帰郷したら許嫁が束縛系ヒロインになっていた。   作:黒樹

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二人からの報酬

 

 

 

午後十時を過ぎても嵐は勢いを止まるところを知らない。その中を人、一人抱えて歩くのは随分とハードな体験だった。もう二度と経験したくない。

 

「ただいま……」

 

ようやく我が家に帰った声も、尻すぼみに消えていく。

腕には足を捻挫した智代子を抱え、なんとか家に辿り着いた。

 

「うぅ……結局、先輩にお持ち帰りされてしまいました」

 

少女は両親の元に送り届けた。その足で疲れた体に鞭を打ち帰宅。捻挫した足で嵐の中家に帰ろうとした智代子を拉致して、連れ帰った俺は腕の中から責めるような視線を受けている。最初は抵抗していたものの、今はそんな冗談を赤い顔で智代子は呟いていた。

 

「しょうがないだろ。おまえまで家に送るの面倒だったし」

「だから、一人で帰るって言ったじゃないですか」

「こんな時間に女の子一人で帰せるか」

「それはそうですけど、それはそれで危ないというか……」

「前にも一度、泊まったろ」

 

何を今更、恥ずかしがっているのか。

 

「それにヘタレなんじゃなかったのか?」

「あ、根に持ってますね」

「別にそういうわけでもないが。……付け加えるなら、今の俺にそんな元気があると思うか?」

 

足が棒になるまで山道を歩き身体はボロボロ。発情しようにも出来そうにない。たとえ、裸の美少女数人に囲まれたって無理だろう。それくらい疲れていた。

 

「何を騒いでいるのよ」

「あ、琴音先輩。おじゃましてます」

「いらっしゃい。まぁ、なんとなく状況はわかったわ」

 

腕の中で騒いでいる智代子を見ると、琴音は訳知り顔で頷いた。

 

「送るの面倒で連れ帰ってきちゃったのね」

「阿吽の呼吸ってやつですかね……?」

 

事情の説明すらしてないのに理解を示す琴音に、智代子は羨望の含まれた眩しいものを見るかのような顔をする。

 

「そりゃわかるわよ。圭のことだもの。おおかた怪我した智代子を抱えてきたんでしょ。遠慮しないで、泊まって行きなさい。おばあちゃんにはあたしから連絡しておくから」

「うぅ、わかりました。お願いします」

 

おとなしく泊まることにしたのか智代子が腕の中から下りる。ゆっくりと玄関に足を下ろして、合羽を脱いで側にあるハンガーに掛けた。

 

「風呂沸いてるか?」

「ええ」

「じゃあ、智代子さっさと入ってこい」

「え、いいですよ。先輩から先に入ってください。ずぶ濡れじゃないですか。風邪ひいちゃいますよ」

「俺は後でいいから」

 

着ていたパーカーを脱いで、中に着ていたTシャツも脱ぐ。雨に濡れた服は重く、肌に張り付いた感触が剥がれて幾らかマシになる。上半身裸になった俺を見て、智代子が顔を赤くしていた。

 

「なっ、なんでこんなところで脱いでいるんですか先輩っ!」

「いや、気持ち悪かったから。つーか、おまえ海の時に俺の裸見てるだろ」

「あ、あれはそういうものだからいいんです。不意に脱がないでください」

「それよりさっさと風呂に入ってこい」

「や、やっぱりちょこは後でいいですから、先輩からどうぞ」

「いや、先に入ってこいよ」

「いえいえ、先輩から先にどうぞっ」

 

風呂の順番を巡って押し問答が繰り広げられる。

不毛な争いを見兼ねてか、琴音が溜息を吐いていた。

 

「あたしも入ってないんだから、早くしなさいよ」

「もういっそ二人で入っちゃえば?」

 

居間の方にいた美咲が顔を出して、そんなことを宣う。すると智代子は顔を真っ赤にして狼狽えた。

 

「そ、それは、だ、ダメですよ……ッ」

 

一番良識的な琴音に助けを求める。智代子も反対すると思ったのだろう相手は、少し考えるように宙に視線を逸らした。

 

「ねぇ、智代子。圭のこと好き?」

「うぇっ!?た、確かに好感の持てる人ですけど、別にそういった意味では……!」

「じゃあ、いいんじゃない」

「全然良くないですっ。お二人は普段から入ってるとしても、ちょこには心の準備が……!」

 

珍しく智代子が揶揄われている光景に、俺はくつくつと笑った。

 

