ある夜、オグリは滴る水音を聞いて目を覚ました。
窓の外からではないので、雨ではないようだ。
それは隣のベッドで寝ているはずのタマモの方から聞こえてきた。
「うう・・・トレーナーのばかあ・・・ウチの気持ちを知らんで・・・」
水音と彼女の艶やかな声が入り混じる。
邪魔しては悪いと思い、再びオグリは寝入った。
「・・・ってことが昨日あったんだ」
「へえ、そうなんですか。タマモさんがそろぴょいしてたんですね」
「誰かウチを殺してくれ」
「死んだら試合終了ですよ、タマモさん」
「アンタの担当バがウチを社会的に殺してくれたやないか。
どうしてくれるんや、この静かな祝福の視線を」
「でも、タマは金課トレーナーのこと好きなんだろ?」
「そ、そうやけどお・・・べ、別に監禁してうまぴょいしたり、温泉に行ってうまぴょいしたり、海でうまぴょいしたり、トレーナー室でうまぴょいしたり、実家でうまぴょいしたり・・・なんてことぜっんぜん考えてるわけないで!」
「ほう、そこまで俺とうまぴょいしたいのか」
彼らの背後にズアッという効果音が似合うポーズをした金課が立っていた。
「だが断る!」
彼は叫びながら課金した。
「俺の前にはこの果てしなく長い課金道が待ち構えている!
お前に、その険しい道を歩ませるのを強いるわけにはいかないのだッ!」
そこで芦田は金課の持っていたスマホにデコピンした。
スマホは粉になった。本当に砂のようになってしまった。
「ば、ばかなっ!」
「金課さん、ここでタマモさんと向き合わないと、奥瀬川りますよ」
「た、確かに、奥瀬川るのは嫌だッ!だがッ、俺の課金道を妨げた罪は大きい!
お前がスマホを壊したことで、永遠に失われたデータもあるのだッ!」
「ぼくの名前を勝手に動詞にしないでくれるか?」
「・・・金課さんは今まで課金した額を覚えていますか?」
「一億からは覚えとらんな」
「うそやろ?えっ???冗談よな???」
「僕は覚えていますよ・・・0円です」
「そうか・・・ならば、無課金ごときが俺に勝てると思わないことだッ!」
二人の拳が激突する。
その衝撃波で、スぺシャルウィークの食事が雲散霧消した。
殺気をすぐに感じ取った芦田はすぐに逃げた。
「ははは!すぐに逃げたか!どれだけ強かろうと、所詮は無課金・・・!」
「勝ち誇っているところすみませんが・・・生かしてあげません!」
「なにいっ」
金課はモザイクをかけなければいけないほどの惨状になった。
「さて、次は芦田さん・・・逃がしてあげませんッ!」
そんなこんなで金課は新しいスマホが必要となった。
そこで、節約に詳しいタマモと一緒に行くことになった。
「まあ、これが最初のデートみたいになって上手くいくことを祈りましょう」
「そうだな・・・」
アシダとオグリはそんな二人を遠くから見守っている。
彼らは今、カフェのテラス席でコーヒーを飲みながらまったりしていた。
「ところで、アシダはスぺから逃げ切れたのか?」
「逃げ切れましたが・・・まだ向こうは僕のことを追いかけているようですね」
彼の視線の先には、殺気を隠しているスぺがいた。
彼女は巨大チョコケーキをもぐもぐと幸せそうに食べている。
・・・殺気を隠しながらではあるが。
「うふふ・・・」
「・・・背筋がぞわっとします」
「諦めてボコられたほうがいいかもしれないぞ」
「嫌ですよ。それだとオグリさんとしばらく一緒にいられないじゃないですか」
「私からも一緒に謝るから安心してく・・・あれは許してくれそうにないな」
「でしょ?だから、いつまでも逃げるしかないんですよ」
「だったら、私が守ってあげるから・・・安心してくれ」
オグリはそう言って彼の腕にしがみつく。
その日、カフェにいた他の客たちは全員糖尿病になった。
ネットでは後にこういうミームが生まれた。
また彼何かやっちゃいました?
