全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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ちょっと、いやかなりずるいですけど、結界の条件付き出入りの条件をこの話で開示します。最後は決めてるのに、行き当たりばったりでほんとに申し訳ないです。

お気に入り900人突破!!ありがとうございます!!
あまり数字に頓着する浅ましいやつに見られるのはあれではありますが、せっかくなら千人の大台に乗ってみたいですね。
これからもよろしくお願いいたします!


第七十一話 散り際

 11月15日午前00時00分

 

 ドッゴォォオオンッッ!!! ドォンッ! ゴォンッ!! バゴンッ!!! 

 

 紫龍の暴れようは凄まじかった。壁を砕き、地面を踏み割り、数多の武技による連撃に次ぐ連撃。

 

 夜中の静寂に見合わぬ轟音がその場を着々と支配していく。 

 

「フンッ!!」

 

「ちょわっ危なッ!?」

 

 バギィッ!!! ガッドッゴッォンッ!! 

 

 紫龍の拳で車はぐるぐると回転し地面をボールのように跳ねていく。

 

(やっば! このパワー! スピード!! 七三術師や虎杖と比べ物にならない! でも…!)

 

「逃げてばかりではつまらんぞ」

 

「…ハハハ!」

 

「?」

 

「嬉しいよ。出てきて早々にお前みたいなやつに出逢えて…! "新しい俺"を試せるなんて!!」

 

「…」

 

「俺は真人、アンタは?」

 

「申し遅れた。某──」

 

 ガィンッ!!! 

 

 名乗ろうとする紫龍の兜に、自らの形を変えた肉の塊をぶつけて妨害する。

 

「バ〜カ!! 呪いの戯言に耳貸してんじゃねぇよ!!」

 

 ガシッ! 

 

「!」

 

(あそこから反撃するのか!?)

 

 完全に芯を捉えた一撃、のけぞる紫龍は振り抜いた真人の肉塊を掴む。

 

「紫龍と申す者、覚えておけ。貴様を屠る男の名を…!!」

 

「はッはァ!!」

 

 グイッ!! バキュッ! ドズッ!! 

 

 掴みよせる真人の腕の一部が無数の棘状に広がるのを、紫龍は手の中で無理矢理握り潰して防ぎ、乱暴に地面に叩きつけて槍を刺して固定し、真人に向かって走り出す。

 

「やばっー!」

 

 ズドムッ!! ッッドォッン!! 

 

 真人の片腕でのガードは、紫龍の拳にいとも容易く貫かれ、もう片方の腕は無理矢理に千切られて道路のはるか後方へ吹き飛ばされる。

 

(呪力の出力がまた上がった!!)

 

 バンッ!! 

 

 紫龍は吹き飛んだ真人を全力で追いかけ、その姿を捉える。

 

「呪術師でもさぁ! 一々走りゃ疲れんだろうが! パァンッ! 

 

「武芸百般、大太刀!」

 

 ザンッ!! ガパァッ

 

「「はっはぁ! 引っかかった!」」

 

 紫龍は真人に完全に追いつく前、刀身5尺程度の刀を振り下ろし、真人の身体を真っ二つに斬る。

 

 しかし、真人はそこから二人に分かれ、左右から手を刃に変形させて紫龍を狙う。

 

(体術や冷静さはあいつらの方が厄介だった! それに比べたらこの程度!)

 

 ギャリリリッ!! 

 

 建物の壁を削り壊しながら紫龍を狙う刃は、次の瞬間、瞬き一瞬に破壊される。

 

 バキンッ! 

 

「はぁ? 二人ッ!?」

 

「何を驚く。貴様も"三人"ではないか」

 

 ザッザッザッ…

 

 先程切り離された真人の腕は、小型の真人に形を変えて後ろから歩いて現れる。

 

「いやいやいや、俺のは魂を分割してんだよ。術式とはいえ魂が増えるとかありえないだろ」

 

「魂云々の話はするな、面倒だ。それより、貴様こそ一体あと何人の協力者がいる?」

 

「はぁ?」

 

「とぼけるな。某の術式の条件は"相手の数"、先程からはんのうしているのだ、少なくとも100人はいるだろう」

 

「…あ、クックック。それってさぁ、これのこと? オ"ェ"ッ!」

 

 バチャチャッ! 

