二時限分の実技の授業が終わり、次の生物基礎の授業では、PP天使が消しゴムを破壊し、悪魔(天使)に消しゴムを借りるも、それすらも破壊するのを視界の端に捉え、ニヤける表情筋を全てねじ伏せていたら授業が終わり、四限目の物理基礎では、ときのそらがあくたんに転がるボールに抵抗する力を「じゃあ敵だね」と呟きながら教え、あくたんはそれにビビりながら震える手で文字を書き連ねていた。
そして、ついに昼休憩がやってきてしまった。
この時間はエリア先輩に占ってもらった結果、教室でラミィと対話していることになっているので、それを避けるべく風紀委員会室に向かう手筈になっている。
しかし、ししろんに登校中にバッタリ出くわしたことから、一抹の不安を抱えつつ委員会室にて焼きそばパンのパッケージを破った。
「……お、配信してるのか」
部屋に一人で食べてるだけだと手持ち無沙汰だったのでノートパソコンを立ち上げ、ホロライブのアーカイブを漁っていると、ちょこ先生がゲリラの配信枠を開いていた。
さてここで、学校にいるはずなのにどうして配信してるのか、という質問だが、答えは簡単である。そういう学校だからだ。これ以上は追求してはいけない……。
この学校の放送機材は主に放送部が管理しているが、防音室などの特殊な部屋は生徒会が管理しているため、生徒の意見を多く取り入れている生徒会が配信ができる機材を貸してほしいと頼めば、放送部は快諾してくれる。そのおかげで、ホロライブも昼に配信が可能なのである。
ただ、問題なのは俺が見ているパソコンは学校のものであり、学業に関係ないとされる動画投稿サイトのようつべは閲覧不可である。もちろん、無理矢理見てもいいのだが、履歴がほぼ見つけられなくなるほどの技術は持ち合わせていないので、このパソコンでようつべを見るのは諦めたほうがいい。
ならば、どうやって配信を覗いているのかというと、配信に関して学校の風紀に関わるようなことをを云わないか注意する必要があるため、放送部に配信画面自体をこのパソコンを繋げてもらい、実質配信を見ている状態にしているのである。因みにこれをやったのはエリア先輩である。
……え?このライブを見たいだけだろって?フッ、推しというのは推せるうちに推すべきだろう。
「おじゃましまーす」
2回ノックしてドアノブを捻りドアを押し開けて顔を見せたのは雪花ラミィである。
俺はちょこ先生の配信を切ることに少し躊躇したものの、音声を切って画面を生徒会への定期報告用紙に変えた。
「ど、どうしましょ…しまひ…ました?」
「あれ?誰かと話していなかったですか?」
「あ、いや、あの、え、あ、はい、えー、文章を読む時喋ってしまうタイプなんで、えぇ」
今度からはイヤホンをしてから、配信を覗こうと決意を新たにし、ラミィに目を向ける。
雪花ラミィはこの学園におけるホロライバーの一人であり、顔が肝臓である程の酒豪でかつ恐ろしい程の豪運を持ち合わせる一匹の芝刈り機である。ラミィの住まいである人里離れた白銀の大地で芝刈り機を使うのか甚だ疑問だが、だいふくにとっては必要なのだろう。
ラミィがドアに対し直角になっている俺の近くに寄ってきたので、俺は慌ててノートパソコンを閉じ、席を立った。
「ん?何か隠してます?」
「い、いえ」
「そうですか」
皆の衆は俺が今、とてもキョドっていると思うだろうが、実はもっとキョドれる。本当である。
それというのも、エリア先輩による占いというのは確定事項と不確定事項があり、そのため、先輩は確定事項を先に言う。だから、今回の場合は、「ラミィと昼に話す」ことは確定であり、「教室で話す」ことは不確定である。
それを知っていたため、事前にラミィが来ることは予期していた。
「お邪魔します」
続いて入ってきたのは獅白ぼたんである。これにはさすがの俺も椅子から転げ落ちそうになった。
いや、エリア先輩の占いでは言及されてなかったし、まさか一日に二回も会うことになるとは思わなかった。
「きょ、今日は、どど、ど、どういったご用件で……?」
すげぇ!推しが二人も目の前にいる!やべぇ!と、俺は心の中で叫びつつ、至って冷静にキョドらずに質問すると、二人は一度目を見合わせてから俺の対面にある席に座って話し始めた。
