ウマ娘 ∼Antithesis hero∼   作:Carboxyl

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 突然なんですが、暑いのが苦手なので夏は嫌いなんですよね・・・。その分お祭り等の楽しい行事が沢山あったのでまだ我慢できていたものの、コロナが流行りだしてから夏はただただ蒸し暑くて不快な季節と化しました。なので外出なんてもうしたくもないんです。
 何が言いたいかって言うと、自粛生活極めました。
※元からインドア派なので引きこもり気味です。


第一章 異色のスイートピー
第1話 出会いは何時も突然に


 

「なぁ・・・。お前はどんなウマ娘を担当したいとか・・・、あるか?」

 「・・・どうした?急に。」

 

 事務室で二人、片っ端から書類を読んでは精査を繰り返していたところ、同僚のトレーナーが声を掛けてきた。

 オレはカップに注がれてからどれくらい経ったか分からない、もう元の温かさは微塵たりとも残っていないコーヒーを口に含んだ。

 

 「いや、一週間後には選抜レースが控えているだろ?」

 「・・・ああ、そうだったね。」

 「そうだったね・・・、ってお前。

 トレーナーは選抜レースに命掛けないと今後のキャリアが危ないだろ。もう少し危機感持てよ。」

 「・・・ああ、そうだな。」

 「・・・・・・・・・。」

 

 同僚のトレーナーはもどかしそうに頭を搔いた後、大きなため息をついて自分の作業の方へと意識を戻した。

 何時もは永遠にも感じるこの事務処理も、この時ばかりは本当に永久に続いて欲しいと思っていた。

 オレは、とある理由からずっと気持ちの整理が出来ないでいた。ただ我武者羅に、鬱憤を晴らすかのように事務処理をしていたのだった。

 

 「気持ちは分かるけどな。進むべき道を見誤ったらダメだ。

 オレ達はトレーナー。ウマ娘のコンディションを管理し、調整を重ね、然るべきレースで勝てるようにする。それが仕事だ。

 新たな契約ウマ娘が居なかったら話にならんだろう?」

 

 「・・・分かってる。でも、今は放っておいてくれ。少し、自分と向き合う時間が欲しいんだ・・・。」

 「・・・そうか。」

 

 再び、黙々と作業をする時間が訪れる。オレは手を止めて、物思いに耽っていた。

 ・・・オレは、全く実績の無いトレーナーだ。比較的ルーキーだから、と言えば幾らでも言い訳になるかもしれない。

 けれど、オレだって仕事へのプライドがある。難関の試験を潜り抜け、やっとの思いで掴んだ夢にまで描いた仕事だ。

 それなのに、オレは・・・。

 

 「ちょっと外の空気でも吸うか。」

 

 同僚トレーナーは徐ろに立ち上がり、煙草が入った小箱を手に取り、事務室の出口へと向かっていった。

 

 「・・・どうした?来ないのか?」

 「え?オレも行くの?」

 

 彼はオレの方へと振り返り、肩を竦めた。

 

 「何時間もぶっ続けで仕事をしていたんだ。たまには休憩を取らないと効率が落ちる。ついて来い。」

 「はあ、拒否権無しですか・・・。」

 

 オレは渋々と、満足気に歩く同僚トレーナーの後ろを付いて行った。

 正直、この重たい気持ちは外に出た所で晴れる気がしない。何日も引きずる可能性がある。

 無気力感を覚えながら、同僚トレーナーと共にオレは外に出た。

 

 「見ろよ、トウカイテイオーとメジロマックイーンが併せやってるぞ。」

 

 彼が指差した方向を見ると、練習だと言うのに本番のレースさながらに鎬を削り合っている二人がいた。

 

 「マックイーン!ボクが勝ったら、はちみーを一杯奢ってよね!」

 「構いませんわ。ただし、私が勝ったらテイオーは青汁を飲むという事で。」

 「エエエエエエ!!?ナンデェ!?そんなのヤダよーっ!」

 

 「最近のテイオーを見ていると、どうも甘い物ばかり食べていて、非常に羨ま・・・。コホン、栄養管理がなっていませんからね。

 なに、負けなければ良いだけの話でしてよ!」

 

 「ぜぇぇぇっっったいに負けないモーーーン!!!」

 

 片やダービーウマ娘、片や天皇賞ウマ娘。

 普段なら豪華だなと思う所を、オレには無縁の世界だなと思っている自分が嫌になる。

 

 「そこの人が少ないベンチにでも腰掛けるか。」

 

 二人から視線を反らし、同僚トレーナーを無理やり連れて木陰に佇むベンチへと近付き、腰を下ろした。

 

 「・・・はあああぁぁぁ・・・。」

 

 オレは体内から魂が抜けていくような、大きなため息を吐いた。

 その横で、同僚トレーナーは何を気にする様子も無く、煙草に火を点け一服し始める。

 オレは顔を地面が平行になるくらいに垂れて、担当していたウマ娘に何と声をかけたら良いかと考え始めた。

 しかし、自分が彼女の役に立てなかった罪悪感がすぐに襲ってきて、考えていた事が全て真っ白になり一から考え直すという事を何回も繰り返す羽目に。

 

 「ダメだ、今日はもう何もかもダメだ。」

 

 このまま消えてしまえたらどんなに幸せなことか。

 しかしトレーナーであるならば、最後まで責任は持たねばなるまい・・・。

 

 「・・・なあ、あの子、何やってるんだろうな?」

 

