全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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第八十一話 虚の玉座

 ピ──ー! 

 

 命の終わりを告げる高音。現代の人間たちにとり、その音は患者がいかに危険な状態を示すかは各々理解している。

 

「「「「「!!!?」」」」」

 

「真希、AEDだ!! 心臓が止まった!!」

 

 即座に心臓マッサージを開始した硝子は真希に再び指示を出す。

 

「AED!? んなもんどこに……!」

 

「ビルや公共機関にある!! 動けるやつは全員走って探して来い!!」 

 

「私も行くよ!!」

 

 日下部の指示から西宮と真希を筆頭に、機動力に長けたメンバーで探しに行く。五条と宿儺だけで十キロ近く破壊された渋谷と新宿を抜けて探すのは決して容易ではない。硝子はかつて無い程の焦りと緊張感で心臓マッサージを繰り返し、硝子の頬には汗が伝っている。

 

(心停止から三十秒……! このままでは脳に影響が……!!)

 

「刹那……! 刹那お願い、起きて!!」

 

 釘崎は刹那の手を握って呼びかけるが力なく、虚しく握る腕からは温度が消えていく。

 

「……どけ」

 

「!」

 

 鹿紫雲は釘崎と硝子をどかし、刹那の胸へと手を当てて呪力を練りながら硝子に問う。

 

 ビリリッ……

 

「おい医者、AEDってのはどの程度の電流と電圧だ」

 

「……理想は1200〜2000。Aは30〜50を瞬間的に繰り返してくれ。この際正確性は問わない、心臓さえ動けばいい」

 

「面倒くせぇな……まぁ、やってやる。出力ミスっても文句は言うなよ」

 

「釘崎、呼び続けて。きっと聞こえてる」

 

「えぇ……! 刹那、起きて!! アンタがいなきゃ嫌よ!」

 

 バリリッ……バチンッ!! 

 

 数秒置きに電流で刹那の心臓を刺激する。その度に皮膚は焦げ、身体はビクンと跳ねるが、後遺症を遺さない為、横から硝子が反転術式を絶え間なく使用する。

 

(駄目か……!?)

 

 心停止から五十二秒、鹿紫雲の蘇生開始から二十二秒。諦めかけた頃合い、地獄に引き止める鼓動が響く。

 

 ……ドクンッ……

 

「! 動いた!! 止めろ馬鹿!」

 

「おっと、もういいのか」

 

「あぁ、感謝するよ。ここからは私の仕事だ」

 

 釘崎は電撃が終わり、手を握って呼びかけるが不安な表情を隠せない。それを横目に鹿紫雲は片膝で胡座をかいて硝子の施術を見守る。

 

「ほら、コレ持って立って、なるべく上から。日車さん、貴方も手伝って」

 

「お、おぉ」

 

「こうでいいのか?」

 

 傍観していた日車と、役目が終わったと思った鹿紫雲に指示を出して点滴棒の代わりに立たせる。充分ではないながらも数種の点滴の管を繋げ、懸命に治療を続ける。

 

「硝子さん! これでいいのか!?」

 

「こっちもあったよ!!」

 

「ゆうたぁ、これぇ?」

 

「それそれそれ!!」

 

「しゃけぇ!」

 

「ねぇ、これってこんなにいるの〜?」

 

「俺に聞くなって、わかんねぇよ!」

 

 真希と西宮に乙骨、先に走っていた猪野と染秀に秤も合流する。ドサドサとAEDを大量に置いて一同は騒ぐ。

 

「君達、静かにしなさい。今硝子が治療中だ。AEDは鹿紫雲君が代わりを果たしてくれたよ」

 

「怪我人の前で騒ぐものじゃない。大の男達がみっともないぞー」

 

 そこへ配信を終えた冥冥姉弟と九十九が入り、騒ぎを鎮める。

 

「なんだよ鹿紫雲ォ! お前意外と人間味あるじゃねぇか!」

 

「うるさい、別にそんなんじゃない。強いやつは世に多いだけいい」

 

「どんな理由であれ助けたことに変わりはないさ。私からも感謝するよ」

 

