ウマ娘 ∼Antithesis hero∼ 作:Carboxyl
ネタがあるはあるで色々詰め込みたくなるものですね・・・。因みに次回はネタ切れ必死(の予定)なのでまた遅くなるかもしれません。ご了承下さい。
また、いつもより急いで書き上げたので誤字脱字や文章がおかしい所があるかもしれません。
その場合はコメントで報告して頂けると有難いです。
※現在書き直し中の作品です。完了まで暫くお待ち下さい。
夕日が地平線の向こうへと沈みかけた頃。選抜レースの全プログラムが終了し、トレセン学園の理事長である秋川やよいがマイクスタンドの前に立つ。
が、彼女は背丈が小さいが為にマイクに口が届かない。係のスタッフが慌てて補助台を持ってきた。このハプニングに、整列していたウマ娘達からくすくすと小さな笑い声が上がる。
補助台に乗り、理事長が「テステス」と呟く。少しざわめいていた会場が、これだけで一気に静かになった。
秋川やよいは見た目は可憐で華奢な女の子でそれを裏切らない言動が目立つ人なのだが、不思議とウマ娘達から慕われるオーラを放っているようで、先代も相当人気が高かったが、彼女自身も紛れもない人気を誇っている。
「えー、諸君!此の度の選抜レース、実に素晴らしいものであった!
努力が実を結んだウマ娘も、そうならなかったウマ娘も!皆これを糧に一流のウマ娘を目指して頑張って欲しい!
以上ッ!此れを以て、第530回トレセン学園主催選抜レースを閉会とするッ!」
理事長が「あっぱれ」と書かれたシルクの扇子を広げると同時に、大きな拍手が巻き起こる。色々あったが、彼女の言う通り素晴らしい日であったと思う。
何より、デジタルにとってグラスワンダーと戦えた事は今後の指標にもなるし、良い影響を与えてくれるハズだ。レース運びも完璧であったし想像以上の収穫と言って良いだろう。
さて、選抜レース自体は終わったが、コレに参加したウマ娘達はその後のイベントの方が大事と言っても良い。
それは、トレーナー達による直々のスカウトだ。
彼らの目に止まればその場で契約が可能。ベテラントレーナーともなると必然的に人気株となる為に中々このように実力を証明する場でしか契約を結べないので、皆必死になってアピールするという訳だ。
「まあ、デジちゃんはトレーナーさんのモノって決まってますから当然、野郎のスカウトなんて全部拒否に決まってるよねっ。」
と、ルーチェが何故か我が物顔で胸を張り、自信満々にそう言う。
「野郎て。お前口悪いな。あとオレの所有物じゃないし。」
「はぁ!?まだ契約していないんですか!?それとも、デジちゃんは不相応だから契約はやっぱりナシなんて言い始めませんよね、そんな事言ったらシバき上げますよ!!!」
「お、落ち着けって・・・。一応、デジタルの意見を尊重しようというだけだよ。
ほら、彼女に声を掛ける凄腕のトレーナーがいるかも知れないだろ?そしたら、デジタルはそっちの方が良いってなるかもだし・・・。」
「なりません。デジちゃんはあなたとの契約を心待ちにしているに違いありません今すぐ契約書にサインしてきて下さい。」
「・・・・・・・・・・・・。」
彼女の圧に押されたが、自身の意見を曲げるつもりも無い。そこで、そうしているように見せ誤魔化す作戦を思いついた。
「分かった、分かったよ。ただ、デジタルが解散したのに何処にいるのか分からないし契約書も取りに行かなきゃならないから、今日の所は解散な!」
ところが察しの良い事に、彼女はオレのスーツを力強く握りしめ、逃げさせてくれない。
「ダメですよ、忘れないうちにやらなくちゃ。私もついて行くので。さあ、さあ!」
「・・・仕方無いなぁ・・・。」
そういう訳で不本意ながらも仮ではない、本当の契約をデジタルと結ぶべく、ルーチェと共に彼女を探す事になった。
しかし契約書が手元に無いのは事実であったので、まずはトレーナー室に向かうところからである。