 オレは頭に重りが乗っているかのように重たい頭をゆっくりとゆっくりと上げ、同僚が指差す方向に視線を向けた。

 するとそこには、隠れているつもりなのか木陰に潜んで何かをじっと観察している桃髪のウマ娘がいた。

 ハーフツインが施された髪の間に、頭上にかなり大きめの赤いリボンを付けておりかなり目立つのだが、本人は全く気にしていない様子だった。

 彼女は双眼鏡を素早く取り出し、食い入るように何かを眺めては胸に手を当て満足そうに天を時々仰いでいた。

 

 「・・・・・・何あの子。」

 

 「さあ・・・。全く知らないし、まだデビューしていないウマ娘なんじゃないか?ちょっと調べてみるか。」

 

 同僚はスマホを取り出し、軽やかに指を動かし彼女が何者なのかを調べだした。

 

 「あの子の視線の先は・・・。ああ、テイオーとマックイーンか。

 ひょっとして憧れの先輩とか、そんな感じなのかな。」

 

 「・・・う〜む。だったら隠れる必要無くないか?堂々と二人の近くまで行くことも不可能じゃないだろうに。」

 「それも、そうか・・・。」

 「・・・お、情報出てきた出てきた。コレだ。」

 

 同僚はオレの眼の前にスマホを見せつけてきた。

 名前は「アグネスデジタル」。

 『入学希望理由が「ウマ娘が毎日沢山見られるから」と、他の生徒達とは違って何故か観客側の視点をずっと持っており、その後の質問でも一切己を語らず競争心の欠片も見せなかった。

 しかし一応試験の合格ラインには到達していた為に入学することを許可した』──と書いてある。

 

「競争心の欠片も無いって・・・。まぁ、中にはそんなウマ娘もいない事は無いが、どう考えてもキャリアの上積みは望めないな。」

 

 同僚はそう呟きながら、彼女のプロフィールを隅々まで見渡す。

 

 「でも、このトレセン学園に来たかったって事は、単にレースを見たいとかそういうのでは無いだろうし・・・。

 やっぱり、憧れの存在と走りたかったんじゃないか?」

 

 「・・・うむ、直接聞いてみれば良いんじゃないか?」

 「え?」

 

 同僚はスマホを仕舞うと、徐ろにポケットからタバコの箱を取り出した。

 どうやら、もう一本タバコを吸うようだ。

 

 「直接何をしているのか聞いた方が確実で早い。そうだろう?

 調べたところ、あの子はまだトレーナーも付いていない。これも思いがけない縁かも知れないし、話しかける価値はあるぞ。

 まあ、オレはご覧のように一服中だからさ。」

 

 そう言うと、彼はタバコに火を点けて口に咥えた。

 この人、絶対に面倒臭がってるしどうでも良いと思ってるだろう・・・。

 オレだって別に、あのウマ娘の好きにすれば良いと思っている。なので何も見なかった事にしようとした訳だが、その時。

 例のウマ娘がなんと、急に地面に突っ伏して動かなくなってしまったのだ。

 これにはオレもびっくりして思わず立ち上がり、彼女の元まで急いで駆けつけた。

 

 「お、おい大丈夫か!?しっかりしろ!」

 

 オレは彼女の頭を片手で持ち上げながら、優しく身体全体を揺らした。しかし反応無し。

 これはもしや一大事かと思い、医務室の先生方に連絡を取り、来てもらうことにした。

 

 「・・・息はあるな。外傷も無い。」

 

 ほっとため息を付き、彼女の頭を自身の膝に乗せる。男性がやるものではないかもしれないが、非常事態である上、良さげな枕になりそうな物が何も無いから仕方ないだろう。

 あと何分程で救助班が到着するだろうと思っていた時、突然、少女の目がぱちりと開いた。

 

 「お、気がついたか。早かったな。」

 「・・・うおあ!!?」

 

 少女は飛び起き、こちらに向かってぺこぺこと頭を下げてきた。

 

 「すすすスミマセンスミマセン!!!ご迷惑をおかけしましたぁぁぁ!」

 「いやいや、構わないよ。そりより、大丈夫か?どこか痛い所は無いか?」

 「え、ええ、特に無いですけど・・・。」

 「・・・なら、良かった。

 救援呼んじゃったからもう少ししたら何人か大人が駆けつけると思うが、まあ万が一を気にするなら頼っても良いかもしれない。」

 「あ、えと、そんなのじゃないので!全然大丈夫です!スミマセンでした!」

 

 相も変わらず、彼女は謝り続ける。丁寧にも頭を曲げずに腰から曲がっている為、まるで鹿威しのようだ。

 

 「そういえば、何故君は突然倒れたんだ?」

 

 見ている限り今の彼女は元気そのもので、貧血という線も考え辛い。一体何があったのだろうか。

 

 「え、いやあ、そのお・・・。」

 

 少女は目線を逸らし、人差し指同士を合わせてゴムのように伸び縮みさせた。

 

 「・・・いや、待てよ。

 ここは人もウマ娘ちゃんもいない、人っけの無いウマ娘ちゃんウォッチングにはうってつけのスポット・・・。そんな所にたまたま居合わせますかね、普通・・・。」

 「いやオレは、たまたま近くを通りかかっただけで・・・。」

 「考えられる可能性は唯一つ!

 そう、貴方もあたしと同じ志を抱く者!」

 「・・・・・・・・・え?」

 

 何やら盛大な勘違いをさせているようだ。早めに誤解を解かないと何だか大変な事に巻き込まれそうだ。

 

 「いやだからオレは、たまたま──。」

 

 「なーんだ。失礼ながら、こんな所に人が来るとは思っていませんでしたからちょっと警戒してしまいましたよー。

 ささっ、特等席はこちらですぞ。双眼鏡も予備があるので遠くの景色もばっちし!

