全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

78 / 90
コロナで中々気力湧かなくて、話は前々から出来てたのに投稿サボってました。


第七十六話 記憶

 史上最強故の、余裕の態度を見せる宿儺は袖から手を出すことなく、防御のために呪力を練ることもなく、石流の全力の溜めを待つ。

 

(言われずとも……!!)

 

 キィィィンッ

 

 出力最大

 

 グラニテブラスト

 

 ──ッッドォォォッ!! 

 

 バヂヂィィッッ!!! 

 

 死滅回遊一の大砲と例えられる彼の最大出力。宿儺は不動の姿勢から、即座に片手を出して受け止める。宿儺がいた場所から二股に別れたブラストはスタジアムを瓦礫へ変化させ、崩落させる。砂埃が落ちて晴れる頃に垣間見える顔。

 

 呪いの王は、嘲笑っていた。

 

「ハハッ! なんだお前、意外とやるな! 悪い悪い。次は俺の番だな」

 

(くそっ! 来る!!)

 

「開」

 

 ヒュッ──ボゴォォンッッ!!!! 

 

 ドォンッドォンッ!! 

 

 今度は宿儺からの一撃、炎の弓矢は石流の身体の水分を瞬時に蒸発させ、瞬間的に全力の呪力で身を守ったにも関わらず、上半身を完全に吹き飛ばしてスタジアムを貫き、街へ甚大な被害を与えた。

 

貫牛(かんぎゅう)

 

 間髪入れずに宿儺は破壊したスタジアムから直哉達を目視、手印で牛を象る。

 

 ドォッッ!!! ドンッドンッドンッ!!! 

 

 建物をひたすらに真っ直ぐに突き抜ける式神。貫牛は直線にしか動けない代わりに、距離が離れるほどその威力を増す。

 

「なおっ──」

 

 ボギュッ──ドゴォンッ!! 

 

 殆ど呪力を消費しきっていた四音の防御は間に合わなかった。背後に走った凄まじい衝撃。背骨を砕き、四音は吹き飛び建物の塀へと叩きつけられる。

 

「生きてたか、小僧」

 

 そこへ現れる呪いの王、恐怖とそれを払拭する怒りを宿儺へ向け、直哉は全力で拳を振るう。

 

「こんボケッナスがぁ!!」

 

 60fps 

 

 ──ッッズドギュッ!!! 

 

 ドゴッドゴォッンッ!! 

 

 直哉の拳が加速しきる前に宿儺は顔面をくり抜く。鼻は砕け、頭蓋にヒビの入る音が鈍く夜闇に響き、何十mも吹き飛ばされて直哉は気を失う。

 

「さて……万。お前の愛とやらはこの程度か?」

 

「すく……な……!! 違う! 違うの!! 私は──」

 

 ゴリッ……ゴチュンッ

 

「あ"ッあ"ぁ"あ"ぁ"!!」

 

 ゴチュッバキッグヂャッ

 

 万が伸ばした腕を宿儺は踏みつぶし、そのまま力を込めて骨ごと砕き割る。解や捌を使わずに伏黒の身体と術式だけで津美紀の身体を殺すことが目的である宿儺は、必要以上に万の身体を破壊する。

 

 ピピッ……

 

「感じているか、血潮の熱を。呼吸の霞む音を。臭いを、味を。なぁ、伏黒恵」

 

 飛び散る万の血液が頬にかかり、それを舐めながら宿儺は自らの魂に沈まぬ伏黒に問いかける。魂の底、彼はもはや抵抗の気力すらない状態にあるにも関わらず。

 

「これ……よ……宿……儺……!」

 

「まだ息があるか」

 

「私の……呪い……! これ……後生大事に使っ……」

 

 ヴェンッ

 

 グイッブンッ! 

 

 万の言葉を待つ前に、宿儺の感知を抜けて走ったフレームの箱。万を掴んで放り投げ、宿儺から僅かに距離を取らせる。直哉は殴り飛ばされた瞬間、気絶する前に"堕落の動"の転用による自動の反転術式で、気絶しながら自らを蘇生した。

 

「起きたのか。あのまま眠っていれば俺の興味は貴様に向かなかったものを」

 

(運が良かっただけや。そう何度も奇跡は起こらへん……なんで寝てなかったんかなぁ俺)

 

 自らが生き残ることより、刹那との約束を守ることを優先してしまった直哉は自分の決断を悔いる。

 

 そして走る走馬灯。その中の脳裏に映る、ほんの僅か共に行動した誉れ高き武士の姿。

 

「……生涯に悔いを残すな……かぁ。無理やおっさん。悔いない人生なんて、呪術師(俺等)にはあらへんよ」

 

「何をブツブツと。遺言なら聞かん」

 

「でもなぁ……やるだけやって死ぬんは悪くない気分やろなぁ!!」

 

 ダンッ!! 

