──
同日同刻、禪院家
「直哉! どういうことだ!」
声を荒げていたのは禪院甚一、刹那に切り飛ばされた片腕には包帯が巻かれ、全身にも治療痕がみえる。
「なんや、さっきから言うとるやろ。扇のおっさんが死んだんやって」
「そうじゃない! 一級と同等の術師が、何故反撃の跡もなく首を飛ばされている!?」
「そのスキもないくらいにボコボコに負けたんやろ。今までのツケが来たんとちゃうん? 俺らも寝首かかれんように気をつけなあかんねぇ」
「ーっ!! チッ!」
直哉は真希が死滅回遊に向かった後に扇の死が発覚し、騒ぎとなっている禪院家を適当にあしらっていた。
(扇のおっさんが死んだんは別にええ、正直邪魔やったし。真依ちゃんも京都校の方に行かせた。真希ちゃんは…まぁ、なんとかなるやろ)
袖に腕を入れながら縁側に座り、日の傾きかけた夕焼け空を眺める。
「はぁ~暇やなぁ」
カンカンカンカンッ!!!
その瞬間、禪院家の警鐘が高らかに夜闇に音を鳴らす。
「四回…侵入者かいな」
(大方、今の禪院ならやれるとか思った野良の呪詛師やろ。つまらんなぁ)
バタバタと辛うじて動ける術師達が直哉の後ろを駆けて入り口へと向かっていく。
事態を軽く受け止めた直哉の耳に届いたのは、耳をつんざくような轟音。同時に放たれた異質な呪力に直哉も瞬時に臨戦態勢になり、玄関へと向かう。
大きな門は既に開門し、周辺の地面が盛り上がり蒸発した水が霧と化し視界を曇らせる異質な光景が広がっている。
「誰やアンタ」
直哉は霧の奥に立つ人物に話しかける。
「…君が当主かな?」
「質問を質問で返すなや、日本の義務教育どうなっとんねん」
「義務教…?」
「なんやその反応、受肉した呪物かい」
直哉の質問に疑問符を浮かべ、もう一つの直哉の質問に霧でよく見えない人物は答える。
「この騒ぎ、あんさんの仕業やろ」
「そう、私は
ブワッッ
廻折四音。そう名乗った瞬間、風が舞い上がり霧が晴れる。そこから現れたのは淡い紫色のフワリとしたボブカットに、幼さが残る顔。六芒星が描かれた円盤を持つ着物姿の女性だった。
「女かい。あ~あ、うちの男衆が揃いも揃って情けないなぁ」
直哉は地べたに転がっている禪院家の躯倶留隊や灯の一部を見てため息をつく。
「彼らは確かに弱かった。しかしどんな理由があれ、自身よりも強者勇敢に立ち向かった者たちに向ける言葉ではないよ。訂正したほうがいい」
「あんさんの考えはようしらんわ、ウチは実力主義、負けたらそれまでなんよ」
「相も変わらず…禪院の考え方は私とは合わないな」
フッ──ドゴンッ!!!
そう言って呪力を練りだすと、その瞬間に四音の頭上から呪力で生成された拳が振り下ろされる。
門の手前は土埃が舞い、凸だらけだった地面の中央には大きな一つの凹が出来上がる。
「なんや甚一君、待ちきれんかったん?」
「これ以上、禪院の名に泥を塗るわけにはいかん。直哉、お前も当主ならそれ相応の態度をとれ」
「自分がなれんかったからって新米当主イビリかい、心狭いなぁ。許したってや」
直哉がやれやれと手を振りながら煽るのを甚一は無視し、崩した着物を直して屋敷に戻ろうとする。
「終わりかい? 私はまだまだ無傷なんだがね」
その声は、砂埃が舞う後方から聞こえてくる。
四音は砂埃を服や髪から払って再び二人の前に立つ。
「「!!」」
「馬鹿な、あの一撃を食らって立つのか…!?」
「いや? 受けてない、遅かったし。呪力云々よりもダダ漏れな殺気を隠すべきだと思うよ。でも、威力は眼を見張るものがあるね、見事だ」
後ろのクレーターを見て四音は称賛を贈る。
「仲間のことを心配して一撃に絞ったのも好印象。さて、私も一つお返ししようかな」
四音は円盤の六芒星を三角形になぞり、一言呟く。
「
ゴウッッ
瞬間、甚一の足元から炎の柱が上がり、それを二人は咄嗟に避ける。
「うぉっ」
トンッ
「なんや、危ないなぁ」
四音は上に頂点がくる凹三角形を描く。
「
火柱は甚一に向かって渦を巻いて追尾していく。
「チィッ! 俺か!」
ダッ!!
