全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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お気に入り900人突破!ありがとうございます!!!
UA数も着実に増えていって、沢山の人に見てもらえてるんだなと感じて嬉しい限りです!


第七十ニ話 羂索と天元

 各々の準備が着々と進む中、結界外で起こった出来事はそう多くはない。

 

 禪院家 当主が死滅回遊に参加、その直後に炳、灯共に全滅。羂索の手に落ちる。

 

 狗巻棘、家入の回復中であり現在戦闘不能。

 

 各所に点在している、渋谷事変に関わらなかった残った組織的な呪詛師達は、"ボス"の遺向通り未だ完全に沈黙を貫く。

 

 11月16日0時00分

 

 羂索 薨星宮直上到達

 

「別に、君にはもう用も興味もないんだけどね」

 

 和服の裾に手を入れ、呆れた表情で羂索は脹相を見る。

 

「俺にはこれが興味なのかも分からない。ただ、漠然とお前に対する殺意が湧いてくる」

 

「…天元はどこにいる?」

 

「あの喋る親指は会いたくないそうだ。嫌われ者だな」

 

「そういう君は使い捨ての前座というわけだ。せいぜい踏ん張りな」

 

 親子の会合、決して好意という感情のない殺意を当てられる羂索は笑って受け流す。

 

「死滅回遊は既に役割を終えた。イレギュラーは多少あったが、私が蒔き続けた種のお陰で予定通りだ」

 

「!?」

 

(どういうことだ!? 速すぎる! 悠仁達は無事なのか?)

 

「つまりここで天元を取られたら君達の負けだ。この国、もしかしたら世界もね。見せてあげるよ、終わりの可能性、その一つを」

 

 パタパタパタ

 

 羂索はそう言うと、結界をいじって劇場のような場所を作り出し、映画のようにして脹相に映像を見せる。

 

「九十九由基は渋谷で天元との同化、私の言う呪力の最適化を術師になることだと指摘した。だがそれは特段牧歌的な平和を目指さない私にとって死滅回遊の検証に過ぎなかった。しかし日本人が呪力資源として消費されるとことまで懸念しているのは驚いた…というより嬉しかったな。やはり彼女の考方は私に似ている。話がズレたね」

 

 科学者気質の羂索は説明口調でさしたる興味もない脹相に話を続ける。

 

「私は以前から、術師と並行して呪霊の可能性も考えていた。もう一段階上の存在に進化させることで呪力の新しい形が生まれると。だからこそ君達にはがっかりした。混血なのに普通すぎる」

 

「次、弟達に触れてみろ、この余興を待たずに殺してやる」

 

 はいはいと呆れたように溜息をついて話を続ける。

 

「進化した天元は人間より呪霊に近い。日本人と非術師と天元との同化は一億人の呪力を孕んだ呪霊になると見ている。渦巻きやジュカイのように何かしらの抽出も起こるかもしれないと、当初はそれを目的に考えていた」

 

「?」

 

「だが、私は知ってしまった。十数年前に生まれた完成された阿頼耶識の存在を」

 

「…あの娘がどうしたと言うんだ」

 

 脹相の問を待っていたと言わんばかりに羂索は笑顔を向ける。

 

「彼女の術式はありとあらゆるものを消し去るという狂気じみた代物。物理エネルギー、呪力、世界の理さえも、彼女の前では文字通りに"無"に等しい。というよりも無、そのもの。彼女の手が届く全ては無に帰すんだ」

 

「……」

 

「しかし、私は観察してもう一つの可能性に辿り着いた。そこで君に聞きたい…彼女の極の番の中は、どんな場所だったのかな?」

 

「…答える義理は無い」

 

 腕を組んで脹相は羂索を見下ろして睨みつけ、絶対の意志を貫く。

 

「当ててあげよう。彼女の"雫"の中身は恐らく無限のエネルギーが往来する、漆黒の空間なんだろう?」

 

「………」

 

「その沈黙はきっと肯定だ。そして、君が閉じ込められた時、君は無傷で出てきた。無論、乙骨の助けあってのことだろうが、本来閉じ込められれば即死は免れない空間、いかに彼女が手加減したか伺える」

 

「…だからどうした」

 

「恐らく、極の番内のエネルギーは彼女から捻出されたものではなく、今まで消し続けたものだ。無論、エネルギーだけでなく、理や物質さえも。そして、それを定期的に身体から排する手段が極の番だと考えると? そこから生まれる結論。彼女は、無限級数的数値のエネルギーを溜め込める受け皿ということだ」

 

 ガタンッ! 

