33. 保育園訪問
金たちは東郷家の和室に入った。園子、東郷、瞬、それから涼、金、祐成の三人ずつで机を挟み、正座で向かい合って座った。
「東郷先生たち....その格好のままやるんですね~....」
「それで....なんですか~....?」
「みんなに頼みがあるの....今日そこで国防仮面による短い劇をやったのは正体を明かしたかっただけじゃない....明日の保育園訪問で国防仮面によるぱふぉーまんすをやりたいと思ったからよ!」
「そうですか........へっ!?国防仮面によるパフォーマンス!?」
「そう、国防体操よ!」
東郷はビシッとガッツポーズしてそう言う。
「国防海藻だか国防体操だかわかりませんがさすがにちょっと....もう時間いっぱいにスケジュール決めちゃってるんですから!」
「俺はいいと思うけどな~....面白そうだし!」
「俺も賛成だぜ!国防仮面たちによるパフォーマンス....男心がくすぐられるぜ....!」
「二人ともよく考えて!今からやってもな........はっ!」
賛成する涼と祐成に対し、金は重要なことに気づく。
(こ、これ....よく考えたらもう半強制だろ!たとえ俺たち三人が反対したとしても....向こうは顧問と部長....!勝てるわけがない....権力の塊だ....!)
「や、やるんだとしたら....なにか本番で削るものは決めてるんですか....?」
金は一度落ち着いて当日の予定をどう変更するのか問う。
「はい。みんなで歌う時間を削ります」
瞬が眼鏡をなおしながら即答した。
「うう........それなら、まぁ....い、いいですよ......」
金は渋々OKすると....
「やったわ!瞬くん!」
「やりましたね!」
「なんだか懐かしいね~....」
向かい側の三人は手を取り合って小さい子どものようにはしゃいで喜んだ。
「そうね、そのっち。あのときはやりすぎだって安芸先生に言われたけど今回は違うわ!だって私が先生、私が顧問だもの!ウフフ....!」
「ただ~し!条件があります!」
そんな三人を制して金が立ち上がりながらそう叫ぶ。
「な、なにかしら....金....?」
「決して俺たちを巻き込まないで三人だけでやってください!」
(ふふ....これなら恥ずかしくてさすがにやめるだろう....)
しかし、金の思惑も虚しく....
「分かったわ!」
東郷は自信ありげにそう言った。
(即答!?確かにあんな事を外でやったから当たり前っちゃあ当たり前か!)
「いい歳してそんなことして恥ずかしくないんですか~?」
(毒舌だがいい質問だぞ!涼!)
「でも........ナレーションだけ金にお願いできるかしら....?」
(涼の質問無視した!?)
「巻き込まないって約束じゃないですか!そ、それは園子先生に頼んでくださいよ!」
「ごめ~ん!明日は出版社との大事な打ち合わせがあるんだ~....」
「そ、そうなんですか....ぐぬぬ....ま、まぁ....ナレーションだけならやってあげても....」
「まぁ!本当!?ありがとう!」
「やっぱり金はそんなこと言ってても結局は優しいですからね!....よし!これで全力で頑張れそうです!」
「と、特別ですよ....!」
「ツンデレの金もいいね~」
「うるさい!涼!」
「やれやれ....本番は明日だっていうのに間に合うのかね~....」
祐成は眠そうにそう呟くのだった。
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ついにやってきた保育園訪問当日。金たちは準備万端....とは言えなかった。
(あぁ~ついに当日がきちゃったぁ~....前日にいきなり『ナレーションやれ』なんてどうかしてるよ~....!........いやいや!大丈夫だ、大丈夫!俺は言われた通りに台本を言えば良いだけだし、あとは音楽を流すだけだ!)
金は心の中でそう思って自分の頬を両手でパシリと叩く。
「燃えるわね!瞬くん!」
「はい!子供たちに国防の素晴らしさを教えてあげましょう!」
(なんで二人はあんなに余裕そうなんだ~!)
