ウマ娘 ∼Antithesis hero∼   作:Carboxyl

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第19話 感謝祭ウマ娘巡り

 「トレーナーさん。ついに、ついにこの時が来てしまいましたね・・・。」

 

 「・・・ああ。デジタルにとって、この上無く命をかけるイベントだろうな・・・。」

 

 デジタルだけではない。応援してくれているファンの為に、期待に応えるべく感謝を伝えるべく、奮闘するウマ娘は少なくないだろう。

 

 「あ、見て!あそこにスペシャルウィークさんがいる!」

 

 「メジロマックイーンさんやオグリキャップさんまで!すごい、本物だっ!」

 

 ──そう、今日はファン感謝祭なのである・・・。

 

 「はああああああん!!!その子も、あの子も!!!みんなみんな精一杯おめかししてて美し尊すぎる〜〜〜ッッッ!!!」

 

 「あんまりはしゃぎ過ぎるなよ。まだ足のケガは全快していないんだし、悪化したら困る。」

 

 「んぐうううう・・・。お、同じ空気を吸っていいのだろうか・・・?デジたん、こんな黄金の国に居ていいのだろうか・・・?

 さ、酸素マスク。酸素マスクを付けなきゃ・・・。」

 

 「・・・ダメだ、聞いてないな。」

 

 早期発見とデジタルの懸命な努力もあってか、ケガはみるみる治っていっていた。殆ど治ったと言っても良いが、もう暫く様子を見てからリハビリに励んだ方が良いと判断し、更に一ヶ月休養することにしていた。

 そんなこんなで、今まで息が詰まるような缶詰生活を送っていた事だろうし、こんな時くらい羽を伸ばしてやりたい。

 

 「よし、デジタル。」

 

 「・・・へ、呼びました?」

 

 「ああ、呼んだ。ちょっと、手を出してくれ。」

 

 差し出された小さな手に、オレは財布から取り出した五千円札を握らせた。

 

 「え。これは?一体どういう意味で?」

 

 「・・・好きにして使って良いよ。」

 

 「・・・え?」

 

 「少ない額だけど、今までの苦労の労いにでもなれば良いが。」

 

 「・・・いやいやいや!!!こここ、こんな大金頂けませんよ!あたしはあたしの懐のお金がありますし、気を使わなくて大丈夫ですよぉ・・・!」

 

 「いいからいいから。受け取っておけ。」

 

 デジタルはオレが譲らないのを察したのか、諦めて自分の財布を取り出し、渡された五千円札をしまった。

 

 「だ、大事に使いましゅ・・・。」

 

 「ぱーっとやってこい。遠慮はいらん。」

 

 「・・・トレーナーさんは楽しまないんですか?」

 

 「オレがいたら、素で楽しめないだろ。」

 

 「そんなことありませんよ!・・・分かりました、この五千円の代わりに、トレーナーさんはあたしのウマ娘ちゃんウオッチングに付き合って下さい!」

 

 「ええ・・・?別に、デジタルが良いなら構わないけど・・・。」

 

 こうして結局、デジタルと二人であちこちに行くいつもの状況になってしまった。

 よくよく考えたら、いつデジタルが倒れるとも分からないし、保護者として付き添うのは結果として良かったかもしれない。

 

 「さあさあさあどこから行きましょうかねぇどこから行きましょうかねぇ!?」

 

 「うーん・・・。取り敢えず、人が多そうな所に行ってみるか?」

 

 「ほうほう、まずは王道から攻めていくのですね!そうと決まれば早く行きましょう!時間は有限ですから!」

 

 丁度、目と鼻の先くらいの距離に何やら学園特設のライブ会場があったのでそこなら人がいるだろうと思い近づいてみた。

 しかし、ステージの中央で誰かは分からないがウマ娘が歌っているにも関わらず、予想以上にガラガラだった。ほぼもぬけの殻と言っていい。

 ただ知名度が低いウマ娘、という訳では無いだろう。オレも見たことがないし、恐らくデビュー前なのではないだろうか?

 

 「ふおおおおおおおおおお!!?

 ファ、ファル子さんの生ライブをこんな所で見られるとは・・・!

 ぺ、ペンライト持ってきていて良かった〜〜〜!!!」

 

 「ん?ファル子?あの子、ファル子って名前なの?」

 

 「・・・あ、いえいえ正しいお名前は、『スマートファルコン』さんです。将来、皆に元気を与えられるようなスーパーウマドルを目指して活動中なのですよ!」

 

 「は、はぁ・・・?」

 

 毎年学園に入ってくる子はなんとなく目を通してはいるが、本当に全く知らない子だ。

 そんなオレでも知らない子を、何故デジタルは知っているのだろう?

 

 「ファル子が逃げたら〜〜〜?」

 

 「追うしかな〜〜〜いッッッ!!!」

 

 ファル子の掛け声に、デジタル一人の声が会場に木霊する。興味本位で座っていた観客達は、皆いきなりの大声に驚いていた。

 通り過ぎていた観客も、デジタルの声に会場の前でぴたりと足を止め、なんだなんだとこちらの様子を伺っている。

 ・・・正直、めちゃくちゃ視線が痛い。

 

 「・・・はぁぁぁぁあああうあうあうあ・・・!?とととトレーナーさん、みみ見てくださいよ・・・!?ふぁ、ファル子さんがあたしに手を振って・・・!?

