ししろんが銃をポケットにしまって、ドアから出ていったことを確認し、数拍置いてから溜息を吐いた。
「はぁ……殺されるかと思った」
いや、普通に焦ってるんだよなぁ。ただ、それを表に出しないだけで。
まぁ、それはそうと、ししろんからの警戒とかラミィのストーカーとかよくよく考えてみると、ちょっと困ったことになっている。
まず、俺にししろんが警戒心を強く向けているということは、すなわち俺の近くにいる可能性が高くなるということである。そうなると、勘のいいガキにはすぐにバレて良からぬ噂が立つことになるだろう。ここはそういう学校である。
それに、ラミィが学生にストーカーされているということは、委員会の第一目標が達成されてないことを指している。俺たちはホロライバーに悠々自適な学園生活を送ってもらっていると自負していたが、ここは緩んだ帯を締め直すべきだろう。
「……エリア先輩、俺、大丈夫でしたか」
「言葉遣いは問題だらけだったけれど、内容に関しては文句はないですよ」
「おい、片桐、何故こいつに聞いたんだ?儂は文系だぞ」
いや、文系だからって文章できるわけじゃないでしょ、というツッコミは飲み込んで、ハル先輩とエリア先輩が徐々に姿を現していく。
これはハル先輩の能力で、波に変化をつけ光を屈折させた事で透明化し、今はそれを解除している。そのため、触ろうと思えば触れる。
「それで……確か、ラミィってハル先輩じゃなかったですか?」
「その通りだ。だが、見てる限りストーカーなぞいなかったからな。レーダーに引っかからぬよう、何か謀っているのだろう」
「まぁ、早波のは探知の精度、範囲ともに少々使い勝手が悪いですからね。やはり、こんな役立たずではなく、私のような広範囲でかつ高精度の一級品でなければ、まともに仕事も任せられませんね」
ここでいうハル先輩のレーダーとは、これまた自分の能力を活かし、自分から波を出してそこに触れる物の位置が分かるというものだ。
そして、エリア先輩のものは、三次元の空間における情報を取得し閲覧できる、とかいうエリア先輩の能力の真骨頂である。実はこれの派生として占いをできている。
「はっ、何を言うかと思えば、そんなことか。貴様の探知機能は位置が判るだけで、何をするかまで判るわけではなかろう」
ただ、ハル先輩が鼻で笑い飛ばしているように、エリア先輩のレーダーはそのヒトの感情までは読み取れない。そのため、エリア先輩はよく誤って注意することがある。
逆に、ハル先輩は感情の波を感知して、そのヒトがホロメンにとってどのくらい危険なのかが判るため、総じてどちらも同じくらい優秀である。
まぁ、こんな設定上の固っ苦しい説明は色々と省いて簡潔に言うと、そんな優秀なヒトでないと委員会には入れず、それぞれが尖っているため収集がつきづらいのだ。
その点俺は、そういう意味で秀でたものはないので、一種のバランサー的なものだろう。
「と、いうことで、いい加減この件をどうするか、決めましょう」
「そうだな」
――――――
焼きそばパンとハンバーガーを食べ終わるくらいの時間話すと、昼休憩が終了してしまいそれぞれの健闘を祈って別れた。
取り敢えず決まったことは、俺はししろんに警戒されているため作戦には参加せず、先輩二人で事に当たることになった。まぁ、ししろんの警戒を逆手に取って、ラミィとししろんの距離を開け、ストーカーに掛かりやすくし、犯行現場を抑えても良かったのだか、ホロメンを餌にするようで気に食わないという理由で却下された。もちろん、リスクが除けないというのも理由だが。
それに、今回の件は割と時間との勝負なところがあるので、ちょっと潜伏系は採用が難しい。それというのも、今日は先客がおり、日程を変えることを嫌うエリア先輩はどうしても予定を変えたくないらしい。
じゃあ、ラミィの件はししろんに任せろよ、という言葉があるだろう。最もである。だが、そうすると真っ先に向かうのは事務所になり、そこからはトントン拍子に警察が動き出す。これのどこが問題なのかというと、学生が捕まってしまうことだ。学校の評判が落ちることはもちろん、それよりも生徒が前科を背負うせいで将来が生きづらくなるのが問題である。
風紀委員会に責任などを負う必要はないが、役割の根本はこれを無くすことにあるので、できる範囲で良い方向に持っていくのが道理だろう。
とかなんとか言っていると、次の授業が始まったので教科書とノートを開く。ノートには大円の近くに小円が複数個並べられそれぞれの中心を線で結び正六角形になっており、その下には記号の散りばめられた式が書いてある。この式の題目は魔法陣円運動式。なんとも中二病チックな式だが、魔法物理学における最大効率の理想的な魔法陣の動かし方とかいう真面目なものである。
