ウマ娘 ∼Antithesis hero∼   作:Carboxyl

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 この章を書き終えて最終チェックしている段階で、ゲームウマ娘プリティーダービーにてアグネスデジタルの実装が発表されました(2021/09/19発表)。まずはデジたん実装決定本当におめでとうございます。
 さて、この小説はデジタルが実装されたら大体こんな感じのストーリーが良いなという体で書き始めた物なので、物語の序盤の序盤でいきなり存在意義が無くなりそうです。が、恐らく細部は再現出来ないと思われるので、その部分を小説として活かしていけたらと思います。
 また、現在構想しているネタをなるべくそのまま繰り出していこうと考えているので、解釈の一致不一致がより激しくなるかもしれません。なにしろ運営のデジタル像が彼女の実装で示される訳ですから。
 読者の皆様方にこういうIFも悪くないと思って読んでもらえるように頑張ります。これからも宜しくお願いします。


第4話 力の差

 ある日、コタツに足を突っ込んで食べるかも分からないみかんを三つ机上に置きながら、いつものようにあたしは絵を描いていた。ネットとは良いもので、容姿を出さずとも投稿した絵には必ず良い反響が来る。たまにアンチが湧くが、それでも現実に比べれば無視するだけで対処出来る分、あたしにとっては一番居心地の良い場所だった。

 「次も楽しみにしている」、「作画がどストライク」等々、普段はバカにされるだけのあたしも、この瞬間だけは周りに認められている気分に浸れた。

 

 「よし、後は仕上げだけ・・・。」

 

 大きく伸びをし、少し休憩することにした。集中力をずっと絵に注ぐ為、自分が意識しているよりはずっと時間が過ぎていることが多い。今日も五時間超ぶっ続けで作業していた為、流石に疲労を感じてきた。

 何となく音が欲しくなったので目の前にあったリモコンを手に取り、テレビの電源を付けた。

 正直、テレビにはあまり興味が無い。

 嫌な性格であるが、フィクションのものは全て作り物であると思うと、すごく冷めてしまうのだ。どれだけ熱く、どれだけ感傷を誘うドラマ、アニメ等を見ても現実ではこうはいかないと切り捨ててしまう。

 かと言ってノンフィクションであっても結局どこかでつまらないと感じ止めてしまうので、このような理由から別にどの番組であろうと関係無い。音が流れればそれで良かった。

 適当に番組を選び、リモコンを投げ出した。狭い画面の奥には、広い競技場の中、十数名のウマ娘たちが準備運動をしているのが見受けられた。観客席はびっしりと埋まり、彼らの雰囲気が異様に高揚しているのが見て取れる。

 

 「レース・・・か。」

 

 競争にも大して興味は無かったが、世間の噂や家族の話から大体画面に映る彼女たちの一部の近況は知っていた。その中でも、一際集中しているように見える芦毛のウマ娘が目に入った。

 

 「確かあの娘は・・・、地方から中央へ途中参戦した娘だったよね。最初こそ怒涛の勢いだったけど、今は落ち目とかもう走れないとか散々言われてたよね・・・。」

 

 それでも走るというのだからすごい。禄に勝てなくなってプライドも何もかもズタボロだろうに。

 勝利に燃えるウマ娘たちをぼーっと見ていると、各ウマ娘のゲートインが完了し、レースが始まった。

 今更ながら思い出したが、今は年末の時期。年末の一大レースというと有馬記念。有馬記念はファン投票により出走ウマ娘の大方が決まる。つまるところ、あの芦毛のウマ娘は力を失ってなお、ファンから期待を寄せられている事になる。

 

 「ファンの期待に答えようというのは分かるけど・・・。」

 

 もし負ければ、ファンを裏切る事になるんじゃないか。そんなプレッシャーが彼女には無いのだろうか。それに、有馬記念はこれ以上無いくらい強いウマ娘が沢山揃う。勝算など無いに等しいのではないか。

