全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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なんとなくだけど覚のイメージCVは沢城みゆきさんだと思う。



第六十六話 寂滅為楽

 直哉は逢魔ヶ刻を装備し、覚の正面へと立つ。そしてさらに昇華させた秘伝を使用し、彼は笑う。

 

 正真正銘、禪院直哉の進化の最終段階。

 

 我流秘伝 堕落の動

 

「さぁ!! 第二ラウンドやァ!!!」

 

「ハイになってんな、お前」

 

 ギュッ

 

 どくんっどくんっ

 

「ふっふふふふふふ!!!悪くない!むしろ!とても良い!!」

 

 ドドドドドッ!! 

 

 二対一、直哉に当たる攻撃は全てオートでカウンターが発動して当たらず、直哉の速度に真希も適応していく。

 

(この坊や何も考えていない、私が攻撃するまで一切の虚無。呪具と術式の緩急のある衝撃のせいで動きもずらされる! この小娘のスピードも馬鹿にできない、先手を取らなければ殺られる!!)

 

「オラよっ!」

 

 バゴォンッ! 

 

 真希は地面を叩き割り、足場を自ら揺らす。心を読める覚はそれを読み、一瞬だけ足を地面から離して対処する。

 

 ヴェンッ

 

「心読めるんやもんなぁ、もう一度言ったろか?」

 

 バリンッ!! 

 

「ふッグアァァ!!!」

 

 ほんの一瞬の隙を突いて覚を蹴り飛ばす。そして追撃は止まらない。瓦礫を放り投げて足場を作り、何度も空へと殴り飛ばしていく。

 

 ヴェンッバリン! ヴェンッバリン! ヴェンッバリン!! バッゴォンッ!!! 

 

 ドゴゴゴッ!! 

 

 ビルの中へと吹き飛ばされるが、覚は屋上へと飛び上がって天井を突き破り、直哉と真希を探す。

 

「小僧ォ!!!小娘ェ!!!…!?」

 

(心が読めないッ! まさか中和されたの!? この短時間でこの領域を!!)

 

「まさかなんの縛りも無しとは思えない!! 一体どんな…!?」

 

 覚は自身の瞳を宙に飛ばして探す。見つけた刹那はすぐ近くのマンションの屋上に、武器を遠くに手放して座っていた。

 

(武器を手放し、反撃手段を無くす縛り! 私相手に正気!?)

 

「いえ、そうよね、最初から壊れていたわね! 貴方達は!!!」

 

 覚は呪力の球を無数に作り出して飛ばそうとするが、直哉と真希は壁を駆け登って覚に攻撃を仕掛けて阻止する。

 

(チッ、まずは地上に降りなければ! ここは狭すぎる!)

 

 ズズズズゥンッ…

 

 覚の思惑はあり得ない形で阻止される。

 

 四音は半分に分断したビルの下で、全ての図形を描き、最後に一本線を縦に引く。

 

六芒神憑術(ろくほうしんひょうじゅつ)、奥義…雲霞城(うんかいじょう)

 

(私の呪力じゃ持って三分…頼むよ二人共)

 

 僅か三分間、天空の闘技場(バトルステージ)!! 

 

 領域中和! 逃げ場は無し!! 実力はほぼ均衡!!! 

 

 瞬間直哉と真希の思考が一致する。

 

((条件は揃った!! ここで祓う!!))

 

「やれるものなら! やってみなさい!!!!」

 

(私の領域をそう長く中和できるわけない! 三分! 三分もすれば持続は不可能! それまで耐える!!)

 

 ドゴンッバゴッ! ドドドッ!!! 

 

 二人のコンビネーションと覚の体術、全てを出し切る戦闘が空中で行われる。

 

 ブォンッ! 

 

「おい危ねぇぞ!」

 

「あぁ!? お前がそこにいんのが悪いんやろ!」

 

 真希の蹴りは覚と直哉を捉え、二人は回避する。

 

大蛇逝(だいだい)!!」

 

 ズドンッ!! バゴゴッ! 

 

「フグァッ!」

 

「オラァッ!!」

 

 覚の身体は大きくうねり、生物として異常な動きで二人に拳と蹴りを繰り出す。直哉は堕落の動で反撃を、真希は地面をくり抜いた瓦礫で拳を防ぐ。

 

 覚の足は反撃で折れ、一瞬狼狽えた隙に身体を隠した真希の不意打ちが直撃する。

 

(領域が中和されたせいでだんだん回復が追いつかなくなってきている!! 反転術式と呪力回復の両立はできない!!)

