38.崩壊
金が学校を飛び出してしばらくした頃、ある路地裏から気絶した記者が発見される。その側にはビリビリに破り捨てられた未発表の記事があったという。
「東郷先生!金が人を殴ったって....本当ですか....!?」
「ええ....本当よ。でもあの記者も記者ね....とんだクズ野郎だったわ。」
涼は東郷に呼ばれ、彼女の家にいた。そこで東郷からその記者が金に向けて言ったことをすべて聞く。
話を聞き終えた涼は床の畳を叩いた。
「なんですか....それ....。そんなありもしないことを言うなんて....しかも....そんなに蹴ったり殴るなんてありえない....!」
「もともと大赦に新聞社関係の方たちが潜り込んでいたらしくてね....そこで得た情報らしいわ。そのっちは何も関係ないのに....勝手に名前を使われて.....金も勝手に恨まれて....。」
ネットにばらまかれた記事のせいで三ノ輪家は早くも嫌がらせを受けていた。迷惑電話や手紙、落書き、三ノ輪銀と金の誹謗中傷などが耐えなかった。勇者部に入っていた依頼もほとんどキャンセルされてしまった。
「くっ....!」
涼は東郷の家を飛び出そうとする。
「待ちなさい!涼くん!........何するつもり....?」
「金がこんな目にあってそいつはのんきに病室に寝ているなんて許せません....!それにあった罰を....!」
「そんなことをしても、金は喜ばないわよ!それに、そのことに対する罰はすでに私が済ませておいたわ。....まだこんなもんじゃ足りないくらいだけど。」
「....そうですか...。....くそっ....なんでっ....なんでこんなことに....。金の処分は....どうなるんですか....?」
「........おそらく、一般人に危害を与えたから....勇者の資格は....。学校の対応も厳しいでしょうね。」
「そんな....!もともと向こうが悪いって言うのに....!なんでそうなるんだっ!俺は何もしてやれないのかっ....!」
今こうしてる間にも大赦の役人や祐成、瞬、友奈、夏凜、園子、風が金を探して町中をまわる。それでも金は見つからなかった。完全に姿を消してしまったのだ。
そして、金がいなくなってから一週間が経過する。
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「あなたが....金太郎の担任だったんですね....」
この日、東郷は三ノ輪家を訪れていた。机を挟んで東郷と向かい合うのは一人の若い少年、銀の弟で金太郎の兄の鉄男だった。
「....今回の件について説明するわね、鉄男くん。」
「僕はもう子供じゃないんです。そんな呼び方、する必要はありませんよ。」
「ご、ごめんなさい....三ノ輪さん....。」
東郷は俯いて謝る。昔のできごともあったからか、鉄男の東郷に対する態度は冷たかった。
「実は....金太郎くんは再び現れたバーテックスから人々を守るために戦ってきたんです。あなたのお姉さんと同じように....。」
「....そうですか。」
東郷は驚いた。てっきり鉄男は内緒にしていたことを怒り狂うのではないかと思っていた。
「....だいたい感づいてはいました。あいつのことですし。去年までは帰るのが早かったのに急に帰りが遅くなったり頻繁に出かけたりケガしたり....。おかしいと思っていました。」
「........。」
「金は、きっと大丈夫....そう信じています。今もどこかでのんきしてると思います。あいつ、しぶといやつですからね。」
「三ノ輪さん....」
「東郷さん、僕はあえて金に聞かなかったんです。いや、聞けなかったのかな....。この事実を知るのが怖かったんですよ。姉のこともありますしね....。でも改めてこうやって知れてスッキリしましたよ。ありがとうございます。」
「........。」
弟のことで本当はとても心配なはずなのに、東郷にここまで気遣いのできる鉄男に対して、東郷は感動していた。そして、自分の無力さが憎くて、悔しくてしょうがなかった。
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その頃、讃州中学勇者部部室
「....今日も特に依頼は入っていません....」
瞬は悲しそうに静かにそう言った。するとそれを聞いた祐成が、
「それじゃ、することはいつも通りだな!」
と言って立ち上がる。
「金を探すんだね~!....今日こそ見つけるぞ~!全く~....金は隠れるのがうまいんだから....。」
『........。』
無理して明るく振る舞う涼を見て、二人は心配そうな眼差しで涼を見つめる。