 いやいやいや、それは自意識過剰だデジたん!目の前のウマドルは皆に手を振っているのです!」

 

 周りの視線はオレ達に釘付けだし、ファル子もどう考えたってこちらに向かって手を振っているし、その認識で合っていると思うが・・・。

 

 「おほほほ・・・。大きくて元気な声ですのう。」

 

 奇異な物を見るような視線の雨を気にすることなく、群衆の中から芦毛・・・。いや、ただの白髪・・・?

 どちらかは分からないが、お淑やかな雰囲気のウマ娘がデジタルに話しかけてきた。

 

 「ええ、ファル子さんのファンが一人として、盛り上げることは使命ですから!

 ・・・って、ワンダーアキュートしゃん・・・!?」

 

 「ええ子じゃのう。これだけ純粋な気持ちで応援してくれる子がいたら、あの子も嬉しいだろうて。」

 

 「お、畏れ多い・・・。しかし、聖母様にそう言って頂けるなら、間違いありませんよね・・・!

 デジたんはこれからもファル子さん、いえ、この世の全てのウマ娘ちゃんを推して参ります!」

 

 「せ、聖母・・・?」

 

 「あー!いたいたーっ。

 アキュートさん、勝手に何処かに行っちゃダメだよー。今日はアキュートさんに良くない氣が漂っているから、何か災難に巻き込まれないように私達が付いて行くっていう話だったじゃん。」

 

 「おお、リッキーさんごめんなさいねぇ。ファル子さんの歌声とこの子の元気な掛け声が聞こえてきたもんで、ついうっかり気になってしまってなぁ・・・。」

 

 「・・・ていうか、朝からアキュートさんに付きまとってるけど、災難らしき災難がまるで起きる気配無いじゃん。本当に当てになるの?」

 

 「何言ってるのタルマエ!風水は科学的根拠に基づいてその日の吉凶を導き出すんだよ?少なくとも嘘八百なんてこと無いんだから!

 しかもしかも、油断するのは早い!風水に拠れば、アキュートさんに付いている悪い氣は今の時間にピークを迎えるの!

 なるべくアキュートさんには運勢が良くなるアイテムを持たせたり着させたりしてるけど、私達が安全になるまでアキュートさんを護らなきゃ!」

 

 「こ、コパノリッキーさんにホッコータルマエさんまで・・・!?な、何が起こって・・・!?」

 

 何だ何だ、オレの知らないウマ娘が次から次へとやって来るぞ?そして何故、デジタルは全員知っているのだろう?

 

 「・・・うん?キミは・・・、ええと、何処かで見たことあるんだけどなぁ〜・・・。」

 

 「アグネスデジタルさん、じゃない?ほら、芝とダートを行ったり来たりしてる子。」

 

 「・・・あ、NHKマイルを勝った子かな!?」

 

 「それは別の子じゃなかったかい?私の記憶では〜・・・、マイルチャンピオンシップだった気がするねぇ。」

 

 「そうだっけ。・・・う〜ん、本人に聞くのが一番早い!

 ・・・って、あれえ?いつの間にかデジタルちゃん、何処かに行っちゃってるよぉ・・・?」

 

 「・・・あらまぁ、本当だ。お話したい事が沢山あったんだけどねぇ。」

 

 

 

 ──コパノリッキー、ホッコータルマエ、ワンダーアキュート達が盛り上がっている中、オレはデジタルに引っ張られてライブ会場の外に出ると、屋台立ち並ぶ賑やかな通りを二人でうろうろしていた。

 

 「・・・良かったのか?せっかく仲良くなれたかもしれないのに。」

 

 「良いんです。あのお三方の間にあたしが割って入る隙間などありません。あってはなりません。

 あたしは空気同然で良いのです・・・。」

 

 「オレは、あの三人の事をもっと知りたかったけどなぁ。デジタルは何で知ってたの?」

 

 「それはもう、一応在籍している全校生徒の名前と顔は把握していますからね!」

 

 「全校生徒把握してるの!?」

 

 とんでもない記憶力だ。好きこそ物の上手なれとは言うが、いくら何でも無理があるだろう。

 だって、トレセン学園には二、三千人のウマ娘が在席しているのだから・・・。

 

 「それに加え、あたしのヲタク魂が叫んでいるのですよ。あの方達はいずれ、熱砂舞う大地に立つ主人公になり得ると!」

 

 「へぇ・・・。ダートで活躍するってことか?

 芝に比べてダートで走るウマ娘は見劣りされがちだが、そんなの跳ね除けるくらい活躍してくれたら良いな。」

 

 「ええ!その為にも、砂で走るウマ娘ちゃんの魅力を広めていくべく、あたしは砂超え芝超え、何処でだって走りますよ〜っ!」

 

 「・・・芝と砂を往来することとダートウマ娘の魅力を広げる事に何の因果が?」

 

 「いや、ほら。あたしみたいな変なウマ娘が先例になれば、後続の芝からダートに、もしくはダートから芝に挑戦するウマ娘ちゃんのハードルが下がるじゃないですか。

 ウマ娘ちゃんの本当の適性なんて結局の所走ってみなければ分かりませんから、芝と砂の乗り換えでその本領を発揮するウマ娘ちゃんが出てくれば、回り回ってこの界隈全体が盛り上がる事にも繋がって、そのうち砂は芝の二軍みたいな風潮も少しずつ消えていくかな・・・と。」

 

 驚いた。デジタルがまさかそこまで、この謎のローテーションのメリットを考えているとは思ってもみなかった。正直、経験を積む為の修行的な面がオレの中では強かった。

 最近はマイルなら短距離なら短距離、長距離なら長距離とその道一本でやっていくスペシャリストになるのがトレンドになりつつある。

 その時代のトレンドに逆行しているのがデジタルな訳だが、彼女の言うとおり、彼女のようなウマ娘が一人いれば挑戦しにくい事もハードルが下がってやりやすくなるかもしれない。

 

 「・・・まぁ、良い循環を作るっていうのは難しいし、ましてや一人の力は世の中を変え得る程強いモノでは無い事が多い。」

 

 「そ、そうですよね!あたしなんかが変な正義感だして世の中変えてやるんだーなんて傲慢が過ぎますよね!あ、あはははは・・・。」

 

 「けど、デジタルの言う事も最もだと思う。」

 

 「いやいやいや、無かった事にしてください!スミマセンでした調子に乗りました!

