青金石の輝きを   作:華燈始

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4話、一度書き終わって投稿予約までしたんですが、内容に納得いかなかったのでプロットから全部書き直していたら、3話から時間が空いてしまいました。


4,同僚

ラズのトレーニングを開始してから、二ヶ月と数週間が経過した。 今のところ、小さなアクシデントもなく、計画通り順調に彼女の育成を行えている。

ただ、これは私がよくやっていると言うよりかは、ラズの才能が凄いと言う方が正しいだろう。

私が提案したトレーニングに、文句一つ言わず黙々と向き合い、体調やメンタルの不調をおこさず、日々成長を続けているのだから、本当に凄まじい才能を秘めた原石だ。

 

昨日より今日、今日より明日と日が経つにつれ能力を伸ばしていく彼女を、こんな間近で見ていられるというだけで、私は幸福感で満たされる。 まだまだ、彼女のレース人生は始まったばかりだが、すでに私はラズと契約できてよかったという気持ちで一杯だ。

 

今日もまた、ラズとのトレーニングを行っているのだが、その最中、私は同じくトレーニングコースの外にいたトレーナーと思われる人に話しかけられた。

 

「初めまして。 どうです? ウマ娘の調子は 」

 

優しそうな、穏やかな笑顔を浮かべて話しかけてきたのは、ツーブロックのオールバックスタイルの髪型をした、私よりも年上の男のトレーナーだった。

 

「いい感じですね。 今からデビュー戦が楽しみなくらい 」

 

素直な気持ちでそう返事をすると、男は少し大袈裟なくらい体を動かして

 

「へぇ! そりゃ凄い。 できればうちの娘とは当たらないでほしいですね。 ……距離適性、教えてもらっても? 」

 

なんと言うか、相手の話す気というのを引き出すのが上手い人だと感じた。

無意識なら好感が持てるし、考えてやっているなら末恐ろしい人だ。

 

「短距離~中距離くらいと考えています。 デビュー戦の距離はまだ決めてませんが 」

 

「マイラーって感じですかね? うちの娘のデビューは中距離を考えてるんで、その時はお手柔らかにお願いしますよ 」

 

中距離か……。

ラズが走れない距離ではないし、スタミナも順調についてきているのが、不安がないわけではないな。 彼にはまだ決めていないと言ったが、デビュー戦は短距離かマイルが妥当だと考えているから、彼のウマ娘と当たることはひとまず無さそうだ。

 

そんな風に、一人で考えていると、男はコースを走っているウマ娘達の中から、一人を指さして

 

「見てください。 あれ、今向こう正面を抜けた辺りにいるオレンジ色っぽい髪色をしたウマ娘。 あれがうちの娘ですよ 」

 

そう言われ、彼の指がさす方を見てみると、確かに彼が言った特徴通りのウマ娘が走っているのが見えた。

背中に何か、大きくて白い物を背負いながら走っているけど、あれもトレーニングの一環なのだろうか? 聞いてみよう。

 

「あの、彼女が背負っている物はなんですか? 重り? 」

 

そう尋ねると、彼はアチャーといった様子で苦笑いし、右手で額を覆いながら

 

「うちの娘……ちょっと変わった娘でしてね。 占いとか、そういった類いのものを随分熱心に信じているようで、背負っているあれは、運気を上げるための招き猫だそうです 」

 

恥ずかしながら、といった口調でそう答えた。

 

「あー……そうだ、うちの娘も見てもらえません? ほら、あそこを走っている青毛のウマ娘がそうなんですけど 」

 

なんだか、居心地の悪い空気を感じ取った私は、とっさに話題を彼のウマ娘から、ラズのことに切り替える。

どうか、場の空気よ戻れ! と心の中で祈りながらラズを指さした。

 

「へぇ、青毛……。 珍しいですね。 青毛。 それに、体もスラッとしててすごく速そうですね 」

 

なんとかすんでのところで話題を切り替えることに成功した。 気まずい空気も、これでどうにかなるだろう。

 

ホッと、胸を撫で下ろして、ふと腕時計に目をやると、ちょうどラズの休憩時間と定めていた時間になろうとしていたので、手を振って彼女に合図を送った。

問題なく、ラズは私の合図に気づき、足を緩めて息を整えながら、ゆっくりとこちらに向かってきている。

 

「休憩ですか。 うちの娘もそろそろ休ませますかね。 それじゃあ失礼させてもらいます。 今日はお話ありがとうございました 」

 

最後まで、腰を低くして私と話続けた彼は、そう言ってコースの方に歩みを進めると、それを見つけた彼の担当ウマ娘の頭を撫でながら、スポーツドリンクを手渡したのだった。

 

「トレーナー……あの人誰? 」

 

水分を補給し、息も落ち着かせたラズが、私に尋ねる。

そう言えば、彼と彼の担当ウマ娘の名前を聞くのを忘れていた。 急いで聞きに行こうと思い、彼らがいた方を確認したのだが、すでに他のトレーニング場所に移ったようで、その姿を見つけることはできなかった。

 

「あの人も私とおんなじトレーナーだよ。 私より年上っぽいけどね 」

 

そう伝えると、ラズは「ふーん 」と自分から聞いておきながら、あまり興味がないと言わんばかりの無頓着な表情でこたえた。

 

……頭、撫でてみたいな。

 

ラズと契約してからというものの、一つもスキンシップというものをとったことがなかったのだが、目の前でああにやられると、自分もやってみたくなるのが人の性だろう。

加えて、いつもマイペースで中々デレた顔を見せてくれないラズが、頭を撫でることによってどんな顔をするのかというのも大変気になる。

 

思い立ったら即、決行。

 

ぼーっとした様子で、どこかを眺めているラズの頭に、ポンと右手を置き、優しく頭を撫でてみる。

さあ、どんな反応をするか。

 

「トレーナー? どうしたの? 何か嫌なことでもあった? 」

 

ラズは私の方に振り返ると、何事だろうか?といった面立ちで、彼女は私を見つめた。

 

「……ううん、なんでもない 」

 

私が思っていたような反応を見ることはできなかったが、まぁいいだろう。

 

私はしばらく彼女の頭を撫で続けてから、トレーニングを再開させるのだった。

 

 

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