「園長先生、お久しぶりです。いつも勇者部一同お世話になっております。今回もよろしくお願いします」
東郷はこの園の園長に丁寧に挨拶する。
「やっぱりここには昔からお世話になってたみたいだね~」
「いや~、見るだけとしては、楽しみだなー!」
「こっちの二人ものんきでいいよな....俺はいきなり仕事が増えたんだから不安で仕方ないってのに....」
「大丈夫だよ~、金~!金ならできる!金ならできる!」
「ぅぅ....涼~!ありがとう~!」
金はそう言って涼に飛びついた。金たちはこの日、園児たちとちょっと外で遊んでから人形劇と国防体操をやる予定であった。
「うっ........はっ........!?」
「どうかしましたか!?東郷先生!」
瞬がやたらオーバーに東郷を心配する。
「よりによってこのタイミングで....神託が....きたわ........」
『えっ!?』
「いつですか!」
「今日の夕方頃....ちょうど保育園訪問が終わる頃かしら....」
「........今日....!」
「じゃあ少なくとも今日の保育園訪問は問題なくできるってことですね!良かった~」
「そうだな、金!せっかくここまで準備してきたのにドタキャンなんてしたくないしな!」
「相変わらず僕たちの考えはポジティブですよ、東郷先生!」
しかし、それでも東郷の顔は明るくならない。
「?そんなに不安ですか~?」
「........違うわって言いたいところだけど....今回のバーテックスは一味違う強さみたい....」
「えっ....?それって....」
「まだ最後の戦いじゃないみたいだけどもう残りわずかって感じね....みんな....気をつけて....!」
『........』
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「さて、次はお兄さん達が三匹の子豚の人形劇をやってくれるみたいですよ~!」
「みんな~!三匹の子豚って知ってるかな~?」
『は~い!!』
「おっ、さすがだね~!それじゃあ早速、三匹の子豚の始まり始まり~!」
(さすが涼だ....いつも通り子供たちの心を鷲掴みだ!そういえば前....たびたびやるこの保育園訪問のおかげで保育士さんになる夢を見つけたって言ってたっけ....)
金は隣で楽しそうに人形劇をやる涼を見て、微笑んだ。
東郷もまた、彼の人形劇を見て感心する。
(なかなかの演技力ね....友奈ちゃんがいた頃と良い勝負だわ....)
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人形劇も終盤を迎え、瞬が一人、舞台裏へやってきた。
「そろそろ準備です。東郷先生!」
「........ぁぁ........ぁぁ........」
「東郷先生?どうかしましたか?」
「衣装が....衣装がない....家に置いてきてしまったわ....」
「ええ~~!!なんですって~!!」
瞬は園全体に響きわたるほどの声を出す。
「なに~?今の声~?」
園児の一人が大きめの声でそう言う。
「あ、ははは....きっと狼さんが熱々の鍋に入れられちゃったことに誰かが驚いたんだよ~....」
いくら涼でも苦しい言い訳だった。
(....ったく瞬!何があったって言うんだ!あんなでかい声出して....!)
それでも金たちは人形劇に集中する。
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「どうするんですか!?もう僕たちの番来ちゃいますよ!いっそ僕だけでやりましょうか?」
「いいえ....そういうわけにはいかないわ....」
「えっ....じゃあ....」
「家まで取りに行ってくるっ!」
そう言って東郷は園を飛び出してしまった。
「そ、そんな....僕はどうしたら....!ここから東郷先生の家まで走ってどれくらいか....」
すると金たちが舞台裏に帰ってきた。
「おい!なんだよ今の叫び声は........って、まだ着替えてないのか!?東郷先生もいないじゃないか!」
「東郷先生....衣装忘れたって言って家に戻っちゃいました....どうしましょう....」
『ええ~~!!今から戻った~!?』
今度は三人そろって叫んでしまった。
「おっと、やばい....向こうに聞こえる....」
「しょうがない....俺が時間稼ぎするよ~!」
「....!!涼!ありがとうございます!」
涼はどこからか愛用のマジックセットを取り出した。
「いつも持ち歩いてるのか、それ....?」
「ゆうくん....備えあれば憂えなしなんよ~」
「園子先生風に言うなっ!」
「瞬~!いつ東郷先生が来てもいいように着替えておいて~!」
「わかりました!本当に感謝します、涼!」
涼はそのまま再び舞台へ出て行った。祐成と瞬は涼のとんでもない対応力に驚く。
「なんでこんなことに........う........胃が........」
金はまさかのアクシデントで胃を痛め、腹を抱える。
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「あっ、見て!東郷先生来たぞ!」
祐成が窓の外を指差して言った。
「はぁ....はぁ....すぐに着替えるわ!」
「ちょっと!ここで着替えないでください!」
金は東郷を別の部屋に案内する。
「えっ~と....次は....次は....ですね....」
園児たちもマジックに飽きてきており、涼のやる気は削がれていく。もうネタもない。
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「涼もヤバくなってきた....。まずいな、早く....ってあれ?!瞬いないぞ!」
金があたりを見渡しても舞台裏にいたはずの瞬の姿が消えていた。と、その時舞台上から
「やい!そこの怪しい格好をした男め!」
「わたくしどもが成敗してくれるっ!」
と、聞こえてくる。早急に準備を終わらせてあっという間に舞台に出ていたのだ。
「えっ!?俺、悪者!?」
(ちょっと!国防体操踊るだけって話だったのに全然違うじゃないですか!!........どうナレーションすれば....)