 ほらほら、せっかく屋台があるんですし、何か買っていきましょうよ!お、あそこのラーメン屋台はさては・・・!

 ・・・よし、あそこのラーメン食べに行きましょうそうしましょう!」

 

 オレがフォローする前に、デジタルの勢いに負けてすぐに無かった事にされた。

 引っ張られるように連れて行かれたラーメン屋台は規模こそ小さかったが、漂ってくるスープの香りはそこら辺の店舗に立ち入った時と大して変わらなかった。

 

 「いらっしゃいませー!・・・あ!デジタルちゃん!約束通り来てくれたんだね!」

 

 「ファ、ファイン殿下!今日も大変眩しい程の快晴の中、負けず劣らずの美しさをお持ちで・・・。」

 

 「やだもう、デジタルちゃんったら!堅い堅い!」

 

 「・・・ファインって・・・。まさか、あのファインモーションか・・・?」

 

 「そうだよ!残さず食べないと、私に対する不敬と見做して遠い遠い孤島という名のリゾート地にご招待することになっちゃうかも〜♪」

 

 「ひえ・・・。」

 

 ファインモーション。アイルランド生まれの王族出身の本物のお嬢様だ。

 日本との親睦を深めるべく、視察という名の下で遠路はるばるやって来たらしい。

 トレセン学園は一流のウマ娘達が集う名門校という性質上、日本全国世界各地からあらゆる企業の令嬢なんかが非常に集まりやすいのだが、ファイン殿下に至ってはバックボーンの存在が桁違いである。

 そんな存在が幻レベルのお嬢様が、どうしてラーメンなんて庶民的な物をこんな所で作っているのだろう・・・?

 何か殿下の気を引くものでもあったのだろうかと思い辺りを見渡していると、デジタルがこっそり耳打ちしてきた。

 

 「トレーナーさん。あんまりキョロキョロしない方が良いですよ。殿下の警護が、見えにくいですがあちらこちらに潜んでいます。

 一歩間違えたら不審者として塀の向こうに投げ込まれるかもしれませんから、気をつけて下さいまし。」

 

 「マジか。アドバイス有難う。」

 

 そりゃ、そうだろうな。こんなに人が集まるイベントで警護が無い王族の方が珍しいだろう。

 目の前のVIPウマ娘の存在に目を瞑り、出来る限り普段通りに過ごすことを心掛けよう。

 

 「よーし、腕によりをかけて、最っ高に美味しいラーメンを作っちゃうよー!」

 

 「・・・メニューはどこだ?・・・ですか?」

 

 「え?ウチは醤油味だけだよ!他のスープまで仕込むのはスペースが足りなかったし時間も無かったからね!」

 

 「そ、そう・・・ですか・・・。」

 

 落ち着けオレ。王族のお嬢様が直々に作るラーメンなんて、人生何周してもありつける物ではない。

 頂ける事に最大限の感謝を。味を選ぼうなんて不敬だった。普段通り、普段通りに過ごさなければ・・・。

 

 「・・・トレーナーさん、顔色悪いですよ・・・?」

 

 「あ、ああすまん。緊張のあまり・・・。」

 

 いかん。普段通りに過ごすことを意識する余り、全然普段通りに過ごせていない。そうだ、こういう時は深呼吸だ。深呼吸は緊張の緩和に効果的と古事記にも書かれている。

 オレの気分がおかしくなっているのを察したのか、デジタルはオレの背中を優しく擦ってきた。

 中学生くらいの歳の女の子に背中を擦られるなんて、大の大人として、男として、本当に情けない限りである・・・。

 

 「そう言えば、デジタルちゃんのお父様の事業の調子はどう?私が頼んだ本はもう出来た?」

 

 「・・・あー・・・。スミマセン、丁度今忙しいらしくて・・・。

 殿下のご注文ということもあり急ピッチで進めているのですが、もう少し時間がかかりそうとの事です。」

 

 「・・・そういえば、デジタルの両親の話とかあまり聞いたこと無かったな。お父さんは何の仕事をしているんだ?」

 

 「印刷業ですよ。そこまで規模は大きくないですが、仕事への熱意は誰よりも立派な社長さんです!」

 

 「へぇ、印刷業かぁ。」

 

 ということは、デジタルが描いてる漫画とか小説も、その気になったら出版出来るって訳か・・・。

 

 「・・・え?社長?」

 

 「はい。」

 

 「父親が?」

 

 「・・・はい。」

 

 「待て待て、聞いてないぞそんなの!?」

 

 「・・・まぁ、言うほどの事では無いと思っていましたから・・・。あと先程も言いましたが、規模は大した事無いのであまりお気になさらず・・・。」

 

 こんなこと言うのは大変失礼だが、デジタルの普段の素行を見ている限りでは全く社長の娘だなんて思いもしなかった。

 ・・・いや、思い返せば汲み取れるヒントは十分あった。

 少し癖はあるものの、何処の家庭にもいそうなごく普通の女の子にしては外食に行った時のテーブルマナーはやけに上品だったし、学問においてもかなりの教養を身に付けている。

 彼女のウマ娘を遠くからみたいという願望などから全て自力で身に付けたモノと思っていたが、実は両親の英才教育の賜物だったり・・・?