 

 直哉は地面を砕いて構え、残りの呪力を攻撃に回す。堕落の動、逢魔ヶ時。特級呪具と直哉だけの秘伝を使おうと、目の前の呪いの王を倒す条件は揃わない。

 

 宿儺は不動。その間にも直哉は距離を重ね続け、同時にフレームの箱を設置し続ける。

 

(正面からやって勝てるわけあらへん。今は逃げる時間を稼ぐ!)

 

 ッッンビュンッ! ドヒュンッ!! 

 

 ポポポポッッッ

 

「蝿ではなく蜻蛉か」

 

 クンッ キッ……ンッ! 

 

 宿儺の斬撃は直哉の術式によって空中で0.5秒間停止し、遅れて彼が先まで居た場所に繰り出される。

 

 地面に大きな一文字、直哉を生かすつもりがないという殺意が目視できる。

 

 そこら中に散らばったフレームの箱、不規則に音速とほぼ同速で動く直哉を流石の宿儺も追えない。しかし、呪いの王にとってはその程度のハンデは意に介す必要はない。

 

円鹿(まどか)

 

 宿儺は手印で鹿を象り、反転術式を放出して発動する鹿の式神を呼び出す。

 

 パァンッ! 

 

 膨大な呪力量と出力によって直哉のフレームの箱は一気に破壊、宿儺の攻撃範囲が広がる。

 

(かかった!)

 

 ポッブンッ! 

 

 ビタッ! 

 

 直後、何らかの方法で箱の包囲を抜けると予測していた直哉は、その隙を突いてフレームの箱を宿儺へと"直接投げつける"。

 

 速度を重ねた直哉に宿儺も対応が遅れて直撃する。

 

(くらえや……!!)

 

 ズドォンッ!! 

 

「……!?」

 

 直哉が拳を振り抜いた瞬間、それは宿儺に止められる。あろうことか呪いの王は、投射呪法を僅かな時間で看破し、その条件を満たし、動きを再現して魅せた。

 

「悪くない余興だったぞ」

 

 ドゥッ──ッッ!!! 

 

 バゴゴゴンッ!! 

 

 再び宿儺の一撃。咄嗟にガードした両腕は半分に折られ、骨が飛び出し、コンクリートの地面を砕きながら進み続け、止まる頃には直哉の全身の骨はバラバラに砕かれていた。

 

 痛みが鋭すぎるがゆえに、直哉は気絶することを許されなかった。

 

 ガラガラッ……

 

 建物は崩落し、遮るものが無くなった天を直哉は見上げて呟く。

 

「……えぇ月や……思わへん?」

 

「悪くない」

 

 宿儺は袖から手を抜かず、直哉を見下しながら答える。

 

「いけずやわぁ……見とらんくせに……」

 

(……甚爾君……)

 

 脳裏に走る憧れの人の姿。直哉の人生に最も強さという概念を教えた人物。届かぬ言葉を心に、直哉は潰れた両目で彼を夢想し、砕けた右手を伸ばした。

 

「悪くない」

 

「ぁ?」

 

「千年、俺が戦った中で貴様は悪くなかった。胸を張って疾く地獄へ往ね。俺も所詮は人間。いずれそっちに逝くことがあれば、万全の貴様をもう一度殺してやる」

 

「……ハッ……そんなん……ごめんや……わ……」

 

 …………

 

 強がりに嘲笑った直哉を、薄く嗤いながら宿儺は見送る。

 

「まんまと乗せられたが、悪くはなかったな」

 

 宿儺は呪力の残穢を追うが、既に逃げた後。

 

 直哉が稼いだ四音が逃げる時間。彼女はもう戦うことなどできず、必死に万を引きずって移動している。

 

「妥協点だ。貴様の意を組んでやろう」

 

 スッ……

 

 宿儺は象印を結び、結界を閉じず、悪魔の厨房にて二人の調理を開始する。

 

「領域展開」

 

 伏魔御厨子

 

 背後に現れる神をも愚弄する人、牛骨の神宮。

 

 渋谷にて半径五十mを更地に変えた領域を、一切の手加減をせずに展開する。

 

 その領域範囲はおよそ、半径二百mにまで広がる。

 

 バヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅバヅッッッッッ!!!!!!! 

