全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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明けまして、おめでとうございました!!(大大大遅刻)
お久しぶりでございます!!!
あけおめ話だけでも投稿しようかと迷ったのですが、作品を見に来てくださる皆様に申し訳ないと思って仕上げてきました。
ちょっとしたお話パートになってます。原作もですがもう少しで完結、最後までお付き合いいただければと思います。




第八十ニ話 廻る蝶

「コガネ、二人の名前を」

 

「紫ヶ峰琉斗。拳藤雄馬デス!」

 

(得点はお互い5点を行き来してる感じかな)

 

 二人の術師は初撃を除き、執拗なまでに羂索と一定の距離を保ちながら戦う。羂索の身体に含まれている呪霊は天元を除いて二十一体。当然ながら、それら全てが高専の規定に基づく特級呪霊。肉体に合成している間はまともに術式が使えないが、反転で放出でき、全て調伏を終えている状態の呪霊達、羂索へのアドバンテージは大きすぎる。

 

(……なんだ? なにがしたい? 近付けないが近づいても来ない。遮蔽物の多い山に逃げんこんだところで、どの道泳者である君達を逃がすつもりなないが……)

 

 特級呪霊 界陣道祖之真神(かいじんどうそのまがみ)

 

 高専の指定する16体の特級呪霊が一体。有効範囲内20メートルのあらゆる流れを操作する術式を持つ特級呪霊。バキバキと音を立てながら羂索は一帯を吹き飛ばし、隠れた二人の術師を炙り出し、圧縮した呪力の砲弾をぶつける。

 

 ビュッ! パシンッ

 

「うげっ」

 

「残念」  

 

 羂索の頭上からナイフを立てて奇襲を仕掛けた琉斗を容易く掴え、わざとらしい笑みを浮かべながら空いた拳を顔面へと叩き込む。地面を転がり、口に含んだ砂利を吐き出しながら琉斗は左手を羂索へ向けて術式を発動する。

 

 ガチンッ

 

「へぇ……なるほど」

 

「鎖縛……!」

 

 羂索の右腕はダラリと肉塊のようにぶら下がり、呪力が霧散する。その隙を逃さず、羂索の身体へと右手から鎖を巻きつける、

 

(縛檻呪法か……本来なら条件的に肉弾戦に向かない術式だけど、術式の発動スピードが異常だな)

 

「しかもこれ、"万里の鎖"じゃない? どこにいったと思ったら高専の連中、パクられてたのか」

 

 ズンッ!!! 

 

 力を込めて投げ飛ばそうとするが、羂索は重力機構で重力負荷を高めてそれを棒立ちで防ぎ、反対に琉斗を鎖で投げ飛ばす。

 

「おっも……!?」

 

 ブンッ!! 

 

「むンッ!!」

 

 続く拳藤が反重力機構が解けた瞬間に大岩を投げ飛ばし、羂索は先程と同じように力の向きを変えて横へずらし、遠方へと飛ばす。

 

 これまでの一連の流れ、羂索は一歩たりとも動いていない。

 

「……びっくり箱ってあるよね。開ける前はワクワクだったけど、二度目以降はただの箱のやつ。なんかそんな気分」

 

 だというのに、二人の猛攻はいとも容易く防がれ、当の本人は溜め息をついている。

 

「俺等は芸人じゃねぇんだよ」

 

「それは残念。私は笑いに飢えていてね。満足できるようなら生かしても良かったんだけど」

 

「そんな気はないだろう」

 

 ジリジリと緊迫感の中の会話。攻撃の機会を狙う二人を交互に見た羂索は再び溜め息をつき、話し始める。

 

「で、何が狙いなわけ? 私も疲れてるしさっさとことを終わらせたいんだけど」

 

「当ててみろよ!!」

 

 端を観測されない限り無限に伸び続ける特級呪具。拳の中に端を隠し、金属の擦れる音とともに羂索へと伸ばす。

 

 ゴリュンッ

 

「ッッッ!」

 

「琉斗!!」

 

 瞬間、同時に紫ヶ峰の右腕がネジ曲がり、その激痛と脳からの信号が途絶えた影響で万里の鎖を落としてしまう。

 

「悲鳴の一もあげないのは立派だけどね。ま、どんまいってことで」

 

 ボチュンッ!! 

