ウマ娘 ∼Antithesis hero∼   作:Carboxyl

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 初めまして、Carboxylです。本当はCarbonにしようと思ったのですが何故かよく分かりませんが設定が上手くいかなかったのでこんな名前になりました。適当にカルボン酸とでもお呼びください。
 さて、これからウマ娘の二次創作を投稿していく訳ですが・・・まぁ、アレですね。利用規約にある「馬や関係者のイメージを大きく損なうような作品」にならないよう、とにかく細心の注意を払おうと思います(本当はこういう作品を作らない方が触らぬ神に祟りなしで良いのでしょうが)。
 ワタクシ自身、文才も無ければ小説を書いた経験も殆ど無いので拙い所が見受けられるかと思いますが、温かい目で見守って頂ければなと思います。

※もしアプリゲームで実装されたらこんな育成ストーリーだったらいいなという体で書いています。殆ど自己満足に近いので苦手な方はブラウザバック推奨。
 (追記 : この小説が終わるより先にデジタルが実装されてしまった為、なるべく実装前に描いていた構想で話を進めますが、運営様の解釈と一致したり運営様の解釈に寄せたりする事が度々出ると思いますがご了承下さいませ)


序章

 

 ウマ娘。太古の昔から人間と共存し、一見人間の姿をしながら彼らの何百倍という怪力と、地の果てまで風のように駆け抜ける走力を持つ不思議な存在。

 研究によれば、紀元前のエジプト文明や中国文明等から既に彼女達は存在していたらしい。そのような考古品も多数見つかり、今では彼女達が人類の発展に大きく貢献した事が現在主流の考えとなっており────。

 

 「・・・返そう。」

 

 小柄な少女は、ぽつりと呟き分厚い本を閉じた。

 図書館から借りてきたその本は、自分が知りたい事を全て語ってくれそうではあったが、自分には少し難し過ぎた。

 目線を上げると、だだっ広い芝生の上を、同い年のウマ娘達が喜々として走り回っていた。

 少女は知っていた。ウマ娘として生まれたからには、競争ウマ娘になって一番を目指す者達が多い事を。

 眼の前のウマ娘達も、数年経てばあの大きなレース場で走り競い合うことになるのだろう。

 

 「・・・私は、どうすればいいんだろう・・・。」

 

 少女はぎゅっと分厚い本を抱きしめた。

 彼女は先述の通り小柄であり、それだけでなく華奢で体力も無く、競争ウマ娘に向いているとはお世辞にも言えない、と周りから言われていた。

 自分自身、競争ウマ娘には然程興味が無いので別の道を探してみたくなった。

 というのも、学校から「将来の夢」を考えようという授業があり、何も考えていなかった彼女は家に持ち帰り宿題とすることになったのだった。

 そこで色々調べたのだが、どの将来も全くピンとこない。自分がいかに、何に対しても興味を抱いていないかを痛いほど思い知っただけだった。

 しかし今更、趣味か習い事を持とうとしても、強いられるようなそれは長続きしない性格であることを彼女は自覚していた。

 八方塞がりで途方に暮れていると、先程から走り回るウマ娘達を眺めて満足そうにしていた一人の男性が、こちらに歩み寄ってきた。

 

 「・・・お嬢ちゃんはあそこに混ざって走らんのかい?」

 

 男性は相も変らずはしゃぐウマ娘達の方向を指差した。

 

 「あなたは、誰?」

 

 「ああ、これは失敬。私は・・・、そうやな。『シライ』とでも呼んでくれ。」

 

 「・・・ん?シー・・・、なんて?」

 

 「シ・ラ・イ。シライだ。」

 

 少女は怪訝な顔をした。シライなんて名前、この辺では全く聞いたことが無い名前だった。

 

 「・・・まあいいや。おじさんは何をしてるの?」

 

 「私は、この豊かな大地で育った将来の大物競争ウマ娘になるであろう娘を、遥か遠くの地から見繕いに来ててな。

 いややはり、惚れ惚れするようなウマ娘の多い事、多い事。全員、その走りを見せてくれる時が愉しみで仕方が無いわ。」

 

