目が焼かれると思い閉じていた目をゆっくり開き、ざわざわと騒ぐクラスメイトたちを一回り見ると何人があまりの事態に腰を抜かしていた。零士は自身の状態を確かめる。地に足がついており、片手には学生鞄もう片手には弁当と閃光に呑まれる前に手にした物だ。それは間違いない。疑問なのは何故地に足がついているというところだ。
あの時確かに力が抜けたのにと零士が首を傾げるが今はそれどころではないと切り替えてクラスメイトたちをもう一度見ると恵里の姿をすぐ横に居た。恵里も零士の姿を認識したのか二人揃ってホッと息を吐いたが、零士は直ぐに目を鋭くし、顔を真剣なものに変えて自身がいる場所---台座の下にいる祈っている法衣集団を睨み、今いる建物から彼らが何者かを探る。
(この建物に壁に書かれている見た感じ神聖視されている絵などからするとここは宗教に関する建物、それもあいつらの格好はかなり金の刺繍がされているからかなりの上位のものだ。俺たちが召喚されたとするなら大本山と言ったところか。となると自然に答えは出てくる。差し詰め教皇とその下の者たちかね。召喚されることになるなんて、一体どうなっているのやら。)
ハァとため息を吐きながらそこまで考えていると零士はハジメが自身の制服の袖を摘んでいたのでどうかした?と視線で問うと「えっ?」と腑抜けた声を出した。すぐに袖をつかんでいたのに気づいたのか顔を真っ赤にして勢いよく離した。ハジメは真っ赤なまま「ごめんなさい!」と言って距離を離れようとタタっと急いで離れ、すこし零士は傷ついた。
『メインヒロイン感すごい』
《わかる。》
ダハーカたちががそう呟いていたが落ち込んでいた零士には聞こえなかった。零士がちょっと放心していると老人がこちらに進み出た。老人と呼ばれるには覇気があり、法衣集団の中でも特に豪奢な格好をしている。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎いたしますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位についておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願いいたします。」
その後イシュタルと呼ばれる男が言ったことはまとめるとこうだ。
①この世界はトータスと呼ばれる異世界で大きく分けて三種族、人間族と魔人族そして亜人族の三つ。
②人間族と魔人族は何百年も戦争している。しかし魔人族が魔物と呼ばれる動物の変異体を突如大量に使役始め、人間族が滅亡の危機に瀕している。
③エヒトと呼ばれる神がこの世界よりも上位の世界、つまり零士達を召喚した。
ここまで最後尾の席で並んで聞いていた零士と恵里の目が死んだ。最前列にいる光輝の方を見てみると話の内容に義憤を燃やしてはいるがそれ以上に迷いが出ている。
(無理もない、か)
零士はそう考え、すぐに手元にある弁当を食べる。空気が読めないと言われそうだが気にしない。
「ふざけないでください!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しませんよ!私達を早く返して下さい。きっと、ご家族も心配しているはずです。あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
声を上げるのは畑山愛子。
小柄な体格をした今年25歳になる社会科担当の教師だ。生徒のために空回りする姿は愛嬌があり、学校名物になっている。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です。」
その言葉にクラスメイトは驚愕のあまり、静かになった。
(まぁ、呼んで簡単に返すわけないか………)
死んだ目で零士はそう考える。
わざわざ帰らせるわけがないと考えていたためだ。独自に帰る方法を見つけても神を自称する者がみすみす帰らせるわけがない。
(呼べた以上"逆"この世界の奴等を地球送り込むことも可能はず。)
仮に帰る方法があっても神を自称するものが自分の世界がダメになったからと言って地球を征服しかねないため何とかして神の行動を制限する方法が必要だと零士は思っている。
そこまで考えると自然とため息が出てくる。零士が恵里の方を見ると恵里も顔をとてつもなくまずいものを食べたように顔を歪めている。
「恵里、大丈夫?」
「無理っ、もう気持ち悪い………」
恵里は涙目になって小声でそう答えるとすぐさま零士が指を鳴らすと恵里の表情が良くなっていった。零士は恵里の背中をさすりながら静かさが消え、パニックになるクラスメイトを見回しているとハジメが心配そうに声をかけてきた。
「星宮くん、中村さん体調悪そうだけど大丈夫?」
「ちょっとめまいを起こしただけだ。」
だからあまり気にしないでいいと零士が続けて言うとハジメは状況を考えて納得した。ハジメがクラスメイトに意識を向けるとクラスメイト達が騒ぎ始めた。
「うそだろ?帰れないってなんだよ!」「いやよ!何でも いいから帰してよ!」「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけんなよ!」「なんで、なんで、なんで………」「嘘だ、こんな………」