 

 術式反転 反重力機構 

 

 羂索は一足に二人へ近付き、超重力で圧死させる。

 

「さて、お疲れ様」

 

(…………あの女はどこへ──?)

 

 ここで初めて羂索の意識が彼女へと向く。初めに顔を合わせたにも関わらず、認識が極端に薄れていた一人の術師。

 

 能ある鷹は爪を隠し、殺意を抱いた獲物は必殺の牙を剥く。

 

「点連舞」

 

 拳藤が投げた岩と、琉斗が繋げた鎖は意図して繋いで連結される。そこへ彼女は術式を流し込み、羂索の動きを封じる。

 

「鎖、拳銃。お疲れ様」

 

 掌を叩き、彼女は羂索の重力術式有効範囲外から攻撃を仕掛ける。鎖に縛られた羂索は身動きが取れず、

 

「術式、じゃないね。呪具か」

 

「そう。貴方の意識の外にいけたのは、まほろばの残した呪具。その岩や万里の鎖に付随させた術式も呪具由来よ」

 

「驚いたな。私でさえ出来ないことだ」

 

「無駄話をこれ以上するつもりは無いわ。あの世で……罪を償え!!」

 

 ガチュンッ

 

 ──ー

 

 パンッパンッ

 

 羂索は岩に潰れた二人の遺体の確認と、先程頭を潰した女性の術師の遺体をまとめて燃やし、煤を払う。

 

「悪くなかったよ。獄門疆の疑似再現。だが、獄門疆の再現にはどうしても結界術が必要になる。天元を知らない君たちからすると何が起こったか分からないかもね」

 

「……燃やす必要は無いはずだが?」

 

「負けを想定しないほど自惚れる連中じゃないさ。ほら、しっかり呪具に保険をかけてる。おおかた死んで少ししてから発動する縛りだろう。抜かり無いのは嫌いじゃないね」

 

 ニヤニヤと笑いながら羂索は燃尽きるのを見届ける。天元はそこで一つの疑問を投げかける。

 

「なぜ、まほろばに拘っていた。獄門疆に宿儺の復活プラン。五条悟さえいなければお前の計画は問題なく進行出来たのだろう」

 

「まほろばの術式で可能なことが確定しているのは三つ。一つ、六眼を欺くほどの隠密性能。これを呪具化していたのが先程の彼女だろう。二つ、世界最大の呪詛師グループ。ヤクザや不動産などの非術師にも多く精通しているため人員を集めやすい。まぁ、これに関してはなんとでもなったけどね」

 

「三つ目は?」

 

「まほろばの術式は、恐らく他の術式を無効化することも能力の範疇だ。無下限呪術も例外じゃないだろう。でも、それもこれも今となっては無意味だけどね。五条悟の無力化はほぼほぼ成功したからもういいかな」

 

 羂索は手を払って森の静寂に耳を傾けながら歩く。

 

「でも、ここからが辛いところかな。残りの死滅回遊の泳者は百人と少し。乙骨だけでなく烏鷺や鹿紫雲、復帰に時間がかかるとはいえ阿頼耶識刹那も残ってる。二十体程度の特級ではとても突破は不可能だね」

 

「ならばどうする。また数百年待つつもりか」

 

「まさか。君を手にした今、日本は衰退の一途を辿るしかない。他国もほとぼりが冷める頃に動くだろうしこの機を逃すわけにはいかない。私も予想以上にダメージを負ったからね」

 

「その割には随分余裕そうだな」

 

「当たり前だろ。なんせ、私は既にこの勝負に勝っているんだから」

 

 この呪いの勝負の勝ちを確信するかのように羂索は嘲笑う。

 

