全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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今回は短めでーす


第四十七話 待宵の月

 ──乙骨帰還から三日後──

 

 十一月六日

 

「伏黒恵を禪院家当主とし、全財産を譲るものとする」

 

 フルダテが禪院家の当主、直毘人の遺言状を発表すると、直哉はすぐに立ち上がり部屋から出ていく。

 

「そうかい……」

 

 スック、ガラッ

 

 直哉はそれだけ言って立ち上がり、その場から去っていった。

 

「どうしたんだ直哉の奴…?最近急にしおらしくなって、絶対何か文句言うと思ったのに」

 

「例の特級の少女に負けたのがよっぽど応えたのだろうよ」

 

「何ヶ月も引きずるなんてあいつらしくねぇなぁ、気持ち悪い。ま、大人しくなる分には構わんが。それより一部の炳と灯、それと躯倶留隊の奴等は何してんだ? 出張か?」※A、鏖殺済み

 

 禪院家の甚一と扇は伏黒の当主案に特に反対することもなく受け止め、直哉はとある術師に指定された場所へと向かう。近くの空き地、人の目につくこともあまりなく、近寄る子供もいない、禪院家の数ある所有地の一つ。

 

 そこに大人しく縮こまる一体の呪霊、百足のようでいて蝙蝠のような外見をするそれは、無数の目で直哉をじっと見つめると背中を見せてくる。

 

「こんな呪霊手懐けるなんてなぁ……ホンマになに考えてはんのやろ…」

 

 直哉は背中に乗るとその呪霊は翼を広げて空中に高く舞い上がる。そして高速で東京へと移動を開始する。

 

 ──

 

 約ニ時間の空の旅を経て直哉は東京、崩壊した渋谷の真ん中へと辿り着く。

 

「おおきに、なんや飼い主の場所は分からへんのかい」

 

 呪霊から降り、直哉は近辺を歩く。

 

(改めて見るとえらい大変なことになったなぁ、東京…いや、日本はもう危ないかもしれへんなぁ)

 

 崩壊した東京を袖に手を入れながら見て歩く。低級の呪霊は直哉を恐れて襲いに来ず、件の術師の影響か、強力な呪霊も現れることはなかった。

 

 直哉はとある壊れた道路のヘリに辿り着くと、目的としていた人物を見つける。

 

 ペラ、ペラ、ペラ…

 

 コクンッ

 

 紙を捲る音。静かにお茶を啜る音。大魔境と化した東京に、およそ似つかわしくない、酷く静かな音が響く。

 

「随分呑気やねぇ、刹那ちゃん」

 

 パタンッ

 

「あ、やっと来ましたね。待ちくたびれましたよ、本も四冊目です」

 

 手をあげて歩み寄る直哉を見つけ、積み上げられた本を指しながらクスクスと笑い、本の中間辺りに栞を挟む。

 

「どうぞ隣に、紅茶ですけど飲みますか?」

 

「おおきに、構わんといてや」

 

 刹那の隣へ腰掛け、お茶を断るように手で遮る。

 

「お猿さん助ける為に東京残るなんてなぁ、流石は特級術師様やね」

 

「こんな殺伐とした場所で非術師が六日も生き残れる訳ないじゃないですか、もう誰も見てませんよ」

 

「……四日前の夕方頃、刹那ちゃんの死刑が決まったで」

 

「でしょうね、そうなるって分かってたからここにいるんですし」

 

 直哉の口から発せられた言葉を既に体験している刹那は驚く様子を見せずにお茶を啜る。

 

「直哉さんは僕を殺しに来たんですか?」

 

「今刹那ちゃんに勝てる術師なんて可能性あって乙骨君くらいのもんやろ。第一呼んだのは君の方やろうに、あんな呪霊まで使って」

 

「今、東京には至るところに呪胎がいますからね、飼ってみたんですよ。可愛いでしょう?」

 

 特級相当にもなろうかという呪霊を可愛いと言う刹那。直哉は刹那の壊れっぷりを知っているため、気にすることもなく話を続ける。

 

