タキオンの研究室
「すまないね、トレーナーくん」
「まったくだよ。突然、朝っぱらから呼び出すなんて。
こちとら一週間こき使われて疲れてるってのに。
なんか学園内の空気がやけにピンクっぽいのと関係あんのか?」
綾秀の言う通り、今日はやけに学園内の空気がピンク色に染まっていた。
まるで、何かのガスが漏れ出たかのようだった。
「ああ、大いに関係あるね。うっかり気化させちゃってね」
「ふーん・・・」
「ふーんって・・・」
「だって、俺とお前生きてるし、生命に関わるような代物じゃないんだろ?」
「そうだけどさあ・・・」
彼はいつも実験台になっているので、感覚が麻痺しているのだ。
たまに三途の川を見ることもあったので、なおさらだ。
「それで、このガスは一体何なんだ?」
「発情薬。ついやっちゃったんだ」
「そうかそうか・・・社会生命に関わるじゃねえか、この野郎」
「ごめんごめん」
「それで、解除薬作ったから、俺に何とかしろっていうのか?
まあ、お前は正気そうだし、何とかなるかもな。
いつも実験やっているから耐性付いてるだろうし」
「私が平気だって、いつ言ったんだい?」
「えっ」
「よく考えてみなよ。そんな簡単に耐性付いたら、イープルの戦いは悲惨にならなかったよ」
「確かに・・・待て、じゃあ俺を呼んだのって・・・」
「そういうことさ♡誇っていいぞ、これは私が君を信頼している証拠だからな♡」
「な、何を信頼しているのかわかりたくない!責任取りたくなーい!」
綾秀は急いでドアノブに手をかけたが、開かなかった。
「無駄だよ。そのドアは私のどうぞという声にしか反応しないのだ」
ドア<ガチャッ
「なんだ開いてんじゃん!それじゃあ!」
そのまま彼は逃げ去ってしまう。
「・・・これは予想外だったね。まさか今の一言でも反応してしまうとは。
まあ、逃がさないから諦めたまえよ・・・トレーナーくん・・・♡」
芦田の部屋
芦田は一週間の苦役が終わると、すぐに眠ってしまった。
それもトレーナー室のソファで。
仕方ないので、オグリは彼を部屋に運んでいった。
彼の部屋は相も変わらず退廃的に散らかっていた。
そして、彼女もついうっかり添い寝して、眠りに落ちてしまった。
それが昨晩のこと。二人はまだ寝ていた。
部屋はちゃんと閉められていないので、ガスは当然入り込んでくる。
そして、眠っているとはいえ、オグリもばっちり影響を受けてしまった。
まあ、眠っているので、芦田の指を咥え始めただけで済んだのだが。
ともかく、二人はぐーすか寝ている。
カフェテリア
それは見る者によっては世界の終わりに違いなかった。
女学生たちが発情し、男性を襲っているのだから。
そんな光景を前にしながらも、英一郎は紅茶を優雅に飲んでいた。
もちろん、いつもの園児服という着こなしであったが。
「おやおや、まさか週末よりも先に終末が来るとは」
「おや、クリークくんのトレーナーか。
今のネタ、私にも貸してくれないかい?」
隣の席に座ってきたのはルドルフだった。
「古谷くんは襲わなくてもいいのかい?」
「最初は襲おうと思ったんだがね、どうせいつものようになると思って・・・」
「なりそうだね」
「案の定、テイオーと一緒に駄々をこね合ってたよ。
・・・ところで、この床に縛られて転がっている桐生院くんはどういうことだい?」
「芦田くんの部屋のドアをピッキングしようとしてたんだ」
芦田の部屋?
芦田は奇妙な夢を見ていた。
まず特徴的なのが、それが夢であるとすぐに自覚できた点。
そして、明晰夢だとわかっているのに、好きなようにできなかった点。
ここは故郷だった。前にいた世界だった。
「頬をつねっても痛くないから夢なんでしょうが・・・」
やけに静かだった。普段だったら人が行き交う街なのに。
見たところ、ゴーストタウンになってからそれほど経っていないようだった。
別に核戦争が起こって放射能に包まれたわけでもなさそうだった。
野良猫やら野良犬が普通に街を闊歩していた。しかも、以前よりも数を増やして。
トレーナーになった後に読んだ『渚にて』という小説では放射能で北半球が全滅していたが。
「・・・事実は小説よりも奇なり、ですね」
金課のトレーナー室
「なあウチとヤろうや!」
「入ってきて第一声がそれとか乙女としてどうなんだ?」
「こんなうら若き乙女にこんなこと喋らせるアンタが悪いんや!
さあ、無駄な抵抗と課金はやめて、ウチとうまぴょいするんや!」
「課金による加速は無駄じゃないんだ!
あっ、いいこと思いついた!」
その瞬間、とんでもなエネルギーが金課から放出された。
「な、なんやこの気は・・・!トレーナーにしがみつくだけで精一杯や!」
「ふはははは!俺はこの前行った世界に逃げるぞー、タマモ!」
「そ、そんなことはさせへん!ウチもついてく!」
「えっ、それはちょっとおすすめしないというか・・・。
あの世界、ちょっと歩いただけでどんよりとしているというか・・・。
いや、一部の変わった力を持つ女の子たちは例外だけど・・・。
とにかく、あまり寛容じゃないというか・・・芦田が例外みたいなもんで・・・。
下手すると、お前があまりいい目で見られないというか・・・差別されるというか」
「そん時はそん時や!ウチとトレーナーはどこまでも一緒や!」
「やだ!小生こんなのやだ!」
空間がガラスのように割れた。二人は穴に落ちていく。
そして、二人は気が付けば大都会の真ん中にいた。
・・・人の死体がそこら中に転がっていたが。
生きている人は、どこにも見当たらなかった。
「・・・うーん、差別する人間自体がいなくなっていたとはたまげたなあ」
「アンタがこの前ウイルス持ち込んだんちゃう?それで・・・」
「えっ、俺が原因でこの世界滅んだの?」
芦田の部屋
指を舐め終えたオグリは、今度はアシダの首筋をはむはむしていた。
もちろん、寝ながらである。
後編につづく