全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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私はHappy Endが好きです。


第七十八話 堕ちる、そして呼ぶ

 ──ー

 

「なんで二人共焼き切れた術式が使えるんだ!?」

 

「まさか反転術式で……焼き切れた術式を回復した……?」

 

「乙骨!」

 

「術式が焼き切れる感覚って、肉体の損傷とは違うんです! こう、オーバーヒートの冷却とかみたいな……」

 

「反転術式は修理はできても冷却はできないってことか」

 

「いやつーかそれよりアレ無下限呪術だろ!! 六眼は無いしそもそも術式一人一つの法則はどうなってんだよ!?」

 

「五条はそれで解るだがこの違和感……まさか、刹那は最初から領域を閉じていなかった……?」

 

「!」

 

「確かに、それなら辻褄が合うな。必中命令を消して押し合い、結界はハリボテ。結界を壊したのを領域の破壊と勘違いした羂索は不用意に攻めに回り、手痛いカウンターをもらったってことだな」

 

「なんで領域を展開した上に結界を別張りできんだよイカれてんだろ……!!」

 

「もしも無下限呪術をこの先使えるというなら、それは大きなアドバンテージになる!」

 

「不思議な人でしたけど、いよいよ術式が分からない次元にいますね……」

 

「……刹那さんの術式はあの靄の中に限りですが、文字通りに何でも出来るものだと聞きました。なんか、正確には理を曲げるとかなんとか……」

 

「そういう哲学の話は私等には分からんよ」

 

「……だが、他の術式のほぼ完全な模倣なんて領域内での術式精度上昇で為せる技だろう。そんなホイホイ使えるわけない」

 

「だろうね。使用時のデメリットが無いなんてありえない。星の怒りだってあくまでも疑似に過ぎなかったんだから」

 

「おい、アイツ立ったぞ」

 

 ──ー

 

 貫通した胸を呪霊で埋め、口から溜まった血を吐いて反転術式で治癒する。その間、刹那は追撃せずに距離をとる。

 

「やるね……流石に効いたよ。理を曲げる。まさか、"自分自身"という大前提からとは。しかしその方法、果たして身体は無事なのかな?」

 

「……まぁ、そのうち慣れますよ」

 

 理を曲げるという術式の極大解釈。術式が届く範囲に限り彼女は"理論上"全ての術式を扱える。

 

(領域の展開から二分と五秒。赫一発を撃つのにも莫大な計算と時間がかかる……)

 

「……閉じない領域。タイミング的に高専襲撃か?」

 

「天元様ができたんですから、どうせ何かしらの方法で閉じない領域を壊せるんでしょう? なら、僕が領域を展開するたび、その破壊に全力を注いだほうがいい」

 

 カチンッ

 

 ズズズッ……ズドンッ!! 

 

(速い!!)

 

 刹那の速度は更に加速する。呪力強化ではない、純粋な肉体の強化が行われる。彼女の瞳の充血から、御三家の肉体をも渡ってきた羂索ならそれが何を意味するかも容易に解する。

 

「赤血操術か」

 

「御名答」

 

 ズンズンズンッッ! 

 

 羂索は手動に切り替えた重力で動く刹那に目視で当てようとする。お互いの必中命令が相殺されている領域内では術式を手動(マニュアル)で当てることになるが、術式の性能は圧倒的に刹那の優位にある。このまま続けは羂索の敗色は濃厚なことは目に見えている。

 

(もしも無下限呪術の赫を完璧にモノにすれば蒼や不可侵も使えるだろう。だが、それはあくまでもこの場を支配する靄や領域内での話。やりようはまだまだある)

 

(今までの玩具とは違う。これが呪霊合術の本領か……)

 

 グバァァッッ! キンッ

 

 羂索の重力と調伏された呪霊達を祓い、いなしながら次の一手の計算を刹那は進めている。

 

 ボボボンッ! 

 

「!」

 

 ブワッ! 

 

 呪霊の消失反応と同時に羂索は重力を順転に戻し、彼女を空へ打ち上げる。

 

「合追、繰蝿(たぐりばえ)

 

 無数の強化された蝿の群れ、どれだけ剣撃が早くともそれら全てを弾くのは困難。とことん刹那を追い詰めるための手札を増産し続ける羂索は攻撃の手を緩めない。

 

 手で輪を作り、術式を切り替える。

 

 パアンッ! 