 

「長々と脈絡のない考察ばかり。貴様の口は下らん演説を垂れるためのものか?」

 

「はは、すまないね。昔からの癖なんだ」

 

 パチンッ カラカラカラ…

 

 羂索は指を鳴らして劇場を解体し、再び空性結界最初の空間に戻る。

 

「天元との同化、一億人分の呪霊、阿頼耶識の存在。お前はそれらの可能性から何を示唆する! それによってお前は何を得る!!?」

 

「さぁね。面白いと思ったことは、実行するまで面白いかどうかは分からない。もしも一億人分の呪霊が抱腹絶倒の間抜け面だったら? そしてその呪力の塊をもしも彼女(無限の受け皿)が受け取ったら? 皿から溢れるのか、それとも、受け皿の方が別な何かへと変化、あるいは進化するのか…興味に絶えないね。考えるだけで笑みが溢れてしまうよ」

 

(穿血!!!)

 

 ギヂギヂッドビュンッ!!!! 

 

 これらもただの憶測に過ぎないが。そう一言加えて羂索は腸相にヘラヘラと笑って見せ、脹相は直後に穿血を放つ。

 

 ヒョイッ ブゥンッ!! 

 

 羂索は避けると同時に背中に忍ばせていた小型の槍を投げ込む。それを腸相は伸ばしたままの穿血で薙ぎ払い追撃を仕掛けに行く。

 

(赤燐躍動!)

 

 クンッバキィッ!! 

 

 いとも容易く身体を強化した動きを捉え、羂索は顔面を殴り飛ばす。

 

 しかし、ただでは転ばず圧縮した血の塊を目の前で爆ぜさせる。

 

 ギュゥウッ 

 

「超新星」

 

 バキュンッ!! 

 

 しかしそれは体の一部を硬度の高い呪霊に変形させた羂索により不発に終わる。

 

「答えろ、悠仁に何をさせるつもりだ。150年放置してきた俺達とは訳が違うはず、悠仁で何を企んでいる」

 

「うーん…アレは具体的に役割はない。宿儺の器であることが役割で始まりの狼煙だからね。あぁでも、出来るだけ酷く阿頼耶識刹那の前で死んでくれるとありがたいかな」

 

 ビキッ バゴォッ!! ズズンッ…

 

 怒りに任せて放った穿血はあっさりと避けられ、近くの木を模したものに当たり倒れる。

 

「お前が生き続ける限り…! 呪いの連鎖は終わらない!! 全ての不幸の中心はお前だ! 加茂憲倫!!!」

 

 ドジュルッ!! 

 

「ゲホッ…!?」

 

(さっきの槍!? 呪具だったのか!)

 

 最初に弾いた槍が突如として腸相の脇腹を抉り、羂索の手へと戻る。

 

「私の手札を割りたいんだろう? しかし、呪霊合術は術式を"脳"に適応させ、呪霊を身体に取り込みストックする。手札の数は呪霊操術の渦巻きによる抽出の比ではない」

 

(なんだと…!)

 

 脹相は九十九へ出来得る限り最高のパスを繋ぐため、羂索に術式の開示をさせる算段だった。しかし、無駄を知らされて次への行動が遅れる。

 

 ヒュッ

 

「!」

 

 ドゴガァンッ!! 

 

「だが、君にこの呪具以上のモノを使うつもりは無い。なんせ君らは失敗作だからね!」

 

 ドゴッドゴッドゴッ!! 

 

 羂索は頭を掴んで地面に叩きつけると、何度も頭を踏みつけ腸相を愚弄する。 

 

 ガシッ!! 

 

「お前に弟達の何が分かる…!!」

 

 ドスッ! 

