その瞬間、カフェテリアは史上最高の低温を観測した。
誰もが固まり、そして冷や汗をかいていた。
よく考えてみたら、当たり前だった。
子どもは普通に踊りの方しか知らないのだ。
だが、年を経るにつれて、もう一つの意味が加わり、うまぴょい(意味深)となる。
それはこの世界に住む者たちにとっては当たり前の事実。
だが、別の世界から来た者にとっては?
「なんか踊り以外にも深い意味があるような使い方をするって聞いたので」
「アシダ、その・・・私にもわからないなあ・・・。
多分、普通に踊る方だと私は思うんだが・・・そんな隠語、私は知らないなあ・・・」
それがこの結果である。
オグリはどうしても顔が赤くなってしまった。
それを見た芦田は何かを察し、彼もまた顔を赤くしてしまう。
「・・・その、すいませんでした。お互い忘れましょう・・・あはは・・・」
「そ、そうだな・・・あはは・・・」
そんな二人の姿を見て、樋渡史とデジタルは静かに倒れた。
そこで話はおしまい・・・とはいかなかった。
「忘れちゃダメですよ!」
突然、桐生院が現われたのだ!
「お二人は思春期という一番敏感な時期です!何か間違いがあってはいけません!
オグリさんは教科書でもいいとして、芦田さんは教科書を持ってないじゃないですか!
それじゃあいけません!今から芦田さんには保健体育の授業を二人っきりで・・・」
その時、ポンポンと桐生院の肩が叩かれた。
そこには、英一郎とミークが立っていた。
「・・・桐生院くん、これから仕事の時間といこうじゃないか」
「・・・ぶー」
「はい」
こうして彼女は連行された。
気まずい空気だけが残された。
樋渡史とデジタルは死んだままだった。
数日後・・・
「青春ってやっぱり甘酸っぱいよな」
「どうした急に?」
タキオンの研究室で、綾秀が突然呟く。
「いやさ、俺、あの二人の練習風景見に行ったんだわ」
「ほう、どうだったんだ?」
「とにかく距離間を上手く調整しようとしてた。
一緒に走ってたけど、ちょっとでも近づいたらすぐに赤面してたし、
うまぴょい伝説の練習も、恥ずかしがりながらしてたし・・・」
「うっわ、甘酸っぱいね・・・」
「俺もさ、あんな青春送りたかったよ・・・。
でもさ、中学の時はトレーナー目指すというだけでウマ娘以外の女子から変態扱い・・・。
いや、男子からはちょっとだけ英雄扱いされてたんだけどさ・・・。
高校の時はトレーナーになるための勉強に必死で・・・青春のせの字もなかったな・・・。
それでさ、制服とか見てるとさ、もうあのころには戻れないんだなって・・・」
「やめろ・・・やめてくれ・・・まだ乙女の私にもなぜか刺さるんだが・・・」
「油断しないほうがいいぞ・・・あっという間に時は過ぎていくんだからな・・・」
なお、作者は書いているだけで心が崩壊したものとする。
「たまに、トレーナー目指してなかったら・・・って思うんだよ・・・。
夏の暑い日に女の子からスポーツドリンク渡されたり、夕方の教室で一緒に勉強したり、
すっかり暗くなった帰り道、そこでくだらないことを話して帰って・・・」
「ぐわあああああ!トレーナーくううううん!やめてくれええええ!」
「だから、実験室から出ようや・・・」
「えっ・・・実験したいし・・・」
「白衣を着た立派な研究員になった私・・・。
自由に研究ができるのに、なぜか心が満たされない日々・・・。
夕方、たまに窓の外を見ることがある・・・。
眼下では二人の高校生が楽しそうに・・・」
「わかった!わかったから即興の怪文書を作らないでくれええええ!」
こうして二人は夕方のトレセン学園に繰り出した。
まだあちこちでトレーニングをしている声が聞こえる。
夕焼けに照らされた廊下は明暗がやけにはっきりとしていた。
「うわああああ・・・」