舞台裏の金とマジックを披露していた涼は困惑する。
(くっ....向こうもアドリブだ....だったらこっちもアドリブで....対応するっ!)
「フッフッフッ....実は俺、この子たちの笑顔を奪いに来た怪盗Rなのだ~!」
涼はそう言ってマントを使って口を隠す。
「怪盗Rだって?!」
「そんなことはさせないぞ!」
(涼までこの乗りに乗り出した~!?どうしよう、どうしよう........ちょっ!?東郷先生、瞬、そんな顔でこっち見ないで~!)
東郷と瞬は金に対してアイコンタクトをはかっていた。
(アドリブよ!金!)
(金ならできます!)
(........くそっ!ええ~いっ!やけくそだっ!やってやる、やってやるぞ~!!)
金はそう心に決心すると舞台に飛び出る。
「みんな~!あの人たちは国防仮面と言って、君たちを護ってくるれるヒーロー....じゃなくて正義の味方だ!国防仮面を応援しよう!せーのっ!国防仮面!国防仮面!」
『国防仮面!国防仮面!』
「はっ!みんなの力が伝わってくる....!」
「これなら、勝てる....!」
「くらえ~!トランプ手裏剣~!」
涼はさっきマジックで使ったトランプを手裏剣の如く投げる。
「トランプと手裏剣を組み合わせるなど....」
「言語道断だっ!」
二人は軽やかなステップでそれをかわし、瞬を一瞬のうちにして捕まえた。
「ぐ、ぐえぇ~....やられた~....」
『やった~!勝った~!国防仮面~!』
「国を護れと人が呼ぶ....」
「愛を護れと叫んでる....」
『我らは、憂国の戦士!国防仮面!』
「いまから国防への意識を高めるために、国防体操をみんなで踊りましょう!」
(結局俺のナレーション、これだけか....あんだけ覚えたのに....)
金はそう思いながら音楽を流す。
---~♪
「ふこくきょーへーい!!」
「うわぁ....洗脳されちゃった....」
舞台裏の祐成は巻き込まれなくてよかったと安堵しながら改めて東郷と瞬の恐ろしさを実感していた。
「はぁ....やりきったわね....瞬くん....」
「はい....僕は満足です....」
結局予定よりかなりの時間オーバーになってしまったが園の先生たちはとても喜んでいた。東郷は園長からお菓子のお土産をもらい、みんなで園を出ようとすると、
『お兄さん達~!!また遊びに来てね~!!』
園児たちが金たちに向かって手をめいっぱい振ってお別れをしてくれていた。
「....最終的になんとかなってよかったな、みんな!」
「ああ!」
「そうだね~!」
「はい!」
「楽しかったわ....!」
「みんな~!またねー!........なっ!?」
金も園児たちに手を振り返した時、異変に気づく。園児たちが手を振ったままピタリと止まっていた。
「ここで....このタイミングで来たか....!」
「みんな....本当に気をつけるのよ....」
「........はい....!」
みんな緊張しているようだった。端末が鳴り響き、樹海化が始まる。
(第十三話に続く)