三ノ輪金太郎は勇者である   作:てんぱまん

10 / 19


 

 29.大災害

 

五回目の侵攻の翌日から大雨が降るようになった。九月ということもあったのだが、観測史上最大の台風が毎日のようにやってくるのだ。毎回前の台風を超える勢力で台風が来る。もちろん被害はひどかった。大規模な土砂崩れは何ヶ所で起こっただろうか。洪水もひどく、水が膝まで浸かるところもあった。落雷による停電や竜巻による被害....とんでもないほどのけが人と行方不明者、そして死亡者がでた。もちろん学校は休校。金たちはそんな環境の中、みんなでグループ通話をしていた。

「みんな大丈夫か~?」

「僕の家は今のところなにもないです」

「俺も大丈夫だよ~」

「俺の家は下の店が水に浸かっちまった....二階の自宅にいるけど....怖いよ....」

「祐成....大丈夫だ。いつか必ず雨は止む!」

すると急に目の前が暗くなる。

「うわっ!ついに死んじまったか!?」

「祐成違う!停電だよ!」

「どうやらみんなの家が停電したみたいだね~...」

「........涼のあれが関わっているのでしょうか...」

瞬がぽつりと呟いた。

「やっぱり....そうだよね....。俺が........」

「しょ、しょうがないさ!涼だってまさかあんなことになるなんて思ってなかったんだし!」

「だからって........さっきまでニュース見てたけど....相当ひどいぞ....場合によっちゃ....」

「やめろ!祐成!」

金がそう叫んだ。

「........とりあえず....話の続きは学校が始まってからだ....それまで電話するのはやめよう....」

そう言って金は電話を切った。雨が止んだのはそれから一週間後であった。

 

_________________________

 

 30.勇者失格 

 

やっと学校に登校できるようになった。しかし、外はまだ完全に水がひいていなかった。

「みんな、久しぶりだな!」

金は祐成に元気よく挨拶する。

「おお、金!涼!元気だったか?」

「祐成こそ大丈夫だったのか?」

「ああ、案外大したことなかったぜ!被害もほとんどなかったし!」

「それはよかったです」

突如、後ろから声がする。そこには瞬がずっと前からいたかのように立っていた。

「瞬!いつの間に....!」

「ずっといましたけど....」

瞬は目を細めてふてくされる。それを横目に涼が、

「なんかいつもよりクラスの人数少なくな~い~?」

「言われてみれば........」

確かにクラス内にいる人数は少なかった。大抵この時間にはみんなだいたい登校してきているのに....

「きっとこの雨が原因でこれない人とかもいるんだろ」

祐成がそう言った瞬間、放送が鳴った。どうやら臨時の全校集会を開くそうだ。金たちは体育館へと向かう。そこに集まっている生徒の数はやはりいつもより格段と少ない。金たちは被害の大きさを実感した。そして校長が神妙な面もちで舞台に立ち、話し始めた。

「えー今日皆さんに集まってもらったのは他でもありません。今回の台風による災害により....うちの学校からも被害者、犠牲者が大勢でてしまいました。生徒はもちろん、生徒のご家族....中には教師もです」

体育館内はざわつき始める。金たちは大きなショックを受けた。

(だからこんなに少ないのか....ってことはその分....)

「今から亡くなった方のお名前を読み上げます....」

校長はそう言って紙を広げ、名前を読み始めた。そうするとやがて、大泣きし始める者や、崩れ落ちる者、友達の名前が呼ばれないようにと祈る者もいた。それはまさに地獄絵図。名前を読み上げていく校長もとても苦しそうであった。金は涼を見ると涼は小刻みに震えていた。

そして集会が終わり、各自教室に戻っていく。体育館は悲しみの声であふれていた。そんな中、金は涼に近づいて声をかけた。

「大丈夫か?涼....」

「はぁ....はぁ....お、俺の....俺のせいだ....俺のせいでみんなが.......はぁ....はぁ....はぁ.....」

涼は頭を抱え、絶望の表情で震える。

「涼!落ち着いて!」

金は涼に近寄って背中をさする。

「大丈夫ですか!」

「おい涼!?....なんかやばいぞ....」

瞬と祐成も二人の元へ駆けつける。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ....俺が....俺が....はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ....!」

