全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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お仕事が本格的に始まって中々時間が取れず、こんなに遅れてしまいました…。まぁ、別に定期的ってわけじゃあないんですけど。
それでは、久し振りの投稿、どうぞお楽しみください。


第八十四話 伏黒の決断

「……なぁ、虎杖、釘崎」

 

「「?」」

 

 伏黒は突然立ち上がり、二人の名前を呼ぶ。不安を払拭させるためか、朝からのノリが抜けずか、二人は騷いでいた所に、神妙な声色で呼ばれ疑問符をつけて唖然とする。

 

「どしたん伏黒、腹下した?」

 

「馬鹿ねアンタ。……胃もたれじゃない?」

 

 虎杖のぽけっとした顔と質問に釘崎は一喝し、こそこそと耳打ちで別の体調不良を指摘する。普段ならばここで伏黒が苛立ちながら突っ込み、刹那がなだめる流れだが、今回はそれは無く、ゆっくりと伏黒は窓際に向かっていく。

 

「「??」」

 

「恵君? どうしました?」

 

「虎杖。俺のミスから理不尽に巻き込んだこと、本当に申し訳なく思う。同時に感謝もしてる……ありがとう」

 

「気にすんなよ! 終わったことだしさ!」

 

「釘崎、お前の自己中なところ。鬱陶しい時もあるが、あの騒がしさは嫌いじゃない。ありがとう」

 

「ふ、ふふん。もっと崇め奉りなさい!」

 

 伏黒の正直な言葉に二人はたじろぎながらも応える。普段見せない伏黒のデレに、次は自分と思いワクワクしながら待つ刹那を手招きする。

 

「刹那ほ……言葉はいらねぇだろ」

 

「いや僕もほし……!?」

 

 伏黒は釘崎と虎杖の眼の前で堂々刹那の唇に自らの唇を熱く重ねる。両手をあげて耳を真っ赤にしながら限界を示すように震える刹那。それを無視して抱き寄せる伏黒。あまりに熱烈なシーンを前に虎杖と釘崎は硬直して目を隠す手のひらから隙間からチラチラとそれを見ている。

 

「!」

 

 ドンッ

 

 しかし直後、刹那は伏黒を突き飛ばして腰の血吸に手をかける。虎杖と釘崎は判断が鈍り、その行動が恥じらいからくるものと勘違いを起こす。

 

「動かないで! 動いたら──」

 

 バリィッ!! 

 

 警告を口にする刹那の心臓へ狙いすました神武解の一撃。決して出力は高くなくとも、術式を使わず呪力も回復しきっておらず、先日心臓が止まった身体には重たい一撃。

 

 白目を向き、筋肉を痙攣させて膝から倒れる刹那。瞬き一瞬の出来事、虎杖と釘崎も臨戦体制に入る。

 

(宿儺の仕業か!? とにかく一度動きを止める!!)

 

(クソっ!! 何が起こった!? 刹那がまずい!!)

 

 リンゴンリンゴン!!! 

 

 四体のコガネが同時に鐘を鳴らし、ルールの追加を知らせる。

 

「泳者によるルールの追加が行われました!! 総則15、死滅回遊の結界は東京第一結界を中心に広げて集約されます! さらに総則16、同化権限は伏黒恵が持つものとする!!」

 

「ハァ!?」

 

「悪い伏黒!!」

 

 殴りかかる虎杖に対し、伏黒は釘崎に視線を移して神武解を行使しようとする。瞬時にその目線に釣られ、虎杖は刹那を抱える釘崎を抱き込むように守りにはいる。

 

 バリィィィッッ!! 

 

 放たれた雷は虎杖達ではなく周囲の器具を巻き込み、黒い焦げ後を残して破壊する。

 

「ッ! 伏黒!!」

 

 自分に向けられたものじゃないと気付いた瞬間、視線を向けるが、伏黒は既に窓から脱した後だった。

 

 ガララッッ!!! 