 

 直哉と石流の死体、等級の高さを意に介さない呪霊。目的の二人(四音と万)を完全にこの世から消し去るが如く刻んでいく。

 

 展開時間は僅か三十秒。見渡す限りの更地へと姿を変え、残った一つの呪具。

 

「手向けのつもりか?」

 

 宿儺は文明の欠片も残らぬ土地に一人立ち、一言呟き不敵に嗤った。

 

 ヴゥンッ

 

「終わった?」

 

 空間に穴が開き、羂索は宿儺の横に着地する。

 

「いつも俺の後ろから出てくるな気色悪い」

 

「君を始点にしてるんだから仕方ないだろ。にしても、こんなに更地にしちゃってまぁ…。目的はどうだった?」

 

「半分だな。だが結果に大して差異はない」

 

「ふーん。ま、いいや。今から飛騨に行くけど来る?」

 

「死滅回遊にさして興味はない。勝手にしろ」

 

「はいはい。全く、一回で済ませてよ」

 

 ヴゥンッ

 

 文句を言いながら羂索は再び空間に穴を空けて移動した。

 

 ──

 

「悟を解放するとして…精神状態を危惧しての埼玉への移動ね…。大丈夫だと思うけどね」

 

「いやいや……念には念をって言うじゃん?」

 

 夏油の言葉に虎杖は薄く汗を流しながら不安を拭うように笑って答える。

 

「ところで、刹那はどうした? まだ部屋にこもっているのかい?」

 

「あー……えっと……」

 

 十六日から彼女は用意された部屋を閉ざし、籠もりきり。時折呻くような、啜り泣くような声が聞こえながらも、誰一人として中に入ろうとはしなかった。

 

「……いや、いい。精神面が脆いのは事実だけど、彼女は大丈夫だろう」

 

「そーそ。乙女の心に土足は禁物さ」

 

 ガラガラッ

 

「九十九さん……」

 

「や、みんな元気そうだね」

 

 夏油と虎杖の会話に入った女性の声は九十九由基。彼女は先日の激闘により両脚、右腕、左眼の欠損という重症で釘崎に押された車椅子に座っている。それでも軽薄さを崩さないのは彼女なりの強がりとも取れるだろう。

 

「悪いね釘崎」

 

「気にしないで下さいよ。これくらいならいくらでも」

 

「まぁ…実際問題、五条君なら大丈夫だよ。この程度で壊れるような精神なら特級は務まらない。それより、夏油君、君は私に何か聞きたいことがあるんじゃないか?ん?」

 

「……釘崎、虎杖、少し真希達の所に行っててくれ」

 

「了解っす」

 

「九十九さん、呼んでくれたら来ますよ」

 

「はいはーい」

 

 夏油は二人を会話から外し、九十九の前で呼び出した呪霊に座る。

 

「良い子達だね。ちゃんと汚い話も分かるし、これなら呪術師の未来も安泰かな」

 

「……単刀直入に聞きますが、"まほろば"とは? 私が離反を決意しかけたあの日……私に忠告していった人物と同一なのですか? 考えるほど辻褄が合わない」

 

「そう慌てるなよ。残念なことに私の記憶も、もう確かかなものとは言えないんだ。覚えてることを、君と示し合わせる形になるだろう」

 

 二人の特級術師は、静かに互いの記憶を擦り合わせ始めた。この世界の誰一人として定かでない不確かな存在を。

 

 ──

 

 十一月二十日

 

 暗い何処かの建物の中。羂索は空性結界を張り、自分の望むように空間を作り替え、悠長にお茶を飲みながら二人術師へ自らの考察と結果による真実を語っている。

 

「姫とは……平安、戦国。あらゆる時代において秘匿される人物だった。それも当然、血縁の全滅は血を重んじる愚か者達にとって、最も重要なものだったのだから」

 

 羂索は座椅子が軋んで痛むのも気にせずに腰掛け、自らの考察を続ける。

 

「それ故に、上を見続けた者達による噂は絶えなかった。万物を癒やす不思議な力。天下無双を斬り伏せる剣の腕。理を超えた呪の力。とにかくあらゆる可能性に想いを馳せ、ついぞそれを目にすることは叶わなかった」

 

「皮肉なものだね。姫を敬う民よりも、敵のほうが姫を知ることが出来るなんて」

 

 口に手を当てて皮肉を口にし、羂索はクツクツと笑う。千年生きてきた人間ならではの観点、それらを第三者の視点として小馬鹿にするように口にする。

 

「話を戻そうか。阿頼耶識の相伝術式、それには名前がない。何故なら、秘匿されることこそがその術式には必要なことだから」

 