甚一は避け続け、自身が巻き起こした砂埃に向かっていく。砂塵に火柱が突っ込み、粒子は連鎖的に火花を散らして小規模ながら粉塵爆発が引き起こる。
パチチッ──ボゥンッ!
「ふーむ、まさかこれで終わりではないだろうね」
ドガンッ!
「フンッ!!」
甚一は爆発の中から飛び出し、今度は無数の拳を振り下ろす為に呪力を練る。
ツイッ
しかし、四音は二本線を指でなぞり呪力を流す。
「
ビタァッ! ボキキッッ
「ぐあァッ!」
空中で甚一は停止し、上下からの重圧に潰されるかのように腕の骨が砕ける。
「君も頑張った、休むといいよ」
パチンッ、ドサッ
指を鳴らした合図で空中から落下し、甚一は気絶して地面に横たわる。
「さて、君は何故、共に戦わなかったのかな?」
四音は直哉に向き直り不快感を表す。
(なんやコイツ…強い。少なくとも、俺以外の炳よりは確実に…相手したるか)
怪我をしているとはいえ、禪院家の現NO2である甚一を圧倒した姿を見て笑みを溢しながら冷や汗をかく。
「観察やよ、どんな術式か分かったほうがことが有利に運ぶやろ?」
「なるほど、合理的だね。悪印象ではあるが」
「よう知らん女に好かれたっても嬉しかないわ」
「ハハ、たしかにそうだね。さて、先の会話から君が当主と見た。ほら、早く動物を象れ、呪い合おう」
四音は手の形をクイクイと変えて直哉に笑いかける。
「あ? あー、なるほどなぁ。ええで、見せたるわ。これが俺の術式、や!」
ドヒュンッ! ドガッ!
直哉は投射呪法で距離を瞬時に詰め、四音を蹴り飛ばす。しかし、蹴り飛ばしたはずだが全くの手応えのなさに疑問符が浮かぶ。四音はフワリと着地し、顎に手を当てて考える。
「んー? 君は禪院家の当主じゃないのか? 十種影法術はどうした?」
「ごあいにく様。今の当主は俺で、使とるんは投射呪法や」
「えー…そうか、玉犬や脱兎はいないのかぁ…」
「つーか、なんでそないなこと聞くねん。アンタいつの時代のモンや?」
「むぅ…改めて名乗ろうか、私は廻折四音。平たく言えば強豪争いに破れた一族だよ」
「もとおり…あかん、知らんわ」
「まぁ、あの頃は色んな家が争っていたし、私を知らないのも無理はない。私の家は父の代でかなり衰退したしね」
「見る限り、潰れるような実力には見えへんけどな」
直哉は周囲を見渡して軽口を叩くように話す。そして四音は、神妙さとあどけなさを伝える顔で話し出す。
「…今でも伝わっているのかな?阿頼耶識は」
「!!」
四音の口から飛び出した聞き覚えのある苗字、驚きのあまりに直哉は目を見開く。
「歴史の裏のさらに深くでは…語られることのない暗躍者がいたのさ」
四音は円盤の六芒星をなぞりながら淡く笑って話す。
「
四音はクスクスと笑いながら話し、直哉はそれを静聴する。
「いつかの会議で、阿頼耶識という誰も聞いたことがない一族の名が上がった…ありえないという反発を唱える老いぼれや、徹底的に探し出して始末しようと提案する新参の家、実に多様な反応だった。私も当時は恐れたよ、私も狙われるんじゃないかとね」
四音は肩を震わせ、自分を抱きしめるように力を込める。
「まぁ結果としてそれは無かったわけだけだが…おっと、すまない、君には関係ないことだね。続けようか」
「ぎょーさん時間つこて、アンタの昔話につきおうとる暇ないわカスが。もう一度三途の川をわたらせたるさかい、安心して逝けや」
四音はニコリと笑い、直哉は怒りの形相を浮かべ、呪い合いを再開しようと二人は同時に呪力を練る。
(向こうの術式にかかったら潰される、先に円盤を奪う!)
ダッ!
直哉は駆け出し、四音は凹三角形を左上に角が出来るようになぞる。
「
バフンッ!! パシッ! ピタッ
「?」
「!?」
投射呪法で掌が四音に触れた瞬間、直哉の足元から突風が巻き起こり吹き飛ばされる。
「チッ」
パッパッパッ
術式で即座に着地し、身体の硬直を確かめている四音に即追撃にかかる。
「シッ!」
「
ボゴォッ!!! ダァンッ!
