全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

85 / 90
やっと区切りが見えてきました。
これからも読んでいただけると光栄です!



第八十三話 贖罪

「何が久し振りだ。散々人の身体で好き勝手しておきながら」

 

 宿儺の見下ろす先には病衣の伏黒恵。赤い水に落ちた彼は立ち上がり、骸の山の麓へ腰掛ける。背を向ける彼の横へと宿儺は飛び降り、袖に手を入れながら話しかける。

 

「気分はどうだ」

 

「……最悪だ。まぁ、もう慣れたけどな。こんな世界じゃ上手くいくことの方が稀だ」

 

「お前は喜ぶべきだ。何もかも言った通りになった。あの満ちた月の日、お前が話した通りになった。ならば後は流れに身を委ねるべきだろう」

 

「……俺だって信じたくは無かった。けど、現実としてなったなら受け入れるしか無い」

 

 伏黒は覚悟を決めたかのように、座り込んだまま自身の拳を強く握り締める。刹那が離反し、一度死んだその日の朝、宿儺と交わした一つの縛り。それを思い出しながら彼らは話を続ける。

 

「さて、俺もあの与太話が現実になったのなら信じるしかあるまい。縛りに則り、貴様の言う事を一つだけ何でも聞いてやろう」

 

「俺の身体に、お前の力をどの程度移せる?」

 

「……良くて五割、悪くて三割以下だな。あの時刹那が切り離したお前の右手は小僧が喰らってしまった。切り離した貴様の中には無論俺の魂は残っているが、大半は小僧の肉体だ」

 

「……確実に乙骨先輩は削っておきたい。もちろんリカも同時に。虎杖や真希先輩も今の俺には逃走すら難しいな」

 

「そもそも、大した式神も残っていない貴様になにができる。残ったのは蝦蟇と貫牛に脱兎、摩虎羅も他の式神も全て破壊された。良いではないか、貴様の望む人間は完全でないにしろほぼ全員救われた。これ以上何を望む」

 

「"贖罪"だ。俺のな。それに、"ほぼ"じゃだめだ」

 

 食い気味に言葉にする伏黒。その真意を知ることは宿儺には出来ない。彼は伏黒の予言じみた言葉を聞き、その通りに事が起こったという事実だけを飲み込んでいる。

 

 しかし、それを不思議に思ったか縛りの遂行の付随した効果か、彼はもう少しだけ力を貸すことにした。

 

「……刹那に神武解を渡してある。裏梅も健在だ。奴のことだ、会えば解するだろう。加えて俺の呪力に術式、それが今の俺には限界だ。最も、夏油傑の持つ最後の"俺の指"があれば、もう少しマシになるかもしれんがな」

 

「……わかった。この繋がりを断つなよ」

 

「精々足掻いてみせろ」

 

 伏黒の短くぶっきらぼうな一言、宿儺は頬を緩ませながら伏黒を見送った。

 

 ──ー

 

「zzz……zzz」

 

(……猪野さん、ずっと付き添ってくれてたのか……コイツ誰だ?)

 

 目覚めた伏黒のベッドに顔を突っ伏して眠る猪野と、死滅回遊時に加わった彩華がノートを持ったまま椅子で寝ている。

 

(ベッドの上、東京の病院か。まだ身体が痛ぇ、喉もカラカラで声もろくに出ないな……水……)

 

 照明の落ちた暗い病室。痛む体を押して枯れた喉に水分を運ぼうと手探りに暗闇に手を伸ばす。スカスカと暗黒を切る手は何も掴むことはなく、数種の点滴の管が繋がれている今、彼は無理に身体を動かすことを諦める。

 

(起きる時間が悪かったか。病院ならナースコールが……)

 

 頭上にあるであろうボタンを手探りで探して強く押す。

 

 しかし押しても電気の節約の為か、電源がOFFにされているようで誰も来る気配が一向に無い。

 

 一つ溜め息をついて伏黒は目を瞑る。

 

(やることは山のようにある。でも、何よりまずは……)

 

「……会いてぇな」

 

「誰にですか?」

 

「それは──!!?」

 

 暗闇に静かに響く、弱々しく女々しい伏黒の声。それを聞いた後に問いかける鈴が鳴ったような刹那の声。咳をする伏黒に彼女はペットボトルの蓋を開けて渡し、それを受け取る。

 

「刹那……!」

 

 最初の弱々しい声とは打って変わって喉の潤った彼は力強く彼女の名前を呼ぶ。ニコリと笑って彼女は伏黒の帰還と目覚めを祝う。

 