そうこうしているうちに、携帯ショップが爆発霧散した。
これだから英雄社は・・・。
彼らは次に悠久可動社の店に向かう。
アシダとオグリもそれに合わせて尾行する。
スペシャルウィークも殺気を隠しながら尾行する。
「たぶん、次の店で買うと思いますね」
「ああ、悠久は英雄よりかは良心的だからな(経験談)」
「・・・これ、訴えられませんよね?」
「多分大丈夫だ」
二人の予想通りであった。
数十分もすると彼らは上機嫌で出てきた。
「よし・・・これでまた課金道に・・・!」
「まだダメや。ウチにご褒美あげてからや!
あと、帰るまでスマホ禁止!」
「えー・・・」
「家に帰るまでスマホ我慢できないのに課金道極めれると思っとんの?」
「・・・よーし!そこまで言うなら我慢してやろうじゃないか!
それで、お前が欲しいご褒美ってなんだい?」
「・・・ぴょいや」
「えっ?」
「うまぴょいや!もちろん、踊る方やない!」
彼女は顔を赤くしながら叫ぶ。
「えっ?オグリさん、どういうこと?」
「間違いない・・・これは逆うまぴょいを決めるつもりだ」
「逆うまぴょい・・・なんか嫌な予感しかしませんね」
「ああ、金課トレーナーの貞操が散ることになる」
「うーん・・・いせかいのぶんかってすごいですね」
「アシダの頭が止まってしまった・・・」
さて、さすがの金課も戸惑っている。
「えっと、タマモさん・・・俺たち、そういう関係になってはいけないんだと思います。
というか、トレーナーになってから気付いたんですが、課金って性欲制御に役立ちますよね」
「そんなの腐った制御方法や。さあ、いくで!
スマホゲーなんかより、ウチとのうまぴょいの方がが楽しいって思い知らせてやる!」
「やだっー!減俸処分になんかなりたくなーいっ!」
「別にええやろ!その分、課金に使わずに済むやんか!」
タマモは彼を多目的トイレに向かって引きずっていく。
「ま、まずいですよ!」
「どうしたんだ!アシダ⁉」
「いえ・・・なんか猛烈に嫌な予感がしてきたんです!
このままでは、何のとは言いませんが二の舞になりかねません!」
「な、何を言っているのかわからないけど、私も背中が寒くなってきた・・・!」
だが、もはやすでに手遅れだった。
彼女は多目的トイレの扉を開けると、急に固まった。
その後、金課と一緒に赤面しながらその場をそそくさと去った。
「・・・どうやら既に先客がいたようですね」
「そうか・・・」
しばらくすると、奥瀬川とネイチャが赤面しながら出てきた。
奥瀬川の方は少しやせていて、ネイチャはちょっと股を抑えていた。
「・・・見なかったことにしましょう」
「ああ、そうだな」
とりあえず、尾行を再開する。
金課とタマモは屋台などで食べ歩きをしていた。
なお、どの店にもオグリの顔写真が貼られていた。
ご丁寧にWANTEDという文字付だった。
「・・・オグリさん?」
「・・・」
ぷいっと目を逸らす。
だが、その視線の先に芦田が高速移動して、目を合わせてくる。
「オグリさん?」
「・・・」
だが、いくら誤魔化そうともお腹の音は誤魔化せなかった。
そして、それはスペシャルウィークのお腹も同じだった。
よく見ると、彼女の顔写真も貼られていた。
「・・・そこで少し待っていてくださいね」
そう言って彼は焼き鳥を何本か買ってきた。
それをオグリに渡した後、スペシャルウィークにも渡した。
「・・・これでこの前の恨みの四百分の一は帳消しにしてあげます」
「あと、399も残っているんですか・・・」
「当たり前ですよ?まだ許してあげません!」
「・・・アシダ、何か様子がおかしい」
「えっ、金課さんたちに何かありましたか?」
「いや、奥瀬川トレーナーの方だ」
「えっ・・・ああ、確かに」
二人は奥瀬川を尾けているものたちがいるのを発見した。
