全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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確認してみてふと疑問だったんですが、なんで四話だけしおりの数あんなに多いのかなと。よければ教えてくださいませんか?


第五十七話 武芸百般、舞いましょう

 二人は向かい合って得物を構える。

 

「時間は取らせませんよ」

 

 パサッ、ヒュインッ

 

 刹那は眼帯を外して刀を一度振って構え、矢を放り投げる。矢が落ちる短い間にもう片方の手も刀に手をかけ、本格的に臨戦態勢になる。

 

 …パキッ、ギインッ!! 

 

((速い!!))

 

 矢が地面に落ちると同時に互いの刀がぶつかり激しい火花を散らし、その瞬間にお互いの力量を推し測る。

 

 ギギギ…カクンッ、ヒュインッ! ダンッ

 

 紫龍の重たい一撃を刹那は二刀で受け止めて押されるが、その姿勢を膝を抜いて崩し、その場で横に回転して胴に斬撃を繰り出す。紫龍は後ろに飛び退きそれを避けるが、刹那は術式を発動させて追撃に兜に蹴りを繰り出して着地する。

 

 ゴインッ

 

「フブッ! ヌウッ!!」

 

 ブゥンッ! ドゴォッビキキッ

 

 紫龍は刀を刹那に向かって振り抜く。それを刹那は柄を刀の腹に当てて逸して避けるが、その怪力によって地面に深い亀裂が出来上がる。

 

「ガラ空き」

 

 ガッ、ヒュォッ。フッ

 

 地面にめり込んだ刀を踏みつけ胴を狙って刀を振るうが、踏みつけた刀は突然に姿を消して斬撃は手前に逸れる。

 

 パンッ

 

 同時に紫龍は手を叩いて開き、金砕棒を形成する。

 

「頭がガラ空きだぞ」

 

 ブォンッ!! ギュルッキキンッ、ドォッ! 

 

 振り下ろされると同時に刹那はその場で後ろに倒れながら半回転して狙いを合わせ、金砕棒を二刀で横に斬り飛ばす。そのまま低く跳んで体勢を直し、間髪入れずに跳び上がってドロップキックを繰り出し、腕で受け身を取りながら跳ねて距離を取る。

 

「ムゥ、大した腕だが如何せん軽いな。その程度では鎧の下には響かんぞ?」

 

(この人…鎧を着てるのに凄く速い。さっきのだってかなりの速さで振ったはずなのに一度躱された。しかも刀で地面に亀裂が走るほどの膂力…強い)

 

(この女児、もしや俺と同じか? これ程までの剣と戦闘の才覚、そうはいまい…強いな)

 

 刹那は鋼鉄を思い切り蹴ったような痛みが足を襲い、ビリビリと痺れるような感覚になる。

 

 紫龍はダメージは軽微なものの、想像以上の剣撃に焦りと共に闘争心が湧き上がる。

 

 パンッ、ズルゥッ

 

 紫龍は金砕棒を放って手を叩き、次は三叉の槍を形成する。

 

「武芸百般、槍術」

 

「武器を自在に扱うのが貴方の術式。でも一度に一つずつしか使えないんですか? 大した驚異には感じません」

 

「生憎と、某が得意とするのは乱戦ゆえ」

 

 ヒュンヒュンヒュンヒュンッッッ

 

 槍を身体の周りを這わせながら華麗に回し、土埃が舞い出す。

 

「……」

 

 ドヒュンッ!! 

 

 砂埃で姿が朧気になる瞬間に槍が投擲される。

 

 ガシッ、クルンッザクッ

 

 刹那は空中で槍を掴み、そのままの勢いで地面に突き刺して砂埃の中に入っていこうとする。

 

(僕に視界の妨害は意味を成さない、攻めるなら今っ)

 

 ダッ! 

 

「武芸百般、砲術」

 

 しかし、一瞬晴れた砂煙の下部では大砲を構えた紫龍が刹那の足元に狙いを定めていた。

 

「!!」

 

「吹き飛べ」

 

 ボゥンッ! ドゴォォンっ!!! 

 

(…なんと。真、見事なり)

 

 紫龍がそう思うのも当然。刹那は大砲が撃たれた瞬間、大砲が地面に当たる僅かな時間で砲弾を踏み台にし、爆風と蹴った威力で一瞬にして紫龍の頭に掴みかかっていた。コンマ一秒でもズレれば身体が吹き飛ぶ威力を、あろうことか攻撃に転用したのだ。

 

「やっといいのが入る」

 

 メショッ、バキィンっ! 