 

 血の玉を作り圧縮し、刹那に向けて両の指先を向ける。

 

「穿血」

 

 バシュッ!!! 

 

 ヒュラッ……キンッ バゥンッ!! 

 

(爆ぜた……空気の衝突だな。それに準じて姿をくらましたか。だが、繰蝿は通過した全てに取り付き毒を入れ込む。総当たりで見つかるだろう)

 

 ──ー

 

「赤血操術……羂索め、命を弄ぶサディストが」

 

「ねぇ、領域内に術者本人がいなくなった時ってどうなるの?」

 

「ありえねーよ。そもそも結界で閉じてその中で戦うことに意味があるんであって、術者がいない領域に意味はない」

 

「でも、外側でも術式が使えるのは確かみたいだね。羂索も宿儺も何か建物があり、それが領域の中心になっている」

 

「……刹那は何を領域の中心にしているんだ?」

 

「門でないとするとセオリー通りに自分自身でしょうか。彼女の領域は一見して解る特徴が無さすぎてなんとも」

 

「お互いに結界を閉じず、かつ互角になると純粋な術式の強化しか恩恵はないのか」

 

「……刹那の術式の発動が僅かにですが鈍っています。おそらく疑似的にとはいえ無下限を再現したからだとは思いますが」

 

「思った以上に羂索が丈夫だな。上手いこと呪霊で刹那の気を散らし、その間に次の攻撃の準備と反転で身体を治している。呪力が半無限なことを考えると中々苦しい状況だ」

 

「でもそれは刹那も同じだ。彼女の刀には秤君の呪力をアホほど詰めてある。見てる感じ宿儺と同レベルかそれ以上だと思うね」

 

 ──ー

 

 ギュラッバンッッ!!! 

 

 斬撃で地面を大型のブロックに斬り、呪力を込めて蝿の大群を潰す。

 

「おいおい、登録済みの特級だぞ。舐め過ぎじゃ無いか?」

 

 ブブブブブッ!!! 

 

 瓦礫を破壊し刹那へ襲いかかるがその蝿の魔の手は刹那に届かない。

 

 ブヮァッッ!! 

 

 靄で繰蝿を包み込み、羂索との距離を潰して無理矢理押し付ける。再び着地して走り出し、その喉元へ刀を振るう。それを見抜いた羂索は繰蝿ごと重力で押し潰す。

 

(一分二十秒……)

 

 出力最大 反重力機構(アンチグラビティシステム)

 

 ズン"ッッ!!!! 

 

 グヂャアッ! 

 

(チッ……逃げられた) 

 

 パンッ! フワッ……

 

 押し潰す瞬間、刹那は後ろに転がって回避し、羂索の上空へと身を投げ両手の指先を向ける。その手には血の球が握られ、さらに血の玉を掌を真空にして圧縮する。

 

(!!)

 

「喰らえ……穿血!!」

 

 しかし羂索は笑みを零し、眼の前に輪っかを作る。

 

「ドンマイ!!」

 

 ッッドビュンッ!!! カクンッカクンッカクンッドシュッ! 

 

「ガハッ……!!」

 

 ボロボロッ……ガシャァンッ!! 

 

 穿血は空中で三度直角にまがり、輪を回避する。多少なりとも曲がった影響で速度は落ちるが、元々の圧縮が桁違いなため、従来の穿血と遜色ない一撃が羂索を襲い、領域を保てなくなる。

 

 同時に空中に浮きながらで呪符を唱え、指先に呪力を集める。

 

「位相、波羅蜜、光の柱」

 

 無下限呪術 赫

 

 ギュゥゥンッ!! 

 

(これは受けられない……!)

 

 ヴゥンッ

 

 ドォンッ!!! 