 特別感謝を受け取ることもなく鹿紫雲は如意を手にしたまま刹那を見守る。

 

「……峠は超えた」

 

 ゴム手袋を外し、一通りの簡易的な施術を終えた硝子は汗を拭いながら一息つく。

 

「良かった……!! 本当に……!」

 

「どこか近くに……大きな病院はないか、出来ればベッドの上で適切に治療したい。そこの二人の分の担架を。力持ちは取り敢えず待機所まで運んでやってくれ」

 

「おう」

 

「了解です」

 

「分かりました」

 

 決戦開始から実にニ時間と数分。意図せず起こった魔都、新宿渋谷間での最強という玉座を取り合うタイトルマッチは、まさかの"引き分け"で幕を閉じた。

 

 ──ー

 

 二日後

 

 機能の閉じた東京では、電力のみが動きながらも人がいない場所などいくらでもある。大きな病院で万が一の襲撃のため、四人それぞれを離した病室へ移して護衛をつけている。

 

 最重要戦力である二人、五条には現在の最大戦力であり、反転術式を扱える乙骨が。虎杖にはもしも宿儺が出てきたときのため、肉弾戦が強く、手数の多い夏油が。そして刹那は未だ危険な状況には変わりないため、停電時などの有事を考え、電撃による蘇生が行える鹿紫雲がつき、秤と綺羅羅もそこにつく。

 

 伏黒は肉体への負担があったが精神的なもので、来栖と釘崎、猪野がついている。

 

「悟が病室にいるのが未だに現実味が無いな」

 

「イメージしたことすら無いもんね……」

 

「病院送りにしたいとは何度も思ったけどな」

 

「しゃけ、ツナマヨ」

 

 二年生組は一斉に五条のいる病室を、外から覗いて不思議そうに眺めている。

 

「……別にもう治ったんだから皆入っといで〜。GLGが暇してるヨ〜」

 

 ガラッ

 

「そんなわけあるか」

 

 四人がドアを僅かに開けて覗いてる所から硝子が顔を出し、五条の発言を否定する。

 

「お、硝子。なんだ、悟と逢引か〜?」

 

「なわけあるか。回診だ」

 

 硝子の手には缶のコーヒーとレントゲンの写真がいくつか抱えられている。

 

「ほら、お前の頭の中だ。思ったよりちゃんと詰まってるのな」

 

「あったりまえでしょ。こちとらGG(グレートジーニアス)よ?」

 

「ちゃんと見ろ、この部分! 前頭前野、ボロボロのズタズタだ。反転術式をフルに回した結果!! 何もするな、全て私の指示に従え。呪力も練るな、できれば目も開けるな。最低5日は寝込んどけ。病院食もちゃんと食えよ」

 

「え〜!? やだやだやだ!! 甘いもの食べないと脳がチンしちゃうよ!?」

 

「糖分なら問題ない。そこの点滴と、あとタブレットが用意してある。いくらでも食え。じゃあな、私は三人の所へいく」

 

「ザマァねぇな」

 

「三日なら安いもんだろ」

 

「しゃけ」

 

「ちょっと気の毒な気もするけど……」

 

「乙骨、ヤツに同情するな。つけあがるだけだ」

 

「助けて傑ー!! 硝子がなんか厳しい〜!!」

 

 続き、虎杖の病室へ行くと、夏油が虎杖の横でりんごを剥き、その横で日車と脹相が剥いたリんごを食べていた。

 

「おや硝子、回診かな。林檎食べる?」

 

「無賃で買い物をするのも悪くない」

 

「いらん。そんなことより虎杖の容態はどうだ?」

 

「どうもこうも、ずっと寝たきり。たまに唸るけど、悪夢を見てるのか生得領域で宿儺とやりあってるのか……ま、良くも悪くも変わってないよ」

 

「悠仁は無事なんだろうな、俺はもう……弟を失いたくないんだ……!!」

 

(虎杖悠仁の家族関係が中々に複雑だな……)

 