「ここからは消化試合だ。日本全国の低級から特級まで呪霊を集めて泳者をなるべく減らす。そうしたら、後は晴れて君と一億人の超重複同化の完成だよ」

 

 羂索は皮肉のように天元へと語りかけるが、当の彼女はその口を閉じたまま意思を言葉にすることはなかった。

 

 ──ー

 

 病院。決戦から三日後の12月27日、当事者二人が目を覚ます。

 

「ここは……」

 

 握られた手の温もりを感じ取り、虎杖は日付の変わる夜中に目を覚ます。横にはベッドに突っ伏しながら目を瞑る脹相と僅かな灯りを頼りに本を読む日車の姿があった。

 

「! 虎杖、起きたのか」

 

「日車、脹相も……」

 

「まだ動くな。君なら無事だろうが、念の為にな。今、家入医師を呼んでくる。一先ず水でも飲むといい」

 

 水を渡して病室から出ていく日車。喉の乾きを潤し、窓の外を確認して夜ということ、戦いは終わったことを改めて感じる。

 

「……悠仁?」

 

「おはよう、脹相。あ、今はこんばんはになんのか?」

 

 明るく、いつものように笑う虎杖。重症は彼由来の治癒力の高さと硝子の反転術式と医療のおかげでほぼ完治しており、外傷も特に残ることは無かった。

 

「……お帰り悠仁。頑張ったな」

 

 虎杖を抱き寄せ、優しく頭を撫でる脹相。互いを知らぬまま育った兄弟の血の下の絆。普段なら恥ずかしいと突き飛ばす虎杖も、今この時は再会をただ噛み締めていた。

 

 不意に、ドアから軽くノックの音が鳴る。

 

「邪魔したならすまない。虎杖が起きたと聞いてね」

 

「家入先生!」

 

「問題ない。もう少し待ってくれ」

 

「いや問題あるから!! 離せって!」

 

「三日も寝たきりのお前を見ていたんだ。もう少しくらい良いだろう」

 

 シダバタと暴れる虎杖を強引に胸へ引き寄せて強く抱きしめる脹相。顔を埋める虎杖には見えていない彼の表情は、弟を心配する兄そのもの。

 

「……はぁ、明日でいいか。私は寝る」

 

 気を遣ったか、ただ疲れていただけか、硝子はドア前から日車と共に立ち去り、自室へと戻っていく。

 

「ちょっ! 家入せんせー!!? 日車も行っちゃうの!?」

 

「安心しろ。なにか来たらお兄ちゃんがやっつけてやる。取り敢えず体温を上げたから一緒に寝ような」

 

「いやいいって! ちくしょう、湯たんぽみてぇな体温しやがって……!」

 

 赤血操術を無駄に行使し、虎杖の布団へと入る。真冬の寒さにその温もりは離しがたかったのか、虎杖は抗えずにうとうとと静かに瞼を閉じた。

 

 翌朝

 

 バンッ! 

 

「虎杖!! 起きたんならまずは私に挨拶に来なさいよ!」

 

「釘崎! と九十九さん!」

 

 扉を勢いよく開ける音。視線の先には変わらず制服姿の釘崎野薔薇と九十九由基がいた。早起きが週間づいている虎杖は起きて簡易な朝食を取り終えたらしく、横で脹相が口を拭いていた。

 

「え……何あんた、幼児退行でもした?」

 

「違う違う。なんかさせないと脹相がぐずんの」

 

「これじゃあ、どっちがお兄ちゃんか分かんないね〜」

 

「……」

 

「?何黙ってんのよ」

 

「え? いや……生きてんなって。ちょっと嬉しくてさ……おい脹相、やらないからな」

 

 釘崎の無事を改めて確認した虎杖は薄っすらと涙を溜めるが、両腕を広げて抱きしめる構えの脹相を見たせいでその感動は薄れてしまう。

 

「なーにいっちょ前に感極まってんのよ。アンタは馬鹿みたいに笑ってりゃいーのよ」

 

 バシッ

 

「痛ってぇ!? おい、怪我人だぞ!」

 