「ちょっと待ってください。」
瞬がさっさと部室から出ようとする二人を引き止めた。
「金を探す前に....僕から聞いて欲しいことがあります。それはなぜ、運動もろくにできない僕が勇者に選ばれたのかです。」
「おい瞬、悪いけど今話すことじゃ....」
「いや....祐成、聞こう。今くらいしか聞く機会ないと思う。」
涼は祐成にそう言い聞かせ、瞬の方を向いた。そして納得した祐成も瞬の方を向いた。
「....ありがとうございます。........約三百年前、四国から遠く離れた沖縄という地での話です。そこでもバーテックスが現れ、人々を襲ったそうです。しかし、そこには僕たちのような勇者が一人だけ存在していました。」
「たったの....一人だけ、か....キツいな。」
「時間が経つにつれて戦いは厳しくなっていきました....。そこで沖縄の人々はたくさんの生存者がいると噂だった四国に逃亡するという結論に至ります。」
「確か~....沖縄から四国ってすごい遠いよね~?」
「そうです。とんでもない距離です。さらに海を渡る間にもバーテックスは容赦なく攻めてきます。中には沖縄にとどまり、故郷といっしょに運命を共にする人もいたそうです....。たった一人の勇者は、できるだけ多くの人を船に乗せ、出航しました。幾度となく攻めてくるバーテックスに対し、船に乗った人々を守り通して....ついに、四国に到着したんです。」
「すごいな....その勇者....」
祐成が感嘆する。話の締めに、瞬はこう言った。
「そのたった一人の勇者の名は、古波蔵 棗....。」
「えっ....!古波蔵ぁ!?」
「じゃあ瞬って~....その人の子孫ってこと!?」
二人が騒いで驚いているのとは対称的に瞬は落ち着いて答える。
「それについてはどこにも記録は残っていないそうですが....先日、大赦から四国に古波蔵という姓は僕たち一族だけしかいないと告げられました。つまり....その可能性が高いってことです。」
「それが理由で瞬は神樹様に選ばれたってことか....。そんなすごい人が瞬の先祖だなんてな....」
「僕はそれから一層勇者に対する思いが強まりました。そこで、バーテックスを倒すには金がどうしても必要不可欠です。さぁ!探しに行きましょう!今日こそ見つけますよ!!」
「うんっ!」 「ああ!」
三人は今日も、勢いよく部室を飛び出していくのだった。
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涼たちが金を探しに行く三十分前。園子は商店街のはずれで金を探していた。そして、
「あっ!あの後ろ姿....!」
ついに園子は金を見つける。
「リトルミノさ~ん!探したよ~!」
時間帯も相まってちょうど周りには人がいなかった。園子の声に反応した金はゆっくりと後ろを向く。
「....!!リトルミノ....さん....?」
園子は驚愕した。その顔はいつもの優しい表情とはまるで真逆。とても金とは思えないような恐ろしい形相をしていた。全体的にやつれた印象もあった。
「まさかこんなところで会えるとはね....園子先生....。俺も捜していたんですよ....あなたのことを....。」
金の声はいつもの元気のある声ではなく、小さく、こもった声だった。そして睨みつけるように園子を見る。
「そ、そうだったの~?じゃあ帰ろう~みんな心配してるもん。一週間もいなかったんだから....。」
園子は様子がおかしい彼を心配しながらもそう言ってゆっくりと近づく。
「それ以上....近づくな....!」
「えっ....?」
金の顔がさらに険しくなる。尋常ではない緊張感に園子は固唾をのむ。
「あなた....俺にはあのようなこと言っておいて内心ではあんなことを思っていたんですね....。」
「もしかして、あの記者が言ってたこと....?わっしーから全部聞いたよ!それは違う!全部嘘なんだよ!!」
「俺は....もう誰にも騙されない....。」
「リトルミノさん!信じてっ!」
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ....黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ....うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい....」
金は頭を抱え、そんなことをずっとぶつぶつ言っている。園子は青ざめた。金の心は完全にやられてしまっていた。そこで園子は金との距離をつめ、金の肩を掴み、激しく揺らして訴えた。
「リトルミノさん!しっかりしてっ!」
パンッ!
