全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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記念すべき八十話!高2?辺りから続けて2年くらいですかね?
趣味の範疇でもここまで続いてるのはやっぱり感想でいただける応援の影響が大きいですね!
それでは、お楽しみください!


第八十話 噛み締めろ

 夏油の呪霊を経由して釘崎は伏黒と共に待機場所へと戻る。硝子はすぐに伏黒の容態を確認、夏油は降りようとする。

 

「先生!! 誰でもいいから今すぐ刹那のところに!! あと伏黒を!」

 

「釘崎!」

 

「分かった、すぐに──」

 

 バチチヂッ……バァンッ! 

 

 しかし鹿紫雲は電撃で夏油を牽制、前に立って止める。

 

「行くな。何度言わせるつもりだ」

 

 青筋を浮かべ、我慢の限界を知らせる鹿紫雲の電撃が数本のケーブルをショートさせる。

 

 次はお前らじゃねぇって言ってんのが分からないか!?」

 

「余計なことで争いたくはない。どいてくれ」

 

「おい、座れ! 二人が領域を展開するぞ!!」

 

「「!?」」

 

「そんな……!!」

 

 両者、展開から僅か五秒、領域が破壊される。結界の中から現れたのは、全身に刻まれた解と捌による斬撃痕を残し、ズタズタに斬り裂かれた肉体の刹那。

 

 そして、肘と膝から先を失ったことで平衡感覚を失い、地に伏す両面宿儺の姿。

 

「相打ち!!」

 

「いや……! どこまでも……呪いの王……!!」

 

 ──

 

 両面宿儺は覚えていた。刹那の領域、その門から放たれる"無"を。感知、防御不可能の無を避ける為、あえて刹那への斬撃を減らし、虚空へと斬撃を放つ。高密度の斬撃を無くしながら進む"無"を捉え、宿儺は紙一重でそれを避けた。

 

 "無"は前へ直線にしか進まない。その特性上、大きく円を描いて宿儺へ当てにくる。無が再び自分の身体を削る前に、宿儺は刹那への斬撃を行って領域を保つだけの体力を奪った。

 

 触れれば感覚は消え、たとえ領域から脱しようと反転術式の治癒が一定時間不可能となる。しかし、自らそれ以上の部位を切り離すことで感覚を上書きし、その問題も解決する。

 

 宿儺は消された上の部位に当たる肩と太腿を自ら千切り、反転術式で治療する。

 

 ほぼ全快の宿儺。反転術式の治癒

 

 ガクンと、壊れた積み木のように崩れた刹那から呼吸は聞こえない。

 

 過去に幾度となく身を犠牲にし、その度に勝利を納めてきた彼女。

 

 その光景を見た一同に一致した思考は"敗北"の二文字。 

 

「……後は五条悟を殺せば俺の目的は達成される。そこで見ていろ、時代の終わりを。運良く目覚めたその時には……永劫、傍らで(呪い)を噛みしめろ」

 

 宿儺の斬撃は何度も刹那の身体を斬っていた。出力の低下もあり両断出来ないのは悔やまれたが、手は抜かず、確実に殺す威力。放っておいても彼女の身体から流れ出た血で失血死する。

 

 …………ザクッ! 

 

 ハズだった。静寂だけが存在する空間。不意に響いた、肉を貫く刃の音。それはまさしく継続の狼煙。

 

 自ら手にかけた。間違いなく殺す気で呪った。油断はなかった。だが、心の何処かで期待していた。

 

 彼女が、まだ立ち上がることを。

 

「……ケヒ……クックック……そうだ! そうでなくてはな!! 阿頼耶識は!!!」

 

 血吸を自らの腕に刺し、血吸に込められた最後の呪力を供給。童子切と血吸には呪力を吸い取り蓄える術式が付与されており、その総量は青天井。

 

 しかしそれでも全開時の3割程度が今の限界。そこから反転術式を行使し、身体を最低限に直す。

 

 大きな喜びで満たされ高らかに嗤い声をあげる宿儺の背後で彼女は立ち上がる。

 

「命を賭けたんだ……! 死ぬまでやれ!! 両面宿儺ァ!!!」

 

 ブシュッ! ガァンッ!!! 

