帰郷したら許嫁が束縛系ヒロインになっていた。   作:黒樹

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洗濯日和

 

 

 

一日の気温がピークに達しそうな昼頃、今日の家事二つ目となる洗濯をしていた。

 

「いい天気だなぁ」

 

洗濯籠を地面へと下ろし、眩しい太陽に手を翳し目を細めて空を見上げる。雲一つない快晴の空は海と同じくらい青々としていて、透き通るようだ。

 

「そうですね。これなら今日中に洗濯物も乾きそうですよ」

 

並んで隣にいるのは、手伝いを買って出てくれた智代子だ。本当なら美咲も立候補したのだが、自分の見えないところでアプローチされるのが嫌だったらしく琴音に捕まっており、二人仲良く部屋の中だ。

 

「じゃあ、始めるか」

「はい」

 

洗濯籠から洗濯したばかりの洗濯物を取り出す。上からTシャツを取って干しているとその隣で何やら怪しい動きで智代子は洗濯物を伸ばしたまま固まってしまった。

 

「先輩先輩」

「なんだ?」

「見てください」

 

言われて振り返ると、智代子が三角っぽい布切れを広げているではないか。思わずなんだ?と注意深く観察するとパンツだった。それも琴音の昨日まで穿いていたであろうものを。

普通の男子高校生なら動揺するところであろうが、洗濯物として干してあるところや、琴音の艶姿?はかなり見慣れているため慌てることはなく、むしろ智代子の意図が分からず困惑してしまう。

 

「……俺にどうしろと」

「あれ、意外ですね動揺しないとは……はっ。まさか下着では動揺しないほど深い仲に!?」

「残念ながらそこまで深い仲になった覚えはない」

 

智代子のボケに冷静にツッコむと、彼女はちぇーとつまらなさそうな顔をする。

 

「えー、男としてそれはどうなんですか圭先輩?欲情したくなっちゃいませんか?」

「ノーコメントで」

 

次の洗濯物を取る間も、智代子はパンツをおっ広げたまま分析を始める。

 

「でもあれですね。これ勝負下着ってやつですよ先輩」

「勝負下着?」

「はい。女の子の恋は戦争ですから、常に何があってもいいように可愛い下着をつけてるものなんですよ」

「そりゃ初耳だ」

 

戯言を受け流すも、智代子の分析は続いていく。

 

「あとですね先輩!」

「なんだ?」

「他にも気づいた点が!」

 

下着一つで何を大騒ぎしているのか、智代子は興奮気味だ。

 

「実は、琴音先輩ってこういうデザインの良い下着着けてるの見たことないんですよ!」

「ふーん。……え、女子ってこういうデザインの良い下着を毎日つけてるものじゃないのか?」

 

あいつは昔から可愛いものが好きだったはずだ。母親に買って貰ったワンピースとか、服装だけでもかなりおしゃれに気を使っていた女の子だったはずだ。だったら下着もそうなんだろうと思っていれば、智代子は首を横に振った。

 

「まぁ、だいたいそうなんですけどね。中学までの琴音先輩はどちらかというとシンプルな下着の方が多かったですかね」

「なんでちょこはそんなこと知ってるんだよ」

「プールの着替えの時とか、一緒に温泉入ったりとか、結構脱ぐ機会多かったもので」

 

確かに女子同士ならそういう機会もあるのだろう。しみじみと語る智代子は一転、瞳をきらりと光らせた。

 

「それにですね先輩」

「今度はなんだ?」

「布面積もちょっと小さくなってる気がします。大発見です!」

「おまえ本当に楽しそうだな」

 

智代子が遊んでいる間に次の洗濯物を掴むと、智代子が持っているパンツと同じデザインのブラジャーが出てきた。

 

「匂いを嗅いじゃダメですよ先輩!」

「なんで俺がそんな変態的なことやらなきゃなんないんだ。柔軟剤の匂いしかしないだろ」

「被るのもダメです!」

 

智代子が干さないのでパンツを奪って一緒に干しておく。そうすると次の洗濯物を発掘しに、洗濯籠の中に智代子が手を突っ込んだ。

 

「お次は〜、おぉっ!これは随分と大人っぽいですね」

 

次に引っ張り出されたのは黒のパンツだ。中々にデザインが凝っていて、刺繍が美しいと男性目線でも感じられる。これを着た琴音がいきなり脳裏に浮かんで、目を瞑って邪念を払う。

 

「なるほど。他には……ふむふむ」

 

