再び亮介と真広が戦場へと戻っていく。
その背中を見送った俺の隣に座る気配がした。
「気は済んだかしら?」
棘のある拗ねたような女性の声に隣を見ると、琴音が腕一本分空けた場所に座っていた。その顔まで不貞腐れたように頰が膨らみ不機嫌を主張している。でも、顔は火照って赤い。
「さて、何の話だ?」
「そうね。浮気相手は見つかった?」
高校生の会話内容ではないような発言に俺は言葉を失くした。すぐに意趣返しを考える。
「それが中々見つからなくてな。どうやら島の外を探してもおまえより魅力的な女性はいないようだ」
「そう。わかってくれたならなによりだわ」
澄まして受け止めた琴音だが、思った以上に効果的だったようで頰はさらに赤く染まっている。そんな許婚が可愛くて残りの距離を一気に詰めてみた。
「な、なによ……今日のあんた随分と変よ」
心配そうに顔を覗き込まれる。体調不良とかではないのだがそれが何処か嬉しいと感じる自分がいて、言い表せない感情の濁流が胸の内をグルグルと渦巻く。
「なぁ、琴音。覚えてるか?」
そんな中、言葉だけはすんなりと出てきた。
「俺もおまえもジジイやババアが言う古臭い風習が嫌いだったろ」
「そうね。いつか出てってやるって思ってたわ」
許婚という関係に嫌悪して、それが理由でお互いに嫌悪して、それでもそばにいなければならず喧嘩しながら互いに一緒にいた。それを煩わしいと思っていたことは少なからずある。それも琴音は同じように考えていたらしい。
「まぁ、先に出て行ったのはあんただったけど」
だけど紡がれた言葉は寂しそうな声で。ついその弱気なところに心を打たれて言い繕ってしまう。
「いや、でも帰ってきたろ」
「そうね。帰ってきたわ」
『帰りたい』と願ったのは島を出たすぐあとだった。郷愁の念を覚えるにしても早い。その理由は簡単にわかった。故郷にいる琴音や仲間達に会いたかったからだ。その念は日々増していった。本土で生活している時、どうしても過去の楽しかった日々の事が脳裏を過ってしまう。
「それで一つ、気づいたことがあるんだ。割と俺達って恵まれていたのかなって」
「恵まれていたって?」
「おまえと許婚だったこと、この島に生まれたこと。全部」
「へー、そんなにあたしと結婚したかったんだ」
世には許嫁や幼馴染という関係に恵まれず非業の死を遂げる奴もいるらしい。そう考えれば、幾分か俺は恵まれていたほうだ。こんなに可愛い幼馴染がいるのだから。
「それが理由で帰ってきたと思うか?」
「違うの?」
「そういうことにしておこう」
そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。否定はできないので適当にはぐらかしておく。
「それは嬉しいわね」
琴音も真面目に受け取らず、海水浴客を眺めていた。
そうしていると、彼女の口からぽろっと溢れる。
「……嘘でも、嬉しい」
俯いて顔を見せないようにする琴音は、慌てふためいていた。
「どうしよう。ドキドキが止まらないんだけど」
「鎮めてやろうか。ハグで」
「余計に悪化させてどうするのよ。でも、そうね……代わりに圭のお願いひとつだけなんでも叶えてあげる」
「えっちなのも?」
そう聞くと、彼女は顔を赤らめながらもコクンと小さく頷く。
えっちなのと聞いて動揺しない男子はいない。それくらい衝撃的であったし、刺激的であった。迷わず数段飛んでのゴールインを選択しそうになるが思い止まる。
「……じゃあ、水着着たおまえがみたい」
そう願った瞬間、不満そうな顔で脛を蹴られた。