 男は、目を爛々と光らせながら喋った。本当に、競争ウマ娘が好きなのだろう。

 

 「そっか。じゃあ、あの子なんてどうかな。金髪の子。」

 

 少女はそのウマ娘がいる方向を指差して言った。

 

 「パワフルで私が知っているウマ娘の中でも一番速い。きっと、活躍してくれるよ。」

 

 「ふぅむ・・・。確かに、君が言う通り体格も素晴らしいし一歩一歩のパワーも凄い。」

 

 男は顎を擦りながら興味深そうに眺め、呟いた。

 

 「確か、渡されたピックアップリストにも乗っていたな。あの子は誰からも期待されている。それだけの子だ。」

 

 「そうなんだ。出来る大人から見ても、そう思うんだね。」

 

 そう聞くと、友達と言えるほどの中ではないとは言え、身近だと思っていたあの子が急に果てしなく遠い存在のように思えてきた。

 おまけに、あの子は競争ウマ娘になって大物になりたいという明確な目標がある。自分とは全く比較にならない。

 

 「・・・その冊子、見せてもらってもいい?」

 

 「別に構わんで。」

 

 受け取った冊子を開くとそこには、将来確実に大物になると有望視されているウマ娘や、名家の生まれであるウマ娘がずらりと並んでいた。

 一筋の淡い希望を抱いていたが、捲れば捲るほど期待が持てなくなってくる。

 やがて捲れるページが無くなり、蹄鉄の形が描かれた裏表紙が現れた。

 少女は視線を落とし大きなため息をついたところで、それを見ていたシライと名乗る者は、意を決して話を切り出した。

 

 「だがプロっていうのはな。注目されてる銘柄ばっかじゃなくて、全く見向きもされていない所からダイヤの原石を掘り当てるのも仕事なのよ。」

 

 そう言うと、シライは少女の両肩をポンと軽く叩いた。

 

 「君、競走ウマ娘になるつもりはないか?」

 

 少女は時が止まったように固まった。

 この男は、今何と言った?競走ウマ娘になれと言ったのか?誰に?私に?いやいやまさか、そんな事は有り得ない、と彼女の中で混乱の渦が頭の中を掻き乱していた。

 

 「きっと、君ならそれはもう素晴らしい競走ウマ娘になれるだろうさ。」

 

 「・・・え、本当に私に言ってる?」

 

 「目線合わせてるし肩に手を乗せてるし、どう考えても今話してる相手君だよね?」

 

 「・・・冗談じゃないよ。おじさん、全く見る目無いね?」

 

 少女はすくっと立ち上がり、履いていたロングスカートを膝の辺りまで捲った。

 

 「まず、足細すぎ。すぐに折れちゃうよこんなの。」

 

 捲ったスカートを下ろすと、次は脇腹に手を当てた。

 

 「身体も細い。」

 

 そして、頭に手を乗せて見せた。

 

 「オマケに身長も小さい!

 競走ウマ娘に限らず、運動なんて身体が恵まれてる方が良いのに私はこれっぽっちも良い要素なんて無い。

 歩けてるだけでも奇跡でしょ。」

 

 「・・・それ、自分で言ってて悲しくならんのか?」

 

 マシンガンのように早口で己の非なる部分を列挙していた少女は男の突っ込みに対して口籠り、俯いた。

 

 「・・・でも、本当の事でしょう。

 周りの大人も、口々に私を見て貧相だとか小さいだとか言うんだ。

 実際、かけっこで周りのウマ娘に勝てた事は一度も無いし・・・。少なくとも、競争ウマ娘になれる力なんて無いよ。」

 

 「・・・ふむ。確かに周りからしたらただ小さいだけにしか見えないかもな。」

 

 「かもじゃなくて、そうなんだって。」

 

 男と少女がああ言えばこう言うを繰り返していると、遠くからスーツ姿のスタイリッシュな男が二人の元へと近付いてきた。

 

 「ミスターシライ。良いウマ娘は見つかりましたか?」

 