「何よ、やっぱ元気じゃない」

 

 いつものようにギャーギャーと騒がしく病室で騒ぐ二人。非日常が引き起こした状況ではあるが、その笑顔は日常の風景そのものだった。

 

「虎杖君。改めて確認したいんだけど、本当に宿儺は君の制御下にあるんだよね?」

 

「……そうっす。ただ、アイツは誰も傷付けない縛りで俺と一時的に入れ替われる。なるべく近づかないほうが良いかも」

 

「ふむ。そもそも宿儺の指は猛毒だ。伏黒君の身体はこの上なく丁度良かっただけ。それは彼も理解してるだろう。そこまで気に病むことはないよ」

 

 ひらひらと軽薄な態度で虎杖の現状を伝える九十九。そこへドタドタと走る音、再び扉が乱暴に開かれる。

 

 バァンッ!! 

 

「悠仁君! 起きたんですか!?」

 

「「刹那!?」」

 

「あらら、元気だねぇ」

 

「静かにしろ! 悠仁は病人なんだぞ!!」

 

 全身の至る所に包帯が巻かれ、ドアを開ける前の足音に靴の音が混じっていなかったことから裸足のまま駆け出したことが容易に分かる。 

 

 ガバッ! 

 

「おわっ、ちょっ!」

 

 虎杖の起床と釘崎を同時に確認した刹那は脹相を無視し、術式を使って二人との距離を瞬時に詰めて二人をベッドに押し倒して抱きつく。

 

「良かった……本当に……!!二人共……」

 

 抱きついたまま二人に顔を見せずとも、彼女の特徴である泣き虫から、今の顔を容易に想像できていた。

 

「そうだな、後は一人だけ。もう少し待てば帰ってくるってさ」

 

「にしても刹那、アンタも随分元気じゃない。硝子さんの話だと一番……」

 

 ジワ……

 

「へ……刹那!?」

 

 起き上がった刹那の腹からジワジワと血が滲んでいく。

 

 いつの間にか刹那は気を失い、二人に体重を完全に預けている。

 

 そこへ幾度目かになる騒音。冷や汗をかく秤と綺羅羅が声を上げて病室へ入る

 

「せっちゃん! 流石に怒るよ!?」

 

「頼むからマジで動くなって! お前まだ全然治ってねぇんだから!」

 

 二人は言い切った後、青ざめた顔の虎杖と釘崎の表情から察し、秤が急いで硝子を呼びに行く。

 

「し、硝子さん!! 硝子さーん!!」

 

 バタバタと騒いだ後、鬼の形相の硝子は刹那を治した後、本格的に完全安静を言い渡され、鹿紫雲と秤等に加えて日車と物資を探していた夏油も彼女の監視へと回された。

 

 釘崎と九十九、飲み物の虎杖の点滴パックの入れ替えの為、脹相が病室を後にすると、入れ替わりで二年生達が入ってくる。

 

「おっす。さっきめちゃくちゃ怒ってる硝子さんとすれ違ったけどなんかあったのか?」

 

「ツナマヨ」

 

「真希さん! 狗巻先輩!」

 

「俺もいるぞ〜」

 

「パンダ先輩も!あれ、乙骨先輩は?」

 

「憂太はバカ目隠しの監視だ。目を離すとすぐにつまみ食いするからな」

 

「五条先生は当然というか、やっぱ元気っすね。あ、刹那はちょっとやらかしただけっす」

 

「そうか。アイツも大概だな」

 

(実はそこまででも無いが……まぁ、変に不安になることを言う必要も無いか)

 

 五条の容態は決して良いとは言えない。本人は気丈に振る舞いながらも状態の悪化は隠せていない。その一つに、明らかな眼の濁り、つまり六眼への異常があった。

 

 それを伝えることはせず、今は精神的なケアを優先した二年生達は起きた順に話して回っている。

 

「刹那はお前よりちょっと先に目を覚ましたんだ。大した奴だよほんと。心臓一回止まったってのに後遺症は無しだと」

 