 

 足首を力強く掴むが抵抗虚しく槍を肩に刺され、そのまま近くの木に貼り付けにされる。

 

「術師にとって特級が何を意味するか、それは単独での国家転覆が可能であること」

 

 羂索は自身の見解、ないし現状を話し出す。

 

「五条悟は六眼に無下限という圧倒的な破壊力と何者をも寄せ付けぬ神秘の壁で。夏油傑と阿弥部高聡は、個が持つには余りある呪霊という異形の軍で」

 

 羂索はそこまで言うと、一言付け加える。

 

「呪術界に夏油傑と五条悟がいたように、二人の巨塔が呪詛師の間にもいた。うち、片方は覚えている者は極一握りだろうがね」

 

 息も絶え絶えな脹相は槍を抜けず、唯一貰った時間の猶予を噛み締めるしかない。

 

「さて、話しすぎたね、終わりにしようか。最期くらい、親らしく遺言を聞いてあげよう」

 

(俺は兄失格だ。弟達を守り…お手本になる…それが兄だ。俺は面白くない…! でも!)

 

「弟達を、面白くないなんて言わせない!!」

 

 ドパァッッ!!!! 

 

「!」

 

 脹相は呪力を大量の血液へと変換、槍を流してい抜け出し、兄としての意地を、威厳を見せる。

 

「九相図兄弟ぃぃいい!!! ファイヤー!!!」 (お前達の力を貸してくれ!!)

 

 パシンッドヒュンッ!! 

 

「穿血!!!」

 

「穿血は初速がトップスピード。一度躱してしまえば、その後どう軌道を修正しようとそこまで脅威ではない」

 

 ヒュンッズドドドッッ!! 

 

 脹相は再び穿血を放つが、それを容易く避けられ問題点さえも提起される。しかし今の彼は、弟達に背を押された兄。その程度では終わらず、穿血は羂索を追尾する。

 

 ギュンッ! 

 

「!」

 

(これは壊相の──)

 

 バサァッ! ヒュンッーズドッ! 

 

「っぐぅっ!」

 

 羂索は背から呪霊の羽を生やして追尾する穿血を避け、呪具を背後から手元に引き寄せて肩を抉り追撃を加えると科学者のように追問する。

 

「追尾を付与したところで、威力も速度もお粗末、加えて毒も親の私には効かない。今一連、意味あった?」

 

「壊相のように優雅にっ! 血塗のように!」

 

 ブチブチブチッドヒュンッ! 

 

(自由に!!)

 

 ガシッ!! ドゴォンッ!! 

 

 脹相は自身の腕を千切り、血液を固めたもので繋いだまま遠くの羂索の襟首を掴んで叩きつける。

 

 戦闘が始まってから初めて一撃を加える。しかし羂索は身体を呪霊に変形、ノーダメージに抑えるが、突発的な戦闘スタイルの変化に羂索の反応は遅れ、もう一度同じ方法で掴み脹相は自らの元へ引き寄せる。

 

「悠仁のようにっ!! ぁ"ぁ"あ"あ"あ"ッッ!!! パワフルに!!!」

 

 持てる力を一杯に振り絞り顔面を殴りつけるが、首から呪霊を生やして盾にして塞ぎ、脹相を煽る。

 

「終わり?」

 

「どうでしょう!!」

 

 ビュンっ!! 

 

 再び追尾を付与した穿血を放つが、離脱した羂索はそれを容易く避けて飽きたように話しかける。

 

「だからそれじゃ速度も威力も──」

 

(追尾するそれは運河だ、圧縮した血液を近くに運ぶための!!)

 

 油断。完全に気を抜いていた羂索の虚を突く。彼の完全オリジナルの赤血操術による最高の一撃。

 

「超新星!!!」

 

 ズンッ!!! 

 

(不発…? 違う! 全方位、血の散弾を落とされた!)

 

「チッ」

 

「使ったな!! 呪霊合術以外の何かを!!」

 

「私は一人っ子だけどさぁ…最高だぜお兄ちゃん!!」

 

 全ての血の散弾を落とされ、羂索の実力の一端を公開させることができた脹相の役目は一度終わりを告げて天元に回収、一言告げて九十九由基が現れる。

 

「ナイスファイト! 後は私に任せて」

 

 カシャンッ…

 

「泥臭い男は好み(タイプ)だよ。それに比べて…叩き直してやる」

 

 ビキキッ

 

(私好みに…!)

