全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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記念!七十話目!!投稿した数はランキングだったり設定だったりでもう少し多いんですが、話そのものは七十ですよ!このままなら百なんて余裕で超えていきそうですね〜。


第七十話 リベンジ・マッチ

 十一月十四日 夕暮れ

 

 桜島結界(さくらじまコロニー)

 

 激闘の末の三人は、満身創痍で極彩色の上を走っていた。修羅場を乗り越えてきた直感が、自らの生命の危機を告げていたからだ。

 

 ゴォッボォォンッッ!!! 

 

 ありえない火力による凄まじい熱波。空気は膨張し、ビルや家の窓を破壊していく。

 

「熱っっつぅ!!」

 

「もっと速く走れ!!」

 

「無理無理無理!!! 限界!!」

 

 加茂は術式で速度を上げ、彩華は自身の呪力で滑るように加速するが、釘崎にはそれらの方法は無く、二人に追いつけない。

 

 グワァッ!! 

 

「ヒィッ!」

 

 バババッッ!! バチャンッ! 

 

血壁(けっぺき)!!」

 

「[壁]!!」

 

 ボォンッ!! 

 

 二人は文字通りの飛び火から釘崎を守るために術式を使い、辛うじて回避の時間を稼ぐ。

 

「あ"ー!! 何なんだよ!」

 

「いいから走れ! あれに巻き込まれたら確実に死ぬぞ!!」

 

「もう無理ぃ! 呪力(インク)切れー! 加茂君おんぶー!!」

 

「黙って走れ!!」

 

 この炎は、三人に対しての攻撃ではない。あくまでも、一人の特級術師に向けられた攻撃の余波である。

 

 バララッゴァッ!! 

 

「タン」

 

 ギュルルッ

 

 彼女の炎から逃れるために、夏油は低級の呪霊を強化して数体ぶつけて難を逃れる。

 

 バヂュンッ!! 

 

 同時に浮遊する呪霊で頭上を位置取り即座に反撃、頭から相手を槍型の呪霊で貫く。

 

「……」

 

 ゴォッ!! グヂュヂュッ。ぐっぱぐっぱ

 

「おかしいな…私、君のこと何回も殺してると思うんだが」

 

 炎に包まれて全快して感覚を確かめる彼女を見ながら、呪霊の上で胡座をかく夏油は自分の額を親指の背でポリポリと掻く。

 

「21回…蘇った…」

 

(…"蘇った"か。ダメージの無効化ではなく、蘇生、反転術式とほぼ同様の効果を持つ術式だろうな)

 

「さっきの話を蒸し返すようで悪いけど君、羂索の仲間なんだよな?」

 

「仲間…ではない。利害の一致…私は…死ぬために生きてる…」

 

「随分と退屈そうな人生だね。死にたいのなら術式を解けばいいものを」

 

「それでは…意味がない…戦で死なねば…全て、意味がない…」

 

(女性という身の上で戦に臨み、死に損ねた術師か…殺すことに抵抗は特にないが、厄介極まりないな。術式と思想の相性がなぁ…)

 

 桜島結界泳者 

 

 鳳 陽姫(おおとり ひのき)

 

 所持得点 57点

 

「羂索は…私に舞台を用意しただけ…」

 

 憂い、死んだような瞳に炭のように真っ黒な髪。

 

 絶え間なく全身を焦がさんばかりの炎を纏った羽根。

 

 術式 不死鳥

 

 術式が発動している間は文字通りの不死。天元と違うのは、伝承に伝わる鳳凰をその身に顕現させるということ。死なないのではなく、呪力と本人の気力が続く限り、死んでも蘇るのが彼女の術式だ。

 

「話はおしまい…呪い合おう…強い人…」

 

 ゴァァッッッ!!! 

 

「全く、イカれた火力だなぁ」

 

 ズァァッッ!! 

 

 陽姫が繰り出す火力を、夏油はポケットに手を入れたまま小型の呪霊を大量に出して防ぎ、乗っている呪霊で即座に距離を詰める。

 

「おしゃべりは嫌いかい?」

 

「むせるから好きじゃない…」

 

「それは残念」

 

 笑顔を崩さずに呪霊によって体勢が反転したまま夏油は眼の前で話す。

 

(! この男、まさか(燃える身体)に近づくつもり?)