「どうする智代子?」

「ど、どうするって……」

「おまえが先に風呂に入らないなら、一緒に入ることになるけど」

「あぅ……」

 

頰を赤くしながら、困った顔で智代子は葛藤する。

先に入らないと混浴することになる。しかし、俺に風邪を引かれると困るので先に入って欲しい。

数分ほど悩んだ結果、智代子は決めた。

 

「……さ、先に入らせてもらいます」

 

恥ずかしさが勝ったのか頰を赤くしながらそう断って、風呂場へとよたよた歩いていく。廊下から姿を消したところで、俺は意外な提案をした許婚に視線を移した。

 

「で、どういう風の吹き回しだ?」

「どうってわかってるくせに」

 

智代子は何処か一歩引いたところがあるため遠慮してしまうところがあるらしく、今のような強行策が最も効果的なのだ。それはさっき嵐の中、足を引き摺りながら歩いて帰ろうとする彼女との問答で気づいた。琴音達は昔から知っていたみたいだが。

 

「はぁ。もし智代子が俺と風呂に入るのを選んだ時はどうするつもりだったんだ?」

「その時はその時よ。あたしも一緒に入って監視すれば問題ないじゃない」

「信用ないな」

 

俺が智代子に襲い掛かるとでも思っているのか、琴音は半目で睨みながら言う。

 

「……背後からあたしのおっぱい鷲掴みにしたくせに。どの口が言うのかしら」

「……不可抗力だ」

 

ハクアを抱えて、逃げるように家に上がる。その後ろで美咲が琴音を問い質そうとする声が聞こえてきていた。

 

 

 

 

 

 

智代子が風呂を上がり、ようやく番が回ってきた。

洗面所で服を脱ぎ、風呂場の扉を開けるとするりとハクアが入っていく。クルクル回って、桶の前でお座りして待った。

俺は立て掛けてあったタライを手にして、そこにお湯を注ぎ込むとハクアは温度を確かめるように足先を差し入れ、大丈夫だとわかるとタライの中に入った。

 

「よーし、今洗ってやるからな」

 

泥濘んだ土の上を歩いたせいか、足先や身体は泥だらけだ。白い毛は汚れ茶色くなっている。それが不満だったのか力なく鳴いて不満を露わにすると、ふりふりと尻尾を振った。

手でお湯をかけてやると気持ち良さそうに目を細める。程よく全身を濡らして、狐用の石鹸を泡立てて頭の先から洗っていく。その間、ハクアはおとなしく身を委ねていた。

 

「クゥ〜ン」

 

全身隈なく汚れを落としたのち、シャワーで洗い流すといつも通り真っ白な毛。タライの中の汚れたお湯を捨てて、濯いでからお湯を張りなおすと縁に顎を乗せて寛ぎ始める。

 

「……はぁ。疲れた。代わりにおまえが洗ってくれたりしたら楽なんだけどな」

「クゥ〜」

 

どうしようもない愚痴に困ったように返事をするハクアは、俺を見上げて首を傾げた。

 

「じゃあ、ボクが洗ってあげようか?」

 

第三者の声と同時に背中に乗る柔らかな二つの膨らみ。そのまま上半身を押し付けるように体重がかけられ、首筋に腕を回して背後から抱擁するように凭れ掛かる。その正体を知りながら、俺は横から出された顔に手を添えて、愛しむように頰を撫でる。

 

「そりゃ随分と魅力的な提案だな」

「でしょー。圭君はボクに身を委ねてゆっくりしていてね」

 

いつの間にか侵入を果たしていた美咲は洗面器を手に取ると、お湯を二人一緒に被る。少し名残惜しそうに離れると、シャンプーを手に出して俺の髪に手を梳くように入れる。そのままわしゃわしゃと洗い始める。それは男の大雑把なものとは違い、丁寧で気持ちよく思わず目を細めてしまうような手つきだった。

 

「先に聞いておくんだが、どうやって琴音の目を盗んで入ってきたんだ?」

「琴音ちゃんがちょこちゃんの布団敷いている隙にね」

 

と、なると琴音が美咲の不在に気づくのは時間の問題だ。そのうち風呂場に突撃してくるんだろうなー、と予感めいたものを感じたが指摘するのはやめておいた。本人もわかっているだろう。

 

「はい、目を瞑ってー」

 

髪を洗い終えたのか洗面器になみなみ注がれたお湯を被せられる。泡を二、三度流したところで、スキンシップを図ってきた。背中にまた抱きついてくる。

 

