ウマ娘 ∼Antithesis hero∼ 作:Carboxyl
さて、これからウマ娘の二次創作を投稿していく訳ですが・・・まぁ、アレですね。利用規約にある「馬や関係者のイメージを大きく損なうような作品」にならないよう、とにかく細心の注意を払おうと思います(本当はこういう作品を作らない方が触らぬ神に祟りなしで良いのでしょうが)。
ワタクシ自身、文才も無ければ小説を書いた経験も殆ど無いので拙い所が見受けられるかと思いますが、温かい目で見守って頂ければなと思います。
※もしアプリゲームで実装されたらこんな育成ストーリーだったらいいなという体で書いています。殆ど自己満足に近いので苦手な方はブラウザバック推奨。
(追記 : この小説が終わるより先にデジタルが実装されてしまった為、なるべく実装前に描いていた構想で話を進めますが、運営様の解釈と一致したり運営様の解釈に寄せたりする事が度々出ると思いますがご了承下さいませ)
その日の府中には、強い雨が降り注いでいた。雨水で視界が遮られ、メインレースまでに執り行われた幾つかのレースの影響で芝は大きく損傷し、所によっては泥が剥き出しの状態だった。
あたしは、一人のトレーナーと一人のウマ娘を、俯瞰するように見ていた。
控室にて綿密に作戦を練り上げているところで、張り詰めた緊張感が、これはただ事では無いのだと理解させられる。
しかし、そんなに遠くから見ていた訳では無いのに、不思議と二人の顔はボヤけていてよく見えない。
まるでそこにだけ濃い霧が二人を覆っているようで、トレーナーが男性なのか女性なのか。ウマ娘が鹿毛なのか栗毛なのか、はたまた芦毛なのか。それすら分からない。
仕方が無いので、彼らの会話だけを聞き取る為に、耳を澄ませる事にした。もしかしたら、会話の中で彼らの情報が得られるかもしれないから。
「いよいよ、この時が来たな・・・。」
「そうですね。」
「このレースの為に、ありとあらゆる策を練ってきた。君には、今までに無い程完璧な調整を施した。
けれど、彼女に勝つ為にはまだ足りない気がするんだ。そんな不安が脳裏を過って、ここ数日は暫く眠れなかった。」
「・・・大丈夫ですか?」
「ああ。全てはお前を勝たせる為だ。
・・・オレはこの不安の元は何かを徹底的に検証し、今日に至っても頭を悩ましててな。その結果、これまでの作戦に加えてもう一つ、良い事を思いついた。」
「・・・ほう?」
「さっきレースを見ながら思いついた事でな。絶対に勝てるとは言わない。
けど、勝率は高められるはずだ。」
すると、トレーナーはウマ娘の元に近寄り、何やら耳打ちで思いついた作戦と思われる事を伝え始めた。当然、何を言っているのか分からない。
ここに至るまでどんなドラマがあったのか詳しくは知らないが、トレーナーがウマ娘の為に、苦慮の果てに浮かんだ作戦とやらを聞き取ることが出来ないのはとても焦れったい。
近づけば良いとは思ったが、不思議な事に、足は動かしている感覚があるのに、その場から一歩も進めない。体の軸が地面に突き刺さっているかのように、ぴくりとも動かないのだ。
「・・・なるほど。良い作戦だと思います。」
そうこうしているうちに作戦伝令のフェーズは終わってしまったようで、あたしは少し落胆した。
一体、彼女のトレーナー何を伝えたのだろうか・・・。
「忘れるなよ。作戦も大事だが結局の所、最後の競り合いなんかは特に、お前がこれまで積み上げてきたもの全てを出しきらないとこのレースは勝てない。」
「ええ、十分理解しているつもりです。」
「・・・余計なお節介かもしれないけどな。オレはお前が心配なんだ。
信じていない訳じゃない。・・・でも、これまで受けてきた扱いも酷いものだったし、もし、もし負けてしまった時は・・・。
・・・オレは、きっと、怖くて仕方無いんだ。」
そう言うと、トレーナーは担当ウマ娘の手を取り、切実そうな、今にも泣きそうな声で懇願した。
「頼む。無事に帰ってきてくれ。帰ってきてくれさえすれば、後はどうなろうともオレが君を守るから。」
・・・彼らの会話から察するに、想像を絶するような苦しい時期を暫く過ごしてきたのでしょう。
担当ウマ娘の無事を願うのはトレーナーなら誰しもをそうだとは思いますが、ここまで情に訴えかけてくるような願いは聞いたことが無い。
「・・・杞憂ですよ、トレーナーさん。」
担当ウマ娘はトレーナーの手を優しく握り返した。
「自分は勝ちますよ。だから、負けた後の事なんて考えなくて良いです。
せっかく心配するなら、勝った後に何をするかを考えましょうよ。レースの事ばかり考えてて、そっちの方はノープランでしょう?」
あたしは戦慄とした。
彼女からは、確固たる自信が見て取れた。そして滲み出るオーラが今まで見たことが無い程の強者のそれで、心の底から震え上がらされるような感覚に陥った。
・・・彼女は一体、何者なのだろう?