 

「フグォゥッ」

 

 刹那の膝蹴りと共に面が割れて素顔が現れる。仰け反り、その隙を見逃すはずなく連撃を叩き込む。

 

 キンキンッバキィドゴォッゲシッドガッドドドッ

 

「ブグッ! オォゥッッ! ァァオッ!」

 

 兜を斬り刻み、着地して跳びながら顎を蹴り上げ、そのまま踵落とし。いずれもノーガードで完璧に入る。

 

(この人は殺せない。参加理由が分からない以上は殺したくないのもあるけど、高得点が惜しい)

 

 刹那は瞬時に納刀して再び跳び上がり、顔面を横に蹴り飛ばした後、頭を掴んで滞空時間を延ばし、そのまま殴打していく。

 

 バキッドゴッベギィッバゴンッドゴゴッバゴゴゴッ

 

(この女児、止まらんッ動く隙もないッ! これでは武器の生成も叶わんッ! これ程までの猛者が現代にいようとはッ!!)

 

 素顔が半分見えている顔面を重点的に狙い、動こうとするたびに右眼と持ち前の思考能力で動かそうとする腕や足の関節を攻撃して動きを止める。ゲームのハメ技のようなものが始まっている。

 

「ぬぐぉっぅ!! ぉぉっ!?」

 

 刹那の怒涛の連撃を喰らい、甲冑にもヒビが入り始める。その時、両泳者のコガネが声を上げる。

 

「殺し合いの真っ最中申し訳ねぇなぁ!!」

 

「ルールの追加報告でござるよ!!」

 

「「泳者によるルールの追加が行われました!! 総則10! 泳者は他泳者に任意の得点を譲渡出来る!!」」

 

「「!!」」

 

(誰かがやってくれましたか…あれ、でも)

 

(得点の譲渡だとっ!? イヤ、だとしてもっ!)

 

((今の状況は大して変わらないな(!?)))

 

「ぐぉっぅうぅぅッ!! 武芸ひゃっバブッ」

 

 唸り声を上げながら術式を無理矢理行使しようとするが、肘打ちを鼻面に喰らい停止する。

 

「タフですね…気絶してもおかしくないんですが」

 

 ズズズッ…

 

 刹那は痺れを切らして術式を使おうとする。

 

「話すのは後からでも遅くないか」

 

「ぬぅぅぅっッフンッ!!!」

 

 ベギィッガギンッ

 

「痛っ」

 

 ゴロゴロゴロゴロ! 

 

 紫龍は壊れた甲冑を無理矢理剥ぎ取り、刹那の蹴りに合わせて脛に叩きつけて横に転がり、危機を脱する。

 

「はぁ…はぁ…」

 

 身体中に青痣と所々の血の跡を作りながらも体勢を建て直す。

 

(タフだ…あれなら悠二君でも気絶するのに)

 

「まだやるんですか」

 

「プッ!」

 

 パンッ

 

 口の血を吐き出して手を叩き、刀を生成する。

 

「命令だ…退け」

 

「今更そんな警告に意味がないことは分かっているでしょう…っ!?」

 

 ズンッ

 

 答えた瞬間、紫龍の刹那を見据える眼が変わり、重い空気が一瞬にしてその場を制する。お互い刀を構えて完全に動きを止めた。紫龍は仕掛けた、お互いの消耗戦を。

 

(なんて覇気、僕が迂闊に踏み込めない。これが呪術全盛の術師による本物の殺気、やっぱり、踏んできた死地の質が違う…)

 

 剣においての一つの境地、相抜。

 

 実力が拮抗し、互いの死地が重なった時、両者が打ち込めず打ち込まれない状態を指す。

 

 剣気で互いの身体を包み精神を斬りあう、剣を使わぬ剣技。

 

「……やってやろうじゃないですか」

 

 ズァッ!! 

 

「!!」

 

 刹那は術式を発動し、二刀で虚空を交差に斬る。そしてそのまま死の重圧を感じさせぬ足取りで歩き出す。

 

(天晴ッ!!この死地をも乗り越えるとは!!)

