ウマ娘 ∼Antithesis hero∼ 作:Carboxyl
今回投稿した話も一万文字以上書き込んでしまっていたのですが、余りにも重いので二話に分けました。結果的に二話合わせて一万五千文字以上。私のオンボロイドだったら下手したら動作が止まってしまうので分けて良かったと思いましたね。
タキオンのプランBという、ウマ娘の限界の果てを追究する実験。これにデジタルが付き合うようになって十数日が経った。
今の所、コレと言った変化は無い。相変わらず仲良く歩いているウマ娘二人組を見て倒れかけたり妄想が捗ったりと非常にデジタルらしい。
さて。実験の内容なのだが、コレがなかなかにエグい。タキオン曰く、「速く無ければ戦えないだろう」とのこと。
トレーニング自体の量や質は今までと言う程変わらない。しかし、血圧の変化や血中酸素濃度の変化を調べたりしている程度ならまだ理解は出来るものの、どこから許可を取り付けたのかトレセン学園理事長御用達のスーパー整地カーを使ってデジタルを追いかけ回す等、それ下手したら死ぬのではと思う物も多々ある。
勿論、普段のトレーニングも最低限しないといけないからオレが長い間デジタルを見る事もあるのだが、とにかく調子の流暢が激しい。
ある時は頗る良く、目が覚めるようなタイムを叩き出したかと思えば次の日には見るからに体調が悪そうでとてもじゃないがトレーニングをさせらないなんて事が多々あった。
元々デジタルは調子の流暢が激しかったが、より拍車がかかるような形になってしまっているのである。
こんな様子であったのでレースに出るどころの騒ぎでは無いのではと思っていたが、次走をユニコーンSに決めた辺りからは徐々に体調が安定的に上向き始め、結果的にかなり良い仕上がりになりそのまま快勝。これにより地方交流戦に加えて中央での初重賞勝利も飾った。
「マジか・・・。お前、凄いな。」
少なくとも自分だったら、タキオンの実験に付き合いつつトレーニングもこなしつつレースでも結果を出すなんて芸当、出来ないに違いない。やはり、体が小さくても内に秘める才能があるのだろう。
「ふっふっふ。今のデジたんは夏の栄養補給で頗る調子が良いですよ!さあさあ、次はどこに行きましょうか!」
「ああそうか、なるほどね・・・。」
どれだけ強くなろうとも、根底は全く変わらない。一つの安心感を覚えると共に、どこか抜けているような所に得も言われぬ愛着が湧くのだった。
そして、続く東京ダート1600mの武蔵野Sでも二着と健闘。デジタルの言うように、これまで見たことが無い程調子が良いみたいだ。
果たしてこの調子の良さは夏の静養から来ているのか、それだけでなくタキオンの実験も相まっているのか・・・、オレには分からない。
「さて、秋はダート二戦と来た訳だが・・・。GⅠは何処に出ようか。」
今の所の候補はジャパンカップダートとマイルCSだが・・・。以前もこれについては考えたが、結局答えが出せていない。出走は出来るだろうが、相手は強いし適性は色々と不安であるし・・・、と悶々としていると、デジタルの方から話が切り出された。
「トレーナーさん。次は、マイルCSに行きませんか?」
「マイルCS・・・、って、どうして?」
「ぬふふ、何を隠そう、今年のマイルCSはあのキングさんとグリーンさんが出走するんですよ!」
「グリーンはともかくとして・・・。キングって・・・、キングヘイローか?」
「ええ!まさかあの凛々しいお姿を間近で見られる千載一遇のチャンスがもう一度回ってこようとは・・・!逃す理由はありませんよね!」
キングヘイローと言えば、直接会ったのはたまたま黄金世代が揃いも揃ってデジタルの為に我流のレース運びや走り方のコツを教えたあの約一年前の出来事が最後か。
確かに、恩師とも言える彼女と走れるのは大変光栄なのだが・・・。