 思う存分、ウマ娘ちゃんウォッチングを楽しみましょうぞ〜!」

 

 オレはあれやこれやと勧められるがままに茂みの中に座らされ、双眼鏡を手に取り覗き込んだ。

 その先では未だにテイオーとマックイーンの仲良しフィールドが展開されていた。

 

 「ぬふふふ・・・っ!はあああぁぁもおおお、何だってあんなに尊いのか、あの二人は・・・!

 可愛過ぎる、永遠に推せる・・・!」

 「・・・なあ、コレいつもやっているのか?」

 「勿論です!こんな永久保存モノの尊い瞬間を記憶に刻み込まないなんて有り得ませんよ!

 ウマ娘ちゃんのハッピーがあたしのハッピーであたしの生きる糧!栄養摂取、いや呼吸並に大事な事ですからね、無いと生きていけないです。」

 「そ、そんなにか・・・。」

 

 正直動揺し過ぎて彼女の言葉が一ミリも理解出来ていないが、これだけは分かる。

 

 (この娘、関わってはいけない系だったのでは?)

 

 その後、先程呼んだ救助班が到着し、大の大人が茂みに隠れて双眼鏡を覗き込む姿を彼らに目撃され、不審者扱いされたのは言うまでも無い・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほーん・・・。

 纏めると、トウカイテイオーとメジロマックイーンの絡みを見ていた時に思わず気が高ぶりすぎてしまったせいで意識が飛んだ、そう言うこと?」

 「へ、へえ、そうでやんす・・・。」

 

 同僚トレーナーの確認に対して、デジタルは照れ臭そうにへらへらと笑っていた。

 全く、人騒がせなウマ娘である。

 他のウマ娘からの情報によると、彼女はいつもこんな感じで急に高ぶってはぶっ倒れているらしい。その為最近は特に、どうせいつもの事だと、救助の手が差し伸べられていないのだとか・・・。

 

 「狼少年みたいな話だな。嘘は吐く気ないだろうからベクトルは違うけど。」

 「はえ?」

 「・・・いや、何でも無い。」

 

 オレは改めて、彼女の全身を頭から足元までをじっと見た。

 決して、いや、全くと言って良い程体格には良さが感じられない。小さい上に華奢で、何かの拍子ですぐに壊れてしまいそうだ。

 ウマ娘はほぼ見た目に左右される。見た目というのは美貌か否かではなく、アスリートの体をしているか、もしくはなれる可能性を秘めているかである。

 特に足は重要視され、バランスが取れていて見栄えの良い娘は、そのまま良いトレーナーが付きやすく、スタートダッシュがしやすくサポートも手厚い環境に身を置ける事が多い。

 さて、アグネスデジタルはどうかという話だが、まだルーキーの域を出ないオレのようなトレーナーでも分かる程、この娘は貧相だ。まるでレース場で走る彼女の姿が浮かんでこない。

 ・・・と、ここまで酷くこき下ろしたが、一つ気になる点があった。

 彼女は一見何の変哲も無いウマ娘だ。しかし、オレの生物の本能的なもの・・・。上手く言葉には出来ないが、心の底で込み上げてくる何かを感じた。

 コレが何を意味するのかは分からない。が、オレはこんな女児のようなウマ娘からそんな仰々しい覇気のようなものは放たれたりしないだろう、自分の勘違いか何かだと考えを振り払った。

 

 「まあ、あんまり迷惑をかけるなよ。」

 「お任せ下さい!私めは物音一つ立てず、樹木や低木に潜み擬態するのは得意なんです!」

 

 最後までどこかベクトルがズレてる彼女とオレ達はそこで別れ、その場から離れた。

 

 「・・・良かったのか?」

 「何が?」

 

 同僚は頭の後ろで腕を組み、特段興味無さそうに呟いた。

 

 「あの娘、誰とも契約してなかったんだろ。もしオファーを出したら快く契約に応じてくれてたんじゃないか?」

 「ああ、そう言う事ね・・・。

 逆に聞くけど、あの娘の魅力は何だと思う?」

 「・・・・・・・・・う〜〜〜ん・・・・・・・・・。」

 

 同僚は組んでいた腕を胸の前で組み直し、首を傾げて難しそうな顔をしながら考えに耽った。

 

 「そら、答えられないだろ。そういうことだぞ。」

 「いや、待て。素直で良い娘!どうだ?」

 「そんなのトレセン学園を歩いたらそこかしこに沢山いるぞ。」

 「・・・じゃあ・・・・・・・・・。」

 

 そこまで言って、彼の口は止まってしまった。

 まあ無理もない。余程のことがなければ彼女に率先してオファーを出すトレーナーなど居ないだろう。

 オレも正直、彼女の方から頼まれたなら考えなくもない程度の認識だった。

 

 「そもそも、彼女は自身のトレーナーを探す事に苦心してるって感じでもなかったしな。その時では無いんだろう。」

 「でもお前、そうこうしているうちに本当に担当ウマ娘ゼロ人になっちゃうぞ。

 ここは例えどんなウマ娘であろうと、今後の糧として採っておくべきではないか?」

 「・・・・・・・・・。」

 

 オレは彼の提案に対して何も答えなかった。

 自分がどうしたいのかは分からない。今はとにかく、時間が欲しかった。

 

 「・・・じゃあ、オレはここで。」

 「おう、またな。」

 