その間にも智代子は遠慮なく琴音の下着を引っ張り出していった。一日に何回着替えているのか、下着だけで替えが三着くらい見つかってしまう。

 

「これ何日分だ?」

「乙女は常に綺麗でいたいんですよ。特に好きな人の前では。だから、汗かいたら着替えてるんでしょうね」

「そこまでするか普通?」

「先輩は汗の滴る琴音先輩の方がいいということですか?」

「……」

 

どう返答しても智代子の解釈では俺が変態になってしまう。

 

「先輩あれですね。本気です。いつでも襲われていいように毎日が勝負下着です」

 

散々漁って、智代子は満足したのか感想をいい感じに纏めた結果がこれだ。それに伴い非難がましい視線が俺を射抜く。

 

「襲わないんですか?」

「襲わないんですかっておまえなぁ……」

 

どう反論するべきだろうか。智代子の直線的すぎる詰問に俺は初めてたじろいだ。

即答で否定できないのは、琴音に対してそういう欲求があるからで。

即答で肯定できないのは、美咲の存在があるからだ。

どちらも大切で、好意を寄せてくれていて、かけがえのない大切な人だ。

そう簡単に決められるような問題ではない。

 

「先輩はどっち好きなんですか?まぁ、ちょこちゃん的にはどっちでもいいんですけど」

 

そう言って、最後の洗濯物–––琴音の下着を押し付けてきた。直後。

 

「きゃああああぁぁぁぁ!?!?」

 

縁側の方から、悲鳴が聞こえてきた。

振り返ると琴音が此方を見ており、何やら俺の手元を凝視している。

素早く縁側を降りたかと思うと、俺と智代子の元へ来て手にある洗濯物を奪ってしまった。

胸に抱き抱えるや、羞恥と怒りの混じった朱に頰を染めて此方を睨んでくる。

 

「ちょこ!」

「はい、何ですか先輩?」

「あたしの下着はあんたが干してって言ったでしょ!」

 

–––ここだけ聞けば物凄いカミングアウトだ。実際には、男に下着を干されたくなかっただけだが。

 

「圭先輩に触られたくないんですか?」

「そ、そうは言ってないけど……。でも、物事には順序ってものがあるでしょ!」

 

いったい下着を干す過程にどんな順序があるというのだろうか。

 

「ちょこだって下着を見られるのは恥ずかしいでしょうが。そ、それも、好きな人に洗われたり、見られたりとか!」

「でもよく考えてください琴音先輩。男の子は女の子の下着に敏感なんですよ。つまり、下着を洗濯されたり、見られたりするのは異性として意識させるには効果的なんじゃないかと思うんです!」

「そ、そうかしら……?」

 

ちらっと視線が此方を向く。確かに家の中に異性として認識できる相手の下着が干してあれば、なんとなく意識はしてしまうだろう。気がつけば視線を奪われるくらいには、意識しているわけだし、言い訳はできない。もちろん一日中眺めてるわけではないが。

 

「たとえば琴音先輩の脱ぎ捨てた下着の匂いを嗅いだり!」

「さすがにそれはやらん」

 

想像の斜め上をいく変態的発想に思わずつっこんでしまった。

 

「し、しないの……?」

「普通しないだろ」

「……」

 

琴音は僅かに目を逸らした。その小さな違和感に俺は怪訝な顔をする。

 

「琴音さん……?」

「ち、違うわよ!あたしはシャツとかしか!」

「俺のシャツの匂いを嗅いでいると?」

「うっ……だ、だって、それに応じて必要な洗剤の量とか変わるでしょっ」

 

洗濯にそんな方法があったとは驚きだ。

 

「そんな事実はないですね。洗剤も柔軟剤も適量です」

 

智代子は僅かに引いた顔で琴音から距離を取る。

 

「だってシャツに圭の匂いが残ってるんだもん仕方ないでしょ!」

 

後輩にドン引きされながらも開き直った琴音がそう叫ぶと、家の中からひょこっと美咲が顔を出す。

 

「なにみんなで騒いでるのー?」

「……おまえは何してるんだ?」

 

ただ、家から顔を出した美咲は何故か布団に身を包んでいる。真夏だというのに頭まですっぽりと被ってナメクジのように動いていた。

 

「圭君のベッドにダイブしたら、なんだかいい匂いがして」

「ね、あたしだけじゃないでしょう?」

 

同類を見つけて安心したと言わんばかりの琴音に今度こそ智代子は言葉を失った。

 

「……先輩は二人を変態にした責任を取るべきだと思うんですが」

 

そして、そう宣ったのだった。

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