 

 九十九は羂索を見据え、両腕に力を入れて呪力を滾らせる。

 

(九十九由基…特級が与えられている以上は総督部は術式情報を握っていると思ったが、彼女の情報は得られなかった)

 

「あまり近付かないでもらおうか」

 

 ズズズッビキキッ…

 

 羂索は象形の呪霊を体の表面に纏い、歪な変化を見せる。

 

「輸入モノだろ、それ」

 

「あらゆる障害を取り除くアジアの特級呪霊。そう、術式対象に概念が絡む特級呪霊さ。さて…お手並み拝見」

 

 ギチギチィッッ! 

 

「"凰輪(ガルグ)"!!!」

 

 バッードゴォッッッ!!!!! 

 

 九十九は凰輪を丸め、渾身の蹴りを繰り出して撃ち出す。羂索は呪力を籠めてガードするが、予想を裏切って放たれた"凰輪の重さ"、片腕を木っ端微塵に吹き飛ばす。

 

 ダッ!! 

 

「私の術式が分からなくて近づけないか? なら教えてあげよう。"質量"だ」

 

 ボグッ! キィーンッッドグォッ!! バゴッッ!!! カシャンッ…! 

 

("質量"…か。術式対象の概念…! その内包と外延に収まらない程の圧倒的質量!!!)

 

 羂索は術式の種を両腕を折られ、頭を弾き飛ばされたことで身体に受けて理解する。

 

(そう! それが私の術式! 自らに仮想の質量を付与する星の怒り(ボンバイエ)! そして凰輪は私以外唯一の術式対象!!)

 

 ザッザッザッザッ…

 

(速度が落ちていないところを見ると術師本人に影響はない。となると、渋谷で作った等級の高い呪具は脆いから使えない。だが果たして、私と内蔵した術式だけで、この獣を狩ることが出来るだろうか)

 

("重力"だ。あれは"重力"だった。羂索は呪霊合術と肉体を渡る術式以外にもう一つ術式を持っている。それがあの重力だ。そして羂索の言う、術式を脳に適応させて半無限に持ち運ぶ。それはきっとブラフだろう。大量の術式など、乙骨君のようにリカに外付けしない限り、アイツの脳は焼き切れるはずだ)

 

 真人が大阪に向かったことは、既に憂々から九十九は知らされている。今受けた攻撃と状況から推察し、互いに術式を解明していく。

 

(渋谷での大量の呪霊の放出、今まで見せた術式、その種がもし私の想定する術式だったその時は…)

 

「九十九由基、君の考えを当ててみせようか。この術式のことだろう」

 

 クルンッーブゥンッ

 

 羂索は指先で円を描く。その空間には穴が空き僅かに垣間見るその先の景色は、複数の脳が瓶に保管された部屋。

 

 ビキキッ! 

 

 同時に九十九は憤怒を顕にする。

 

「今見せたのは私の術式のストックさ。実はこれらを使のは結構なリスクでね。息子の頑張りに免じてそれだけ教えてあげるよ」

 

 羂索は髪を上に上げてうなじを見せる。そこに空間の穴を空け、術式をストックした脳から管を繋げていた。

 

 ズォッ!!! 

 

「ソレは私の友人の術式だ…!やりやがったな、墓荒らしめ!!!」

 

「くくっ、呪術師が呪詛師を友人として見るのか! 目の前にいながら救えなかった女の戯言か!?」

 

 ──ドンッ!!! 

 

 ズンッッ…!! 

 

 九十九は羂索の言葉に激怒、術式を発動させて大地を踏み、空性結界ごと砕き割り羂索の足元を崩す。

 

「ッ!」

 

「凰輪!」 

 

 ブゥンッ! ドゴゴゴッ!! 

 

 凰輪を鞭状にして薙ぎ払い、羂索を攻撃するが、羂索は背から羽を生やしてそれを避ける。

 

(私のストックしている術式はざっと二十個程度、そのどれもが九十九に決定打にはなり得ないだろう。呪霊で凌ぐか──ッ!)

 

 カシンッズドッ! 

 

「!」

 

「食いしばれぇ!!」

 

 ズッドォンッ!! 

