ウマ娘 ∼Antithesis hero∼   作:Carboxyl

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 お久しぶりです。僅かな隙間時間で本編を大幅に改編している影響で暫く振りとなってしまいました。
 このお話でお茶を濁しつつ本編の続きは今暫くお待ち下さい。


番外編
根が無くとも花は咲く


 

 あたしの名前はアグネスデジタル。何処にでもいる平凡なウマ娘。

 時は午前の授業が終わり昼食の時間。ウマ娘ちゃんというウマ娘ちゃんが我先にと食堂へ駆け込んで行く。

 あたしはというと、急ぐ必要が全く無い。何故なら、ウマ娘ちゃんが笑顔でご飯を食べている姿を見れば、空腹感なぞ何処へやら。身体いっぱいに幸せという栄養が満ち満ちるからです・・・。

 という訳でいつも通り呑気に歩いて食堂に辿り着いた訳ですが。

 

 「お〜〜〜い!!!デジタルちゃんこっちこっち〜〜〜!!!」

 

 なんと、クラスメイトのウマ娘ちゃん達があたしの名を呼びながら手を振っているではありませんか。こ、これから何が起こるというのです?

 恐る恐る近づいてみると一つのテーブルにクラスメイトのウマ娘ちゃん三人が席についており、その三人の卓上に配給されたご飯があるのはともかくとして、空席となっていた残り一つの席の上には誰かが座る予定なのかここにもトレイに盛々のご飯やおかず、野菜といった数々のメニューが乗っていた。

 

 「これ、デジタルちゃんの分だから。」

 

 「・・・は?」

 

 ブロンドヘアーがよく似合う、少々言葉も性格もギャルっ娘っぽいウマ娘ちゃんであるセレンさんが発した思いもよらぬ言葉に、あたしは畏れ多くも品に欠ける言葉が口から出てしまった。

 

 「は?じゃないよ〜。デジタルちゃんちまっこいんだから沢山食べなきゃ。近い内にGⅠでしょ〜?」

 

 「そうよ。腹が減っては戦はできぬ、なんだから。」

 

 マナさんの意見に同調をしている黒鹿毛のウマ娘はマナさん。クールなお方ですが言動のあちこちで少々不器用なところが見られ、そこがとても可愛らしくもあります。

 

 「あとついでに勉強教えて欲しいんだけドー。」

 

 マイペースに注文を付けてくるこの方は芦毛のウマ娘、ネムさん。常に誰かに勉強を見てもらっているのですが、彼女の地頭自体は良いのです。しかしやる気の問題で全く授業の内容が頭に入ってこないそう。

 因みにこの方、ヲタク仲間でもあります。彼女はコレクター気質でウマ娘の(レプリカ)蹄鉄コレクションやら(レプリカ)勝負服コレクションやら様々な物を集めているのであたしとしても大変お世話になっている次第でしていやはや本当に素晴らしい同士を持つことが出来てあたしは感動でくぁwせdrftgyふじこlp。

 つまり、御三方とてもとてもあたしに親切して頂ける凄く良い方達です。

 それはそうと、既に空席のテーブル上に置かれているご飯があたしのモノだと言いましたか?

 

 「・・・んんんんん???つまり、つまりですよ。御三方があたしの分の配膳を取ってくれたという事ですか?」

 

 「そー言ってるじゃ~ん。さ、早く食べよ!」

 

 「・・・お腹空いた。」

 

 「ねー、勉強教えテー。」

 

 ひいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!???あ、あたしなんかの為にそんな、そんな手を煩わすような事をされなくてもぉぉぉおおお!!!

 も、申し訳無い!でもありがた嬉しい感謝の極み!ここで受けねばヲタクどころか人として恥!

 

 「あ、じゃ、じゃあ有難ーく、お言葉に甘えてお席に座らせて頂きますぅ・・・。」

 

 こうして畏れ多くもクラスのウマ娘ちゃんと一緒にご飯を食べる事になりました。

 ・・・しかし、無事に席に座れたとはいえ、改めて見ても物凄い量のお昼ご飯ですね・・・。

 米はかき氷のようにお米が溢れている茶碗が二つ、メインディッシュであろうハンバーグは無造作に上に上にと十枚程積まれており、サラダに至ってはバイキングで並べられてるボウルの量が丸ごと出されてるというような状況。

 これ、食べ切れるのでしょうか・・・?いや、食べ切れる!食べ切らねばならない!何故ならウマ娘ちゃんが親切心から装ってくれた、言わば女神からの祝福同然の賜物なのですから・・・!