 

 一人の真人が口から吐いたのは、極小サイズの"人間"。無言で見つめる紫龍にニヤニヤと笑いながら真人は言葉を続ける。

 

「凄いだろ、これってお前等と同じ人間なんだぜ? もっと驚けよ」

 

「ほう、便利な術式だな」

 

「…ほんとに意味わかってる?」

 

「人間を小型にして持ち歩けるのだろう? 便利だな」

 

「なんだよ、お前もぶっ壊れのやつか」

 

 ギュルルルッッ!! 

 

 真人は納得したように手をひらひらと振ると、両手の中で微弱なつながりの魂を合成する。

 

 幾魂異性体

 

 ドゥッ!! バキャッ

 

「ムゥッ!? 邪魔だ!!」

 

 メショッードォンッ!! 

 

 一級相当の呪力出力によって強大な威力を誇る幾魂異性体。紫龍の鎧を砕くが、その繋げられた魂は摩耗するため、防御力、体力は極めて低いため、紫龍の一撃で果てる。

 

(まだタッチじゃ殺せない! 魂の外皮、あの呪具化された鎧をまずは壊す!)

 

「多重魂、撥体!」

 

 複数の魂の拒絶反応による広範囲攻撃。紫龍を飲み込むようにそれは大きく口を開けるが、紫龍はそれに突っ込んでいく。

 

「武芸百般、槍術!」

 

 ズドンッ!! 

 

「やっぱそう来るよな!!」

 

「!」

 

「撥体!」

 

 ギュゥゥゥッッ!!! ビキビキビキッッ!! 

 

 口の中に突っ込んでいった紫龍を圧死させる為に再び撥体を使う。

 

「おいおい、この程度じゃ死なないよな?」

 

 ギャリリリリィィィッッ!!! 

 

 紫龍は一気に自身を十人まで増やし、それぞれ用途の違う武器によって肉塊をバラバラに壊し刻み、真人に向って突撃する。

 

(二人残して八人を俺に向けてきた、ってことはここにいる奴らで全部、本体が隠れてるわけじゃない!)

 

 前方からくる紫龍達は、真人が構えた瞬間に道を開ける。その先には、大砲と軍から拾った銃器を両手に持つ紫龍がいた。

 

「!」

 

「試し撃ちといこう」

 

 ドォンッ!! ズダダダダッッ!! 

 

 バギュムッ!!! 

 

 人体が破壊される音、それと共に八人の紫龍が真人に襲いかかる。

 

 ズドンッ!! ガシッパシッパシッ

 

 バギュムッ

 

「!?」

 

「いっちょ上がりっと」

 

 壊れた武具の隙間から真人は腕を掴み、紫龍の上半身を吹き飛ばす。骨や内蔵が飛び散り、呪力となって霧散する。

 

「即死…!」

 

「ついでに良いこと教えてやるよ。俺の術式は魂をイジる。俺の魂を攻撃できなきゃ、俺を祓うことはできない。触った感じ、アンタは1、2回程度触れば殺せるね」

 

 真人は渋谷での戦いで成長している。強靭な精神の紫龍でさえ数回で即死する攻撃に加え、領域展開、

 

 遍殺即霊体をカードとして持っている。

 

「楽しくなってきたでしょ」

 

 怪しく、妖しく嗤う真人に対し、紫龍は無邪気に、そして、玩具を得た子供が笑うように顔をほころばせる。

 

 パァンッ!!! 

 

「血沸き立ち、肉踊りだす!! 良いぞ真人殿! 現代はかくも面白い!!」

 

「良いね! もっと遊ぼうか!!」

 

 真人は足を六脚に、既存の生物よりも進んだ形にして走り出す。

 

「武芸百般…馬術!」

 

 一方の紫龍も馬を武器の要領で生成し、二刀を持って走り出す。

 

 彼の術式は生物さえも生成の対象であり、真人のような通常の理を無視し、"多人数を個で持つ"ような相手には最適である。

 

 ドドッドドッ! 

 

「はっは! 四足で六足に勝てるかよ!」

 

 ガガガンッ! ガギッドズンッ!! 

 

 真人は上半身を刀剣や鈍器に変形させて走りながら紫龍を狙う。それに対し、紫龍は自らを襲う無数の手数をたった二刀で防ぎきり、反撃さえもこなしていく。

 

(そうか、こいつ侍ってやつか。じゃあ寧ろこれ向こうにはアドバンテージか)

 

「ん?」

 

 ドドッドドッ

 

 二人が走る前方からも二人の紫龍が馬で走りながらすれ違いざまに真人の首と腹を狙って薙刀を振るう。

 

 ブォンッ!! バツンッ

 

「うぉっと、危ない危ない!」

 

(さっき増やした奴ら消してないのか。全員同じ強さってのは厄介だな)

 

 真人は身体を自切して斬撃を空振らせ、再び街中を駆けていく。三人の紫龍は並走して真人を追いかけると、真人は改造人間を道にばらまいていく。

 

「お土産〜!」

 

 ポイッーボムンッ! 

