久しぶりの投稿です!ぜひ、楽しんでいってください!
ド ロ ォッ…
刹那は抑えきれぬ殺意を呪力の靄で具現化していく。
ゾクゾクゾクッ
(あぁ、ほんとにいいわぁこの子。死の間際、どんな魂の輝きを見せてくれるのかしら…うっとりするわぁ)
「
「術式順転…虚」
ズァァァァッッ
刹那は呪力の靄でフロア全てを覆い尽くす。
一方で仲見世は大量の人形をあらゆる場所から集め、列を成して襲いかからせて人形達の中に姿をくらませる。
刹那は天井との距離を無くし、そこからさらに壁へと連鎖して音も姿も完全に消して気配を悟らせない。
(気づく頃には既に移動してる…呪力放出の緩急といい術式の使用速度といい、一体あの年でどれほどの経験をしたのかしら)
「早く動いた方がいい、この程度の広さなら三分もあれば真空にするのは容易です。窒息して死ぬか、斬られて死ぬかの二択しか貴方にはない」
「その手には乗らないわ、私の姿が見えるはずないもの。あなたこそいいのかしら? 私の場所が分かったとして、非術師の魂を殺せるとは思えないし、この呪力の靄も無尽蔵ってわけにはいかないでしょう?」
「ここの人形達には色がない、とっくに中身は死んでいる。単純な命令しか出来ないのは視て分かります」
刹那の瞳には大量に蠢く有象無象の力の塊、色はなく、人格や思考能力は既に死んでいることが視えている。
「…ふふッ」
「見つけた」
仲見世は不敵に笑うと、それを見逃さない刹那は即座に距離を無くして斬りかかる。
しかし同時、窓が割れて鳥が中に侵入する。
(鳥? いや、先に殺せば関係ないっ)
バギィンッ!!
仲見世は忍ばせていた短刀で刀を一度だけ防ぎ、刹那に向かって折れた刀身で斬りかかる
「!?」
「不思議って顔してるわねぇ、呪術師は嘘を吐く生き物よ、ペラペラと本心を喋りすぎね」
明らかに素人の動きではない短刀の取り回しで一撃を回避し後退する。加えて人形全てに刹那を襲いかからせるが、その中には色がある人形がいるせいで一瞬思考が凍りつく。
「私の術式対象は死体の魂。動物すらも例外ではないの。貴方には新鮮な魂人形のほうが効くみたいだから、プレゼント」
ガラガラガラガラ!!!
「ナイ…死ニたクなイ…」
人形が小さく呟く、目の前に広がる悲哀の青。思考がさらに曇るのを血が滲み出るほどに刀を握り込んで払拭し、思わず呪力を余分に刀に込めて袈裟に一閃する。
ザンッ!!!! ズルゥ…
斜めにビルは斬れ落ち、吹き抜けの夜空が広がり、刹那の長髪が夜風でたなびく。
「…必ず仇は取ります」
「十七点が入りました」
無数の人形を斬り伏せ、光の反射を無くして再び姿を消す。
(なんて呪力の放出っ! どこまでも底が見えない!!)
ガジャァンッ!! ドゴゴッ!
「あらあら、またお互い隠れんぼ? いつまで持つかしらねぇ!!」
仲見世が呪力を練ると、ビルの階段や刹那が壊した穴、壊れた窓からどんどんと人形が侵入してくる。
(どんどん増える…ごめんなさい、貴方達は…もう、どこにも逝くことは出来ない)
刹那は覚悟を決め、領域を展開するために印を結ぶ。
「領域展──」
ズズンッ
「「!!」」
ビルが突然揺れ、二人は動きを止める。
「こんな時に地震?」
「!」
ピシシッ…バキバキッドゴォンッッ!
刹那は周りを見渡すと、突然床が突然ひび割れて五十八階が突如として消え去る。
砂煙と瓦礫が夥しく舞う中、四人は一定の距離で見つめ合う。
「む! 見つけたぞ刹那殿!!」
「心!?」
「不知火! なに手こずっ──!」
ドゴッッ
紫龍は駆け出し、仲見世にタックルして吹き飛ばす。
「某とそこの女は相性がいささか良くない、任せても良いか」
「願ったり叶ったり、そっちは任せました」
パシッ
「ゲホッゲホッ…女性は丁寧に扱うものよ」
瓦礫に埋もれていた人形達は活動を再開し、標的を紫龍に切り替えて襲いかかる。
ドドドッ!!