「涼!しっかりしろ!!」

金が隣で叫んでも涼には聞こえていなかった。涼の呼吸はどんどん速くなっていき、荒くなっていく。

「わああああああああああっーー!!」

やがて涼はそう叫び、背中をさすっていた金を振り払う。そして体育館の出口の方へ走り出した。

「おい待てっ!涼ー!」

しかし、体育館の出口に一つの人影が立っている。その人影は涼の手を掴んで止めた。

『....!東郷先生!』

金たちは涼を止めた人の名を呼ぶ。涼は東郷をにらめつけて叫んだ。

「あああーー!離せっ!離せよ!俺を止めるなっー!」

それでも涼は暴れて外に逃げようとする。

パンッ!

鈍い音が体育館に響く。東郷が涼に平手打ちしたのだ。涼は地面に倒れ込んだ。

「あなたの気持ちもわかるけど....暴れて自分勝手なことをするのはやめなさい!」

金たちはその場から見守る。

「あなたにはこれから....大赦に来てもらうわ....」

「ちょっと待ってください、東郷先生!なんで涼だけなんですか!」

金が遠くから叫んだ。

「.......わかりました」

少し冷静さを取り戻した涼はゆっくりと立ち上がりながらそう答える。

「待って!涼は悪気があったわけじゃない!」

金はあとを追いかけようとするが瞬と祐成に止められる。

「!!....なんでっ!?」

「今は....東郷先生に任せておいた方がいいですよ....」

「ああ....俺たちがいてもかえって邪魔なだけだろうしな....」

 

_________________________

 

放課後。金たちは夏凜と園子と一緒に部室にいた。部室はシーンと静まり返っている。少しすると東郷のみ部室に入ってきた。

「!東郷先生!涼は....?」

祐成が立ち上がり、真っ先に聞く。

「今から涼くんについて話すけど....その前に、あなたたち全員満開したらしいわね....?」

「はい、そうですが....?」

「えっ....全員....!?」

後ろの夏凜が目を見開いて驚く。

「何か問題でも....?」

夏凜の反応が気になった瞬が尋ねるが、

「その話はまた後よ。確認が取りたかっただけだから。今はとりあえず....涼くんの話よ」

東郷が涼の話題に戻すと部室は緊張した空気が流れる。

「涼くんは........勇者をやめることになったわ」

「えっ....」

瞬と祐成は絶句する。

 

ドンッ!

 

今まで黙っていた金が机を思いっきり叩き、顔を下げたまま東郷に聞いた。

「それが....大赦の出した答えですか....?」

「いいえ、違うわ。大赦は今回涼くんが起こしたことについて警告だけで済ませたわ。けど....涼くんは自分から勇者をやめたいと言ってきたの」

「そんなの、大赦が涼に自分からやめるように仕組んだんじゃないんですか!?」

祐成が興奮して聞く。

「いいえ!それは決してないと心から言えるわ!本当に....涼くん自ら言ったのよ...」

「.......涼に会わせてください」

金は静かにそう呟く。

「それはできないわ。今....涼くんは話がとてもできないほど精神が不安定で....」

「それでもいいです。会わせてください」

「でもね....!」

止めようとする東郷に対し、金は彼女の方を向いて強く訴える。

「東郷先生!俺の親友が苦しんでるんですよ....!放っておくことなんてできません!」

「それでも!涼くんは大赦が....!」

「東郷先生なら分かりますよね?....もし涼が友奈さんなら、東郷先生は誰がなんと言おうとすぐに飛んでいくはずです!」

「........!」

「涼のそばにいさせてもらうだけでもいいんですっ!お願いしますっ!」

金は熱意のこもった声で頼み、東郷に向かって頭を下げる。

「........わかったわ....じゃあ、金だけね....」

「!....ありがとうございます!」

そう言って東郷と金はそそくさと部室を出て行った。

「さすが金だ....東郷先生を説得しちまった....」

「さて....僕はあなたに聞きたいことがあります、夏凜コーチ。全員が満開したということを聞いて驚いていましたよね?」

「........」

「園子先生は寝ていますし....話していただきますよ」

 