 

 「い、いただきましゅっ!」

 

 お箸を手に取りお米山の頂上から一口大を掬い取り、口に放り込んだ。心なしか、ウマ娘ちゃんが装ってくれたご飯は何兆倍も美味しく感じる・・・、感謝。

 

 「よーしよし食べてるね〜。あ、そういえばモニカちゃんに専属トレーナー付いたって知ってる〜?」

 

 「知ってるわよ。専属トレーナーなんてそう多くないから話題にすぐ上がって学園中の何処からでも噂が聞こえてくるもの。」

 

 「・・・・・・・・・勉強・・・。」

 

 「じゃあさぁ〜、その専属トレーナーがさ、イ・ケ・メ・ンって知ってるぅ?」

 

 「・・・・・・・・・知らない。興味無い。」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・べ、べんきょ・・・。」

 

 「えー、ホントぉぉぉ?あんたも結構面食いじゃんね〜っ。」

 

 「う、うっさい!興味無いったら興味無い!」

 

 「・・・・・・・・・・・・。」

 

 「良いよね〜、イケメントレーナー!は〜っ、あたしもあんなハンサム王子みたいなトレーナーに専属契約迫られないかな〜っ。

 手を取って貰ってぇ、『僕の相棒になってくれ!』だなんて!きゃ〜〜〜!」

 

 「・・・それもう行くとこまで行ってる想像をしてない?」

 

 「・・・勉強教えテ・・・。」

 

 「ああもう気が散るわねアンタ!そんなに教えて欲しかったら放課後見たげるから!」

 

 「えーっ、マナはやだヨ。間違えたらめっちゃ怒られるんだもン・・・。」

 

 「はあ!?人が見てあげるって言ってるのになんて態度なの!?」

 

 「まあまあ・・・。デジタルちゃんは逃げないしちゃんと面倒見てくれるだろうから、ね?・・・・・・・・・アレ?デジタルちゃん?」

 

 ・・・うふふふふふへへへへへははははは・・・。ウマ娘ちゃん達の和気あいあいとした会話を間近で拝みながら飯を食うなんて、あまりにも贅沢過ぎる・・・・・・・・・。おかずにするには豪華過ぎて天にも登りそうな程の満悦感・・・。

 

 「はいそこ!箸が止まってるわよ!」

 

 「・・・はっ。」

 

 マナさんの手刀が眉間を直撃し、あたしは瞬時に割れに帰った。何しろ、彼女の手刀はとても痛い。これは力加減が不器用な事から来ている。

 勿論彼女があたしを傷つけるつもりなんて毛頭無い事は分かっていますし例えそれが真愛の心で溢れていたとしても、痛いものは痛い。

 しかし、目覚めの一発が良く効いた、それで良いのです。

 

 「ゴツンって鈍い音したけど、大丈夫・・・?」

 

 「大丈夫ですっ、デジたんは頑丈ですからっ。」

 

 そう言っている間にも、聖剣が振り下りた箇所へ徐々に血が集まり流れ、熱を帯び始める。ええい、退け、退け!その程度の傷の修復は後からどうにでもなるっ!!!

 

 「・・・あっ、そう言えばさぁ、デジタルちゃんも専属トレーナーと専属ウマ娘の関係だったよねぇ。」

 

 「あ、はい。そうですよ。」

 

 「・・・凄いトレーナーだよね。こんな事言うと貶してるようだけど、あの頃の場違い級に質を感じさせないデジタルと専属契約だなんて・・・。」

 

 「い、いやいや、自覚はしていましたから・・・。トレーナーさんが凄いのはもう、ホント、その通りですよ。頭が下がります。」

 

 「しかも、イケメンときタ。セレンはそれが言いたいんでしョ?」

 

 「そう、そうなの!」

 

 セレンさんは急に椅子を押しのけ立ち上がり、目を輝かせながらあたしに目を向ける。

 

 「・・・そう、なんですかね?」

 

