変だったら修正する予定。
あと今回はかなり短めです。
八月三日。天候は晴れ。怒涛の一週間が過ぎ、ようやく島の空気が身体に馴染んだところで俺は砂浜にビーチパラソルをぶっ刺していた。日陰にはビーチチェアを設置して、一仕事終えると共に額の汗を拭う。
こんなことをしているのも以前からの約束であった『海で遊ぶ』ために他ならない。
–––実際の約束は『琴音の水着姿が見たい』という卑しい願望から始まったものであったが、表向きの理由としては『海水浴』と触れ回っているため嘘ではない。
目的と手段が混同するのはよくあることだ。別に家で着て見せてくれてもよかったのだが、話が知らないうちに大きくなって今の状況に至っている。身から出た錆とはこのことで、俺には海水浴を辞退する拒否権すら用意されていなかったのは記憶に新しい。
「いやっほー!海だぜぇぇぇ!」
「亮介、ここは正々堂々と勝負しようじゃないか」
「んじゃあ、ちょっくらやるか?」
「ふっ。おまえならそう言うと思っていた」
パラソルの陰で休んでいる俺の隣を走り抜けて行く二人は海へと一直線に駆ける。あと一歩のところまで二人は並んでいたが、海に飛び込もうという瞬間だった。
「今日こそは真広より先に!」
「今日こそは亮介より先に!」
「「おねぇぇぇーさぁぁぁん!!!!」」
二人は海へ駆け込む手前、揃って垂直に曲がると別々の女性にアプローチを仕掛ける。俗に言うナンパと呼ばれる行為であった。
「あいつらは相変わらず元気だな」
「でも、今回に限って言えば失礼だよね」
元気よく水着姿でナンパを始めた二人を眺めていると、左腕に薄皮一枚に包まれた柔らかな感触が衝突する。しかし、衝突の衝撃をその柔らかな感触が全て吸収したためか痛みは全くなく、柔いプルンプルンは俺の左腕を優しく包み込んだ。
振り向こうとした矢先、肩の上に何かが乗って頰に押しつけられる何かの感触。強制的に動きを停止させられ、目の端で捉えたのは俺の腕に抱きつきながら肩に顎を乗せてくる美咲の姿だ。
白のホルターネックビキニと腰に巻いたパレオを身につけ、彼女はこれでもかと柔らかな肢体を押し付けてくる。表情は機嫌良さそうに弛緩して、魅力的な微笑みを浮かべている。
「せっかくボクたちが水着になってるのに、見向きもしないなんて。それどころかナンパまで始めちゃってさ」
が、心境は複雑といったところでこのような苦言を呈した。
「なんだ真広たちに見て欲しかったのか?」
「ううん。圭君さえ見てくれれば別にどうでもいいし。でも、見向きもされないのはそれはそれで腹が立つというか」
「なるほど……」
たとえ本命ではなくともちやほやされたい、というのが美咲の望みであるようだ。だからといって、何かあるわけでもなく美咲は既に真広と亮介から興味を失くしたようで俺に存分に甘えてくる始末、俺は指一本すらまともに動かせなくなる。
「はわわわ!遅かったです……!」
遅れて小走りにやってきたのは智代子だ。身につけているのは青を基調とした水玉フリルの可愛らしいビキニ。
俺の腕に引っ付いている美咲を見て、慌てた様子を見せる。
「まだ反対の腕が空いてるよ?」
そこに何を思ったのか自分が抱きついている腕とは反対を指して、美咲は智代子を揶揄う。
「いや、そうではなくてですね……。私は琴音先輩に美咲先輩を止めるよう言われて急いでやってきたわけでして、別に抱きつきたいとかそういった願望は……」
「そう?圭君の身体、すっごく逞しくて太くて硬くて……凄いよ?」
「……」
ごくり。喉を鳴らす音がした。
「……いえいえ、ちょこちゃんはそんなはしたないことは……」
「えいっ」
掛け声と共に美咲が俺の羽織っていたパーカーを剥ぎ取る。その下から現れたのは、適度に鍛え上げた男の体躯。それを見た瞬間、智代子の目の色が変わる。
「……じゃあ、ちょこっとだけ」
指先を滑らせ智代子が身体に触れてくる。つぅーっと胸の中心をなぞるように指を這わせ、胸板の厚さを確かめたあと、腹筋の段差……所謂シックスパックを指先で弄ぶと、ほうっと艶かしい溜め息を漏らす。
「……不覚です。先輩になら抱かれてもいいとちょこちゃん思っちゃいました」
満足げに溜め息を漏らして、今度は上腕二頭筋を愉しみ始める。
そして、智代子の視線がある一点で止まった。
美咲が抱えている左腕の肩に近い部分、露出しているそこにある“不自然な溝”に触れて次第に端から端まで辿っていく。同じようについた溝は全部で四本。さらに多くの傷痕が身体には残っている。
「これは、熊と戦ったという、あれですか?」
「戦ったとか大袈裟だな。襲われただけだよ」
「大袈裟なものですか。ちょこは凄いと思いますよ。熊と対峙してこれだけの傷を負わされて生きて帰ったのなら、十分な勲章ものだと思います」
尚も称賛をやめない智代子に俺は恥ずかしくなって視線を逸らす。
「で、琴音は?」
「琴音先輩は桂音ちゃんの着替えに手間取っているようでして、じきに来ると思いますよ」
「あー!ちょっと二人ともなにしてるのよ!?」
噂をすればだ。俺に絡みついている美咲と智代子を糾弾する声に振り向くと、二人とは違う大人っぽい黒のレースがあしらわれたビキニを着用している琴音が、ワンピースタイプの水着姿の桂音を連れて凄い形相で走ってきた。
「智代子ー?ちゃんと美咲を見ていてって言ったはずよね?なんであんたも一緒になって圭にベタベタしてるのよ?」
「圭先輩が思ったより凄い身体をしていて、つい……」
謝罪を述べているようだが、視線は未だ俺の傷から離れない。
「まぁ、とにかく揃ったならいいだろ」
「ちょっ、ちょっと、あんたはあたしに何か言うことないの?」
期待を込めた眼差しが俺を射抜く。琴音は俺からある言葉を引き出したいらしい。と、気づいてはいるが月並みの言葉でいいものだろうか。
「綺麗だぞ。三人とも」
此処はあたりざわりなく三人を褒めておく。
すると琴音は子供のように頬を膨らませて拗ねた。
「それだけぇ?」
「これ以上は桂音の教育に悪い言葉しか出てこないぞ」
「な、にゃにを言うつもりよあんた!」
頬を真っ赤にして慌てふためく琴音をじっと観察する。
常々思っていたが、彼女はとても綺麗だ。
大胆な水着姿になったことで、性的な魅力も増してしまったらしい。
率直に言うとエロい。
「おにーちゃん、あそぼ」
熱心に琴音を見つめていると琴音の手から離れた桂音が腹に突撃してくる。俺はこれ幸いとばかりに二人を振り払って、桂音を抱き上げた。このままだと邪な思惑が暴走してしまうところであった。
「よーし、何して遊ぼうか」
あまり魅力的な女性達と過ごしていると身体に毒なため、桂音を餌に俺は逃げの一手を選択した。
「およぎかたおしえて!」
「そうか。まずは泳ぐところからだな」
島民は殆ど小学校に上がる前にはある程度泳げるやつが多い。環境故かそれが自然だった。
「じゃあ、まずは水に慣れるところから始めるか」
「うん」
桂音と手を繋いで海に向かう。
「って、あ、ちょっと!」
「ボクも行く!」
「待ってくださいちょこも行きます!」
その後を追って、三人も駆け出した。