 

 腕から刀を抜き、宿儺の打撃を柄で弾いて向かっていく。

 

 術式が使えない今、純粋な打撃に呪力操作のリソースを割いた宿儺の打撃で刹那は吹き飛ぶ。その先に五条は先回りして刹那を受け止める。

 

「刹那、まだやれるんだね?」

 

「まだまだやれます!!」

 

「オーケー、呪霊は全部祓った。羂索と宿儺を直線に集めるように二人で動くよ」

 

 言葉にせずとも二人の特級は互いの意図を明確に読み解く。

 

 宿儺ならばそれでも確実に肉の形を保つ。ある種の信頼を置いている二人は、全力で二人を呪うことを決意する。

 

「悠仁君!! まだ出てきちゃ駄目ですからね!!」

 

 再び刹那は血吸を構えて宿儺へ向かっていく。

 

 また、余裕を演じる五条も既にピークは迎えている。

 

 呪霊を全て祓い終えたのは事実。しかし領域の展開は既に不可能、脳へのダメージから鼻血を流す姿は戦いの過酷さを語り、不可侵の強度も密度も下がっている。

 

 最強、五条悟が負ける姿をイメージさせる材料には充分。

 

(宿儺の術式の回復は今の僕より速い。でも性能は僕のほうが上、ここを凌げば勝ちの目が見えてくる……!)

 

 五分。宿儺が宣言した虎杖が戻るまで、茈を当てるまでもなく宿儺がこの舞台から退場するまでの時間。

 

 しかし、刹那の言葉を信じる虎杖は恐らく出てこない。

 

 二人の虚式が決まるまで、彼は宿儺の中で闘志という刃を研ぐ。

 

 その間、二人は術式が無い状態で呪い合う。

 

 刹那の斬撃を手元の柄に打撃を加えてズラし、直撃を避けていく。二刀でなくなった今の連撃は密度がない代わりにさらに速く、重い。いなしきれない斬撃は宿儺の身体に確実にダメージを与えていく。脛を斬って前のめりになった宿儺に対し、刹那は地から足を離して前に回転した勢いで宿儺の顔面を地面に蹴り落とす。刀を巻き込まないように左手で受け身を取って着地し、次の攻撃へと移ろうとする。

 

 しかし、ここで宿儺の虚をつく一撃。虎杖の身体に移ったことにより、脳の破壊と再生による術式の回復が可能になった宿儺は刹那より一歩速く術式の行使が可能となる。

 

 頭から血を流しながらも即座に復帰して横に飛び、矢をつがえる構えを取る。

 

「■■■[開]」

 

 ギュイッ──ボォンッ!!! 

 

 業火の弓矢を放ち刹那はそれを右腕に持ち替えた刀で空へと受け流す。しかしそれは布石、さらに巨大な炎の矢をつがえている宿儺が嗤いかける。

 

「開ァ!!!」

 

「位相、黄昏、智慧の瞳」

 

 僅かな差で術式がジャストで回復した刹那。三発の"赫"を既に放ち、六度の黒閃を放っていた彼女の脳は、呪符付きの蒼一発なら領域を展開せずとも靄の中で擬似的に再現するまでに至っていた。

 

「蒼」

 

 開による炎の矢を避けて蒼は直進する。その引力で宿儺は背後へと引っ張られていくが、炎の矢は身体を逸らした刹那の右腕を焼く。莫大な計算を必要する無下限呪術の疑似再現により、本日3度目となる鼻と目からの流血。地面を紅く染めるながら刹那は前のめりに膝を着く。しかし、それでも彼女は意識を離さず靄を展開し、蒼を先へと伸ばし続ける。

 

(出力が足りない……考えろ……頭を回せ!!)

 

(無下限!? だが出力は五条悟とは比べ物にならん!)

 

 宿儺は出力の低い蒼の吸引に耐え、呪符を唱えて御厨子の威力を強化しながら刹那へと向かっていく。

 

「"龍鱗"、"反発"、"番の流星"」

 

「"涅槃(ねはん)"と"廻廊(かいろう)"、"梦の境界(ゆめのきょうかい)"、"史実の裏側(しじつのうらがわ)"」

 

(呪符!!)