 

 羂索は自身を輪に入れて攻撃の対象からはずれるが、ダメージは隠せずにゴロゴロと地面を転がり、肩で息をする。

 

 ──ー

 

「穿血! 彼女ではリスクが過ぎるだろう……!」

 

「しかもとんでもない圧力だ。真空状態を拳の中で作ったのか」

 

「目には目を、歯には歯を……」

 

「五条の技を含めてもう俺には何がなんだか分からん」

 

(おかしい。彼女なら間髪入れずに攻めれば仕留めることも出来るはず……。何を待っている。無下限の完全取得か? 何か……生き急いでいる気がして仕方ない……)

 

 ──ー

 

 トンッ

 

「……言っておきますが、これは貴方が失敗作と馬鹿にする脹相さんのアイデアです。一杯食わせられた気分はどうですか?」

 

「……考えついても。実行出来なければそれは失敗と変わらない」

 

 バシャアッ

 

 靄から外れたため、刹那の血は地面に飛び散り地面を赤く染める。

 

「二回目で約三十秒の短縮。呪符を唱えて多少過程をカットしているとはいえ、分子レベルの計算だ」

 

「多分余裕ですよ。貴方みたいな可能性を否定し続ける馬鹿とは違うので」

 

「言うじゃないか。生娘のくせに」

 

「老人は無駄な語彙が達者で羨ましい限りですね」

 

 二人は静かに言葉で争いを続ける。領域が壊れた今は攻め時。にも関わらず、明らかに刹那の攻撃の手が緩んでいる。さらに刹那は雑談を続ける。

 

 コツッ……コツ……

 

「……なんか、おかしいんですよね。その移動法がありながら僕に領域を出させて逃げることをしなかったこととか。無駄撃ちさせた方がいいのに」

 

「……」

 

「さっきの赫の空撃ち。移動の後のゲートの破壊。そこから考えられる理由は単純。術式は分割するほどその精度が落ちていく。違いますか?」

 

「……クックッ。80点って所かな。正確には、私はそれぞれの術式を好きなように割り振れる。"ゲート"には五割程度割り振っていてね。他の術式は殆ど一発限りのものばかり、実用に向かないものばかりだ。呪具のほうがよっぽど扱いやすい」

 

 ヒュンヒュンヒュンッ

 

 羂索の周りを飛び回る呪具。明らかに先程までとは違う術式が付与された特級呪具。

 

 一本の薙刀。歴史上で最も戦という場所に適して作られた物の一つ。

 

(ジュカイの生成とは違う。飛び回っているのは反重力機構の応用……器用だな)

 

「君を殺す手段の一つだ。幸い宿儺からは殺す気でやっていいって言われてるしね。存分に力を震わせてもらおう」

 

(宿儺も宿儺で、万全の僕とやり合うのは避けたいってことかな。まぁでも、ここまでは予想通り。呪具の効果に関しては未知数だけど、僕だって奥の手は残してる。依然、問題はない)

 

 ズダンッ!! 

 

 指をポキポキと鳴らしながら反転術式で身体を治す羂索と、刀を一度振って呪力を慣らす刹那。二人は示し合わせることもなく地面を砕いて走り出す。

 

 二人は一度展開した領域を破棄する。羂索は逃走に神経を注ぎ、刹那はそれを追従、襲い来る呪霊を斬っていく。

 

 ポウ……クルンッバヒュンッ!! 

 

「!」

 

 羂索の周りを飛ぶ薙刀が回転し、刹那の靄を"固形"にして地面へ反重力機構で叩き落とす。

 

(呪力の状態変化……)

 

「そんなに僕の術式が怖いですか」

 

「私も格好つけるほど余裕はないんだよ」

 

 ゴンッ!! 

 

 ブロックの呪力を羂索に向かって蹴り飛ばし、呪霊たちを刻みながら刹那は術式の回復を待つ。呪力切れがほぼ無い二人の呪い合いは、新宿でさらに密度を増していく。

 

 ガガガッドゴンッ!! 

