全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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注意事項です。
まず、原作とはかなり違う展開がなされています。ルールが既に三つ追加されていますので半分くらい作者の予想なのと、ルールに関しては当たり障りのないことを言っています。
訂正連絡、ほんっっっとうに申し訳ありません!ルールの追加を三つから一つに変えさせてください!元々の予定は残して原作になるべく近づけます!本当にすいません!!
追加ルールは、条件付きの結界脱出です



第六十四話 八色、お食事

 10

 

「コガネ、大阪に残存している泳者は何人ですか?」

 

「検索中! …四十八人!」

 

「え、思ったよりも多い…」

 

(やっぱり、仲見世の点のほとんどは術師を殺した点じゃなくて非術師を殺した点だったのか)

 

「なら好都合、必ず他に点を持っている術師がいるはず。さっきのコガネの報告でルールが一つ追加されたけどあくまでも最低ライン、持っておいて損はないはず」

 

 刹那はベンチから立ち上がり移動を開始しようとするが、それをさせないといわんばかりに低級の呪霊がわんさかと湧き出る。

 

「まぁ、あれだけ暴れれば感化もされますよね」

 

 トンッザシュシュシュッ!! 

 

「かなり多い…呪力の補給になるからありがたいけど」

 

 身体の回復を終え、睡眠も終えた刹那のコンディションは、そこらの呪霊程度では相手にならないほどに万全だった。

 

 6

 

(……なにかおかしい、いくらなんでも呪霊の数が多すぎる…何かから逃げている?)

 

 ザシュシュシュッ! トンッ

 

 呪霊が湧いて出る、というよりも刹那の方向に向かっていくという感覚に違和感を感じ、一度近くの飲食店の天井に上って様子を見る。

 

「…結界に変化は無い。やっぱりあの戦いに当てられただけ?」

 

 刀に手をかけて考え込むが、原因の不透明さのみが浮き彫りになっていく。

 

「…考えてみれば、残っている術師の数もそれなりの筈なのに全く見かけない。東の方に固まっている可能性も視野に入れるべきかも知れない」

 

 タンッ…キキキキンッ! 

 

 3

 

 刹那はまだ探索しきっていないコロニー東側へと向かうために、道路に降りて呪霊を数秒で一掃する。

 

 納刀すると同時に駆け巡った、術師としてではなく、人間としての生存への勘。

 

 自分を覆う巨大な影が出来ていた。

 

 1

 

「──っ!!」

 

 高層ビルが刹那の真上から降ってきていた。比喩や遠回しな表現ではなく、文字通りにビルが真上から落ちてきている。

 

(慌てるな、この状況は対策済みっ!)

 

 ズアッ

 

 靄を放出、同時に刀へと込めて斬撃を強化し、さらに射程を延ばす。

 

(コロニーの結界は斬れないだろうけど、ビル程度ならっ!)

 

 キンッ…ガパァッ

 

 ズズズゥンッ…

 

 二振りの刀はビルを三等分に斬り弾く。それと同時に、今度は術師としての勘が全力で死を予見させる。それは刹那だけではない、コロニー内の術師全員が感じた巨大な呪力。

 

 0

 

「こーんにーち、は!!!」

 

 ズダンッ!!! 

 

 斬ったビルの中から一体の呪霊、覚が飛び出して刹那の懐へと侵入する。見慣れぬ八色の呪力に加え完全に警戒していた刹那でさえ、反応が遅れる程のスピード、何よりも特筆すべきはその呪力量。

 

 ゾワッ

 

(足元ッ)

 

 ガゴンッ! ドガッドッドッ! 

 

 足元に覚が狙いをすまして意識が行った瞬間、同時に刹那の腕に蹴りが炸裂する。呪力のガードが間に合うものの、想像を遥かに超える膂力によって刹那は吹き飛ぶ。

 

(速い! 重い! 憂太先輩や悠仁君以上に!!)

 

「逃さなぁい!!」

 

 吹き飛んだ刹那に向かってさらに追撃を加えるように、八色の呪力が球となって飛んでいく。

 

「ッ!」

 

 キキキンッ!! 

