帰郷したら許嫁が束縛系ヒロインになっていた。   作:黒樹

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おかえりダーリン

 

 

 

「おかえり。ご飯にする?お風呂にする?それともボク?」

 

禊を終えて家に帰った俺達を出迎えた美咲は、琴音がいるにもかかわらず究極の三択を迫ってくる。まるで琴音のことなど見えていないかのようだ。

 

「あんたねぇ、そういうのはあたしがいない時にやりなさいよ」

 

当然、無視された琴音は良い顔をしない。それもそのはず美咲の提案を琴音は最初突っぱねていたのだ。打算のある美咲がただでそういうことをするはずがないと。実際、美咲も祭の期間中、この家に泊まり込みで家事をするという提案をしていてそれは間違いではなかったわけである。

 

「別にボクはそれでもいいけど。圭君、どれを選ぶ?」

「じゃあ、美咲で」

「ふふーん。いいよ。ボクにいっぱい甘えてね」

「やっぱりあたしの前だけにしなさい」

 

美咲の夫婦ごっこに付き合って答えれば、琴音は前言を撤回して美咲を警戒したように睨む。が、その空気もすぐに薄れ俺の首に回す腕の力を強く込めなおした。

 

「あれ?そういえば琴音ちゃんどうしたの?」

 

俺に背負われている琴音を見て、美咲が首を小さく傾げる。

 

「あぁ、ちょっと足を捻ってな」

「う、うん……それで圭が帰り道おんぶしてくれて」

「それにしたって遅いよね。……なんか距離近くない?」

 

訝しむ視線に背中の琴音の心拍数が上がる。背中に彼女の胸が密着しているからか、その微細な変化が手に取るように伝わってしまう。

 

「くんくん。圭君から琴音ちゃんの、琴音ちゃんから圭君の匂いがする」

 

顔を近づけて匂いを嗅いでくる美咲。本当、女ってどうしてこんなに勘が鋭いのか。

 

「えい」

 

そう思った時には、既に行動が終わっていた。

そんな軽い感じで、美咲が俺の唇にちゅっと口づけをする。

当然、背中に琴音を背負っている俺は回避不可。

あっという間に唇を奪われてしまった。

 

「……圭君、ボクとした感想はどう?」

「あんな一瞬じゃよくわからん」

「じゃあ、今度は琴音ちゃんのいない時に圭君からしてね」

「おぅっ!?」

 

反射的に頷き返そうとした瞬間、首に回された琴音の腕が首を絞める。

 

「な、なにしてるのよ、あんたは!?」

「このままじゃ差が広がっちゃうからね。せめてもの仕返し、かな」

 

余韻には浸らせないとばかりに上書きされて、琴音は美咲を睨みつけたがどこ吹く風。気にした様子はない。

ただそう言われては琴音も言い返すことができないらしく、ため息を吐いて諦めていた。

 

「本当に侮れないわね」

 

可愛い二人に挟まれて心を落ち着ける余裕もない、俺の心境を少しでも理解してくれているようで何よりである。

 

「それで二人ともどうする?ご飯にする?お風呂にする?」

 

改めて聞いてくる美咲に、琴音が真っ先に答える。

 

「お風呂にするわ。汗を流したいし」

「俺もそうするかな」

「じゃあ、二人とも早く入っちゃってよ」

「そうね。圭、一緒に入りましょ」

「それはいいけど、明日はボクだからね」

「抜け目ないわね」

「たまには二人きりで入りたいしね。今日は邪魔しないことにするよ」

 

喧嘩をする気力はないらしく、琴音は美咲からの提案を受け入れたのであった。

 

 

 

「本当に二人とも疲れてるんだね」

 

夕食後、お茶を飲みながら三人でゆっくりとした時間を過ごす。

適当なテレビ番組を見ながら、団欒の時。

珍しくちゃぶ台に胸を乗せ、だらしなくべたっとしていた琴音を横目に美咲が心配そうな顔を向ける。

 

「今日はまだいい方よ。禊だけだったし。問題は明日から、奉納舞の練習もあるのよね」

 

今日のことを思い出してか顔を赤くする琴音。しかし、すぐにげんなりとした表情で項垂れた。

 

「俺も禊の付き添いに加えて、ルートの確認とかしてこないといけないからな。それと鳥居、灯籠の点検まで押しつけられちまったし。前日は最終点検もしなくちゃならないしな」

 

前日に最終点検をしなければならない現実に嫌気が差す。一応、他の島民も手伝ってくれるが最終点検だけだ。

 