「案ずるな。見た目は五条の茈でボロいが、流石というべきか異常に回復が速い。四人の中じゃ一番心配する必要がないよ彼は」

 

「そうか……! 流石悠仁だ。昔から風邪もひいたことは無いし、小学校の運動会でも……」

 

「ほう……興味深いな。どうりで肉体があれだけ……」

 

 存在しない記憶をぺらぺらと語り始め、それを興味深そうに聞き入る日車。その横で硝子は点滴のパックの説明を夏油にする。

 

「バイタルも安定しているし目立った変化もない。が、十九本分の宿儺の魂を喰らったんだ、身体が適応するのに時間もかかるんだろう。何かあったら頼んだぞ」

 

「任せてくれ。あぁ……悟はどうだった?」

 

「甘いものが食いたいと喚く程度には元気だ、相変わらず五月蠅かった。……が、どう見ても空元気だな。生存に支障は無いだろうが、今までと同じ動きが出来るかと問われれば分からん。なんせ"五条悟"だからな」

 

「……逆に安心した。彼も人間だって分かったからね」

 

「それには同意せざるを得ないな……さて、次に行ってくる」

 

 次に回るのは刹那。彼女が今回の一番の重症者である。

 

 一歩間違えば……というより、一度確実に死んだ彼女の命を呼び戻した功労者。鹿紫雲は秤と綺羅羅と共に静かに佇んでいた。

 

 ガラリと音を立ててその静寂は破られる。

 

「悪いな、暇だろう」

 

 硝子の手には酒を含む数本の飲み物と酒のつまみのような乾き物などが入ったビニール袋が握られている。

 

「三人共喉乾いただろ。酒はイける口か知らんが、まぁ、酔わない程度にな」

 

「……いいの? 硝子さん一応教員でしょ?」

 

「今の教員は私含めてだいたい全員前科持ちだ、気にすることないよ」

 

 流石に病人の前でタバコは控え、硝子は薄く笑って隣のベットに座る。

 

「じゃ遠慮なく。鹿紫雲も呑めよ」

 

「……別にこんな扱いしなくても気は変わらねぇよ」

 

「懐柔の意味を込めた訳では無いさ。ただ、フラストレーションが溜まってそうだったからな。……酒はいい……この程度では酔えないが、浴びるほど飲めば大抵のことは忘れられる……」

 

 硝子は刹那の髪をかき上げて呟く。

 

「……彼女は何度彼岸を渡りかけるのだろうな。その度に連れ戻され、同じ死地へ向かっていく……呪いの連鎖は終わらないな」

 

「「「?」」」

 

「気にするな。独り言だ」

 

「……硝子さん、ちょっと休んだら?」

 

「休んでいるじゃないか。私のことは気にするな、君達よりは命の安全が保証されているんだ。こんな時くらい頑張らせてくれ」

 

 目の隈がさらに深くなっているのを見た三人。硝子に取ってかわれる人物は今の呪術界にはいない。四人の治療とバイタルチェック、さらには他の人間の健康チェックも片手間とはいえ行っていた。

 

 プシッ

 

「そういや刀はどうしたんだ?」

 

「京都校の空色の髪の子がいたろ。刀持ってたし彼女に渡しておいた。手入れしてるらしいが、五条曰く"妖刀"らしいからな、長くは持たないように言ってある」

 

「折れたほうはどうするつもりなんだろ」

 

「さぁな、うちには鍛冶師なんていない。折れたまま使うか、供養するかだ」

 

「……美味い」

 

「「「?」」」

 

 三人が話す横で、手持ち無沙汰になった鹿紫雲がビールを飲んで呟く。

 

「これが麦酒か……悪くない」

 

「……純粋な感想を初めて聞いた気がするぜ」

 

 場所は変わり、地下一階の病室に置かれた伏黒。その周りには釘崎と華、それに猪野と暇をつぶしに来た染秀がいた。

 

「だから、コイツは本当に刹那の彼氏なのよ」

 

 あいも変わらずピョンピョン跳ねる頭を指先で弾きながら釘崎は来栖へと説明する。死滅回遊のときに虎杖と真希が説明したのが腑に落ちなかったようで、彼女は再び問いかけていたのだ。