 

「皆無事!?」

 

 ドタドタと部屋に押し入ったのは初めに五条。続いて硝子と真希。

 

「おい悟! まて! 動くなって!」

 

「今の音は!? 四人は……!! 刹那!」

 

 取り合えず患者の状況を察した硝子はすぐに刹那を診察する。その間に真希と五条は二人から事情を聞く。

 

「何があった!? 恵は! 羂索の仲間の仕業か!?」

 

「違う!! 伏黒が……いや、伏黒に残った宿儺がやったんだ! 窓から逃げた!!」

 

「恵……!!」

 

「五条、追うな! お前に術式を使う余裕はない!!」

 

 包帯を外して六眼を開き、呪力の残穢を追って伏黒を追跡しようとする五条を硝子は声を荒げて止める。

 

「今動かなくて教師なんて名乗れる訳ないでしょ」

 

「抑えろ! さっきのルール聞こえただろ、憂太が戻って来るはずだ!」

 

 刹那は命に別状はなく、後から騒ぎを聞きつけた術師は全員が合流する。

 

 一瞬にして場の雰囲気が静から動へと移り変わる。日下部を中心として伏黒の反旗を理解しようと務める中、憂憂が乙骨を連れて慌てた様子で帰還する。

 

「皆無事!?」

 

「憂太! 羂索はどうなった!?」

 

「羂索は確実に仕留めました! でも氷の術式を使う別の術師が乱入、ルールの追加を促して逃走したのを夏油先生が追跡中です!」

 

「氷の術式……アイツだ! やっぱり宿儺関連だ!」

 

「宿儺は虎杖に戻せたんじゃなかったのか?」

 

 パンダの問いかけに来栖の頬から出た天使が応える。

 

「魂の斬り分けはそう簡単に出来るものじゃないということ……要するに失敗だ。だが、弱体化は事実な筈。五条悟との戦闘で疲弊した今の堕天なら確実に葬れる。華には悪いが、伏黒恵と"堕天"の完全な処刑を私は提案する」

 

 天使の言葉を聞いた虎杖は怒りを覚えた表情に青筋を浮かべ、怒気のこもった顔で彼女を睨みつける。

 

「おい、ここまで来てそれはねぇだろ」

 

「言っておくが虎杖悠仁、私は君の内側に巣食う悪魔のことも忘れていない。"堕天"が生きている限り、呪いの歴史は終わらないぞ」

 

「だったら!! 俺が宿儺を食べ──」

 

「悠仁、それ以上言うといくら僕でも怒るよ」

 

「ざけんな、苦労を全部無駄にするつもりか?」

 

「やめてください、もうとっくに自己犠牲の話じゃないんです」

 

 五条と釘崎は怒気を込めた言葉で虎杖を叱り、回復した刹那もよろよろと立ち上がりながら虎杖の腕を強く掴む。来栖も天使を横目にして答える。

 

「……天使、私も反対。具体的な方法は思いつかなくても、殺すだけが手段とは思えない」

 

「……後悔する前に、適切な手段は勧めたぞ」

 

 もう一度静まった病室内、日下部が口を開いて現状を整理する。

 

「待て待て、今はそんな言い争いしてる場合じゃねえ。伏黒の身体は呪力も肉体もそうでもないんだろ? で、宿儺の大部分は虎杖の中にあるんだ、つまり伏黒をどうこうするのは容易ってわけ。今動ける奴……真希、乙骨、お前達で止めてこい。白髪のガキは夏油に任せりゃ問題ないだろ。負けるとは思えん」

 

「日下部さん、俺等も行くよ。俺の打撃や釘崎の術式なら伏黒の目を覚ませる」

 

「当たり前だろ、さっさと行ってさっさと連れ戻せ。元はといえばお前の責任だろが」

 

 伏黒が宿儺の影響を受けていない事実に、三人は気付いている。だが、それでもなお、信じずにはいられない。 理由は一つ。彼の優しさを知っているから。

 

 泳者全員を戦地に投入するわけにいかず、戦力にカウントできないメンバー、歌姫や楽厳寺に九十九、日下部、冥冥姉弟と五条が残るように促される。

 

 コンコンッ

 

 そこへ外から窓をノックした夏油が情報を伝えに入る。

 

「傑、どうした? もう終わったのか?」

 

「いや……ちょっと、ていうか、かなり不味い事になったかも……」

 

「?」

 

 ──ー

 

 新宿、池袋を含む日本都市の中心地。東京第一結界。

 