 

 ガシッ! メキィッボキンッ! 

 

 夏油は燃える陽姫の腕を右手で掴んで引き寄せ、左手で関節を掴んで乱暴にへし折る。

 

「痛い…」

 

 メラ…! 

 

 淡白な反応と共に、夏油を剥がすために全身の炎の出力を上げ始める。

 

 ヒュッ、バキィッ!! 

 

 その気配を瞬時につかみ取って夏油は飛び上がり、ドロップキックを繰り出して空中に身を投げる。

 

 ドォンッ!! パラパラ…

 

 近くのビルに撃墜されてパラパラと瓦礫のカスが陽姫の顔にかかる。

 

「重たい…久し振りに…痛い…」

 

 ビッ! ビチチッ…ボォッ! ギュルルルッ

 

 陽姫は自分の首を掻き切って身体を再生させ、辺りを見渡す。

 

(あの男は…?)

 

 ズゥンッ!! 

 

「?」

 

『ふしゅぅ…!』

 

 ビルの中で陽姫と対面したのは、夏油が先日取り込んだ酒呑童子。ビルの外は夏油が出した夥しい数の呪霊が囲っている。

 

「1、2…3万…どうしようか…」

 

『ゴぁア!!』

 

「…三光」

 

 陽姫は目の前の酒呑童子を完全に無視しながら顎に手を当てて考え込む。

 

 ビルの外では夏油が次なる一手を画策している。

 

(さて、回復も攻防も同時にこなせる酒呑童子。仮にも特級だし平気だろう。釘崎達の逃亡を手助けするか)

 

「…?」

 

 ボッボッボッ!! ドォォンッッッ!!!! 

 

 突如、ビルの窓が全て内部の急激な熱の上昇圧に耐えきれずに弾けて、ビル全体が炎に包まれる。

 

「ゲホゲホッ…煙たい…」

 

 直後、ボソリと呟きながら酒呑童子の首を持った陽姫が出てくる。

 

(一体とはいえ、特級もいた。だというのに瞬殺とは…)

 

「やるね…!」

 

 一瞬にして夏油の呪霊、約三万体が祓われ、夏油は胸を高鳴らせる。

 

「よそ見は…死ぬよ…」

 

 ボゥッ

 

(厄介だが大した速度はないし当たることはない。さっさと終わらせるか)

 

 夏油が勝ちを確信した瞬間、陽姫は両手を真っ赤に燃やして夏油に向ける。

 

「赤タン…」

 

 ボンッ!! 

 

 夏油の眼の前が大きく爆ぜるが、夏油は微動だにせず呪霊を出して危険を回避する。

 

「花札が好きなのかい? 懐かしいなぁ、高専時代によく友人二人とやったよ」

 

 ビュッ! バババッ! ゴリッ! 

 

 一瞬で距離を詰め組合の攻防をするが、夏油は五条悟をも凌ぐ体術の使い手、数度のフェイントを織り交ぜた拳で自身の火傷すら顧みずに圧倒する。

 

(強い…この人なら…)

 

 ピタッ

 

「? どうした、急に止まって。呪力切れかい?」

 

 陽姫は立ち止まると、纏う炎を沈下させて着物を翻し、その場に正座する。

 

「改めて…私の名を名乗り申し上げます…。私は、鳳陽姫。今の時代から五百年前…死に損なった生ける屍でございます…」

 

「ふぅん…それで? 降伏するなら見逃すよ。生憎と私も忙しい身でね、君に構っている時間は実は無いんだ」

 

「戦乱の世にて、戦で死なぬ兵は人で無し…死に場を求めて六千里…羂索と契約を交わして今に至りまする…」

 

「話聞けよ」

 

「誠に勝手ながら…私はこの戦いを死に場と決めました…この身を…文字通りに、燃やす場だと…」

 

「こっちからすればいい迷惑だな」

 

「貴方のお名前を、貴方の口からお聞かせ願います…」

 

「…呪術高等専門学校一年副担任、特級術師夏油傑だ。満足かな?」

 

 陽姫は深く頭を下げたあとに夏油に向き直り、祈るようにして、独り言のように呟き、自らに縛りを設ける。

 

「…最後の戦いを終えるまでの…滾る呪力をこの身に…」 

 

 ズァッ!! 

