二時間目、他クラスと混合して授業する総合技術という科目でそいつは現れた。
この転校生イベント、ホロライブ6期生だけでは飽き足らず、我々の最大にして最凶の敵を連れてきたのだ。
そいつの名はツクノイ。周りからそう呼ばれている。
彼は総合技術の時間に行われる班分けで、なぜかホロメンの集まる班に振り分けられ、しかも彼女らと初対面程度に仲良く話しているのだ。これが羨ま……裁きの鉄槌を下さずにはいられないだろう!
しかも彼、おそらく彼女らがホロライブメンバーだと分からないどころか、ホロライブそのものを知らない可能性が高い。彼の友達らしき人との会話から盗み聞きして得た情報だ。
許さんぞ!我らが芸人(アイドル)と仲睦まじく会話を弾ませよって!断罪の覚悟はできているかっ!
……はっ!なんだ?なぜ俺はこんなにもモブくさいことを口走って……?
そうか、やはり彼の前では全てがモブとなる。流石は能力【主人公補正】といえよう。ホロライブのメンバーレベルともなるとその効果をほぼ受けないようだが、彼がホロメンの中から一人でもハッピーエンドを迎えたい者を選んだら、ホロメンといえども抗うことはできないだろう。
つまり、風紀委員にとっての難敵。例えるなら、配信という枷のない夏色まつり、限界化した癒月ちょこ、ラインを考えない宝鐘マリン、自覚を持ち始めたロボ子、である。諸君にも、どの程度ヤバいのか分かって頂けただろうか。
「さて、来週は実践となるので、本日からは模擬戦を行います。軽くルールを説明するので、しっかりと聞くように」
先生からの説明はこうだ。来週に課外授業で向かう魔界の危険度レベル1〜2程度の、実地での植生の観察及び採取を安全かつ迅速に行うために、ほとんどの場合出会すことになるモンスターを早急に無力化する必要がある。よって、今日は程度を合わせた環境と先生の召喚する個体で模擬戦を行って減点形式の採点をするそうだ。採点基準は、モンスターの怪我具合と環境の破損度合、そして先生の出すお題の達成度である。このうち一つでも9割の点数を取れば合格。もしくは合計で8割である。
具体的には、一班ごとに森に入って、そこに植えられた課題の植物を採って戻り、道中で現れるモンスターに刺激を与えないようにしつつ、襲われた際もなるべくモンスターにあまり危害を加えずに退ける、のを練習するのである。
最初は例のホロライブ+転校生班らしい。
「いいなぁ、俺もホロメンと一緒の班が良かった」
「おっしゃ……!我、おかゆちゃんと同じなり!感謝、圧倒的感謝……っ!」
班は全部で6班あり、1班はみこち、あくあ、スバル、るしあ、ルーナ姫、ねねち、そしてツクノイ。あれ?この班、不安しかないぞ?
2班はおかゆとその他モブ。3班は割愛。4班も割愛。5班はまつり、ミオとその他。6班はぺこらと俺、その他である。
「あぁっ!ミオちゃーん!こっち来てーー!」
「ねぇぇぇ、スバルが一番心配なの、いや、あくあもねねちもなにかしそうだし、ルーナは……うん、だけど、だけど!スバル的には、みこちが一番なにかしそうだなぁ」
「スバちゃんだけじゃ、頼りないよぉー!ミオちゃーん!」
「いや、みこちよりかは、ちゃんとやれるが?」
「い、いやいや、スバルも、結構やらかすでしょ……?」スーーッ
「ぁ、るーなもるーなも、そう、思う、のら。シュバはなんか、なんか、そんな感じ、と思ぅ!」
「いや、分からねぇよ!wwwそんな感じ、ってなんだよwww」
「るしあ先輩、ねねとおてて繋いで一緒に行ってくれませんかっ!?」
「ね、ねねちゃん!?い、いよ、いいよ!おいでおいで。おてて、はい!」
「や〜ん、るしあ先輩、おてて可愛い。匂いは〜」クンクン
「は、恥ずかしいよ……でも、ずっと一緒だね」
「え?う、ぅん」
「いいなぁ、るーなもシュバと手ぇ繋ぐ、ぎてぇのら」
「え、別にダイジョブです。間に合ってます。それに、手繋いでたら、危ないし、思い出したかのように語尾つけてるんじゃないよ」
「ぅぅ、あっ、それだけ、るーなも、所作に、気をつけている、ということ、のら。だから、危なくない、と、思ぅ」
「?」
「だから、るーなはシュバと手をつなぐことが、できる」
「でーきーまーせん!」
「ああっ……www」
と言いつつもルーナ姫はスバルの無意識に滑り込み、繊細にかつ流麗な話し合いで自然に手をつなぐことに成功した。しかも恋人つなぎなところが、ポイント高い。
また、この流れで残ってしまったみこちとあくあは、互いに見つめ合い、シンパシーを感じ取った。だが、コミュ力に欠ける二人がここから発展することはなかった……。
「おいこら、ねねちーー!はいそこ、勝手に動かないでー!」
「でも、るしあ先輩も動いてまーす」
「るしあはいいんです」
抗議の声を上げるも、言われたとおりに大人しくなり、スバルがツクノイに声をかけ、出発の号令をかける。
おぉ〜、という気の抜けた声と共に1班は先生の作った森に入っていった。