「あんましそうは思えへんな。で、用はなんや? 言っとくけど俺も当主やないさかい、死刑の取り止めとかは進言できんよ?」

 

「そんなことを言うつもりはありませんよ、二つほど、お願いがありまして。一つ目はですね、直哉さんには真希さんと真依さんと仲良くしてほしいんです」

 

「一つ目からエライハードル高いなぁ…でもまぁ、あん時刹那ちゃんに言われたしなぁ…。そやな、塩一摘みくらいなら考えといたる…で、二つ目は?」

 

「簡単ですよ、東京校の皆さんに伝えてほしいんです…」

 

「なんや、遺言か?そんなら言わんよ、自分で言いに行きーや」

 

「そんなことを言うつもりはありませんよ」

 

 刹那は妖しく笑いながら立ち上がる。月夜にその姿を重ねながら刀を抜き、呪力の靄を出現させる。

 

 ドゴォッッ!! 

 

「虚」

 

 準一級、一級相当の呪霊が複数体現れ、刹那に牙を向く。

 

 キュインッシュパパッ

 

 バグンッグシャッバギュッ

 

 直哉はその光景を動くことなく静観する。

 

 刹那に向かった呪霊は斬り刻まれるが、回復しようとする。しかし、回復が終わる前に呪力の靄が龍の形となり呪霊を喰らっていく。

 

 刹那の術式は、渋谷事変での初代の記憶の追憶、後の三日間の夜と戦闘経験を経て完成していた。

 

「次の満月の夜、天元様を殺して、皆さんに精一杯の呪いを届けに行きます。と」

 

 キンッ

 

 響き渡る静かな刀の鍔の音、直哉は固まって少しだけ欠けた月と重なる刹那を見つめる。

 

 次の満月まで、残り二日。

 

 ──

 

 翌日、直哉は一つ目のお願いを除いて東京校の関係者に伝えた。

 

 そして地下室にて秘密裏に回復した夏油達による事情聴取が始まっていた。

 

「直哉君、だったね? いくつか質問があるんだけど」

 

「どーぞー、答えられるかどうかは俺が選ばしてもらうけどなぁ」

 

 直哉はソファに腕を広げて座り、どうぞと言うように手を出す。

 

「当主の座は伏黒君にあるってことでいいんだね?」

 

「せやけど、勿論貰えるんなら当主の座は貰うで」

 

「え"俺いらないんですけど…」

 

「貰っとけ、金や呪具が使い放題だぞ」

 

「めんどくさい……」

 

 伏黒と真希が話すのをよそに夏油は質問を続ける。

 

「質問二つ目、君の話とは関係ないけれど、先日、刹那の生家を焼いたのは君の指示かい? それとも禪院家の総意?」

 

 先日、刹那の死刑判決が下った日の夜に富士の樹海にある阿頼耶識家が全焼、そこには禪院家の者と思われる死体がいくつかあり、特級クラスの呪霊の残穢が残っていた。

 

「……家の下っ端の雑魚どもと一部の炳と灯の仕業やろ…手柄がほしゅうてやったんやろに、俺はなんも関与してないで」

 

 直哉は無罪を主張するように手を広げてヒラヒラと振る。

 

「その下っ端とやらが全滅したのは、刹那がやったのかい?」

 

「それは知らんよ、あの子の家なんて見たこともないよってに」 

 

「質問三つ目、君から見て刹那はそれを実行すると思うかい」

 

「するね、絶対にするわ、間違いない」

 

 念入りに直哉はその質問に肯定する。

 

「そうか…最後の質問だ、君は…刹那の死刑に賛成かい?」

 

「…………」

 

 直哉はその場で黙り込み、十数秒の間、静寂が流れる。

 

「勘違いしないでくれ、別に君が賛成しようが反対しようが君をどうこうするつもりはないよ」

 

「アホぬかせ、そないなことで黙っとるんやないわ、俺自身は勿論反対や、刹那ちゃんに出会って俺も大分丸なってしもたし、悟君もあの子もいない世界なんて退屈やろしなぁ。でも…」