 

 低く浮いたまま体を捻り八発の呪力の球を全て斬り落とす。即座に足と地面への距離を無くして着地し、刀を覚へと向けて完全に臨戦態勢へと入る。

 

(強い…! 解呪前の折本里香レベルの呪力に加えて謎の呪力特質、体術も馬鹿にならない)

 

「良いわね、とても良いわ…瞬時にできる判断に、無自覚での反撃…そしてその呪力の濁り。とても、とっっっても!! あなたの心の濁りを食べてみたいぃ!!」

 

 刹那の完全な無自覚カウンターの蹴りにより、覚の右腕が折れていた。しかしそれを気にも止めず、覚は涎を垂らしながら恍惚の表情を浮かべ、同時に呪力がさらに増えていく。

 

(呪力が溢れてる…)

 

「ここで殺さなきゃまずい。かしら?」

 

(!! 心を読まれた!?)

 

「心を読まれた!? 月並みな反応ね。その点は少しがっかりかしら」

 

「心を読む術式…正体はその浮いてる瞳ですか」

 

「ご明察、私の前では全てが筒抜け。術式も戦術も、そう。動きさえも」

 

 タンッヴァゴンッ!! 

 

「ゲッホッ」

 

「ほら、不意打ちも通じない」

 

 刹那の距離を無くしての全力のハイキックに対し、動きを読んでいた覚のカウンターの掌底が腹へと叩き込まれる。

 

「フッ!」

 

 キキキキキンッキンッ! 

 

 ガガガッ!! 

 

 覚は刹那の斬撃を完全に受け流して再び蹴り飛ばし、ゆうゆうと歩きながら追撃の構えをとる。

 

「はい残念。いいこと? 人間は必ず考える生き物よ。自分でも気付けない無意識下でさえ、身体は考えている。私の術式はその無意識でさえも対象なのよ」

 

「これならっ!」

 

 ダゴンッ! バゴォン!! 

 

 刹那は地面を両足で踏み砕き、瓦礫の重力の負荷を無くし、さらに自身の気配を完全に消して覚に立ち向かう。

 

 ドガンッ!! ザギュンッ! 

 

 覚の右腕に衝撃が走り、同時に左足に斬撃痕が現れる。

 

「!! …そこね!」

 

 ヴァゴンッ!! ドドドッ! 

 

「ゲホッ…ゴホッ」

 

 しかしそれさえも見切り、瞬間的に刹那に反撃した覚は高らかに笑い声をあげる。

 

「アッハハハァァ!! 楽しいわね!! さぁ! もっと!! もっともっともっと!! 呪い合いましょう!!!!」

 

 ポウッ

 

 反転術式で身体を直し、さらに刀に反転した呪力を込め、刹那は手袋と眼帯を外す。

 

「全力で、祓う…!!」

 

 ドギュンッ!!! 

 

 術式と並行して足に呪力を集中、特殊な歩法との組み合わせにより、生物の反射の隙を突く動きを作り出す。

 

 刹那の呪力は通常の呪力と違い、靄状となっている。身体を包むように精製できる呪力は、術式の発動そのものや遠隔発動を速め、身体の呪力を集中させる感覚を速める。

 

 腕から足へ、足から更に腕へと、一瞬で全呪力を移動させる。この活動によって、自身より呪力量の多い乙骨等との肉弾戦に交じることができている。

 

 ──ッッギュルンッ!! 

 

(速い!)

 

「でも、狙う場所が分かれば大したことはない!」

 

 ォ"ン"ッ"

 

 刹那の全速力。その瞬間スピードは直哉の音速にも匹敵し、まさに刹那の斬撃を生む。しかし、相手は心を読むことができ、キャリア千年以上を積んだ呪霊。

 

 ボグッッッミシミシッ

 

「カハッ……」

 

 刹那の刀は、届かなかった。

 

 ドゥンッ!!! 

 

 一瞬入った拳で、刹那の体はめり込むように空中で停止し、直後に覚が投げたビルの中へと叩き込まれる。

 

 ガラガラガシャァンッ!!! 

 

「まさかこれで終わりなんてことはないわよねぇ!?」

 

 キキキンッガシャガシャンッ

 

 ビルの側面が斬られ、バラバラの瓦礫が覚にむかって投擲される。覚はそれを当然のように避けて緩やかに歩を進める。

 

「この程度じゃあ、私は祓えな──」

 

 ドスッッ

 

「ゴポッ──」

 

 瓦礫の奥から刀を覚の腹へと突き刺す。同時に反転した呪力が覚へ激痛をもたらし、思考を一瞬歪める。

 

「ッ! フンッ!」

 

 ヴァゴンッ! 

