルに絞り領域を展開した。が、宿儺が領域を展開したその瞬間、摩虎羅と宿儺の間に刹那が現れる。
「!! 刹那!?なぜお前がここにいる!」
宿儺の殺気、呪力の放出を感じ取った刹那は術式を使用し、宿儺の元へと高速で辿り着いた。
「…悠二君を…人殺しにさせないため」
ガリッ、ボリンっ
刹那はそう言い放つと口の中の飴を噛み砕き、印を結んで領域を展開する。
「領域展開、未了無還門」
宿儺の領域を"強制的に"刹那の領域に閉じ込める。
(!! 俺の領域が塗り替えられた!? いや…伏魔御厨子は消えていない、ここには"二つの領域が同時に存在している"!)
「お前が噛み砕いた飴、瞬間的な呪力の供給だな?体に負荷がかかる行為で無理矢理使った呪力を補填した。そして俺の領域を閉じ込めたこの領域…全快でないお前になんの縛りもなしにこんな芸当ができるとは思えん…何をした?」
「領域展開における最大のアドバンテージ…必中効果を消すという縛り。成功するかどうかは賭けでしたけどね」
刹那は領域展開の必中効果を捨て、呪力を無理矢理供給し、宿儺の領域を強制的に閉じ込めた。
今刹那の領域はなんの効果も持たない、ただ、全てを閉じ込める結界と化している。
「ケヒッ…ケヒヒヒッ!!」
ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ
宿儺が昂りを隠せずに嗤い出す。
「良い! 良いぞ! 伏黒恵に続き、刹那までもが魅せてくれる!! …いいだろう! 魅せてみろ!」
「あなたに魅せるとか、誰が死ぬとか! 正直どうでもいいんですよ!! ただ…友達の心が傷つくのを見たくない…宿儺…!」
刹那は名前を呼び、宿儺に嗤いかける
「…さぁ、踊りましょう」
(ケヒヒ…俺に似てきたな)
宿儺は懐かしいものを見るかのように旧友と姿を重ねて笑みを溢し、再び嗤い出す。
「ケヒヒッ良いぞ…もっと! もっともっと! 魅せてみろ!! 阿頼耶識刹那!!!」
刹那は刀を宿儺に向けて、宿儺は刹那に笑みを向ける。
「「領域展開」」
既に展開している領域内で攻撃を始めるよう、あえて再び合図を出す、刹那の背後の門が開き、どこに向かうわけでもなく"虚無"が縦横無尽に駆け回り、宿儺の斬撃は刹那と摩虎羅に向かって永続的に浴びせられる。
ズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバ
ギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギン
宿儺の斬撃を刹那は斬り弾き続ける。
耳、左目、痛み、右目以外のあらゆる器官や感覚を閉じ、ひたすらに宿儺の領域に抗い続ける。
(………僕の門から出現した"無"が当たるかどうかは完全な運だ、、、当たっても悠二君の大怪我は避けられない。ごめん、悠二君……)
ズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギン
ゾォンッゾォン──ゾォンッゾォンッ
ブシュッ
ズルルッギュルルル
(俺の領域に抗うのはお前も同じか…この謎の攻撃、完全に不可視! 下手に動くことも叶わん)
宿儺は自らの腕を反転術式で治しながら考える。
宿儺の周りを刹那の無が無差別に攻撃して回り、後ろの伏魔御厨子をも破壊していく。
斬撃を斬り弾き続けても、全てが防げるわけもなく体の至るところに斬撃痕が現れる。動く度に血が吹き出し、運動能力は下がっていく。
だが、その時間は一分にも満たない時を刻み、幕を閉じる。
「……!!」
刹那によって縮小された伏魔御厨子の領域範囲、半径約五十mが更地に変わる。ビルが音を立てて崩れ落ち、土煙が舞う中、そこに立っていたのは二人。宿儺は腰に手を当て、もう一人の人影をみて驚嘆の表情を浮かべる。
「はぁ…っゲホッガハッ」
宿儺の眼前には身体中を自身の血で紅く染め上げ、刀を地面に突き刺して体重を預けて立っている刹那がいた。
(宿儺は…無傷…)
開く目を変え、宿儺を見るが無傷の宿儺が目に入り、悲嘆に打ちひしがれる。
「見事だった、魅せてくれたな…阿頼耶識刹那よ」
宿儺は弓をつがえるかのような姿勢を取る。
「[開]」
一言称賛を贈り、前方に向かって炎の矢を放った。
「っ!!」
ゴゥッ!!! ボォォォ!!
