帰郷したら許嫁が束縛系ヒロインになっていた。   作:黒樹

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ポケモンやってたら遅くなりました。


智代子の好きな人

 

 

 

「美味しかったですね。先輩♪」

 

満足そうな顔の智代子から裏表は感じられず、苦笑して頷く。

アスファルトを焼く太陽の光の下。店を出た瞬間に感じた熱気にぱたぱたと手で仰ぐ彼女はそう言って、ちらちらと別の方向を見るかのような仕草をしていた。

 

「美味かったけどな。やっぱ夏に食べると余計暑くなるなぁ」

「そうですよね。おかげで汗が止まんなくて、困っちゃいます」

 

智代子は街角の喫茶店に視線を向けて、頃合いを見計らっている。その前を通り過ぎようというところで目の前に躍り出た彼女がくるりとこちらに振り向いて止まった。

 

「ところで、食後のコーヒーなんてどうでしょう?」

「そうだな。他に予定もないし、夏の日差しの下はキツいしな」

 

次の予定も決まったところで智代子はスキップしそうな軽い足取りで喫茶店に向かう。開いたドアから鳴る鈴の音に夏の風鈴のような風情を感じつつ、入店した俺達は店員に案内されるままテーブル席へ。

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「アイスコーヒーとショートケーキのセットで。先輩は?」

「俺も同じので」

 

お決まりの台詞に最初から決めていたかのように智代子が注文する。それに合わせて適当に注文すると、簡単に注文内容の確認をして店員は下がっていった。

 

会話の切り口が見つからなくて、お互いに無言でコーヒーセットを待っていると、ほどなくしてセットが二つ運ばれてきた。

 

カチャ、という音で凍りついていた時間が動き出す。店員が下がっていくのを尻目に、智代子はアイスコーヒーを口にしてからフォークをケーキに差し向けていた。

 

「やっぱりここのセットが一番美味しいです」

「道理で頼み慣れてるわけだな」

 

メニューも見ずに注文をしたところ、相当通い慣れていると見て間違い無いだろう。智代子は甘味に頰を弛めて舌鼓を打ち、アイスコーヒーに手を伸ばしてと幸せそうだ。

 

「どうしたんですか?先輩?」

「いや、幸せそうだなと思って」

 

幸せそうな後輩女子の姿を眺めていると、突然意識がこちらに傾けられて俺は慌てて言い繕った。

 

「幸せですよ。ちょこは先輩と出会えて、みんなと出会えて」

 

あっけらかんと言い放つ智代子に俺は少し苦い顔をする。言うほど付き合いは長くない、ましてこの夏から関わった彼女にそうまで言われる覚えがなくて、なんだか微妙な気持ちになってしまって。

 

「今だってすごく楽しいですし」

「そうか」

「信じてませんね。圭先輩のそういう謙虚なとこあまり良くないと思います」

 

自分といて何が楽しいのだろう、なんて思っていれば心のうちを見透かされてしまう。

 

「ちょこはみんなとわいわい騒ぐのも好きですけど、先輩とこうして二人きりで過ごすのも悪くないなって、そう思うんですよ」

 

そう言われて悪い気はしないのだが……。

 

「あ、照れてますね先輩」

「さっきのはおまえの言い方が悪い」

 

並大抵の男なら『もしかして俺のこと好きなんじゃ?』と変な方向に勘違いするところだが、俺はどちらかといえばそういうタイプではなかった。

 

誤魔化すようにアイスコーヒーを口にして、弛んだ頰を苦味で引き締める。

 

「そんな口振りだとあいつらは勘違いするぞ」

「亮介先輩と真広先輩ですね。大丈夫ですよ。鈍感ですから」

 

むしろ鈍感だから問題なのでは?と思ったが、口には出さなかった。

 

「それにお二人がちょこを好きになることはあっても、アプローチしようだなんて考えはわかないと思うんです」

「随分とはっきり言い切るんだな」

 

あの二人は何処か島の女達を避けている節がある。しかし、こんな魅力的な智代子を前にして邪な思いの一つもわかないのは男性としておかしいのではないのだろうか。

 

「そういえば圭先輩には話したことありませんでしたっけ?」

「割と付き合い短いからな。おまえの話を聞いたことはない」

「いい機会だから、ちょこのことも知ってください」

 

長い間一緒にいた気がするけど、智代子と出会ったのはこの夏休み。勘違いしてしまいそうになるが、まだ一月も経っていないのだ。それだけ濃密な夏休みだと言える。

そんな遠い昔のような気分に浸っていると、智代子はふと伏し目に視線を下げて口を開いた。

 

「ちょこはあの島に初恋の人を探しにきたんです」

 

–––衝撃の告白。

 

「えぇ?」

「まぁ、ざっくりいうとそういうわけでして。えへへ」

「だから、あの二人はおまえに恋愛感情を向けないと?」

「そうなりますね」

 

恥ずかしそうに頰を掻く智代子に、俺はなんとも言えない気持ちになる。いやそんなこと告白されても。どんな反応すればいいのかわからない。

 

「まぁいいやこの際あの二人のことは置いておこう。その相手は見つかったのか?」

「ええ、まぁ」

 

智代子にしては珍しく歯切れの悪い返事だった。手の中でアイスコーヒーの入ったグラスを回して、クルクルと弄ぶ。視線はずっと黒い液体に注がれており、珈琲に誰かを思い描いているようだった。

 

「……この島に来たのは初めてじゃないんです。小さい頃にも数回、夏休みになるとおばあちゃん家に遊びに来ていました。その時、色々あって迷子になって、助けてくれたのがその人なんです」

 

島の外から遊びに来た子供が迷子になる話は珍しくない。しかし、それと同じくらい島民が迷子の子供を助ける話も少ない話ではなかった。

 

「まぁ、名前を聞いて回ればすぐに見つかるからな」

「それがお恥ずかしい話ですが、名前を聞いてないんです」

「それでよく見つかったな」

「知っていたのはちょこより一つか二つ歳上ってことだけ。多分、それくらいだろうなって」

 

幼い頃の記憶を頼りに、その相手を探していたらしい。

なんとも無謀な捜索と、島に来た理由に愕然とする。

 

「……先輩達はみんな、ちょこの初恋の人に気づいていたみたいですけど」

「え、あいつらの知ってるやつ?俺も知ってる?」

「それはもう、毎日顔を見てるんじゃないですかね」

 

含みのある言い方に記憶を探ってみるも、全然わからなかった。

 

「ダメだ。全然わからん」

「では、それは圭先輩への課題ということで」

 

あくまでその人については明かすつもりのない智代子に、俺は別の方法を考えた。

 

「あ、琴音先輩達に聞いてもダメですよ」

 

その方法もあえなく潰され自分で考えるしかなくなる。

自分だけ何も知らない疎外感に、暴きたくなる衝動。

二つが鬩ぎ合って、なんともいえないもどかしさを覚える。

気にならない、というのは嘘になる。

 

「……その人とは、上手くいってるのか?」

「さぁ、どうでしょう。でも、ちょこは今のままでもいいと思ってるんですよ。今が幸せだから、幸せを壊したくなくて、現状を維持する。先輩だってそうでしょう」

「……あぁ、そうだな」

 

思い当たる節があって、俺は迷いながらも首肯した。

 

 




何年も使ってるのにハーメルンの機能を使いこなせない。
文字が大きくなったり、小さくなったりするの何故なんだ。
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