 

「「「おぉう!?」」」

 

 撥体によって三人の紫龍は立ち往生し、真人を一時的に見失うことになる。

 

 ドドドトトッッ! ドズズッ! 

 

「!」

 

 直後に真人の身体を無数の矢が襲いかかり、バランスを崩し、スピードが乗っていた真人は倒れる。

 

「どこから…。! 建物の上とかズルくね?」

 

 ヒュッーズドンッ! 

 

 七人の紫龍が集結、倒れた真人を囲む。それぞれが武器を構え、真人を狙う。

 

「ご丁寧に一人だけ残しちゃって…まぁ仕方ない。オ"エ"ッ"」

 

 ボチャボチャッ

 

「幾魂異性体!」

 

 幾魂異性体を四体、加えて改造人間を全て吐き出して数の利を得る。が、忘れてはならない。元々紫龍という男にとって、国家を覆すという行為は簡単すぎることなのだ。それこそ、一国の軍隊など相手にもならないというのに、元人間ごときでは足止めにもならない。

 

 パァンッ! ギリリリッ

 

「武芸百般、弓術。放てぇい!!」

 

 ドドドドッッッ!!! 

 

 パンッ

 

 一瞬にして殲滅。それと同時に、紫龍達に走った悪寒。真人の領域展開速度は、渋谷の黒閃後でないにしろ、屈指のスピードを誇る。

 

 領域展開 自閉円頓裹

 

 約一秒、僅かな間の領域展開。

 

 集中力は並のそれではないが、呪力の節約と言う点では遥かにコスパの良い方法。真人の術式は一撃必殺。

 

 七人の紫龍は瞬間同時に上半身が爆ぜた。

 

 バァンッッ!! 

 

「!」

 

 結界外の紫龍は驚きに一瞬狼狽え、その隙を真人が逃すはずもない。紫龍の懐に潜り込み、渾身の一撃を放つ。

 

渋谷(あの時)と同じ!! この感覚なら!)

 

 黒閃

 

 ヒュッ──バヂィィィッッッ!!!!! 

 

「…!!?」

 

 確かに真人の黒閃は爆ぜた。しかし、それは紫龍本体ではなく、彼が即座に生成した盾。

 

 ガシッ

 

「しまっ──」

 

 ニヤァ

 

「お返しだ」

 

 ゴヂィィッッメゴォォンッッ!! 

 

 真人の肩を掴み、笑みを零した紫龍は上から拳を振り下ろす。頭蓋を砕き、地面へと叩きつけるその威力。人間なら致命傷は免れない。

 

「むぅ…黒閃ではなかったか」

 

 ズリュゥッ…バギュンッ!! 

 

「うぉっと」

 

 身体から無数の棘を出して一度紫龍との距離を取る。

 

「魂に届かなくてもさぁ…痛いものは痛いんだけど?」

 

「奇遇だな。某もそれなりに心が痛いぞ」

 

「そうじゃねぇよ」

 

(でも改造人間は全部使ったからもう増えない。こいつ一人なら工夫次第で殺れなくはない)

 

「やっぱ今殺し時だな」

 

 ギギュゥゥ…

 

「ほう、まだ変形するか」

 

「アンタに奥の手(遍殺即霊体)は使わないさ」

 

 右腕を刃物に変形させ、真人は紫龍との完全な一対一に持ち込む。

 

 ガガッズドドッバキュッ! 

 

(格闘っつーよりも人を殺す動きだな)

 

 決して真人の身体能力が低いわけでも格闘センスがないわけでもない。寧ろ紫龍の方が格闘センスは劣っている。

 

 バドドッ! ズンッゴドォンッ!! 

 

 それでも均衡した状態が続くのは、紫龍の一撃の重さゆえである。変形した身体は拳や武器と鍔迫り合いになるたびに破壊され、その度に真人の身体も破壊される。

 

(どんどん威力が上がってく。黒閃が当たったらなんて考えたくもないな)

 

「でもさぁ!! 甘ぇんじゃねぇの!?」

 

 ボコッ

 

「!」

 

 紫龍の足元を真人の身体の一部が触手状に変形して掴む。ぐらつく足元の紫龍に真人は片手を出して飛び込む

 

「チェックメイトォ!!」

 

 パシッ ヴェンッ

 

(身体が!?)