 

「凄まじい剣気…僕も殺す気で行かなければ」

 

 刹那は生半可な覚悟では動くことすらできないのを悟り、殺気を漏らしだす。

 

「フッ!!」

 

 ブァッ

 

 紫龍は刀を刹那に向けて振るうが、その瞬間に靄が身体を覆い尽くす。

 

 紫龍は全身を呪力で包み込んで強化し、直接の被害を免れるが、それを引き金として刹那の猛攻が始まる。

 

「なんという濃密度の呪力っ…!!」

 

(息がっ!?)

 

 靄の中で酸素は消え、真空が作り出される。

 

(脱出ッ抜けなければッ!)

 

 ダンッツルッ

 

 靄から抜け出そうと踏み込んだ瞬間、まるで氷の上を踏んだように盛大に転び、そのまま滑っていく。

 

(なんだこの術式はっ!?)

 

 靄から出た瞬間に突然停止し、顔を上げると刹那が刀を構えて待っている。

 

「ゥオウッ!?」

 

 ギィンッ!! キキキンッ

 

 刀で一度防ぐも、あっという間にバラバラに斬り刻まれ、紫龍は至近距離で柄を投擲する。

 

 ブンッカインッ

 

 パンッボゥンッ

 

 その間に煙玉を地面に叩きつけて抜け出し、再び弓を生成して全力で後退しながら狙いを定める。しかし刹那の姿は無い。

 

(逃げた!? いや、残穢を追え…!)

 

 視線を集中させて気づく、残穢は目の前で途切れている。

 

「──目の前っ!」

 

 ドシュシュッッ!! 

 

 バキキンッ!! 

 

 矢は虚空を過ぎていき、その瞬間に足元に低位で構えていた刹那によって腕と足の甲冑が斬り刻まれる。

 

「硬すぎっ…」

 

 ダォンッ! 

 

 紫龍は跳び上がって距離を取り、難を逃れると同時に手を叩く。

 

 パンッ、ズルゥッ

 

「!!」

 

「貴殿のような強き呪術師に出合い、呪いあえたこと、我が魂に刻もうぞ」

 

 紫龍は刀を二つ生成し、真正面からの斬り合いに持ち込む。呪術全盛を生き抜いた兵と、現代へと還った阿頼耶識家最強の真っ向勝負。

 

「ヌゥゥゥゥゥゥァァァァアアアアア!!!」

 

 フォンッヒュンッギュンギュンギュンッッ!!! 

 

 ギィンッガンッヒュンッギィンッバヅッ

 

(まるであの時の…いや、あれよりは遅いか)

 

 プツッブシッ

 

 凄まじい速度の二刀で刹那を斬りつけ、そのスピードは上がっていく。それに呼応するように避け、いなしていく刹那の身体にも僅かに小さな傷は出来ていく。しかし、術式や策を捨て、正面からの斬り合いに持ち込んだ時点で紫龍の負けは確定していた。

相手は稀代の剣才なのだから。

 

(何故ッ、何故当たらんッ!? まるで先が見えているかのよう…なっ)

 

 キュインッ

 

 羽虫一匹通れぬような剣撃の中、針に糸を通すかのように、酷く静かに紫龍の腹は二本の紅い軌跡を描く。半回転しながら腹に左一文字。腹から血が吹き出し、紫龍の剣撃は乱れる。

 

 ブシュゥッ

 

「ゲボッ…まっダァっっ!!」

 

 キンッキィンッ、ザンッザンッッ! 

 

 腹に深い斬撃が刻まれ、血を吹き出したにも関わらず、倒れることなく刀を振りかぶる。しかし、刀を振り上げてから振り下ろす、その僅かな時間。逆袈裟斬り、軌跡をなぞるように袈裟斬り、横半分に一文字、下腹部から真上と真下に斬り上げる。文字通り、二刀による刹那の斬撃。

 

 ブシュゥゥッ!! 

