青金石の輝きを   作:華燈始

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6,理事長室へ

たづなさんに連れられて、たどり着いたのは理事長室前。 たづなさんは重厚な両開きの扉の片方を開けると

 

「どうぞ、お入りください 」

 

片手を室内に向け、私に入室を促したのだった。

 

「失礼します 」

 

ドクドクとなる心臓の音で、緊張感を感じながら、私は理事長室へと足を踏み入れる。

室内は灯りがついておらず、部屋の奥にある窓からさす外の光によって、薄暗い状態となっており、私が室内にいるものと考えていた理事長の姿はそこにはなかった。

 

「理事長は、本日お仕事の方で地方へ出てらっしゃいます 」

 

そう言いながら、たづなさんはパチパチっと電気のスイッチを入れる。

 

理事長って、私がトレセン学園に来たばかりの頃に一度だけ顔を見たことがあるけど、確か中等部の娘達と同じかそれより下くらいの年だったはず……。 それなのに理事長業務に地方への出張をこなすとは、中々大変だなぁ。

 

とぼんやり考えていると、目の前でたづなさんが向かい合って置かれているソファーの片方に右手を向けて

 

「どうぞ、お座りください 」

 

にこやかな笑顔でそう言ったので、私は素直にその言葉に従いソファーに腰をかけると、たづなさんは私と対面するように反対側のソファーに腰をおろした。

 

「お茶の一つもお出しできず、申し訳ありません 」

 

座るなり、彼女はお茶を出せないことに対する謝罪を行ったが、すぐさま私は「お心遣い、ありがとうございます 」と返す。

表情や態度には出していないが、私は現在内心けっこうビクビクしている。

理事長秘書という、学園内においてナンバー2レベルの権限を持つ彼女から直々に呼び出されたのだ。 会社で例えるなら、あと少しで入社から二年目になるぺーぺーが、副社長に呼び出しをくらったようなもの。 緊張しないわけがないのだ。

 

私は部屋に入る前から、口元をキュッとしめて平静を装い続けているわけだが、流石理事長秘書の観察眼というべきか、私の緊張を察知したたづなさんは、笑顔のまま

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ 」

 

と切り出した。

「今日熊谷トレーナーをお呼びしたのは、トレーナーさんが担当ウマ娘と上手くやっているかを確認するためです。

新人のトレーナーさん達は、彼女達との付き合い方に迷いを感じる方が毎年多いので、こうして面談をして、相談に乗っているんですよ 」

 

そのように説明した。

 

なんと言うか……凄い配慮だ。 新人トレーナーってだけでも、そこそこの人数がトレセン学園にはいるというのに、それらの悩みを毎年、一人でさばき続けているなんて。

こんな親切をされたら、もうたづなさんには頭が上がらない。

 

「どうですか? 何か担当ウマ娘のことで、困ったことなどありませんか? 」

 

彼女に優しくそう尋ねられ、私はラズと契約してからこれまでのことを大雑把にだが振り返ってみることにした。

 

 

……。

………。

…………。

……………。

………………。

 

 

「特に無いです 」

 

頭をひねって、出てきた答えがこの一言だった。

 

別に、無理をして無いと言っているわけではない。 ラズに対して『これは困る』とか、『これはどうすれば?』と思うようなことが、本当に無いのだ。

ラズは、はじめの頃こそシエスタをしていて連絡が取れなかったり、トレーニングに遅れたりといったことがあったが、今ではトレーニングのだいぶ前にトレーナー室へ来て、そこでシエスタをするようになったので遅刻は無くなった。

トレーニング指示についても素直に従い、私が想定していた、あるいはそれ以上のパフォーマンスを毎回見せてくれる。

これといった問題行動もう見当たらず、私とラズの関係がギクシャクとしたことはこれまで一度も無い。

 

ラズは、全くもって手のかからないウマ娘なのだ。

 

「確か……熊谷トレーナーが担当していたのは、中等部のセイランラズライトさんでしたね。 一年の 」

 

「はい。 ラズと契約しています 」

 

すると、たづなさんは顎に手を当て数秒の間考え込み、再び口を開く。

 

「ラズライトさんは、クラス担任やその他教員の皆さんからの評価も高い娘ですから、手がかからない感じですかね 」

 

「そうだったんですね…… 」

 

たづなさんの口から飛び出した言葉を聞き、ラズは私以外の人にもちゃんとした態度で接しているのだと知って感心する。

なんだか、自分の娘の話をしているような気分だ。

 

いつの間にか、緊張が吹き飛んでいた私は、有頂天になりながら、たづなさんの次の言葉を待っていたのだが、聞こえてきた彼女の声は先程より小さく、重いものだった。

 

「……ラズライトさんから、何か特別なお話をされましたか?」

 

急な声のトーンの変化で、思わず肩をビクッと震わせてしまったが、たづなさんが話した「特別な話」というものに心当たりがないことに気づき、頭の上に?マークが浮かび上がる。

「……聞いて無いんですね 」

 

少し前まではあったはずの笑顔は、たづなさんの顔から無くなり、厳しい表情で彼女はそう漏らした。

 

「はい。 特に何も 」

 

私が答えると、たづなさんはもう一度、今度は目を瞑って十秒以上考えてから言葉を発した。

 

「この事は、担当トレーナーであるあなたも知っておかなければいけないことです。

彼女がどのような理由であなたに話していないのかはわかりませんが、私から話させてもらいます 」

 

そう言うと、たづなさんは立ち上がり、扉の方へ足を進めると、ガチャリと鍵を閉め、そのまま窓のカーテンまでも閉じてから改めてソファーに座り直した。

その様子を見て、私はこれから話される内容は、とても秘匿性が高いものなのだと理解し、ゴクリと唾を飲んだ。

 

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