 

 「もし今後デジタルの両親に会うことがあったら、オレはあの謎のローテーションについてどう説明すれば良いんだろう・・・。」

 

 「・・・あの、本当に気になさらないでくださいね?あたしの両親は結構放任主義っていうか、あたしのやりたいことは何も聞かずにやらせてくれるので・・・。

 多分、ローテの事なんてちっとも気にかけていないと思いますよ?」

 

 「良いお父様だよね〜!私なんか、昔は部屋から脱走するのだって大変なくらい厳重な監視の下で育てられたからね?

 あの時の時間があれば、山にピクニックに行ったり近所の子供達と公園で遊んだり出来たのにな〜。」

 

 「・・・でもそれって、大切に思ってくれている証拠じゃないですか。

 あたしの両親みたいに放っておく事が大切に思っていないという訳では無いですが、ファインさんの父上殿母上殿の、愛の形の一つなのだと思います。」

 

 「・・・だとしてもぉ〜、私はもっと外に出たかったなぁ・・・。

 あ〜あ。このままず〜っと、デジタルちゃんやシャカール達がいる日本でラーメンに舌鼓を打ちながら幸せに暮らせたら良いのにな〜。」

 

 王族だからな。普通に過ごしたくても、身分がそれを許してくれないだろう。

 

 「デジタルの言う通り、両親から大事に思われているからこそだと思うぞ。

 可愛い子には旅をさせよっていう言葉があるが、現にファインはアイルランドから日本という遠い国に来ているし、昔外に出せなかった分、この地で沢山遊び沢山学べ、ということではないかな。」

 

 「・・・そっかぁ・・・。そういう考え方も、あるのね〜・・・。」

 

 ファインは湯を切った麺を器に盛りながら、ぽつりと呟いた。

 

 「トレーナーさん、良い事言うじゃないですか・・・。」

 

 「そうかな。トレーナーになるとどうしても担当ウマ娘が大事に思えてくるから、なんとなく親の気持ちも分かるなぁって。」

 

 「確かに、この学園だとウマ娘ちゃんが誰よりも一緒に過ごすことになるのは恐らくトレーナーの方々ですものね。」

 

 「ああ。しかもトレーナーのほぼ全員が、ウマ娘が好きで、レースで走るウマ娘が好きでこの道を歩こうと決意した人だと思う。

 赤の他人だけど、我が子のように大切に思っているトレーナーもいるんじゃないかな。」

 

 「そうですよねぇ・・・。この学園のトレーナーさんの方々は、ウマ娘ちゃんが大好きな同志が沢山いて、あたしは嬉しいですよ・・・。」

 

 「ふふ、それじゃあ、トレーナーさんはどうなの?」

 

 「ん?オレか?オレも勿論、ウマ娘は好きだぞ?」

 

 「違う違う。デジタルちゃんのことどう思ってるかってこと。」

 

 「ぴえ!?あ、あたしは別に関係なくないですか!?」

 

 「関係あるよー、ウマ娘だもん。ね!ね!トレーナーさん、どうなの!?」

 

 ファインは身を乗り出し、目を輝かせて迫ってくる。オレはそんなに聞きたい程の事だろうかと思いつつも、素直な気持ちを伝えた。

 

 「そりゃ当然、大切に思ってるよ。色々あったが、今更デジタルが居ない生活なんて想像出来ないくらいに。」

 

 「え、え、あの、その。こ光栄、でしゅ!?」

 

 何故かデジタルはあたふたと珍しく落ち着きが無いし、ファインは黄色い声をあげて喜んでいるし・・・。

 オレ、何か変な事言ったか・・・?

 

 「うふふふ、ご馳走さま♪そして、お待ちどうさま♪」

 

 嬉々とした様子で、ファインは完成したラーメン二杯をオレ達に差し出してきた。

 海苔、卵、メンマ、もやし、チャーシューと具沢山でとても美味しそうだ。

 

 「有難う、いただきます。」

 

 朱色に所々蓮などの模様が散りばめられた、何やら高級そうな箸を手に取り、スープの海から麺を程々に掴みあげる。

 ふうふうと息を吹きかけ、徐に麺を啜った。

 

 「うん、美味しい!」

 

 「良かった〜!ほら、デジタルちゃんも!」

 

 「・・・うえあ!?あ、あばばばいいいただきましゅ!」

 

 デジタルはラーメンが出てきても俯いたまま手を付けていなかった為、もしや苦手なのだろうかと思ったがそんな事はなかった。

 変な声をあげたかと思ったら、心配になる程ものすごい勢いでラーメンを喉に流し込んでいく。彼女って、こんなにがっつく食べ方も出来たんだな・・・。

 オレより後から食べ始めたのに、ものの数分でスープがあと少しくらいになっていた。

 

 「デジタル、せっかくなんだしもうちょっと味わって食べれば・・・。」

 

 「すすスミマセンスミマセン!キムチが、じゃなくて気持ちが逸ってしまい!」

 