 

 羂索はブロックを蹴り壊し、呪霊の消失反応を利用しながら機をうかがう。

 

 ──ー

 

「視聴者が五条君と宿儺の方に寄り始めた。領域を解体してから二人の雑談が増えたね」

 

「羂索側にしかメリットが無くないか? アイツなら畳み掛ければすぐだろ?」

 

「ねぇ、刹那ちゃんの目的って高聡の体? それとも伏黒君の体?」

 

 染秀の疑問に、乙骨と日車と夏油を除く一同は疑問符を浮かべる。

 

「それはどういう……?」

 

「それは僕も思います。刹那さんは何かを待っているように見えてならない」

 

「何いってんだ。ここで羂索と宿儺を同時に畳めばそれで終いだろ。何を待つ必要があるんだよ」

 

「だからそれが分からないんですってば」

 

「羂索を仕留めるだけなら容易ってことか?」

 

「見てる感じではですが……」

 

 疑問は解消されないまま、事態は動く。二つの巨大な呪いのぶつかり合いはさらに響きを増していく。

 

 ──ー

 

「領域展開」

 

 ボンッ!! 

 

 伏魔御厨子は音を立てて壊れる。

 

 五条の術式の回復は脳を呪力で破壊し治癒するという常識外れの死に急ぎ行為。好機と思った宿儺は領域を展開するが、10秒未満とはいえ無量空処を浴びた宿儺もまた脳の限界だった。四つの目からこぼれる鮮血は、五条悟敗北の可能性を見るもの全ての脳裏によぎらせない。

 

「はっはっは! しっかり効いてるじゃねぇか!!」

 

 五条は鼻血を拭って三度宣言する。

 

「生徒が見てるんでね、まだまだ格好つけさせてもらうよ」

 

 ──ー

 

「「領域展開」」

 

 未了無還門 胎蔵遍野

 

 再び暗黒の空間に冒涜的なオブジェがある空間へと術師達は誘われる。

 

 刹那の領域内の必中命令が発動すれば羂索は呪霊合術以外の術式が使えなくなり、何もできなくなる。そのため互いに領域を展開し、打ち消し合うことを余儀なくされる。

 

 ドドドッ!! バキィッ!! 

 

(領域内での無制限化された星の怒りが思った以上に効く! その上足場を常に崩される……常に呪霊を足にしていなければ沈む!)

 

 領域内の彼女の術式は底上げされ、さらに近接戦の密度をあげる。同時に無下限呪術の計算を行い、次の一手を早めていく。

 

「チッ」

 

 パララッズンッ!!! 

 

 横方向に重力を転換された羂索は瓦礫を刹那に向けて落とし、傷を負いがら彼女は攻撃の手を緩めない。

 

(領域内ではお互いに反転術式が使えないと見て間違いなさそうだ)

 

 カチンッ

 

「術式反転……赫!」

 

 ボビュッ!!! 

 

「無詠唱までこぎつけたか! だが、威力がおちているよ!!」

 

 ピッピッピ

 

 ガシャアァンッ!! 

 

 羂索は刹那の領域に合わせて結界を構築、刹那の領域と繋げて解体するように動く。

 

 数種の象印を矢継ぎ早に結び、結界を刹那の領域と共に破壊する。

 

「どうした! もう二度目だぞ!!」

 

「"まだ"二度目ぇ!!」

 

 ズバン!! ガラランッ!! フワッ

 

「ングッ!」

 

 刹那は瓦礫達を蹴って打ち上げ、即座に羂索を殴り上げて空中での戦闘に持ち込む。

 

 ダンッダンッダンッダンッ!!! 

 

 バズンッ! 

 

 浮いた瓦礫を一足度に破壊し、羂索の横腹に二刀の斬撃を加える。

 

 口から血を吐き出し、飛ぶ呪霊たちを束ねて刹那に向け、姿をくらませる。身動きを著しく制限される空中での格闘になる。

 

「逃げてばかり、まるで狩られる雀ですね」

 

 キンキンッ

 

「囀る雀の一羽二羽、されど油断は大敵ってね」

 

 ズズッ……

 

「極の番、ジュカイ」

 

 ガチチュッ! 

 

(武器の形状は実物を問わないのか!)

 

 呪霊は全て繋がった有刺鉄線のような呪具へ変化、刹那を包み込んで閉じる。当然、それを斬り落とそうとする。

 

 ドスッ

 

「……ガハッ」

 

 羂索は先刻の薙刀を投げる。脇腹を僅かに掠っただけだが、刹那の呪力は固形になり刀へ込めるのを妨害する。加えて、極の番で作られた呪具には反転術式を妨害する効果が備わっている。傷を治せない彼女の動きは鈍る。

 

 ブンブンブンッッ!! ──ドォンッ!! 