 

「そ……そんな……こんな! ウニ頭で無愛想な人を好きになる人なんているわけないじゃないですか!?」

 

「落ち着け華。君は伏黒恵を好きなんだよな?」

 

「そこのウニ頭でヤンデレでむっつりで無愛想な奴を好きなのよ。まぁ、顔はいいし。それと昔からの馴染みらしいわね」

 

「私の方が古いです! 多分六、七歳位の時に一回助けられました!」

 

「……こいつ頭いいけど流石に覚えてないんじゃない?」

 

「絵、上手いな〜。これは何描いてんの?」

 

「……擬獣化? 釘ちゃんは猫で、天使ちゃんは鳥で、伏黒君はウニ」

 

「おぉ、じゃ俺は?」

 

「えー、君は……犬? なんか……後ろからついてくる後輩味が強い」 

 

「あ〜……合ってるかもな。へへ」

 

 伊野は帽子を少し深めに被り直し、潰れた右眼を隠す。

 

 その思考の端には七海が彼を呼んでいるような気がした。

 

「はぁ……七海サァン……」

 

「辛気臭い。私だって高聡の身体を好き勝手にされてんの。私だけじゃないし、ここの皆それぞれ何か失ったり覚悟してきてんだから。忘れるなとは言わないけど口に出さないで」

 

 絵を書きながら彩華は辛辣に諭す。しかし先刻犬と例えられたばかりの伊野は前を向いて進むことを決意する。

 

「こんな時七海さんは……そうだ! アンタと似たようなこと言うかも!! おっけぇ! 助かった!」

 

「「うるさい! ここ病室!!」」

 

「アッ……すいません……」

 

(……二人も中々うるさいけど、まぁ、そのお陰で目覚めてもロマンチックかも)

 

 ガタリと立ち上がって手と声を上げるが、二人に大声で叱られ、まるで垂れた尻尾が見えるように目に見えて伊野は大人しくなる。

 

 リハビリルームでは何となく落ち着かないのか、三輪と西宮、歌姫と日下部に楽厳寺が今後についてやれることを話している。

 

「これ……刹那ちゃんの刀なんですが、その、じゃじゃ馬っていうか、刀身の重さがバラバラで……こう、人を殺す為だけに作られたものって感じで凄く振りにくかったです」 

 

「オマケに触れるだけで呪力を吸い取る……確かに、五条の言う通り妖刀ね」

 

 ちょんと少し刀身に触れただけで歌姫は呪力を僅かに奪われ、扱いにくい刀であることを理解する。

 

「加茂君と真依ちゃんには憂憂君が連絡したよ。羂索がフリーなのは危ないし、夏油先生の呪霊が案内してるから明日にはこっちに来れるみたい」

 

「奴の狙いは死滅回遊を終わらせること。この病院にいる術師が生きている限りは終わらん」

 

「逆に言えば、私達は確実に最後に狙われるってことだけどね」

 

「……来たか、九十九由基」

 

「や、おじいちゃん」

 

 キィキィと音を立てて車椅子を鳳輪で操作する。慣れていないようで、フラフラと色々な場所にぶつかりながら来たのか、大分車椅子本体に傷が見える。

 

「三輪」

 

「はい! 押しますよ、九十九さん」

 

「親切だねぇ皆。甘えようかな。あ、ついでにコーヒー私ももらっていい?」

 

「あ、私持ってくる」

 

 西宮が自販機からカップのコーヒーを持ってくる。

 

「電力は生きてて助かったね。もう業者は来ないからその辺の備蓄で終わりだけど、この人数を賄うには充分」

 

「……九十九さん、貴方が皆に見せた魂の研究ノート……」

 

「あくまでも研究さ、完成じゃない。事実は積み重なっても、天井の真実にはいつまでも届かない。A4用紙を重ねてスカイツリー作ろうって言ってるようなもんだからね」

 

「そんな研究を一人で……高専と考えが合わないってのはそうか」

 