 同僚と別れた後、オレは自身のトレーナー室へと向かった。

 これから、恐らくあの部屋で待っているであろうオレの担当ウマ娘と今後の事について話し合うつもりだ。

 ・・・どんな顔をして会えばいいのだろう。

 ここ数日、ずっとそんな事を考えては彼女と会話にならない会話を重ねていて、時間の浪費を意識しながらも歩み寄れないでいた。

 自身のトレーナー室の前まで来ると、オレはそこで深く息を吸い込み、吐き出した。

 「いつも通り、いつも通りに」と自分に言い聞かせ、意を決して扉を開ける。

 

 「おつかれ・・・っ。・・・・・・・・・あれ?」

 

 トレーナー室は、もぬけの殻だった。普段ならこの時間に彼女はここに来ているはずなのだが、珍しい事もあるものだ。

 

 「・・・ちょっと前に暫く休んだ事があったし、テストの補習とかかな・・・。」

 

 オレは黒い革製の椅子に腰を下ろし、新聞を広げながら彼女が来るのを待つことにした。

 ──それから何時間経っただろうか。

 

 「・・・遅いな、幾ら何でも。」

 

 夕日は地平線の向こうへと沈み込み、カラスが煩く辺りを飛び回る。

 オレは流石に心配になってきて、読んでいた雑誌をデスクに置き、担当ウマ娘の彼女のクラスへと足を運ぶ事にした。

 

 「いえ、放課後になってからこの教室に戻ってきてはいませんねぇ・・・。」

 「・・・そうですか。お邪魔しました。」

 

 担当教師に彼女の所在を聞いたが手がかり無し。ならば、彼女のクラスメイトなら何か知っているだろうと外に出て歩き回った。

 

 「放課後からは見てないですよ?」

 「・・・・・・・・・分からない。」

 「見たよ〜な見てないよ〜な。」

 「飯食ってたから知らん。」

 

 残念ながら、手当たり次第に聞き回っても彼女の足取りを掴む事が出来なかった。

 こうなると、放課後真っ先に教室を出てトレセン学園の外に出た可能性を視野に入れるのが妥当だろう。

 寮に帰った・・・、のは考えづらい。彼女は何があっても約束を忘れるだとかすっぽかした事は一度も無かった。

 いよいよ心配になってきたオレは、もう一度彼女の友達などに何か情報が無いかと焦りながら聞き回ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたしはアグネスデジタル。何処にでも居る平凡なウマ娘。

 実は今日、近くの商店街のケーキ屋さんで不定期販売の個数限定超激レア商品である「エクリプスキャロットスペシャル」という人参やら苺やらクリームやら、とにかく食材を惜しむ事無くふんだんに使ったケーキが売られているという情報を耳にし、デジたんもこれは是非手にしなければと思い足を運んでいるのです!

 ぶっちゃけ、あたし的に商品自体にはそこまで魅力を感じないのですが、大事なのはこういう商品について回る付加価値!

 このケーキを食べたウマ娘はパワーが漲りレースで常勝必勝間違い無し、恋も勉強も全て解決という、ソースの出処が全く分からない噂があるのですが、甘い物に目が無く、日々競争に明け暮れるウマ娘ちゃんにとっては例え所詮噂であろうと喉から手が出るほど欲しいシロモノとなっているのです。

 で、このケーキを買い求めたウマ娘ちゃんを調べるとまあ出てくるわ出てくるわ、レジェンド級のウマ娘ちゃんの名や逸話が連々と・・・。

 そこであたしはこのケーキを買って、かつてこのケーキを食べたウマ娘ちゃん達の思いやそこで展開されたシチュエーションを妄想しながら頂こうと考えた訳です。

 じゅるり・・・、考えただけでもヨダレがとまら〜〜〜ん!!!

 しかし問題がありまして、そのケーキは混雑を避ける為に広告が打たれる等はしないのですが、それでも激レアプレミアモンとなれば人が集まるのは世の摂理。

 販売開始からすぐに無くなることもザラでは無いので、放課後からスタートしたデジたんは出遅れ確定でして、もう残っているか分からないんですよね・・・。

 それでも一筋の希望を信じて、藁にも縋る思いであたしはケーキ屋さんへと向かうのでした。

 

 「ゴメンねぇ、売り切れだよぉ。さっきまではあったんだけど、もう少し早かったらねぇ。」

 「あが・・・・・・・・・、無念南無三・・・。

 デジたんの人生終了なり。我が生涯に一片の悔い無し・・・。」

 

 あたしは膝から崩れ落ち、地面に手をつき頭を垂れた。

 

 「大袈裟ねぇ、今日でもう売らないって訳じゃないし、またの機会に買いに来なさいな。」

 「・・・・・・・・・うゆ。」

 

 案の定お目当ての物は買えませんでしたが、買えなかったからってこのまま何も買わずに退散するのもお店の人に悪いと思い、あたしは立ち上がって商品棚を舐めるように見渡した。

 

 「ええと、この苺のショートケーキと、チョコレートケーキ下さい。」

 「はいよ、四百円ね。」

 

 一人で二つ食べる気かって?ふっふっふ、まさかそんな事あろう筈がございません。

 まあウマ娘の食欲を考えたら疑われるのも無理は無いのですが、あたしは寮の同室ペアであるアグネスタキオンさんの分を購入したのです。

 彼女は大の、虫歯が心配になるくらいの甘い物好きで、差し入れで持っていけば喜ぶこと間違いなしでしょう。

 で、もう一つは自分の分かというとそれは微妙な所でして、というのもタキオンさんと一緒にいる事が多いマンハッタンカフェさん。この方にもあわよくば差し上げたいと思っていてですね。

 彼女の場合は大のコーヒー好きで、コーヒーのお供にケーキは定番なので喜ぶかなと。

 ついでにタキオンさんとカフェさんがティータイムをしていただけると大変こちらが美味しい思いをする事が出来るという算段なんですねぇえへへへへ・・・。

 いや、ちょっと待てよ。タキオンさんと一緒にいるのは何もカフェさんだけじゃない。ジャングルポケットさんやダンツフレームさん等もいることがあるではないですか。

 ・・・となると、もっと沢山買えば良かったでしょうか?いやでも、そんなに沢山買ってもし誰にも渡せずに一人悲しく頂く事になったら・・・?