 

(呪力が急激に跳ね上がったな。七海のような呪力制限の解除か? それとも何らかの縛りを今設けたのか…まぁ、いずれにせよ) 

 

「大した問題じゃない」

 

「そんなこと言ってられる…?」

 

 ドゥンッ!! 

 

「!!」

 

 先程までの炎と違い、纏うわけではなく自身の背に炎を噴出し、ジェット機の要領で加速、初めてまともに夏油に一撃を加える。

 

 しかし、最強の片割れがそのダメージに心を乱すはずがなく、呪力による強化で夏油はダメージを最小限に抑え、足首を掴む。

 

 ガシッ

 

「足癖が悪いね」

 

「貴方は手癖が悪い…」

 

 夏油の右手には消失しかけた呪霊。まともに夏油に攻撃を当てたと思っていたのは、防ぐ盾にしていた低級の呪霊だった。

 

 ブンッ!! ギュゥゥッバォンッ!! 

 

 投げられた陽姫は再び熱を上げ、ジェット機と同じような機動力で飛び回る。

 

 ビュンッ! ヒュンヒュンヒュンッ!!! 

 

「おぉ、炎が連なって蛇みたいだ。煙たいのを抜きにすれば中々いいんじゃない?」

 

「花見酒…」

 

 ヒュゴンッッ!!! 

 

 炎を空中に散りばめて視界を覆い、本人は生やした炎の羽根を振るって夏油に攻撃する。

 

 ガギンッ!! 

 

 夏油は服の下に硬度の高い呪霊を呪力で強化して這わせ、呪具のようにして防ぐ。

 

(! この男…何故こんなにも硬い? 羂索だってまだ攻撃が通る…)

 

 夏油は羂索の敗北から、年甲斐に無い学びを得た。

 

 失うことで人は強くなる。彼もまた、失いかけたものをその手に掴むための真っ最中なのだ。

 

 ヒュババッガチッ! 

 

「熱いな。防がなきゃ身体が焼けそうだ」

 

「赤タン…!」

 

 熱によって生成された羽状の弾幕が夏油を襲う。

 

 ダダダッ! ビュンッ

 

 それを走って避けて大きく前宙し、身を翻しながら拳の中で呪力の塊を二つ握りしめる。

 

「!」

 

「うずまき」

 

 ドヒュンドヒュンッ!!! バゴォンッ!! 

 

 ボダダッボドッ

 

「ッ!」

 

 ガシッ、メキィッボキンッ! 

 

 首を搔き切ろうとする陽姫の両腕を掴んで折り、自殺を阻止する。

 

「君の術式、死ななきゃ蘇生できないんだろ。だからうずまきを二つ作って威力を下げてみたんだけど、読みは当たりみたいだね」

 

 馬乗りになって抑える夏油を、陽姫は自らを燃やそうとして熱を上昇させる。

 

 ゴォォッッッ!!! 

 

「おっと、危ない危ない」

 

 グンッッゴヂャッ! 

 

 陽姫は両腕を使えない為に思い切り頭を地面に打ち付けて自殺し、再び炎に包まれる。

 

「感心しないなぁ。もっと身体を労りなよ」

 

「何度も殺す貴方に…言われたくはない…」

 

 ゴォッ!! 

 

 陽姫は再び熱を上げ始める。

 

「またそれ? もう飽きてきたんだけど」

 

 夏油ももう幾度目かという炎の攻撃に、呪霊を出して対応する。

 

「私の熱は…最大約千六百度まで上昇する…貴方は耐えられる…? 火災現場に放り込まれた子供のように、肺が焼けて呼吸できなくなる感覚に…!!」

 

 夏油はこの戦いで初めて冷や汗をかく。彼女を視界に収めるのに集中するあまり、周りが疎かになり気付けなかった。空が火山灰の影響で曇天になるのを。

 

 熱は灰によって他所へといくのを許されず、その場に残留する。

 

 陽姫が出した炎、ビルを燃やしてできた大きな焚き火。そして、術者を逃さぬ巨大な結界。条件は満たされた。

 

「五光…!!」

 

 バサッ、パタパタ

 

 夏油は上着を脱いで手をパタパタと振って暑さを示す。

 

「あついねー。でも、君も死ぬんじゃない? 物理的なダメージじゃなくても蘇生って出来るものなの?」

 

「この命、戦いの末に果てるのなら…本望…!」

 

(さすがに手加減し過ぎたかな、息が苦しくて段々苛立ってきた。釘崎達は大丈夫か?)