 

「炎霊」

 

 ボォッ!! ボジュゥッ! 

 

「あっっづ!!」

 

 真人が紫龍の首元に手を伸ばしたとき、見覚えのある停止と炎の槍が真人を焼く。

 

「直哉殿! 四音殿!」

 

「紫龍のおっさん、報告やで。真希ちゃんと刹那ちゃんがさっき結界を出たわ。真希ちゃんが一応ポイント持ってたみたいやから、百点持って仲間と合流するんやと」

 

「なんでも、嫌な予感がするらしい。大阪にいる理由が無くなったから出るそうだ」

 

「と、いうことはつまり…?」

 

 紫龍の頭に浮かぶ疑問符を二人はため息をついて顔を見合わせる。

 

「コイツをさっさと祓って俺らは自由にやれっちゅーことや」

 

 直哉は親指で燃える真人を指し、呆れ顔で言う。

 

 メラメラ…

 

「好き勝手言ってくれちゃってさ。俺を祓うのはアンタらじゃ無理無理」

 

 ヘラヘラと嘲笑いながら両手をヒラヒラと手を振る。

 

「余程の自信があると見えるが…」

 

「おんなじ説明を二回もとかめんどいなぁ。これから死ぬやつに懇切丁寧に説明してやる義理は無いね」

 

 ギヂヂヂッ

 

「詳しい説明は某もよく分かっとらん。が、魂に攻撃が届かぬ我らでは祓えないそうだ」

 

「そうゆう、ことっ!!」

 

 ビキキッズンッ!! 

 

「「「!!」」」

 

 真人が声を上げた瞬間、道路が陥没する。会話のさなか、真人は地面に自身の体の一部を埋め、爆発的に巨大化させた。

 

あの時(渋谷)での戦いから金髪が一番厄介! ここで殺す!)

 

 直哉に飛びかかり術式を使用する真人。ここで予想外の一手が場を制する。

 

 パンッ

 

 紫龍は座禅を組むときと同様の印を結ぶ。

 

「領域展開」

 

「!?」

 

 紫龍の領域、真人はその全容を知っている訳では無いが、出し惜しまない彼の姿勢から確実に防ぐべきだと対象を変えた。

 

「領域展開!!」

 

「四音! 離れぇや!!」

 

 ガシッ、ヴェンッ

 

 両者の結界はぶつかり合う。しかし結界の構築時、主導権を握るのはより洗練された方であり、領域会得数日程度の紫龍には部の悪い勝負。また、紫龍も先程の極短時間領域展開を見て自身が押し合いに勝てないのは悟っていた。ならば、なぜ無謀な領域の勝負を挑んだのか。

 

「「領域展開」」

 

 勝算はシンプル、数で押す。

 

 真人の中に改造人間はいないながら、二人の術師がこの場にいるため、紫龍は二人複製するにいたる。

 

 そして、彼の術式は"全く同じ"自分を複製、分身として出現させる。つまり、その複製達も領域を同じだけ展開することができる。

 

 戦ヶ魅景×3

 

 自閉円頓裹

 

 紫龍は領域を最も効率よく展開するため、条件を真人一人のみに絞り、二人は結界の強度を、もう一人は術式の付与を行った。

 

 血煙、亡骸、幾千幾億もの武具の後。

 

 兵どもが死した大地が広がる。

 

「むぅ、直哉殿と四音殿を領域に入れないのは失敗だったかもしれんなぁ…」

 

「なんだ、アンタも使えたのか」

 

「さて、某では貴様を祓えないと言っていたな?」

 

「当たり前じゃん?」

 

「過去にいたのではないか? 貴様を祓えた術師が」

 

「……」

 

「察するに、虎杖とやらは何らかの方法で魂を攻撃できたのだろう。それが弱点なのは事実。しかし貴様も所詮は呪霊、死ぬまで祓えば──」

 

「もういいよ」

 

 ゾクッッ

 

 真人の雰囲気が一変、殺意と憎悪が真人の心根を支配する。真人は自身の顔に右手を当て、最後のカードを切る。

 

「所詮は呪霊ってさぁ…アンタらは所詮、どこまでいっても"所詮は"人間だろうが!」

 

 バシュンッ

 

 遍殺即霊体

 

 肘にブレード、外殻、運動能力を最大まで強化。

 

 虎杖と戦った時は初めから限界に近かったが、今回はそうではない。領域を一度展開しているとはいえロスは少なかった、改造人間を使って体力も節約した、彼に致命的な一撃は一度たりとて入らなかった。

 

 つまり、今こそ本番。完全な遍殺即霊体。

 

「なんと歪な姿よ」

 

「これが俺の剥き出しの魂の形さ」

 

 槍を携えて紫龍は鼻で笑いながら真人の異形を眺める。

 

 ミギギッゴキンッ

 

「いざ…参る!」 

 

 ボゥンッ!! 