 

 覚は常時反転術式をオフにし、初めて呪力の節約に移った。

 

 残り時間二分

 

 ドドンッギュルルッ!! 

 

 真希の攻撃に直哉は反撃、それを真希は紙一重で避ける。覚の攻撃は全て空を切り、受け流される。

 

「おい真希ぃ!俺のは自動で発動すんねん!俺に当てんなや!!」

 

「うるせぇな! それくらい判別できるようなれよバカ!」

 

「あぁん!? 敵味方区別つかんアホに言われたないわ!」

 

(なんなのよ! なんなのよなんなのよなんなのよこいつら!!)

 

「貴方達お友達なんじゃないの!?」

 

「「んなわけあるか!!」」

 

 バギギッドゴゴンッ! 

 

(思考の半分がお互いの罵倒! 呪い合いなのわかってないの!?)

 

 直哉と真希に余裕はない。漫才にも見えるようなやり取りだが、既に何度も必殺級の威力を紙一重でかわしている。ダメージも蓄積し、精神力も限界。気圧されないようにギリギリを保っていた。

 

 しかし、そのお互いへの嫌悪感が意図せずして覚の思考の妨害へとなっている。

 

 また、覚は眼の前の人間に対し、初めて分からないという感情を抱いていた。分からない、それ即ち恐怖にもなり得る感情である。

 

「おらぁ!!」

 

「フンッ!!」

 

 真希の一撃を当然のように正面から相殺する覚だが、明らかに出力の低下が見て取れる。

 

 ヂュドドォッ! 

 

 バラララララッッドォンッ!! 

 

(術式の応用!? 空気が停止して爆ぜた!!)

 

 直哉の術式で大気が裂け、爆ぜた空気で視界が塞がり、真希を見失う。

 

「チィッ!」

 

「胴体ガラ空きィ! 食らえやぁ!!」

 

 60fps

 

 ──ッッッドドドドドドドドッ!!!! 

 

 直哉は反転術式を会得したため、一日一度きりの大技ではなくなった。最大速度は僅か数秒の間のみ。音速の2倍、実にマッハ2という人智を超えたスピードになる。

 

 呪力を全力で込めて防いだ覚の両椀はグチャグチャの骨が飛び出す。

 

「なんてスピード…こんなに目が痛いのは産まれて初めてよ」

 

(これでも死なないんか!?クソ化け物め!!)

 

 ガクガクガクッッ

 

(反転術式…!!)

 

 会得したとはいえ、覚えたてもいいところ。身体の回復が全く間に合わない。加えて一度全身を回復させた直哉の身体は呪力量も肉体機能も悲鳴を上げている。

 

「ふっふふ、今度こそ終わりね。坊や」

 

「アホ抜かせや。その馬鹿面苦痛に歪めたるわ、ドブスが」

 

 プチプチ

 

「口の減らない餓鬼が」

 

 ゴォッ! バシンッ! ヴェン

 

 回復をぎりぎりに終わらせた直哉は振り下ろされた拳を加速前に受け止め、動きを停止させる。

 

(また停止! うざったらしい!)

 

 屋上の端、見失った真希が場外から現れ覚に殴りかかる。

 

 ドドドドッ!!! 

 

(どこから!? まさか…この浮いたビルの横を駆けてきたの!? なんて肝の座り様!!)

 

「そんなの思いついてもやらないわよ!?」

 

「考えてねぇからな!」

 

(どいつもこいつも…意味不明なことばかり…?? 分からない? この私が…? 数多の人間の心を読み解き、喰らってきたこの私が…!?)

 

 残り時間三十秒

 

「ッそんなわけ、そんなわけない! このッ私がぁ!!! 亜呪八食(あじはっしょく)!!」

 

 八色の呪力は混ざり合い、黒くなる。漆黒の呪力が二人を食らうように大きな口を開けた。

 

 ヴェヴェンッッ

 

 ズダダンッ! 

 

 覚は自らのミスを自覚した。自分の技で視界を塞いでしまった。領域が中和された今、姿が見えなければ心は読めない。

 

 直哉の術式で呪力の大口は停止し、二人は挟撃のために左右から現れる。

 

(しかし! 読めずとも単調! ただ早い小娘よりも動きを止める厄介な坊やを優先する!!)

 

 直哉を目視した時の違和感、直哉の拳に嵌められているはずの逢魔ヶ刻が、片方にしかなかった。

 

 もう片方は、真希の右手に嵌められている。

 

(あの一瞬で!? この呪力の密度!! 駄目よ…! ダメダメダメダメダメダメ!! 今はダメ!!)