バキッボキンッドゴジャァッ!
紫龍は容赦なく首を折り、掴んで叩きつけ、殴り壊していく。
「ぬるい、数はあっても烏合の衆では意味がないな」
「あら、良いのかしら? そこの人形に入ってるのは正真正銘、死者の魂よ」
「知らん、戦争の場で甘いことを言うでないわ」
(チッ、やっぱり効かないか…虎の子を出すしかないわね)
ゴォォッ!!
「やっぱり効果なしかっ!」
ザンッッドゴッ
「ウグッ」
不知火の出す炎を、術式を使うことなく斬り裂き、瞬時に距離をなくして腹に蹴りを入れる。
ザザザンッ! ガンッ
瓦礫を熱して刹那へと飛ばすが、簡単に斬り飛ばされ、逆に斬った瓦礫を蹴り返される。
「危なっ、とわぁ!?」
ヒュンッヒュンッ! ザリィッ
斬撃を横に飛んで回避するが、術式で距離を無くされ顔面を拳がくり抜き、鼻血を出したまま倒れる。
メキョッッドォンッ
ボタタッ
「いったいなぁ! もう!!」
ゴォォッ!!
「無駄です」
ギュォォッ!
「なーんで、ダメージがないのかなぁ」
「僕に斬れないものはありません」
その場で刹那に向かう炎に斬撃を繰り出して斬り裂き鎮火し、刀を炎の壁の向こうの不知火に向ける。
「流石に自信無くすよ、ここまではっきりした実力差があると」
「分かってるのなら降伏してください。出来れば、貴方を斬りたくない。次に攻撃が来ればそれが最後です」
「そうかい、残念だよ刹那…君を殺したくはなかった」
不知火は鎮火して刹那と対面し、涙を流して両手を開いてせると、手の中に呪力が集まりだす。
呪術師の成長曲線は皆が皆、一定ではない。不知火は火の扱いに元々長けていた。術式への理解が早かったのなら、あとは優秀な呪いの師が教えればすぐにでも被呪者から呪術師へと昇華できる。
「言ったろ?…私は君の為なら死ねるって」
極の番…
不知火の今の実力からして、自らを炎に巻き込む縛りによって一度だけ使える極の番。それは全てを焦土と化す灼熱の炎、生命も物質も術式さえも全てを燃やし尽くす…
プツッ…ガクンッ
「訂正しますね……攻撃しようとすれば、それが最期でした」
ブシュゥゥッ…ゴゥンッ
はずだった。
シンプルかつ強力な術式、それを操る彼女には並の術師ならば敵わないだろう。そう、並の術師ならば。
不知火が呪力を練ったとき、既に刹那は不知火の横腹を斬っていた。口から血を吐き、腹から吹きでる。不知火は床に顔面から倒れて動かなくなる。元来、術式を発動するまで待つ必要性は皆無。呪い合いは、特撮番組やヒーローショーの世界じゃない。
「燐!?」
「よそ見をする暇があるのか」
ドッバゴォンッ!!
「くっ!
「「無駄だ」」
ブゥンッバギバギバキッ!!
人形の軍隊は二つの方向から紫龍を挟むように狙うが、紫龍はもう一人増やして死角を無くし、円陣を描くように刀と薙刀を振るう。
「実に素晴らしい妖刀だな、使い方を誤れば某が斬られかねん」
「蜿蜿──っ!」
仲見世は次の手を討とうと呪力を練るが、人形はもう既に全てがただのガラクタの山になっていた。
「文字通りの魂切れのようだな。どうする、惨めに命乞いでもするか?」
「…フンッ、分かってるのよ。私を殺せないってこと、百点が惜しくないの?」
「貴様は勘違いをしている。某は点数などどうでもいいのだ。手伝うとはいったが…正直、百点など見つけた術師を片っ端から殺せば済む話だ」
紫龍は兜越しに不敵な笑みを浮かべる。決着のついた刹那は二人に歩み寄る。
「百点は確かに惜しいです。でも、僕はこれ以上貴方に罪を重ねてほしくない」
二人は刀を構えて仲見世の首の両脇に当てる。
「素直に言ったらどうなのよ。クソムカつくお前をぶち殺したいって」
「フハハ、厚い面の皮がめくれたな」
「無駄話はこのくらいにしましょう。今から貴方の首を刎ねます。痛みは無いのでご安心を」
「そう…勝ったと思ってるのなら残念ね、私は殺せないもの」
ボゴォォッッ!!!! バリリリリンッ!