「まぁ、それは悠仁も同じか。見たとこピンピンしてるしな」

 

「しゃけしゃけ! 高菜、明太子」

 

「さっき釘崎と刹那はいましたけど……」

 

 そこまで言って口を閉じてしまう虎杖に三人は言わんとしてることを理解し、反対に口を開いて答える。

 

「恵なら問題ないはずだ。硝子さんの話だと今日中にでも目を覚ますらしい」

 

「今は悟を動かせないからな、どうなんだ? 宿儺は」

 

「なんか機嫌が良いとかで一応大人しくはしてますね」

 

「ふーん。ま、これ以上の邪魔が無いのは有り難い。悠仁、コガネ出せ」

 

「? コガネー」

 

「"死滅回遊の生き残り人数"を表示してくれ」

 

 出てきたコガネ、真希の言葉を虎杖が伝えるとその人数を表示する。

 

「37人!?」

 

「私等の参加人数を差し引いても20人程度しか残ってない。でも、昨日からこの数字は完全に止まってる」

 

「なら、なんか俺等に有利なルールを追加すれば!」

 

「残念。昨日のルールの追加。要するにアイツ以外にルールがいじれなくなったんだ」

 

「えぇ?? 永続がどうのってのは何だったんだよ」

 

「向こうには天元様がいるからな。元々結界で作られてるゲームだし、バグじみたルールの変更なんてお構いなしなんだろ」

 

 真希とパンダの説明から現状を理解していく。理解力が無いわけではない彼は状況を飲み込み、ベッドに仰向けに倒れ天井を見上げる。  

 

「死滅回遊を終わらせるには私達を殺す必要がある。傑の監視網も天元様の結界術で完全には居場所を補足できてない。いわゆる冷戦状態だな」

 

「そっか。先輩達はなにすんの?」

 

「取り敢えず恵起きるまで待機のつもりだ。刹那も起きたり寝たりだし全く回復してないし、こっちの戦力を小分けにするのは危ないしな」

 

「しゃけ」

 

「虎杖も休めよ。精神的疲労がどうたらって硝子が言ってたぞ」

 

「うっす」

 

 短い返事の後で虎杖は眠る。同時刻、先程の出血で倒れた刹那は、宿儺の生得領域へと招かれていた。

 

「本当に自由ですね貴方……」

 

「どうせ互いに外では満足に動けん。少しは付き合え」

 

「全く……しょうがないですね、分かりましたよ。貴方の我儘に付き合える人間なんて僕くらいなものですし」

 

 ガラガラと骸骨の山を登り、登る途中ブツブツとぼやきながら、空けてある宿儺の膝へと収まり良く座る。それを見た宿儺はぽかんと刹那を見つめる。

 

「どうしました?」

 

「……自覚が出てきたようで、殊勝な心がけだと思ってな」

 

「? ……! いや違っ、貴方が前に乗せたからっ」

 

「ケヒヒ、愛い奴め。呪いの王の膝に乗れるのはこの世界でお前だけだぞ」

 

 疲れからか人の温もりを求めたか、宿儺に気を許してしまったか、とにかく無意識に座ってしまったことに自分で驚く。すぐに降りようとするが首を後ろから回されて抑えられ、肉体的な面では圧倒的に適わない彼女は大人しく座る。

 

「……ていうか、姿そのままなんですね。てっきり恵君のほうにするのかと」

 

「身体を変えたところで俺に損得など大してない。面は伏黒恵の方が良いのは確かだがな」

 

「要するにどうでも良いんですね」

 

 そんな小さな言葉の応酬をポツリポツリと行い。二人は互いに殺し合ったと思えないほど穏やかな時間を過ごす。

 

「ところで宿儺」

 

「なんだ。また問答か? お前はほんに知りたがりだな」

 

「聞けば答えてくれるじゃないですか。それで、羂索のことなんですけど」

 

「ふむ。奴の天元との同化なら俺は関与していない。保険は残すなどと言っていたが、俺はそれに興味はない」

 

「ふーん。ならちょっと安心です」

 