 

 60fps

 

 逢魔ヶ刻は十二回の鼓動、直哉の術式ならばそれをほぼ確実に当てられる上に極限の集中状態。

 

 人生二度目の黒閃

 

 呪力を持たない天与呪縛、それゆえダメージにブレはないが威力が上がることはない。が、逢魔ヶ刻は自身で呪力を補填する生きた呪具。それゆえに不可能が可能となる、暗い呪いの歴史で初の瞬間だった。

 

 完全な天与呪縛の黒閃。

 

 直哉本人と右手の逢魔ヶ刻、そして真希の左手。

 

 黒閃✕黒閃✕黒閃

 

 バヂヂヂヂィィッ!!!!! 

 

 三つの黒き稲妻は、天空にて弾け空を染め上げた。

 

 百万分の一が三発同時。空気が震撼し、屋上は漆黒の呪力で(どよめ)いた。

 

「ッッッア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!」

 

 ヴァヂュンッ! …ガクンッ…

 

 覚の両腕は吹き飛び、三つ目の瞳も爆ぜ、覚は膝を着く。

 

「「ハァッ…ハァッ…」」

 

(もう立つな…私も直哉も限界なんだよ…!!)

 

(動け…動けや身体ァ! 止めを…!!)

 

 先程からの長時間の継戦に加え、大技を正面から受けた真希。反転術式でギリギリ治したとはいえ、一度は彼岸を渡りかけた直哉。

 

 全員の身体は、限界を迎えていた。

 

 三分経過…。

 

 はずだった。

 

 ズズズズズズズズズッ……!!!!!!! 

 

 ビギュッギュルルルッッ

 

 刹那による領域の中和が中断。そして浮いていたビルが落ちていき、最悪の呪霊、覚に再び膨大な呪力が注がれて身体が再生していく。

 

「ふっ…ふふ…ふふふふ!! アッハハハハ!!!!」

 

「まじかよ…!!」

 

「ッ! ゴミカスッがぁっ!!!」

 

「やってくれたわね!! お陰で呪力がすっからかんよ!!! でも、あの子を食べれば全てにお釣りが来る!! さぁ呪い達よ! あの餓鬼共を喰らいなさい!!」

 

 ドポポンッ! 

 

 覚の記憶の中から溢れ出す呪い達、大雨の日のバケツから水が溢れるように屋上を埋め尽くす。

 

 あくまで生み出すだけで制御できない呪霊達だが、強者に従い、狙うのは弱っている二人。

 

「直哉!!」

 

 ガシッ、バッ!! 

 

 辛うじて動ける真希は直哉の襟首を掴んで飛び出し、落ち行くビルから飛び出した。

 

 呪霊達は自らの身体を顧みず、追撃するために直哉と真希に向かって飛び込んでいく。

 

「離せや真希ィ! 俺はまだ動けるんじゃァ!!」

 

「黙ってろ! 舌噛むぞ!!」

 

(クソッ! どうすればいい!? 撃てる手も尽きちまった! 直哉も動けねぇし、私もそろそろ限界だ! 飛び出したのもぶっちゃけミスだ! この状況じゃ、避けられない!)

 

 真希は落下しながら思案する。しかし、その状況はさらに悪化する。

 

 下には無数の手傷を負った鎧が一斉に弓矢を上に構えている。

 

(ここが私の墓場か…!?)

 

「放てィ!!!」

 

 ドヒュヒュヒュヒュ!!!! 

 

 "ア"ア"ア"オ"ギャ"ゲァ"ォ"ォ"ォ"

 

 真希と直哉に当たることなく、矢は後ろの呪霊達を殲滅する。

 

「「!?」」

 

「真っ直ぐ落ちてこい!!」

 

 ガシャシャッ

 

 紫龍は真希と直哉を受け止め、その場から全力で走って離脱する。

 

「細かい話は抜きにせよ! 貴殿らは敵か!? 味方か!?」

 

「んなもん言葉で分かるわけねぇだろ! 自分の勘に聞け!!」

 

「ならば味方だ!! 聞けぃ、その方ら! 奴の相手は今の某や貴殿らではもはや不可能!!」

 

 ブォォゥ!! 

