37.崩壊の始まり
11月1日。金はいつものように学校に間に合う時間ギリギリに目を覚まし、朝食を急いで食べ、涼との待ち合わせ場所に少し遅れて合流し、学校に登校する。学校ではいつものように祐成と瞬に会い、会話をする。そんないつものような日がこの日もくるかと思っていた....。
「なんか今日は特にクラスが騒がしいな」
「なんだろうね~何かあったのかな~?」
「ちょっと俺、聞いてくる」
祐成はそう言うとクラスメートたちが集まっているところに行き、少し話すとクラスメートの一人から新聞を貰って戻ってきた。一人、新聞の内容を見た祐成は、
「み、みんな....大変だ....」
体を震わせながらそう言った。
「祐成どうした.....?」
普通ではない祐成の様子を見た金はおそるおそる尋ねる。
「こ、この記事....見てみろよ....!」
祐成はそう言うと持ってきた新聞を広げて机に置く。
『なっ!?』
一同は青ざめた。その記事には鍛錬にはげむ四人の写真がバッチリ捉えられていた。もちろん、顔は隠されていたが。
「お、おい....なんで....なんでバレたんだっ!?」
「おい、金!落ち着け!あんまり大きな声は出すなよ。」
「あ....祐成ごめん...。」
「でもこれかなりまずいのでは....?このままじゃ世間が大変なことになりますよ。しかも....僕たちが情報を漏らしたとか、大赦から疑われそうです....。」
「それはないだろう....大赦は俺たちを信用しているはず....」
「あと二回だっていうのに....今まで通りに鍛錬できなくなっちゃうんじゃ~....」
四人はそんなことを話していると、教室に東郷が入ってくる。いつもの朝礼が始まるのだ。
「みなさん~!朝礼を始めますから着席してください。」
『は、は~い!』
(東郷先生はまだ知らないのか?)
朝礼が終わると、東郷は最後にこう言った。
「金太郎くんと涼くんと祐成くんと瞬くんはこのあとすぐに勇者部部室に来てください。」
_________________________
金たちはすぐに部室に集まった。既にそこには東郷もおり、四人が集まったことを確認すると本題に入り、話し始めた。
「もうあなたたちも....話すことはわかっているでしょう?この記事のことよ....」
東郷はそう言って例の記事を見せる。
「はい、さっき見ました。」
金は目を細くして小さな声でそう答えた。
「それで....こんなこと言いたくはないけど、鍛錬の場所をバラしたなんてこと....してないわよね?」
東郷のその問いに金は少し語気を強めて、
「東郷先生....あなた俺たちを疑うって言うんですか。それを聞くってことは俺たちを信用してないってことですよね。」
と、少し睨んで言った。
「ち、違うわ!念のため....念のためよ!」
「念のためだと言われても....少しショックです....」
「金の言うとおりです~....。俺たちがそんなことしても俺たちは何も得することないじゃないですか~」
涼も金に賛同する。
「それにそんな記事が出たからと言って何も変わらないですよ。俺たちがちゃんとお役目を果たせば世界の人たちも安心!ただそれだけのことでしょ?俺たちでバーテックスの野郎どもを絶滅させてやりゃあそれでいいんだよ!」
「珍しく、祐成と同感です。」
祐成と瞬もそう言うが、それでも東郷の顔は暗いままだった。
「そこまで....信用できませんか....。」
「金....違うのよ....。実は....落ち着いて聞いて欲しいことがもう一つあるの....。」
「....この際だから言ってください」
金は機嫌悪そうにそう言う。
「........バーテックスたちはものすごい進化を遂げている....。もちろん勇者システムも私たちのころと比べてとても良いものになったわ....。」
「何が言いたいんですか」
金はずっとイライラしているようだった。
「けど....バーテックスの進化は私たちの思っている以上に早い....そして....今の勇者システムじゃ............バーテックスを絶滅させることはできないの....!」
『えっ........?』
「と、東郷....先生....嘘でしょ?今頃....そんなこと....」
「そうだよ~....今まで絶対に滅ぼしてやろうって....言ってたのに....」
「じゃあ、あと二回ってのは何なんですか....!」
祐成、涼、瞬は突然の真実に困惑する。
「あと二回バーテックスの侵攻を防ぎきればしばらくはバーテックスが攻めてこないということだわ....。」
ドンッ!!