「「!!!」」
ズアッ!
突如として二人に向かってを炎が襲いかかる。
同時に刹那も術式を使用し、その場の熱を無くすが、呪力が物凄い速さで消費されていく。
術式が及ばない範囲は焦土と化し、空気は瞬時に熱されて膨張し、ガラスが弾け飛ぶ。
「生きて…!?」
(自らの死を代償にした縛りっ! まだ息があったんだ!)
「貴方なら、必ず防ぐと思ったわ」
ガシッビュオッッ
外から侵入した大鷲の死体人形が仲見世を掴み、割れた窓から空へと飛び立つ。
「ムオッ!?」
パンッ
「放て!!」
ビュビュビュンッ
即座に自身を増やして矢を放つが、上りかけた太陽に重なり狙いが定まらずにあらぬ方向へと飛んでいく。
「投げてください!!」
「弓をか!?」
「刀をですよ! 僕なら届く!!」
「? よく分からないが信じるぞ!!」
ダンッ、ビュンッ!!
紫龍は血吸を思い切り投げ、刹那は瞬時に靄を纏わせ、靄はロープのように投げた刀を辿る。それを利用して距離を無くし、空中に投げ出されたと同時に上る太陽を背にして納刀する。
「…いいわ! 最後の最期よ!!」
仲見世は呪力を開放し、小型の鳥の人形達を刹那に突撃する。
「覚悟なさい! 挽肉にしてあげる!!」
「覚悟するのは貴方の方だ。自分を知れ、貴方のような悪人に、甘い結末なんて待ってない」
「
ブンッパシッ
大量の雀の人形の突撃、空中で身動きの取れない刹那は真上に刀を投げてさらに術式で移動する。
「なっ──!?」
ザザザザザンッ!!!! トンッ
落下しながら一瞬で人形達を斬り裂き、その残骸を蹴って再び滞空する。
ギリリィッ
「友情だのなんだのと下らない!! そんな見えない不確かなものに一体何の価値があるっていうの!? 利用し利用される、それが私達なの!! 物言わぬ死者しか私は信じない!!」
半狂乱に持論を述べる仲見世の感情を見て、刹那はこれ以上憎むことが出来ない。罪を重ねさせないというその言葉は、刹那の本心だった。
(悲哀に満ちた深い青。でも…それでも、この人の生に決着はつけるべきだ)
「悔やみ、懺悔し、自分の人生を見つめ直せ…。貴方が真正の悪なら、僕はこんな気持ちにならずにすんだのに」
「ハッ! 後悔なんてもの、とっくの昔に置いてきた!!」
仲見世は全呪力を鷲の人形に乗せて、自ら諸共刹那に突撃する。
「
──ッッォ"ン"ッ!! ザグッ! バララッ!
一瞬にして音速まで加速した大鷲の人形。音速を見切った刹那は、刀を頭に刺して術式を発動し威力を殺す。
キンッ…
「たった一人でも…信じてくれる人はいたんじゃないんですか…少なくとも、僕の瞳にはそう映りましたよ」
頭に刺した直後。即座に刀を抜いて回転、鷲をバラバラに斬り刻み、仲見世の首は静かに飛んだ。死んたことにさえ気付かせない光速の一太刀は、静かに空で弧を描いた。
カチンッ
「……だから神や正義の味方なんて嫌いなんだ。もしもそんなのがいるのなら…僕はきっと、貴方を斬ってはいない」
納刀し、空中で拳を握りしめて一言呟いた。
「五点が入りました」
紫龍は昇る日に照らされながらそれを傍観していた。
「おぉー。流石だのぅ、刹那殿。さて、降りるか…む? 死体は残ったか。まぁ、改めて火葬してやるとするか」
紫龍は辛うじて顔がわかる程度に全身が焼け焦げた不知火を抱えてビルを降りていった。
(さて…刹那殿にはどのように説明しようか)
──ー
ヒュルルルルッ、スタッ
仲見世の死体とともに地面に静かに降り立つ。
(中々…スリリングな体験だった)
「…お帰り」
血吸を撫でながら刹那は呟き、それと同時に刹那に向かう一人の足跡に気付く。
赤い着物に身をまとい、金属の棒を持っている。視線を悟らせないためか深く帽子を被る時代錯誤な格好の青年がそこにいた。
「…誰ですか」
「んー。親戚、かな。あえて言うなればね」
「僕に家族はいませんけど」