「今日は過激だな」

「圭君も気が向いたなら、手を出してくれてもいいんだよ。ボクだってこう何度もお預けを食らうと、体の奥底から圭君が欲しくなって抑えられなくなっちゃうんだから」

 

甘く、熱い吐息が耳を擽る。

 

「たとえば、湯船に浸かったまま背後からおっぱいを揉んだりとか」

 

どうやら全部聞いてきたらしい美咲が、そんなことを言って誘惑してくる。

 

「さすがに智代子が泊まっている間にそういうことはできないな」

 

長風呂はさすがに怪しまれる。揉むくらいなら、そう時間のいることではないが。あと間違いなく琴音の機嫌を損ねるだろう。

 

「いっそちょこちゃんも襲っちゃえば?」

「あいつはそういうのじゃないだろ」

「そうかな?それなりに圭君のこと好きだと思うけど」

 

嫋やかな指先が鎖骨を撫で、そのまま下へと辿っていく。

 

「圭君元気ないって割には元気だね」

「そりゃ可愛い女の子と風呂に入ってるからな。元気にならない方がおかしい」

「じゃあ、そろそろ体も洗っちゃおっか」

 

–––バンッ。

 

「美咲ー!!あ、やっぱりここにいたわね!」

「遅かったね琴音ちゃん」

「またあんたはもう……!圭もなんで鼻の下伸ばしてるのよ!」

「……不可抗力だ」

 

風呂場の扉を開けたのは、当然琴音だ。

 

「そ、そんなくっついてナニをしようとしてたのよ!?」

「琴音ちゃんができなかったこと、かな」

 

美咲が挑発するように笑って、俺の頰にキスを落とした。

 

「圭君さえよければ、ボクにその欲望をぶつけてくれていいんだよ。琴音ちゃんにはお預けをくらったようだし」

「あ、あれは、急に圭が触ってくるから。こ、心の準備が出来てなかっただけで」

 

頰を赤らめて琴音は言い返すと、服に手をかける。

 

「あ、あたしも入るから」

 

戸惑いなく脱いで、恥じらいながらも風呂場に入ってきた。

 

 

 

三人で湯船に浸かる。

横に並んで浸かるには狭く、縦に並ぶことになった。

前に美咲、真ん中に俺、後に琴音。

足を開いた琴音の間に俺が挟まり、その前に俺が挟まって、その足の間に美咲が座る。

背中には琴音の柔らかな膨らみの感触があり、腕の中には美咲の柔らかな肢体の感触がある。美咲は全面的に背中を押しつけて、完全に身を委ねていた。

 

「さすがに三人は狭いな」

「んっ。そうだね。たまたま偶然、圭君の手がおっぱいに当っちゃうくらいには」

 

はて、なんのことやら。俺は知らないふりをする。

 

裸の美少女に挟まれて俺の理性は限界値。

辛うじて留まっているのは、泊まりに来た智代子の存在が頭の片隅に引っ掛かっているからか。

忘れてしまえば、理性など簡単に吹き飛びそうだ。

お湯に浮かぶ浮きのような二つの膨らみを見れば、視線が自然と吸い寄せられる。

 

それにこれくらいでバチは当たらないだろう。と、言い訳じみた自己弁護をしてみる。

 

「むー、美咲のおっぱいばかり触って。あ、あたしのも、触っていいのよ……」

 

背後から抱きつくように、強く柔らかな膨らみが押しつけられる。

 

「二人とももう少し自重というものを覚えてくれないか。智代子がいるんだぞ」

「ボクは見られてもいいよ」

 

客人の存在など気にしない、とでも言うかのように美咲は俺の手を誘導する。何処とは言わない。

 

「今日はやけに積極的だな」

「こんなチャンス滅多にないからね」

 

既に智代子も混浴していることに気づいているだろうが……ふと思ったのだが、こいつらはそういうこと知られて恥ずかしくないのか。

 

「まぁ、いいか。智代子だし」

 

二人を幸せにしろ、とか言ってくるくらいなのだ。

混浴くらい許されるだろう。

むしろ、二人を応援しているのだから。

問題はないはずだ。思うところはあれども。

 

「ねぇ、圭君。ずっとこうしてたいね」

 

–––否定はしない。

 

 




その後、待っていた後輩ちゃんに客人がいるのに混浴しないでくださいとジト目で睨まれたとか睨まれなかったとか。
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