 確かに造形が整っていないなんて微塵も思った事は無いですが。思い返せば彼の顔をまじまじと見たことも無かった気がする。

 なので今この場で自身のトレーナーの顔を思い浮かべてみることにした。黒髪のナチュラルショートで清潔感を出しつつバシッと決めており、肌は透明感が強く感じられ、鼻が高めであり顔の立体感が日本人離れしている。背丈も自分に竹定規を合わせてもそれ以上に高く──この点に関してはデジたんが小さ過ぎるものと思われますが──、なるほど確かにこれは世に言うイケメンに違いないでしょう。

 何故か今まで全く気にしたことがありませんでした。いやあ、よくよく考えたらあたしのトレーナー、凄いな。イケメンでハイスペックで思慮深くおまけにヲタクに理解有り、スーパー過ぎますよなんですか彼、本当に人ですか?

 

 「で、実際どうなノ?」

 

 「・・・え?どう、とは?凄いトレーナーさんですよ?」

 

 それを聞いたセレンさんは吹き出し、ケタケタと笑う。・・・あたしとした事が、何かを聞き間違えたのでしょうか?確かに最近トレーニングに打ち込み過ぎて疲れが溜まっているかもしれないですけど・・・。

 

 「違う、違うよ〜。どうってのは、キミと、トレーナーさんの仲のハ・ナ・シ!」

 

 「あ、ああ・・・。良好ですよ、とても。」

 

 セレンさんは手で顔を覆い、そのまま天を仰いだ。

 

 「か〜〜〜っ!!!違う、違うんだよぉ!恋愛的な意味で!もう、この際全部言う!デジタルちゃんはトレーナーさんの事を男として、恋愛的な視線を向けてるのかってコト!!!」

 

 大声で捲し立てた影響で、食堂に居たウマ娘達の箸やフォークを動かす手が止まり、視線が一気にこちらへと集まる。

 

 「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいよセレンさんっ!あたしはトレーナーさんの事はとても信頼してますし大好きですけれど、その。」

 

 「えええええぇぇぇぇぇぇ!!?大好きぃぃぃいいいい!!?」

 

 ・・・あー・・・、NGワードを口にしちゃいましたねコレ・・・。注目を浴びて焦ったせいでつい、頭で浮かんできた言葉をそのまま発してしまいました。

 

 「だ、大好きだなんて、そんなっ!も、もうデジタル!そんな関係なら早く言ってくれれば・・・。」

 

 「いやあの、違くてぇ・・・。」

 

 「照れなくていいヨ、デジタル。人は誰しも成長するものだかラ。ボクは親友が恋仲を作ってくれて素直に嬉しいヨ。」

 

 「・・・・・・・・・う・・・・・・・・・。」

 

 これは、誤解を解くのは不可能、でしょうか?もう周りの野次ウマ娘ちゃんが既に萌え殺されそうな可愛い声、じゃなかった、黄色い声を発して騒いでいますし中にはあたし達の会話を聞くや否や食堂から出ていったウマ娘ちゃんも居て。あれは教室に残ってるウマ娘ちゃんやその他すれ違う人という人に、ウマ娘ちゃんに噂があっと言う間に伝っていきますね。もう手遅れかもしれません・・・。

 

 「・・・どうしよう、トレーナーさんにご迷惑をおかけしてしまう・・・。」

 

 「・・・あ、ゴメン。確かに、二人の仲を邪魔するのは良くないかも。」

 

 「そ、そうだよ!大体、私ってば興味無い話題なのになんでこんなに食いついてるの!?ふ、ふん!興味無いんだから!」

 

 「・・・マナには刺激が強過ぎて、脳がバグを起こしちゃってるみたいだネ・・・。」

 

 しかし、ウマ娘ちゃんの伝令力を侮るなかれ。彼女達は一度火が起てばたちまち千里の彼方までその噂が伝わってしまうのです。

 世には悪事千里を走るという諺がありますが、ウマ娘ちゃんの場合は善行だろうが悪行だろうが関係ありません。もう光回線もビックリの速度で、大陸の端から端まで伝わっているんじゃなかろうかと思う程。

 ウマ娘には本能的に好奇心が人よりも強く感じるようになっており、それが良くも悪くも出る、という話です。

 そして今回の件も例に漏れず学園中にその噂が行き届き、あたしがトレーナー室にやって来るや否や、彼は開口一番、「どういうことだ?」と尋ねてきた。それも顔面蒼白で。

 

 「・・・えと、実は。」

 