 未だ決戦の残穢が色濃く残るその場所に呪いは寄り付かず、伏黒は裏梅と共に瓦礫に佇んでいる。

 

「伏黒恵。首尾はどうだ」

 

「死滅回遊で慣らしは終わってる。残ってる問題は呪力だけだが、五条先生、夏油先生、乙骨先輩。それと虎杖。誰か一人でも殺せればそれも終わる。夏油先生はどうした?」

 

「逃げた。私と奴に実力差があったわけではない。恐らく呪力の条件に気付いた。今頃は高専の奴らの元に向かい伝えてる頃だろう」

 

「そうか。なら三人は来ないかもな。そもそも、正面からなら俺は一人じゃ絶対に勝てない」

 

「どうするつもりだ。いくらなんでも私一人では勝算が無いぞ」

 

「だろうな。だが、考えはある。お前は好きに動け」

 

「私に指図するな。私は宿儺様に従ってるだけだ」

 

 一時的な共闘、互いに疑心は隠さず、信頼なしの信用関係。身体の調子を確かめつつ伏黒は呪力を感知する。

 

「……来たか」

 

「何やってんだ伏黒ォ!!」

 

「さっさと戻ってこい伏黒ォ!!」

 

 虎杖と釘崎の拍子抜けするいつもの叫び声。調子が狂う感覚に陥り、どこか遠くを見つめる伏黒。裏梅は呆れて溜息をつく。

 

 バキンッ! 

 

 突然の奇襲。鬼神、真希の一撃。

 

 それを少なからず予期していた伏黒は影から取り出した呪具で防ぐが、完成した天与呪縛の怪力の前にそれは粉々に砕け散る。

 

(出来れば今の一撃で仕留めたかったが……)

 

(本当に気配が一切無いな。呪力のことがありながら、乙骨先輩も来るか)

 

 パキィンッ!! 

 

 伏黒への追撃は裏梅の氷で阻まれ真希は距離を取る。

 

「で、今のが最善策か?」

 

「……伏黒君、宿儺の影響を受けてないよね。なんでこんなことをするのか、聞いてもいい?」

 

「教えても理解出来ないと思うんで、聞かないでもらえると楽ですね」

 

「そう。なら、何も言わないでいいよ。僕もそっちの方がやりやすい」

 

「そうですね、乙骨先輩も、何も言わずに死んでください」

 

 ぬるりと、纏わりつくような呪力の乙骨。普段尊敬し、尊敬される関係の二人はそんな日常を忘れたかのように振る舞い、呪い合う準備をする。

 

 真希と乙骨等が裏梅と伏黒を挟む形、同時に一同は違和感の正体と自らのミスに気づく。

 

「領域展開、嵌合暗影庭」

 

 伏黒は結界の構築を行わなずに領域を展開する。乙骨の領域は既に羂索との一戦による呪力消費から使わないと判断、さらに簡易領域を使える人間はこの場にいない。

 

 通常なら崩れる空に絵を描くが如き神業、そのステージにいない伏黒を押し上げたのは。

 

「宿儺ァァ!!!」

 

 バチィ!! 

 

 虎杖が叫ぶと同時に一同の身体に斬り傷が走り、動きが一瞬停止する。

 

(領域内で宿儺の術式!?)

 

(出力は大したことねぇ! 宿儺が出る前に仕留める!!)

 

「釘崎!! 離れろ! お前じゃ保たない!」

 

 真希の指示に釘崎は離脱する。

 

「すいません真希さん! 全員呼んで来ます!!」

 

「裏梅」

 

「指図するなと言った筈だ」

 

 裏梅の術式により、大気は凍てつき極端な低温化に晒される。伏黒の領域効果により地面や何も無い空間は影となり、式神達が無から湧き始める。

 

「布瑠部由良由良。八握剣、異戒神将……魔虚羅」

 

 領域内において本来不要な象印を結ぶ縛りと古部の言葉を繋ぐことで、一時的に最強の式神を地獄から呼び戻す。

 

(領域内でのみ可能な破壊済みの式神の蘇生! そう捉える他無いけど、まさか摩虎羅なんて……!!)