「おはようございます、恵君」

 

「あぁ……んむ?」

 

 口を開こうとする彼の口を刹那は人差し指で塞ぐ。暗闇の中、必死に涙を堪える彼女。彼女の右眼はどんな闇も光も意に介さずに直接に対象の感情を読み取る。

 

「あとほんの数分の、今だけは……僕だけの恵君でいてください」

 

 伏黒を抱きしめてその余韻に浸りながら彼女は心臓の鼓動を聞き、伏黒を自分の胸へと押し付けて抱きしめる。

 

「心配かけたな」

 

「全くです。貴方を助けるためにどれだけ苦労したか……でも、誰も貴方を呪っていませんよ」

 

「言葉が出ないな……」

 

「無理に喋らなくていいですよ。前、恵君はずっとこうしていてくれましたから、今度は僕の番です」

 

 それから予告通り数分の時が過ぎ、満足したように刹那はつぶやく。

 

「ふう……充電完了です。じゃあ、硝子さんを呼んできますね」

 

「あぁ」

 

 ぶっきらぼうな返事の後、伏黒は眠っている二人を見て呼びかける。

 

「……なんかスイマセン。もう大丈夫です」

 

「気付いてたのかよ……」

 

「私達が気遣いできる人で良かったね、ウニ頭君」

 

「猪野さんはともかくアンタは誰だよ」

 

「あれ、あそっか。私は桜島結界にいた泳者だよ。染秀彩華。釘ちゃんとお友達。ま、好きに呼んでよ」

 

「事情はよく知らないが、アンタにも手伝ってもらったみたいだな。一応礼を言っておく」

 

「君って人によって態度変えるタイプなんだね。さっきの甘々な雰囲気はどこに行ったの?」

 

「まぁまぁ、取り合えず無事なら良かったぜ。今硝子さん来るからよ、なんか欲しいもんないか? 腹減ってたりとかは?」

 

「いや今から診察なのに食べちゃマズイでしょ」

 

「んなもんその後でだよ〜!」

 

「悪いね、邪魔するよ」

 

 三人がワイワイと騒ぐ中、扉を静かに開けて駆けつけた硝子はおもむろに煙草の火を消して伏黒へと近寄る。

 

「まぁ大丈夫だとは思うけど一応ね。簡単な質疑の応答だよ。身体に異変は?」

 

「そうですね……少し動きにくいことと怠いくらいです」

 

「麻酔と栄養不足だな。次、術式は使えるかい?」

 

「宿儺に破壊された子たち以外は問題無さそうです」

 

「ふむ……やはりそこは引き継がれるのか。じゃあ最後、宿儺は身体に残っているかな?」

 

「いえ……そんな感覚はありません」

 

「……うん、やはり問題無さそうだな」

 

 刹那がこの場にいないことで、伏黒は堂々とした嘘を吐く。次なる問題もやり過ごすため、思考を回し始める。

 

「家入さん。今、死滅回遊はどうなってるんですか?」

 

「……まぁ、少なからずいい方向へは向かっているよ。非術師の数多の犠牲と引き換えにだがね」

 

「……羂索の居場所は?」

 

「君には教えられない。今、乙骨を主軸に討つ作戦を考えている途中だ。後は先輩と大人連中に任せればいい」

 

「そうですね……少し、外の空気を吸ってきてもいいですか? 出来れば一人になりたいんですが……」

 

「……あまり認めたくはないが、君の場合は精神面の方が不安だからな。屋上なら開いてるよ、好きにしな」

 

 硝子はバインダーに挟んだ紙にまとめられた要項にチェックを入れ、再び自室へと戻ろうとする。しかし、そこで一度足を止める

 

「伏黒君」

 

「はい?」

 

「責任を取る覚悟はしておいたほうが良いよ」

 

「?」

 

 コツコツと足音を立てて硝子は廊下を歩いていく。

 

「どういう意味……?」

 

「硝子さんも厳しい人だな〜! 高1なんて間違いだらけの時期だろ! な! 結果良ければとまでは言わねぇけどよ、あんまり気負うなよ!」

 

「猪野君、慰め方下手だね」

 

(…………)

 

 猪野の慰めを受け取り、伏黒は屋上へと歩を進める。点滴の管は外しても問題は無く、多少の気怠さを押しながら階段を上る。道中で考えをまとめていく。

 

(宿儺の中から見ていた天元様との超重複同化、その権利は俺(伏黒恵)に移せる。死滅回遊の泳者の数からして残っているのはほぼ俺達だけ。条件は簡単だ)