 

「…でも?」

 

「次の満月…明日の夜、あの子はここに来るんやで? それを止められるのん?」

 

 ……

 

 直哉の言葉に再び流れる本日幾度目かの静寂。それを打ち破るように直哉は口を開く。

 

「まぁ、どうせそないなことやと思ったわ。なぁ、恵くん」

 

「はい…?」

 

 直哉は溜め息を一つついて伏黒の名前を呼ぶ。

 

「取引しようや」

 

「取引?」

 

「せや、刹那ちゃんがここに来た時の死刑執行をウチの者たちでやったる」

 

「なんでぽっと出のアンタに刹那のことを任せなきゃなんないのよ」

 

 釘崎が直哉を睨みつけながら言う。

 

「そないなことは刹那ちゃん殺す覚悟できてから言ぃや」

 

「じゃあアンタは刹那を殺せるっていうのかよ」

 

「あ"?」

 

 ゾクッ

 

 直哉は殺気を出して虎杖を睨みつける。

 

「調子に乗んなや虎杖悠仁。俺らが生きとるこの世界は呪い呪われが当たり前なんや、昨日まで生きてた友達が明日死ぬなんてことも珍しいことやない、んな生温い覚悟でここにいるんなら呪術師失格、甘ちゃんは引っ込んどきや」

 

「………直哉さん…取引の対価は…なんですか」

 

「!!」

 

「伏黒っ!?」

 

 伏黒は重い空気を纏わせたまま口を開く。虎杖は驚愕の声をあげるが、それを無視して話を続ける。

 

「ウチらがやったる代わりに、成功したら恵くんは俺に当主の座を譲る。悪くないやろ?」

 

「…確かに悪くはない…けど、一つだけ条件があります」

 

「ええで、言うてみ」

 

「…俺達も、その執行に参加します…。せめて最期は…俺達が、幕を引きます…!」

 

 伏黒は顔を上げ、迷いのある目をしながらも強く、そう言い放った。

 

「…ほんなら、契約成立、縛らせてもらうで」

 

 直哉は右手を差出し、伏黒も迷いながらも握手を交わした。全員が項垂れる中、ひときわ不機嫌な顔をしながら再び直哉は口を開く。

 

「さて…俺にとってはこっちがぶっちゃけ本題や」

 

「まだなにかあるのかい?」

 

「刹那ちゃんのお願い、実はもう一つあるんよ…俺が真希ちゃん真依ちゃんと仲良うしろっちゅーねん」

 

「あ"? なんだよ、地面に頭擦りつけて謝罪でもすんのか?」

 

「んなことするわけ無いやん、俺は謝らんよ。なんで自分より弱い雑魚にそないなことしなきゃあかんねん。言葉だけの謝罪なんて雑魚の専売特許やろ、だから…」

 

 直哉はぶっきらぼうにそっぽを向いて呟くように言う。

 

「これからの態度で示したる。よう見とけや雑魚が」

 

 それを聞いた真希は一瞬唖然とした後に高らかに笑う。

 

「ふっ、あっははは!!」

 

「おい、何がおかしいねん」

 

「あいつは凄いな! お前がこんな風になるなんて想像できなかったよ」

 

「なっ、この──」

 

 スッ

 

 真希は手を差し出す。

 

「はぁっ?」

 

「私はアンタを許さないし許す気もない、アンタの好感度は今マイナス振り切ってんだ。だから、そのマイナスを今回だけゼロにしてやる、そっから先はアンタの言う、態度で示してくれ」

 

「……ハンッ! ええで、乗ったるわ」

 

 パシンッ

 

 因縁深い二人の溝は一時的かこの先もそうなのかは分からないが、平坦になった。

 

「それじゃあ…明日に向けて準備しないとね」

 

 乙骨がそう言うと一同は動き始める。後輩を、親友を、憧れる程の強さを持つ人を止めるため──ー

 

 満月は、明日




次の投稿は五日後の金曜日です。
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