逆三角形の頂点に一本線を書くように一筆でなぞり土が盛り上がる。直哉はそれを蹴り飛ばして距離を取る。
「なんだ? 全く分からないな。その術式、まぁ取り敢えず触らせなければいいか」
ツイツイツイッ、ゴオウッ! ギュルルルッ!
三角形、逆三角形をなぞった後に、一本線を人差し指で二回なぞると、炎の柱が上がり上からは水の波が直哉を襲う。
「
ドヒュンッ! ダダダッ
直哉はそれら全てを見切り、四音の懐に潜り込んで攻撃しにいく。
バチィッ! ガガガガッ!
(なんでついてこれんねん!?)
(速い…!防ぐので手一杯だ)
直哉の高速の攻撃に四音はギリギリながら対応する。
パシンッヴゥンッ
「っ!」
ドグッ! バガンッ! ドォンッ!
一瞬掌に触れた四音はノーガードで直哉の肘打ちを食らい、円盤を弾き飛ばされて蹴り飛ばされる。
「なんや、ちょい焦ったけどこんなもんかいな」
バキバキ
円盤を踏み壊し、ニヤリと笑って見せる。
「ゲホッゲホ」
ガララッ
瓦礫を退かしながら立ち上がり、咳き込みながら直哉の方に向き直る。
「…いやぁ、正直舐めていたよ」
四音は手首までの手袋のような、銀色の時計の装飾がされた籠手を嵌める。
「近接は苦手だけど、仕方ないね」
どくんっ
バチィンッ!
直哉は瞬時に距離を詰めて拳を突き出すが、下から蹴り上げられて避けられる。
「チッ!」
ダンッ!
ヒュッバギッッドガッバゴッ!
どくんっどくんっ
ガゴッバキンッ!
(なんやこいつの呪力、まるで二人分の呼吸みたいやな…でも体術は俺の方が上や)
直哉の動きを速度で下回る四音はギリギリでいなしていく。掌に触られるのを確実に避けながらも反撃を繰り出し。足で三角形に一本線を一筆で書いて呪力を流す。
ザリザリィッ!
「風」
ビュオウッ、ビタッ
(術式!? 円盤が無くてもイけるんかい!)
直哉の投射呪法は動きを正確にトレースできなければ一秒停止する。予想外の風に直哉は動きをトレースできずに停止する。
バゴッッ!! ザリィッ
どくんっどくんっ
「ガハッ」
「難しいな、噛み合わなかったか」
四音の繰り出した両の拳は、同時に直哉の鳩尾に直接ダメージを与える。
「ゲボッゴホッ」
「だんだんわかってきたぞ、君の術式」
「そうかい、こっちはサッパリや」
ダッ! ドガッバキッガゴッ
両者は一歩も引かずに術式を使い呪い合う。
直哉の術式に対応する四音は意図せずに速度を重ねないため、一定間隔で直哉の術式を解除する。
(チッ! 無意識で俺の術式を解除しとんのかコイツ!)
(速い、投射呪法…興味深いな。加茂家や五条家もなにか別の相伝が産まれてるのだろうか)
ズダァンッ!! ドッドッドッドッ!!
「最高速度でぶち抜いたるわ」
直哉は重く地面を一歩踏みしめ、投射呪法を重ね掛けし続けながら四音の周りを走り続けてスピードを上げていく。今の直哉は全盛期の直毘人を超えるスピードを出すことができる。一方で四音は六芒星を一筆書きで空中に多量に描き、連ねていく。
ツイツイツイツイツイッ
「極の番、籠目」
──ー"ォ"ン"ッ!!
バギッィッンッ!!!!!!
直哉の最高速度の一撃、しかしそれは何かが割れるような音のあとに弾かれ、両者とも後方に飛ばされるが威力は完全に相殺された。
「!?」
トンッ
どくんっ!
「今」
バヂィィッ!!! ドヂュッ!!
四音は一瞬の隙をつき、直哉の腹に拳を突き出す。その時、二つの蒼い呪力が同時に弾け、直哉の腹に二重の衝撃が走る。
耐えきれずに術式の作用で空中でフリーズし、そのまま後方へと跳ねて吹き飛ばされる。
「ゲボァッ」
ダンッゴッドゴッ!!
(なんや今の威力…!)