 

 カツンカツンッ……

 

(……日本人一億人分の呪力をどうやって取り込ませるか)

 

 開く屋上のドア、宙に浮かぶ月と重なるように袈裟を翻した術師の姿。

 

「伏黒恵。持っていたぞ」

 

 宿儺の側近、裏梅が冷静に彼を見下している。

 

「……お前も"こっち側"かよ」

 

「それを認識出来るの者は少ないが。宿儺様の命だ。違うわけにはいかん。それで、私は何をすれば良い」

 

「まず必要なのは同化の条件をクリアすること、俺にその権利を移すこと、そして刹那に一億人分の呪霊による呪力を取り込ませることだ」

 

「待て、そんなことをすれば……」

 

「問題ない、アイツの器は羂索曰く無限らしい。それに、今回は溢れてくれたほうが都合がいい」

 

「彼女の術式は理解している。だがそれ故に、彼女はその決断を下さないと思うが」

 

「それは無い。詳しくは話さないがそれだけは断言できる」

 

「そうか……なら、私は残った泳者を全滅させることに注力しよう。羂索はそちらがなんとでもするだろう?」

 

「あぁ、乙骨先輩や夏油先生なら今の羂索じゃ相手にならないと思う」

 

「了解した」 

 

 一言残し裏梅はその場から土煙を残して消える。

 

「……全部、終わらせなきゃな」

 

 ──ー

 

 翌日朝

 

「「「イェーイ! 伏黒恵、復活記念!!」」」

 

 釘崎と虎杖と刹那が伏黒の部屋に押入り、部屋を飾り付ける。唖然とする伏黒に、本日の主役と書かれたタスキとパーティー帽を被せ、大声でクラッカーを鳴らしながら祝う。

 

(そういや刹那もなんだかんだこういうタイプだったな……)

 

 交流会の一件でも似たようなことをしていた刹那を思い返し、どこか遠くを見つめながら伏黒は心の中でつぶやく。

 

「つーわけで! 伏黒の復活記念と言ったらピザでしょ!!」

 

「コーラもあるわよ!」

 

「アイスも沢山ありますよ!」

 

「……消化に良いもんよこせよ」

 

「文句言うなぁ!」

 

 惣菜や冷凍食品の群れを前にハイテンションで騒ぐ虎杖と釘崎、伏黒の復活がよほど喜ばしいのか、二人はギャアギャアと笑顔で騒ぐ。

 

「楽しいですね、恵君」

 

 ニコリと、柔らかな笑顔を向ける刹那に伏黒も自然と笑みが溢れる。

 

「あ、そうだ。これ渡しておきますね。今の恵君は自衛の手段がないので」

 

 刹那は腰に巻いていた神武解を伏黒へと手渡す。信用されすぎている現状に罪悪感を覚えてしまう。

 

「……」

 

「お、やっぱり一年ズ集まってんな」

 

「ツナ」

 

「お、先輩達も食おーぜ!」

 

「いや朝からこのラインナップは重てーだろ……」

 

「アハハ、ちょっと僕も重たいかな」

 

 パンダが扉を開け、三人の先輩も部屋に入っていく。

 

 ちょこちょこと食べ物をつまみながら伏黒の復活を祝う。

 

「じゃあ、僕と真希さんはそろそろ行くよ」

 

「え、今日なんですか!?」

 

「夏油先生が誘導した。場所的にもここからなら蜻蛉返りできる距離だし、こっちのアドバンテージが大きい。大丈夫。全部終わらせてくるよ」

 

 バチンッ

 

 乙骨の瞳は暗く、その決意を感じた一同は息を呑む。

 

 その緊張を感じた真希は乙骨の頭を強く叩いてなだめる。

 

「痛ぁっ……痛いよ真希さん」

 

「お前が危ない面してるからだ」

 

「先輩!」

 

 虎杖が手を上げ、乙骨と真希もハイタッチする。続いて釘崎や刹那、パンダと棘、最後に伏黒も手を合わせる。

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

(予定よりも速い。裏梅が上手いことやってくれるといいんだが……)

 

「どしたん伏黒? やっぱ心配?」

 

「まぁそうよね。今回は冥さんのカラスも無いから見れないし、心配な気持ちは分かるわ」

 

「……」

 

「暗くなってても仕方無いですよ。今僕達は療養に専念しましょう。まぁ……恵君以外は元気みたいですけど」

 

 元気に両腕を振り上げる虎杖の横で、金槌をバットのように素振りする釘崎を見て刹那は困ったように薄く笑う。

 

 ──ー

 

「呪霊の数は、まぁ、こんなものだろう。心許ないと言う他ない。その上で、弱い者イジメかい?」

 

 決戦の舞台は埼玉県、秩父市。理由は単純に高専組から近く、住民の避難も完了しているから。

 

「政府を脅して退去命令。外国の軍隊もとっくに撤退、世界に放送するわけでもなく、私を闇に葬ろうって魂胆ね。正しいよ」

 

(……リカの姿が無い、何か企んでるな?)