 

「ふーん…」

 

 先程までの仏を思わせるような笑顔を崩さず、呪力を練り始める。

 

 ズルルゥッ…

 

「日田坊主、晴らして」

 

 ビュッ! ガギィンッ! 

 

「あっ」 

 

 間抜けな声と顔で夏油は素っ頓狂な声を上げる。

 

「火山灰は、結界の外…貴方の呪霊では、晴らせないよ…」

 

「いやぁ、まいったまいった。そうだったね、じゃあやっぱり、君を倒すしかないってことか」

 

 夏油は適当に笑顔を作り、全身に炎を纏わせた陽姫の元に歩く。

 

 ビュッ! 

 

「貴方は…私と共に死ぬ…。劫火と煙の中で! 私の死に場所は、ここ…!」

 

 ギュルルッ、ガガッ! ドゴッ! ガシッ! 

 

「ガハッ!」 

 

 呪力を使いすぎた陽姫は自らを燃やすための力が無く、夏油と肉弾戦を始めた。しかし、一度たりとも単純な肉弾戦で勝てていない陽姫が勝てる道理は無かった。

 

「なんかごめんね? 君にとっての一世一代の死に文句(プロポーズ)。あっさり終わらせちゃって(振っちゃって)

 

 夏油は伸ばした手から這うような百足の呪霊を出して彼女を捉えて嘲笑う。

 

「なに…を…?」

 

「君、この場面で出るには実力不足ってこと」

 

 ドスッ!!! 

 

「ォエッ…あ…」

 

 ガクンッ、ドサッ

 

 彼女の身体から炎は消え、その場に倒れる。

 

「ちょっと遊びすぎたかな。八岐の大蛇、その辺消化しといて」

 

 ズルルッ

 

 一月前より小さくなった特級呪霊に指示を出して夏油は陽姫を呪霊で拘束して平手で起こす。

 

 ギュルルッ

 

「ほら、起きて起きて」 

 

 パシンッ! 

 

「痛っ…私は…」

 

「殺さないよ。死ぬのは勝手だけど、知ってることを洗いざらい吐いてから死んでくれ」

 

 しゃがんで陽姫に視線を向ける。

 

「…この程度なら…逃げれる…けど?」

 

「やったらその程度の術師なんだろう。君の考え方は術師のくせしてえらく侍寄りだ。多分そんなことはしないと思うんだよね。それに、逃げたら流石にもう殺すし」

 

 夏油は笑顔で陽姫に死の宣告をする。

 

「…羂索の狙いは…天元…」

 

「うん、なんで天元様なの?」 

 

 夏油が質問せずとも、陽姫は答えだす。

 

「死滅回遊は、同化前の慣らし…日本国民を…呪霊にするのが、私達に聞かされた最終目標…」

 

「! 日本国民の呪霊化だと…!?」

 

(しまった、"慣らし"か。ここに彼女が来たのは、死の間際が呪力を大きく放つ瞬間を繰り返すことで慣らしを速めるためだったのか!)

 

 夏油との戦いで30回近く陽姫は死に、その度に莫大な呪力によって蘇生を繰り返した。彼女は、彩華によって全く生死の動きが見えない桜島結界に送り込まれた、羂索の駒だった。

 

「…でも、多分、今は違う」

 

 夏油が考えに浸るのを見た陽姫は、別の回答を出し始める。

 

「違う? なぜ、そう言える?」

 

「私は…盤面を掻き乱す"金"に過ぎない…"飛車"と"角"は…別にいる。そして…あの二人には別の目的が知らされている…二人は…東京と、大阪…」

 

(奴の真の狙いは何なんだ…? だが、真希達に聞いた話によれば、私の術式(呪霊操術)がマストのはず。ここで高専に戻るのはリスキー…。いや、天元様の護衛に二人は不安だ。一度戻ろう)

