青金石の輝きを   作:華燈始

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7,真似

「彼女は、セイランラズライトさんはトレセン学園に在籍できる期間が決まっているんです 」

 

私は、たづなさんの口から出た言葉の意味を理解できず、固まってしまう。 彼女が発した言葉が、頭の中でゲシュタルト崩壊するように、ぐちゃぐちゃに崩れるのだ。

 

「━━え? 期間が決まってる? 一体、どういうことですか?」

 

ようやく理解が追い付くと、私は自分が頭の中を巡っていた言葉がそのまま口から漏れ出てしまう程、混乱していることに気づいた。

 

「どうやら、ラズライトさんの親族の中に彼女がトレセン学園に通学することをよく思っていない方がいるみたいで、推薦入学の段階ですでに在学期限を定められたらしいんです 」

 

「そ、そんな……じゃあラズは、ラズはいつまでトレセン学園にいられて、学園を出たらどこに行くんですか!? 」

 

言葉の勢いのまま、私はソファーから立ち上がり、正面に座るたづなさんに詰め寄る。

 

「期限は三年。 ラズライトさんがトレセン学園に在籍できるのは、中等部の間だけという事を聞かされています。

その後、彼女がどうなるのかは流石に教えてもらえませんでした 」

 

中等部まで……。

トゥインクルシリーズなら、クラシック級までしかラズは走れない……。 私はラズと契約したその日から、ずっと長い時間を彼女と過ごして、成功と挫折を共に共有し合い、今よりもっともっと速くなった彼女と栄光を勝ち取る。 勝ち取れると想像していたのに……。

 

身体中から力が抜けていき、再びソファーに腰を下ろすことになった私は、足元を睨み付けながら震える口を開く。

 

「……どうにか、なりませんかね? 」

 

「彼女の保護者が決めていることなので、我々ではどうしようもありません 」

 

床の方を向いているため、たづなさんがどんな表情でそう話したのかは見えないが、その声はとても重く、低く、嘆いているように感じられた。

 

「……熊谷トレーナー 」

 

私達の間に僅かな沈黙が訪れた後、たづなさんが小さく口を開いた。

 

「ラズライトさんは、トレセン学園にいられる期間が決まっています。

でも、彼女がレースにかけている思いは他のウマ娘と変わりありません。

どうか、彼女が悔いを残すことなく三年間を走りきれるよう、日々サポートしてあげてください 」

 

「…………はい 」

 

たづなさんにそう返事をした後も、私はそこから動くことができなかった。 私に気をつかってか、彼たづなさんもソファーから立ち上がらず、十分程の間、室内は静寂に包まれた。

 

 

 

「……私、ラズと話をしてきます 」

 

たづなさんにそう告げ、私はソファーから立ち上がる。 すると私と同じく座ったまま沈黙していたたづなさんも、少し遅れるように立ち上がると彼女は何も言わないまま部屋を出る私の背中を見送った。

 

理事長室を出た私は、ひたすらに校内を走り回り、ラズを探した。

私は、トレーニングが無い日にラズがどこでどう過ごしているのかを知らないため、当てずっぽうに様々な場所を探すしかなかったのだ。

 

理科実験室、家庭科室、和室、粟屋トレーナーとマチカネフクキタルと別れた図書室など、校内の施設をくまなく探し尽くしたがラズの姿はどこにもない。

昇降口から外へ飛び出し、トレーニングコースやグラウンドを見てもトレーナーとトレーニングに励むウマ娘達しかそこにはいなかった。

 

走り続け、息があがってふらふらになりながら、せめてここにいてくれという思いで、私は自分のトレーナー室の扉を開く。

 

「あれ? トレーナー、今日はオフでしょ? どうしたの? 」

 

中のソファーで寝そべるラズの姿が目に入った時。 私の心は、喜びや安堵などの感情が混ざり混ざってどうにかなりそうだった。

 

「ラズ、私に黙っていた事があるよね? 」

 

彼女の深海のような深い青色の瞳をじっと見つめながら、私は語りかける。

すると、ラズは視線だけを下に向け、申し訳無さそうな悲しげな表情をしたまま

 

「……ごめん 」

 

と一言、謝罪の言葉を口にした。

 

しかし、私は彼女に謝ってほしいわけではない。 なぜ話してくれなかったのか、その理由を聞きたいのだ。

 

「どうして、話してくれなかったの? 」

 

彼女に優しく尋ねると、ラズはばつが悪そうな顔をしたまま数秒間沈黙した後、小さく口を開いて

 

「……気を使ってほしくなかったから 」

 

ぼそりとそう呟いた。

「他の娘達と同じように、高等部まで走り続けられる娘達と同じように接してほしかったから。

……だからずっと黙ってたんだよ 」

 

やや下の方を見つめる彼女の瞳からは、今にも雫が溢れ落ちそうなほどうるうると涙が溜まっていた。

どういう理由からかはわからないが、彼女は特別扱いされることを拒んでいるようだ。 それ故に、本来なら事前に話しておくべき事情をずっと黙っていたと。

 

「……特別扱いなんてしないよ 」

 

うつむく彼女の頭の上から、私はそう言葉を落とす。

 

「レースの世界に、特別扱い(・・・・)なんてものはない。

あるのは勝つか負けるかの結果だけ。

歯を食い縛って続けた努力と、誰にも負けないという強い信念によってもたらされた、結果だけが残る世界。

それがレースの世界だよ 」

「でもね、結果が求められるからこそ、他の娘達より期間が短いからこそ、同じようにやってたら窮屈に感じない? 」

 

その言葉を聞くと、ラズは静かにゆっくりと私の方へ頭を上げた。

 

「短い間だけって嘆くよりも、短い間だったんだって思えるほど楽しんだ方が、素敵でしょ?

目一杯楽しんで、全部出しきった後なら、あー楽しかったって笑えるでしょ? 」

「私達ならきっと、最後に笑えると思うの。

だって私とラズは、運命的に出合ったんだから 」

 

そう言って私は、あの日の夕方の情景を頭の中で思い起こしながら、ラズに向かって手をさしのべる。

ラズは無言のまま、さしのべられた手をとる。 私は彼女の手を握ってから自分の方へと引き寄せ、静かに微笑んでみせるのだ。

 

あの日見た、宝石のような笑顔を真似て。

 

 

 

 

 

 

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