「ラミィちゃん、私が言おっか?」
「大丈夫、ししろん。自分で言うから」
おっ、なんだ?そんな重たい話題なのか?教室で話せるぐらいだから、大して重たい話題ではないと思っていたのだが。
「実は、最近、たぶんストーカーされていて、初めは気のせいかなと思ってたんだけど、昨日ちょっと振り向いたらやっぱりいて、ししろんに相談したらここに来ようって、言ってくれて」
「そ、私がここなら相談に乗ってくれるんじゃないかって」
普通に重たい話題である。だが、まぁ、確かに教室でこの話題を出せばストーカーがいることが学校中に知れ渡り、この後のストーカーが増える抑止力になるかもしれない。そう考えると辻褄は合うような気がしなくもない。
まぁ、過ぎたことは置いといて、つまりは、そのストーカーをとっ捕まえて欲しい、ということか。だが、学校の外の話となると、俺には手出しのしようがない。
「……残念ながら、それは風紀委員の範疇を超えていますので、然るべきところに、例えば、身内なり頼りになるヒトなりに、相談するといいでしょう」
超えてはならない一線を超えた奴には、自らの手で正気に戻してやりたがったが、一学生にできることなどたかが知れている。どうにも歯がゆいことだ。
「あ、いえ、ちらっと見えたのがウチの学生服だったんで、おそらくこの学校の学生だと思います」
お、マジか。この学校ではもはや絶滅したと言っても過言ではないほど、ホロライブ好きを面に出す奴は消え去ったというのに、まだ生き残りがいたとは。これは早急に抹殺しなければ。
「そうですか……この学校からそういったヒトが出るというのは、我々風紀委員が仕事を怠っていたことが原因です。申し訳ありません。今後はこのようなことが起きないよう、この件について風紀委員会で話し合い、生徒会と連携して更に満足に学生生活を送れるようして参ります」
「い、いや、そこまでして頂かなくても……」
「ラミィちゃん。これはそれくらいはするべきことだよ」
いや、まぁ、普通は警察が先だとは思うけど、この学校の性質上、学校に先に情報を流してくれた方が嬉しかったりする。生徒の今後とかもあるし。
「それで、無理ならいいんですが、その生徒の特徴は…?」
「暗くてよく見えなかったんですけど、尻尾がありました」
「尻尾?」
尻尾かぁ……。尻尾なんて獣人でも魚人でも生えてるし、中々特定しづらい。
「まぁ、はい、分かりました。今度また見かけたら、風紀委員に来てください」
「えっ、と、見つけてくれないんですか?」
「申し訳ないのですが、特定してもできることがないので。飽くまで出来るのは相談された回数を学校に提出して、注意喚起を要求することだけです」
心苦しいが、本当にそれしかできない。風紀委員としては。
だが、まぁ、生徒ではなく1ファンとして特定まではしよう。そこから先は学校の判断に任せるべきである。
「ありがとうございます。お願いします」
「あ、ラミィちゃん先に行ってて。すぐ行くから」
ししろんはラミィを促して、俺と二人っきりとなった部屋でドアに鍵をかけて席に座る。
そして、怪しく光るハンドガンを片手に銃口をこちらの額に向け、先程より目を鋭くして俺に問い質した。
「……普通、銃を向けられたら手を挙げたり、声を上げたり、少なくとも焦る筈なんだけど、それがないってことはそれなりの心当たりがあると解釈してもいいよね?」
「……」
何を言っているのかいまいち理解できないが、下手に発言すると鬼というか獅子を出しそうだな……。
「私、今の生活が好きだからできれば壊したくないんだけど、必要なら容赦なく撃つから覚悟しときな」
成る程。二度もストーカー行為で名前のあがる人物なんて怪しい以外の何者でもないからな。そりゃ、警戒もするわけだわ。
「ふむ。残念ながら、俺は至って真っ当な人間だから、撃たれる理由がない、と思っている」
「……じゃ、私の話はこれだけ。ホントに関係なかったら、串焼き奢ってあげるよ」
マジか。ししろんがラミィの為に調査するとか、ししらみてぇてぇかよ。これは俺の出る幕は無いな。