 

 瓦礫を砕き、刹那へと攻撃しようとする覚の視界に入ったのは一本の刀のみ。本体は覚の背後へと気配を消して回り、呪力を完全に別の部位に移動させて呪力を籠めていない回し蹴りを繰り出す。

 

 ドガンッ!! ズザァー

 

「っつー。あー、痛い痛い。あなた、気づくの早いわね」

 

「…通常、呪霊は呪いが籠もってなければ祓えないし触れられない。なのに貴方は瓦礫を避け、呪力のこもっていない僕の蹴りで後ずさった。どういう性質かは分かりませんが、一つ言えるのは…貴方は、限りなく人間に近過ぎる呪霊だ」

 

「…御名答。期待外れだと思ってたけど、そんなことは無かったわ。やっぱり、あなたの心を覗いて、壊して…食べてみたい」

 

 ポタッタタタッ

 

 覚は餌を目の前にした虎のように涎を垂らすのを止めずにうっとりとした顔をする。

 

「さぁ! まだまだ終わらないわ! 早く呪い合いましょう!」

 

(不意打ちは無駄、純粋なスピードと剣術で仕留める)

 

 ────

 

 ガガガガガガガカガガガッッッ!!!! 

 

 ギギギンッッ! ドギュンッ!! ドルッゴォンッ! 

 

 心を読み、スピードで先手を取る覚に対し、筋肉の動きやエネルギー、感情を読み取り、次を予測して後の先をかける刹那。

 

 先出しじゃんけんの出し合いにより、両者は一歩も引かぬ膠着戦へと持ち込まれる。

 

 一撃でもまともに喰らえば刹那の身体は壊れる可能性がある重さ、刹那は回避を最優先に考えて戦う。

 

「あっははははぁぁッハハハ!! 楽しいわね! 阿頼耶識刹那ァ!!」

 

「ッ、ちっとも楽しくなんかないっ…ですよ!!」

 

 ギギギンッッ!! ギュルルッ! 

 

 必死に食らいつくものの、依然として刹那の劣勢は続く。刹那の刀は掠るだけでも呪力を奪うが、上昇をやめない覚の呪力によって瞬時に無意味と化していき、さらに状況は不利になっていく。

 

 両者、共に呪力切れがあり得ない状況で斬りあい殴り合いが続いていく。その中で、疲労を見せない覚の怪物さを刹那に理解させていく。

 

「良い刀ねぇ! 斬られたら呪力が吸われるなんて、面白い呪具だわ!!」

 

 ガギンッ! パッ、ドドドドッ!!! 

 

 覚は刹那の腕を蹴り飛ばして刀を上空へと投げる。

 

 その隙を刹那は術式を使用し、一瞬で回収して無くし、攻勢へと一転する。

 

 刀の光の反射を無くして見えなくし、距離感を掴ませないように刀を持ち替えながら斬りかかる。

 

 ザシュシュッパッパッ、グルンッ! 

 

「面白いわ! 本人でさえ正しく把握できない術式のブラックボックス!! もっと深く心を覗けば少しは分かるのかしら!?」

 

「少し黙ってくださいっ! 知りませんよそんなこと!!」

 

 ギギンッ!! 

 

「だったら私が覗いてぇ! 教えてあげるわよ!!」

 

 ドゴンッ!! キキキンッ

 

 覚の蹴りで再びビルの中へと吹き飛ばされるが、衝撃を流し、障害物を斬り崩してダメージを減らす。

 

 同時に覚も、ビルの内部へと侵入して追撃を仕掛ける。

 

 ピクッ

 

「なるほど、そうきたのね」

 

 キキキキキキキキンッ!!!! 

 

 密閉された空間ではどうあがいても逃げ場はない。

 

 刹那は斬り崩した瓦礫で覚の退路を塞ぎ、ビルの内部全てを斬り刻むが如くの斬撃の幕を作り出す。

 

(高速の斬撃によって隙がない!! 後ろは瓦礫の山、答えは)

 

「こうね!!」

 

 ダッ! バヅバヅバヅ!! 

 

 ギュリンッ! 