「日下部君はゆるゆるに過ごしたいだけだもんね。まぁ、それも無理になっちゃったけど」

 

「ほっとけ。上はもう機能してねぇだろ。俺はこの戦いが終わったら辞めるつもりだしな」

 

「えぇ!? 辞めちゃうんですか!?」

 

「日下部、お前は今となって数少ない一級の術師だろう。そんな勝手が許されるとでも……」

 

「へーへー、悪いですねぇ。少なくとも五条が生きてるうちには帰ってませんよ。呪霊も呪詛師も凶悪なのばっかり、命が幾つあっても足んねぇわ」

 

 船を漕ぎ、日下部は棒飴を舐めて上を向きながら呟く。

 

「無理もない。むしろ最後まで残ってくれることのほうが私はビックリだよ」

 

「そこはまぁ……恩人に足は向けられねぇってだけ」

 

「……」

 

「ねぇ、結局羂索は五条先生には勝てないってことでいいんだよね?」

 

「そうでなきゃあんなに回りくどい戦い方はしないでしょう。万全なら刹那にも勝てないことハッキリしたしね」

 

「えっと……宿儺は虎杖君の中に再封印しましたし、五条先生も健在……これは実質勝ちなのでは……?」

 

「いや、そうとも言えない。五条君を相手にあれだけ粘れたのは正直予想外だ。伊達に歳を重ねた訳ではないだろうし、何か奥の手があると思って良い。二重三重に手を用意するのが羂索という術師だ」

 

 九十九はコーヒーを飲み切ってコップを置き、静かな沈黙の後に再び話し出す。

 

「……暗い話はよそうか。今は取り敢えず、誰一人欠けていない今の奇跡に感謝するべきだ。日本全国を渡って術師を皆殺しにするのは、ワープが使えない今の羂索には少し時間がかかるだろう」

 

「そういえば……九十九さんの友達の術式って……」

 

「あぁ……気にしなくて良い。全てが終わってから弔うつもりだからね」

 

 どこか寂しそうに笑い、九十九は脚をさする。

 

「すまない、そろそろ薬の時間だ。ここで失礼するよ。四人が目を覚ましたら会議もある。再三言うけど、今はとにかく皆休んで」

 

 各々がそれぞれの時間を過ごす中、唯一人、戦い続ける術師がいた。

 

 地獄と形容するのがふさわしい、真紅の生得領域で呪い合う二人の術師。

 

 バヂャアンッ! 

 

「ッ……ゲホッゴホッ」

 

 ゼェゼェと息を切らしながら虎杖は口から血を流し、宿儺は流す血さえも愉快と嘲笑う。

 

「はー……うざ。いい加減何が不満だ小僧、貴様らの勝ちだろう。俺は虎杖悠仁という檻に再び入れられ、伏黒恵も俺の魂と同調したとはいえ元通り……。貴様との縛りがあっても二度はないだろう、俺は敗北を認めるしかあるまい」

 

「うるせぇ……とにかくてめぇをぶん殴りてぇ気分なんだよ……」

 

 バシャバシャと歩きにくい水辺で立ち上がり、虎杖はふらふらと前進する。

 

「知るか、さっさと向こうに戻れ」

 

「……刹那をどうするつもりだ」

 

「どうもならん。縛りももう意味はない。全く、まんまと一杯食わされた」

 

 そう言いながらも愉快さを隠さない宿儺は口に手を当ててニヤニヤと笑う。

 

「伏黒は?」

 

「あやつも直に目を覚ますだろうよ。元々俺の毒で寝てるわけではない、脆い男だ。その点ではまだ貴様の方が評価できる」

 

「嬉しくねぇ評価をありがとよ」

 

 パシッ、バコンッ

 

「ぶべっ」

 

 虎杖は頭に青筋を浮かべながら頭蓋骨を宿儺へ投げるが、たやすく掴み取られ反対に座ったまま投げられる。

 

「……この呪いの王が敗北を認め、あまつさえ機嫌のいい時に……いいか小僧、いいことを教えてやる」

 

 宿儺はふわりと飛び上がり、ふらふらと足取りを弛ませる虎杖の前へと着地する。

 