「さっきの話…実は寓話じゃない。阿頼耶識は架空の呪詛師ではない、確かに実在した」
四音は籠手を見せながら直哉の怪我を遠目に確認する。
呪具 逢魔ヶ刻
呪力を自己補完する呪具。
12の鼓動を刻み、ランダムなタイミングで呪力を放出する。呪力放出と術者のインパクトが噛み合うたびに補填呪力は"無限"に増えていき、鼓動のタイミングも増えていく。その扱いの難度から、誰も使いこなせず、今日まで陽の目を見ることがなかった。呪具でも他に類を見ない、生きた呪具と形容される。
「もう立ち上がることもできないだろう。さて、次は加茂だったかな」
「ちょい待ちーや…」
頭から血を流して直哉は立ち上がり、四音を呼び止める。
「もう立たないほうがいい。肋、あと内蔵も数個傷ついている。それ以上やれば命の保証はできないぞ」
「ハッ! アホ抜かせ。この程度で俺は止まらへんわ、なに勝ち誇った気でいんねん。やるんなら最後までやれや」
直哉は血の唾を吐き出し右手の中指を立て、呪力を再び練りだして継戦の意志を見せる。
「やれやれ、仕方ない。意志だけで繋ぐ君の拙い心を、完全に手折ろうか」
四音は親指を突き合わせ、他の指全てを第一関節部分で網目に組む。
「領域展開…
ズアァッッ
直哉は四音の領域に引きずり込まれる。
三角形、凹三角形、逆三角形、一本線、籠目。六芒星に内包される全ての図形が空を漂い、地面へ描かれ消えてを繰り返す。
「まぁ、私がなぞる過程を飛ばすだけの領域さ。大したことはない」
(領域…!!)
「現代の術師は領域を難しく考えすぎている。結界を閉じて術式を付与する。ただそれだけなのにね」
「術師の到達点を簡単にいうなや…秘伝・落下の情」
直哉も対領域の秘伝を使うが、四音が使うのは自然現象に近い炎や風、直哉の術式とは極端に相性が悪いのは明白だった。
ビュゴオウッ!!
直哉は攻撃が始まると同時に駆け出し、術式を避け続けていく。
(いま俺が優位に立てるのは速さ! さっきの一撃も何度も防げるもんやない!)
術式が当たった瞬間に超高速で駆け抜ける直哉に術式は当たらず、ジリ貧が続く。
「…これならどうかな。
ポタポタッ…ドザァァァッ!!!
空中に描かれた模様から降り注ぐ雨の粒は、暴風と上からの重力によって礫に変わり、領域の中は逃げ場のない痛みの檻と化す。
バヂバヂッビヂヂッ!
「ぐぅっ!」
「いかに速くとも、降り注ぐ礫の雨を避けきれるはずもない。ほら、どんどん遅くなっているぞ」
ビタッズジャァー
直哉は自らの術式に動きを縛られて盛大に転がっていく。
「ハァッ…ハァッ…」
「なにか策でも? それとも、ただの意地かい? 感心しないぞ、それは」
指でツイツイと六芒星をなぞりながら四音は直哉を見下ろす。
(やるしかない…思い出せや、呪力の核心を…!)
「…投射呪法は…ハァッ…己の視覚を画角とし、一秒を二十四分割してその動きを後追いする…」
直哉は仰向けからうつ伏せに直り、術式の開示を始める。
「術式の開示かい? まだ知らない術式を知れるのは楽しいが…悪手だろう、それは」
「その反面、過度に物理法則を無視すると、ゲホッ一秒、フリーズする。そして…術式発動中の掌に触れた相手もそれが強制されるんや」
ポポポポッ
直哉はそこまで話して立ち上がり、呪力を練って術式で画面の箱を掌から作り出し、深呼吸を一つ置く。
「でもなぁ、解釈を広げるんが術式や。フリーズの時間を1秒から0.5秒に縮める。そんでもって、触れるのは掌やのうて…"俺が作り出す画面に触れたらを条件"に改ざんする」
ダヒュンッ!! ポポポポッ
「まだやるのかい?」
(目が慣れてきた、速いことは速いが追いつけなくはない)
四音は再び雨の礫を降らせる。直後に直哉は術式を発動し、掌から作ったフレームの箱を四音の周りにばら撒く。
それによって礫の雨は停止を繰り返し、直哉が抜ける穴ができる。
ドザァッビタッ
「!!」
「言うたやろ! 画面に触れたらやって!!」
直哉の術式は、もはや止めれる対象を選ばない。
あらゆる現象、動きをその場に留める。
加えて黒閃を経験し、刹那に二度目の敗北をきっしてから、直哉は自らの術式と再び向き合い、もう一段階先のステージにいた。
(これが…身体を考えへんよう出せる俺の限界速度や)
ドォッンッ!!