「勝算、あるのか?」
マイルCSにも負けてしまえば、今度は東京大賞典ぐらいしかGⅠレースの選択肢が無い。そんなギリギリの状態には出来るだけなりたくないし、仮になってしまったとして東京大賞典でも負ければオレたちはURAの指示通り専属契約を解除させられ、一生の終わりである。
「大丈夫ですよ。それに実を言うと、グリーンさんやキングさんだけがマイルCSに行きたい理由ではありません。」
「・・・と、言うと?」
「タキオンさんの話によると、完成が近いそうですから。」
「完成?」
「ええ、そうです。」
デジタルは徐に自分の足を舐めるように触り、力強く告げた。
「ウマ娘の限界の果て、スピードの向こう側を求める研究が、完成するんです。
・・・と言っても、あたし個人のプランBが先に完成に近付いてるだけだそうですからまだまだ研究自体は終わらないと思いますけどね。」
「・・・つまり、どういう事だ?」
「この研究の成果を証明するべく、あたしが一番走れるレースに出て欲しいとタキオンさんに頼まれまして。
ならば、マイルCSしか無いだろうと。推しを間近に、恩師を間近に、丁度良い距離を走る。それが今回のミッションなのですっ。」
推しを間近に、の部分はデジタルが付け加えただけだろうが・・・。兎にも角にも、デジタルの意思は固そうである。
これまで芝は四戦走ってきたが、いずれも勝ちきれていない。そんなウマ娘が、猛者集うGⅠに出てきた所で人気は知れているだろう。
だがしかし・・・、オレはこの娘の才能にかけてみたい。彼女に出会った時に感じた大器の片鱗。それがもしこのレースで見られるのなら、これ以上の事は無い。それに勝てる勝てない以前に、担当ウマ娘を支え、意思を尊重するのがトレーナーの仕事である。そう考えてからのオレの行動は速かった。
「分かった、次走はマイルCSにしよう。」
「おおっ!流石トレーナーさん、話が早い!」
デジタルは飛んで喜ぶと、オレの手を取り上下にブンブンと振った。
「そ、そんなに嬉しいのか?」
「ええ、ええ、嬉しいですとも!こんなに良き理解者、もとい同志を得られるなんて、あたし幸せ者過ぎますよぉっ!」
いつも振り回されてばかりだが、彼女の純粋な笑顔を見ると、何だかこちらまで嬉しくなる。照れくさくて、苦笑いでその場を凌いだが。
「さぁ、約束を果たす時はもうすぐです。勝ちにいこうじゃありませんか、歴史ある淀の舞台で!」
デジタルはポケットから日本地図を取り出すと、ビシッと京都を指差して言った。
これほど目に分かるくらいやる気の溢れる彼女を見られるのは大変嬉しいのだが・・・。
「デジタル、お前そんなもの何で持ってるんだ?」
「ええと、いざという時の為に常時肌見放さず持ち歩いてるんですぅ・・・。」
今の時代、スマホで大体事足りるであろうにだいぶアナログな事をやっているなと、首を傾げるデジタルを横目に少々笑ってしまったのだった。
さて、トレーナーさんにマイルCSに出たいと言ったからには絶対に勝ちに行かなくては。
今は昼食休憩という事で、あたしはウマ娘ちゃんの天国、食堂へと足を運んでいた。
いつもならウマ娘ちゃん達の振りまく尊みを見てよだれを垂らしているか、おかずにしつつご飯を頂くかの二パターンなのだが、今日は違う。
マイルCSが開催される京都レース場を研究する為に自らウマ娘ちゃん達を一望出来る席には足を運ばず、背を向けるような席に着いたのです。デジたん、良くやった。お前のその我慢が、忍耐が、勝利への第一歩となるのだ。
「ね、ねぇ。ここ・・・、ちょっと良いかな。周りの席が空いてなくて・・・。」
今すぐ振り返りたい欲を抑え悶々とし涙を流しながらご飯を食べていると、後ろから可愛らしい声が聞こえてきた。
「・・・えと、それは私めに申しているのでしょうか?」
「う、うん。」