「いいこと……?」

 

「恐らくだが、貴様の死刑はもう無い。最後の指のことだ」

 

「? あんなんこじつけだろうが、俺は十九本のてめぇと死ぬんだよ」

 

「五条悟、それに与する奴らが現在の呪術界の支配者だ。貴様へ行う処刑法は"老衰"しかあるまい」

 

「なら、俺が二十本目を……!」

 

「俺が求めていない。それに、残りは五条悟か夏油傑が持っているだろうしな」

 

「だって……そんな……じゃあ、俺は……」

 

 激しく水辺を膝が打ち、大きく波紋を作る。紅い湖面に映る虎杖自身の姿。悔しさからか、殴りつけるが水面に映る自身の影は付き纏う。呪いの王の失せた興味は彼には向かず、骸の山へと戻っていく。

 

(いや……さんざん俺は生かされた。死ぬことは恩返しにならない……伏黒も釘崎も刹那も……五条先生だって生きてる)

 

 だが、彼は虎杖の感情にこそ興味はないが、彼本人には可能性を感じていた。幾度手折られ、潰され、枯れた虎杖の魂は、

 

「"刹那的"な人間の味、その中でも貴様は一際変化する」

 

「……」

 

 宿儺に見下され、虎杖は立ち上がる。

 

「小僧、終わりではないのだろう? 多少なり肉体の変化を感じる。魅せてみろ、虎杖悠仁」

 

「上等だ。死ぬ瞬間まで俺ん中で指咥えて傍観決めこんでろ」

 

「指を食ったのは貴様だろう」

 

「うっせー、そこは黙って聞いとけよ」

 

 ──ー

 

 12日26日

 

 福島県、会津若松市

 

「残党、あるいは余りもの……ボスとの約束はどうしたのかな?」

 

 羂索の前に立ち塞がる三人の術師。190はある体格の良い男は銃を握り、パキパキと指を鳴らす若い青年は怒りで青筋を浮かべ、二人の間に立つ女性は静かに笛を持っている。

 

 三人は喜怒哀、三つの表情の能面をそれぞれつけている。

 

「……もはや私達にボスの記憶はない」

 

「まほろばという術師の顔は愚か、男か女かさえ分からない」

 

「ただそれでも、沸々とテメェに対する怒りだけが腹ん中で煮えたぎってんだよ」

 

「「「たった一度の裏切りを、お許しください」」」

 

 大男から順に言葉を連ね、三人は呪力を練りだす。

 

「はぁ……御門蓮の術式だけで充分なんだけどな。君達の術式って大した事無さそうだし」

 

 その言葉が引き金となったか、二人は羂索に向かって走り出し、女性は姿をくらませる。 

 

(あの感じ、呪具か。重造よりも腕は良さそうだ)

 

 向かってくる二人を気にもとめず、思考を巡らせながら、両横からの拳を呪霊と合わせた素手で受け止め、ため息をつく。

 

「単調、少しは考え……」

 

 ズンッ!! 

 

「!!」

 

 突如として羂索の頭上から呪力を纏った大岩が降り、それを受け止める。その程度ならば羂索にとって問題ではなかった。驚いたのは、直前までその大岩に気付けず、身体の呪力が制限されていることだった。

 

 バギィ!!! 

 

 大岩を受け止めた羂索の意識が二人から僅かに離れる。その隙を突いた拳が羂索の腹を撃ち抜いた。

 

 予想外のダメージを受け、羂索は不敵に嗤う。

 

「俺は(ジェイル)。命賭けてでもお前は逃さない」

 

「私は(チャカ)。何処までも貴様を追い続ける」

 

「「覚悟しろ、落とし前はつけさせる」」

 

「……面白い、楽しませてもらおうか」




不穏な動き書いてますけど、次は少しだけ平和パートいれるつもりです。
余談
AED持ってきた数選手権。
一位リカ 12個
二位真希 9個
三位秤 6個
四位乙骨 5個
五位西宮 3個
六位猪野、染秀 2個
最下位狗巻&パンダ 1個
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