 

「ごめん、皆。摩虎羅とあの人は僕とリカで引き受ける。その間に二人を!!」

 

 拳を構える虎杖と呪具を片手に構える真希。

 

 伏黒には今宿儺が手を貸している状態。完全なノーモーションによる御厨子の斬撃と自在な影の格闘と式神。

 

 呪力による強化も並ではない。

 

「悪い伏黒、手加減出来ねぇかも」

 

「だとよ恵。泣いて謝れば今なら拳骨一発で済ませてやる」

 

「断ります。それに、俺の目的は真希さんや虎杖じゃないので」

 

 トプンッ

 

「「!」」

 

 伏黒は摩虎羅と乙骨に視線を送った後、影に潜って姿を消す。

 

 不意を突かれた二人は即座に乙骨の応援に向かうが、それさえフェイク。  

 

「!?」

 

 ドポンッ! 

 

(なんだこの重さ!? 力で私が負けるわけ……!!)

 

 瓦礫に足をかけていた真希の足を掴み、伏黒は影へと落ちていく。天与の呪縛を持つ真希と力での勝負で勝てないと理解している伏黒は、領域内の瓦礫と満象の重みで真希を無理やり引きずり込む。

 

「真希さん!」

 

「宿儺」

 

 バヅバヅヅッ!! バリィ!! 

 

 即座に反応して手を引っ張る虎杖。宿儺が伏黒の頬から口を出し、虎杖の顔面に向けて御厨子の斬撃を放ち、伏黒は神武解による雷撃を行う。それをものともしない虎杖だが、重みをギリギリで支える彼の身体には斬撃痕が出来ていく。

 

(クソッ! 離せば落ちる! 影ってどうなってんだ!? 水と同じか、泳げんのか!? 分かんねぇ!!)

 

「貫牛」

 

「ごぼぉあッ!!」

 

 貫牛、直線運動により威力を増す式神。領域の端で喚び出し、虎杖の脇腹へ突撃させて手を離させ、真希は影に沈む。

 

 呪力による抵抗手段のない彼女には浮力も空気もない影を攻略することは不可能。最も相性の悪いといっても過言ではない領域。

 

 油断した彼女は、キレ者の策略に引っかかってしまった。

 

「悪いな虎杖。俺ももう止まるわけにいかないし、手段も選んでられない」

 

「伏黒。一体何をするつもりなんだ……? ……宿儺の演技とか、そういう理由とかじゃ……」

 

「これは俺の意思だ、嘘も否定もない。お前が無条件に他人を助ける奴だってのはよく知ってる。でもな、俺が救けたいのは、お前を含めた仲間だけだ。だから殺す」

 

「言ってる意味が分からないのは、俺が馬鹿だからか?」

 

「いいや、この世の誰にも分からねぇよ」

 

 ガッ! ドドッ! 

 

 伏黒は極力虎杖の打撃を受けないように立ち回りながら、宿儺の御厨子と影を交えて受け流しつつ呪力と体力を削っていく。

 

 二人の若き術師、互いの条件は全く対等ではない。虎杖に残されている勝ち筋は、全力の黒閃を決めること。

 

 しかし、迷いがある彼の拳に、黒い火花は微笑まない。

 

 足場の影から瓦礫を取り出し、虎杖の足場を崩す。同時に形を崩した蝦蟇と玉犬を目眩ましと拘束に使い、虎杖の足を止める。

 

「くっ!」

 

 バキィ! 

 

 迷いの晴れない虎杖とは反対に、雲一つの意識の陰りがない伏黒は、虎杖の鳩尾に向かって拳を構える。

 

 走る予感。虎杖は両腕で顔をガードし、腹部は呪力で防御する。

 

 黒閃

 

 バヂィッッ! 

 

(重てぇ!! でもこの程度……!!)

 

 火花は、二度散る。

 

 黒閃

 

 バヂィッ!! 

 

「ゲボァッ!?」

 

(二度目!! 緩んだところにモロに喰らった!!)