 等と色々考え悶々としていたところ、近くを通りかかった主婦さんと思われる方達から、何やら気になる会話が聞こえてきた。

 

 「さっきのウマ娘、大丈夫かしら・・・?明らかに不良みたいな見た目の子達に囲まれて河川敷に連れてかれていたけれど・・・。」

 「けれど、声をかけたら『知り合いだから大丈夫』って言ってたしねぇ・・・。」

 「ここら辺は人が多いし、万が一何かあっても誰かの目には留まるだろうし、大丈夫だと思うわ。」

 「だと良いけれど・・・。」

 

 ・・・むむ、何やら嫌な予感がしますね・・・。

 確かにこの辺りは人が多いですけれども、川の方となると話が変わってきて、河川敷の橋頭堡下なんかは目線が届きにくく不良の溜まり場になっている所もあります。

 あたしはケーキ屋を後にすると、河川敷へと足早に向かった。

 何かあったら一大事ですし、ちょこっとばかし様子を見るだけでも行きましょう。何もなければそれで良し。

 トレセン学園の近くの河川敷は、よくウマ娘が来るということで小さいながらもトラックが用意されており、また気分転換にも人気のスポットとなっている。

 つまりそういう人が集まる所に不良はいない訳で、それだけでもだいぶ絞り込めます。恐らく、上流に向かって歩いていけば見つかるのでは無いでしょうか?

 河川敷に着いたあたしは計画の通り、上流に沿って橋頭堡の下や草むらなどに注意しながら進んだ。

 ・・・と、やはりそうこうしているうちに早速見つけました。川のやや中腹ぐらいの橋頭堡の陰で、七、八人くらいのガラの悪いウマ娘ちゃんが黒髪のウマ娘ちゃんを取り囲んでいた。

 

 「・・・出来れば争いは避けたいですが、止むを得ない場合は・・・。」

 

 近くの茂みに隠れ、様子を伺いながらスマホを取り出し、直ぐに警察に相談出来るように番号を打とうとしたその刹那。怒声が響き渡り、黒髪のウマ娘ちゃんは不良のウマ娘ちゃんに突き倒されたではないですか。

 

 「だから、何度も言わせるんじゃねえ!それはあーしらのもんだ!」

 「・・・こ、こっちだって何度も言わせて頂きますが、先に並んで買ったんですから当然私がこのケーキを所持する権利があるハズです!」

 「・・・ッ、テメェ・・・!」

 

 不良ウマ娘ちゃんは拳を振るい、今にも黒髪ウマ娘ちゃんに飛びかからんとしていた。

 

 「危ない・・・・・・っ!」

 

 あたしは口より先に体が動いていた。でも、ただの全速力じゃとても間に合いそうに無い。

 一か八かで、拳の軌道の先へと、勢い良く飛び込んだ。

 

 「ゴンッ!!!」

 

 という鈍い音と共に、あたしの視界は一瞬で白黒になり、頭に猛烈な激痛が走る。

 

 「ごふっ・・・。」

 

 とてもじゃないですが立っていられない。あたしは飛び込んだ勢いのまま地面に転がり込み、ぶっ倒れた。

 

 「な、なんだコイツ・・・!?どっから出てきやがったあ!!?」

 

 もう、動けませんが、黒髪ウマ娘ちゃんのことはなんとか守れたみたいで良かったです・・・。安心して逝ける・・・。

 

 「いやいやいやいや、死んじゃダメだよ!?」

 「・・・はっ、お祖母ちゃんが川の向こうで呼んでた・・・。」

 

 黒髪ウマ娘ちゃんがあたしの体をゆっさゆっさと揺さぶったことで、飛んで生きかけた魂が元の場所へと戻ってきた。

 とは言え頭痛は全く和らぐ気配が無く、今すぐ病院に行きたいくらいすっごく痛いです・・・。

 

 「何処の誰だか知らねえが、今すぐ立ち去れ。私らはそこの薄汚ねえウマ娘にしか用はねえんだ。」

 

 あまりの痛みに頭を抱えていると、不良ウマ娘ちゃんグループのリーダー格と思われるウマ娘ちゃんがあたしの眼の前に立ち、ギロリと鋭い目線で睨みつけてきた。

 

 「・・・な、何があったのかは分かりませんけど、喧嘩は良くないですよぉ・・・。」

 

 しかし、不良ウマ娘ちゃんの怒りは収まらない。やいやいと野次が飛ぶ中で、あたしはリーダー格の不良ウマ娘ちゃんに胸ぐらを掴まれた。

 

 「いいか?今すぐここから立ち去れ。これは命令だ。分かったらとっとと失せろ。」

 

 そう言うと、彼女はあたしを雑に地面に投げ捨てた。もうこれはどうにもならないと思い、この場から離れて大人の力を借りようとした時だった。

 黒髪ウマ娘ちゃんがあたしの元へと駆け寄り、顔を覗き込んできた。

 彼女の吸い込まれそうな程、深く綺麗な黒色の瞳に、今にもぶっ倒れそうなあたしの姿が映る。ああコレは不味いなと今更ながら痛感した。

 