 「お、落ち着け・・・?」

 

 やっぱりオレ、相当変な事を言ったんじゃなかろうか。デジタルがウマ娘以外の事でここまで落ち着きが無いのは初めてだ。

 自らの発言を顧みてみるが、コレと言って地雷を踏んだであろうモノは思いつかない。

 

 「ふふ、トレーナーさん。言質取ったからねー?」

 

 「え?」

 

 「これからも、デジタルちゃんと仲良くすること!これは、王に代わっての命令であーる♪」

 

 「あ、ああ。勿論・・・?」

 

 ファインから目的不明の謎の命令を下されるオレの横で、デジタルは残っていたスープをぐいっと一気に飲み干していた。

 

 「ご馳走さまでした・・・。

 ・・・スミマセン、腹ごなしに少しこの辺りを散歩してきます・・・。」

 

 「分かった。あまり遠くに行き過ぎるなよー。」

 

 お釣りはいらないとばかりに二千円をテーブルに置くと、デジタルはそそくさと人混みの中に姿を消した。

 

 「・・・何だったんだろう?もっとゆっくり食べても良かったのに。」

 

 「デジタルちゃんだって年頃の女の子だからねー。いつも謙虚だし、自分がそういう立場になるのは慣れてないっていうか、想定していないんじゃないかな?」

 

 「ん、まぁ、そうだな・・・。」

 

 「・・・トレーナーさんも随分鈍感だよねー。デジタルちゃんも大概だけど。」

 

 「・・・ん?どういうことだ?」

 

 「この前の社交界の時だって、ウマ娘とウマ娘のペアが目立つ中、一組だけトレーナーとウマ娘のペアだったし。いくらペア参加必須だからって、あんなに目立つ事しておきながら言い訳なんて出来ないよねー。」

 

 「あー・・・、アレか。どうしても参加したいから一生のお願いってゴネられたんだよな・・・。」

 

 「びっくりだよー。暫くの間、学園中がその話題で持ち切りだったんだから♪」

 

 「え、そうなのか?全く気が付かなかったな。

 確かに、鈍感かも。トレーナーとして情報収集を怠ったら痛い目見るし、もう少し聞き耳たててみることにするか。」

 

 「え〜・・・?」

 

 違うそうじゃないとでも言いたげに、あからさまにファインは呆れるような表情を見せた。

 

 「・・・ええと、今度からはちゃんとウマ娘同士で参加させるよ・・・。」

 

 「あー、ダメだコレ・・・。」

 

 「えっ。」

 

 「良くも悪くも、似た者同士ってことだね。」

 

 「・・・???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ご馳走さまでした。お会計したいんだけど、値段はいくらなんだ?」

 

 「う〜ん、タダでいいや。」

 

 「えっ、いや、それは流石に・・・。」

 

 「別に、お金儲けの為にやってる訳じゃないし。それに、良いもの見させてもらったし♪」

 

 「・・・ゴメン、さっきから意味ありげな事を言ってるけどオレには全然分からない。」

 

 「いいのいいの、気にしないで。取り敢えず、お粗末様でした!また来てね!」

 

 ・・・相手が誰であれ、わざわざ丹精込めて作ってもらったラーメンを無料で頂く訳にはいかない。しかし、ファインは全くお金を受け取るつもりがないみたいだ。

 どうしたものかと思ったが、妙案がすぐに浮かんできた。

 

 「じゃあ、この四千円はチップ。ということで。」

 

 オレはデジタルが残した二千円と財布から取り出した二千円を束ねてファインに差し出した。

 

 「・・・ほう。お主、中々頭が回るではないか。

 でも、いいの?ラーメンにそんなに払っちゃって。」

 

 「構わないよ。本当に良い物を頂いたらこれぐらい払うつもりでいないとな。」

 

 美味しかったのは本当なのだが、いくら美味しいとは言っても一杯二千円のラーメンなんてその辺のラーメン屋だと目玉が飛び出るかもしれない。

 だが、作った当人が王族となると話は別。ケチったら不敬極まりない気がして、お札2枚を掴んだのだった。

 

 「・・・へぇ・・・。じゃあ、有難く頂戴することにしようかな、まいどー♪」

 

 お金を受け取った事を確認すると、オレは手を振るファインを背に屋台を出た。

 

 「・・・さて、デジタルは何処に行ったのかね・・・。」

 

 一通り見渡しても、人混みの中からあの小さな体を見つけるのは難しい。集合場所を決めておくべきだっただろうか。

 

 「いや、スマホがあるしこれで連絡取るか。」

 

 ポケットからスマホを取り出し、デジタルと連絡を取ろうとしたその時。

 

 「もし。聞きたいことがあるのですが。」

 

 「・・・え、オレ、ですか?」

 

 振り返ると、後ろからした澄んだ声の主と思われる、モデルのように美しい、茶髪──ウマ娘で言うなら栗毛である──の女性がいた。

 黒のマリンキャップと白のフリースプルオーバー、ブラウンのプリーツワイドパンツで身を包み、容姿に加えて服装のセンスの良さが美しさに拍車をかけている。

 

 「そう、貴方。」

 

 「は、はい。何でしょうか。」

 

 オレは何処かでこの女性を見たことがある気がした。

 黒いサングラスをしている上にマスクまでしていた為にその顔立ちはよく見えなかったが、それでも手がかりを求めて彼女の顔に視線を向けた。

 

 「貴方、『アグネスデジタル』というウマ娘を、ご存知?」

 