「──にしてもさ、何でお前はそんなにデジタルに拘るんだよ。絶対に、好意からとか単純な話じゃないだろう?」
歩きながら、予てからの質問をルーチェに投げかける。彼女は少ししんみりした顔を浮かべながら、「まだ、秘密かな」とだけ述べた。
「・・・教えられるだけ教えてはくれないか?」
「そうだなぁ・・・。・・・今私達のチームに所属しているウマ娘って、デジちゃんを除いたら私一人じゃないですか。」
「そうだな。」
「嘗ては仲間が数人居て、名門チームには全く及ばずとも和気藹々とした雰囲気はあったのに今やトレーナー室はすっからかん。
そんな状態がずっと続くのは、少し寂しいじゃないですか。」
「・・・そうだな。」
「言っちゃ悪いですけど、こんなチンケなチームに入りたいなんて言ってくれるウマ娘なんて探しても全然見つからないでしょ。
でもそんな所にデジタルちゃんが現れて。少し面倒事に巻き込まれたけど、お陰様でお話出来て仲良くなれた気がしたから、勧誘してみたって感じかな。
そしたらそれなりに前向きな返答が来たし、これはもう押すしか無いと思って。」
「なるほどな。・・・結構喋ってくれたけど、今話したのは本当の理由じゃ無いのか?」
「・・・まあ、嘘じゃないですよ。本当の事です。でも、もっと大きな理由もあって・・・。」
「そっちが秘密って話か。」
彼女は二度、大きく首肯した。しかしまあ、大体の話は理解出来たしオレ自身は満足出来た。秘密に関しては、後々彼女が話したくなった時に聞くと言うことで良いだろう。
その時だった。急にルーチェがビタリと立ち止まり、物凄い勢いで腕を振るいオレの口を塞いだ。当然、その勢いを殺し切れる訳も無く全力に近いビンタが口元を襲う。
肌と肌が激しくぶつかり合う破裂音が響き、オレはそのあまりの痛さに口を抑え悶えた。
「・・・唇切れた・・・。」
「え!?あ、ああごごごごめんなさいっ!そんなつもりは無くて・・・。いや、えと、取り敢えずしーっ!しーで!」
唇からつうと血を流すオレを見てバタバタと慌てふためいているルーチェが一番騒がしいまであるが、それはさておき彼女が立ち止まった原因であろうその視線の先を覗くように見た。
目立たない校舎裏の陰に、デジタルと、怪しげな金髪長身剛体の男が一人。何か話し込んでいるようだが、かなり遠くから彼らを発見した為にこれだけ騒いで気付かれなかった代わりにこちらもまた、彼らの会話が全く聞こえなかった。
「・・・もう少し近付いてみるか?」
「そうしましょう。デジちゃんって悪い大人に簡単に騙されそうな危なっかしさというか、子供っぽさがありますよね・・・。」
言わんとすべきことは分かる。
実際の所、デジタルはオレ達が思っている以上にしっかりしている為そのような事は起こりにくいだろうが、そうと分かっていても見た目──まるで小学生のような──からくる先入観、偏見が拭えないのかコロッと騙されそうな危うさを感じてしまうのだ。
いやそれだけではない。彼女は優しい。優し過ぎるところがある。他人に分け隔てなく接する態度が常軌を逸している所があり、その部分も漬け込まれそうだとオレ達に危機感を募らせるのだろう。
そして今、デジタルが話している相手は当にそのような大人なのか、そうでないのか。格好からは少なくともトレセン学園所属のトレーナーではないと思われる。
意外と警備がしっかりしているトレセン学園に入れている以上とんでもない部外者の可能性は低いが、やはり心配になるというもの。オレ達は気付かれない距離まで近付き、茂みから顔をちらりと覗かせ彼らの言動を見守った。
しかし、彼らの声にしっかり耳を傾け会話が聞こえてくる所まで近付いた時点でとある事に気が付いた。
「・・・おい、全部英語じゃないか。」
「全く何話しているか分からないんですけど・・・。」
会話の節々で知っている単語だけ聞き取れる時があるが、それだけでは全容を理解する事は出来ない。
と言うか、デジタルが英語を流暢に操れた事が意外過ぎる。驚きだ。一体何処で身につけたのだろうか?