 

 夏油は思考を巡らせたまま立ち上がる。

 

「ねぇ…私は…?」

 

「私はって、どこにでもいけば?」

 

「殺さないの…?」

 

 ポリポリ

 

「ん~。正直、君に特段引かれることもないなぁ。この悪趣味なゲームが終わったら現代を観光でもしたらいいんじゃないかな。高専に入るなら歓迎するよ。今は色々と情勢がアレだから無理だけど」

 

 現代最強の片割れ。五条悟に隠れがちな彼だが、実力は間違いなく、"最強"に触れていた。

 

 同日 深夜

 

 大阪結界

 

「合戦?」

 

 刹那の問いかけに二人はピリピリと空気を揺らす。

 

「十分程度か。コガネ、そのくらい前からの増えた泳者の人数を出してくれ」

 

 コガネの画面には三百、四百とどんどん数字が増えていくのが映る。

 

「…どうゆうことだ?」

 

「分かりません。ですが、流石にこの人数の術師がまだ日本にいるとは考えにくい…何か別の要因…」

 

 規則的に増えていく人数と、刹那の中での数字の情報を照らしあわせていく。

 

(約四百…アイヌ連も高専もここまで人数はいない、となると非術師の組織…)

 

「まさか…軍?」

 

「おいおいおい、冗談やろ? 非術師がなんぞ結界に用があるっちゅーねん。コガネすら見えてるか怪しいんやろ?」

 

「…なるほど、合点がいった。羂索の仕業だろう」

 

「なんでそこでアイツが出てくんだよ」

 

「私は一応、直哉君に負けるまでは向こう側だったからね。彼からすれば捨て駒に過ぎないだろうが、情報はまばらに貰っていたよ」

 

「…そういうことは先に言ってくれません?」

 

「すまない」

 

 四音の発言に、一同が抱いた気持ちを代表して刹那が呟く。

 

「話を戻すが、簡潔に言えば恐らくは外国の非術師部隊だろう。多国だったか、そんな話をしていたハズだ」

 

「あぁ〜。俺は納得やわ。呪力を操れるんは大体日本人だけやもんな。そういや昔っから口煩く言われとったわ」

 

「つまり、死滅回遊で集まった泳者を拉致しようって腹か?」

 

「十中八九、そういうことだろうね」

 

 真希が酷く簡潔にまとめたのを四音が肯定し、一度考えにふける。

 

「んー…どうしましょうか」

 

「四百は普通にキツくないか?」

 

「殺すのは簡単ですけど、多分口車に乗せられた感じですよね。だとすると殺すのは避けたい…紫龍さん起きてます?」

 

「むぉ、ん、起きておるぞ」

 

(((絶対寝てた)))

 

「自分寝とったやろ」

 

「いやいやそんなことはないぞ。要するに殺さずに無力化すればよいのだろう?」

 

「あ、半分くらいは聞いてたんですね」

 

「小難しい話は性に合わん、行くか」

 

「え、どこに?」

 

「忘れたわけではあるまい。某の術式はこの状況に最適であろうよ」

 

「「いや、知らん」」

 

 真希と直哉は術式を知らないため、同じような反応を示し、揃ったことに複雑に不快感を示す。

 

「ハッハッハ。某は呪力の回復が他と比べて速い。ここでのんびりしているといい。そんな目で見ずとも無論、殺しはせんよ」

 

 刹那の怪訝な目を見て紫龍は兜越しに笑い、部屋を出る。しかし、その場の誰にも、彼が今の状況を楽しんでいるようにしか見えなかった。

 

「アイツ、一番質悪いんじゃないか?」

 

「そうかもしれないね…んっ、美味しいなこれ。冷たくて口の中がスースーする」

 

 四音は控えめに肯定するが、現代の術師らと違ってそれを軽く受け止め、それよりもミントアイスの方に夢中になっていた。

 

 ──ー

 

 ゴゥンッ

 

「エスパーの日本人の生け捕りに小型の戦車だと? 上は何を考えてるんだろうな」

 

 スペイン大隊 少将エンデルハン

 

「定期連絡途絶えました! やはりこの中では電子機器の類は使用不可能の模様!」

 

「うむ、構わん。予定通り信煙弾は放った。部隊は集結しつつある」

 

 陸軍大隊 

 

 第2特殊作戦集団 グラネダ

 

 第3特殊作戦集団 バレンシエ

 

 延 約五百人

 

「頃合いか…注目!!」

 

 ザッ! 