 

 二度の黒閃。連続して腹部に打ち込まれた拳と直蹴り。

 

 生来の頑丈さ故、動きに支障はあるものの彼の意思も身体も折れない。

 

 しかし、二発目の黒閃には決定的な違いがあった。

 

 それは、"宿儺の呪力"による黒閃であったということ。

 

 虎杖の身体にいる呪いの王がその悪意を覚ます。

 

「小僧。貴様の負けだ」

 

 ドクンッ

 

「!?」

 

 肉体の主導権の取り合い。宿儺に意識を奪われることこそないが、その際に起こる肉体の硬直。伏黒の持つ呪具が虎杖の首を奪うのに、そう時間はいらない。

 

 ザシュッ……

 

 飛んだのは、呪具を持つ伏黒の手首。

 

 眼の前から一瞬で虎杖が消え去り、その視線の先にいたのは現代最凶、阿頼耶識刹那。

 

「刹那! 動けるのか!?」

 

「今の悠仁君よりは動けます。呪力は殆ど回復してませんが……」

 

「……良かったよ。刹那。お前がいないと完成しない」

 

 伏黒は宿儺の反転術式で腕を生やし、刹那に向かって微笑みかける。

 

「降参してください。今、五条先生が動こうとしてます。いくら今の先生でも、恵君になんとか出来るとは思えません。抵抗するなら、首以外全部斬り落とします」

 

 ジワジワと、刹那特有の霧散する不定形の黒い呪力は、伏黒の黒い影と混じり、その姿を捉えさせない。

 

(五条先生を除けば、確かに刹那が一番早い。リミットは5分ってとこか……)

 

「脱兎」

 

 空間から出現する無数の脱兎。一体一体の戦闘力こそ皆無だが、撹乱のカードとしては最適解の式神。

 

(刹那は虎杖と違って自分に対する攻撃に敏感だ。だから、敢えて当てない)

 

「満象」

 

 ドパァッ

 

 伏黒は満象を喚び出して大量の水を噴出し、雨を降らせる。乙骨を抑えている摩虎羅に指示を出す。

 

(摩虎羅の動きが変わった!)

 

「リカ!」

 

 摩虎羅の動きは二人の足止めから不完全な顕現状態のリカに絞られる。リカを数十m程度殴り飛ばし、追撃する摩虎羅を乙骨は走って追いかける。

 

 その間、裏梅の準備が整う。

 

 満象によって供給された水、それを防ぐ術を持っていた乙骨は戦場を離されている。

 

(……水……!! しまっ──)

 

 刹那の判断は間違っていた。伏黒の狙いは、弱り果て、宿儺からの莫大な呪力を持つ虎杖の身体。

 

 虎杖を守ることに刹那は呪力を集中させ、自分達を包み込む。

 

「出力最大……霜凪!」

 

 ピッ……パキィィィンッッ!! 

 

 二人の身体と周囲は瞬時に凍てつく。感覚を一瞬で奪う極低温に、今の二人に対抗する策はわずか。刹那は温度から自らを守るため、自分と虎杖の感覚と体周りの温度を遮断する。

 

 隙を生じ得ぬ二度目の雷撃。人体は濡れている時とそうでない時の雷致死率に約二倍の差が生まれる。

 

 さらに神武解の最大電圧は約60億ボルト。

 

 自然界の脅威、雷のおよそ六倍。大気を伝う稲妻は、二人の命を刈り取るのに充分な威力。

 

 ただし、相手が"彼女"でなければ。

 

 バリリィッッッ!!! 

 

「「真希さん(先輩)!!」」

 

「……」

 

 濡れていない真希がダメージを肩代わりする。天与の呪縛ゆえの肉体の頑強さは雷撃をも弾いて見せた。

 

「マジで浮かねぇのな、お前の影。仕方ねぇから呪具蹴って飛び出した。仮にも禪院の秘蔵なんだぞ、あの刀」

 

「当主がいない家なんですから関係ないですよ」

 

(……強がっちゃいるが、明らかにダメージはある。乙骨先輩もそろそろ合流する)

 

「おい、失敗などと抜かすなよ。私がお前を殺すぞ」

 

「わかってる。摩虎羅」

 

 裏梅の氷柱が伏黒の首筋に向けられる。伏黒はそれを見向きもせずに二体の嵌合獣を呼びだす。

 

「伏黒……! いい加減、目ぇ覚ませよ! なんでこんなことするんだよ! 意味がねぇだろうが!!」

 

