スレイン法国よりもはるか南、大陸の西側においてとある人間が納める国が存在した。その国は六大神と同じ力を持つ神によって守られて存続していた。周囲は亜人に囲まれてしまっていたために他国との外交や商売はできなかったが、自給自足でもってその国は300年にわたり続いていた。
しかし、ある日を境に神は衰え始めた。神がこの地にいられる限界に達したのである。そして神は衰え始めてから約一年でこの地上から姿を消した。それを知った亜人達は一斉に侵略を開始し、10年にわたる抵抗の末にその国は9割の国民の命と共に潰えたのである。わずかな生き残りは同じ人間が生きる大陸北部を目指して逃げ出すこととなった。
それがアストロ帝国が用意したシナリオである。これは各地に冒険者を送り込む中で出身地をごまかす為に作ったものである。人間がいるこの場所は大陸の北西部に位置しており、それ以外の場所は亜人達がはびこる場所となっている。種族的に弱い人間はこの地に追い詰められている状態で他の場所のことなど知らない。たとえ知っていてもスレイン法国を挟んだ遥か南である事で調べる事は不可能であった。
亜人に四方八方を囲まれている設定であれば突然強者が大量に出てきても逃げてきたんだなと納得させることが出来るし全く知らないことにも説明ができる。そして、スレイン法国がそれを認めれば周囲の国々は認めざるを得なくなるだろう。
「故に、スレイン法国の使者がカルネ村に来た時にはかならず知らせよ」
「かしこまりました」
オフィークスはカルネ村に滞在させる予定の美鈴に指示を出す。美鈴の他には4名程度のNPCが同伴することになっている。レベルは20~30程度の生産職の者達である。カルネ村は今後美鈴を中心にアストロ帝国の支援を受けて発展させていくことになっていた。今回はその前段階という事でオフィークスが滞在する時の家を作る予定となっている。それまでは襲撃で空き家になった家を借りて過ごすことになる。
「おそらくだがスレイン法国の使者が来るのは二週間程度にはなるはずだ。漆黒聖典だけならもっと早いだろうが正式な使者が来るとなればそのくらいになるはずだ」
「了解です。それまでに
「ああ、それも頼んだぞ」
美鈴の進言を受けいれ、オフィークスはカルネ村担当を彼女に任せた。この配置は元々決まっていたことであり、美鈴は作成されてから漸く自分の存在意義を果たせると意気込みながらカルネ村に戻っていったのだった。
そして、それと入れ替わるようにオフィークスはデネボラを呼び出す。
「どうしましたか陛下?」
「デネボラ、お前はこれよりエ・ランテル周辺に行って野盗どもを倒してこい」
「……ああ、ブレイン・アングラウスでしたっけ? 彼の心を砕けばいいんですね?」
「そうだ。具体的な場所はわからないからな。適当に商人っぽいいでたちをして美女を連れていれば簡単に引っ掛かるだろう」
原作においてガゼフ・ストロノーフと互角の戦いをしたブレイン・アングラウス。彼はガゼフに敗北してから武者修行としてとある傭兵団のお世話になっていた。そこは戦時以外では野盗と変わらない下種な場所であり、そこでブレインはシャルティアと闘いその実力差から心を折られる事になった。その後はセバスと出会い立ち直った事で復活。王都での騒動の際にはシャルティアの爪を切る快挙を成し遂げている。
「言っておくが殺すなよ? 怪我も軽傷で済ませろ。あくまで心を粉々に砕くんだ」
「分かりましたけどそれで立ち直れなかったらどうするんですか? つぶします?」
「それで終わりなら放っておけ。ブレインが駄目であるならそれでいい。代わりはいくらでも用意できるからな」
「うへー。わざわざ原作をなぞるためにぼこぼこにされるブレイン哀れですねー」
デネボラはオフィークスの言葉に笑う。これからそれを実行するのに他人事のように笑う。実際、彼女にとってブレインなど赤の他人である。大量に存在するこの世界のその他大勢でしかないのだ。
「分かりました。それでは早速盗賊たちを皆殺しにしてブレインの心をぶっ壊してきまーす」
「ブレインの心を折った後は帰還せよ。その後頼みたい任務があるからな」
「了解でーす」
デネボラは軽い口調で部屋を後にする。執務室に一人残されたオフィークスは椅子にもたれかかり息を吐く。前世でも転移前でも味わったことのない高級な素材で作られた椅子は座り心地が良く、気づいたら眠ってしまう程の快適さであった。
「冒険者にならないと決めた以上指示を出して結果が出るのを待つだけだがその間は暇になってしまうな。……何か、暇つぶしになるようなものを用意しておくべきだったか? いや、娯楽は居住区にある。NPCの様子を見るのも兼ねて訪れてみるか?」
オフィークスは結果が出るまで自身が作り上げたアストロ帝国内を巡り、NPCと交流を図っていくのであった。