 宿儺の膝の上で手足を伸ばし、自分よりニ周り程度大きな姿にもたれかかる。

 

「五条先生より宿儺が強いのは僕の予想通りでしたし、恵君の身体なら脹相さんの例からすると前世の姿に成れたんでしょう?」

 

「そこで釘の娘の魂への干渉か」

 

「そう。今回のキーポイント。実はこれ、思いついたの悠仁君なんですよ」

 

「小僧……あの呪霊の一件から学んだか。存外、奴の野性的な勘も馬鹿に出来んものだな」

 

「彼、この一ヶ月で反転術式も習得したんですよ。僕が壊して治してを繰り返して時短しましたけど」

 

「そうやって全員の技量を底上げしたか。して、お前は何をしていた?」

 

 二人は答え合わせのように今回の戦いを振り返る。そこに、初めて宿儺からの疑問が投げかけられた。

 

「……初代の記憶の追体験、術式を正しく理解することに注力してました」

 

「ほう。どうだった、俺の唯一の友の姿は。奴の記憶なら、俺の知らない姿もあったろう?」

 

「まぁ……なんていうか、"普通"でしたね。才能があって、舐められないよう男を演じて、女の子並みに恋をして、最後は……貴方の腕で息絶えた。幸せだったんじゃないですか? 特に最後の半年は」

 

「……ふん、当たり前だ」

 

 宿儺の小さな言葉に刹那は続いて術式の説明へ映る。

 

「初めに僕が思い込んだのは万物を無くすこと。エネルギーや物体、呪力のこと。これは間違いでした。変容することはあっても無くなることは無いんですから」

 

「不完全か。俺と戦った数回、中々どうして楽しめたがな」

 

「二度目は羂索が僕の無くしたエネルギー達は身体に蓄えられるという話。残念ながらこれも間違い。結構真実に近い考察だったんですけどね」

 

「記憶の追随と、お前の考察の最後の形がアレか」

 

「はい。僕の術式は大小の前提を変更する術式。初めから僕の術式が無下限術式だった世界、赤血操術だった世界、対象と距離が無かった世界……」

 

「あらゆる術式の使用…あの白服の小僧とは違う、"模倣"ではなく"変更の結果"か」

 

「そう。小さな過去の変更が、未来の僕に及ぼした大きな影響の結果を反映する術式。僕はこれを、"バタフライエフェクト"と、勝手に仮称しました」

 

「それを助けるのが、その重瞳か。えねるぎぃとやらを認識する。つまり、未来や過去を漠然と観測できるのだろう」

 

「大正解。でも片眼で良かった。流石に両眼だったら……もしかしたら自殺とかしてたかもしれませんし」

 

「……そんなもの、誰にも分からん。忌み子の俺は俺の身の丈で生きた。どんな姿形で才能を持とうと、刹那も、お前以外の虫けらも、その丈にあった不幸と幸運を噛み潰して生きていればいい」

 

「そうですよね。貴方はそういう人でした」

 

 クスッと笑う刹那の屈託のない笑顔。宿儺は骸に背を預け、刹那も再度宿儺の胸へと背を預ける。

 

「……なんだか、眠くなってきました」

 

「眠れ。また来ると良い」

 

 とぽん。深い意識の泉に落ちていくように刹那は眠る。

 

 魂の繋がりが無くなった彼女は生得領域から静か姿を消す。反対に水面が大きく跳ねる。此度にて招かれた術師の正体。

 

「久しいな」

 

 立ち上がる彼は宿儺を見上げ、その悪人相をさらにしかめた。

 

「伏黒恵」

 

 




刹那の術式は結構迷走した感ありますけど、これが最終的な形だと思ってもらえれば幸いです。
触れるか迷ったのですが、新年から暗いニュースが多かったので、少しでも皆様の無事と笑顔を願うばかりです。私に出来ることはちょっとした復興支援の寄付だけですが、皆様も気が向いたらしてみてはいかがでしょうか。もちろん、無理のない範囲でですが。
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