「えっと・・・私には普通に人が歩いているようにしか見えないんですが・・・?」
「そうだろうな。私はアシダと一緒にいるようになってから鋭くなったんだが」
「僕は最近、そういう勘は鈍りましたがね・・・やばいですね、殺気強すぎますね」
彼は一本だけ残った焼き鳥を一気に頬張り、串を武器代わりにする。
「オグリさんとスぺさんは金課さんの尾行を続けてください。
僕は奥瀬川さんの方にちょっと行ってきます」
「ああ、無事を祈る」
「あっ・・・頑張ってくださいね・・・」
こうして芦田は奥瀬川とネイチャの方に急いだ。
「・・・大丈夫ですかね」
「さっきまで殺そうとしてたのに心配するのか?」
「それとこれとは話が別ですよ・・・それにしても、どうして奥瀬川さんが・・・」
「ああ、不思議だな・・・」
本当のことを言えば、オグリはその理由を知っていた。
アシダが奥瀬川の話および金課の関わりを話してくれたからだ。
実のところ、記録によれば、金課はまさに”理不尽”を体現した存在だった。
たとえどう復讐しようとしても、失敗する上に、もっと酷い報復が待っている。
ウマ娘ファンの間では、現代のラスプーチンと呼ばれるほど頑丈らしい。
一緒に記録を見ていた芦田は彼みたいにはなれないと嘆息した。
オグリとしては金課みたいになられては困るのだが。
まあ、今回連中が奥瀬川を狙ったのも、金課にはかなわないと踏んでのことだろう。
それと、昔のことに関しての奥瀬川に対する逆恨みもあるのだろう。
だが、これはオグリも気付かなかったのだが、樋渡史も奥瀬川を守ろうとしていた。
当然、彼の相棒であるデジタルも一緒だ。
芦田、樋渡史、デジタルは互いの存在に気が付くと、すぐに連携を開始していた。
すでに連中に勝機などこの時点でなかったのだ。
「さて、タマは・・・そんなバカな⁉金課トレーナーが課金以外にお金を使っている⁉
そんなことはありえないはずだ・・・!タマのためにネックレスだと・・・!」
「金課トレーナーにあまりに失礼じゃ・・・いえ、確かにそうですね」
「た、タマがすっごく蕩けた顔してる!
首にネックレスかけてもらって・・・顔が近づいた瞬間を狙ってキスした!
いいぞ、タマ!その調子だ!それでゴールインまで・・・」
「あわわ・・・///」
だが、そこまで行くことはなかった。タマモが気絶したからだ。
金課は苦笑しながら、彼女をおぶっていき、去っていった。
「さて、アシダは・・・」
振り向いてみると、色々と混沌としていた。
まず、奥瀬川を害そうとしていた連中は当然のごとく全滅していた。
モザイクかけないといけないくらいには全滅していた。
奥瀬川は負傷しながらも、ネイチャを抱きしめていた。
ネイチャはもう二度と無茶しないでと言いながら抱きしめ返す。
樋渡史とデジタルはボロボロになりながらも、その光景を見たことで静かに死ねた。
さて、我らが芦田が一番傷を負っていたし、返り血もたっぷり浴びていた。
彼は二人を邪魔しないように静かに立ち去り、オグリのもとに戻っていった。
スペシャルウィークはそんな彼の姿が近づいているのを見て、気絶してしまった。
「さて、尾行の続きでもしましょうか」
「トレーナー、二人は帰ったぞ」
「えっ、そうなんですか・・・じゃあ、僕たちも帰ってトレーニングでも・・・」
「まずは病院に行ったほうがいいと思うぞ」
「えっ、でも・・・僕はオグリさんと一緒にいたいですし・・・。
それに、これくらいの傷は放っておいたら治りますよ」
「病院に行こうか?」
「・・・」
彼は地面に仰向けになり・・・手足をじたばたさせた。
そう、古谷の真似だ。これで押し切ろうというのだ。
だが、すぐに彼は駄々をこねるのをやめた。
それもそのはず。芦田は満身創痍の体でじたばたしてしまったのだから。
「・・・腕がすごく痛いです」
「一緒に病院に行こうな、アシダ」