「盗み聞きとは、人が悪いですよお二人さん。」
「いっ!?・・・・・・あ、ああ、グラスワンダーか・・・。」
「び、ビックリした〜・・・。」
全く物音がせず気配を感じなかっただけに、急に背後に現れた彼女にオレ達は声を殺すのも難しい程に腰を抜かしていた。
「状況が状況だけに、発言も合わさってスパイが私達を処分しに来たのかと思った・・・。」
「処分て。それは大袈裟じゃないか?」
「まったく・・・。どちらかと言えば、コソコソと人の話を聞いているあなたたちの方がスパイみたいですよ。」
「ハイ。返す言葉もございません。」
「・・・そう言えば、グラスワンダーはどうしてここに?」
「私は選抜レースで拝見した皆様の走りにアドバイスが出来ればと思い一人一人回っていたところだったのですが、既に先客が居まして。」
グラスはオレ達から視線を外した。オレはその視線を追いかけ、デジタルと謎の男が視界に入る。
グラスの話し方から考察するに、彼らは随分長い間話しているようだ。トレセン学園のトレーナーでないならば、それ程の長話をする必要がある立場の者とは一体何だろうか。
日本語であれば情報を拾えただろうが、会話が全て英語で行われている為にそれが不可能に近い。このまま指を加えて眺めているしか無いのだろうか。
その時ふと、オレの頭に妙案が浮かんだ。
「グラス、彼らの会話を少しでも聞いていたりしないか?」
記憶違いでなければグラスワンダーは外見も中身も、何もかも根っからの大和撫子のように思えるが、実は生まれ育ちは日本では無く、アメリカからの帰国子女で英語はペラペラだったハズだ。
「・・・私もここに来たばかりですので断片的にしか聞き取れていません。ですが、デジタルさんと話している相手が何者なのか、今何を話しているのかという大凡の事は教えられそうです。」
やはりそうか。口ではオレ達の事を悪く言っていたが、さしずめデジタルを見つけ会話の内容を盗み聞きしていた所にオレ達が水を差してしまった、というところだろう。
「決して、盗み聞きではありませんからね。」
推察が図星だったのか、彼女はオレに目線をしっかり合わせ威嚇のような笑顔を向けてきた。
念押ししなくても、彼女を怒らせると何をされるか分からないし意味も無いので周囲にバラすような事はしない。
「まず、彼が何者なのかは分かるか?」
オレは今一番知りたい質問を投げかけた。グラスは徐ろに小さく頷く。
「彼はアイルランドの人で、『クレイモア』の者だと仰っていました。」
「ク、クレイモア!!?」
クレイモアとはアイルランドを拠点として欧米諸国やオーストラリアなど世界中で活躍するウマ娘を排出し続けている、ウマ娘や彼女らに携わるトレーナーや関係者なら知らぬ者はいない超有名企業だ。
企業の方針もあって数々のレジェンドウマ娘達がクレイモアに在籍しており、次世代のウマ娘達の育成に力を注いでいる。その実績は圧倒的で、類を見ない。
「・・・クレイモアの人がデジちゃんに何の用なんだろう。」
「まあ、考えられる可能性は・・・。」
そこまで言いかけてオレは口を閉じた。ルーチェが酷く不安そうな表情を浮かべていたからだ。その理由を何となく察したオレは言葉を選ぶ為に話を切ったのだった。
「・・・いや、クレイモアとは言っても日本への進出は足踏みしてるし持っている情報が少ないだろう。
たまたま見かけたデジタルにトレセン学園や生徒の事について詳しく聞いているのかもしれない。」
「・・・・・・・・・。」
その場で適当に思いついた苦し紛れのものだが、割とよく出来た見当違いだと思った。グラスの反応から見るに当然そんな訳が無いのだが、彼女もまた何かを察したのかオレのトンチンカンな推察に対して何も言わなかった。
「・・・そう、ですよね!そうですよね!」
ルーチェは元気を絞り出すように言った。
一応デジタルとは仮契約を結んではいるが、所詮は仮だ。世界のクレイモアともなれば、誰しもオレのようなルーキートレーナーと契約を結ぶより、ほぼ確実に成長が見込めるフロンティアを求めて海外へ旅立つ事を選択するだろう。
それに薄々気付いているが故に彼女は焦燥を感じているようだ。
「あ、どうやら会話が終わったみたいですよ。クレイモアの方が立ち去って行きました。」
去りゆくその背中に向かって、「See you!」と満面の笑みを浮かべて手を大きく振り見送る。
・・・この態度を見るに、もしや。
「さてと・・・。・・・あの、御三方は先程から何を・・・?」
「・・・え、もしかしてバレてた・・・?」
デジタルの視線は完全にこちらを向いており、隠れる必要も無くなったオレたちは茂みから出て彼女の元に歩み寄った。
「そりゃもう、バレバレですよ。あたしのウマ娘ちゃんセンサーを舐めてもらっちゃあ困りますねっ。
・・・と言うか、声も普通に聞こえてましたしね・・・。」
「・・・そういえばウマ娘って人よりずっと耳が良いだったな・・・。」
「ごめんなさいデジタルさん。盗み聞きをするつもりは無かったんですが・・・。」
「・・・息を吐くように嘘つくじゃないですか。」
その刹那、グラスはルーチェの方を素早く振り返り、笑顔で微笑みかけてきた。
オレには分かる。いや、誰にでも分かるだろう。目が笑っていない。無言の圧力とはまさにこの事だ。
「ま、まあ。それで結局どうだったんだ?」
ルーチェが再び顔を強張らせる。仕方無いだろう、とオレは彼女にアイコンタクトを送り、首を振った。
しかし、意を決して話題を切り出した割には、デジタルからの回答はトンチンカンなものだった。
「・・・?どう、とは?」
「え、いやそのだから・・・、なんだ。誘われたんだろう?クレイモアの人からのオファーを受けたんじゃないのか?」
「ええ、まあ・・・。」
「まあって・・・、なんだよ。もっと嬉しそうにしろよ。あの天下のクレイモアだぜ?