 「ああ、数人に候補を絞り込んだ。後はアンタがどう思うかやね。」

 

 「それはそれは、お仕事が早い。

 ええ、大丈夫ですよ。そちらから無理難題を突き付けられなければ。」

 

 男達が謎の会話を繰り広げている間、少女は訳も分からずきょとんとただ見つめていた。

 ただ、シライと名乗る人物は本当に将来を見据えてこの辺りのウマ娘をスカウトしに来ているのではないかと考え始めていた。

 というのも、スーツ姿の男は彼女が通う学校の校長であった。

 その校長もシライの活動をサポートしているようだから、疑う方がオカシイのではと少女は思った。

 

 「そう言えば、ミスターシライが一番注目していたというあの子はどうなったのですか?」

 

 「あ〜・・・、アレは破談になっちまったわ。関係者が意固地だし、本人も行きたがらん。しょうがないから諦めた。」

 

 シライと校長の言葉のキャッチボールが絶え間無く続く。

 大人の会話に付いて行けはしないが、何となく気持ちが高揚し、ソワソワしながら行く末を見守った。

 そんな少女の存在に気が付いたスーツの男は、訝しむような目で少女に一目遣った後、シライに視線を戻した。

 

 「・・・まさか、この子も候補に入っているのですか?」

 

 「よー分かったな。その通りや。」

 

 「・・・他にも優れたウマ娘はいるでしょう。何だってこんな目立たない子を?」

 

 そら出た、と少女はウンザリしながら視線を落とした。もう、その文句は聞き飽きたと言うのに。

 

 「いや、最終的にどうするかはあなたの勝手ですが、率直に申し上げますと、全くオススメ出来ませんよ。

 体格に問題を抱えているというだけでも難点なのに、この子は特別名家の生まれという訳でも無い。

 オマケに、対抗心や闘争心といったものが周りと比べて明らかに欠如しているときた。

 走る要素が皆無なんですよ。」

 

 「確かに、この子より優れたヤツはいるかもしれへんけどな。この子は見た目以上にデカい才能を秘めとる。

 せやから──。」

 

 「もういいよ、おじさん。」

 

 少女はシライの話を二人の間に割って入り、遮った。

 幾ら己のことに関して罵られ慣れているとは言っても、本人がいる眼の前で貶されるのはやはり愉快なものではなかった。

 

 「この人の言う通り、私には体格も素質も血統も何も良い所が無い。何より、私は競争ウマ娘になる気なんか更々無い。

 そうと分かったら、帰りなよ。」

 

 少女は無意識に酷く冷たくモノを言っている事に気付いたが、ヤケ気味になっている自分を止める事が出来なかった。

 

 「・・・・・・・・・。」

 

 男は深く考え込む素振りを見せた後、少女の頭をぐりぐりと強引に、かつ優しくなで回した。

 

 「な、何・・・!?」

 

 少女が男の腕を掴み離そうとしたその刹那、彼は口を開いた。

 

 「お嬢ちゃん。競争ウマ娘ってのは何も、生まれ持って与えられたモノだけが全てじゃないんやぞ?」

 

 男は少女から手を引き手を腰に回すと、何処に行くという訳でも無く、徐ろに歩き出した。

 

 「例えば、トランプでカードゲームをする時を考えよう。嬢ちゃん、ババ抜きは分かるな?」

 

 「・・・え、うん・・・。」

 

 「始める前に、カードを混ぜて各自に渡すやん?

 当然、手札はその時その時でバラバラのはずや。けども、運良くペアカードが何組も出てくることもあるやろうし、逆にペアが全く無いってこともあるやろな。」

 

 「・・・そうだね。」

 

 「問題はそこからやな。運良く残り手札が少なくなったヤツ、それに対してほぼ手札が配られた時のまんまなヤツ。

 普通に考えたら、どっちが勝つと思う?」

 

 「・・・手札が少ない方・・・。」

 

 「せやな、コレは疑う余地が無い。けど、百パーセント勝つとも言い切れへん。

 何故なら、まだ手札が残っとるからな。ここからペアを中々作れずにもたついとる間に、手札が多かったヤツはどんどんペアを揃えて先に上がってしまうかもしれへん。」

 