 

 刹那の術式には呪符が必要ない。元は0か1しか存在しない彼女の術式。本来の形、あらゆる理の曲解という複雑すぎる術式に対し、刹那が"今"設定した呪符である。

 

 呪符は術式への意味よりも、単語一つ一つへの言霊の方が意味がある。その意味が強いほど、詳細なほど、術式はその威力を増す。

 

(関係ない、貴様の呪力ごと断ち斬る!)

 

「解──」

 

 パァンッ!!! 

 

 宿儺のトドメの瞬間、魂の喝采が鳴り響く。

 

 原理は単純、直線上に伸ばした靄の中にある"一定以上の呪力を持つもの"、即ち蒼と宿儺を"不義遊戯"で入れ替える。

 

 宿儺の解は場所の入れ替えによって刹那の真横スレスレに放たれ、深い斬撃痕を刻む。

 

 再三語るが、領域内でない不義遊戯の発動も、前持たない呪符の設定も、死の間際、六度の黒閃を経た今だからこそ為せる技。

 

(ここを乗り越えて……次は……? 次なんて、次を考えて動くな……今この瞬間に! 全てを捻り出せ! 僕のすべてを今ここで賭けろ!!)

 

 自身にかけていた術式、痛みの遮断や呼吸機能の安定化の為の効果を全てカットして戦闘に回す。身体が悲鳴をあげ、今にも彼岸を渡りかける彼女の意識は研ぎ澄まされていく。痛みがあるとないとでは、五感の済まされ方は段違い。身体の血管一本に渡るまで、靄状の呪力が行き渡る。

 

 文字通りに死地に立ち上がる刹那と宿儺の戦闘中、五条もここを攻め時として動いていた。

 

「ガボァッ!」

 

 五条は羂索の肩を掴み、膝蹴りで呪霊による腹の装甲を破壊する。そのまま蒼の高速移動で地面へ自分ごと激突、地面を削りながら移動し羂索を吹き飛ばす。

 

 羂索は身体から伸ばした触手で即座に止まり、右腕を圧縮した呪霊の刃に変え、展延を混じえながら五条へ突き立てる。

 

 ブシュッ! 

 

「甘ぇよ!!」

 

 五条は右掌で刃を受け止め、腕力で引き寄せながらドロップキックで羂索を吹き飛ばし、蒼と入れ替わった宿儺は羂索と背中合わせにぶつかる。

 

「位相、黄昏、智慧の瞳」

 

 ボヒュンッ!! 

 

 刹那の蒼は五条と原理が限りなく近い偽物。だからこそ、それを補うように後追いで呪符を唱え、刹那の蒼を五条の術式で上書きして補填し、"無下限呪術の蒼"に作り直す。刹那の蒼の操作権が五条へと移り、二人の上空へと操作される。同時に、刹那の靄がその場を取り囲むように覆われる。

 

(やはり出力は落ちている! これならギリギリ破壊できる!!)

 

「"阿吽(あうん)"、"輪環(りんかん)"、"現の扉(うつつのとびら)"、"窕の残り香(うつろののこりが)"……」

 

「!!」

 

 羂索の思惑、極の番の発動。その起こりを見抜いた刹那は、今度は反転の呪符を設定、羂索へとそれを向けて放つ。

 

「残響」

 

 "残響"による再現効果を呪符で高め、一瞬の再現から僅かにその期間が伸びる。加えて、"威力"の再現ではなく"ダメージ"の再現になったことから、呪力による防御は意味を為さない。

 

 先刻羂索が五条との戦いで回復させたダメージが、一度に身体に刻み込まれる。

 

 ビキキキッッ!! 

 

「ッッ!!」

 

 一瞬遠のく意識、僅かな余裕も消えた羂索は五条の蒼に抗いながらも血を吐いて膝を着く。

 

「[開]!!」

 

 宿儺はその場を脱するより、確実に頭上の蒼を破壊するため、炎の矢をつがえて放とうとする。

 

 しかし、弦となる左手がそれを許さない。左半身に現れた虎杖悠仁が右手を掴んで蒼から逸らし虚空へ放ち、首へと掴みかかる。

 

「とっくに逝く準備は出来てんだよ、噛み締めろ!! 呪い()を!!!」

 

「小僧……!!」

 

「位相、波羅蜜、光の柱。術式反転、赫」

 

 ダッ!! 