 

 既に集まった部隊は、一糸乱れぬ隊列でエンデルハンに向かって整列する。

 

「あの、タカサト アミベという男の話によれば、最終目標はサムライソードを持った少女だ…フッ、ビルでも戦車でも斬るらしい」

 

 クスクス

 

 エンデルハンの情報に笑う場面だと悟った部隊はのメンバーはクスクスと嗤う。

 

「いいか、これは蹂躙ではなく"保護"だ。話し合いを念頭に据えるが…少女以外は武力による捕虜化を進めることだ。以上! 全軍作戦開始!」

 

「「「「「イエッサー!!」」」」」

 

 ヒュルルルルッッッバァンッッッ!!!! 

 

 作戦開始の合図と共に、派手な音が空中で爆ぜる。

 

「おいおい、Fessじゃないんだぞ? 誰が打ち上げた?」

 

 ヴーォォオオッ! ヴーォォオオッ! 

 

 続いて鳴り響く法螺貝の音、古の合戦より伝わる、戦の合図。鳴らしたのは言うまでもなくこの男。

 

 ズンッ!! 

 

 コンクリートを踏み割り、彼は自身の存在を知らせる。

 

「去ね、某に弱者を嬲る趣味は無し」

 

 後方支援を含めれば五百人を超える軍人の前に現れた一人の侍。彼はいつものように、相手に対して先手を譲った。

 

「……………」

 

「……………プッ」

 

 アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!! 

 

「? …何がおかしい?」

 

「勘弁してくれよ、おサムライ。目が見えてねぇのか? そりゃあBraveじゃねぇぜ!?」 

 

「撃ち方用意!!」

 

 ガチャチャヂャ!! 

 

 紫龍の行いを全員が嘲笑する。しかしそこは軍人、隊長の合図で一瞬にして前線の銃撃部隊は空気を切り替える。

 

「足を撃って動けなくしろ。死にはせんだろう…撃てィ!!」

 

 ダララッ!! 

 

 シュゥゥゥウウ

 

 硝煙と火薬の臭いが混じり、数秒の弾幕。軍人達は撃つのをやめて対象を見据える。

 

「…死んだか? まぁ、なら他のジュツシを見つけるま…で…?」

 

 しかし、紫龍は無傷でそこに立っていた。彼の足元や周りは銃痕が確かに残っている。だというのに、一切の挙動なく彼は立ち尽くしていた。

 

「oh…no!」

 

 パァンッ!! 

 

「武芸百般、砲術」

 

 ズルンッ、ガチャッ!! 

 

「!? 総員! 退避退避ぃ!!」

 

 旧式の砲弾を手動で放つ。彼等からすれば時代遅れも良いところ。しかし、侮ってはいけない。古来より大砲という道具は、幾万の命を無条件に屠ってきた紛れもない殺戮の兵器なのだ。

 

 紫龍の合図で彼の前に大砲が姿を表し、そのまま火をつけて戦車に向かって放つ。

 

「撃てぇえええい!!!」

 

 ドォォンッ!!! バォンッ! 

 

「むぉ! なんとなんと! 随分頑丈だ!」 

 

 一度バウンドして煙をもうもうと上げる戦車を見た紫龍は、乱暴に扱っても壊れぬ玩具を手にした子供のようにケラケラと嗤う。

 

「そ、損傷軽微!! 部隊整列!!!」

 

「「「! ハッ!!」」」

 

「目標!! 目の前のジュツシ!! 死体で構わん!! Fire!!」

 

「武芸百般、盾術」

 

 ダララララララッッッ!!!! ガガガガガガガガッッッッ!! 

 

 全て盾に塞がれ煙が立ち込める中、紫龍は堂々たる態度で向かう。呪力で強化した身体と、長年使い続けて半分呪具化している鎧によって弾丸が通ることはない。

 

「RPG7用意!! 目標補足!」

 

「おっ!? なんだそれは!」

 

「Fire!!!」

 

 バジュゥゥッ!! ガシッ!! 