 

 覚は斬撃の幕に自ら飛び込んで心を読み、膨大な呪力に任せて身体を瞬時に再生させながら刹那の懐へと侵入する。

 

「捕まえたぁ♡!!」

 

 ダンッ! ドゴォッ!! 

 

 襟元を掴まれた瞬間、刹那は飛び上がってドロップキックを繰り出し、ビルの外へと離脱する。

 

(祓いきれない…! しかもこの感じ、まさか!)

 

「気づいた? 反転術式、私も使えるのよ」

 

 覚の身体は呪力による回復と、反転術式による回復が同時に回されていた。より脳に近い上半身を反転術式で、それ以外の部分を呪霊らしく呪力で補填する。そのために出鱈目な超高速回復が行われている。加えて、覚の八色の呪力は、負の感情によって生まれるという呪力の原則を無視し、感情全てに起因して発生する。覚が感情を爆発させる度、僅かにでも感じる度に呪力は爆発的に増加していく。

 

「あー! 楽し過ぎる!! 四日間退屈で退屈で仕方なかったのが嘘のよう!! 半分幽霊のあの女も! さっき出逢った死に損ないの侍も!! きっと! アナタの為の前座でしかなかった!!!」

 

 ピクッ

 

(侍…紫龍さん…!)

 

「あら? あらあらあらあらあらあら? お友達が大切なのねぇ? あら? さらに深い心には、虎杖悠仁に、釘崎野薔薇、それと…伏黒恵?」

 

 覚は浮遊する瞳を手で撫でながらニヤニヤと刹那に笑いかける。

 

「その名を呼ぶな、不愉快だ」

 

「あら、あらあらあら、アナタ両面宿儺とも知り合いなのねぇ!! …あぁ! 良いことを思いついた! もっとアナタの心を濁らせるには…お友達を殺せばいいのね」

 

 覚はニコニコと、真人以上に純粋な殺意と快楽に身を委ねる表情を浮かべた。そしてそれは、覚にとっての名案と共に、刹那にとっての地雷だった。

 

 ゴァッッッ!!! 

 

 直後、超大量の呪力が刹那から捻出される。

 

「やってみろ、僕を殺せるのなら」

 

「ここまで!!! 素晴らしい!! 言葉だけでここまで濁るのなら! 一体! どれ程の!! とても良い!! 宿儺と出会った時以上に! 興ッ奮する!!!!!」

 

 覚は身体をクネクネと動かし悶え続けながら、呪力を激怒した刹那以上に漏らし始める。

 

 ドポポポポポポポッ!!!!!! 

 

 そして、両手の中指を互いの掌につけて眼を象る。

 

 同時に刹那も領域の印を象る。

 

「領域展開」

 

「領域展開ィッ!!!!!」

 

 ズァァァァッッッ!! 

 

 眼遨色无常(がんごうしきむじょう)

 

 刹那の領域は先に展開することによって、相手の術式、シン・陰の発動さえも不可能になる。いわば百%領域返しが不可能な領域になっており、扉からの攻撃は防御不能。引きずり込めば勝ちの領域である。しかしそれ故、同時に展開したときの押し合いには弱い。

 

 反対に、覚の領域は覚の性格を反映し、必殺の効果をあえて消しているため押し合いに強く、本体の馬鹿げた呪力量に比例して領域は巨大化していく。

 

(押し合いに負けた! しかもこれは宿儺の…! いや違う!)

 

「ウソ…!?」

 

「あっはぁ!!! 過去最大の領域範囲!! アナタといると何処まででもイケそうな気がする!!!」

 

 大阪結界、全領域化!!! 

 

 約3kmの結界をそのまま領域の結界へと転用、覚は自身の中の呪力を全て使い果たし、それだけの領域を展開する。

 

 領域が広すぎる故か、元々の面影に重ねたように、荒れ果ててボロボロになったカカシの群れ、八色に響き(どよめき)、輝く無数のオーロラ。空には無数に浮かぶ瞳が刹那を見つめている。

 

(っ! でも呪力は空っぽ! 今しか…っ!?)