 「は、はぁ・・・。存じていますし、なんなら俺は彼女のトレーナーですが・・・。」

 

 「やっぱりね。最近テレビで貴方達の活躍を見てね。忙しいながらも時間を取って会いに来たんだ。」

 

 「・・・嬉しい限りです。」

 

 「それで、肝心のデジタルちゃんは何処にいるの?」

 

 「それが・・・。俺も、彼女の行方が分からない状態でして・・・。」

 

 「あらまあ。意外とヤンチャなのかな?」

 

 「そういう訳では・・・。うーん、どうなんだろう・・・。」

 

 基本大人しくて素直な彼女だが、趣味の事になると人が変わったように暴走することもあるし、とはいえ理性はある程度働いているのか急に我に変えるし・・・。

 彼女の事は「分からない」、この一言に尽きる。

 

 「まあ、良いよ。急用じゃないし、久しぶりのトレセン学園を周りつつ、探そうか。」

 

 彼女は踵を返し、緩やかな足取りで歩き出した。オレもそれに倣い、ゆっくりと彼女の後を歩く。

 

 「・・・何故、他にも素晴らしいウマ娘はいるのに、アグネスデジタルという一人のウマ娘だけを探しているのですか?」

 

 オレは歩きながら、彼女に尋ねた。

 

 「う〜ん、そうだな・・・。

 強いて理由を挙げるなら、直接会って成長ぶりを見たかったからかな。」

 

 「成長ぶりを見たかった?

 それは・・・、デジタルに会った事があるという事ですか?」

 

 「うん。ずっと昔の話だから彼女は覚えていないかもしれないけれど。」

 

 「マジか・・・。」

 

 人を忘れるくらい、そんな昔からデジタルの事を知っている人物がいるなんて、思いもしなかった。

 オレは他にも浮かんできた質問を次々と彼女に聞いた。

 

 「デジタルは、昔はどんなウマ娘でしたか?」

 

 「・・・見た目はひょろくて幼さを加味しても小さくて、変わった特徴特技も無い、至ってごく普通のウマ娘、だったかな。」

 

 「ああ、その頃から体は小さくて細かったのか・・・。」

 

 「でも、良い目をしていたよ。大人しくて静かで、そこら辺の子供を相手にしているような普遍的な感じじゃなかったかも。」

 

 「へぇ・・・。案外、変わっているようで変わっていないのかな。

 ・・・ところで、あなたはモデルの職業をされていたりしますか?何処かで、見たことがあって。」

 

 「あー、そうだね。確かに、モデルらしいことはやってる。

 でも私としてはウマ娘の良さを広めたいっていう、ただそれだけの事をしたいだけだから。モデルは副業、かな?」

 

 「へぇ、じゃあデジタルと気が合いそうですね。

 彼女もウマ娘が大好きで、ウマ娘の良さを広めたいとは彼女も思っているハズですから。」

 

 「そうなんだ。

 ・・・嬉しいよ、彼女も私と同じ理想を抱いていそうな同士で。」

 

 「・・・同士、か。」

 

 そういえば、デジタルも初めて出会った時からオレの事を同士とか読んでいたような気がする。

 ・・・そうか。同士というのは、ウマ娘の良さを広めるという同じ目的を持っている者という意味だったのか。確かに、オレもウマ娘の良さはもっと広まって欲しいと思っている。

 彼女の理解が一歩進んだような気がして、オレは何だか嬉しくなった。

 

 「・・・おや?あれは・・・。」

 

 モデルの女性は歩みを止め、オレもそれに合わせて歩みを止めた。視線を前に移すとすぐに、妙な人集りが目に入る。

 よく見ると、大きな耳が特徴で、眼鏡をかけている黒鹿毛のウマ娘とデジタルが、何やら舞台の上で盛り上がっているようだった。

 

 「ああ、勇者よ!本当に征かれてしまうのかっ!」

 

 「勿論です。例え命果てようとも、自分の使命には逆らえません。」

 

 「おお、何ということでしょう。それは蛮勇と言う物です。勇者よ。今一度立ち止まり、よくよく考え直すのです。」

 

 「私の腹は既に決まっています。

 ・・・後のことは、任せました・・・!」

 

 「あ!ま、待って下さい!

 ・・・危険を顧みず、常に他者の為に在る。頭では分かっていましたが、いやしかし・・・。このままでは本当に、彼を失いかねない・・・!」

 

 ・・・どうやら、二人は劇のようなものをしているようだ。かなり気合が入っていて、劇団のような凄みがある。完全になりきっているようだ。

 

 「・・・こうして、大賢者と呼ばれる魔道士は彼の後を追い旅に出た。彼は大変賢明ではあったが、同時に内気な側面を持っており、ハイリスクな行動は好まない傾向にあった。

 しかし今、彼は一歩を踏み出した。危険も承知の上で。勇者・・・、いや、『友』を守る為に・・・!」

 

 演技が終わったと思われたその途端、人集りから大喝采が起こる。

 

 「有難う御座いました!いや〜、素晴らしい演技でしたね!お二人は演劇か何かをやっていらっしゃるんですか?」

 

 「い、いえいえ、そんなことは・・・!」

 

 「なんとっ!では、演劇は初めてで?」

 

 「・・・幼い頃以来、ですかね・・・。」

 

 「これはすごいっ!初心者なのに、初心者らしからぬ、迫力のある演技を魅せて頂いた二人に、もう一度拍手をお願いします!」

 

 司会のウマ娘がそう言うと、先程よりも更に一回り大きい喝采が辺りに響き渡る。二人はかなり、照れくさそうにしていた。

 