 目線は芦毛のウマ娘から他のウマ娘に移った。皆が皆ものすごい迫力である。だが、どこか魅入られる所がある。不思議とあたしはテレビに釘付けになっていた。

 2500mのレースなのにあっという間にウマ娘たちは一周を終え、最終コーナーに差し掛かろうとしていた。

 どのウマ娘もスパートをかけ始める。中山の直線は短い。ゴール板は目と鼻の先である。直線で誰が抜け出すのか。

 

 「あ・・・、あの芦毛の娘・・・!」

 

 芦毛のウマ娘は外を周り最終直線で三番手、二番手の位置まで上がってきた。先頭は粘りに粘る。だが、芦毛のウマ娘があっという間に躱し、先頭に立った。

 後続のウマ娘が食い下がる。しかし、かつては「終わった」等と言われていたとは思えない走りを見せ、芦毛のウマ娘が先にゴールを駆け抜けた。

 

 「──一着!──一着!」

 

 凄まじい歓声と共に、芦毛のウマ娘のと思われる名前が実況の人に何度と叫ばれた。

 こんな事があるのだろうか。あたしの手は震えていた。今まで味わったことの無い、知らない感情が体中に満ち満ちてくる。

 勝利した芦毛のウマ娘は、泣いていた。それも、笑みを浮かべながら。ここ最近の彼女の境遇を思うと、当然の反応だろう。こちらでは何を言っているかは分からないが、何か恐らく叫んでいた。やってやったぞ、という具合に。

 負けたウマ娘たちも、泣いていた。悔しさでこれ以上無いくらいにやるせないだろう。しかし、闘志は依然と、いや、更に燃えているように見えた。次こそ勝つ、と言った具合に。

 

 「・・・すごい。」

 

 あたしは、心の底から感動していたと思う。全身が熱くなり、芦毛のウマ娘は特に、眩しいくらい輝いて見えた。

 芦毛のウマ娘が観客席の方に歩み寄り、右手を徐に、高々と上げた。

 

 「──!──!」

 

 観客席から芦毛のウマ娘の名前が幾度もコールされる。その永遠に続くとも思われる大歓声に終わりを告げたのは、自分の左手だった。

 気づいたらリモコンでテレビを切っていた。だがいつものように気分で切った訳ではない。居ても立っても居られなくなったのだ。

 

 「・・・いつまでも、こうしてちゃいられない。」

 

 目的など無い。ただ、あたしは自分の思うがままに、外に出て走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落葉樹の殆どは枝が丸見えになり、体の奥深くまで劈くような冷気と共に風がそよそよとグラウンドに流れ込む。気がつけば、もう十二月であった。

 

 「うん、少しずつ力は付いてきた感じがするな。」

 

 もみじS後のデジタルはダート路線に戻り、もちの木賞を二着、ジュニア級重賞未勝利戦を一着と好調だった。予想よりかなり良い仕上がりになるので、次走に考えている全日本ジュニア級ウマ娘優駿ももしかしたら勝てるのではと思えるようになってきた。

 

 「いや〜、レースに出る度に毎度毎度、過剰な程尊みを摂取出来ますな〜。あたしの幸福度は常に限界をブレイクスルーしちゃってますよ。」

 

 とはデジタルの言葉である。常に限界超えちゃってるならそもそも限界とはという疑問が浮かぶが、意味不明なのはいつも通りなのでスルーしている。

 とは言え、レース中に尊み過剰摂取でばったり倒れる事態にはならないのが有難い。もしそんなことが起きたら、後続のウマ娘に踏まれるわ蹴られるわ──デジタルにとってはご褒美になるかもしれないが──、冗談では済まされない怪我を負うことになるだろうから。

 兎にも角にも、従来の目標通り全日本ジュニア級ウマ娘優駿を目指して、デジタルとトレーニングの日々に明け暮れていた。

 

 「あら、良い末脚ですね〜。」

 

 突然声がした方向に振り返ると、いつぞやの栗毛のウマ娘がいた。

 

 「君は確か・・・、デジタルが保健室に運ばれた時にその事を教えてくれた・・・。」

 

 「あ、デジタルさんのトレーナーさん、こんにちは。あの時はどちらも無事だったようで良かったです。『グラスワンダー』と申します。以後お見知りおきを〜。」

 