 

「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!!!!!!!!!」

 

 覚の領域内にいる全ての人間、呪霊の恐怖を、覚は食料を喉に流し込むように読み解いてく。

 

 空っぽの器は、再び満たされた。

 

「さぁ!!! アナタのトラウマを、私に見せて頂戴!!!!」

 

「こんなのっ、コガネ! ルールは!?」

 

「@)";¥(#(+¥)"%);#)'+#;"¥¥)+」

 

 想定外の事象に対し、コガネはバグのように目をバツにして質問に答えられなくなる。

 

「邪魔は入らない!! さぁ! 思う存ッッ分に!! 呪い果て合いましょう!!!」

 

(心を読むだけならまだしも! 明らかな呪力の上昇、ここは一旦!)

 

 ダッ! 

 

「いいわ! 鬼ごっこも楽しそうね!!」

 

 刹那は自身の身体に靄をまとって姿を隠す。

 

 ルールの追加によって結界の出入りが可能な今、やるべきことは領域からの脱出。

 

(ヘリは分かってる。心を読むことができるこの領域が必中なら、向こうもこれが読めているはず、なのに)

 

「なんで追ってこない…?」

 

 焦りと恐怖、久しく忘れていた感情が徐々に身体を満たしていく。領域内部の効果の一つを実感する。

 

「…領域の効果か、この程度なら問題ない」

 

 ダッダッダッ

 

 歩幅と速度を頭の中で計算し、結界のヘリと思われる場所まで追撃がないまま到着する。

 

「コガネ!! 応答は! コガネ!!」

 

「ガーピビピビ¥("#()("('! #! ¥! "(¥+#+"! ¥#;(#)(」

 

「やっぱり駄目か。だったら、無理矢理こじ開ける!」

 

 刹那が刀を構えた瞬間、地面から覚が現れる。

 

「はぁい♡トラウマはついて回るわよー♡」

 

 ゾックゥッッ

 

「この距離はまずい、かしらね?」

 

 ドゥンッ!! 

 

「げっホッ」

 

 刹那の腹に掌底が繰り出されて吹き飛ばされる。

 

 呪力量と領域の効果によって果てしなく強化された一撃で肺に穴が空いたのを刹那は感じる。

 

(っ! 反転術式!)

 

 ポウッ

 

「まだまだイクわよォ!!」

 

 刹那の治癒が間に合わないまま、刹那に向かって八色の呪力による追撃を見舞う。

 

「ッヴッァ"ァ"!!!」

 

 キキキキンッ

 

 痛みを無くし、血を吐きながら全てをいなして斬り弾く。呪力を飛ばすという初歩的な動きでさえ、一発一発が必殺級の威力を持っている。

 

「アッハハハァ!! やっぱりアナタ最高よ!」

 

 覚のボルテージが上がると同時に、コガネの声と男女二人の声がその場に響く。

 

「一度結界に入れば! ルールを使用するまで出られない! 本当に(@"))#! "((#)#("#!!!!」

 

「…あ? 何やて? おいこら、式神いうんならちゃんと説明しーや」

 

「何かおかしいな、もっと静かなものだと思っていたのだが」

 

 死滅回遊泳者 禪院直哉 廻折四音

 

「おっ、なんやドンパチやっとるやん」

 

 ここは結界のヘリ。奇跡的に直哉と四音が侵入するタイミングに噛み合ってしまった。

 

「直哉さん!?」

 

「あらぁ! 丁度いいお友達!!」

 

 覚と刹那を遠目から確認し、手を袖に入れながら直哉は歩き出す。

 

「おー、刹那ちゃんやん。こんな早よう会えるおもてなかったわ。今ピンチなん?」

 

「逃げてください! 流石に相手が──」

 

 ダヒュンッ! 

 

 覚の標的が刹那から直哉へと変わる。刹那と縁深い人物である直哉は、心を濁らせるには絶好の相手だった。

 

「こんにちは! 早速で悪いけど! 死んでくれないかしら!?」

 

「なんや、アンタみたいなやつおるやん」

 

 直哉はそれでも袖から手を抜かずに四音にケラケラと笑いかけ、四音はバツが悪そうに目を背ける。

 

「それに関してはもういいだろう」

 

 ダビュンッ! ポポッ

 

 覚の蹴りが炸裂する瞬間、直哉は術式を発動させて覚の周りを囲むようにフレームの箱を設置する。

 

「アカンわ。速いは速いけど、地面から足離すんは悪手やで」

 

 ビタッ

 