 「ちょっと、あなた大丈夫!?私の事は良いから、早くここから逃げて手当してもらって!」

 「す、すみません・・・。助けに来たつもりだったのに、何だか足を引っ張るような事になってしまって・・・。」

 「そんな事良いから!」

 

 彼女はあたしの手を取り、半ば強引に立ち上がらせようとした。

 その優しさに有難く思いながらあやかり、あたし自身も立ち上がろうとしましたが、情けない事に視界がふらついて中々思うように体が動かない。

 グダグダしている内に不良ウマ娘ちゃん達のイライラが募っていくのが分かる。無駄に刺激しないように、迅速にここから離れなければ──。

 

 「もういいわ。私達で場所を移せば同じようなもんだ。お前はそのまま寝てろ。」

 

 リーダー格のウマ娘ちゃんはあたしが取っていた黒髪ウマ娘ちゃんの手を強引に引っ張り、何処かへとズンズン突き進んで去っていく。

 

 「・・・ケ、喧嘩はダメですよ・・・っ!」

 「うるせえ。オメーには関係無い事だ。」

 

 満身創痍の体に鞭打って、大きな声でこれ以上の事態に発展するのを制止しようとしましたが、彼女らは聞く耳を持たない。

 仕方無いのでここは大人の力を借りて・・・、と思いポケットからスマホを取り出そうとした。

 

 「・・・あれ!?スマホが無い・・・!?」 

 

 辺りを見回すと、近くにバキバキに割れている見るも無残なソレが落ちていた。

 

 「そ、そんなぁ・・・。」

 

 あの中にはまだパソコンにデータを移していないウマ娘ちゃんのあの写真やこの写真が一杯入っていたのに!それに形あるものはいつか壊れるとはいえ、このような失くなり方だと購入者である父親になんと言えば・・・。

 なんてそんな事を考えている場合ではない。誰かが傷付く前に、一刻も早く誰か応援を呼ばなければ・・・!

 

 「お、おい君、大丈夫か!?」

 

 重たい体を自力で起こそうとしている所に、何やら聞き覚えのある声がした。

 声の方を振り返ると、そこには昼間にあたしが尊死した時にお世話になったトレーナーさんがいるでは無いですか。

 

 「あ、あたしは大丈夫です!けど、先程までここに不良ウマ娘ちゃんのグループとトレセン学園の制服を着た黒髪ウマ娘ちゃんがいまして・・・!」

 「黒髪ウマ娘?

 まさか、黒目で黒髪ロングで左耳辺りに白い小さな花の髪飾りをしてて、おっとりそうな見た目の子か?」

 「そ、そうですその子です!よくお分かりで・・・。」

 

 まさかこれから言わんとしていたあのウマ娘ちゃんの特徴を全部的中させるとは。このトレーナーさんはやはり、只者ではありません・・・。

 と思っていたら、彼から衝撃の真実を打ち明けられた。

 

 「・・・実は、その子はオレの担当ウマ娘でな・・・。」

 「え、えええええ!!?そ、それは大変です!一刻も早くお助けしなければ!

 不肖アグネスデジタル、協力は惜しみませんぞ!」

 「・・・え。あ、有難う・・・。」

 

 すぐに取り繕って良い笑顔をみせたものの、彼が一瞬、目をまん丸にしたのをあたしは見逃さなかった。

 ・・・なんだか凄く失礼な事を考えたような気がしますが、こうしている間にも事態はどんどん悪い方向へと動いているかもしれません。

 あたしはどう思われたって良い。今は彼女の為に行動しなければ!

 

 「じゃあ、あたしに付いてきて下さい!不良ウマ娘ちゃん達が去っていった方向に案内するので!」

 「ちょ、ちょっと待て!不良ウマ娘!?

 なんだってそんな危なそうな子達に絡まれてるんだ!?」

 「あたしも事情は詳しく知りませんが、このままでは危険です!さあ、早く!」

 「で、でもお前、傷だらけじゃないか。そんな体で大丈夫か?」

 「大丈夫です!いざとなれば、あたしには秘技があるんで!」

 「ひ、秘技・・・?いや、今は気にしなきでおくか。

 よし、行こう!」

 

 あたし達は彼女がいるであろう方向へと急いで向かった。まだ何事も起きていないよう、無事を祈りつつ。

 正直体が悲鳴を上げている気がしますが、もう少しだけ、もう少しだけ頑張って下さいあたし!

 

 「・・・あっ、アレですね!追いつきました!」

 

 どれだけ遠くに行けば追いつけるかと思っていましたが、不良ウマ娘ちゃん達と黒髪ウマ娘ちゃんは案外近くの人影が無い場所へと移動していただけでした。

 

 「お、おい親分!また来ましたぜアイツ!しかも今度は知らねー男も一緒ですぜ!」

 

 取り巻きのウマ娘ちゃんがこちらに気付き、報告を受けたリーダー格のウマ娘ちゃんはこちらを見て舌打ちをした。

 

 「と、トレーナーさん!?どうしてここに・・・。」

 

 黒髪ウマ娘ちゃんの一言に、不良ウマ娘ちゃん達にざわつきが起きる。トレセン学園のトレーナーを相手にしてしまうと、後で面倒極まりない事態になるであろうことはこの場にいる誰もが予測しているようでした。

 