 「ああ、そうだ、何処かで見たことあるウマ娘だと思っていたら、グラスワンダーだ。そう、グラス・・・、グラス・・・。

 ぐ、グラスワンダーッ!?」

 

 「・・・ふふ。そう、グラスワンダーです。」

 

 何故気付かなかったのだろう自分。グラスワンダーと言えば黄金世代の一角、最強と名高いウマ娘の一人だ。同期と何度も白熱のレースを繰り広げ、その強さから栗毛の怪物とも呼ばれている。

 そんな有名ウマ娘を一目見て分からない自分の目か頭或いは両方、相当に腐ってるなと思う。

 

 「いやあの、ゴメン。忘れてた訳じゃないんだ。なんか自分疲れてる訳じゃないんだが、ぼーっとしてるみたいで・・・。」

 

 「いえいえ、お気になさらず。程々の気の緩みは大切ですからね〜。」

 

 「そ、それでグラスさんが何の御用で・・・?」

 

 「たまたまデジタルさんの走りを見かけただけですよ。勿論素晴らしい魅力があるんですけれど、それ以上に運命的な何かを感じまして。」

 

 「はぁ・・・。」

 

 運命的な何か?グラスとデジタルってこれと言った関わりは無いように思えるが・・・。

 

 「それにしても・・・。キレ、力強さ。何においてもまだまだ伸び代がありますね。これからが楽しみです。」

 

 「グラスがそう言ってくれるなら、デジタルはより気合が入ると思うよ。」

 

 「あたしがどうかしましたか?」

 

 いつの間にか設けたトレーニングをこなしたデジタルがオレの元に帰ってきていた。そしてグラスを一目見るやいなや、

 

 「ぐ、グラスワンダーさんッ!?」

 

 と奇しくもオレと同じ反応をしている。

 

 「ウマ娘ちゃんの目線を感じると思ったら、いやはや、黄金世代の方に見守りムーブされていたとはっ。ああ、デジたんもう死んでもいいや・・・。」

 

 目線でウマ娘の気配を察せるのが流石と言ったところである。近くにいても気付かなかったオレは、この点の違いに妙な安心感を覚えた。

 

 「・・・そうだ、グラス。良ければ君が今まで積んできたノウハウの一部をデジタルに教えてやってくれないか。」

 

 「ええ、構いませんよ。後継が力を付けるのは喜ばしい事ですからね〜。」

 

 「ひょえっ、良いんですかぁ!?ご、ご褒美が過ぎません?あたしが何をしたって言うんですか。くっ、全国の同士達よ、スマン。デジたんはここまでのようだ・・・っ。」

 

 「・・・とまぁ、四六時中意味不明な事言うし時には失神しちゃう事もあるけど、素直で真面目なところもあるから、どうか面倒見てやってくれ。」

 

 「ふふ、お任せください。・・・亀の甲より年の功とは言いますが、千里の道も一歩から。まずは基礎を固めるのが良いでしょう。」

 

 「悪いな、自分のトレーニングもあるだろうに。」

 

 「いえいえ、他人に教える事も回り回って自分の成長に繋がるものです。ウマ娘の頂点を目指す道のりにおいては、何事からも学ばねばなりません。」

 

 話していて感じるが、やはりグラスワンダーは格が違う。言動から貫禄という貫禄をひしひしと感じる。まだ歳端のいかない少女の外見とは裏腹に、オレよりずっと大人びている気がした。

 

 「・・・次のレースが、トゥインクルシリーズにおいて黄金世代最後の頂上決戦になるかと思います。」

 

 「次のレース?」

 

 黄金世代最後の頂上決戦。その大トリを飾るのに相応しい舞台となり得るレースと言えば。

 

 「有馬記念・・・か。」

 

 年内最後のGⅠにして日本国内最高峰クラスのレース。過去に数々のドラマを生み出したこのレースならば、なるほど。確かに頂上決戦の戦場にするには持ってこいだろう。

 