(この男の動き、何かおかしい? 投射呪法? 知らないわね…触れると動けなくなる)

 

 直哉は刹那の方に小走りで向かい、四音も後ろからついていく。

 

「大丈夫なん? 大分ボロボロやけど」

 

「直哉さん、そんなに速かったでしたっけ? それにそこの女性は…?」

 

「あー、俺も成長しとるんよ。こっちのはちょっとした副産物や」

 

「俗な言い方は止めてくれないか。私は君に人生を捧げるのだから」

 

「え、あ、おめでとうございます…?」

 

「勘違いするようなこと言うなや、そんな気はあらへん」

 

 直哉と四音と合流し、刹那は回復を終える。

 

 覚はその様子を静観し、二人の心を読む。

 

(…どっちもかなり強いわね、男の方は中々縁深い。お目当ての三人ではないけれど、優先事項としては二番目、楽しめるかしら)

 

「はぁい、お二人さん。私の領域へようこそ」

 

「なんや、エラいでかい領域やん。呪力空っぽなんちゃうん?」

 

「結界に人がいる限りは問題ないわよー。それよりもアナタ達、阿頼耶識刹那の心の濁りの為に死んでくれないかしら?」

 

(…! この娘が阿頼耶識!?)

 

「あん? なんやて?」

 

「友達を殺せば僕を怒らせることができると思ってるみたいですよ」

 

「ほーん…馬鹿なん? それではい死にます言うわけ無いやん。おどれが死ねやカスが!」

 

 ヴェンッッ

 

 直哉は再び初速を加速させて覚へと殴りかかる。心を読める覚だが、直哉の術式は解っているだけでは止められない。

 

 ガガガッ! クンッパシッ! ヴェンッ

 

(!動きがっ!?)

 

 連撃を止められるが、直哉は腕を回して覚の腕に触れて動きを止める。

 

「四音さん!」

 

「聞くことは多々あるが事情は分かった、協力させてもらおう」

 

 ツイツイッズンッ! 

 

 四音も術式を発動して覚の重力を重くしてサポートする。

 

 ギギギギンッ!! 

 

 ドドッドドガガガガッ!! 

 

「良い!! とても良い!! 少し遊びましょうか!」

 

 覚はそういった瞬間に姿を一瞬で消して三人の猛攻から離脱する。

 

「気を付けてください。奴は心を読んで先に動く上、対象に先回りすることもできるようです」

 

「殺させろ言う割にはビビっとるんとちゃうん? ぶちのめしたるさかい、かかってきーや!」

 

「阿頼耶識刹那、今はどうするべきだと思う?」

 

「…奴は半無限的に呪力を精製して再生します。祓う方法は現状ありません。幸いすぐそこは結界のヘリ、逃げるしかないかと」

 

「なるほど…直哉君! 逃げよう、話を聞く限り無理そうだ」

 

「はぁ? こんなんほっとけっちゅーんか! 今来たばっかやで!?」

 

 ゾッッッ

 

 直後三人に悪寒が走る。空に浮かぶ無数の瞳のうちの一体が、三人を同時に凝視する。

 

「…物陰に行こう。アレは多分見つめられ続けると不味い気がする」

 

 タッタッタッタ

 

「なんで仕掛けてこないんやろな」

 

「恐らくですけど、限界があるんじゃないですかね。僕たちの猛攻と直哉さんの術式の前ではほとんど動けずに祓われかねない。直哉さんを狙ってくるのは目的としても一致しますし、機会を伺ってるんでしょう」

 

「! 二人共、前!!」

 

「「?」」

 

 三人は建物の陰に入って走っていたが、突如として目の前におびただしい量の呪いが出現する。

 

「なーんか、見覚えあるやつばっかな気がするんやけど」

 

「奇遇ですね、僕もよく見たことあるのばかりです」

 

「というか、術師も混じっているように見えるのだけれど」

 

 覚の領域内では術者の記憶を読み、トレースする。

 

 三人が過去に戦った呪い達が、群れをなして襲いかかかる。今や乙骨を遥かに凌駕した呪力量が可能にする、常識外れすぎる領域展開の効果。

 

 仮想怨霊、疾病呪霊、呪詛師、術師。様々な敵で道は溢れかえる。

 

「…直哉さん、二手に分かれましょう。僕の相手は少し厄介なのが多い。同時に襲われたらたまったものじゃない」

 

「その方がええやろな。見た感じ同種は二体出ないのと、夏油君や悟君がおらへんってことは何かしら限界があるっちゅーことやろし」

 

 キキンッ! 