 

 網の先端を掴んで振り回し、超重力と同時に地面へと刹那を叩きつける。

 

 舞い上がる土煙は戦いの終わりを知らせたように見えたが、彼女の意思はその程度では折れない。

 

 キンッ……キンキンキンッ

 

 ボタボタボタ、ポゥッ……

 

「しぶといね。良いのが入ったと思ったんだけど」

 

「そうですね、良いのが入りました……お互いに」

 

 ニコリと学生らしい無邪気な笑顔は、羂索にある種の不安感を覚えさせる。

 

(術式は領域の破壊から使えてないはず。無下限や星の怒りも同様のはずだ。何だ? 何が彼女の余裕を誘って……)

 

「はい時間切れ、答え。僕は一人じゃない」

 

 ミシッ……! 

 

 瞬間、背にゆっくりと走る痛みから羂索は悟る。

 

 バォンッ!!! 

 

 ぶちぶぢぶぢ! ドガッゴンッボギィンッ!! 

 

「お見事」

 

「ここからよ、私達の仕事は」

 

 鬼神、虎杖の虚をついた一撃は羂索を吹き飛ばしいとも簡単にボールのように弾ませる。

 

 呪力を抑えても隠れていた虎杖と釘崎も刹那の横に並び、呪力を練りだす。

 

(領域内で沈んでいたのは影! 式神を再現させることはできずとも影への収納は可能だったか! 無下限も赤血操術も全て影への意識をそらすための布石! やられた……!)

 

 ダメージを隠しきれない羂索。首の管も千切れ、領域も崩れたことから、羂索の手札は確実に減ったのが目に見えてわかる。

 

 ぼここっ……

 

(だが、逆に言えば恐らくこれ以上は無い。明らかに許容量はオーバーしている……やはり、仕留めるにはここしか無いな)

 

仰嶺慘(ぎょうらいさん)

 

 身体をほぼ呪霊へと変化、片腕ずつに数百体を圧縮した呪霊を込める。全身を管が走り、肉体は強固な鎧と化し、刃が身体の至る箇所から突出する。

 

「うぇ、きっしょい」

 

「ここからは三対一かな。まだまだ手は残っている。覚悟したまえよ」

 

「いいえ、四対二です」

 

 スッ……

 

 術式の回復まで持っていった刹那は領域を展開するために象印を結ぶ。

 

「領域展開」

 

 刹那の呪力は靄という形でその場に残留し続け、遠隔で発動も可能なもの。結界という形を、見えないスケールで呪力のみを頼りに歪に描く。新宿でばら撒き続けた呪力は、術師達をまるごと領域で包む。

 

 未了無還門

 

 今度の領域は必中命令を消していない。領域内の全ての術式は無へと還り術式の発動を不可能とする、ただし、四人を除いて。釘崎野薔薇と五条悟、刹那と虎杖への必中命令はなされていない。

 

「ドゴォンッ!! 

 

「ちょっとぉ!? 僕聞いてないんだけど!!?」

 

「チッ……刹那、厄介なことをしてくれたな」

 

 五条と宿儺は領域に入れられたことを察知し、四人の下へと集まる。宿儺は摩虎羅と尾に大蛇、胴体に虎葬、そして円鹿を継承した嵌合獣、顎吐を喚び出した状態のため、状況は四対四となる。

 

「五条先生、俺等が足手まといなのは知ってるけどさ。でも、だからって黙ってみてられねぇよ」

 

「私達は"四人"でアンタの生徒でしょ。しっかり守んなさい」

 

「先生ですもん。このくらいの我儘、大丈夫ですよね」

 

「……クク……ハハハッ!」

 

 クシャッ

 

 先程までの真剣な表情は三人の言葉を聞いて一転、五条は三人の肩を掴み寄せ、頭を撫でる。

 

「余裕余裕! 当たり前でしょ。だって僕、最強だから」

 

 五条の笑い声と共に三人は戦闘態勢に入る。直後に宿儺はそれを嘲笑うように小馬鹿にする。

 

「下らんなぁ呪術師。古今東西、俺に束になったところで結果など全て同じだった。この世を呪う時間をくれてやる。刹那、お前を含め、一人たりとて逃さん、鏖殺だ!!」

 

 ダァンッ!! 