青年の言葉に警戒しながら刀に手をかける。
「あー、てことは私の弟を殺したのは君じゃないのか」
「弟…?」
「改めて自己紹介しようか。私の名前は阿頼耶識繊、八代目の阿頼耶識家当主。君の先祖かな」
「!? …!!?」
刹那は驚きのあまり言葉を無くすが、冷静に努めて状況を分析する。
「呪物になって…受肉した? んですか?」
「そう。そうだね、私の弟…
「それは…僕じゃないですね」
「そう。そうみたいだね、あの子はちょっと無鉄砲というか、考えなしだから。まぁ、いずれこうなるとは思ってたよ」
「えーと…僕は」
「あぁ。知ってるよ、阿頼耶識刹那。私の子孫だろう?」
「あぁ、コガネですか」
「そう。そう、立ち話もあれだね。お友達が来たら、どこか落ち着ける所に行こうか」
「…どうも」
「うん。うん、君はまだまだ幼い女の子なんだ。もっとこう、大人や男の子に頼るべきだと思うな」
「周りの人には頼りっぱなしですよ…申し訳ないくらいです」
「そう。そうか…じゃあ、頑張らないとね」
「…貴方は──」
「おぉー、刹那殿! やはり無事だったか…貴様はだれだ?」
紫龍がビルの中から不知火を担いで現れ、刹那の言葉を遮る。
繊はにこやかに笑いながら手を振り、その場は流れた。
──ー
「これで良し、後はこの箱ごと燃やすだけだ」
シュッボォォ…パチパチッ
近くのホームセンターから人が入るほどの大きさの箱に二人を入れ、近くの公園で火葬を行い、刹那は手を合わせて深く二人の安寧を祈る。その間にベンチに座って二人は話す。
「さて、繊といったな。某が相手したのは貴殿の名を騙った弟ということか」
「うん。そうだね。そう、私が阿頼耶識繊、本人だ。ついでにいうと、あの子は当主になる権利はなかったはずだから、九代目というのは自分を肯定するための嘘だろう」
「ふむ…仇討ちならば相手になろう。許せなどというぬるいことは言わん。呪うなら呪え」
「あぁいや。そんなことはしないよ。正直、生き返ってもあれだったら救いようのない。どの道長くは生きていけなかったろうしね」
「うぅむ、イヤに聞き分けがいいな」
「弟とは割と本気で仲が悪かったし、ウチは特殊だからね。気にしないわけではないけれど、仇を討つほど情に深くもない」
火葬を終えた刹那は二人の前に立って眼帯を外す。
「うん。伝記で読んだ初代の特徴と同じ、綺麗な重瞳だね」
「……火葬も終えました。貴方の目的を教えてもらいましょうか」
「私の目的? 目的か…うーん、無いね」
「無い? じゃあ、羂索との関わりは?」
「うん。そんなに無いね。私は彼と契約した訳ではないし」
「でも呪物化したんですよね?」
「そう。そうだね。勝手にされたよ。呪物化っていうのは、術式によっては意外と簡単に出来てしまう。私の代の羂索の体はそれに長けていたみたいだね」
「改めて思うと術式って何でもありですね」
「そう。そう、呪力は心、術式は世界、術師は可能性。そして私達は因果の鎖。その点は、私は羂索に少し共感するね」
「例えそれに共感出来ても、明らかにあれは一線を超えています。到底許せるものではない」
「頼まれる前に言っておくけど、私はこの時代に不干渉だ。既に私は因果の鎖から絶たれている。現代を生きる君達の邪魔をする気はないよ」
「協力を邪魔とは思いませんが…」
「同じさ、私にとってはね。大人しく現代観光と、全てを見届け終えてから、輪廻の輪に戻るとするよ」
「どうしても…ですか?」
「うーん。かわいい子孫のお願いは聞いてあげたいけど、さっきもいった通り私は不干渉。でも、現代に関係しない術師ならばあるいは、ね」
「…これ以上は言及しないでおきます。ありがとうございました」
「うん。じゃあ、頑張ってね、十九代目」
「えっ、僕って十九代目なんですか?」
「うん。私の代から、当主の決め方が変わってないのならそうなるね」
「えーっと…」