声の方向はウマ娘ちゃん達がきゃっきゃっうふふしてるので見れないですが、ぎりぎり彼女達を見ないように隣をちらりと見やると、確かに席が空いている。
お隣にウマ娘ちゃんを座らせてしまうと自分の集中力が途切れそうで心配だが、断るのも悪いので受け入れる事にしました。
「あたしなんかの隣で良いのでしたら、どうぞ!」
「あ、有難う!」
そう。隣に座っても、その方向を見なければ何の問題も無いのである。そう、振り返らなければ。
・・・しかし、普段から生きる活力としている尊みを完全に遮断してしまうのは如何なものでしょうか?少しだけ首を動かすくらい、何の問題も無いのでは。後ろを、振り返らなければ良い。
いや、ダメだデジたん。誘惑に負けるな。誘惑に負ければ、必ずレースにも負けるであろう。一時の辛抱だ。辛抱なのです。そもそもウマ娘ちゃんを直視するなんて身の程知らずなのですよ。
そうは言っても、隣の人は何処かで聞き覚えがある声であったし気になる。いや、多分声とその自信なさげなトーンだけで何となく誰だかは予想出来るのですが、「そんなハズは無い、振り返って確かめたい」という欲があたしの我慢の心を狂わす。
だが!それでもあたしは耐える、耐えるゥ!もし本当に誘惑に負けそうになった時は、目玉を潰し心臓をも潰す覚悟くらいは当の昔に出来ているのである!今のデジたんは一味違う!
「・・・あ、あの。大丈夫?さっきから頭を抱えてるけど・・・、頭痛?」
「ああいえ、何でも無いですよ大丈夫ですから・・・、あっ。」
「え?」
アグネスデジタル、一瞬で敗北・・・。ちょっと気が散って、声の主の方を、つい見てしまったのです。
右目まで隠れる長い前髪。その辺りにちょこんと付いてる青いバラがデコレーションされた小さな帽子。体もあたしと同じくらい小さくて、それでいてあたしとは違って性格等も相まってまるでうさぎのような可愛さ。
そう、声の主は、予想通りあのウマ娘ちゃん。
「ぎええええええええええええっっっ!!?」
「きゃあああああああああああっっっ!!?」
予想がついていても、まさかまさか過ぎる超VIPなウマ娘ちゃんが隣に座るなんて、誰が想像出来るでしょうか。
だって、あのライスシャワーさんがすぐ近くにいるのですよ?こんなの耐えられる訳が無い無理無理無理。
「すすすすすすすみませんすみません突然大声出してすみませんすぐここから消えるんでどうかお許しください!」
「え、ええ!?な、なんで?ライス、何か悪い事した・・・?」
「とととんでもない!あたしがライスさんのお食事という楽しみを台無しにしてしまったのであたしが悪いんです!ライスさんはなぁんにも悪くありません!従って、あたしは今すぐ退散致しますので空いた席はブルボンさん辺りに譲ってあげて下さい!」
「ま、待って待って。一旦落ち着こう、ね?」
「ら、ライスさんを前にして落ち着ける訳が・・・。」
「・・・うう、やっぱり、ライスが悪いんだ・・・。」
「あー、なんだか急に気分が安らかにー!これはスゴイ、まるで翼が生えそうです!どこまでも飛んで行けそうだー!」
「・・・?」
泣きそうになったライスさんを見て慌ててフォローを入れた。あんまり自分を下げると、帰ってライスさんには誤解を与えそうです。気をつけねば。
「さささ、気を取り直してあたしなんか気にせずに、昼食をお召し上がり下さいませ。」
「う、うん?」
ライスさんが大量に持ってきたパンを小さな口で頬張り始めたのを確認し、あたしは再び京都レース場の研究に勤しむ事にしました。
京都レース場の情報は全てノートに纏め、過去のマイルCSのレースも何度も見た。しかし、イマイチ実感湧かない。やはりここは、京都レース場のプロフェッショナルに聞いてみた方が・・・。
・・・うん?よくよく考えたら、隣にいる人ってもしや、その京都レース場のプロフェッショナルでは?