 「どうしてって、お前がいつまで経ってもトレーナー室に来ないから心配して探しに来たんだぞ。」

 「そ、その節はどうもスミマセン・・・。」

 

 黒髪ウマ娘ちゃんはリーダー格の不良ウマ娘ちゃんに胸ぐらを掴まれながらペコペコと頭を下げた。

 

 「・・・何があったのかは知らないが、君たち、その子を放してくれないか。ウチの大事な担当ウマ娘なんだ。」

 

 不良ウマ娘ちゃん達の間でまたざわめきが起こる。どうするべきか検討し合っているようでしたが、リーダー格のウマ娘ちゃんはそんなことお構い無しの様子でこう言った。

 

 「嫌だと言ったら?」

 「君たちに然るべき対応を取ることになる。」

 

 トレーナーさんは相手の圧に負けず、冷静に返した。このヒト、昼に見た時はちょっと頼り無い感じ出てましたけど、意外とそうでもないのかもしれません。

 

 「・・・そうか、そうか。」

 

 リーダー格のウマ娘ちゃんは黒髪ウマ娘ちゃんから手を離した。納得して大人しく引いてくれるのかなと思ったのも束の間。

 

 「ほんなら、その口を縫い合わせたら万事解決だよなぁ!?」

 

 彼女は目にも止まらぬ勢いでトレーナーさんに殴りかかった。

 

 「ま、待ってください!」

 

 あたしは反射的に彼の前に両手を広げて彼女の進路を塞いだ。最悪、拳が顔面にクリーンヒットすることも覚悟しましたが、運良くそれは眼前でビタリと止まった。

 風圧があたしの前髪をまくりあげ、吹き抜けていく。こんなの直撃したら、どうなることか・・・。肝が冷える。

 

 「さっきからなんなんだテメェは!?殴られたいっつー意思表示か!?邪魔ばっかしやがって!!!」

 

 彼女は耳を絞り、カンカンに怒っていた。これはもう、話し合いではどうにもならないと察したあたしは、奥の手を出すことにした。

 

 「・・・仕方無いですね・・・。コレだけは使いたくなかったのですが・・・。」

 「な、何・・・!?」

 

 あたしが首から提げていたバッグに手を入れると、リーダー格のウマ娘ちゃんは身構え、じりじりと後退した。

 

 「コレを使ってマトモに立っていられた者はいませんよ・・・、覚悟してください。」

 

 トレーナーさんも黒髪ウマ娘ちゃんも、不良ウマ娘ちゃん達も、これから何が始まるのかと固唾を飲んで見守っている。

 

 「くらえ・・・っ、秘技・・・・・・っ!」

 「う、おおおおおおおおお!!!」

 

 あたしは満を持して、バッグから目当ての物を取り出し、それに反応してリーダー格のウマ娘ちゃんは眼前で腕を組み頭を守る姿勢を取った。

 流石、こういう事に慣れているようですがこの技はそんなことで止まるようなチンケなモノではありませんよ・・・!

 

 

 

 

 

 「どうかコレで、手を打ちませんか!!?」

 

 

 

 

 

 あたしは白い紙パックに入った、先程買ったケーキをリーダー格のウマ娘ちゃんの前に頭を下げて差し出した。

 ────少しの間、沈黙の時が流れた。時間で言えば僅かだったとは思うのですが、体感では何時間も経ったような・・・。凍りついたように、皆動かなくなってしまった。

 

 「・・・え、何?秘技って、それ?」

 「ええ。プレゼントでどうにか機嫌を直せないかなと・・・。」

 

 あたし以外のその場にいる者皆がズッコケた。

 うん、気持ちは分かりますよ。でも、あたしがウマ娘ちゃんに殴る蹴るとかそんな危害を加えるようなマネ、出来る訳が無いじゃないですか。

 恥とか名誉とかどうでも良い。あたしはウマ娘ちゃんの為なら、幾らでも白旗を挙げますよ!ケーキも賄賂も何だって送ります!いや、賄賂は良くないか。

 

 「ちっ、呆れた・・・。白けたしもう帰るわ・・・。今日の所は大人しく引いてやるよ。おいお前ら、ずらかるぞ。」

 「へ、へい・・・!」

 

 どうやら効果はあったみたいで、奇跡的に不良ウマ娘ちゃんグループは引き上げていってくれた。何事も、やってみるものですね・・・。

 あたしは緊張の紐が切れたようで、人形のようにその場にヘナヘナと座り込んだ。

 

 「だぁはあああぁぁぁ・・・・・・。生きた心地しなかったぁぁぁ・・・。」

 

 疲れがどっと押し寄せ、これまで無理して体を動かしたツケが一気に来た。あかん、もうダメぽ・・・。

 

 「・・・す、すごい。あなた、すごいよっ!」

 

 駆け寄ってきた黒髪ウマ娘ちゃんがあたしの手を取り、興奮気味にピョンピョンと飛び跳ねる。

 ・・・おお、すごい・・・。あなたのその可愛い仕草が見れたお陰で、疲れもストレスも痛みも、何もかもが嘘のようにスゥッと消えていく気がします・・・。ウマ娘ちゃんの尊さは万病に効く・・・。

 

 「助けてくれて有難う!あなた、お名前は何て言うの?」

 「え、あ、アグネスデジタル、です・・・。」

 「アグネスデジタル、デジタル・・・、デジちゃん!デジちゃんだね!

