「合格ッ!そして採用ッ!さらに雇用ッ!今日から君はトレーナーだ!」
テスト結果を受け取った理事長は『祝福』と書かれた扇子を広げた。
なんやかんやで芦田実はトレーナーにさせられてしまったのだ。
「・・・今日からよろしくお願いします、オグリさん」
「ああ、よろしくな、アシダ」
そして、自室が用意されるまでオグリと一緒に学園内を見回ることになった。
何しろ、突然、理事長室に現れてしまったのだ。
家も何もない状態だ。そもそも、戸籍すらないのだから。
「・・・そういえば、さっき、生徒会室に額が飾られていましたよね」
「ああ、あれか」
廊下を歩きながらの会話だ。
なお、二人がそうしている間にもウマ娘たちが駆け抜けていく。
どうやら、この学園は廊下は走っても許されるくらい校風が緩いらしい。
「
あれ、僕の家の家訓と同じなんですよね」
「アシダの世界にも同じ言葉があるんだな。
意外と似ているんだな。言語も普通に同じだし。
ただ、違うところは・・・」
「オグリさんのようなウマ娘がいないというところですね。
その代わりに、同じ読み方の四足歩行の動物ならいるんですが・・・。
ちょっと待ってくださいね・・・ありました、手帳」
おそらく、元の世界から持ってきものだろう。
ちょっと使い古された手帳に、彼はある文字を書き込む。
馬
「部首とかでは使われてるが・・・もしかして、これでウマと?」
「ええ、ウマと読むんです」
「なるほど・・・これは驚きだな」
そんな会話をしている間に、ある場所に辿り着く。
「ここは・・・食堂?」
「正しくはカフェテリアだな。私の好きな場所の一つだ」
設備から見る限り、ビュッフェ形式のようだ。
ふと見ると、園児服を着た紳士が紅茶を優雅に飲んでいた。
一見すると不審者でしかないが、芦田にはそうは感じられなかった。
何かの風格が、彼から溢れ出ていたのだ。
気が付けば、芦田は彼の向かい側の席に座っていた。
「・・・おや、君みたいなトレーナーは初めて見たよ。
おかしいな。新人の顔はちゃんと覚えたはずなんだが・・・」
「信じてもらえるかどうかはわかりませんが、僕は今日トレーナーになったばかりなんです」
「いや、信じるよ。少なくとも君は嘘は言いそうにないからね」
「そうですか・・・そう言っていただいてありがたいです。
僕は芦田実といいます。ここの理事長に突然採用されました」
「理事長に・・・?なるほどね。
私は園村英一郎。君と同じトレーナーだ。
これから、同業者としてもライバルとしてもよろしく頼む」
「ええ、お願いします」
二人は握手を交わす。
「トレーナー同士で話すのもいいが、担当バを放っているのは考え物だな」
振り向くと、オグリが頬を膨らませていた。
「あっ、すみませんでした。それでは英一郎さん、また今度」
「ああ、またね」
オグリに腕を引っ張られていく芦田を、園村は笑顔で見送る。
二人の姿が見えなくなった後、彼は険しい表情になってパソコンを取り出す。
画面にはオグリキャップのデータが表示されていた。
「あら、トレーナーさん。オグリちゃんのデータと睨めっこしてどうしたんですか?」
隣の席に座ってきたのは彼の担当バのスーパークリークだ。
「いや、ただでさえ強敵の子がもっと強くなりそうな予感がしたからね」
「あらあら・・・それはさっきオグリちゃんに手を引っ張られていた子と関係しますか?」
「ああ、大いに関係あるね。彼の顔を見たかい?
あれは・・・すでにトレーナーの顔だ。面構えが違う」
そのころ、オグリの学園案内はまだ続いていた。
さっきと違うのは、彼女が芦田の腕を掴んだままということ。
「あの、さっきは申し訳なかったというか・・・」
「・・・まだ離さないぞ。さっきみたいに他のトレーナーのところに行かれても困る」
「もう大丈夫ですって・・・それはそうと聞きたいことがあるんです」
「うん?何だ?」
「オグリさんは本当に僕がトレーナーになって良かったんですか?
だって、まだ一日にも満たない僕がトレーナーになるなんて・・・」
ふと、オグリが歩みを止める。
「・・・私は君を信用してるさ。
理事長が即戦力として見てくれたんだ。
それに・・・さっき君が話していた人も君をトレーナーとして認めたんだ。
あの人は私の友人の専属トレーナーだが、実力は折り紙付きだ。
あんな恰好だが、君も何かを感じたから彼に近づいたんだろ?」
「・・・ええ」
「だったら、それだけでも十分なんだ。
それに、君は信用に足る人間だって何となく思えるんだ」
「・・・ありがとうございます」
「ほら、次は資料室だ。そこは君が一番必要とする場所になるだろうから」
「ええ、行きましょう」
オグリは芦田の腕を再び掴む。
「結局、腕は掴むんですね」
「当たり前だろう」