 

 まだ炸裂させない赫を二人の上へ放ち、即座に刹那を守るために呪符を唱えながら移動する。自身の生存を度外視した刹那は呪力を全て使って羂索と宿儺の二人を包み、呪符を唱える。

 

「"九綱"、"偏光"、"烏と声明"、"表裏の間"……」

 

「"涅槃"と"廻廊"、"梦の境界"、"史実の裏側"……」

 

 一方の宿儺と羂索は蒼の破壊に失敗し、打つ手は無し。

 

 覚悟を決めたか二人は全呪力を防御へと回す。しかし、

 

 刹那は完璧にタイミングをリンクさせ、刹那の術式への対策が疎かになった所へ呪符で強化した"虚"で二人の五感を無くし、呪力の操作(コントロール)を奪う。

 

 収束と発散。二つのエネルギーは混じり合い、仮想の質量を押し出す。

 

 それは観測者の想像を有に超える威力を持つ。

 

 それは術師達の瞳に写る実像を仮想が塗り替えていく。

 

「「"(うつろ/きょ)"式、茈」」

 

 指向を絞らない無制限、零距離、防御不可、完全詠唱の茈。

 

 周囲一帯が再び瓦礫と五条の呪力で沈む。魔都、新宿渋谷は見る影もない、文明の滅んだ景色と化す。

 

 舞い散る砂埃の中から現れる三つの影。

 

 パラパラッ……

 

 度重なる超エネルギーのぶつかりあいに天候が刺激されたか、東京都心にも関わらずパラパラと粉雪が降り始める。しかし三者とも、それを愛でる余裕は一切なく、降っているのも気付かないように話し始める。

 

「げぇ……まだ生きてんのかよ。可愛い教え子との合体技なんだからテメェだけは綺麗に消し飛んでくれっての」

 

 五条は刹那の刀を握っている。徒手格闘がメインとはいえ彼にも呪具の心得はあり、五条の呪力を込めて振るった刀のおかげで二人にダメージは殆どなかった。

 

(この身体に合成した呪霊……残りニ十二体……天元を消費するわけにもいかないしここまでだな。八十万体を一人で祓いきるとはね……)

 

 咳き込んで口から吐き出す血を見て、自身の限界を悟った羂索は逃げへと回る。

 

「宿儺。悪いね、ここでお別れだ。まぁ、君としては満足だろう、私としても充分だ」

 

 また、同様に二人にもダメージは殆どなかった。羂索は天元によって底上げされた結界術による簡易領域を展開し、茈から自分を保護したお陰で辛うじて無事。しかし、それでもダメージは隠しきれず、右腕は消し飛び、全身に火傷のような跡が出來ている。

 

 虎杖悠仁の肉体は生来の頑丈さと、防御に回せないとはいえ宿儺の膨大な呪力による肉体の保護、完全に気を失っている。

 

「逃がすと思ってんのかよ、つくづくおめでたい奴だな」

 

 五条は倒れた刹那の鞘に刀を戻し、拳へと呪力を込める。獲物を狙う狩人の目は明確に羂索を見据える。

 

 頬に伝う汗を感じながらも、決着がついたことを理解している羂索は笑みを崩さない。

 

「はは、そんなことはないよ。今の君ではもう追撃は不可能だろうからね」 

 

 ガクンッ

 

「!?」

 

 五条は突然膝を着き、鼻と目から流血する。

 

 六眼で呪力ロスがなくとも、数値化出来ない脳の疲労は蓄積されていた。ついに現代最強が膝を着く。

 

「正直その状態でも勝てるか怪しいし、私はお暇させてもらう。不幸中の幸いかな、さっきので烏も全員掃けた。臆病な仲間たちで助かるよ。私はモニターに映る前に逃げるとしよう……各地で撒いた呪霊の間引きもそこそこ終わってるし、強いやつは私が叩かなきゃいけないからね」

 

 バサッ! ビュンッ!!! 