 

「死に損ないの侍がぁ!! 今度こそ捻り潰して肉ミンチにしてやる!!」

 

 覚は呪い達の呪力の霧散を察知し、呪力を隠す気もなく漏らしながら落ちて追いかける。

 

 空を覆い尽くさんとする八色の呪力はさらに増大し、無数の呪霊が三人に襲いかかる。

 

 ドジュッドドドッグルンッヴァインッ

 

 紫龍は肉盾や武器を無数に生成し、全てをいなして躱していく。

 

 そしてシビレを切らした覚は呪力を超高密度に圧縮し、巨大な珠を生成する。

 

「なればこそ! 某は託したのだ!!」

 

「ミンチはやめよ!! 欠片も残さない!!!」

 

「現代最狂の呪術師に!! 某が黄泉より還ったこの時代を!!!」

 

 紫龍が走る先には、刹那の姿。無造作に刀も抜かずに歩く姿は余裕すら感じられた。

 

「刹那!?」

 

「阿頼耶識刹那ァ!! 貴方も消し飛びなさい!!!」

 

 ブゥンッ!! 

 

 コツッコツッ…キンッ、バラララッ

 

 覚の呪力の玉は真っ二つ、そして網状に斬り裂かれた。

 

「………」

 

 ヒュンッ、カチンッ

 

 刀を一度振って納刀、刹那は覚の前に立ち塞がる。

 

「あらあら…坊やと小娘の横取りかしらぁ?」

 

「フフ…違いますよ。覚という呪霊は直哉さんと真希先輩に負けたんです。僕が斬るのは、呪霊の貴方ではなく、僅かに残った人間の貴方だ」

 

「!!?」

 

(ハッタリ…いえ、確信を持って言っている?)

 

「どこで気づいた?」

 

「さぁ? ただの勘ですけど、その反応は図星なんですね」

 

「勘なのにそこまで確信を持って言えたの?」

 

「…嘘をつくコツは二つ。一つはよくある、真実を嘘に少し混ぜること。もう一つは、嘘を真実だと思い込むこと…自分に嘘をつくことです」

 

 直後、刹那の手の甲と右眼に宿儺の呪印が浮かぶ。

 

 それが何を意味するかは覚でさえも分からない。唯一つ理解できるのは、刹那は覚を殺す気だということのみ。

 

「私を殺すのねぇ…いいわ、やってごらんなさい!!」

 

 ドズンッ! ブンッ! キンッ

 

 地面を踏んで砕き割り、覚へとバラバラに刻んで投擲する。

 

(私にその程度、もはや意味など無い!! 呪力が満ちるまで逃げ切る!)

 

「そんな隙を、僕が与えるとでも?」

 

「!」

 

 ズドンッ!! 

 

「ゲッボァッ! このっ! ──!?」

 

 刹那は覚の動きを読んで先回り、脇腹に蹴りを入れて吹き飛ばす。体勢を立て直した時には腕は無かった。

 

「!?」

 

(いつの間に!? 太刀筋が全く見えない…!)

 

 キンッ

 

 覚の先読みが全く機能せず、身体は確実に両断を繰り返す。骨があって止まる、薄皮一枚斬れるなどと生易しくはない、当たれば確実に斬られる斬撃。

 

(何故こんなにも速い!? 考えも読める! 私の方が呪力も多い! なのに何故!?)

 

「ッムラ、裂キィ!!」

 

 ザグザグッッ!! 

 

 キンッ…ブワァッ!! 

 

 覚は腕の再生よりも攻撃を優先する。斬撃は刹那の一閃で全て落とされ、全くの無意味と化す。

 

 直後、刹那は呪力の靄を覚の真横に伸ばし、一瞬で真空を生みだす。

 

 これは酸素を無くして気絶させるための真空ではない。刹那は普段真空を作るとき、相手が死なないように調整した、いわば疑似真空を作っている。

 

 瞬時に真空と化した場所に、空気と空気がぶつかり合い衝撃波を生む。

 

 チッ…ドォンッ!!! 

 

「くっ…!!」

 

 ギュルルルッ

 

 回復する覚は不安と不可思議な現象を目の当たりにする。

 

(あの刀の軌跡の領域が消えている…?)

 

 彌虚葛籠を取得し、領域の押し合いによる支配ではなく中和。元来刹那の術式に合う手法はこちらだった。刹那の彌虚葛籠は途中で使えなくなったのではない。自ら解除し、覚に向かっていた。

 

 クルクルクルッ

 

 両手の刀を回して自身の周りの領域を刻んでいく。

 

「二刀、有耶無耶(うやむや)

 

 キキキキンッ

 

(何故ッ!? 領域全てではなく部分的な中和だなんて聞いたことがない!! 私の目の前の人間は、一体何なだというの…!?)