 「ライバルのスペちゃんは既にレース後にトゥインクルシリーズを卒業し、ドリームトロフィーリーグへの挑戦を決めています。スペちゃんは天皇賞秋、ジャパンカップを勝利し秋シニア三冠へ王手をかけている。一方の私は有馬記念連覇がかかっている。トゥインクルシリーズ、黄金世代最後の頂上決戦とは、そういうことです。」

 

 「なるほどなぁ・・・。」

 

 正直、このレベルになるとスゴさの実感が湧いてこなくなる。一つ胸を張って言えるのは、スペシャルウィークもグラスワンダーも、両者一歩も譲らない強さであるが故、どちらが勝っても納得の結果だと思えるだろう。

 

 「・・・あら、噂をすれば。」

 

 グラスの視線の先に目をやると、全力で手を振りながら近づいてくるスペシャルウィークと、プロレスラーさながらの余裕のある足取りで歩み寄ってくるエルコンドルパサー、そして痛めているのか足に包帯を巻いているセイウンスカイと何故かそれを背中でおぶってやってくるキングヘイローの姿が見えた。

 

 「うおっ、突然黄金世代集結か。」

 

 ふとデジタルに目をやると、予想通り声にならない声を上げて固まっている。彼女にとっては、いや、誰にとっても感無量の光景だろう。

 

 「こんな所にいた〜!あのねグラスちゃん、今から併走をお願いしたいの!私、有馬記念まで待ちきれなくて!ウズウズして仕方無いから、ね、お願い!」

 

 「あらあら、そんなに急がなくても、私は逃げも隠れもしませんよ〜?」

 

 「フッフッフ、グラァス!アタシからも併せをお願いしマース!」

 

 「エル、あなたはフランスから帰ってきたばかりでしょう?休養を取った方が・・・。」

 

 「ノンノン。フランスで鍛えたこの体、そうヤワじゃありませんっ!世代最強は日本で鬼の強さを見せるグラスでも怒涛の勢いを見せるスペちゃんでも無く、このエルコンドルパサーである事を証明してみせマ・・・。」

 

 「エ〜ル〜?誰が、鬼ですか。そこまで言うなら、良いでしょう。受けて立ちますとも。二人共、まとめて蹴散らして差し上げましょう。」

 

 「ひえっ・・・!」

 

 「私、とばっちりだよね!?」

 

 「セイちゃんはパスで〜。ご覧の通り、走れっこないからね〜。」

 

 「・・・スカイさん?目的地に着いた訳だし、そろそろ降りてもらっていいかしら?」

 

 「はぁ〜、キングの背中は気持ち良いな〜。もうすこ〜し、抱きついていたいな〜。」

 

 「・・・んもう!今回だけ、今回だけよ!・・・と言う訳で、私もパスするわ。スカイさん、足が治ったら絶対に容赦しないんだから!覚悟していなさい!」

 

 「おお〜、怖い怖い。」

 

 ライバルとはいえ、和気あいあいとしていてとても楽しそうだ。真剣にぶつかりあえた者がいたからこそ、この子たちは「黄金世代」に登り詰めたのだろう。

 

 「あ〜・・・。グラス、それならオレたちはいつも通り二人で練習するよ。」

 

 「いえ、この際デジタルさんも我々に混ざってみてはいかがでしょう?」

 

 「ま、まざ、まじゃ、まままままま、まっ!?」

 

 「落ち着け、デジタル。気持ちは分かるが、オレの手が折れるまでにその握ってる手を離してほしい。」

 

 なんとか振り解いて片手が粉砕されるようことは避けられたが、デジタルは依然、半狂乱状態である。

 

 「えへへ、デジタルちゃん・・・だっけ?・・・を、見てるとトレセン学園に入学したての頃の私を思い出しますね〜。右も左も分からなかったんですけど、地元では有り得ないくらいの沢山のウマ娘に囲まれて、すごく興奮したのを覚えてます。」

 

 「あの時右も左も分からない状態であったのは、皆同じハズです。それに比べたら・・・、今の我々は自信を持って成長出来たと言えるでしょう。」

 