「術式で無くし続けた無限のエネルギーを溜め込む。それが阿頼耶識刹那という呪術師の正体だと思っていた。でも、それだと辻褄が合わない部分がいくつかある。代表的なのが極の番かな。時間と空間の概念を無くしたとしても、別の空間が生まれる理由にはならないからね。まぁ、正直あの程度の術式の指南書では不充分にも程があるし、勘違いするのも無理はないとは思うけど。でも、それのお陰で私は気づけたんだ。違和感を持ち続けることができた。改めて、"阿頼耶識"を調べようと思えた」

 

 羂索は嬉しそうに、そして合点がいったと、数式を解明した数学者のように頬杖をついて嗤い、自身の努力が報われた瞬間の幼子のような笑顔で言い放つ。

 

「阿頼耶識の術式は"世界"なんだ。手の届く全てが、彼女の我儘が通る"世界"。あらゆるものを無くすのはその過程、もしくは一握りに過ぎない。そう、その術式の正体は」 

 

 手の届く全てを自らの世界とし、望むままに理を曲げること。

 

 刹那の術式の正体。それのほぼ完全解明に、羂索は辿り着いたのだ。

 

「これならば全ての説明がつく。対象との間合いが消えるのは"空間"という理を曲げているから、重さが消えるのは"重力"を、酸素は"大気"を。反転した術式効果は、曲げた世界をよび戻す。エネルギーを溜め込む体質に関してはそのまま……」

 

 いままでの全ての行動。羂索はこれまでに出して説明した結論を全て点とし、最も佳境へ入った今この時に線を繋げて結論を出した。

 

「フッ……クックッ……ハッハッハッ……!! その術式を扱うにはやはり"重瞳"は必須、そして他者に感情を向けられなければ"望み"は生まれない! 分岐点は(伏黒恵)との出会い!! やはりあの瞬間に完成していた……!」

 

 ガタッ! 

 

 羂索は立ち上がって手を広げ、千年前から計画と並行して追い続けた術式の正体の解明に胸を躍らせ、喜びを身体で表現する。

 

「夢想され続けた"姫"の姿!! 全ての我儘を現実とすることこそがその術式の正体! まさしく"呪いの姫"!! そうは思わないか!? 阿頼耶識刹那!!」

 

「……感情的になるのは避けたかったんじゃないですか?」

 

 彼が語り続けていたのは、阿頼耶識刹那本人。

 

 その隣で退屈そうに欠伸をかくのは史上最強最悪の術師、伏黒恵の外見をした両面宿儺。

 

「はは、いやすまない。君の評価を二転三転しすぎて、そろそろ確定させたいと思った矢先に君が来たものだからね。熱くなってしまった」

 

 羂索は座り直し、改めて殆ど二人だけの会話が始まる。

 

「……先日、五条先生が貴方のところに来たみたいですね。まぁ、そのお陰で僕もここに来れたわけですが」

 

「あぁ、流石に焦ったね。でも、わざわざ24日にもう一度来ると宣言して帰ったよ。君達生徒にやり残したことでもあったのかな」 

 

「さぁ。でも、先生は優しい人ですから。そうかもしれませんね」

 

「存外信頼を得ているわけだ。人格破綻者を体現したような男だというのに」

 

「先生も貴方にだけは言われたくないでしょうね」

 

 殺気立つことも、呪力を練ることもせずに三者は不思議とゆっくり時間を過ごす。

 

「別に宿儺を僕の隣に置かずとも、貴方を今殺すつもりは無いですよ。相も変わらず、"昔"から臆病で必死ですね」

 

「当たり前だろう。その気になれば今の君が私を殺すのは容易いんだ。千年続けた計画を前にして死ねないさ」

 

「宿儺もいいんですか?コレに顎で使われて」

 

 隣で暇そうに果物を頬張る宿儺に、羂索をコレ扱いして指を向けながら問いかける。彼は果物を食べた手を舐めとり、今回の話で初めて口を開く。

 

「今回に限っては別だ。それに、わざわざお前の方から来た。そういうわけだ羂索、さっさと話を終わらせろ」

 

「いややることやったら帰りますよ……。そもそも、僕がここに来たのは術式の解明や戦うことが目的じゃないですし」

 

「? 君が欲しがっていた術式の正体、そして私の命。それらじゃないならば、なぜわざわざここに?」

 

「……一つ一つ説明しますよ。まず、今僕の存在は"浴"と"出来損ないの呪物"によってかなり不定形な状態です。例えるならそう……ゲームのバグそのもの。ですから、ここで今本気でやりあえば何が起こるか分かりません。術式については、初代の記憶から逆算すればなんとなく分かりましたから、貴方の考察は答え合わせみたいなものです」

 