 

 近代対戦車用兵器。明らかな過剰戦力にも思える武器だが、それすらも紫龍は玩具を振り回す子供のように嘲笑い、自身に向かってくるミサイル弾を横から無理矢理掴む。

 

 ジュウゥゥッ…! 

 

「ほぉ、後ろからの火力を推進力に変えているのだな、面白い!! うむ。返すぞ…気張れ!!」

 

 ガッ、バヒュンッッ!!! 

 

「たっ、退避! 退避!!!」

 

 既に推進力を失ったミサイルを、乱暴に術師を輸送するためのトラックに投げ飛ばす。

 

 ゴッッドォッンッッ!!!! 

 

 メラメラ…

 

「フハハハハハハ! 楽しいな! 現代の戦は!」

 

 とんでもない思想。一人の軍人は絶望、また一人の軍人は諦観、またある者はまだ闘争の意志を。

 

(たった一人に、スペイン(我が国)の最高精鋭部隊が瞬殺…!? しかもこの男は最終目標でも何でもない。ジュジュツシは全員こんなレベルなのか…?)

 

 ガシャッガシャッ

 

 紫龍の足音は鎧の音を立てながら静かに歩き、死んではいないながらも無力化された男たちの真ん中を歩く。

 

「むぅっ! 終わりか!? まだ某は戦い足りんぞ! 誰でもい!! 立ってかかってこい!」

 

「こ、降参だ…降参する…だから命だけは…すまない…こんな死に方は、本望じゃない…!」

 

 現地の案内役として派遣された日本人が土下座で降伏を宣言する。

 

「……」

 

「…?」

 

 返事のない紫龍は足を止めて無言になる。ゆっくりと顔をあげると、眼の前に黒い鎧の大男がじっと見つめている。

 

「…はぁ。終わりか。良いぞ、帰っても」

 

 紫龍はあっさりと言い放って背を向けて戻ろうとする。集合していた場所に颯爽と現れ、全部隊を圧倒的な個の戦力で蹂躙した紫龍。全結界中、最速の解決だった。

 

「えー? もう終わり? もっと遊んでいきなよ」

 

 その場に響く、軽薄な男の声。直後に溢れる、無邪気で純粋、そして暴力的な呪力と気配。

 

 呪霊合術は合わせ、そして、解放することも可能な術式。

 

 大阪結界(おおさかコロニー) 新規泳者(しんきプレイヤー) 真人(まひと)

 

「!」

 

 ダンッ!! ザリィィッ! 

 

 真人が紫龍の鎧の無い部分、首筋に手を当てようとした瞬間、紫龍は飛び退いてそれを避ける。

 

「あれ、意外と速かった。のろまそうな見た目してんのに、意外と動けるね」

 

(呪霊…か? あのさとりとかいう呪霊と同じ、人に近すぎる呪霊…だが、あちらより幾分かマシに見えるな)

 

「ふ~ん」

 

(受肉した泳者。しかもこのレベルか。魂を知覚してる可能性もあるし呪力を余計に使いたくない。後回しでいいか)

 

「タンマタンマ。俺別にお前に用があるわけじゃないんだよね」

 

「?」

 

「俺の目的は二人。虎杖悠仁と、阿頼耶識刹那だ」

 

「ふむ…。虎杖とやらは知らんが、刹那殿はあちこちで引っ掛けてるのだな」

 

「でさ、俺的には虎杖だけで良かったんだけど、阿弥部との縛りでこっちが先ってさ。酷いよね〜。ってわけで、アンタと殺り合うのは後でいいかな?」

 

(刹那殿なら負けはしないだろう。恐らく某に興味が無いというのも事実。しかし)

 

「悪いな。某は刹那殿との縛りで裏切ることはできん。主君のために命を投げ打つ覚悟なくして侍は務まらん。命令だ…退け」

 

「それは残念。じゃあ、お前を殺してからゆっくり探すとするよ」

 

 特級呪霊真人VS現代に還った侍、紫龍の戦いの火蓋が、深い夜に静かに開戦された。

 

 




宣伝として。
もう一つの作品、『瞳を閉じぬ裁定者』もよろしくお願いします!
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