 「スペちゃんの大食いっぷりも日に日に成長していったよね〜。」

 

 「だってぇ・・・、学園の料理がすごく美味しいんですもん・・・。」

 

 笑い声がグラウンドに高らかに響く。微笑ましいなと思うと同時に、再度デジタルに目をやると瀕死寸前の状態であった。

 

 「と、尊すぎ、る・・・。も、う、無理ぃ・・・。」

 

 マズイ。尊み供給過多で既に目が虚ろになっている。

 

 「併走はちょっとデジタルを休ませてからでいいか?その間に準備運動とかやっていてくれ。」

 

 皆は心良く了承してくれ、デジタルをなるべく彼女たちから遠ざけて落ち着かせる事にした。

 

 「ふう〜、さっきので一生分の尊みを味わった気がします・・・。」

 

 「オレも流石に、驚いた。まさか黄金世代の面々と直接見える事になるとはな。それも、オレたちがそこそこ有名ならまだしも、全くそうではないからな。」

 

 デビュー後すぐにダートから芝転向というやんちゃムーブをかました前科があるから、悪い意味でならそこそこ噂になっているかもしれないが。

 

 「いやあもう、本当に光栄過ぎて何と言えば良いか。併走のお礼に今まで掻き集めたグッズの一部を差し上げようか・・・。」

 

 「スポーツドリンクとかそういう普通の差し入れで良いと思うんだが・・・。」

 

 中には喜ぶウマ娘もいるかもしれないが、大多数が良い迷惑に感じると思う。

 

 「・・・よし、何とか落ち着きました。今度はなるべく彼の人たちの尊みパワーに耐えられるように頑張りましゅ!」

 

 「ああ、行って来い。良い経験になるハズだ。」

 

 既に準備運動を済ませたスペ、グラス、エルはスタート位置でデジタルを迎えた。

 デジタルが最内、エルが大外、他二人は中、レース内容は芝1600m右回りと言う事でスタートした。黄金世代はやはり圧倒的で、序盤から中盤と展開が進むほどデジタルは置いていかれ、三人がゴールする頃には七バ身以上の差が出来ていた。

 

 「はぁ、はぁ、ふぅ〜・・・。あはは・・・、マイルはやっぱりあまり得意じゃないなぁ・・・。」

 

 「スペちゃんは適性が長い所にありますからね。デジタルさんの適正に合わせて1600mにしましたが、スペちゃんには少々不公平だったかもしれません。」

 

 適正をデジタル有利に合わせて貰っても三着だったスペにあれだけ離されたのだ。デジタルは至って真面目に、普段通り迅速かつ冷静なコース取り、そして武器の末脚を繰り出していた。それだけに、力量差を痛感した。

 

 「ぬがあああああ!!!負けたあああああ!!!グラァス、もう一度!もう一度お願いしマァス!!!」

 

 「ですから、帰国したばかりなので休んだ方が良いと言っているでしょう?ただでさえ国を跨いだ移動は体への負担が大きいんですから。

 勝負はいつでも出来ますし、またの機会にと言うことで、今はデジタルさんの特訓にお付き合いしましょうか〜。」

 

 「と、ここでデジちゃんにセイちゃんからのアドバ〜イス♪スペちゃんみたいに沢山食べたら嘘みたいに勝てるようになるよ〜。」

 

 「もうっ、スカイさん!平気で嘘言わないの!」

 

 「いえ、それは本当です!ご飯を食べれば力が湧いていくらでも走れるようになるんですっ!」

 

 「それでもスペちゃんは食べ過ぎデース・・・。」

 

 「こらこら、すぐ脱線するんだから・・・。ご覧なさい、デジタルさんは既に次のトレーニングに向けて談笑することも無く準備しているじゃありませんか。初心忘るべからず、です。」

 

 オレからすると、どう考えてもデジタルが五人の尊みに耐えられなくて避難しているようにしか見えない。その証拠に、五人には背を向けていて見えないだろうが、胸を抑えてとても苦しそう(?)にしている。