_________________________

 

コンコン

 

「涼、入るぞ」

金はそう言って東郷に案内された部屋に入る。涼は大赦のある一室に一人ぽつんと座っていた。涼は窓の方をずっと向きながら言った。

「金~悪いけど今は一人にさせてくれないかな~」

いつもの口調だが何か違う。金はすぐに分かった。

「それはできないな」

金は淡々と答える。

「その言葉は嘘だ。親友の俺の目は欺けないぞ?本当は....」

「一人にしてくれって言ってるだろ!!」

「....!!」

話を遮るようにして涼は大声でそう言った。普段はおっとりして大声を滅多に出さないため、金はとても驚いた。すると涼は両耳を強く塞ぎ、体が小刻みに震え始める。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい........お願いだから許してください許してください許してください許してください許してください....!」

(涼.....?)

「金まで俺を責めるの....?金だけは信じてたのに....金だけは....お願いだよぉ....許してよぉ....ぅぅ....ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい....こんなに謝ってるじゃないか....ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「おい涼!俺は何も言ってないぞ!」

東郷は涼の精神状態がひどいと言っていたが、金はここまでとは思ってもみなかった。

「........」

恐怖に震える涼に金は少しずつ近づいていく。

「!!なんでこっち来るの....?な、何をするつもりだ....!こんなに、こんなに、こんなに....謝ってるじゃないか!来ないで....近づかないでぇっ!」

涼は絶望した顔で金を見て席を立ち、金から遠ざかる。それでも金は涼に近づくのをやめない。すると金は涼を強く抱きしめた。

「........本当は....こうして欲しかったんだろ...?誰かに寄り添って欲しかったんだろ?一人で戦って...孤独で...誰も助けてくれない....それがつらかったんだろ?....でも大丈夫だ。俺がいる。俺はいつでも涼の味方だ....!」

涼の耳元で金は優しくそう言った。涼の目から涙がこぼれる。

「........ぅぅ....ぁ....ずっと怖かった....耳をどんなにふさいでも聞こえてくるんだ....この災害で死んじゃった人たちが俺を恨む声が....大赦の人たちも....東郷先生もみんな敵に見えて....俺のことを悪く言うのが聞こえた....ぅぅ........ぁぁ........」

「怖かったな....涼....」

「金っ....金っ....!怖かったよ....!恐ろしかったよ....!」

それからさらに涼は話す。

「だから....俺は勇者をやめる....!もともとはこの世界の人たちを守るために勇者になったのに....俺が調子に乗ってあんなことしたせいで....たくさんの人が亡くなってしまった....たくさんの被害を出してしまった....俺は許されないことをしたんだ....人殺しだ....勇者.......失格だ!!」

「........そう思ってるんなら....なおさら勇者になれよ!」

「えっ....?」

金の意外な答えに涼は困惑する。

「自分のせいで大勢の人が亡くなってしまったって思ってるなら勇者にならなきゃダメだ!お前が勇者を辞めれば勇者は三人になる。お前はあんなに強いんだから大きな戦力ダウンだ。三人だけじゃ勝てなくて、負けたとしたらこの世界はバーテックスによって壊されてしまうかもしれない....ってことはだな、またお前は後悔するんだよ!あのとき勇者を続けていればって!戦い続けていればって!」

「........!」

「....それに...亡くなった人たちの家族はまだ生きてるんだ....その人たちが死んでしまったら、それこそ本当に恨まれるぞ....?」

「........ぅぁ........そうだね....金の言う通りだよ....俺はどこまでもバカだ~....ごめんね金....」

涼は金に抱きついたまま大粒の涙を流す。金は涼を優しく抱いたまま涼が満足するまでそうしていた。

 

_________________________

 

 31.満開の秘密 

 