 

 紫龍の十八番、正面戦闘と見せかけた足元の煙幕弾爆破。直後に遠近中全方位からの一斉攻撃がなされる。

 

 チュドバギドゴズドドドドッ!! 

 

「今の音は…!? ゴポッ」

 

 バァンッ! 

 

「まさか、こんなんで終わるわけねぇよな?」

 

 全ての攻撃は真人に届いた瞬間にはたき落とされ、即座に距離を詰めた真人の掌が正面の紫龍を捉えて身体が爆ぜる。

 

 しかし紫龍の魂は領域内にて不滅。再び武器を取り立ち上がり向かっていく

 

「少しは楽しませろよ、紫龍」

 

 ──ー

 

「トロい! あんくらい自分で避けぇや! 俺まで巻き込まれるとこやったやろがこのダボ!!」

 

「す、すまない…」

 

 目の前で領域を展開された二人は球体の結界の前で騒ぐ。

 

 時間にして五分程度、その喧騒は破られる。

 

 バキンッ…

 

「お、なんや遅かった…んなのんびなこと言えへんみたいやな」

 

 紫龍の首を二つ携え、完全に変形し異形化した真人が、鮮血を体に纏って堂々と現れる。

 

「流石に俺も無傷とはいかなかったな…二、三度身体が壊れたか。四、五百人くらいか? ベストスコアかもな」

 

(彼の実力でも…!)

 

「ほー、でも殺し損ねたたみたいやな?」

 

「兵だか侍だか知らないけど、結局弱ぇやつは逃げるしか出来ないんだよ。まぁ、最後にタッチしたからもうまともに動けないだろ」

 

「ほなら、俺とやろうや。最後に拝む面が野郎でも悪いなぁ」

 

 直哉はルーティーンにトントンと足を鳴らし、四音も指に呪力を籠める。

 

 ズダァンッ!!! 

 

 直線に踏み込み、肘のブレードで首を飛ばそうとする真人の一撃を、直哉は回避して伸ばした腕に触ろうするが、ミート変形で身体を変形してそれを避ける。

 

(前より変形速度が上ごてる! 面倒やな)

 

 ギュルルッ

 

「霊風」

 

 真人はそのまま縦に回転、直哉の身体を縦に斬ろうとするが、四音の術式で斬撃は逸れる。

 

(重い!)

 

 四音の術式は憑依術の一種、魂の重さにダイレクトに起因する為、表面上の真人への直接の危害が極端に薄い。

 

「お前…あ、羂索の中にいた時に見たよ、廻折じゃん。なに、裏切ったの?」

 

「元々仲間なんかじゃない、私の理想とかけ離れた事実を嘯く怪物共め」

 

「ハハ、人間ってやっぱり真に生きてない。自由への憧れに身を焦がして、大地を踏みつけ、ゴミみたいな思想を嘯く…駄目だな。漏瑚に似てきた」

 

(来る!)

 

 ズンッ! 

 

「重力」

 

 ズンッ!!! 

 

「うぉっ」

 

 ヴェンッ、パキンッ

 

「フッ!」

 

 バギィッ!! 

 

「おまけや!」

 

 ヴェヴェヴェンッバォンッ!! 

 

 吹き飛ばした真人に向かってフレームを重ねて空気を爆ぜさせ追撃、しかし外皮の異常な硬さを盾に直哉に突撃する。

 

「水霊!」

 

 ザブンッ

 

 今度は真人ではなく直哉を動かそうと水を生成する。しかし、真人の狙いは直哉ではなく六芒星をなぞり無防備になった四音。

 

(まずい! しくじった! 回避っー)

 

 ヒュッ

 

「! 霊…っ!」

 

 コォッ

 

「「…?」」

 

 空洞に空気が入るような間抜けな音、二人は著しく停止する。やめたではなく、停止。確実に四音の胴体を狙った横蹴りは完全にその場で止まった。

 

「…何した?」

 

 四音の術式は()を操り、憑依させる。真人の剥き出しの魂、実力と相互して完全な空白の状態を生んだ。そしてその隙を、直哉は見逃さない。

 

 60fps

 

 三秒間

 

 ──ーッッッドドドドッッッ!!!! 