パニックになるクラスメイト達。冷静でいろというのは難しい話だろう。ハジメはラノベなどでこの手の展開の創作物を読んでいるため周りよりは落ち着いている。
『あの平凡そうな女この状況で落ち着けるなぁ。』
ダハーカが感心したように呟く。零士はその呟きに『あぁ』と返した。
『この手の創作物を見たことあるんでしょ。この状況で冷静に判断できるのはいいことだよ。』
『そうだな。見ろよイシュタルとか言うジジイがこっちみて何故神に選ばれて喜べないのか?って考えてるぜ。あれ』
そうイシュタルと名乗った老人は口を挟むでもなく静かにこちらも見ていた。目を見るとダハーカが言ったことを思っているのが容易にわかる。
ここで不用意に発言すれば教会と共に国を敵に回すかもしれないので口を閉じているとドンっ!と力強く円卓を叩く音が聞こえたのでクラスメイトたちが視線を向けると光輝が立ち上がって声を上げた。
「みんな!落ち着いて!イシュタルさんにもどうにもならないんだ。………俺は戦おうと思う。今この間にも魔人族の襲撃を受けているんだ。助けられる命が目の前にあってそれを見捨てることは……俺にはできない」
(………手の上か)
零士は光輝が演説しているのを横目に恵里の背中を撫でながらイシュタルの方を見ていた。
「それに人間族を救えば返してくれるかもしれない。…… イシュタルさんどうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主様の願いを無下にはいたすまい。」
イシュタルは光輝を見てそう答えた。その後いつものメンバーが賛同し、クラスメイトも現実逃避しながら戦争に参加することになった。戦争に反対しているのは最初に反対していた畑山愛子とイシュタルを観察し、危険視した南雲ハジメ。そして状況を冷静に考え、刺激しないように声を潜めていた星宮零士と中村恵里の四人のみだった。
その後光輝組一行はイシュタルの魔法によってハイリヒ王国に案内され、国王国王エリヒド・S・B・ハイリヒ、王妃ルルアリア、ランデル王子、王女のリリアーナと謁見したのだが、国王がイシュタルの手に口付けをした際、零士と恵里の目が死んでハジメが驚いていたりする。
その後、晩餐会が開かれたのた。えっ?零士はどうしたって?零士は……
「私は、ーーー」「待ちなさいよ!」「あの!」
わー!わー!わー!
令嬢たちに言い寄られていた。幻想的な容姿にどこか子どもらしい雰囲気、そして何より令嬢たちなどの観察眼のある人物にはわかるただの綺麗なだけではない他とは違う何かがあるとわかる異様感が令嬢たちの興味を引いた。
対する零士は---
「………」
困っていた。元々あまり会話ができる方ではなく静かさを好み、心に決めた人がいる零士にとって言い寄られても嬉しくない。それに………
視線を他に向ければ
「ムー」
ぷっくりと頬を膨らませた恵里
「………」
「か、香織?」
ハイライトの消えた目でこちらを見ている香織と親友の状態に戸惑っている雫
「ハハハ………」
そんな周りの状況に苦笑しているが胸がなぜか痛むハジメ
そして零士をを睨む一部を除くクラスメイト達。
ぶっちゃけると面倒だった。出来ることなら今すぐにでも退散したい。
『イヤー、モテるねぇ。』
「嫌味のつもり?」
『まさか!面白がってるだけさ、よく言うだろう?他人の不幸は蜜の味って。』
そう言うダハーカに零士は周りの状況と一緒にして溜息を吐く。
「ん?」
いきなり何か違和感を感じ、違和感のあった方向を向くが其処には窓があるだけで何もない。近づいて窓を開け、体を乗り出して周りを見るが何もなかった。
「気のせい?」
頭を傾げてそう呟いた。
三人称side end
ハジメside
「ハァ」
私は用意された豪奢な部屋に用意されたベットに転がりながら思わず息を吐き出し、体の力を抜く。怒涛の一日に疲れていたはずだがどうゆうわけか眠れず横になっていた。
「やっぱり………」
ふと目を閉じれば思い出すのはあの日の光景。自身を救ってくれた英雄の姿が自然と浮かぶ。胸に手を当てれば鼓動が早くなっていて落ち着かない。
「好き、なんだよね。」
これは間違いなく恋心。しかし彼には恋人がいるそれを引き裂こうなど思っていない。いけないとわかっていても………
「んっ」
手をある場所に移動させながら瞳には涙を浮かべる。胸の痛みを騙すように。
???side
「………」
静寂が支配する森の中に少女は居た。湖に生まれたままの状態になって水浴びをしている。その周りには血の海が広がっていた。ある者は首が無く、またある者は自身の得物を刺され、あまりにも一貫性が無い状態で死んでいた。死体の格好からそれなりの実力があったことを窺わせる。
血が多く出ているというのに少女の周りはまるで聖域の様にどこか神秘さと蠱惑的な雰囲気が出ていた。
神秘さと何処か年老いた仙人の様な落ち着きを見せる少女はある方向を向き、蠱惑的に告げた。
「あなたはだぁれ?」
???side
宝物庫の中で其れはあった。其れは小さな黒い棺桶だった。棺桶は無数の鎖に縛られ、中に入っている何かを何重に封じられているのがわかるだろう。
ガタッ!!
棺桶が音を立てて動いた。一度だけではなく何度も何度も動く。
『オォーッ』
誰もいない空間で遠吠えの様な声が聞こえた。