金と涼は二人で部室に戻ってきた。

「....!涼....!お帰りなさい!待ってましたよ....!」

「ったく....遅刻だぞ!」

二人はいつものように涼を出迎えた。

「........二人とも....心配かけてごめんなさい....」

いつものように迎えてくれた二人に感謝し、涼は涙を流しながら頭を下げる。

「それでさ、涼、勇者続けるってよ!」

「........」 「........」

「?どうしたんだよ?そんな顔して....」

勇者という言葉を出した瞬間、祐成と瞬の顔は暗くなったことに金は違和感を覚えた。

「実は....満開のことについて詳しく教えてもらえてなかったことがあったんです....」

「え....?」

瞬の発言に金は首を傾げる。

「あなたたちは東郷と風から一回しか満開できないと聞いたのよね?」

「そうですけど、夏凜コーチ....それが何か?一回の侵攻に一回ですよね?」

「はぁ........やっぱりそこが食い違ってたのね....」

「え....違うんですか....?」

金はまさかと顔が青くなる。

「私たちの頃は一回だけ....樹海化のたびにとかじゃなくて全体で、よ....」

「....!!ってことはもう俺たちは満開もできないし精霊のご加護もつかないんですか!?」

「........」

夏凜は口を開かずに、ただ頷いただけだった。

「........そんな....なんで風さんたちはそこら辺のことをもっと詳しく教えてくれなかったんだ....」

すると部室のドアが開き、偶然にもちょうど風が入ってきた。

「....!風先輩....ちょうど聞きたいことが....」

「私も話すことがあって来たわ」

 

_________________________

 

「どうやらみんなの顔からして....夏凜からあの話を聞いたらしいわね....」

「風....どうするのよ....これはあんたたちのせいじゃないの?あんたたちが金たちに細かく説明しなかったから....」

「....私も説明が足りなかったと思ってる....そこは謝るわ....涼くんから全員満開したって聞いてすぐに伝え忘れてた付け足しの説明しなきゃって思って今日は来たのよ」

「....今来たって....遅いですよ....!」

瞬がそう言って風に近づく。

「プッ........フフフ....アハハハハハハハハ!!」

『!?』

風が急に笑い始めた。

「ど、どうしちゃったんですか....?風さん....」

「まさか風....絶望的な状態になっておかしくなっちゃったの....?」

「フフフハハハハ........ごめんごめん!違うわよ!みんなの真剣な顔を見てるとなんだかおかしくなっちゃって....フフフ....」

「何がおかしいんですか!」

金が腹を立てて怒鳴る。

「........私たち大赦がこの12年間....何もしてないとでも思った?」

「........え....?」

「バーテックス共が進化しているように大赦の技術も大きく進歩した。解釈は金太郎くんたちので合ってるわ....」

「それってつまり....」

「樹海化が起こる度に満開ゲージは満タンまで溜まる....満開ゲージが貯まったままバーテックスに勝利し、樹海化が解ければ現実世界でも精霊があなたたちを守ってくれるし、戦いで満開したらまた樹海化するまで満開ゲージが溜まることはないわ」

「ってことは....前の樹海で満開した今の俺らには精霊バリアがついていないのか....現実世界でのケガとかには気をつけないとなぁ....」

「それでも....。ほっ....とりあえずは良かった~....」

「何で私たちにそんな重要なことちゃんと説明しないのよ!」

夏凜が怒って風を問いただす。

「ごめんって!ついうっかりしてたのよ~東郷にもさっき教えたわ」

「....さ、さっき....!?」

現役勇者たちは腰が抜けたようにそのまま地面に座り込む。

「ど、どうなるかと思いました....」

「寿命が縮んだぜ....」

「でもこのことを知れたおかげでバンバン戦えるぜ!」

「それでも危険だよ~....金~」

「.......あれ~....いつの間にか涼くんが戻ってきてる~....?....ってあれ、にぼっし~!大丈夫~?」

「全く....風は人騒がせで園子はのんきすぎるわ....もう私疲れた....」

「夏凜コーチから初めて疲れたという言葉を聞いた....!」

 

(第十一話に続く)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。