「……虎杖。俺は前に言ったな。不平等に善人を救うって。俺の魂が宿儺に喰われてる間に変わったこの世界。それを……やり直せるならどう思う?」

 

「は? やり直す……? 頭でも打ったのか?」

 

 全て、彼の言い訳でしかない。彼の救いたい人間には確かに刹那や虎杖、釘崎を筆頭とした人間たちがいる。

 

 だが、彼の中での重要なのは阿頼耶識刹那という一人の愛すべき人間。彼女の因果律変更の術式は、拡張することで理論上、世界をやり直せる。

 

 上層部が刹那を特級として認定した理由は呪霊討伐数や彼女の戦闘力ではない。

 

 刹那の術式を完全に知る何者かからの情報の漏洩、それの理解。また、生い立ちと思春期故の彼女の不安定な心持ちから特級とされていた。

 

 伏黒は全てが間に合う時間に、根底から覆そうとしている。

 

 宿儺との縛り。やり直しを確実に実行することで、全ての事象を無かったことにする。超超無理難題ながら理論上不可能ではない縛り。

 

 二度目の世界で何を企むかは宿儺は伏黒には教えていないが、目的は一致していた。

 

 条件は三つ。

 

 一つ、呪力の問題。乙骨か虎杖を殺せば解決する。

 

 二つ、刹那の術式問題。今の彼女から意思を奪う秘策あり。

 

 三つ、伏黒が同化を宣言する。

 

「悪い、虎杖。今すぐ死んでくれ」

 

「お前に言われるとは思わなかったよ」

 

 伏黒の真っ直ぐな瞳。嘘偽りの無く、怒りも憎悪もない懐疑の眼差しは、虎杖を刺すように見据える。

 

 刹那は刀に手をかけ、真希は独自の戦闘スタイルの初撃の構えを取る。

 

「「「「……」」」」

 

 ドゥンッ!! 

 

「解」

 

 示し合わすこともなく同時に走り出す三人。ノーモーションの解による斬撃でその出鼻を挫こうとするが、刹那は刀で弾き、虎杖と真希は正面から突破する。

 

「「!!」」

 

「芸がねぇぞ恵ィ!!」

 

「そうでもないですよ、真希さん」

 

(明らかに領域の性能が上がりすぎてる! どんな縛りを付与すれば死んだ式神をここまで扱える!?)

 

 地面が影化する影響で真希の足元は崩れ、刹那には雷撃を繰り出す。

 

 二人に対する特効の技だが、真希は空を蹴り、刹那は雷撃を斬り裂いて突破する。しかし、それを影によって無数に作られた嵌合獣、顎が突き放す。

 

 結果、伏黒は虎杖だけが向かってくる状況を作り上げる。

 

 バキィッ! ガガッ! 

 

(呪力強化がいつもの比じゃねぇ!! どれだけ宿儺が残ってる!?)

 

 伏黒は虎杖をいなしながら次の一手を考える。今の虎杖と肉体面で並ぶのなら、領域内にいる伏黒へのアドバンテージは大きい。押されながらも虎杖は食らいつく。

 

(整っていない条件は一つ。刹那の術式は霧散する呪力の靄に反応する。お前は知らないかもしれないが、こんな短期間にアレだけの呪力を使ったんだ。風に乗り、地脈を這ってお前の呪力は世界中を巡ってる。後はもう一度莫大な呪力をお前に食わせて、たった一度、やり直したいと思わせるだけ)

 

 純粋な修行も積んでいない伏黒の強さ、三人は違和感はあった。遠くで戦っている乙骨にも絶えず摩虎羅と強化した式神を送り続け、戦闘を行う。

 

 その強さの根幹。術師にとって、最もコンスタントに、そして性能を上げる縛り。

 

(私を正確に捉える領域性能に式神の強さ……こいつまさか……!)

 

「ふっ……ざけんな恵ィ!!」

 

(気づいたか)

 

 伏黒は、自らの命をかけた縛りをこの戦いに付していた。




余談ですが最近真面目に食中毒からの低血糖で死にかけました。
社長からは這ってでも来いと言われましたんで頑張ったよ私…。
なんか呪術師もそんな感じの環境にいそうですよね。
皆さんもお身体にお気をつけください。
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