 「・・・何が言いたいの?世の中運次第って話?くだらないね、早く帰ってよ。」

 

 少女は先の見えない例え話に苛立ちを隠せず、男に食ってかかった。

 

 「いいや、カードは使い方次第で化けるって話や。」

 

 「・・・はい?」

 

 怪訝な顔でさも、「何を言っているんだコイツは」とでも言いたげに首を傾げる少女に構うこと無く、シライは話を続ける。

 

 「ババ抜きする時に何も考えずにカード引いてるか?引かせてるか?ちゃうやろ?

 端っこを目立たせて引かせない為のブラフを貼ったりとか、その逆でババをその位置に配置するとか。

 所詮ババ抜きやから戦略は限られるけど、競争ウマ娘はそうじゃない。

 足りないパワーを補う為にどうするか、荒れた内を通るか外を回すか、前につけるか後ろにつけるか。考えられる事が沢山あるねん。

 例え身体が小さくても圧倒的なパワーで自分より体格デカイヤツを幾度も負かしたヤツもいる。遥かに能力が周りより劣っていても全員見返して勝利を手繰り寄せたヤツもいる。

 劣っているから勝てないじゃないねんな。配られたカードをどう使うかが肝心なんや。」

 

 「・・・でも、その子達も結局、才能があっただけでしょう?」

 

 男は腕を組み、明らかに大きなため息をついた。少女は流石に嫌われたかと思ったが、彼のメンタルは鉄そのものであった。

 

 「お嬢ちゃん、その年であんまり可愛げの無い事は言うもんちゃうぞ。

 正直に言わせてもらうと、君は夢が無さ過ぎる。」

 

 夢が無い。そんなこと、少女自身が一番分かっているつもりだった。

 分かりきっている事を他人から指摘されて、少女は若干の苛立ちを覚えた。

 

 「・・・だって、自分に希望が持てないんだもの。何をするにしたって誰かの下。オマケにバカにされる。

 あなたは知らないんだ。弱い者イジメを受けてる人の気持ちなんて。」

 

 少女は思った事をそのまま臆さず全て口にした。こんな自分なんか放っておいて早く帰ってくれ、その一心であった。

 

 「・・・分かるさ。」

 

 怒りに任せていた少女であったが、男の神妙な顔にはたと動きを止めた。

 鬱陶しいおじさんだと思っていたが、こんな悲しそうな表情も見せるのかと、少女は驚き固まってしまった。

 

 「勿論、君の言う通り、才能や運に恵まれなかった子もいる。果ては、自分が好きだった居場所を捨てざるを得なくなったウマ娘も。

 私は、そういうモノを沢山見てきた。イヤという程にな。」

 

 「・・・・・・・・・じゃあ。

 じゃあさ、尚更私は競争ウマ娘になる訳にはいかないよ。きっと、おじさんを悲しませてしまうよ。」

 

 そういった途端、先程までの重苦しい雰囲気はどこへやら、男はニカッと笑い、少女の肩を雑にぽんぽんと叩いた。

 

 「バカ言うとんちゃうで。オッサンが何度も何度もお前には才能がある言うとるやろ?

 やる前から諦めてどうすんねん。やらなきゃ何も始まらんし何も分からんやろ?

 向いてるか向いてないかは後から判断したらええねん。」

 

 「・・・矛盾してない?挑戦に失敗は付き物だよ?」

 

 「けど、挑戦しなきゃ成功なんて一生無いで。」

 

 少女はぐうの音も出ない正論に黙り込んでしまった。

 

 「失敗が怖いのは分かる。でも、お前も周りからアレコレ言われて悔しい思いしとるやろ?

 どや、ココは一つ、挑戦してみいひんか?」

 

 

 

 

 




 作者はいつも忙しいので投稿頻度はかなり低めになるかと思います。気長に泥船に乗ったつもりで待っていて下され。

 2022/11/4追記 : 序章の内容を大幅に変更しました。最早別物レベルです。

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