今まで黙っていた金が机を力一杯叩いた。少しだけ沈黙が流れる。
「そんなの....おかしいじゃないですか....。苦しい思いをしなくちゃならない少年たちがまた未来に生まれなくちゃならないってことですか....?苦しい思いをするのは俺たちで最期にしようって....決めたのに....。これって....おかしいじゃないですか....。話が違うじゃないですか............。はぁ....バーテックスを絶滅できないと知ったのは....いつなんですか....?」
「みんな、本当にごめん....。....最初から.....知っていたの....。私も....風先輩も....。」
「最初....から....?」
金はとても自分を押さえきれなかった。金は東郷の胸ぐらを強く掴み、壁に叩きつける。
「うっ....!」
「ちょっと、金!」
「すまないが今は黙っててくれ、涼。」
「........!」
この声だけでわかった。今、金は最高に怒っている。涼はその金に気圧され、なにも動けなくなってしまった。
「東郷先生....最初から知ってたって....あなたはどういう思いで俺たちを応援してたんですか....?俺たちが必ず絶滅させてやろうって約束したとき、どういう思いでそれを見てたんですかっ!!....ふざけるな....ふざけんなっ!!」
「ごめん....なさい....。熱心に頑張ろうとする金たちを見てたら....。」
「東郷先生、あなた.....勇者だった頃....大赦に騙されたって言ってましたよね?満開で体の一部が失われるということを内緒にされていたんですよね?」
「え....ええ........。」
「あなたは....その時大赦がしたことと変わらないことをしたんですっ!俺たちを....騙したも同然だっ!」
「おい金っ!!やりすぎ....」
「口挟むなっ!黙ってろって言ってんだろ!!」
「ぅ....」
祐成は見たことのない金に気持ちで圧倒される。もう誰も今の彼を止めることはできなかった。
「失望しましたよ....東郷先生....。いや、もうあなたは....俺の先生なんかじゃない....!」
金はそう言うと掴んでいた東郷の胸ぐらを離し、走って部室を出ていった。
「金!!ちょっと待って!」
涼は金を追いかけようしたが、
「涼、今は金一人にしておきましょう....。」
と、瞬に肩をつかまれて止められる。
「....瞬........わかったよ....。」
東郷は地面に手をついて泣き崩れていた。そんな東郷を涼たちはどうすることもできなかった。
_________________________
「はぁ....はぁ....はぁっ....」
金は学校を飛び出し、商店街を走っていた。走っている間、街の人たちが例の記事の話をしているのが耳に入る。聞きたくなくても聞こえてくる。金は耐えきれず、ある路地裏に入った。
「はぁ....はぁ....もう....嫌だ....。」
「あの~すみません、三ノ輪金太郎さんですよね?」
「....!」
突然後ろから話しかけられ、金は身構える。
「あ~すみません、驚かせるつもりはなかったんですが....。私、四国新聞の芹沢と申します。良ければ少しお時間いただいてもよろしいでしょうか?」
「....すみません。人違いです。」
金はそう嘘をついてこの場からいち早く去ろうとする。
「三ノ輪銀さんの弟さん....ですよね?」
芹沢のその言葉を聞いた金はピタッと止まり、すぐにふり返る。
「!!なんで....それを....!」
金の反応見た芹沢は安心したのか、人が変わったかのようにいきなり態度を変え、不自然に口角をあげた。
「ふふ....やっぱり反応した~!....僕の目は誤魔化せませんよ?だってこの記事書いたの僕ですもん。」
「....あんたが....!」
金は芹沢に近づこうとする。しかし、金はすぐに足を止めた。
(ダメだダメだ!俺がこのままこいつと話したらこいつの思惑通りになってしまう!今はとりあえず逃げなければ....!)
「すみません。ちょっと忙しいもので。」
「忙しい?フッ....平日に学校にも行かないでよくそんなこと言えますね....。」
「........。」
それでも金は無視して路地裏から出ようとする。すると芹沢は
「....この記事が出ても良いんですかぁ?」
この言葉が気になった金はちらっと後ろを向く。芹沢の手に握られていた記事には驚くべきことが書かれていた。
(なんでっ....こんなこと....!?)
こんなものが世に出回ってしまったら自分どころか家族、友人たちにも迷惑がかかってしまう。金はすぐに頭を地面にこすりつけて土下座をした。
「お、お願い....します....それだけは....それだけはやめてください....!」
「プッ....フフフフフフフ....ハハハハハハハ!滑稽だなっ!ハハハハハハハ!」
急な芹沢の反応に金は驚いた。
(な、なんだこの人....!?)