 

「ほら、攻撃の手が止まってますよ」

 

 ピキキッ

 

「舐めるな小娘…最悪の呪いの力を…!!」

 

 不安、不可思議、不明、それら全ては不毛。

 

 覚の呪いとしてのプライドが、呪力を更に増加させる。

 

「無意味、僕には関係ない」

 

赤羅楽(せきらら)ァ!!」

 

 網目状の赤い呪力が刹那を襲うが、刹那にもはや呪力を飛ばすだけの攻撃は無意味。

 

 キンッ

 

 刹那の身体に触れるギリギリのみを斬り裂いて避け、距離を無くして蹴り飛ばす。

 

 ドゴンッ! 

 

「ゲホッ!」

 

(意味のない攻撃…! 何故…!?)

 

「…死ねば人も呪いも価値は同じ。死ぬ間際だけ、人は孤独だ。でもその瞬間だけ、全ての命は優しくなれる」

 

「? 、??」

 

「ふふ、気にしないでください。独り言です」

 

 カチンッ

 

 覚が回復するのを刹那は追撃せずに納刀する。刹那の余裕の態度に覚は苛立ちと疑問を抱く。

 

「貴方…今まで全力じゃなかったって言うの…!?」

 

「? まさか、最初から全力でやってましたよ」

 

 刹那は薄く笑いながら覚の質問に答える。

 

「だったら何故…!!」

 

「いえ、強くなったという表現は正しくないです。僕は確かに全力のつもりでした。でも甘かった…皆は死ぬ気でやってたのに、僕は心のどこかで強さに驕ってたんです。感謝しますよ、覚。このタイミングで僕を成長させてくれて」

 

(気配が変わった!! この状況でこの呪力…!)

 

「貴方の心を読む術式は、合わせ鏡のようにして僕自身の心の深部を覗かせた」

 

(来るッ!!)

 

 覚は刹那の心を読み、反転術式と呪力回復、呪力ガードに全力を当てた。

 

 刹那は刀に鋭く研いだ呪力と共に、術式を込めた。

 

 術式を纏うではなく込める。

 

 道具に術式を付与するというのは、呪具が存在する以上は容易にも思える。しかし、今回は元々術式が付与されている"呪具"に直接術式を込めるという行為。呪具に術式を込めたとて、双方がバッティングしてしまい、まともな効果は望めない。だから刹那は

 

 刀という、動く空間に結界術を併用した。

 

「呪いは転じて虚無と化し、やがて無我へと辿り着く…」

 

「…ふふ…私は…私を呪った、この世界の終末を見届けたかった…」

 

 覚という人間は産まれる前から非術師にも関わらず、呪いと共生することを強いられてきた。それゆえ人にも呪いにもなりきれず、虐げられた人生を過ごした。命の価値を知る前に、死や理不尽という恐怖を知った子供は、人生を終えた後、呪霊として世界を呪うことを決めた。

 

「でも…これじゃあ…無理ね」

 

「そう。残念ですね。僕はこの世界を終わらせるつもりはありませんので」

 

 刹那はまるで興味を失った子供のように冷徹な、心底どうでもいい気持ちを隠そうともしない瞳で覚を見つめる。

 

 カチンッ

 

 納刀する寸前まで刹那の二刀は輝きを見せない。黒く鋭く研がれた呪力を纏う刀は、術式の効果と共に覚の身体を斬り、結界を壊し、空を裂いた。どこまでも深い闇が、斬撃の後に現れる。

 

「あげるわ…私の"全部"持っていきなさい」

 

 キンッ

 

 覚の言葉を聞き届け、闇は収束する。斬撃は遅れて音を響かせ覚の身体を刻んだ。

 

「ゴボッ…終わりは、も──」

 

 キンッ

 

「うるさいですよ、大人しく逝ってください」

 

 阿頼耶識刹那の二刀流。術式効果やあらゆる妨害に左右されない、まさしく、斬れぬものなし最強の剣技。

 

 二刀流、寂滅為楽(じゃくめついらく)

 

 大阪結界にて完成を果たす。




暫くはもう一つの小説に専念しようかと思ってます。
前回から続いて宣伝するのもどうかとは思いましたが週一、ニくらいで投稿するつもりの
『瞳を閉じぬ裁定者』そろそろ最初の山場的な所に差し掛かっていて、読むには丁度いい機会だと思いますので、是非よろしくお願いします!
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