 

 鎧は完全に破壊され、肉体に直接斬撃が加えられる。

 

 ガクッ

 

 滅多斬りにされ、尚も立ち上がるために二刀を地面に突き刺し己の限界を否定する。

 

「まだ負けておらぬ…まだ、某は…!」

 

 キキキンッッ…ドサッ

 

 目の前で刀をバラバラに斬り刻み、紫龍は地面に倒れ伏す。そして刹那は倒れた紫龍の首を二刀で挟む。

 

「凄い身体してますね…鎧の上からとはいえ、ここまで刃が通らないなんて」

 

 南雲紫龍、呪術全盛の時代においても間違いなく強者に分類され、現代においても完成された強者に分類されるであろう術師。しかし、相手は五条悟、乙骨に並ぶ現代の異能…相手が悪すぎた。

 

「…某の敗け、か。この首、貴殿にくれてやろう」

 

 ガシャンッ

 

 紫龍は刹那の刀を力無く掴んでどかし、鎧を脱ぎ捨ててその場に胡座をかいて首を差し出す。

 

「殺しませんよ、最初に言ったじゃないですか」

 

 ポゥッ

 

 刀を納めて眼帯をつけ直し、反転術式で紫龍の怪我を治していく。

 

「反転術式か…貴殿、歳は?」

 

「?十六…」

 

「フッ、ハッハッハ。若いのに大した術師だ。某の完敗よ」

 

「そんなことないと思いますけど…僕も怪我してますし」

 

「謙虚よのう、手を抜いていたクセして。良いだろう、某が知りうる情報ならば何なりと話そう」

 

「随分あっさりですね。拷問くらいはするつもりだったんですが」

 

「某は貴殿の情けにより生かされた。これ以上の恥を晒さぬよう、せめて勝者に従うのみよ。それに実は…某もまだ死にたくはない」

 

「生き汚いのは良いことです、命あっての人生なのですから」

 

「ふむ…名を、聞かせ願おう」

 

「…阿頼耶識刹那です」

 

 パンッ

 

 怪我を治し終え、紫龍は立ち上がるとその場で縛りを結ぶために小刀を生成して刹那に手渡す。

 

「某は阿頼耶識刹那にこれから先、敵対することはなく一切の情報を打ち明けることを誓おう。証だ、受け取れば縛りを結んだことにする」

 

「…なんとも古風な、この小刀どうすればいいんですか」

 

「手から離れれば勝手に消える。任意でも可能だがな」

 

 小刀が消えるのを見届けると、ガサガサとビニール袋の音を立てながらいつの間にか消えていた不知火が帰ってくる。

 

「ただいま~色々買ってき…た…」

 

 バジュンッッ

 

 不知火は戦闘が終わり、やたらに距離が近い二人の姿を見て術式を発動させ、紫龍と刹那の間に細い熱線を撃って引き剥がす。

 

「何気安く人の女に手ぇ出してんだ?」

 

「いや僕貴方のものじゃないんですけど」

 

「あぁ可哀想に! 所々ボロボロじゃないか!」

 

 話を聞かずに刹那の頬を掴み、身体をベタベタ触って確認する。

 

「いや今から治して──」

 

「おいこらヘンタイ真っ黒鎧巨人!」

 

「珍妙な呼び方をするでないわ」

 

「今すぐどっか行け!じゃなきゃ燃やすぞ!!」

 

「ちょっ、困ります!まだ何も聞けてないんですから!」

 

「縛りを結んだゆえ、それは出来ぬ話」

 

「じゃあお望み通りに燃やしてやるよ 」

 

 ズァッ

 

 不知火と紫龍は互いに睨み合う。しかし、刹那の呪力の靄によって両者の視界が暗転する。

 

「うわっまたコレっ!?」

 

「ムゥ…」

 

 パンパンッ

 

「ハイ終了、無駄な血を流すのはやめてください」

 

 ビシッ

 

「あ痛っ」

 

 手を叩きながら術式を解除し、不知火にデコピンする。

 

「燐さんも落ち着いてください、敵対した術師が呪い合うのは当たり前なんですから」

 

「今なんて言った?」

 

「?呪い合うのは──」

 

「違うくて名前! 呼んだよね!?」

 

「えっあぁ、呼びましたけど…?」

 

「もう一回! もう一回呼んでくれたらお姉さん機嫌直っちゃう!」

 

「えっと…」

 

「埒が明かぬ、好きにさせれば良いのではないか?」

 

「…燐さん。これで満足ですか」

 

「うんうん、甘美な響きだ。お姉さん機嫌治っちゃった」

 

 さっきまでの威圧感はまるで消え失せ、刹那に横から抱きつく様子は、飼い主が帰ってきた犬を彷彿とさせる。それを見た二人は呆れてため息をつくしかなかった。




平安の侍ってこんなんであってる?、、、まぁいいか、結構好きなキャラではあります。
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