帰郷したら許嫁が束縛系ヒロインになっていた。   作:黒樹

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プロローグ

 

夢に見たのは、いつかの記憶だった。

誰かの気配がして目を覚ます。

朝の光の中に映るもの。それは–––白い布地。

誰かが俺を跨ぐようにして立っているようだ。

そう認識した次の瞬間には、その人物の顔が見えた。

寝ている俺の上に仁王立ちしている姿に覚えがある。

幼馴染で腐れ縁の仲だった小煩い奴。

女だってのに慎みの一つもない、男勝りで喧嘩っ早い女だ。

そいつが早朝から俺の上に立っていた。

 

「あ、やっと起きた」

 

朝早くからそう言って顔を綻ばせる。

何故か、こんな朝早くからテンション高めだった。

 

「ほら、さっさと起きて顔洗ってくる」

「……琴音、なんでいるの?」

「別にどうだっていいじゃない。ちょっと早起きし過ぎちゃったのよ」

「意味わからん」

 

早起きした意味も、何故朝起きたらそこにいるのかも。

時間を確認するために壁を見れば、時計は朝の七時半を示している。

ラジオ体操ならもう終わっている。

そのまま俺の家に来たんだろうと寝ぼけた頭で推察して、やはり飲み込むことはできなかった。

思考を純白のあれが邪魔をする。

 

「パンツ見えてる」

「な、何見てるのよ変態!」

 

素直に申告してやれば一度上げた足が振り下ろされた。一発目は腹に、二発目からはなんとか腕で遮り、三発目は受け止めてどうにか耐える。だが振り上げた足を持っているのならば一本足で立っているに等しく、ぐらぐらと揺れる琴音はバランスを取れずそのまま寝ている俺の上にダイブしてきた。

 

「きゃあ!」

「ぐふっ!?」

 

その膝が顔面にクリーンヒット。

–––理不尽だ。そう思った。

 

 

 

朝の騒動が終わると何故か食卓に琴音が座っていた。対面で俺を睨みながら食事に手をつけている。その目の前で俺も朝食に手をつけて、何故こうなったのかを考えていれば母親が朝からニコニコと俺達の様子を眺めていた。

 

「っていうか、おまえ朝早過ぎ。なんで家に来て飯食ってんの?」

「いいじゃない夏休みなんだから。あたしがいると不満なわけ?」

 

口を開けば即喧嘩。まぁ、こいつとは日常茶飯事だ。流石に朝早くから人の上に仁王立ちしているのはびっくりしたが流石に無防備すぎやしないかと思う。それでいちゃもんつけられて下着を見られたとか騒ぎ立てられるのは迷惑だ。

 

「何しに来たんだよ」

「どうせ集まるなら早い方がいいでしょ」

「答えになってねぇ……」

 

そもそも集まるとは何なのか。話だって聞いてないし唐突過ぎて疑問だらけだ。朝早くから琴音がいることも、寝起きから最悪なことも、でもその全てがいつも通りで慣れてしまった自分にとっては簡単に許せてしまうほど、琴音とは長い付き合いだった。喧嘩ばっかりしてるのに毎日顔を突き合わせている。

 

「ごちそうさまー」

 

琴音がもそもそと朝食を食べている間に食べ終えた俺はテーブルから離れてリモコンを確保した。朝からやっているアニメの再放送を見るためにテレビをつけて、正座待機しようとすると後ろで琴音が怒った。

 

「こら、食べたらちゃんと片付けなさいよ。圭」

「……」

 

渋々無言でテーブルに戻り皿を重ねるとキッチンまで持って行った。水につけて戻ってくると琴音はまだ朝食を食べている。

 

「相変わらず、遅いな」

「あんたが早すぎるのよ。もう少し味わって食べなさい」

「いや、食べてるだろ」

 

あまり好きじゃないものから先に食べて、最後に好きなものを食べるようにする。どれだけ早く食べても欠かさず俺はそうしてきた。その判断ができるだけ取捨選択はしているはずだ。それはつまり味わっていることにもなるはずだ。

 

遅いので待っていると琴音がようやく食べ終えたようで食器をキッチンへ持っていった。皿洗いをしている母に押し付けて彼女も戻ってくると俺の手からリモコンを奪う。

 

「あたしプルキュアみたい」

「……なんでチャンネル選択権すら奪われてるんだろう」

 

文句があったわけではない。だが、釈然とはしない。逆らうことを忘れた俺はただ母に従う父のようにリモコンとチャンネル選択権を譲った。こういう時の女に逆らうと父のようになる、と本能的な判断を下していた。

 

それから二人でプルキュアを観て、時間が過ぎると二人で外に出る。昼には帰ってくるのよと念を押されて向かった場所は俺たちが住んでいる島にある、秘密基地だった。

 

そこには少年が二人と少女が一人、秘密基地に踏み入れた俺たちを見て笑い掛ける。

 

「おっせぇよ団長」

「リーダーにあるまじき遅刻だな」

「二人とも一緒だったみたいだけど、何をしていたの?」

 

普通に飯食ってプルキュア見てた。プルキュアとは女児向けのアニメだ。普通は男は観ないのだろうが、初回を見てから何故か全話見てしまっている自分がいた。

 

「プルキュア見てた」

「えっ、ボクも圭君とプルキュア一緒に見たかった!ずるい!」

 

少女の瞳は琴音に向けられている。対して琴音は勝ち誇ったような顔で腕を組みふふんと笑っていた。こいつは何に対してマウントを取っているのか時々不思議になる。

 

「そんなことより今日は何処を探検するんだ団長!」

「そうだぞリーダー。今日も面白いことがあるんだろう」

 

何故か、俺はいつからかリーダーとか団長とか変な呼び方で呼ばれることになっていた。柄でもないのにこの役割はおかしいとは思うのだが実際みんなを振り回しているのは俺だった。

 

「そうだな。山の中を探検しよう。今日は川の上流に向かうんだ」

 

その先に何があるのか俺たちはまだ知らなかった。

冒険をしたい年頃だった。

何もかもが新鮮で驚きの毎日。

今日も、明日も、明後日も。

こんな日がずっと続くと信じていた。

 

 

 

–––俺が島の外へ引っ越すことになった。その日までは。

 

 

 

 

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