良かったじゃないか、良い契約相手が出来て。」
デジタルはオレの言葉に目を丸くした。・・・さっきからなんなのだろう、この反応は。まるでオレ達が盗み聞きしていたのを知らなかったかのような言動だ。
「・・・え?あの──」
「そうだよ、もうちょっと嬉しそうにしてよ・・・。」
さっきまでオレの背に隠れるように控えていたルーチェが口を開いた。その目からは大粒の涙が溢れており、それを見たデジタルは何かを言おうとしていたが、慌てふためき完全にパニックになっていた。
「外国に行っちゃうんでしょ?トレーナーさんとの契約を蹴ってさ。
まあ、そうだよね。超一流の育成組織から声掛けられたら誰だって飛びつくよね。私だってそうしてる。
・・・でも、デジちゃんならさ。トレーナーさんを支えて、この悲惨なチーム状況を救うならデジちゃんだと思ってたの。だから、だから・・・。」
言葉を詰まらせ、ルーチェはその場に膝から崩れ落ちた。顔を覆い、もう会話もままならない程度に号泣している。
その時になってオレは、漸く気が付いた。きっと彼女がデジタルに固執していた理由は、その才能でチームの再生に導けると期待していたからなのだろうと。
オレはこの状況どうするんだとデジタルに目配せする。が、彼女は彼女でまごついており、会話が出来る状況ではない。
そこでオレ達の会話を見守っていたグラスが、徐ろに口を開いた。
「・・・お二人とも。せっかち過ぎますよ。」
「・・・え?」
それは、どういう意味だと聞き返す前に、グラスはデジタルに向き直り、言葉を続ける。
「デジタルさん。ちゃんと、お二人に自分の口で説明しましょう。」
「・・・うあ、はい・・・。
ええと、その・・・。このような雰囲気の中切り出すのも憚られるかなと思ってすぐには言えなかったんですけれどもぉ・・・。」
その時、グラスの激が飛ぶ。
「回りくどく言わないっ。単刀直入に!」
「ひゃ、ひゃいっ!
実はクレイモアの方からの契約は丁重にお断りさせて頂きました本当にスミマセン生きててスミマセンッッッ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
暫しの間、閑古鳥の声が聞こえてきそうな程辺りが静寂に包まれた。
「え、じゃあ何であんなに別れ際に、ニコニコ笑顔でクレイモアの人を送り出したの・・・?」
「・・・礼儀?ですかね・・・。」
「・・・じゃあ、デジちゃんはクレイモアよりトレーナーさんを選んだってこと・・・?」
「そう、なりますね・・・。いえ、そうです。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は、はは・・・・・・・・・。」
何だったんだ、この時間は。
オレは急に全身の力が抜け、繰り手が無くなったマリオネットのようにその場に崩れ落ち、ぶっ倒れた。
「え、ええええええええ!!?トレーナーさん!?大丈夫ですかぁ!!?」
デジタルがすぐ側にやってきて耳元で大声で叫ぶ。返事は辛うじて出来るが、もう一歩も動けそうにない・・・。
「トレーナーさんっ!トレーナーさんっ!!!あたしの声聞こえてますかっ!!?」
「あ、ああ・・・。大丈夫・・・。」
「・・・あれっ!?ルーチェさんも何だか心が虚空の彼方へって感じで生気を感じないんですけれどっ!?」
・・・どうやら、ルーチェもオレと同じらしい。
拍子抜け。ここまでこの状況に似合う言葉はあるだろうか。
「まあまあ・・・、一大事ですね〜・・・。」
「いやいやいや超一大事ですよ!?お二人共、しっかりして下さい!!!
デジたん一人じゃ、二人揃って看病なんて出来ないですよぉーーーッッッ!!!」
こうして一時はどうなるかと思ったデジタルの去就だが、山あり谷ありでオレの・・・。いや、チーム『アークトゥルス』の正式メンバーになることで決まった。
もう散々、耳にタコが出来るほどしてきた話だが、デジタルにはポテンシャルがある。ルーチェの願いを叶えられるよう、チームの盛り上げ役として大きな期待を寄せざるを得ない。
因みに後から聞いた話だが、この時のデジタルの絶叫が学園中に響き渡り、オレとルーチェは集まってきた野次ウマ娘達の協力もあって、保健室に運ばれたそうな・・・。