 

 夏油、乙骨の二人は市街地の大通りで羂索を待ち構え、睨みつける。

 

「話はシンプルになった。世界が元に戻ることはないが、お前を殺すのは必要なことだ」

 

「そうだね。私も自分のことを世直し奉公をするような人間だとは思ってないよ。でも……」

 

 羂索は一つの間をおいて進める。狂気の笑顔は諦めのような、それとも次を見据えるかのような、そんな認識を夏油は覚える。

 

「君達は次の世界をきっと楽しく思うよ」

 

(……何かおかしい。千年の渇望だぞ? この程度で終わるような奴か?)

 

 羂索は領域を展開するために印を結ぶ。同時、乙骨も自らの領域を展開して押し合いへと持ち込む。

 

「「領域展開」」

 

 胎蔵遍野 真贋相愛

 

 人体実験の成れの果てを彷彿とさせる、悍ましい塔状のものが生えた羂索の閉じない領域、そして淡路結びが飾られ、数多の支柱と刀が刺さる乙骨の領域。

 

 夏油を対象から外した領域、刀にはストックした術式がランダムに入り、それは手にしなければわからない。

 

 刀を手に取り、羂索へ仕掛ける乙骨、同次に武器庫呪霊を身体に纏わせて夏油が後方から支援する。

 

 最初に手にした術式、烏鷺の"空を面で捉える"術式。

 

 羂索はその術式を理解している為、雑魚呪霊を切り離して囮に使い距離を取る。

 

「チッ」

 

 続いて距離を取る羂索に大型のミミズ呪霊を突撃させるが、羂索は反転術式を用いて一撃で破壊する。

 

「!!」

 

 ビキキッ、バォンッ!! 

 

 呪霊の消失反応を利用して目を晦まし、口の中から夏油が強襲、重たい蹴りを顔面に受けた羂索は吹き飛ぶが受け身を取って即座に反撃に移り、夏油と格闘戦を互角に繰り広げる。

 

「呪霊操術のクセに、中々強いじゃないか」

 

「お褒めに預かりどうもっ!」

 

 パキィンッ

 

「ッ!」

 

 カポエラの要領で蹴った夏油の顔が下がった瞬間、足に巻き付けた武器庫呪霊に閃光弾を吐き出させて、回転して蹴り飛ばし、即座に起爆させる。

 

 怯んだ瞬間に乙骨は刀を拾い、星の怒りで羂索の顔面を呪力ガードの上から殴り飛ばし、着地点に夏油は呪力の塊を放つ。

 

「極の番、うずまき」

 

「ッッー!!」

 

 ッゴォォンッ!!! 

 

 砂塵と破壊された刀や支柱の瓦礫が舞う。その中から立ち上がる羂索を支柱に立って警戒しながら二人は話す。

 

「あんまり壊さないでください」

 

「ごめんごめん」

 

(……あんまり手応えがない。呪霊の数だけ比例して防御能力が上がる。防御無視の刹那さんや五条先生レベルの呪力出力は僕には無いけど、夏油先生の攻撃はかなり効いてる)

 

「憂太」

 

「……リカ」

 

 姿を消した羂索が夏油の探知にひっかかり、乙骨に合図を出す。

 

 パキィンッ……

 

 外側の防御力を高めた乙骨の領域、僅かな先頭の間に羂索はそれを破る。同時に乙骨は指輪を薬指にはめ直し、最愛の人を模倣した彼女を喚ぶ。

 

 ズンッッ!!! 

 

 超重力による影響を夏油と乙骨は受けつつ、リカによる脱出を試みる。

 

(焼き切れた模倣の修復時間を稼ぐための"リカ"。だが接続から5分、これをいなせば勝機はあるかな)

 

「とか思ってるんなら大間違いだから」

 

「!!」

 

 急襲、リカが領域で乙骨と共にいなかった理由。彩華の術式を使うための絵画を運んでいたため。

 

 百を超える絵画、それら全てに彩華のマーキングは行われている。

 

「返す気がないんならせめてこれで死んでよ……"百鬼夜行"」

 

 ドバァッッ!!! 