 万物は=である。受肉した時、受肉先の記憶を手にできるのと同じ様に、刹那は呪物を飲み込んだ時から初代の記憶を完全に復元、読み解くことに成功していた。

 

 身体が反転している特異体質であること、宿儺との日々、羂索との細いながらも濃い因縁。

 

 幾度となく映る彼女の術式の姿から考察し、刹那は羂索と初代本人よりも先に自らの術式の正体と、初代とも違う、自身の体質の本髄を知っていた。

 

「ここに来た本当の理由は……ちょっとした賭けをしにきたんです」

 

「……君にしては随分酔狂な提案だな。話だけでも聞くけど、術師と縛りを結ぶ対価は忘れないことだね」

 

「貴方こそ、この賭けの果てにある結果をちゃんと受け止めてくださいよ」

 

 刹那と羂索の賭け。宿儺も多少の興味があるのか、果実を手に取らずに話に耳を傾ける。

 

「五条先生は最強です。しかし、同時に宿儺も最強。でも玉座は一つしかなく、その椅子を奪い合うのが今回の戦いです」

 

「俺があの小僧に負けるとでも」

 

「えぇ、正直僕もそう思います。今回五条先生は多分貴方に負けます」

 

 刹那はさらりと言い放つ。呪術師最後の砦が、最強という言葉の体現者が負けると。確信を口にする。

 

「しかも、五条先生が負けることを想定すれば、他の有力な術師は少なからず疲弊した宿儺を倒すために待機しなければならず、その間貴方をノーマークにすることになる」

 

「しかし君は、伏黒の魂が混在する今の宿儺を殺すのに全力を注げない。だから私を殺りに来るだろう……と、予想したんだが」

 

「その通りです。呪術師の御三家、上層部がガタガタで機能していない今、非術師に魅せる場が多くなる時代はこのまま続けばそう遠くはない。その先駆けとして、五条悟VS両面宿儺の戦いが全世界にLIVE中継されることになりますから」

 

「……冥冥か、目敏い彼女ならやるだろうな」

 

 時代は今、確かな変革の節目にいる。呪いが世に知れ渡り、史上最強が片方消えるという確かな時代の節目に。

 

 この場にいる三人の術師の考えは一致している。

 

「どちらが勝っても時代は変わる。だったら、僕はできる限り平等な無投票でいたい。なので、"五条悟"が負けるに一票です」

 

「……? それでいいのか?」

 

 ぽかんとした間抜けな表情の羂索と、歯をむき出しにして邪悪で、無邪気な矛盾した笑みを浮かべる宿禰の顔が刹那に映る。

 

「えぇ、五条先生が負けた時という、超超無理難題に僕は縛りを限定しましたから」

 

「なるほど、メカ丸と同じ方法か」

 

「……そんなに俺と生きるのが嫌か?」

 

 宿儺は不服そうに頬杖をつき、仏頂面で隣にいる刹那の髪を撫でる。

 

「……ふふ。大丈夫ですよ。貴方を殺した時、同様に僕も命を落とす縛りですから。恵君も宿儺も、一人では逝かせません」

 

 髪を撫でる宿儺の腕を優しくさすり、刹那は薄く笑って言い放つ。

 

「つまり君は……」

 

「はい。どちらが勝っても僕が死ぬのは既定路線です。時代の節目にいるなんて冗談じゃない。自意識過剰というならそれまでですが、僕が今持つ力は宿儺や五条先生と同格。呪詛師にも呪術師にも傾くような曖昧な存在はこの世に残してはいけませんからね」

 

「なるほど……後の呪術の在り方については夏油傑か……どちらが勝っても、君達の勝ち戦というわけか」

 

「正直な話。誰かが残るくらいなら、百年経ってそこにだれも立たない荒野の方がきっとマシです。悠仁君と野薔薇には悪いと思いますが……まぁ、一つの終わりの形と思ってもらいますよ」

 

「……刹那。それには一つ大きな見落としがあるな」

 

「?」

 

「俺が五条悟を殺した上で、縛りで強化されたお前を倒す。その可能性が抜けている」

 

「あぁ、そうなったら……うーん。流石に思いつきませんし。大人しく全部受け入れる……でしょうか」

 

 刹那の思惑に宿儺は異を唱え、抜けていたありえない可能性を呼び起こす。

 

「決まりだ。当日、俺は必ずお前を手に入れる」

 

「異論は無いですけど、物みたいに扱わないで下さい」

 

 二人に交わされた約束。そこに縛りは絡まないものの、千年越しの宿儺の無念が晴らされる可能性に、彼は胸を躍らせて笑う。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。