 「・・・あの子が、デジタルちゃんだよね。隣の子は、友達かな?」

 

 「・・・ですかね。オレも初めて見ました。」

 

 デジタルはいつもオレが知らないうちに、ちゃっかり友人が出来ているので殆ど把握しきれない。

 デジタルと眼鏡のウマ娘は舞台を下りた後も、二人でとても盛り上がっているようだった。

 

 「・・・はあ、はあ・・・ッ!ロブロイさんはやはり凄い・・・!キャラクターの生い立ち、性格。それを全て踏まえた完璧ななりきりでございますっ!」

 

 「そ、そんな・・・!それを言うならデジタルさんこそ、逼迫した状況で実は内心不安を抱えながらも、勇気を振り絞るような声は当に主人公そのものでした!」

 

 「・・・そのことなんですけど、あたしより、ロブロイさんの方が主人公向いてません?成り行きであたしが勇者役になってしまいましたけど・・・。」

 

 「そうですか?よく出来ていましたよ?」

 

 「な、なりきりはともかくとして、あたしが勇者っていうのはなんかこう、解釈違いというか何というか・・・。」

 

 完全に二人の世界に入ってしまっているようだが、モデルの女性が彼女達に歩み寄り、話しかけた。

 

 「デジタルちゃん。」

 

 「・・・え、あ、はい?誰ぇ・・・?」

 

 モデル女性の方を向いたデジタルであったが、首を傾げ続けている辺り、恐らく記憶に無い人なのではないかと思う。

 ・・・本当に知り合いなのだろうか?

 

 「ああ、やっぱり忘れちゃってるか。」

 

 「え、何処かでお会いしたことありましたっけ?・・・で、あとトレーナーさん?こちらの方は・・・。」

 

 「オレも詳しくは分からない。デジタルに用があるらしいぞ。」

 

 「へ?あたしに?」

 

 「・・・デジタルさんの知り合いではないのですか?」

 

 「ぐぐぐ・・・。どれだけ記憶を遡っても、全く心辺りが無いです・・・。

 あ、でも会った記憶は無くとも昔読んだ雑誌か何かで似たような方を見たことあるような気がします。

 ・・・名前は、ええっと・・・。」

 

 「新見松江。」

 

 モデルの女性は、待っていたとばかりに自分の名前を口にした。

 ・・・そうだ。何処かで見たことがあると思ったが、彼女の名前を聞いてなお朧気ながらも記憶の断片が掘り起こされた。

 昔、日本で活躍している人物の特集雑誌でその名を見た事がある。その時は特に気にしておらず注視してなかったが為に、彼女が具体的にどのような人物化は覚えていないが、既視感があるのはそのせいだ。

 

 「新見松江さん・・・。あ、私も知っている気がします。確かモデルさん、でしたよね?」

 

 「・・・まぁそんなところね。」

 

 「そのモデルさんがど、どうしてあたしなんかに声をかけて?」

 

 「本当は遠くから眺めているつもりだったんだけどね。そこの子と凄く仲が良さそうで微笑ましくて、何だか嬉しくなっちゃってつい話しかけちゃった。」

 

 「そ、そうでしゅか・・・。」

 

 デジタルはあたふたとしながら松江さんの会話に応じた。

 オレとしてはこの女性も気になるが、名前だけでも分かったのに対し、もう一人、名前も分からないような子がいる。

 

 「ところで、デジタルの隣にいる子は?」

 

 「あ、スミマセン!私も自己紹介すべきでしたね・・・!」

 

 眼鏡のウマ娘は改まり、コホン、と少し間を置いてからその名を口にした。

 

 「私はゼンノロブロイ、です。

 デジタルさんとは図書委員で以前から関わりがあったのですが、先程は共通の趣味を持っているということが分かって盛り上がってしまいまして・・・。」

 

 「共通の趣味?」

 

 「はい!私は読書が趣味なのですが、たまたま木陰にいたデジタルさんの近くを通りかかった時に、今私がとても気に入っている大人気シリーズの小説を読んでいらっしゃったのでお声をかけまして!

 そしたら、もう驚くほど話が合うこと、合うこと!次第にあの名シーンこの名シーンをなりきりながら振り返っているうちに、これもたまたま近くで催されていた劇の参加者だと周りの方々に勘違いされてしまいまして・・・。

 なんやかんや、舞台に登ることになってしまったのです。」

 

 「ロブロイさんと劇なんてぇ・・・。もう、ご褒美が過ぎますよねぇ・・・。むふふ・・・。」

 

 なるほど。確かにあの迫真の演技を見たら、劇の本番を前にリハーサルを行っている二人組と間違えられてもおかしくない。

 ・・・しかし、このゼンノロブロイというウマ娘。デジタルの趣味の会話に付いていけるなんて、とんでもない才能だ。オレだったら早口過ぎて聞き取れない。

 

 「・・・なるほど。二人は、英雄譚が好きなのかな?」

 

 松江さんが口に出した疑問に、ロブロイは間もなくすぐに反応した。

 

 「はいっ、大好きです!ギルガメシュ叙事詩やアーサー王伝説、その他どの王道的なサクセスストーリーどれをとっても、大好きです!