 あたしは昼食中に起きた出来事をありのままトレーナーさんに伝えた。彼は事の発端全てを把握すると、投資で失敗したトレーダーのようにデカいため息を吐いた。

 

 「・・・あのさ。オレが聞いた時の噂、どんだけねじ曲がって伝わってると思う?」

 

 「・・・・・・・・・。」

 

 「オレ達はもう婚約してて、今日にでも学園飛び出して夜逃げを図ってる。姿を晦ました後は国外逃亡して流れ着いた場所で式を挙げて永住する、だって・・・。」

 

 「うわあ、モノの見事に事実0。」

 

 最初の段階で勘違いから生まれた話だったのに、話に尾ひれが付いて付いて、トレーナーさんに噂が届く頃には原型を留めていない滅茶苦茶な噂へと変わってしまったようです。

 

 「でさ、これ学園中に広まってる訳じゃん?当然、理事長やら秘書さんの耳にも入る訳じゃん?」

 

 「・・・あっ。」

 

 この後の流れを全て察したその瞬間、トレーナー室のドアが爆音を上げて吹き飛び、木片がバラバラと床に零れ落ちた。

 ドアがあった場所には、秘書の早川たずなさんが穏やかな笑みを浮かべている。・・・いえ、穏やかではないでしょう。表面上は笑っているものの、内から湧き出る怒りか憎悪か、どす黒い感情が抑えきれていない。

 

 「・・・ごきげんようトレーナーさん、アグネスデジタルさん。・・・お話があります。理事長室まで今すぐご同行、お願いします。良いですね?」

 

 「・・・・・・・・・・・・はい。」

 

 当然、拒否権なんてものはない。完全にでたらめな噂による勘違いですが、今の彼女の顔を見てNoなんて言える人はこの世に存在しないと思います。・・・怖い。

 そんな訳でまるで看守に引きつられる罪人のようにあたしとトレーナーさんはトボトボとたづなさんの後を歩き理事長室へとやって来た。

 

 「諸君!待っていたぞッ!

 単刀直入!!!考え直したまえッ!!!幾ら何でもやって良いことと悪いことがあるッ!!!」

 

 トレセン学園の理事長こと、秋川やよい・・・様?

 この方あたしとほぼ同い年なのですがさん付けは余所余所しいですしかと言って付けなきゃ理事長という立場の人に失礼ですし、敬称を如何とすべきか迷う。

 まあ理事長様と呼ぶのが一番便利なので今回も理事長様と呼ぶのですが、そんな彼女も顔面蒼白であたしにずんずんと近寄り、あたしの肩をがっちりと掴んで前後に激しく振り回した。

 

 「よもや、夜逃げとは何事かッ!?何故そうまでする必要があるのだッ!?」

 

 理事長様は大変興奮しておいでですが、話せば分かる非常に聡明なお方なので、寧ろこの状況は誤解を解き、学園全体に広まっている噂を沈静化するチャンスかもしれません。

 

 「その事なんですけれど・・・。」

 

 「あと、トレセン学園を魚市場に変える計画とはなんだッ!?何がどうなってそうなるッ!?」

 

 「・・・魚?市場?」

 

 「いや、何がどうなってそうなるのかはオレ達が聞きたいっす。」

 

 「静黙!!!大体だな、トレーナーとその担当ウマ娘の身でありながら結婚とは、関係進み過ぎではないかッ!?

 あとトレーナー、相手は中学二年生だぞッ!?犯罪だからなッ!?」

 

 「・・・えー、全部ご──。」

 

 「卒業後については何も言わんッ!その頃には高校卒業に当たる故、法律上問題無い年齢になるからな。当人達の自由にすれば良かろう。

 だが、トレーナー。本気ならば我々としても感化出来ぬ上、出る所にも出るし徹底的な対処を取らねばならんぞッ!!!」

 

 ・・・どうしましょう。誤解を解けば後は流れるように事が進むと思うんですけど、理事長様が間髪入れずにお話をされる為に肝心な誤解を解くチャンスが生まれない。

 このままトレーナーさんが警察に連れて行かれて監獄送りなどなってしまったら、エライコッチャですよ!二度とトレセン学園に戻れないですし最悪の場合社会復帰も難しいのでは!?というか、あたしも無事じゃ済まないですよね!?