24fpsから、60fpsへと。
己の視覚を画角とした二十四分割を、直哉は六十分割することに成功していた。速度は重ねられ、更に加速する。
────"ン"ンッ!!!!!
(約四秒、四回分がほぼ限界! 半分を速度に、もう半分を攻撃に当てる!!)
一秒
直前までの加速を殺さぬように地面を強く踏み込み身体を慣らし、四音の周りを駆け巡って画面の箱をばら撒く。
ニ秒
さらに速度を重ねるために幾何学的に縦横無尽に走り抜け、残像で軌跡を描いていく。
禪院家相伝の術式、投射呪法が可能にする、超超超高速移動。もはや人間の反射の限界を超え、先の先を感覚と経験のみで作っていく。
四音の目に映る無数の残像、術式を展開しても投射呪法がそれを止め、もはや四音の目には直哉の本体を捉えることはできない。
(全く見えない! 何だこの速度は!? この威力を食らうのはまずい!)
「極の番──!!」
ビタッ!
三秒
術式の制御が至難になる頃合い、既に直哉は自身の動きを正確にイメージできず、勘で動きを作っている。
褪せる色さえ見えない速度と集中の渦中、負荷に耐えきれない瞳が赤く染まり身体が悲鳴を上げる。
極の番発動前に箱に触れて動きが止められ、直哉が目の前に現れる。既に直哉は次の動きを脳内で作り始めている。
次に起こる結末を予想した四音は思わず目を瞑って身構える。
「いやっ──」
四秒
身体の機能を保てる現在の限界速度、これ以上は失明してしまう。そんな速度が重ね掛けされ、1フレーム中に五発の拳が打てるようにイメージ。これにより、一秒に三百発の拳が成立する。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッ!!!!!
ゴォォォォォッ!!!!
「………空…振り…?」
空白の一秒間、業風が吹き荒れて二人の術師は動きを止める。
直哉の攻撃は全て四音の顔のギリギリで空を切った。
ビチンッ
「イタッ」
「んなわけあるかいアホンダラ」
四音の額に呪力のこもったデコピンをうち、その場に胡座をかいて座り込む。
「へ? …え?」
「はよ領域解けやバカタレ」
「え、あ…はい」
シュゥゥン…
四音は直哉に言われて領域を解除し、その場にへたり込む。
領域が解除され、二人が出てくるのを禪院家の術師が総動員で迎える。
「直哉様!!!」
「当主殿!!」
「うっさいわ」
直哉は悪態をつくが、四音は同時に戦闘態勢にはいる。
「あんさんも呪力練んのやめーや。俺に負けたんやろがい」
「いや…でもっ」
「直哉、説明しろ」
「直哉さん! どういうことですか!?」
甚一と蘭太が直哉に近付きながら事情の説明を求める。
「説明ばっか求めんといてや。疲れてんねて、ゆっくり話させてーな」
息を切らした直哉はこめかみを抑えながら目を閉じ、一呼吸おいて話し始める。
「甚一君生きとるやん? 最初から誰も殺す気なんて無かったみたいやし、実力も術式も申し分ない、ウチで面倒見よ思て」
「「…はぁ!??」」
「当主らしい振る舞いが必要なんやろ? 寛容さも見せれて禪院も繁栄、最高やないかい」
二人は感嘆の声をあげ、四音も状況を上手く飲み込めずに直哉を見つめる。
「あんさん、誰も殺してへんやろ。それを殺すのはまぁ、知り合いが怒りそうな気がしてな。俺が始末つけたるさかい、大人しく言う事聞きーや」
ポカンとした表情のあとに状況を理解した四音は口を開く。
「…紳士的…なんだね。…初対面よりもずっと好印象だよ」
「そらどーも。そう思うんなら肩貸してくれや、こっちはもう立つのもしんどいんよ」
四音は直哉の手を掴んで肩を貸しながら立ち上がり、屋敷に歩いていく。
「…ここまでしてくれたのに、君になにも得がないのはいささか不憫だ。死滅回遊…興味あるんじゃないか?」
「……あのデカい結界やろ。ここから一番近いところで一時間足らずや」
(今から行けば真希ちゃん辺りには追いつけるか?)
「これは私見だが君も参加したほうがいい。君の実力なら充分に行って無駄にはならない。その時は私が案内しよう」
「聞きたいことがえらい増えたなぁ…頼むわ」
四音は薄く微笑んで直哉と屋敷に歩いていった。
直哉主役回でした!
領域展開出し過ぎかなとも思いましたが、ほら、原作はうろとか石流とか乙骨とかもできるの判明してるし昔の実力ある当主だし、、、ということであんま気にしません。