 

「じゃあ、僕は向こうに」

 

 刹那は両脇の壁を破壊して前を塞ぎ、瓦礫の上を渡って二人共離れていく。

 

「黙って見ててもえぇで。こんくらいなら朝飯前や」

 

「いや、君をなるべく一人にしないほうがいいだろう。それに二人のほうが速い」

 

「好きにせい」

 

 ヴェンッ ツイツイツイッッ

 

 デュガンッ!! ダララララッ!!! 

 

 ギルルルゥ! 

 

 多種多様な呪霊がそれぞれに襲いかかってくるが、その全てを二人でいなして対処する。

 

「なんや、雑魚ばっかりやんけ、もっと骨のあるやつはおらんのかい」

 

 倒した術師の頭を踏みつけながら毒を吐き、中指を立てて他の呪いたちに威嚇する。

 

「これだけの数を実体化させる怪物だ。もっと何かしらの動きがあってもおかしくはないと思うが…」

 

 炎や水を槍のように顕現させて呪いを祓いながら四音は呟く。どの呪いも低級ばかりで二人の集中は乱されずに戦えている。

 

(甘く見積もっても現代の一級程度がせいぜいのところ。何故だ? この領域の法則が分からない…)

 

「直哉君、一旦ここは無視して──」

 

「ゲッ"ホ"ッ"ォ」

 

 四音が直哉に提案しようとした時、直哉は覚の貫手で横腹を貫かれていた。

 

 ガシッ! ザシュッ!! ギュルルルッ

 

「はぁいざぁーんねんっ!!」

 

 直哉は覚の手を咄嗟に掴んだが、覚は自身の腕を既に千切り飛ばしており、一秒未満の高速再生を披露する。

 

炎水霊(えんすいりょう)!!」

 

 ツイツイッッ

 

風緑(かざみどり)

 

 ギュアッ!! ドドドドッ!!!! 

 

(緑の呪力!? しかもそれを飛ばすだけなのに技として成立するとは!)

 

 炎と水を玉状にして無数に飛ばす四音に対して、覚が放った緑の呪力の球はそれを完璧に相殺するように放つ。更に、心の読める覚は上を行く。

 

「天気は瞳の群れ、時々呪力の雨が降るでしょう」

 

 グワアッッッ

 

 緑の感情は怠惰。四音は覚にとって相手にする必要のない人間だった。

 

 四音の真上から降り注ぐおびただしい呪力の球の群れ。

 

(籠目では防ぎきれない! 逃げるしかっ!)

 

 ダダッ!! 

 

 咄嗟に飛び退いた四音を、緑の呪力は追撃するように曲がって追いかけていく。

 

 覚はクイクイと左腕の指を動かして面倒そうに呟く。

 

「貴方は死んでも死んでなくてもいいのよ、関係ないし。そ、れ、よ、りぃ~! 貴方よ貴方! まだ死んでないわよね!?」

 

「喧しいわ…ボケ、がぁ…ゴッボッ」

 

 首筋を親指で貫かれ、ドクドクと血が流れ続ける。

 

「死体を持ってくのは面倒ね。何か貴方が死んだ証明になるものないかしら…あぁ、それでいいわね」

 

 ブチチッ

 

「い"い"ッ"!」

 

「じゃあねー、用済みよ」

 

(まずっ…死──)

 

 ドリュッッゴリッ!! ドゴンッ!! 

 

 覚は右耳のピアスを二つ無理矢理千切って取ると、直哉の心臓に貫手を刺して蹴り飛ばす。

 

「一応止めさしとこうかしら。ムラ裂キ」

 

 紫色の呪力が直哉の身体に走り、後ろの建物もろとも直哉を破壊する。

 

 ズバババッッ!!! ズズゥンッ…

 

「よっし、待ってなさい阿頼耶識刹那! 今、会いに行くわよー!!」




少し期間が空きすぎて、忘れられるのが怖くて投稿を焦りました。浅ましくて申しわけございません。もう一つの方はそろそろ終わりますので良かったら見てやってください。
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