キリが良かったので……。
「んー。あっつ……」
寝返りを打とうと身を捩れば、身体が動かない。左腕は桂音、右腕は琴音が抱き枕にして眠っているせいか身動きの取れる状況ではなく、夜も明け始めたからか気温は上がりつつあり、寝苦しさに目を覚ますのは必然であった。
「……もう少し、寝よう……」
と、目を閉じれば眠れるかと思ったが、思った以上に寝苦しく、再度寝付ける兆候はない。約三十分、二度寝を試みたがついぞ眠れることはなく、しかし起きるのも気怠いためそのまま二人の様子を眺めてみることにした。さすがは姉妹と言うべきか、あどけない寝顔はだらしなく緩んだ口元までそっくりで可愛らしくもある。
「う…にゅ……」
琴音の寝顔をじっと見つめていると、ふと睫毛が微かに揺れた。ゆっくりと目蓋が薄く開き、覗いた瞳と視線が交わるが何処か焦点は定まっていない。
「んん〜……圭〜」
そして、そのまま寝ぼけ眼で甘えるように琴音は抱き着いてきた。
「離してくれ。起きるから」
「……や」
やんわりと押し退けようとすると、琴音は腕を回してホールドしてくる。
「……おう」
かつてないほどに甘えてくるので反応に困る。
「んんぅ〜〜〜。ふふん♪」
自然と伸びた手で髪を撫でつけると、満足そうに喉をゴロゴロと鳴らして頭を擦り付けてきた。
「おーい、起きろー」
「……そうね。ご飯作らないといけないし」
ひとしきり甘えて満足したのか、琴音はそう呟くと立ち上がろうとして–––。
「よいしょ……っと、あれ……?」
ふらり、と倒れ込んできた。
慌てて受け止めると彼女の綺麗な顔が至近距離に。
あはは、と力なく笑って言った。
「ちょっと立ち眩みしちゃったみたい」
なんだろうか。顔色はあまり良くないし、元気がないように見える。普段の鬱陶しいくらいのパワフルさもなりを潜めており、反応も少し鈍いような……。と、疑い始めればキリがない。
「ちょっと寝てろ」
「大丈夫よ。これくらい。ちょっと立ち眩みしたくらいで……」
「いいから寝てろ。医者呼んでくるから」
「ちょっとそこまでしなくても……!?」
抵抗する琴音を押し倒して布団に戻していると、隣でもぞもぞと桂音が起き始める。
「う〜、おねーちゃんとおにーちゃんがプロレスしてる」
「桂音、おねーちゃんがちゃんと寝てるように見張っておいてくれ」
「……あい」
桂音に留守番を頼んで、俺はすぐに服を着替えて家を飛び出した。
◇
「軽い過労ですね」
診療所から連れて来た女医による診断結果は思ったよりも悪くはなかった。
「無理をせずしっかり休養をとればすぐに良くなりますよ」
「そうですか。ありがとうございます」
お礼を言う俺に女医はニコニコと笑って、注意を促す。
「ダメよ〜。そういうおとしごろなのはわかるけど、ヤり過ぎは」
「……はい?」
「彼女さんが可愛くて盛っちゃうのはわかるけどね〜」
「さかっ……違いますよ」
「あらやだそうなの?」
何がそうなったら過労の原因がそういうことになってしまったのか。強く反論すると余計な事態を招きかねないためやんわりと否定すると、あら残念とつまらなさそうにため息を吐いた。
–––確信犯だ。
女医のいらない茶目っ気に苦笑していると、途端に女医は真面目な顔になった。
「原因はストレスとか、ね。それは医者じゃどうしようもないわ」
「そうですか……」
思えば家事等は琴音に任せきりだった。それが負担になってしまっていたのかもしれない。
「それじゃあ、また何かあればいつでも病院へ」
「ありがとうございました」
女医は仕事道具を仕舞うと、診療所へ帰っていった。
「ね、たいしたことないって言ったでしょ?」
診察してくれた女医を見送ったところで琴音が微笑みながら言う。その顔はいつも通りで、顔色も少し良くなってきたようにも見えるが、やはり今日は安静にするのが必要だと思う。
「おねーちゃんお腹減った」
「待っててね。すぐご飯作るから」
妹の腹ぺこ報告に琴音は笑顔で応え、朝食の準備をしようと布団から出た。……ところを俺がまた押し戻した。
「朝食の準備なら俺がするから寝てろ」
「え、できるの?」
訝しげな視線が向けられる。
「おまえ俺がパンを買ってくるだけとか思ってるだろ」
「そ、そんなことないわよ……?」
そんなおつかい子供だって出来る。まして今は栄養が必要な病人と育ち盛りの幼女がいるのだ。俺一人ならパンで済ませたろうが、それで済ませるわけにはいかない理由がある。
「桂音、またお姉ちゃんを頼むな」
「うん。いってらっしゃーい」
桂音に送り出されて、俺は再び家を出た。
困ったことに時間が足りない。
ポケモンとソシャゲのデイリーやってたら一日が終わってるんだ。