 その後、生と死の狭間を往来しつつ、デジタルは五人に付き添われながらトレーニングを行った。教える側が五人もいればさぞ有意義な時間になるだろう・・・、と思っていたが実際は五人もいるせいで意見の対立が激しく、一時はトレーニングどころでは無かったのだった。

 

 「ここで、一気に末脚で抜き去るのよっ!」

 

 「いやいや、そこは普通もっと早めに仕掛けるべきでしょ。キング遅仕掛け過ぎ〜。」

 

 「セイちゃんは早過ぎですよ。外から様子を伺い、来たるべき時に抜け出す方がデジタルさんの適性と適合しているかと。」

 

 「どれだけ完璧なレース運びをしても負ける時は負けるんデス!理屈をこねくり回すより、他者を圧倒するパワーを付ければ無問題デェス!」

 

 「・・・エルちゃんはもう少し考えた方が良いんじゃ・・・。」

 

 「ふぐあああ、尊すぎか・・・。ここにいる人たち全員、天使に違いない・・・。」

 

 やいやい揉めながらトレーニングする内に日が暮れてきて、取り敢えずお開きと言う事で解散になった。

 

 「すみませんトレーナーさん、私たちのせいで、逆に足を引っ張るような事になってしまいました・・・。」

 

 グラスは耳を垂れ、丁寧に頭を下げてきた。申し訳ないという思いが痛いほど伝わる。

 

 「いやいや、勉強になった事が沢山あったよ。本当に有難う。」

 

 「そうですよ、五人は教科書に尊み・・・じゃない、一流ウマ娘の例として掲載されてもおかしくないくらい輝いてました!」

 

 「それなら良いのですが・・・。」

 

 「ああ、今日のトレーニングはデジタルの成長に大いに繋がると思う。」

 

 これだけ尊みで死にかけたら流石に耐性がついていると思いたい。今日のトレーニングだけで何回中止させようと思ったことか。

 

 「・・・そうだ、トレーナーさん!有馬記念応援に行きましょうよ!全日本ジュニア級ウマ娘優駿が終わった後ですし、余裕ありますよね?」

 

 「うん、問題無い。という訳で、グラス。君の言う、最後の頂上決戦。見に行くよ。」

 

 「・・・有難うございます・・・!後続のウマ娘たちに、黄金世代の一人として・・・。いや、ウマ娘の頂点を目指し精進し続けた者の一人として、恥ずかしくない姿を見せられるように、尽力致します。

 ・・・それではまたいつか。または有馬記念にて、お会いしましょう。」

 

 グラスは丁寧にお辞儀をした後、しずしずと去っていった。

 彼女たちは誰もが個性的で、トレーニングを振り返ってみればまるで台風のようだったが、それは非常に恵みのあるものだったと思う。デジタルもなんとかトレーニングに耐えきってくれたので何だかんだ言って万々歳であろう。

 

 「そう言えばデジタル、よく尊死しなかったね。」

 

 「ああ、その事なんですけど・・・。」

 

 デジタルはオレの腕を掴み、涙を浮かべながらぐじゃぐじゃになった若干幸せそうとも思える顔を向けてきた。

 

 「うおっ、どうしたっ!?」

 

 「もう、あだずぃ、無理でず〜っ・・・!と、尊みが体をかげめぐっで・・・。ぐはっ・・・。」

 

 溜まり溜まった尊みに耐えられなくなったのか、いや、既に限界を迎えていたが無理をして頑張った反動が来たのか、デジタルはその場に倒れ込んでしまった。

 ウマ娘との共同トレーニングは諸刃の剣。少なくとも、長いことやらせるとデジタルが尊死してしまう。

 

 「デジタルーーーッッッ!!!」

 

 すっかり油断していた自分を呪いつつ、顔面から激しく倒れたデジタルを抱えて保健室へと急いだ。保健室へ行く途中、出くわしたウマ娘に「またあの子保健室に運ばれてる」みたいな反応をされたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 




 正直デジたん実装はもっと先だと思っていたので完全に油断していました。
 出来る限り持てる石、財産を使ってデジたんをお迎えしたいと思います。

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