日を改めて、私はラズに彼女の不規則な睡眠時間について、理由を聞いてみた。 どうやら、毎日夜遅い時間まで読書をしていたらしい。
どうやら、ラズは中等部までトレセン学園に在籍した後、ラズは一年の二学期にレース留学した、彼女の祖母が運営しているイタリアの学園へ転校してしまうらしい。 なので、日本にいられる内に日本語の本を目に焼き付けていたんだとか。
レース留学を行った理由は、ラズが転校予定の学園の決まりで、『海外の学園から転校する生徒は、一学期以上の留学経験が必須』とされているからだそうだ。 運営者の孫娘だからといって、決まりは決まりという事で、デビュー前の時期にさっさと済ませてしまったらしい。
何はともあれ、夜更かしは体に良くないので、ラズには夜は寝て、日中読書をするように約束させた。
さらに、ラズと同じクラスであるマチカネフクキタルとも連絡を取り、教室での彼女の様子を報告してもらうことで、彼女の睡眠時間を管理することにした。
結果、ラズは私との約束を律儀に守り続けたのか、フクキタルからは休み時間に寝なくなったとの報告があがり、トレーニングでの動きにキレが増した彼女は、日々の成長幅をさらに伸ばすこととなった。
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そして━━━
ついにこの日がやって来た。
セイランラズライトの待ちに待ったデビュー戦。 中山レース場の芝、1600m。
私は今、ラズが着替えを行っている控え室のベンチに腰をおろして、今日のレースの出バ表を何度も何度も読み込んでいる。
ラズと毎日トレーニングを続けてきて、彼女の才能や実力というのは疑う余地のない、本物だということはわかっているのだが、いざレース本番となると、私が走るわけでもないのに、本当に勝てるのか心配になってきた。
「よし! 着替え完了! 」
そんな私を尻目に、制服から体操着へと着替え終わったラズは、いつも通りの余裕綽々とした笑みを顔に浮かべると
「トレーナー、絶対一着とってくるからね! 」
自信満々にそう宣言し、意気揚々と扉を開けて行ったのだった。
(私が心配してても関係ないか。 こうなったらとことん、ラズを信じることにしよう)
いつもと変わらないラズを見て、心配な気持ちが少しだけふっ切れた私は、ガチガチに固まっていた口角をフッと上げると、観客席へと足を進めるのだった。
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『さあ、とうとうこの日がやって来ました。
メイクデビューです。
新たな時代を担うスターウマ娘が誕生するでしょうか。
天候は雲がほとんど見えないほどの晴天、ターフは良馬場となっております。
ゲートインが始まりました。
一枠一番━━━ 』
携帯に繋いだイヤホンから聞こえるラジオ実況の音声に耳を傾けながら、私は中山レース場のコースをまじまじと見つめている。
二コーナーから三コーナーにかけて、大きく膨れていて特徴的な形をしたコースだ。 途中の下り坂が長く、最後の直線が短いのもここの特徴だろう。
『ゲートイン完了。
出走の準備が整いました 』
考えているうちに、このレースに出走する十六人のウマ娘達全員がゲートに入り終わったらしい。
ラズのゲートインを見逃してしまった事を悔やみつつ、スターとは見逃すまいと私は目と耳に全神経を集中させる。
『ゲートが開かれました!
二番ササトマリが少し出遅れたか!?
その他のウマ娘達は揃って綺麗なスターとをきりました 』
ラズはどこを走っているのだろう。
前のめりになりながら、目を凝らして彼女の姿を探すが、私が見つけるより先に実況がラズの名前を口にした。
『二コーナーまわって先頭に立ったのは一番人気、七番セイランラズライト。
後ろに二バ身の差をつけて、ハイペースでレースを引っ張ります 』
実況の通り、後続からやや離れた位置を走る真っ黒の青毛が目に映った。
ラズには、ある程度体力を維持しつつ好位置をキープするように先行策でいこうと話をしたのだが、実力の差か作戦の兼ね合いかは不明だが、まるで逃げのような形となってしまっていた。
『レースは向正面から三コーナーに入ります。
先頭は依然、七番セイランラズライト。
続く十番、カイロスマイルとの差は四バ身にまで広がっております。
そのすぐ後ろは混戦状態。
三番手についているのは━━━ 』
ラズにはこれまで、先行策での走り方を意識させトレーニングを行ってきた。 前に数人いて、その後ろを追いかける事を想定していたのだ。
だが目の前のレース状況はどうだろう。 彼女の前には誰もおらず、ラズが先頭を走っている。 そうなると、彼女のペース配分が心配になってくる。
最後までスタミナを残せるかどうか……。
ハラハラする気持ちを抑え、手を合わせてラズの勝利を祈りながらレースを注視していると、私の周り、いや観客席全体からどよめきのような声がわきはじめた。
『先頭、七番セイランラズライト!
四コーナーを周り最後の直線へと入りますが、誰も追いかけていません!
これこそ、まさしく一人旅!
直線の長さなんて全く関係なし!
圧倒的な実力を見せつけ、他者の追随を許さないまま今、ゴールしました!! 』
どうやら、全て私の杞憂で終わったみないだ。
やはり、ラズの実力は私だけが認めているようなものではなく、本物だったのだ。 少なくとも、同期の中では抜きん出ていることが、今日のレースで証明された。
あとは、彼女がこのレースをちゃんと楽しめたかが重要となってくるが……。
ゴール板を通過して、順位が確定した時に彼女が見せた弾けるような笑顔を見れば、そんな事一目瞭然だろう。
(さて、ラズを迎えに行くか)
観客席に向けて笑顔で手を降るラズを横目に、私は控え室とコースを繋ぐ地下バ道へと向かった。
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「トレーナー! 」
遠くの方から、私を見つけたラズが駆け寄ってくる。
一レース終えた後だというのに、まだまだ体力が残っているのだなと感心しつつ、両腕を広げて彼女を迎え入れる準備をしておく。
「はい、お疲れ様 」
2mくらい手前から、私の胸に飛び込んできたラズを捕まえて、事前に用意しておいたタオルで汗でびっしょりと濡れている彼女の頭を拭きながら、労いの言葉を投げかける。
「今日のレース、どうだった? 」
あらかた、汗を拭き取り終わったところで、ラズにそう尋ねてみる。
すると、ラズは私の右肩に乗せていた顔を上げると、にっこりと眩しい笑顔をして
「トレーナーに言われた通り、今日のレース思いっきり楽しんできたよ! 」
と笑って答えた。
「そりゃあ良かった 」
左手で彼女の頭を優しく撫でて、私も彼女と一緒に笑った。