 

「悠仁と野薔薇は顎吐と刹那のサポート! 刹那は羂索と摩虎羅! 僕は宿儺を叩く! 期待してるよ皆!!!」

 

「「「了解!!」」」

 

 五条は無下限の打撃で宿儺をビルへ叩きつけ、蒼を纏った拳でラッシュを叩き込む。

 

(この領域内は反転術式が効かない。迂闊にダメージは受けられん!)

 

「摩虎羅ァ!」

 

 宿儺を助けるように指示された摩虎羅は五条へ襲いかかるが、距離を無くした刹那が蹴り落とし、それを妨害する。五条は刹那への信頼か、振り返ること無く宿儺をその目に捉えている。

 

 ドドドッ! 

 

 バチチッブンッ! ガシッ! 

 

 顎吐も同様に宿儺を助けに行こうとするが、虎杖からの腹への連撃で停止する。円鹿の回復能力で再生しながら、鵺の雷撃を纏う大蛇の尻尾で払うのを虎杖に捕まれる。釘崎はそこに釘を打ち付け、簪で尻尾をちぎる。

 

「釘崎!」

 

「簪!!」

 

 バチュンッ!! 

 

(今この場にいらぬ小僧と女を先に殺す!!)

 

「羂索!!」

 

「はいはい、やれば──」

 

 ブンッ!! ドゴォンッ!! 

 

「相手はまだ僕ですよ!!」

 

 摩虎羅を投げ飛ばし、羂索へぶつける。同時にその距離を無くし、連撃を仕掛けるが摩虎羅の剣に妨害される。

 

 ドドドッ!! ズドンッ! ガギィィッ!! 

 

 二体一の猛攻を刹那はしのぎ、羂索の左拳を縦に割る。

 

 ピッ

 

「赫」

 

 グイッ! 

 

「危なっ」

 

 ボンッ! ジュゥゥウッ

 

 既に無下限呪術に適応を続けていた摩虎羅を盾にして防ぎ、股下から抜けた羂索は刹那を蹴り飛ばす。すかさず摩虎羅からの斬撃を弾く。

 

(摩虎羅……今お前は俺の影だ、魅せてみろ!!)

 

「あれ不味くない!? 行け虎杖!」

 

「応! まかせろ!!」

 

 ギギッ……

 

 ガシッ!! 

 

「ンぎぎ!!」

 

 ガゴゴォッ! 

 

 キンッ

 

 法陣が回転しようとするのを虎杖は無理やり掴んで防ぎ、逆に回して回転を止める。瞬間刹那が斬りかかって右腕を斬り飛ばし、適応を中断させる。 

 

「ハッハッハ!! 悠仁それサイコー!」

 

 宿儺の打撃を無下限で止めて笑い、瓦礫を蒼で集めて宿儺を閉じ込め、その中心へと右手で打撃を打ち込む。

 

「チッ」

 

 ドガガッパシッギリリッ

 

 展延で五条のガードの上から殴りつけるが、途中で不可侵を解除して宿儺の拳を上から握って顔を近づける。

 

「介護者がいなくなった途端威勢が無くなったなぁおじいちゃん!!」

 

「クソ餓鬼が」

 

 顎吐は視界から消えた虎杖を無視し、宿儺の元へ飛ぶ。

 

「あっ、こら! 無視すんな!!」

 

 ズンッ! バゴォッ! 

 

「悠仁君!」

 

 刹那が虎杖に向かって走り出す。その意図を汲み取った虎杖は手を下に構え、刹那はそれに乗って顎吐の元へ飛ぶ。

 

 トンッギリッビュッ!! 

 

「武器纏……」

 

 呪いが響き、刀は風を斬り、脚は走り続ける。一切の蛇足的思考を許さない中、刀を振るうのは彼女にとって、深く、シンプルなことだった。黒い呪力は、さらに黒く、黒く、火花を散らす!! 

