「全く。心配性ですね。私が予定に遅れるわけないではないですか」
少し興奮気味にエリア先輩はそう言った。
「っていうか、やっぱりそうなんですね」
「ええ、もちろんです」
俺の予想は正しかったようだ。
まず、ここに来る可能性として挙げていたのは、顧問と生徒会書紀、生徒会会計の3人であるが、エリア先輩の存在により、生徒会書紀の天使の可能性が上がるのである。
それというのも、エリア先輩はかねがね予定に遅れたくないと言っている。この発言はエリア先輩にとって、ホロメンを守るより重要なことがあるということだ。そして、エリア先輩はホロメン単推しであり、対象は天音かなたである。
よって考え得る可能性として、エリア先輩と天音かなたが会う予定がある、と考えられる。
「貴様、風紀委員の理念を忘れたか!」
「あらあら、こんな機会もないからって嫉妬ですか。ふふっ、可愛いものですね」
余裕、圧倒的余裕!流石、ホロライブは喧嘩すら止めてみせる……!
そもそも、エリア先輩と天音かなたはどちらも狭い天界の住人であり、天界の学園でも顔見知り程度であるらしい。
ただ、この学園に入るにあたって、生徒会と風紀委員という役職についたデバフのため、数少ない天界出身、という理由で一緒に下校する機会が減ったようだが、それでも時間があるときはこうして親交を深めているようだ。
「エリアー?終わったー?」
ノックもせずドアノブを捻り、ドアノブを木っ端微塵に弾けさせて入ってくるのは、キャッチコピーは握力50kg、天音かなたである。
彼女は頭に手裏剣を携え、中距離も近距離も空中戦も地上戦もできるオールマイティなステータスながら、圧倒的不器用さと不運により±0どころか−に振り切れている。因みに、壁役もこなせることから±0となる。おっと、"壁"であり"0"だなんて言ってないぜ。
「ええ、もちろんです。では、帰りましょうか」
「うん」
ハル先輩はガーギギギと、意味不明な音を出しながら、ホロメンとそれについていくオタクを見送った。
そして、しばらくして天界人に声が聞こえなくなったであろう頃に、ちくしょうめぇ!と怒鳴り散らかした。かと思ったら急にしょぼくれて席につき、ボソボソと何かを唱えた。
「儂だって、グラもちょっと遠いけどいるし、イナもいるし……。なんなら、漁港に来たマリンに港湾を教えたの儂だし……」
何それ、聞いたことないんだが。
いつも引き分けで終わる口喧嘩に負けた衝動が大きかったのか、無言で会議に使った資料やまとめを書いたホワイトボードを片付け始めた。
というか、なんで風紀委員が止めないんだよ、という声があるかもしれないが、それにはそれなりの理由がある。
風紀委員の活動理念における自然とは、端的に言えば変化しないことを指す。だから、極力リスナーからの接触はなくし、不変を保っているのだが、それだと困ったことが起きる。今回の事例がそれに当たる。
もし、エリア先輩が急にPP天使から距離をとったら、彼女はどう思うだろうか。少なくとも、変に思うだろう。自分がなにかしてしまったのではないか、と思うのかもしれない。
そう考えた際に、今までの関係性を壊した場合、ホロメンが自然な振る舞いができなくなるかもしれないため、これらの関係により接触を図る分には認める方針になっている。
と、いうような意見を最初にエリア先輩が出し、その頃はエリア先輩とPP天使の関係を知らなかったハル先輩が、この方針を可決してしまったらしい。
今にして思えば、これは今のような状況での柵を排除する布石であったと分かる。そのため、余計に口論で負けた、と思っているようだ。
まぁ、エリア先輩とPP天使が一緒に帰ったのこれでもう十数回目なんだけどね!そろそろ慣れろよ。
「なぁ片桐、今日焼き肉行かないか?」
「すみません、今日は寿司の気分です」
「贅沢だな」
「せめて、同族を哀れめよください」
――――――
男のむさい話に需要なんて存在しないので、次の日。先日ラミィに相談されたストーカーは、昨日はされなかったらしく、仕事が早いからお礼を、とラミィが感謝を述べてきたが、こちらとしても分かりやすく成果があったわけではなかったので、受け取った上で引き続き調べさせてもらうことにした。仕方ないね。
ししろんは相変わらず俺を疑っているようだったが、潔白を証明できるわけでもないので、時が何とかしてくれるのを待つつもりだ。というか、事務所の方に相談しなかったのか。良かった。
今日の1限目は化学基礎になっていて、次が数学Iとなっている。
「またじゃんけん負けたー!」
オウッオウッオウ、とすすり泣いているのは桃鈴ねねである。
野菜が苦手なのに罰ゲームでじゃんけんに負けたら野菜を食うチャレンジをし、ことごとく負けているようだ。
だが、やると決めたらやり通す心根の強さに惹かれるものは多く、歌もダンスも絵も高水準に保っている。実は割とぼっt……。
「ねねちゃん泣いちゃったけど、わためぇは悪くないよねぇ?」
伝家の宝刀「わためぇは悪くないよねぇ」を使うのは、角巻わためである。
立てば脇パイ座れば配信、歩く足音はド·ド·ドこと、歌の上手い羊は、十八番のつのまきジャンケンによりねねちを叩きのめしていた。どうやら、自分も負けたら野菜を食べるらしいが、別になんともならないので、罰ゲームの選択ミスである。
「おうおうおう、うちのねねちゃんを泣かせたのはそこのジンギスカンかぁ〜?」
グラサンをかけてショッピングカーに乗って現れたのは百獣の王、獅白ぼたんである。
激戦地ギャングタウン出身で、わためを何度もジンギスカンにしようとするが、わためもギャングタウン出身なので一筋縄ではいかず、最近自身の店――麺屋ぼたんでわためラーメンを提供した。てぇてぇ。
また、銃を得意としているが、格ゲーやレース系は得意としておらず、ショッピングカーで苦渋を味わっている。
「アハハっ、おもしろーい!」
そして、眼下の者達を面白がっている元お嬢様、赤井はあと、こと、はあちゃま、である。
みこちの評すように、金髪ツインテ(?)のお嬢様ツンデレキャラという王道中の王道であったが、今は人格の破壊と創造と融合を経て、赤井はあと、は、はあちゃま、へと変化した。
鳴き声はハアチャマッチャマ~、ハアチャマナウ!、など。
化学基礎では、意外と常識人な4人のため特にこれといったてぇてぇがなかったように思われるが、実は水面下において様々なてぇてぇが繰り広げられたいた。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
その後の数学Iでは、遅れて登校してきたぺこらがコソコソとしているところをスバルに見つかり、脱兎の如くトイレに向かうところをるしあに捕まり、一丁(一鳥)お上がりよ!とダジャレの種にされた。
次の古典では、文章をアキロゼがツインテのAIに解読させ、ラミィが早口でノエルに伝え、ノエルはよく分からねぇ!と言って騎士道について熱く語ったので、仕方なくAZKiが現代語訳することになった。
昼休憩前最後の授業は魔法化学であるが、急遽担任がお休みされたらしいので、自習となった。