「あの、ライスさん。実はお願いが・・・。」
「もご・・・。ひゃ、ひゃあひ?」
ライスさんを見るだけならもう大丈夫、心配は要らないと隣に声をかけたら、なんと、美味しそうにパンを咥えたままのライスさんがくるりと顔を向けてきたではないか。
その時、全身の血流が一気に遠心分離機かの如く速く駆け巡る感覚を覚え、ついでに鼻から紅い液体が下垂れてきた。
「だ、大丈夫!?は、鼻血が・・・!」
「大丈夫・・・れす・・・。」
ダメだ。このウマ娘ちゃん、何をするにしても破壊力が高過ぎる。もうやめて!デジたんのHPはもうゼロよ・・・!
しかし幸いな事に致命傷で済んだので、残りの僅かな力を使って、ライスさんに声をかけた。
「ら、ライスさん・・・。あたしに、京都レース場を走るコツを、教えて欲しい、のです。」
「え・・・?京都レース場?な、なんで?」
「あたし、近々マイルCS出走が控えていまして。コースの研究はかなり行ったつもりなのですが、どうにも一人の力では限界があるのでライスさんに助力を願おうかと・・・。」
「べ、別に良いけど、力になれるかは分からないよ?マイルはライスよく分からないし、不幸に巻き込んじゃうかもしれないから・・・。」
「構いません!どうしても、今回だけは勝ちたいんです!」
あたしは、そもそも何故マイルCS出走に至ったかの訳を話した。デビュー当初から微妙な成績で芝と砂を転々としてきた事、URAから年内にGⅠを勝たなければ専属契約解消の脅しが来てる事、それでもトレーナーさんがめげずにあたしの為に尽くしてくれた事、そんなトレーナーさんにGⅠ勝利をプレゼントすると約束した事・・・。とにかく洗い浚い全部話した。
「だからどうか、至らないあたしに教えを授けて下さい!お願いしまっす!」
「う、うん、分かった・・・。どこまで力になれるか分からないけど、出来る限り、精一杯サポートするよ・・・!」
「ほ、本当ですか!有難い、有難過ぎるぅ〜・・・!」
「・・・ふふ、宜しくね。・・・ええと・・・。」
「おっと、これは失敬。あたしはアグネスデジタルと言いますっ。こちらこそ、宜しくお願いします!」
こうして、強力な助っ人をあたしは獲得する事が出来たのでした。タキオンさんにライスさん、そしてターボさんやイクノさん、ネイチャさんにタンホイザさん。様々なウマ娘ちゃんから協力に仰げる今のあたしに死角は無し・・・!・・・アレ、何だかいつの間にかだいぶ解釈違いな方向へ行っているような・・・。
ええい、今はそんな事言っている場合では無いのですっ。勝つ、必ず!そう意気込んでいると、ライスさんが両手を前に構えたかと思えば、華奢な右腕を天に向かって優しく突き上げた。
「よ〜し、頑張るぞ〜。お〜っ!」
またもや、全身の血流が一気に遠心分離機かの如く速く駆け巡る感覚を覚え、ついでに鼻から紅い液体が滴り落ち、微かに残っていたHPはマイナスの世界へ行き、雷に打たれたような衝撃を受け意識が吹き飛んだ。
「きゃあああっ!!?で、デジタルちゃんっ!!?」
油断していた。彼女の行動には気を付けるべきであったのに、新たな助っ人が出来た事に浮かれていた。だが、悔いは無い。
ライスさんの激励が見られただけでもうね、アレですよ。尊すぎて語彙力無くす。可愛い。この一言で十分。全てを表している。ああ尊い。我が生涯に一片の悔い無し・・・。
その後、意識が戻った時にはいつものように保健室にいた訳ですが、眼前には涙を浮かべながら何故か謝ってくるライスさんがいた。