「気にしなくていい、それじゃあねバイバイ」
繊はそのまま金属の棒をカツンと鳴らし、明け方の霧の中に消えていった。
「刹那殿、良かったのか?」
「良いんですよ、嘘は吐いていませんでしたし。あの人の色は、ずっと優しい緑でした」
「某からすれば恐怖すら覚える手合いであったが」
「そうでしたか? まぁ取り敢えずは…他のコロニーの生存状況の確認、その後に今後の動きを決めます。紫龍さんはどうしますか?」
「……いや、某はそろそろ降りるとしよう。彼奴の言うとおり、過干渉なのも良くない。死ぬ気は毛頭無いが、これ以上は無粋であろう」
「そうですか…じゃあ、お気を付けて」
「某の得点を刹那殿に渡しておこう」
「南雲紫龍から70点が譲渡されました」
「これで92点…あともう少しか…」
「それでは、達者でな」
紫龍も明け方の霧の中、同様に消えていった。
「…………僕はこんなに、一人が嫌いだったかな…」
刹那はベンチに背を預け、ぐったりと空を見上げ、一言呟いた。
阿頼耶識刹那 得点92
──ー
「さて…ここならば邪魔は入るまい」
「うん。ごめんね、一芝居打ってもらって」
二人は刹那に聞こえないように読唇術で会話し、刹那のいる場所から1キロ以上離れた場所で再び落ち合うことになっていた。
「構わん。が、先の話は真実なのだろう? よく刹那殿の眼を欺けたな」
「あぁ。私は割と本気で弟と仲が悪い、啀み合うのもしょっちゅうだし、目を合わせることも少ない…でもね、それでも私は、透の兄だ」
ズズズッ…
繊は呪力を練り、臨戦態勢になる。
「遠慮は無用だな。命令だ、大人しく退け。さすれば命までは取らん」
「無理」
「知っている」
パンッ
紫龍は刀を生成し、後手に回る。
ッパァンッ!!
「!!」
瞬時に距離を詰められ、鉄の棒で叩き上げられた刀は宙を舞う。
「ほら。よそ見しないで、どんどん行くよ」
ドガガガガガッバキィ
「ヌッゥゥ!」
ブンッッ!! トプンッ
拳を振り下ろすが、振り下ろす勢いを逆に利用されて拳が加速し地面へと透けて入り込む。その瞬間に顔面に蹴りが炸裂する。
「いい力だけど、当たらなきゃ意味がないよ」
バキィッ!
「かかったな」
「!」
メキッドォンッ!
背後からの強襲により繊は近くの壁へと叩きつけられる。
紫龍の術式のいう相手は、敵だけではない。
対面した者、味方、視界に入った動物だけでもそれは相手と見なすことができる。敵意から遠ざかる程に維持は難しくなるという欠点があるが、奇襲には有力な一手であり紫龍のもつ奥の手の一つ。
(さて、痛手にはなりはしないだろうがそれなりには効いたはず…どう来るか)
パンッ
紫龍は長物は不利と判断し、鉾へと持ち替える。
「いたたた」
身体の砂埃を払いながら再び両者は相まみえる。
「シッ!」
ビュンッパシッグリッ
(折れるっ)
対面した瞬間に踏み込み鉾を振るうが容易く回避され、突き出された拳を掌で受け止め相殺する。
繊はそのまま拳を広げて紫龍の指を絡ませて掴み、もう片腕で肘に力を加えて腕を反対に曲げる。
グルンッ
その場で一回転して抜け出し、金砕棒をモーション無しで生成して振り下ろす。
「無駄だよ」
くいんっドゴォッッ!!
ドキュッ!
繊は鉄の棒で受け流し、金砕棒は地面に深く亀裂を入れる。
体勢を立て直す前に紫龍の首に貫手が入る。
「ガフッ──オグッ!!」
ガチンッ
「!!」
顎を下げて鎧で指を挟み込み、その隙に再び武器を生成した自身を増やして首と足元を同時に狙う。
「残念」
ブゥンッ!!
「「!?」」
「あぁ。これは弟の分とでも思ってくれ」
ゾワァッ
(この感覚! まずい、アレが来るッ!!)
必殺と思われた刃は盛大に虚空を切り、瞬時に危機を悟った紫龍は顔に呪力を集める。
しかし、予想を裏切って放たれた場所は腹部。繊の術式により、武具は全くの無意味である。
【黒閃】
バヂィィィッ!!!!!