まぁ、この世界には魔界とも密接につながってるし、仕方ないね。ちな、俺も使える。
「起立、礼」
先生が教卓に着くと同時に号令したのは、この学校の生徒会長、百鬼あやめである。
お嬢は生徒会長というだけあって、生徒の見本となるような高潔で気高く真面目な……訳ではなく、かわ余でいたずら好きでかわ余で偶にポンコツでかわ余な鬼娘である。
そんなお嬢だが、思わぬ時に切れ者になるので、ギャップに萌える。所謂、ギャップ萌えである。因みに、魔法物理学はあまり得意としておらず、魔法化学の方が得意としているようだ。
「遅れましたぁ、ゴメンなさぁい!」
廊下の窓をぶち破って教室に入ってきたのは、紫咲シオンである。朝からいないと思っていたら、2シオン遅れてやってきたらしい。
彼女は魔法少女のような格好をしてるだけあって、魔法の成績は極めて高く、理論においては魔法付加の多次元の変換の可能性を組み立て、特許を取っており、実践レベルでは黒魔法が得意である。
因みに、この理論のきっかけとなったものは、運動場でシオンの黒魔法の攻撃を自分に付加し、強烈なキック――称して魔雷脚(マジカルイナズマキック)を繰り出したことによる。これはクソガキックと名付けられた。
「………」
そして、こんな状況の中目立たないように平静を装っているものの、逆に目立っているのは、湊あくあである。
彼女は生粋のぼっちであり、そこらへんの陰キャとは格が違う。ぼっちは陰キャの上位互換と胸(最近実っている)を張って言える真のぼっちである。
……おっと、これ以上ぼっちぼっち言っているとあらぬ人を傷つけてしまうかもしれないので、そろそろやめておこう。
また、44.5(最近世界からあくあが減った)ことゲーマーメイドは魔法は得意としておらず、むしろ必要最低限すら覚えていない。この科目を取っているのは、あくまでも魔法の必要となるゲームのためらしい。
そんなこんなで、シオンは割った窓を修復して席に着き、ノートを広げてその上で寝た。いつもの姿勢である。
先生は流石に常習犯は覚えたらしく、授業をちょっと難しいところまで早送りし、難問をシオンに答えさせようとして、お嬢に起こせと命じた。
だが、お嬢はそんな命令では頑として動かず、黒板の一点を見続けていたため、もう数秒もするとお嬢は変に思った生徒全員の視線を浴びることになるだろう。そうなると結果的にお嬢の後ろにいるあくあも注目されることになる。
と、判断したのか、あくあはお嬢を突いて、先生に言われてるよ、と蚊の鳴くような声で囁いた。
「余、何も聞いとらんかった余」
「えぇ……」
小声と言えど、授業においては静寂を破る声であり、あくあにとってはこの一回を言うのが限界である。むしろ、言えただけ随分と勇気をふり絞ったほうだとも言える。
したがって、あくあは必然的に自分でシオンを起こすしかない状況に陥り、魔法の使えない己を呪った……!魔法なら起こせるのに……!今、奇跡を起こしたいのに……!
「あ、シオンちゃん、起きな余」
「うぅん……?あ、はぃ」
シオンはなんとも気の抜けた返事をし、眠気眼を擦って態勢を上げ、大きく伸びをした。
「ん〜〜ったはぁ。あくあちゃん、今どこ?」
「ぅえぇ……えぇと」
あくあは黒板を指差して問題を解くように告げると、シオンは少し考えてすんなりと答えた。
途中式も説明した上で答えたため、先生的にも時間稼ぎというかレスポンスがちょうど良かったのだろう。先生はその通りと頷いて、上手く説明を噛み砕きながら黒板に書き込む。なるほど、分かりやすい。
あくあはシオンに向かって、先にあてぃしに聞くとか、シオンちゃんあてぃしのこと好き過ぎ〜、と煽り、それに対しシオンは、そんなことでイキるなんて、構ってちゃんじゃん、などと煽り返した。
そうこうしていると、終了の鐘が鳴り、お嬢の号令で授業は締めくくられた。残りは数学Aと現代文である。
数学Aでは天才ヴァンパイアことメルによる独創的で革新的な解法により下々の者では理解の及ばない答案が出来上がり、先生が困り果てているところを高性能(ポンコツ)ロボットことロボ子がエネルギーの残量の半分を使って、問題になっているなら答えがある、と結論づけた。
そして現代文では、一般の見解とは違った印象を小説から受けたはあちゃまにより、皆、はあちゃまっちゃまになり、ノートの後半は全てはあちゃまっちゃまと書き連ねられていた。はあちゃまっちゃま〜〜〜〜!
はあちゃまっちゃま(ボソッ