これには流石に、非常に申し訳無くなったので、いつかは尊み大爆発にも耐えうるスタミナを身に付けなければと教訓を心に刻みつつ、何度も何度も謝るライスさんを止め逆にあたしが何度も何度も謝り、それをライスさんが止め何度も何度も謝るという事を延々と繰り返したのでした。
「良し、今日のトレーニングはここまでにするか。」
「はいっ、有難うございました!」
「マイルCSも近い事だし、これに向けてなるべく万全の状態で望みたい。何か、体調に違和感とか感じたりしないか?」
「う〜ん・・・。取り敢えず、今日もウマ娘ちゃんが尊くて眼福でしたっ!」
「うん、元気そうで何より。じゃあ、気をつけて帰るんだぞ。」
「はいっ!トレーナーさんこそお気をつけて!」
ここ最近、トレーナーさんはあたしに気を使い過ぎているのか少々お疲れ気味のように見える。
なるべく心配させてはいけない。出来るだけ、トレーナーさんには元気でいて欲しい。
・・・だからこそ、今度のマイルCSは負けられない。
トレーナーさんを見送り姿が見えなくなった後、もう一周ターフを駆けようとした時でした。
「・・・お久しぶりね、デジタルさん。」
テレビ、ラジオ、スマホと言ったあらゆるメディアを使って記憶に刻んだ、聞き覚えのある声。もしや、彼女はあたしを呼んでいる?
「・・・あのう、キングさん。あたしを呼びました?」
「・・・貴女以外にこの場にデジタルさんがいらして?」
辺りを見渡せば、トレーニングを終えたウマ娘ちゃん達は既に寮に戻った後。まだ残っている者達は皆、レースを間近に控えている娘達ばかりだ。キングさんもマイルCSに出走するからその一人なのである。
「は、はい、確かに。そそ、それでキングさん。あたしに何か御用でしょうか・・・?」
「そんなに畏まらなくて良いわよ。一度は一緒に練習した仲でしょう?」
「そそそんな!キングさんのような方に尊敬を抱かずして接するなど到底無理な話です!」
「それは嬉しいのだけれど・・・、まぁいいわ。私とお喋りする権利をあげる。少し付き合って貰うわよ。」
込み上げてくる興奮を必死に抑えつつ、キングさんに連れられて近くの柔らかな木漏れ日差し込む木々の下に来た。
「さて、長話はお互いにとって損だし、単刀直入に言うわ。
・・・デジタルさん。貴女、中々やってくれる人ね・・・。」
キングさんはマイルCSの展望について書かれた数枚の新聞記事を差し出してきた。どれも発行した新聞社は違うものの、どれもこれも「正気か。アグネスデジタル、またもや芝へ」、「芝未勝利。アグネスデジタルマイルCSに謎参戦」、「前走砂のアグネスデジタル、マイルCSへ。春は芝惨敗」等々、驚きはあるものの自分への期待が一切感じられない記事ばかりだった。
中には、あたしが意味不明なローテーションを繰り返すのは無能な担当トレーナーのせいだと書かれた記事もあり、周りの評価は気にしないあたしだけれども、このような書き方には流石に眉を狭めた。
「新聞社だけじゃなくてネット記事もあるし・・・、取り敢えずこんな感じで世間は大騒ぎよ。
私は別に構わないと思っているけれど、一つ確認したいのは、マイルCSに参戦するっていうのはデジタルさんの意思なの?」
今まではトレーナーさんにおんぶに抱っこだったけれど、今回ばかりは違う。
「はい、あたしのマイルCSに出たいという思いをトレーナーさんが汲み取ってくれて、このレースに参加する事になりました。」
「そう・・・。その言葉を聞けて安心したわ。このキングの後輩だもの、半端な真似は許されないわよっ!お〜っほっほっほ!」
キングさんの高笑いが赤に染まった秋の空に響く。