 

 凰輪を棒状に固定、棒高跳びの要領で九十九は羂索に掴みかかり頬を殴り飛ばす。

 

 ゴッ!!! ガッ! ドトッ

 

「ガハッ!」

 

 しかし変形させた呪霊を挟んで威力を格段に抑えるがダメージは隠しきれず、息を切らして羂索は受け身を取る。

 

「ッ! おいおい、そう怒るなよ。名も無き術師の残党を、私が有効に利用しているだけだろ」

 

「あの子は…"まほろば"は!! 私の大切な友だ!!そしてその術式は幾年もあの子に連れ添った仲間達の物!! テメェが使っていいもんじゃねぇんだよ!!」

 

 ビュッ! ガッ! ドドッ!! 

 

「今や"まほろば"を記憶している者は私と天元、それに君だけ。そこまで言うなら、友の矜持を守ってみせろよ、九十九由基」

 

(!早っ──)

 

 領域展開 胎蔵遍野(たいぞうへんや)

 

 羂索は両手の甲をつけて指を交差させ、象印を結ぶ。

 

 羂索の背後に現れる人と呪霊の形を歪に組み合わせたような禍々しい巨塔、領域を解体するという三人の算段。

 

 誤算

 

(解体すべき外殻が…無い!!) 

 

(シン・影流簡易領域!! 急げよ天元!)

 

 ゴリゴリゴリッ!! 

 

「クソッ!」

 

 羂索が展開したのは、渋谷で宿儺が見せた結界を閉じずに領域を展開する離れ業。天元は空性結界を外殻とみなして瞬時に解体にかかり、少しでも長く時間を稼ぐために簡易領域を展開する。

 

「? その程度で私の領域を防げるとでも?」

 

「なるほど、そういうことか。いかにも引きこもりらしい旧態依然な考えだ」

 

 バリバリバリッ!! 

 

(クソッ! 全部剥がされた!)

 

「天元、私は君と違い"生きて"きたんだ。千年続く! 龍戦虎争! 合従連衡の!! 呪いの世界を!!!」

 

 羂索は片腕を大きく振り上げて落とし、出力を更に上げた超重力で押しつぶす。 

 

 バチュンッ──パキパキンッ

 

「空性結界ごと私の領域を解体したか。歳相応の維持を見せたな。そして九十九由基、残念だったね。まぁ死ぬことはない。記憶の中で"まほろば"を生かすといい」

 

 羂索は勝利を確信してニヤリと笑い目の前の血だらけの肉となった九十九を横目に話す。

 

「せめて自らの領域で押しあえばここまで退屈な結果にならなかっただろう。天元を信頼した君達が悪い。天元はまだ君達に隠し事をしている。死滅回遊の──」

 

(式神が消えていない…!!)

 

 チャプッ──ドゴンッ!! 

 

 凰輪が羂索を強襲。それを避けるも、片腕が潰れて血だらけの九十九が立ち上がり羂索に蹴り技のみでしかける。

 

(まだ意識があったか! 式神で反転術式の時間を稼ぐつもりだな…いいさ、私はその間に術式を回復させてもらう)

 

 グルンッドゴンッ!! 

 

 羂索の予想を裏切るように、時間を稼ぐことを視野にいれずに右足を蹴り上げてから振り下ろし、さらに上段蹴りを繰り出して羂索の集中を削ぎ、二人は目だけで会話する。

 

(治せよ!!)

 

(治さねぇよ!!)

 

 ビッ! バッ! ドゴッ!! 

 

 グルンッズンッ!! 

 

(重っ!)

 

「! ォ"エ"エ"ッ」

 

 ビチャチャッ! 

 

(…限界か)

 

 凰輪が羂索に巻き付き質量を増加させて動きを止める。しかし同時に訪れる九十九の限界。

 

「虚を突いたつもりだろうが、もう少し頭を使ったやり方を考えるべきじゃないか?」

 

「言っただろ。泥臭い方がタイプなんだよ」

 

 パキンッ

 

 伏兵

 

 脹相が空性結界の外側から天元との協力により侵入し、その殺意をゼロ距離で羂索へ向ける。

 

「親殺し!! いきまぁす!!!」

 

 ドヂュッ!! 

 

「「!!」」

 

「ドンマイ!」

 

 羂索は額の紐を取って頭蓋を回転させ、スリッピングアウェーの要領で穿血を受け流す。

 

「面白くなっちゃってんぞ落ち武者!!」

 

 バスッ!!! 