ここから先は俺からは観測できないので、まつりとミオ、おかゆ、ぺこらに他の生徒が過剰に接触してないか、厳しく監査しようと思ったところ、ぺこらは生徒の集団を離れ、俺の近くに座った。
ここは割とまばらに長椅子が設置されているため、必然的に少人数で屯することが多いのだが、俺の座っている位置はそこよりちょっと離れたところである。似たような位置にぺこらも座っているため、ぺこらが話しかけられることはまずないだろう。よって、ぺこらはあまり注意しなくても大丈夫だろう。
「……」
うんうん。皆、いい感じに距離をとっている。というより、ミオとおかゆとまつりの三人の会話を楽しむことができる程度には、関わろうとする奴がいない。いい傾向である。声聞こえてないけど。
そんな調子で1班が帰ってくるまで音楽でも聞いて待っていると、森から人影がポツポツと見えてきた。
すると、どういうわけか、みこちがツクノイに背負われていた。残っていたホロメンがみこちを取り囲み、怪我でもしたのか、と心配気に聞いていたところ、みこちが足を挫いたようだ。ツクノイめ、役得な奴だ。
取り敢えず、みこちを保健室に連れていくため、そのままツクノイが背負い、スバルが同伴して行った。スバルなら、おそらく大丈夫だろう。
そのまま授業は続き、ついに俺らの出番となった。不可抗力的にぺこらと話す必要があるので、あくまでも顔を覚えられない程度の会話を心掛けよう。無論、滅多にない会話のチャンスなので、最大限に活用するが。
森を進んでいくと、先生の召喚したモンスターが現れた。まだ距離があるので、穏便に行きたいところではある。
班長の、かがめ、の指示でなるべく姿勢を低くし、素早くこの場を通り過ぎた。岩や背の高い草木があったことが幸いである。
一応、一斉に立って逃げ出せるように、列ではなくバラバラに移動しているが、凸凹としているので、その加減によっては曲がりくねって進まなくてはならない。そして、俺は割と前の方にいるため、誰がどこにいるのか俯瞰的に見渡せず、もしかしたらぶつかられることもあるかもしれない。逆もまた然り。
「いてっ」
単刀直入に言おう。ぺこらにぶつかられてしまった。本来なら嬉しがってもいい場面であるが、今は話が違う。ぺこらは人見知りなのだ。
ほら、見る間に顔を赤くして、気まずい空気を何とかしようと目が泳ぎ、偶々今見つけた課題の植物を手に立ち上がり、気恥ずかしさから少し大きな声で、
「見っけた!」
「ぁ……」
音というのは動物にとって多大な刺激になる。もちろんモンスターも例外ではなく、近くにいたモンスターがこちらに向かって威嚇し、突進してきた。
班長の離れろ、という声に班員が一斉に駆け出し、近くの岩やら木やらを破壊して来るモンスターを紙一重で避けた。
課題の植物は採取したし、このまま逃げるべきだろう。とはいえ、単純なスピードでは獣に人は勝てない。つまり、多少のダメージを与える必要がある。ダメージは、モンスターに危険だと思わせる程度である。
モンスターの遠吠えと同時に、比較的モンスターに近い3人がガードを張り、他はその後ろに隠れるようにして、モンスターの突進をいなす。
次に来るのは爪を使った大ぶりの攻撃。獣準拠のモンスターで四足なので、割と攻撃までの余裕がある。その間に後衛による魔法陣――今回は電気でのスタンが目的のものを首を狙い目に放つ。
バチバチッという音を鳴らし直撃するも、あまり効果はなく、むしろ、更に獰猛さが増した。
モンスターは爪攻撃の他に、殴り書きのような魔法陣で欠陥だらけの魔法を放ち、その規則性のない攻撃に、俺らは防御に徹するしかなかった。
だが、ぺこらにかかれば偶然は必然で、奇跡は運命である。幸運兎の名は伊達じゃない。二兎追うものは一兎も得ないが、一兎も追えないものは月の兎に変わってお仕置きされるのである。もしくは、獅子は兎を撃つに全力を用いるのならば、兎だって反撃くらい許されるだろう。兎にも角にも、飛べる豚が紳士なら、飛ばす兎はおもしれー女である。
「ロケラン発射!ぶっ飛べ!」
ペーコペコペコというSEが聞こえてくるロケットランチャーを使い、ぺこらはモンスターに攻撃を仕掛けた。このロケランは少し特殊で、相手の自我を一定時間奪うという効果がある。非常に強力な武器だ。
ただ、ぺこらがロケランの存在を忘れたり、しまった場所がわからなくなったりすると使えなくなるので、あまり頼りにならない武器ではある。
こうしてあっさりとクリアしてしまった。半分以上ぺこらのおかげである。流石ホロメンだ。
だが……
「君、自我に対する攻撃は召喚の性質上禁止と伝えたはずだよ」
召喚とは魔法の一種で、生物ではない魔法というものを生物っぽく見せる、というものだ。そこで必要なのが具体的な生態と自我である。自我はここでは自己を認識する作用である。また、副作用的に、魔法が使えるのもこのためである。
その自我を奪うと召喚された個体は強制的に魔法を解かれて消えてしまうのである。有体にいえば先生の魔法を真っ向から解除したのである。流石ぺこらである。
結局、6班は筆記の追試を放課後に受けることになり、二時間目は終了となった。