 改めて、助けてくれて本当に有難う!」

 

 「い、いえ、あたしは頭を下げ続けただけで特に何も・・・。そんな感謝されるような事は・・・。」

 「いや、お手柄だよ。下手したらこの子がどんな目に遭っていたか分からない。有難う。」

 

 あたしが全力で首を横に振っていると、トレーナーさんも黒髪ウマ娘ちゃんの援護射撃に加わってきて、二人してあたしに感謝の言葉を並べ立てる。

 

 「うう・・・。そ、それより、なんでこんな事になってしまったのですか?」

 

 恥ずかしさに耐えきれず、あたしは即効的かつ確実に話題が変わるであろうと、今回の事件の成り行き話を黒髪ウマ娘ちゃんに聞いた。

 

 「えっと・・・。

 二人は、『エクリプスキャロットスペシャル』って名前のケーキを知ってる?」

 

 ああ、今日丁度買い損ねたケーキじゃないですか。それが、どうしかしたのでしょうか。

 

 「商店街のケーキ屋で不定期販売の個数限定激レアケーキだろ。何か食べたら頭上で一番星が輝きだしてミラクルパワーが漲ってくるとかそんな噂を聞いたような。」

 

 どうやらトレーナーさんもご存知の様子。

 ・・・というか、あのケーキってもしかしてあまりにも激レア過ぎて噂のレパートリーが幾つもある感じなんですかね・・・。少なくともトレーナーさんが言っていた噂は初めて知りました。

 

 「そうそう。そのケーキが今日販売するらしいという噂を聞きつけて放課後に一目散でケーキ屋に行ったんだ。」

 

 そう言うと、黒髪ウマ娘ちゃんは遠くのベンチに置かれていた丁寧に梱包されている紙パックを指差した。

 

 「運が良かったよ。私で最後の一個だったんだ、例のケーキ。」

 「へえ、良かったじゃないか。・・・で、それがどうしたら不良ウマ娘に絡まれる事態になるんだ?」

 「トレーナーさんさ、このケーキがありとあらゆるウマ娘から狙われているすっごいモノだって知ってる?」

 「・・・まあ、何か聞いたことはあるような・・・。」

 「ケーキ屋からの帰り道にさ、突然後ろから声かけられてね。振り向いたら彼女達だったんだよ。

 で、そのケーキは本来私達が買うハズだったものだ、お前が横入りしたから買えなかったとか難癖付けられてさ・・・。

 あれよあれよとここまで連れて来られたって訳。

 本当は譲りたく無いけど、先客だったなら大人しく諦めるし本当に私が横入りしていたなら声かけたら良かったのにねぇ。」

 

 黒髪ウマ娘ちゃんはやれやれと肩を竦めた。

 プレミアモノの争奪戦は本当に熾烈ですからね・・・。数多のウマ娘ちゃんを追っかけ、様々なグッズを買い漁る身としては、確かにこのような事態が起きてもおかしくはないと思う。

 

 「ああそうだ、自己紹介が遅れちゃったね。

 私は『ルーチェデリカータ』。ルーちゃんとでも呼んでよ。」

 

 黒髪ウマ娘ちゃんは直視するには眩し過ぎる程、女神のような優しい笑顔を浮かべながら右手を差し出してきた。

 

 「これからは同じトレーナーさんを持つ者同士、競争相手として、良き仲間として、宜しくね!」

 「いやぁ、競争相手だなんて恐れ多いえへへへへ・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」

 「うん?」

 「へ?」

 

 同じトレーナーさんを持つ者同士?って言いましたか彼女。聞き間違いですかね?いや、聞き間違いでしょう。

 

 「スミマセン、もう一回言ってもらって良いですか?」

 

 「え、うん。

 同じトレーナーさんを持つ者同士、競争相手として良き仲間として──。」

 「・・・へ?」

 「え?ちょ、私何かおかしな事言ってる?」

 

 あたしに担当トレーナーは居ないんですけど・・・、と言おうとしたその時、トレーナーさんが何かに気づいた様子でルーチェさんの頭にぽんと手を置いた。

 

 「すまん、連れてきてたから勘違いさせちゃったな。

 実はこの子、さっきたまたま出会っただけのウマ娘で、担当ウマ娘では無いんだ。そもそも、この子に担当トレーナーはまだ居ない。」

 「・・・・・・・・・あっ。」

 

 ルーチェさんは勘違いに気付き、顔を赤らめてあたしに謝ってきた。

 

 「ごごごめんなさいごめんなさい!私の早とちりでした!」

 「いやいやいやいや!そんなに謝らないで下さい寧ろこちらこそ紛らわしくてスミマセンスミマセン!!!」

 

 あっちが謝ればこっちも謝る、突然開催されたウマ娘謝罪ステークス。例えどれだけ長い距離になろうと、あたしは彼女が謝るのを止めるまでこちらも謝るのを止めませんよ・・・!

 

 「んー・・・。でもさ、デジちゃんって担当トレーナーさん居ないんでしょ?」

 「・・・ええ、まあ・・・。」

 

 謝罪レースは突如話題を変えたルーチェさんの一言により打ち切りに。超短距離だったようです・・・。

 

 「じゃあここで契約しちゃおうよ、そうしよう!そしたら私の勘違いも勘違いじゃなくなるし!」

 「えええええぇぇぇ!!?」

 

 あたしは勿論、トレーナーさんも驚きの声をあげた。

 何故そんなことになるのか、いや別にあたしは担当トレーナーさん要らないかな〜とか考えていたのですが、まあ彼がそれを望むのだったらあたしも断る理由は特に無いですし・・・?

 

 

 

 

 

 「・・・・・・・・・いや、ダメだ。」

 「あっ、ダメらしいです。ハイ。」

 

 ──と言う訳で、物語完結です!有難うございました!!!

 

 





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