 

 しかしダメージがあるのは事実、九十九は星の怒りで蹴りを顔面に打ち込む。

 

負傷(ダメージ)で星の怒りの出力が落ちてなければヤバかったね)

 

(そういう芸当を披露するくらいには追い詰められてんだろ!?)

 

 ビッ!! バズッ!! ドドッ!! 

 

 九十九の蹴りを避けた先に脹相の拳が直撃。さらによろける羂索の背中に九十九の重たい一撃、しかし身体の一部を呪霊と化した羂索にはどれもが決定打に欠け、表面を削るに留まる。

 

(星の怒りの出力を戻させる!!)

 

「九十九!! 治せ!!」

 

(助かるぜお兄ちゃん!!)

 

 ザァッ! ポゥッ

 

 ガッ! ギュンッ!! 

 

(反転術式の運用で星の怒りが甘くなった一瞬を抜かれた!!)

 

「!?"凰輪"!!」

 

 ボゴォッ!! バガァンッ!!! ズドドッッツ!!! 

 

 鞭状に振るった凰輪は空性結界を破壊し、水に浸された"下"へと三人は落ちる。

 

 羂索へ穿血を放つ脹相と、怪我を治して自身の質量を爆増させて殴りかかる九十九。

 

 策略を出し切った両者の戦いはさらにヒートアップしていく。

 

 ヒュオッ!! ズンッ!!! 

 

(クソっ……!! クソクソクソっ!!! 術式が回復してしまった!!)

 

 殴りかかる脹相と凰輪の先端を回復した重力の術式で押しつぶす。

 

「ふぅ」

 

 ヒュアッビッ!! ズゥンッ!! 

 

 凰輪は羂索の術式範囲外から尻尾の先端で羂索を襲うのをさらに術式で押し潰す。

 

(六秒!! 術式効果範囲は二〜三m! 持続時間は六秒!! そしてインターバルを呪霊合術で潰す!)

 

 ズズズッドゴォンッ!! 

 

「ゴホッ」

 

 身体を呪霊に変え、調伏済みの呪霊を数体身体から切り離すが九十九の凰輪の一振りで全滅し、羂索に掠りダメージを蓄積させる。

 

 今の羂索は今までにないほどに攻め時の状態。

 

 術式も体力も全て割れて削れている。

 

(攻める!! こんなチャンスはもうない!!!)

 

 ゴッ!! ズドンッ!! 

 

(これは──ッ!!)

 

 羂索が殴り飛ばされた瞬間、九十九の眼前に空間の穴が空き、遅れて脹相と九十九は気付く。自分達が落とされた上階にある、無数の呪具の気配に。

 

「過去。もし"まほろば"が選択を違えなければこの術式は手に入らなかった。君の友とやらに首を締められる気分は、さぞいい気持ちだろう?」

 

(俺の命の使い所はここしかないんだ!!!)

 

 脹相はこの数日を頭の中で振り返った。兄弟を一人にしてしまったこと。一緒に苦しめなかったこと。自分が楽な道に進んでしまったこと。

 

「羂索!!! こっちだ!!!」

 

「…いや、君は来るな。呪いとしての君は死んだ。ここからは──」

 

 パキンッ

 

「!? 九十九ォ!!」

 

 呪霊合術 極の番、ジュカイ

 

 ズッドドドドドッッッッ!!!! 

 

 何かを言いかけた九十九に向かって土煙が舞う。無数の呪具は耐久力を代償とした攻撃力と、羂索が仕込んだ"反転術式を妨害する呪物"によって九十九に回復の隙を与えない。

 

 砂煙が晴れた先にいたのは、両腕を失って立ち尽くした九十九。

 

(…終わりか)

 

 フラフラと前進し、今に倒れる九十九を見た羂索は終わりを悟る。しかし、彼女の意志は折れていない。

 

 ダンッ!!! ズォォッッッ!!!!! 

 

「星の怒りで調整した質量の影響を私自身は受けない、ある一定の密度まではな!!」

 

(星の怒りで付与できる質量に限界がないとしたら)

 

「まさか! ブラックホールか!!?」

 

 パリンッ

 

 超高密度、地球を直径ニセンチにまで縮める圧力が二人を飲み込む。徐々に漆黒が二人を覆い込んでいく。

 

「重力を扱う割に想定が甘いんじゃないか!? 重力も! 質量も!! 突き詰めれば!!!」

 

 ────!!!!!!! 