「そう、あたしはキングさんから大切な事を教えて貰った後輩の一人です。キングさんから学んだ事を、恩返しの意味も込めて、成長したあたしの姿をマイルCSで見せられればと思う所存です・・・!」
「へぇ、言うじゃない。・・・その姿、スカイさんやグラスさんにも見せてあげなさい。きっと、喜ぶわよ。」
先程までの余裕あるいつものキングさんと打って変わって、スカイさんとグラスさんの名前を出した途端、彼女は笑顔の反面、どこか寂しそうに見えた。
「・・・何かお悩み事でもあるのですか?」
「・・・何でもないわ・・・。いえ、ここは思い切って貴方に相談するのも有りかもね。
ここの所最近、グラスさんとスカイさんの調子がおかしくてね。グラスさんは特に、トゥインクルシリーズを引退してからと言うもの、ドリームトロフィーリーグに歩を進める事も無くうじうじ足踏みしているような状況なのよ。ドリームトロフィーリーグに移籍しないという事は、実質競争ウマ娘自体をも引退する事を意味する。
彼女の性格からして、こんな所で止まるハズは無いし本人も不本意のハズなのだけれど・・・。」
「・・・スペシャルウィークさんとかが説得しに行くのは・・・。」
「私達もそれが良いと思って既に試したわ。でも糠に釘っていう感じで。」
キングさんはお手上げ気味と言った様子で両手を広げた後、頬に手をやりその場をぐるりと一周したが、すぐに何かを思いついたようでこちらに凛々しい目を真っ直ぐ向けた。
「・・・そうだわ、デジタルさん。貴女の目が覚めるような走りで、グラスさんとスカイさんの度肝を抜いてやりなさい。」
「・・・へ?」
「グラスさんもスカイさんも、貴女に教えを説いた一人でしょう?なら、彼女達にも『恩返し』しないとね。
勿論、私も負けるつもりはないわ。全力でレースを勝ち行く。
・・・いい?貴女は、貴女達は、私達に代わって世代を背負って競争ウマ娘の界隈を盛り上げていく責任があるの。
他人の評価?血統?常識?知らないわ。そんな下らないもの、全部全部ひっくり返して、ぶち壊しちゃいなさい。
このキングの後輩だもの、出来ないなんて言わせないわよ?」
何だか予想だにしなかった展開になってますが、つまりキングさんは、あたしに激励という名のファンサをしてくれている・・・!?
「・・・あうう・・・。キングさんに応援をして頂けるなんて、至福の極みですぅ・・・。」
「だから、大袈裟なのよ。後別に敬語じゃなくていいわ。私にタメ口きいてもいい権利をあげる。」
「そんな権利、使えませんっ!あげないで下さい!畏れ多すぎるぅ!」
「・・・貴女、面倒臭いわね・・・。じゃあこのキングとの並走には付き合ってよね。」
「うええええ!!?きききキングさんと二人っきりで並走なんてそんな・・・。」
「ああもう!いいから並走しなさいっ!これは命令よ!」
キングさんに引っ張られ、その日は寮の門限ギリギリまで彼女のファンサを楽しみ・・・、じゃなくて、彼女とのトレーニングに励んだ。
マイルCSまであと僅か。その間に尊みという栄養を補給できたのはあたしにとって大きな追い風となった。
このレースの為に漫画の原稿を前倒しで出したり泣く泣く近日のウマ娘ちゃん関連のイベントを我慢したりしてきたのだ。後は、本番で全力を出し切るだけ。
日は既にとっぷりと暮れている。早く帰らないとフジキセキさんに怒られると考える傍ら、京都レース場のコースを走るイメージトレーニングを頭で何度も行いながら、寮までの道を辿ったのでした。
気づけばもうクリスマスイブ。皆様、如何お過ごしになる予定でしょうか。
私は特に何も予定ありません。