瞬間、呪力は黒く爆ぜ、紫龍は受肉後初の本物の死をその目に垣間見る。
ガシッギリィッ
「ッ!?」
「ガボォッ…掴んだぞぉ!!!」
しかし紫龍も歴戦の兵、死の峠など既に何度も彷徨っている。それ故の強靭な精神力が心より先に身体を支え、繊の首を掴み、地面を砕く程の一歩を踏む。
ダァンッ!!!!!
「食いしばれィ!!」
【黒閃】
──ゴッメゴォンッ!! ドゴッドゴッガガガァ!!
顔面を深く深く、黒い呪力が爆ぜて抉った。
繊と違いパワータイプの紫龍の黒閃は、戦況をひっくり返すのに充分な威力を発揮する。
「やれやれ…この歳になっても、まだ学ぶことがあろうとは」
「……流石に効いたよ…初めて他人の黒閃を食らった。ウチは外部との関わりが少ないから、困ったものだ」
腹を抑えながら立ち上がる紫龍に対し、鼻血をゴシゴシと乱暴に拭きながら繊は鉄の棒を支えに起き上がる。
かなりのダメージを負った後、お互いに120%の力を発揮できる舞台へと上がる。
「さて」
ダンッストンッ
繊は飛び上がって鉄棒を地面に突き刺して術式を発動させ、そのまま道路の下へと入っていく。
「透麗呪法、
(沈む感覚とは違うな…足元に呪力を流さなければ落ちる)
トプンッ
「後ろ!」
ガクンッ
後ろから繊が現れると同時に地面に潜り、紫龍の足を透過した地面へと埋めて動きを封じ、鉄棒で連撃を加えるが紫龍は盾を生成して凌ぐ。
ガガガガガッッ
「よく防ぐね」
ボコォ
「ドゥェリャァァ!!」
ダァンッ!! トンッ
紫龍の踏み込んだ足を上から踏みつけ、もう一度紫龍の顔面を蹴り上げる。そのまま鉄棒を高速で回して勢いをつけ、脇腹へと鉄棒が完璧にヒットする。
グルルルルルッッッボキィ!!
「ガァゲボッ」
「黒閃の後はやっぱり調子が良いね」
ストンッ
再び地面に潜り、機を狙う。
「逃げてばかりか、臆病者め」
「誇りや名誉を捨てて勝利を獲られるなら、恥ずかしくもなんとも無いね」
ガヂィンッ!!
地面から飛び出して鉄棒を振るうが紫龍の鉾で止められ、距離を取ろうとするが紫龍は大胆に踏み込み間合いを詰めにいく。
ガガガガガッッッ!!!
「どうした、口の割には先程までの攻めの姿勢が崩れているぞ?」
「くっ!」
ズォッ、ガヂインッ
後ろからのもう一人の紫龍の奇襲を受け止めて姿勢が崩れて膝を着く。
「ふんぬっ!!」
バゴッドゴッゴロゴロッストンッ
蹴り飛ばされた繊は転がりながら術式を使って再び地面に潜っていく。
(透けるだけではないのか? さっきから地面に潜ってちょこまかと…下?)
「試す価値はあるな」
ズズズッ
紫龍は足に呪力を込め、思い切り地面を踏み砕く。
ズッドォォォンッ!!!
ガラララッバシャバシャッ
「なるほど…今はこんなものが街にあるのだな」
紫龍を中心に力は放射状に広がり、道路の中央に大穴が出来上がる。
瓦礫が下水道にバシャバシャと音を立てて落ち、紫龍は上から見下ろし、繊は見上げて両者は対面する。
(まずいな、もしもう一撃でも黒閃を喰らえば保たない…)
(傷は浅くない、骨も何箇所も折れている。この状態が続けば某は敗ける)
一撃でも致命傷となり得る紫龍の攻撃、しかし明らかなダメージを与えているのは繊。
「素晴らしい兵だ。君に最大限の敬意を」
「…買いかぶるな。某は生き恥を晒し続けた愚か者よ」
繊は片手を地面に着き、自らの領域を形成していく。紫龍は座禅を組んで集中し、初めての自身の領域を形作っていく。
そして二人は酷く静かに奥の手を披露する。
「「領域展開」」
遥か昔の術者の最高到達点が、その姿を現す。
「
「