 

 次に待機組が目にしたのは、明らかにダメージの許容量を超えた三人。一人は肩で息をして、目と鼻から流血して動けず、一人は全身に走った五条の呪力で力尽き、その閉じた双眸で空を仰ぎ、一人は横たわり二人へと手を伸ばし、虚しく力尽きる。

 

 勝者無し。しかしながら、この戦いは未来に語り継がれていく戦であると、関係者は後に語るだろう。

 

 ──ー

 

「リカ!」

 

「は~い」

 

「私を置いていくな!」

 

 土煙と粉雪が舞う中、薄っすらとモニターに写った倒れた三人の影。止められていた乙骨が先に前へ出る。

 

 リカと真希と共に先駆けで降下する。

 

「夏油、呪霊を出せ! 治療しにいく!」

 

「分かってる! まだ何かあるかもしれない、戦える人間は全員来なさい!」

 

 夏油は多数の飛行型呪霊を出して先に戦える術師と共に出る。

 

 しかし、背負うものの無い手練れが見る終わりはまた別のもの。鹿紫雲は欠伸をかきながらゆっくりと降りる。

 

「決着は着いてんだろ、バカバカしい」

 

 ──ー

 

「おい悟、動くな!!」

 

「二人共! 生きてる!? 今反転術式を……!」

 

「悟!! 虎杖!! 刹那!!」

 

「……! 三人を順に並べろ! 私が治療する、乙骨も手を出すな!!」

 

 烏からのモニターが復帰し、乙骨と真希が三人へ声をかける。夏油と硝子が次に駆けつけ、後から全員が合流する。三人を集めて簡易的な医療器具を横に並べる。

 

「皆……!!」 

 

「……! 二人は……!!」

 

「動くな五条、反転術式も使うな。私に任せろ」

 

 虎杖は生来の肉体と宿儺の影響もあり、比較的に治療が容易な外傷のみで済んだため、麻酔と臓器周りの治療で済ませる。

 

「悟。これ以上は頑張らなくて良い。小型の呪霊に追跡させた。全国各地に私の仕込んだ呪霊もいる、見失わない。絶対に逃さないよ」

 

 五条は意識はあるが途絶えかけも良いところ、いつもの蒼は紅く染り、その瞳は虚空を見つめ、震えた腕は限界を物語る。

 

 前進しようとする意思だけが彼にはあるが、自ら死へ進もうとする親友を夏油がなだめ、安心したように彼は意識を手放す。

 

「まずいな……! 真希!! ありったけの麻酔と輸血剤を持ってきてくれ、O型のがいくつかあったはずだ」

 

「分かった。他には?」

 

「そうだな……毛布とか、温めるものも頼む」

 

「了解」

 

 真希と乙骨は待機していた場所へと走る。その間に硝子は最も重症である刹那の脈と心臓の鼓動を聞きながら、服を破って簡易的なホルター心電図を取り付ける。

 

 当然の如く、常に危険を知らせるアラームが鳴り続ける。

 

(……脈が速く鼓動が弱い。出血のせいで体温も低い、彼女の生命力でここまで弱るとは……!)

 

 ヒューヒューと力のない呼吸音と冷たい指先が、どれほど彼女を弱らせているかをそれぞれに悟らせる。手速い反転術式と、身体に負荷をかけすぎないように医療の知識をフルに稼働させて出来るだけ外科的な治療を施す。

 

「持ってきたぜ」

 

「ありがとう、助かる。刹那……悪いが、君はここで死んではいけない……絶対に死なせないからな」

 

 ドサドサと輸血用の血と毛布を持ってくると、硝子はそれを刹那の血管へ繋ごうとする。

 

「ゴフッ……」

 

 ビチャッ……

 

(吐血……!!)

 

 ピーー……

 

 突然血を吹いた刹那。僅かな嚥下の音と、硝子の頬にかかった生温かな血液。同時に、無情に鳴り響く高音が生命の終わりを高らかに告げる。

 

 

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