 

 斬ッ!!! 

 

 黒閃

 

 刀に術式を纏い再生力を奪って顎吐を縦に両断する。

 

 直後、摩虎羅が刹那に襲いかかる。

 

「!!」

 

 ドグンッ!! 

 

 先刻斬り飛ばした摩虎羅の腕に藁人形と共に釘を刺す。それは摩虎羅の動きを止めるばかりか、宿儺へもダメージがフィードバックする! 

 

「ガボッッ」

 

 バキィッ!! 

 

 五条がその隙を逃さずにすかさず蹴り飛ばす。直後、一年生三人の作戦がスタートする。

 

「野薔薇!!!」

 

 刹那は羂索を足止めし、虎杖と釘崎は宿儺へ駆け寄る。

 

 宿儺は釘崎の首に向かって貫手を繰り出すが、虎杖がそれを掴み止める。

 

「わからいでか!」

 

 ビッ!! バシッ! 

 

「させねぇよ!!」

 

(何を……!?)

 

「起きろ! 伏黒ォ!!!!」

 

 芻霊呪法 共鳴り

 

 カィィンッッ!! 

 

 伏黒の沈んだ魂が、釘崎によって叩き起こされる。まるで目覚まし時計のように眠った彼の耳に通りいる。

 

「無駄だ、伏黒恵の魂は──」

 

「お前が!! 決めんな!!」

 

 バキィ!! 

 

 虎杖は宿儺の頬を殴りつけ、揺さぶって伏黒の魂を起こそうとする。

 

「起きろ!! 伏黒! 起きて良いんだ! 生きて良いんだ!! 罪も絶望も抱えて死ぬのは! 俺だけでいい!!」

 

 ……バギィ!! 

 

「無駄だと言うのが分からんか小僧。伏黒恵は器足り得る人間ではないのだ。貴様の行為は死人に呼びかけるようもの。喚く姿は愉快だが……ここで逝ね」

 

 ガッ!! 

 

「「「!!?」」」

 

 宿儺が突然自らの首を締め、呪力が乱れる。殴られた虎杖は口内を切って出た血を拭きながら笑って期待を顔にする。

 

「はは……起きたな伏黒!! そうだよな伏黒ォ!!!」

 

「恵……!」

 

「恵君!!」

 

(もういっちょ……!)

 

 脳裏によぎる、釘崎にしか出来ない魂への直接干渉。

 

 揺さぶり起こす為、友を救うためという万人共通の責任感と集中力。

 

 黒い火花は呪いの王にさえ予測出来ない。

 

 黒閃

 

「共っ鳴りぃ!!!」

 

 カィィンッッ!! 

 

 ぐらぐらと揺れる脳内。宿儺ではなく、脳内に溢れ出すのは伏黒の記憶。四人で過ごした、たった数ヶ月。一年に満たない青い春。身体の制御が離れていく。

 

「私達から逃げられると思うなよウニ頭!! お前まだ津美紀さんを弔って無いだろうが! 他にも勝手に抱え込んでることが多すぎなんだよ、黙って死ぬんなら私等全員地獄まで行ってぶん殴ってやるからな!!」

 

 ギリギリリリッ! 

 

 釘崎は襟元を両手で掴み、伏黒の魂へとさらに呼びかける。

 

(不味い! 想定した中で最悪なパターンだ! 阿頼耶識刹那も五条悟も殺せぬまま宿儺を無力化される! 戦う前の縛りが働かない!)

 

 羂索は宿儺を二人から離す為に刹那との戦いを放棄、同時に、五条の高速移動で刹那と入れ替わる。

 

「行っといで。君の言葉がまだだ」

 

「ッ! はい!!!」

 

「お前の相手は今、俺だ。若人の青春を取り上げるなんて許されてないんだよ。何人たりともね」

 

 ギリリッ! 

 

「五条悟!!!」

 

「消費期限切れのメロンパンには眩しいよなぁ! 若人の青い春は!!!」

 

 ヒュッ……ボグォッ! ガリリリッッッ!! 