「・・・やはり君は、強いな。恐れ入るよ。」
「何だかんだと、トレーナーさんも付いてきてくれているじゃないですか。」
担当ウマ娘はトレーナーの手を離すと、拳を作り、彼女と彼の間に差し出した。
「私のトレーナーさんは、貴方しかいない。そんな世界に一人だけの最高の相棒に、約束します。
絶対、勝ちをもぎ取って帰って来るって。」
「・・・・・・おう、任せた。」
彼女の意に応えてトレーナーも手を握り、二人は拳同士を軽くぶつけた。彼らから、小さな笑い声が聞こえてくる。
(良いコンビですね・・・。貴方達ならきっと、今日のレースに勝てますよ!)
時間が来たのか、そのまま二人は控室を出て行く。
あたしも追いかけようとしたが、悲しきかな、足をバタつかせてもバタつかせても動けないのをすっかり忘れていた。
──そういえば、自分は何故こんな所に居るのだろう。レース場に来るならあたしは観客席にいるべきであるし、そもそも今日は土日じゃないから府中でレースは無いハズでは────。
「・・・・・・・・・・・・んあ?」
カーテン越しに柔らかな太陽の光が瞳に注ぎ込む。見覚えのある天井、見覚えのある壁、見覚えのあるグッズの数々。
少女はしょぼくれた目で徐ろに上半身を起こし、軽く伸びをした。
「・・・なんか変な夢を見ていたような・・・。」
つい先程の事のハズなのに、全く夢の内容を思い出せない。思い出せないなら、その程度の夢かと思い、少女は枕元に置かれていた目覚まし時計を確認する。
「・・・え?うん?あたしの目が悪くなった?」
受け入れられない現実が目の前にあり、少女は目を擦ったりパチパチと開閉させたりするが、どう考えてもトレセン学園の始業に間に合うかどうかのギリギリの時刻だ。
「ぐわあああああぁぁぁぁぁ!!?あたしともあろう者が、寝坊ですとおおおぉぉぉ!!?」
少女はベッドから飛び起き、洗顔、髪の手入れ、その他身だしなみ、着服と朝の準備を目が回るほど早く次々とこなしていった。
登校準備完了までに要した時間は僅か三分。しかし適当に済ました訳ではなく、きちんと普段通りのクオリティを維持したまま終えた。
己の不格好は禁物。彼女の矜持の一つであった。
「今日も元気に行ってきまっす!」
丁寧に飾られた推しグッズ一つ一つを見渡し、神棚に備えられた推しグッズに手を合わせお辞儀をすると、少女は部屋から飛び出した。
「ぬおおおおおぉぉぉぉぉ!!!間に合ええええ!!!」
彼女は限りなく全速力で走った。しかし、道路標識のウマ娘専用の速度制限にきっちり抑える。
急ぎであってもルールはルールだと、彼女はそれを馬鹿真面目に守る性分であった。
交差点に差し掛かった所で信号機が赤になり、足を止められる。
「ぬ・・・、ぐ・・・。間に合う・・・か?」
推しウマ娘のデザインが施された特注品の腕時計をチラチラと確認していると、近くで同じく赤信号で待機していたであろう男の子が声をかけてきた。
「わあ、おねーちゃんウマ娘だね!?」
「・・・え、ええ、まあ・・・。」
ウマ娘ではあるが、自分はトレセン学園に居る天使達とは違って何の変哲も無い普通のウマ娘、と言いかけた所、男の子のお母さんと思われる女性からも声がかかった。
「どうもウチの子がスミマセン・・・。この子、ウマ娘が好きで、町中でウマ娘を見かけると興奮が止まなくて、見知らぬ人にも声をかけてしまうんです・・・。」
「ほほう、この子は逸材ですなぁ。」
「え?」
少女の謎回答に困惑する女性を置いて、彼女は男の子に声をかけた。
「君は将来大物になりますよ!このような小さな頃からウマ娘の魅力に気付けるなんて、素晴らしい!
是非是非、これからも推していって下さいね!」
「・・・なんかよく分からないケド、頑張る!」
男の子の元気な返事と共に、信号の灯が赤から青へと変わる。
「では、あたしはこれで!」
少女はペコリと二人にお辞儀をし、即座に横断歩道を駆け抜けていった。
「・・・あのおねーちゃん、何て名前なのかなぁ?」
「さあ、ねぇ・・・。制服から多分、トレセン学園の子だと思うのだけれど・・・。」
──私の名前はアグネスデジタル。何処にでも居る平凡なウマ娘。
遅刻ギリギリで危ないところですが、今日も楽しい楽しい一日が始まろうとしているのです!その為にも遅刻なんてあたしの足が許さない!
ウマ娘ちゃん、待っててね〜♡
作者はいつも忙しいので投稿頻度はかなり低めになるかと思います。気長に泥船に乗ったつもりで待っていて下され。
2022/11/4追記 : 序章の内容を大幅に変更しました。最早別物レベルです。