「崩来祭で圭君が完走したら、何かご褒美をあげよっか」

「いいのかそんな安請け合いして。俺は小学生の頃も全部完走してるんだぞ」

 

子供だからか大人には勝てなかったが、順位はそれなりにいい方だった。今は身体も成長して身体能力も上がっている。子供の頃のような身軽さはないが、大人の力強さや耐久力は備わっているはずである。

 

「どちらかというと口実が欲しいだけだからね。圭君といちゃいちゃする」

 

美咲もそれはわかっているらしく、最初からそのつもりらしい。俺の耳元に唇を近づけて、琴音に聞こえないようにそっと囁く。

 

「たとえば……裸で添い寝、とか」

 

きゃっ、言っちゃった。と、美咲が頰に手を当てて恥ずかしそうにする。

 

「聞こえてるんだけど」

 

その反対側で、琴音が眉を顰めていた。

 

「琴音ちゃんもすればいいじゃん」

「……それもそうね」

 

防波堤のはずの琴音も美咲の提案に乗って、難しい顔で一考の余地ありと断じた。

 

「何か起こっちゃうかもね」

「圭ってば、最近えっちだから。さっきも悪戯してきたし」

 

期待したようにじっと見つめてくる二人に、俺の理性が揺らぐ。そんなことされたら耐え切れる自信がない。

 

「まぁ、それはおいといて」

 

逃げるように話題をすり替えようと目を逸らした時、ちゃぶ台に置いていたスマホが振動した。思わぬ救いに飛びついて画面を見ると一通のメッセージが届いていた。

二人が警戒したように見つめる中、差し出し人を確認すると珍しい相手からの連絡だった。

 

「あれ、九条からだ」

「誰よそれ」

「前に住んでたとこの友達」

「男?女?」

 

過敏に反応する二人に苦笑しつつ、俺は意地悪する。

 

「どっちだと思う?」

「……」

 

冷ややかな視線。

俺は答えを待たず、意地悪したことを後悔した。

 

「男だよ」

「そう。ならいいのよ」

 

男だと聞いて安心したらしく、二人はほっと胸を撫で下ろす。焦る二人が可愛くて、俺はニヤニヤとしながらメッセージを読んだ。

 

『圭の住んでる島って、稲荷島ってとこだよね?』

 

質問に始まるメッセージに返信をする。すると数秒と待たずに返事が来たので、何度かやり取りを交わしていく。そのうち大筋の話が読めてきた。あいつはどうやら今日も妹に扱き使われているらしい。その話を要約するとこうだ。

 

「友達が稲荷島に観光に来たいんだと。それで泊めてほしいって頼まれてる」

「一人?」

「いや、二人。妹と一緒」

 

“稲荷島”は観光名所として知られている。それを何処で知ったのか遊びに行きたいと言ったそうだ。当然、親は未成年の二人だけで遠いところまで行くことを許さなかったが、俺が住んでいることを知った二人の親が知人の家に泊まるのならと許可したそうだ。そして、その許可を取るために俺の友人は奔走しているわけである。

 

「妹……?ねぇ、圭。女の子の知り合いはいないんじゃなかったの?」

 

友達の妹の話をした瞬間、琴音の表情が冷たくなる。

 

「え、でも、友達の妹だぞ?」

「それでも女よ」

 

それでもダメですかそうですか。

 

「まあまあ。ねぇ、その子、何歳くらいなの?」

「九条美桜。中学三年生だけど」

「ギルティ」

 

中学三年生と聞いて、美咲まで手のひらを返した。

 

「さて、どうするかな」

 

九条晶は親友である。だが、顔はいいし、頭も悪くない、どちらかといえばモテる方だ。そんな奴を泊めて二人に会わせていいものだろうか。あいつにその気はなくとも、盗られてしまうと考えると、もやっとする。

 

「なぁ、二人を泊める間、二人には帰ってほしいんだけど……」

「ダメに決まってるじゃない」

「そうだよ。ダメだよ。もしかしたら、盗られちゃうかもしれないし」

 

考えることは同じか。二人は俺と九条妹を同じ屋根の下、放置しておくわけにはいかないらしい。

 

「ねぇ、琴音ちゃん。ボクたちは第三者から見た都会での圭君を知っておくべきだと思うんだけど」

「……背に腹は代えられない、か」

「それに圭君が他の誰かを見られないようにメロメロにしちゃえばいい話だしね」

 

–––ここにきて別の問題が発生した。

 

「圭。呼んでいいわよ」

 

最初は否定的だった二人は妙なやる気を出す。そんな二人を尻目に、友人に余計なことは言わないよう釘を刺す一文を送りつけるのだった。

 

 

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