 

 「理事長。」

 

 そう思っていた矢先に、理事長様のお話を遮りトレーナーさんが堂々と一歩前に出た。

 

 「実は、それは全て誤解なのです。」

 

 「な、なに?」

 

 「元を辿れば、デジタルが食堂で斯々然々で・・・。」

 

 一歩間違えれば豚箱行き。そんな状況にも臆せずトレーナーさんは一から十まで、これまでの経緯を全て説明した。

 普段はあたしとヲタ活で盛り上がっている印象しかない故に、この状況を間近で見て、やはりこの人は駆け出しと言ってもプロであり、シゴデキ人間なのだなと思い知った。

 

 「・・・なるほど。勘違いが勘違いを生み、私の耳に届く頃には『アグネスデジタルとそのトレーナーは婚約を交わしその約束事の中でトレセン学園を更地にして魚市場に変えるらしい』となった訳だな・・・。」

 

 「改めてお伺いしたいんですけれど、誰がそんな事言い始めたんですか?」

 

 歪曲に歪曲を重ね、ちぐはぐとなった噂の出処を確認したかったと思われるトレーナーさんの質問を他所に、理事長様は一人考え事に耽り、理事長室の狭いスペースをぐるぐると周り続けている。

 因みにあたしは一人、心当たりがある。今朝から小型漁船を担ぎ、風紀委員として学園の治安維持に燃えるフェノーメノさんに追いかけられながら、「黄金船出港でい〜!」と叫んでいたあの芦毛ウマ娘ちゃんなのではないかと考えた。

 

 「待てよ。ならば婚約の話も事実無根の虚説か?」

 

 「そうですよ。生徒達が勝手に言い始めた事です。」

 

 「・・・本当か?」

 

 「理事長と三女神に誓って。」

 

 トレーナーさんのその言葉を聞いた瞬間、不安と疑念に塗れていた強張った理事長様の顔に笑顔が灯った。

 

 「合点!そこまで言うのなら君の話を信じよう!疑って済まなかった!」

 

 「いえ、疑惑が晴れて良かったです。」

 

 そこで初めて、トレーナーさんも安堵の息を漏らした。

 

 「学園中に広まっている音も葉も無い噂話への対処は、こちらで進めておこう。」

 

 「理事長の心配り、感謝痛み入ります。」

 

 こうしてあたし達は何とか理事長様からの信頼を勝ち取る事ができ、解放された。

 

 「いやあ、助かりましたよ。トレーナーさんが居なかったら、あたし一人だったらどうなっていたことか。」

 

 「今度からは誤解されるような言い方しないようにな。」

 

 「き、肝に銘じます・・・。」

 

 それにしても、噂とは火の無い所に煙は立たぬと言うもの。ウマ娘ちゃんは噂話が大好きですが、それを加味しても学園中例の噂一色とは予想外です。周りから見たあたし達って一体どう見えているんでしょうか・・・。

 

 「しかし、デジタルがそんなにオレの事を信頼してくれているなんてな。」

 

 「へ?」

 

 「いやほら、大好きだって言ってくれたんだろ?その気持ちに応えるべく、オレももっと頑張らないと。近々、久し振りのGⅠが控えているしな!」

 

 彼は爽やかかつ眩しいまでの笑顔を向け、肩をぐるりと回しいかにも張り切っている様子だった。

 そんな何気無い瞬間に、突然あたしの心臓付近がきゅっと苦しくなる感覚があり思わず胸に手を添えた。

 

 (な、なんでしょ今の!?

 まさか、心房細動!?・・・にしては症状が軽すぎるか。・・・発作性上室性頻拍とか・・・?

 ううむ、医学は全く明るくないから分からないなあ。何かあったら困るから一応後で調べとこ。)

 

 急に訪れた原因不明、正体不明の身体に起きた異変に戸惑いつつ、あたしはトレーナーさんの後を付いていった。

 今日は外でトレーニングをする日。先程までハプニングに見舞われ予定より大幅に時間が遅れていたので、トレーナーさんと残された時間で出来るトレーニング、やるべきトレーニングについてしっかり話し合った。

 大勢のカラスが茜色の空を飛び回り、程よく暖かく過ごしやすい昼間はどこへやら、急に冷え込む空気が秋の到来を予感させる。

 

 「女心と秋の空、か。」

 

 空一面に広がる鰯雲を見つめながら、あたしはぽつりと呟いた。

 

 

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