 

「まだまだまだまだ!!!」

 

 ヴェンッヴェンッヴェンッ

 

 バギズドガリッズドドバゴォンッ!! 

 

 停止のギリギリを突き、再び停止。身体を飛ばさないように地面に叩きつける動作を繰り返す。

 

(この野郎ッ!)

 

 真人はほんの僅かな直哉の呼吸の隙間に攻撃を挟み、直哉の術式を中断する。

 

「どんなに攻撃しても! 俺の魂には届かねぇんだよ! クソ術師共がぁ!!!」

 

 ズンッ! 

 

((速っー))

 

 ガシッ!! 

 

「お前はっ!?」

 

「おっさん!」

 

「紫龍!」

 

 さらにギアを上げ、豪速で腕を振るった真人の腕を、左腕が欠けて兜が半分壊れて半面が崩れた満身創痍の紫龍が止める。

 

「死に損なってるお前に何ができんだよ!」

 

 ヒュッーガギンッ

 

「確かに貴様は死なないのだろう…だが、ルールの上ではどうだろうな…!」

 

「!」

 

「よせっ! それ以上はっ!」

 

 総則11

 

 一度でも得点の変動が見られた泳者は結界への出入りが自由に可能となる。尚、得点の変動が無い場合、"強制的に術式を剥奪"する。

 

「武芸百般馬術…!! 金剛走兵(こんごうそうへい)!!!」

 

 ズドンッ! ダガダガダガダガッッッ!!!! 

 

 馬を生成した紫龍は真人の腹に腕を突き刺し、全力で結界の端まで走りだし、同時に直哉も駆け出す。

 

「クソジジィーッッッ!!!」

 

「よせやおっさん!!!」

 

「このまま結界の外へ行けば術式の剥奪が行われます! 本当によろしいですか!?」

 

 ギリリリッッ!! ボキッ

 

「プッ、アハハハ!!! いいよお前!! 地獄で白黒つけようぜ!!」

 

「このまま結界の外へ行けば術式の剥奪が行われます! 本当によろしいですか!?」

 

 コガネが繰り返して警告するも、意に反して進み続ける真人は大笑い声をあげる。

 

 ヴェンッ──パシッ

 

「アホか、逝くのはあんさんだけやろ」

 

「──っふざっ──!!!!」

 

 馬に追いついた直哉はフレームの箱で紫龍だけを止め、真人だけが物理法則に従い、馬と共に結界外へ追い出される。

 

「術式の剥奪が行われます。お疲れ様でした」

 

 バシュッ

 

 二人の術師に届かぬコガネの声が真人に響き、術式剥奪の後に結界外へと放り出された。

 

 タタタタッ

 

 四音が追いつき、目にした現場は胡座をかき、口と目から血をボタボタと流す紫龍の姿。

 

「おっさん! 目ぇ覚ませや! 寝てんとちゃうぞボケぇ!!」

 

「おい、紫龍! 君はそれでいいのか!」

 

「……」

 

「おいこらクソジジィ! なんとか言えや!」

 

「某、一人を好み、孤独を嫌った…。何度も、何度も何度も戦場にて、この戰場(いくさば)を振るった…」

 

「おいやめろ! 聞きたくないぞ! 出会って間もなくとも、君が目の前で死ぬ理由にはならないぞ!!」

 

「呪術師に…言葉を遺せる最期があるとは思っていなかったが…某は幸運だ…!」

 

 紫龍は潰れた両目で空を見上げ、今度こそ死に際の宣言をする。

 

「某は暇を貰おう…永遠(とわ)の暇を…。阿頼耶識殿も真希殿も、そして貴殿らも…悔いは遺すな。某には、一片たりとて悔いはなし…!!」

 

「…おい、おっさん?」

 

「コガネ、大阪に生存してる泳者に紫龍は?」

 

「現在から一分以内の死亡を確認しています。脱落です」

 

「そうかい…えぇ最期やなぁ、おっさん」

 

「そう…だな…」

 

 千年前。厄災、宿儺による鏖殺に耐え抜いた紫龍。

 

 彼の生き様は最期まで彼らしく、兵らしくあった。




次はいつになるやら、、、
そういえば、皆さんはオリジナルの領域展開の名前、何が好きですか?全部ちゃんと由来や頭ひねったんですけど、やっぱり個人的に一番は"未了無還門"ですね。
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