しかしその火の矢は刹那の横を通り過ぎ、刹那の背後で再生しかけている摩虎羅を、激しい炎の光とともにビル群を大きく超える火柱を立ててメラメラと焦がす。
「……お前は想像を超えてくるな全く、本当に面白い"男"だった…万代よ」
宿儺は小さく独り言を呟きながら刹那の元へと歩いていく。刹那は無謀にも再び領域を展開するために呪力を込めた飴を口に入れようとするが、宿儺は刹那の腕を掴みそれを止める。
「やめんか全く、それ以上やると体の方が保たんぞ」
「あなたを止めるには…こうするしか……」
「もう良い、充分過ぎるほど魅せてもらった、腕を二本も持っていきおってからに、必中効果があれば俺を殺せたかもしれんな?」
「っでもッ!」
ガッ、ガリ
宿儺は刹那の飴を奪って口に入れると、刹那の刀をしまって横抱きで抱える。
ペロッ
「…美味くはないな、さて、戻るぞ」
「お、降ろしてください!」
「お前はまだやることがあるのだろう? 治しながら運んでやる、大人しく運ばれろ」
宿儺は反転術式を施しながらスタスタと歩き始める。刹那はその状況を大人しく受け止めるしかなく、今できる疑問の解消に移る。
「…宿儺、僕の家の初代の人間のことを裏梅さんに聞きました」
ボリボリッボリン
「ケヒヒ、そうかそうか。して…どう思う?」
「…正直のところ今も信じられないです、初対面の時だって阿頼耶識の名前を聞いても平然としてましたし」
「むぅ、名前しか覚える気が無かったのだ。彼奴は家名をあまり口にしなかったしな」
「僕の眼が重瞳なのはあなたが眼を縛りに使ったから?」
「いや、万代も同じ眼だった、最期にはその瞳も俺を映すことは無かったがな…」
「初代も…僕と同じ術式を?」
「似てはいるが…全く別の術式だな、お前の作る呪力の靄、あれを手足のように扱っていた」
(やっぱり、そういう使い方も出来るのか…)
「…最後の質問です…初代は、貴方にとってどんな人だったんですか?」
「……自身の人生を、周囲の愚者共に捻じ曲げられ、壊された憐れな女よ」
(…女性?)
その質問を最後に会話は途絶え、しばらく歩いて最初の場所へと戻るとボロボロの呪詛師と直哉がいた。
ザッザッザッ
「誰だ貴様は」
宿儺が直哉に問いかけると呪詛師はガタガタと震えだしてその場から逃走を図る。
「ヒッ、ヒィィッ!」
クンッ キンッ
宿儺が中指を立てると呪詛師の体が縦に分断され、その場に二つの胴体が倒れ伏す。
「フンッ、もう一度問おう、貴様は誰だ?」
(答え間違うたら間違いなく死ぬやん…)
「…禪院直哉、そこの娘とペア組んどる男や、自分両面宿儺やろ? ここからでも見えたで、とんでもないことしはるやん」
奥歯を噛み締めながら強気を見せる直哉だが、圧倒的な強さの違いから、脳裏によぎる作戦は逃走の二文字だった。
(アカン…術式使って逃げに徹しても絶対逃げ切れへん、刹那ちゃんが起きてくれたらワンちゃんやけどあの状態じゃ今の俺より弱いやろなぁ…いっそ死ぬの覚悟で戦うか?)
「ふむ、伏黒恵を攻撃してない辺り敵ではないのだな、ならば興味はない」
「へっ? …ほんならありがたく逃げさせてもらうで、後ろからブスリなんてオチは堪忍したってな」
「待て、その前に伏黒恵を家入という医者の所へ運べ、俺は手が塞がっている」
いつの間にか宿儺の腕の中で刹那は眠っており、宿儺は伏黒を直哉に頼む。
「…へーい」
横抱きにして宿儺と共に伏黒を運び、夜蛾と家入がいる建物の前に立つ。
「ここやな…なぁ、自分どないすんの? その体、器に返さなあかんちゃうのん?」
「どのみち大して長くは続かん、刹那のお陰で鏖殺もしそこねた、次に小僧が起きたときにはツギハギの呪霊の元へと向かうだろしな」
(呪いの王ゆうわりには話分かるやつやんけ…刹那ちゃんがなんかしたんか?)
「ま、ええわ、班長あんな調子やしテキトーにバケモン殺して回るかな」
「貴様、さっきからその喋り方はなんだ、不愉快だ」
「これ? 関西弁ゆうんやけど、知らんの?」
「知らん、千年前にはそんな喋り方をする者はいなかった」
「ふーん…覚えたら得するで、刹那ちゃんこの喋り方好きや言うてたし…なーんて」
直哉は笑いながら冗談混じりに言うと、宿儺は顎に手を当てて考え込む。
「ふむ…戻ったら小僧に聞くか。喜べ、もしそれが本当だったら礼をしてやろう、嘘だったら殺すがな」
「えっ、ちょまっ」
バォッ!
そう言い残し直哉の目の前から宿儺は姿を消す。
「…あいつ刹那ちゃんに惚れてんちゃうん? …あんま考えんとこ」
二人を硝子のテントへ運び込み、直哉は自分にできることを探し始めた。
これからも若干投稿ペースが安定しないと思いますが何卒よろしくお願い致します。_(_^_)_
ちなみに刹那の領域は必中効果で伏魔御厨子を閉じ込めるのに加えて領域内の"無に還る"という術式効果を消して足りない呪力を飴と一緒に供給してます。必殺は残ってますが刹那以外を無差別です
つまりは完全に閉じ込めるだけの超強力な結界ってことですね。