が....しかし、金は園子の手をはたくように強く振り払った。
「俺の体に........触るんじゃない!信用してたのに....あなたたちのことは信用してたのにっ....!全部、全部騙されてたっ!何もかも!この一年間!....あなたたちには俺の悲しみがわかると思ってた!姉ちゃんのことを理解してもらえてると思ってた....。俺はお前らに遊ばれていたんだな....。....あっ、そうかぁ....俺があのことを相談したとき....友奈さんも嘘ついてたのかぁ....。」
「ねぇ!リトルミノさん!ねぇってば!」
園子はなんとかして元の金に戻そうとまた彼の体を掴むが、
「黙れっ!俺の体に触れるなって言ってるだろうが!俺を一年間騙してて楽しかったか?ええ?さっさと俺の前から消え失せろっ!お前は俺たち、三ノ輪家の敵だっ!」
そう拒絶され、また手を払われる。園子は驚きと困惑が隠しきれず、ついには混乱して動きが止まってしまった。
「....ぅぅ........」
「二度と俺の目の前に現れるなっ!二度と....その顔を見せるなっ!!」
金はそう言うとそこから走って消えた。園子は彼を追うこともできなかった。がくっと崩れ落ち、地面に手をつく。
「なんでっ....なんでこうなっちゃったの....?神樹様....こんなこと....ひどいよ....ひどすぎるよっ....!」
園子は地面に大粒の涙をこぼして絶望するのであった。
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「あっ!?園子先生!大丈夫ですか!」
やがて金を探しにきた涼が崩れ落ちたままの園子を発見する。
「なにかあったんですか!?」
「リトルミノさんに、会ったの....」
「えっ....!?今はどこにっ....!?」
「でも....あれはリトルミノさんじゃない....。私じゃリトルミノさんを救えない....。お願い....なんばー....!リトルミノさんを....取り返して....!」
「........わかりましたっ!」
涼は園子に金が向かった場所を教えてもらうと、一目散に走り出した。園子が教えてくれた方向に金が行きそうな場所の心当たりがあったのだ。
(あそこだ....あそこしかない!)
現在の勇者システムは精神が不安定でも変身できてしまうらしい。それも神樹様が別個体になったことが理由らしいが....。一刻が争われる。涼が向かったのは以前、バーテックスとの戦いのあとに四人で立っていた、良い景色を見ることができる山であった。
(あっ....!)
涼の予想通り、そこには金がぽつんと立っており、景色を見ている。いつの間にか夕日が出ており、綺麗に海と街を照らしていた。
「探したよ~....金~!」
涼は少し安心し、そう話しかけながら金に近づいた。
「涼....お前まで俺を連れ戻しに来たのか?」
「え....?」
予想しなかった返答に涼は驚いた。金は一切涼と顔を合わせようとせず、輝く夕日を永遠と見たまま話を続ける。
「どうせ、人を殴るなんてことした俺に、優しい言葉をかけて連れ戻そうとしてるんだろ?そして、罰を受けさせるために大赦に送るんだろ?だから来たんだろ?」
「違う....!違うよ!俺は本気で金を心配して....!」
「ほら....言い訳始まった。....涼だけは....涼だけは信用してたのに....!」
「金っ!俺を信じてっ!!」
涼はそう言ってさらに金に近づく。
「こっちに来るなっ!!!」
金は叫んだ。そしてようやく涼の方を振り向く。
「....!!!」
涼は絶句した。長年ずっと一緒にいた涼でさえも見たことのない金の表情。それはこの世のなにもかもを恨んでいるような顔。とてもそれは、人間の顔には見えなかった。
「き........ん........?」
「はぁ....はぁ....涼....俺気づいたんだ....俺は今まであの記者や園子や東郷のようなひどい奴らのために....俺は命を懸けて戦ってきたのかって....こんな世界のために戦ってきたのかって....」
「金....落ち着いて....!」
「姉ちゃんは命を失ってまでこの世界を救ったって言うのに....なんだこの言われようは!!姉ちゃんが命を失った意味がないじゃないか....俺たちも....頑張ってきた意味がないじゃないか....!」
「金っ!!」
涼は走り出し、金を落ち着かせようとして彼に触れようとする。すると金は涼を睨めつけ、すばやく勇者システムを起動させて銃を涼の頭に突きつけた。
「....え.......」
あまりにも信じられない金の行動に、涼の動きはピタリと止まる。そして金は、涼を突き放すかのように静かに発言した。
「涼....さっき近づくなって言ったよな....?お前、これ以上近づくと....................死ぬぞ。」
金の言葉には容赦がなかった。あのまま近づいていたら本当に涼は金に殺されていただろう。金はそう言った後、何事もなかったかのように勇者システムを解除し、山を下りていく。その間に金はぽつりと呟いた。
「俺はもう....限界だ....こんな世界....。」
涼はしばらくその場で立ったまま動けなかった。とても金のあとを追いかけることはできなかった。変わり果てた姿、見たこともない顔、ありえない行動と言動....。自分の親友の急変に、心もなにもかもズタボロだった。やがて涼は膝をつく。
「あんなの....金なんかじゃない....。」
(第17話に続く)