 

 羂索の突き出した拳の間をすり抜け懐へ侵入。腹に膝蹴りを入れ、顔面を掴んで地面を削りながら蒼を転用して前方へ吹き飛ばす。

 

(この身体は元々の五条悟対策に作り替えたもの!! 多少は呪霊がダメージを肩代わりする。今最優先すべき目標は阿頼耶識刹那!)

 

 ボココッ……バジュンッ!! 

 

「位相、黄昏、智慧の瞳……術式順転」

 

 蒼

 

 対象を絞るために呪符で精度をあげ、羂索が身体から離した呪霊を吸い込み圧殺する。

 

 刹那は納刀して走り、伏黒の身体をした宿儺の元へ駆けつける。

 

「恵君!!」

 

(呼ぶな……! 身体の制御が……!!)

 

 呪いの王を無視して呼ぶ最も歪んだ呪いを妊む呼び声。

 

 愛を込めて最愛の人の名を呼ぶ。二度の共鳴り、二度の呼びかけ。宿儺の身体の動きはどんどん鈍っていく。

 

「僕は! 正義の味方じゃないので! 我儘を通しますから!! もう一度……いえ、何度でも!! 貴方に僕達の名前を呼ばせてみせます!! 寝ぼけてないで! 帰ってきてください!! 恵君!!!!」

 

 ジュゥゥッッ 

 

 宿儺の顔から頬を伝う入れ墨が薄くなり消えていく。

 

 三人の決死の呼び声。最後の刹那の叫びと抱擁は、彼に届いた。

 

 ポスッ……

 

「…………ただいま……だったな……」

 

 宿儺の文様が薄れ、帰ってきた荒っぽい目つきながらも優しい声。刹那の瞳に映ったのは、笑顔とも泣き顔ともどちらにも取れる、伏黒恵の顔だった。

 

「うん……! うん!! おかえりなさい……!」

 

 泣きそうな顔。始めて伏黒とあってから僅か三年、虎杖と釘崎は一年にも満たない。そんな彼女の安堵の顔は、この場の誰よりも幼く、深い優しさを持っていた。

 

 ビキキッ!! ドクンッ! 

 

「刹那ァァ!!」

 

 束の間、呪いの王が再び伏黒の身体を乗っ取る。伏黒の身体は呪いの王を虎杖のように完全に制御できていない。彼を閉じ込める檻たる役割は虎杖悠仁なのだから。

 

 そのことを予期していた刹那は感傷に浸るのを中断し、涙を拭う。

 

「悠仁君。ここからは、貴方の戦いですから」

 

「応……ありがとう」

 

 寂滅意楽

 

 空間、世界。この世に斬れぬもの無しの無情、絶対の刃。それは魂の繋がりさえ例外ではない。

 

 ブゥンッ! ……キンッ……!

 

 呪力を纏った右腕の振りを刹那は右眼で見切り、宿儺の魂が集中する右手部分を切り離す。行き場のない魂は、檻へと戻るように口へ運ばれる。

 

 ボリッ、ゴクンッ……

 

 ──ー

 

 ガララッ……! 

 

 血のように紅い水辺。肋のように連なる巨大な骨が見上げた場所に広がり、積み上がる人骨の山。

 

 そこへ降り立つ呪いの王。今生最大の怒りと憎悪と屈辱。

 

 ビキキッ!!!! 

 

「こぞ──」

 

 バキィッ!! 

 

 バシャンッガラガリガシャアンッ!! 

 

 顔面をくり抜く一人の男の一撃。呪いの王を人骨の玉座から殴り飛ばして引きずり下ろす。人相は違えど同じ顔をしている二人は再び、この場所で純粋な徒手格闘をすることになる。

 

「やっっっと堕ちてきたな王サマ。今回はマジで泣かしてやる」

 

 パシャンッ

 

「……呪いに生まれ、呪いに生きた千年余り。褒めてやるぞ小僧。たった今、貴様が俺の人生最大の怨敵になった…!」

 

 水辺から立ち上がり、髪をかきあげ、浮かべた青筋は明確に怒りを物語る。

 

 呪いの王とその檻。両者が呪い合うさまは誰にも観測されない地獄の生得領域で始まった。

 

 




でもね…
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