 

 彼女の思い描く全ての絵物語を実現化させる。呪霊ではないこれらの創作物は羂索を食い尽くすために襲いかかる。

 

 しかし、指向を絞る代わりに重力圧を強め、自身の周り半径二m、羂索の領域による超重力に絵画から出現する式神達は潰れていく。

 

(全方位から襲い来る式神は決して弱くない! 持続力に難のあるこの技を、リカの持つ莫大な呪力を彼女に注いだことでカバーしたか……!!)

 

「シン・陰流、簡易領域」

 

「ッッ!!」

 

 状況を理解する羂索の術式を夏油が自ら突っ込んで中和する。そこが入口となり雪崩込む式神。

 

 乙骨と格納呪霊から取り出した刀で夏油も加わり、二人は羂索の左右の腕を同時に斬り飛ばす。

 

(まだ! 首を飛ばして回復できなくする!!)

 

 グンッ

 

 羂索は重力を下から上へと変更、領域内の全術師は空中へ放り投げられる。

 

「ッリカ!」

 

 乙骨の合図を理解したリカは彩華を夏油の方へと投げ、リカ本体は乙骨の加勢へ向かう。

 

(逆に言えば羂索はこちらに攻撃を回すほどの余裕がない!)

 

(今が勝機! 畳み掛ける!!)

 

(高聡の恨み!!)

 

 全員が攻め時を理解し、同時に呪力を練る。

 

 しかし、不意に起こるからこその想定外。

 

「霜凪!」

 

 パキィンッ!!! 

 

(あの術師! 呪霊の監視を抜けた!?)

 

 三人とリカが凍りつき、肉体の自由を奪われる。しかし、三人とも経験を積んだ術師、直前にそれぞれの手段で氷を防ぎ、即座にその場を脱する。

 

 状況はリセットされ、三人と二人は向かい合う。

 

「高専以外の死滅回遊の泳者は全滅した」

 

「もう? 速いね。まぁ残りも僅かだったしこんなものか」

 

「羂索」

 

 裏梅は鋭い氷柱を羂索の首筋に向け、睨みつける。

 

「同化権限を伏黒恵に移した上で死滅回遊を終わらせろ」

 

 突然の裏梅の言葉に、羂索は停止する。

 

「……はぁ。なんだよ、君も"そっち側か"」

 

「どの道、五条悟を殺せなかった時点で無理だ」

 

「分かってるけど、何が起こるか分んないだろう?」

 

(なんだ? なんの話だ? いや、何か厄介なことをする気がする!)

 

「夏油先生!」

 

「分かってる!」

 

 最大出力

 

「霜凪!!」

 

 乙骨は呪言を夏油は呪霊、彩華は残った絵画から式神を走らせる。再び、裏梅の邪魔が入り攻撃の手が止まり、羂索はその隙にルールを追加する。

 

「コガネ、ルール追加。各地の結界を東京第一結界に纏め、天元との超重複同化の権限を伏黒恵が持つものとする」

 

 リンゴンリンゴン!! 

 

 ルールが追加されたのを泳者に知らせるための鐘を高らかに鳴らす。

 

「受理されました。泳者によるルールの追加が行われました!! 総則15、死滅回遊の結界は東京第一結界に集約されます! さらに総則16、同化権限は伏黒恵が持つものとする!!」

 

(いったい何を……!?)

 

「弾けろ!!」

 

 パリィィンッ、カァァンッッ!! 

 

 氷が爆ぜ、乙骨が投げた刀を夏油が受けとり首を斬り飛ばす。

 

「悪くなかったよ。志半ばで残念極まりないが、次に期待するよ」

 

「うぅぅる"さ"ぁ"ぁい!!」

 

 ドズンッ!! 

 

 リカの拳が頭部のみとなった羂索を叩き落とし、彩華はナイフを脳天から真っ直ぐに突き刺す。

 

「それ以上! 高聡の声で騙るな!!」

 

「憂太! 今すぐ彩華を連れて病院に戻れ! あっちは私が追う!!」

 

「分かりました! 気を付けて!!」

 

(一体何が狙いだ!? 碌なことにならないのだけは分かる!)

 

 乙骨はリカに彩華を雑に持たせ、病院へと全力で憂憂の待機する地点へ移動する。夏油はその場から消えた裏梅を呪霊を先駆けに走り出した。

 

 




薄々、聡明な皆さんなら気づき始めましたかね?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。