 ・・・いつかは、彼らのような英雄になってみたいな、なんて思ったり・・・!」

 

 ロブロイの目は、今までに無いくらい輝いていた。相当、英雄譚が好きなのだろう。今の彼女は、その気になったら幾らでも自分の好みを語れるだろう。

 趣味に没頭しているデジタルというウマ娘が間近にいるからか、何となくそう感じた。

 

 「うんうん。ヒーローは、カッコイイものな。一度は彼らのような光の如く輝く存在になってみたいとは、誰もが一度は思うだろう。

 ・・・デジタルちゃんは、どうなんだい?」

 

 「も、勿論英雄譚は大好物です!」

 

 「・・・お。じゃあ、デジタルちゃんもヒーローになってみたいと思った事があったりするのかな?」

 

 デジタルは少し考え込むような仕草をしてから、また口を開いた。

 

 「え、ええと・・・。英雄譚は好きですが、実際にヒーローになりたいかって聞かれたら、そうでもなくてですね・・・。

 憧れじゃないと言えばまたそれは話が違うのですが、あたしのような不束者は、ヒーローよりそこら辺のモブが似合っていると言いますかね・・・。」

 

 デジタルの後ろ向きな発言に、ロブロイからは驚きの声が出た。

 

 「え?やたら英雄譚に詳しかったので、デジタルさんもいつかはああなりたいものだとてっきり思っていましたが・・・。」

 

 「い、いやいや、とんでもない!あたしは、彼の英雄達の武勇伝をお側で見守るだけでも大変光栄ですのに、その彼らと同じ舞台に上がるなんて、場違い過ぎてあたしの心が耐えられないっ!」

 

 デジタルは両腕を交差させバツを作り、首を左右に物凄い勢いで振って否定する。余程、なりたくないのかなんなのか。

 ・・・でもオレは、似合うと思うけどなぁ。

 

 「ははは。別に無理してなるもんじゃないし、その考えもまた一理あるだろう。」

 

 松江さんはデジタルに近づきしゃがむと、彼女の頭を少し雑に撫でた。まるで犬や猫を可愛がるように。

 

 「え、え?・・・あの?」

 

 突然の出来事に、デジタルは目を丸くしたまま硬直してしまった。

 

 「ふふ、これからのますますの成長を楽しみにしているよ。」

 

 松江さんは徐ろに立ち上がるとオレに目線を移し、ペコリと軽くお辞儀をした。

 

 「私、もうそろそろ行かなくちゃ。

 トレーナーさん。デジタルちゃんを宜しくね。」

 

 「え、あ、はい・・・。」

 

 ひらひらと手を振り、あっという間に人混みに消えていった彼女を、オレたちは呆然と立ち尽くしつつも見送った。

 

 「・・・何だか、不思議な方でしたね。

 いや、それより。デジタルさんは、本当にヒーローになりたいと思った事が一度も無いのですか?」

 

 「・・・無い、ですねぇ。」

 

 「そうですか・・・、残念です。

 せっかく英雄譚にお詳しいですし、趣味も合いますし、一緒に英雄目指して頑張れたら切磋琢磨の繰り返しが励みになるかなと思ったのですが・・・。」

 

 ロブロイは目に見えてしょんぼりしていた。それを見たデジタルは慌ててフォローに入る。

 

 「あ、ああでもでも!ロブロイさんが英雄を目指すというのなら、そのお手伝いをすることは惜しみませんよ!」

 

 「そう、ですか!嬉しいです!・・・嬉しい、んですけど・・・。」

 

 ロブロイはデジタルの手を取り、真剣な表情で彼女を見つめた。それに対しデジタルはというと、携帯のマナーモードのように小刻みに震えて、「近い!近いです」だとか「ロブロイさんのご尊顔が間近となれば、私息絶えてしまいます」だとか叫んでいる。

 しかし、ロブロイはそんなことお構いなしに言った。

 

 「それでも私は、デジタルさんと一緒に英雄を目指したいのです!」

 

 「な、何故ぇッ!?」

 

 「デジタルさんにはその素質があると思うんです!実際、レースではその実力を発揮していますし、まだまだこれからのことを考えたら可能性で一杯だと思うんです!」

 

 「あ、あたしにそんな伸び代は無いですぞ!?それに、ほら、両雄並び立たずという言葉がありますように、英雄とは同じ時期に二人以上並立することは出来ないのであります!」

 

 「・・・例え、最後は一人になるとしても!」

 

 ロブロイは更にデジタルに顔と顔の距離がほぼ無いくらいまで近づいた。それに伴い、デジタルの目がぐるぐると回りだしていて、もう限界のようだった。

 

 「私は、デジタルさんと・・・!」

 

 「・・・く°ひ°ゅ°っっっ!!!!!」

 

 凡そ人が出せるものではない声を発した後、デジタルは勢い良く後ろにばたりと倒れた。

 

 「・・・え?デジタルさん?デジタルさん!?」

 

 ロブロイが倒れてしまったデジタルを必死に介抱しようとする傍らで、オレはこれまでの会話を振り返っていた。

 

 「・・・ヒーロー、か。」

 

 時々、異常なほど強いウマ娘が出てくると、物語の主人公のように世間から期待を寄せられる存在になるのはそう少なくない。

 仮に主人公のような活躍を見せる者達をヒーローと呼ぶなら、今までの競争ウマ娘の歴史を作ってきたウマ娘達は、間違いなくヒーローだろう。

 そのようなウマ娘に、デジタルもいつかはなって欲しい。少々非現実的かもしれないが、彼女の人となりを見ていたら、もしかしたら・・・。

 いや、何かが間違って世界が火に包まれるような事が無い限り、彼女の性格的にそんな仰々しい存在目指そうとしないか。

 

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