 

 そこに広がっていたのは瓦礫と廃材と化した高専。

 

 そして結末を見届けるために現れたのは天元。

 

 ドドッガラガラッ

 

 羂索は生きていた。

 

「たまげたね、実際」

 

「…術式反転か」

 

「いや、今までが反転だ。虎杖香織に刻まれた術式さ。賭けだったが、術式を自身の身体に限定する縛りでなんとかなった。本当、肝を冷やした。ついでだ。"裏"ももらっていくとしようか」

 

「そうか…。だが、まだ私は手札を全て公開したつもりはないぞ」

 

「脹相のことかい? 彼はもう、私の脅威では──」

 

 キンッ…キンキンキンッ──ドガァンッッ!!! 

 

「!!?」

 

 羂索の完全な想定外。瓦礫を吹き飛ばして現れたのは、ボロボロながら命の繋がる九十九を抱えた、阿頼耶識刹那の姿。

 

「…刹那だと!?」

 

「間に…合った!!」

 

 羂索のフル回転させる脳によぎる二つの選択肢、逃走か、天元の奪取に全力を注ぐか。

 

 今の刹那は大阪から術式を使って移動し疲労困憊。加えて、九十九をブラックホールから救い出した莫大な呪力の消費でギリギリの状態。汗は止まらず肩で息をしている。

 

「天元様! 被害は!!?」

 

「裏は無事だ!! 本体の座標は割れている!」

 

「了解!」

 

「せつ…な…私は捨て…」

 

「絶ッッ対にイヤです!」

 

(好機! 捨てられぬ甘さが君の弱さだ!! 今は相手にしていられない!!)

 

 ブゥンッ

 

 羂索は空間に穴を空けて天元の本体に手を伸ばす。

 

 キンッ! グパァッ

 

 刹那の斬撃によって穴は斬られ、伸ばした腕も同時に縦に割かれる。

 

(チッ、そう簡単にはいかないか)

 

 ギュンッッガガガッッ!!! 

 

 羂索の使役する呪具達を刹那は片腕だけで破壊し続ける。消耗戦、このままいけば呪具が先に全て破壊される羂索が取った最後の策。

 

(ここで使いたくはなかったが! 仕方無い!)

 

 ぶくぅっ! 

 

「!」

 

 羂索の前の床が突然大きく膨らむ。

 

 羂索が繋げている20の術式ストック。デメリットとして出力を最大にする、もしくは三つ以上併用するとその術式は焼き切れて二度と使えない。

 

「ここら一帯、まとめて弾け飛ぶといい」

 

 最大出力の一撃。

 

 バァァンッッッ!!!!!! 

 

 ブラックホールで壊れた高専をさらに吹き飛ばす一撃。羂索の攻撃的な術式の一つ。

 

 キンッ…

 

 刹那の寂滅為楽による一振りは、衝撃や爆発など意に介さない。しかし、横に一振りした隙間から先に見えるのは、左手には"裏"を。そしてもう片方の手で空間に穴を空けて天元に触れている羂索。

 

 パッ キキンッッ!! 

 

 バララッッ

 

 瞬時に距離を無くして斬りかかり、左腕をバラバラに斬り刻む。

 

 ズンッ!!!! ズァッビタァッ! 

 

 羂索の重力場にも、全身に呪力の靄を纏って耐える。だが、あと一歩だった。

 

「重力にも耐えるか…だが、私の勝ちのようだね」

 

「待てっっ!!」

 

 ヴゥンッ

 

「じゃあね、近いうちにまた会おう」

 

「羂索!!!」

 

 刹那の叫び虚しく、羂索は去っていった。

 

 完全に瓦礫となった高専の一角、そこで行われた歴史的な戦いは、高専側の敗北となった。




近況報告?この度、上京することになってバタバタしてまして、向こうに行ったらコミケとか行ってみたいですね〜。
変わらず小説は投稿を続けますのでご安心ください。
是非もう一つの作品、【瞳を閉じぬ裁定者】の方もよろしくお願いします!
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