「トレーナーくん、廊下歩いてるだけじゃないか・・・うっ・・・」
とりあえず、何とか平静を装いながら彼らは歩いた。
そんな二人を、窓の外から芦田とオグリは見ていた。
「なるほど・・・あれが大人の距離感ですか・・・!」
「うむ、あれが理想なんだろうな・・・」
「でも、まだ僕にはなかなか真似ができないですね・・・」
「・・・なあ、無理をしなくてもいいんだぞ、アシダ。
アシダだって本当は高校生なんだ。大変だったら相談してくれ。
本来は青春を楽しむ年齢でもあるんだから」
そう言われた芦田は空を見上げる。赤面しているのは明らかだった。
「・・・そういわれてもなかなか難しいですね」
「・・・そうだ。いい方法があるぞ!」
オグリは急に彼の手をぎゅっと両手で握った。
「な、なにを・・・!」
「我慢できなくなったら、こうやって手をぎゅっとするんだ。
それで、距離が近くなっても平然としていられる練習になるはずだ」
「・・・そう言われたらそんな気もしますね」
次の瞬間、綾秀は窓から身を乗り出して叫んでいた。
「抱けえっ!! 抱けえっ!!抱けっ!!抱けーっ!!抱けーっ!!」
「黙れトレーナーくん!気持ちはすっごくわかるけど!
ってこら!トレーナーくんの言うことを真に受けるんじゃない二人とも!」
二人がどぎまぎしながら抱き合っていた。
「・・・忘れましょう」
「ああ、そうだな・・・」
赤面してはいたものの、その顔は晴れやかとしていた。
「また綾秀先輩には感謝しないといけませんね・・・」
一方、綾秀とタキオンは足早に去っていた。
「ふう・・・あのままでは浄化されるところだった・・・!」
「まったく、トレーナーくんったら・・・!」
二人は夕暮れの教室に逃げ込むように駆け込んだ。
「ふう・・・やっぱりこういうの見ると懐かしいな。
中学の時はこんな教室で他の男子と馬鹿みたいなこと話してたな」
「そうなのか・・・一応、青春はしてたじゃないか・・・」
「そうなんだけどな・・・一人だけ、俺を応援してくれた人間の女子がいたんだ。
その子はいつも学級委員長でな・・・男子と一緒にバカ騒ぎできるタイプだった」
「へえ・・・変わってるね」
「ああ、俺もその時は気付けなかったけど、恋してたと思うぞ」
「・・・そうか」
「先月、俺の中学時代の親友と結婚したそうだけどな」
「やめるんだ」
教室の窓の外からはウララと彼女のトレーナーの姿が見える。
二人とも楽しそうに練習していた。
「・・・もう一回、青春取り戻せるかな」
「「取り戻せますよ」」
樋渡史とデジタルが教室に入ってくる。
よく見ると、その足は透明だった。
「「お化けええええええ⁉」」
一方、生徒会室・・・。
「夕方の学校には怪談が
付き物と憑き物・・・それを理解したころにはすでにエアグルーヴのやる気は下がっていた。
またまた数日後・・・
「汗と努力というのもいいものですよね!」
「どうした急に?」
今度はデジタルがタキオンの研究室に来ていた。
「いえ、あの二人、いつもの調子に戻っちゃったんです。
でも、ああいったのもあたし好きかなあって!」
「そうかそうか・・・今回は死んでないんだね」
タキオンはデジタルの足元を見ながら言った。
ちゃんと足が実体として存在していた。
「毎回とうちゃんと一緒に死んでるわけじゃないですよ!
私を一体何だと思っているんですか!?」
「尊いとすぐ死ぬウマ娘」
「ひっどーい!」
「それで・・・そんなこと言いに来ただけじゃないんだろ?」
「・・・ええ、幽霊状態であの二人を見てた時、変な視線を感じたんです。
とうちゃんもそれを感じてたようなんですけど・・・見つからなかったというか・・・」
「そうか・・・やっぱりね。実はカフェも同じこと言ってたんだよ。
・・・これは少し調べる必要があるかもしれないね」
そう言って彼女は薬の調合を終える。