すると芹沢は金に近づき、見下すように土下座する金を睨んだ。
「........だが....ダメだ。」
芹沢は声のトーンを落としてそう言うと金の腹に鋭い蹴りを入れる。
「ぐはっ!........おげぇ....!」
金は路地裏の壁に激突し、腹を押さえてもがく。
「もう遅いね!編集長には盛りすぎだって言われて却下されたけどすでにネットに拡散させたもんね!キャハハハハハハ!ハハハハハハハ!」
「........そん....な....」
「もっと謝れ!この野郎!俺はお前みたいなやつが嫌いなんだよ!オラっ!オラっ!」
芹沢は寝転がったままの金の腹を何度も何度も思いっきり蹴り続ける。
「ぐっ....!おげっ....!うぐっ....!」
_________________________
(耐えろ....今は耐えるんだ....ここでやり返したら俺の負けだ....!みんなに迷惑をかけてしまう....。)
「俺はな....子供の頃に両親を失った....交通事故で俺を助けるためにな....。そのせいで貧乏になっちまった....。周りは俺をきっと助けてくれる....そう思っていたが違かった!友人は俺のことを貧乏だからといってバカにしたりいじめた!先生からも保護者がいないからひどい仕打ちを受けた....!だからよ....お前の姉は死んで....それなのになんでお前んちはのこのこと幸せに暮らしてるんだ....?お前の姉は世界を最後まで守りきれずに死んだっていうのによぉ!何で誰からも責められねぇんだ!オラっ!オラっ!クソがっ!俺の気持ちを思い知れっ!」
(家族が死んだっていうのに....幸せ....だと....?)
「ぐっ....!がっ....!ごほっ、ごほっ....!ぅぅ....うげぇっ!ごはぁっ....!ぁぁ....」
芹沢は蹴るのをやめようとしなかった。金が見た芹沢の目は今までに見たことのない血走った目であった。この前の涼の目よりもひどかった。人間はこんな目もできるのか。そう思った。
「がっ....!ぜぇ....ぜぇ....はぁ....はぁ....ぅぅ....ぁぁ....ぁ....」
「ちっ!あんまり動かなくなってきたな....呼吸も浅くなってきたし....やりすぎたか?」
芹沢は金の胸ぐらを掴み、無理やり金を立たせて顔を近づけ、こう告げた。
「さっきの一瞬じゃあ....記事の内容はよく見えなかっただろうから今から親切に言ってやるよ....!この記事にはな、お前の姉とお前のことがよく書かれてる。お前の姉がこの世界を守りきれずに死んだってことをなっ!そのせいで他の勇者二人が小学六年生という幼い年齢で体の機能を失い、二年もの間苦しんだってなぁ!お前の姉のせいで!し・か・も....この二人はお前の姉を恨んでる、お前の姉のせいで今のような状況になっているって書いてやった!すべて『お前の姉が死んだせいだ』ってなあっ!」
「そんな....嘘を....書いても....無駄....だぞ....。園子先生も....東郷....先生も....そんなことは....思っていない....!」
金はこれだけは言えた。たとえ東郷を先生として認めなくなっても....。だが芹沢は全くうろたえなかった。
「フフ....じゃあ何で俺がこんな情報を持っていると思う?勇者でも大赦の人間でもないこの俺が....。」
「........。」
「ハハハ....それはなぁ....この情報を教えてくれたのは乃木園子だからだよっ!乃木園子がお前の姉を恨んでるって言ったんだぜ!お前の姉のせいであの時、バーテックスを絶滅できなかったって言ったんだぜ!アハハハハハ!キャハハハハハハ!」
「........そんな....嘘だ....嘘だっ!!」
金はこの芹沢の言葉で混乱し、暴れ始める。
「ちっ....!まだそんな大きい声が出たのかよ....声が表に聞こえちまうだろうがっ!」
芹沢はそう言って金の腹を力強く殴る。
「うっ...!......ぁ....ぁ....」
金はゆっくりと地面に倒れる。
「最後にこれだけ言っておく。....お前の姉は....友人につらい思いをさせ....そのせいでバーテックスを絶滅できなかった、『 戦 犯 』なんだよ....!」
金はもう理性を保つことはできなかった。
(第16話に続く)
前回の侵攻で満開を使った後、次の侵攻が来るまで満開ゲージは溜まりません。ですので、現実世界では精霊バリアははたらかないという仕組みです。
芹沢の蹴りのダメージが入った理由が気になった方、このような設定がありますのでご了承ください....